主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2010/10/01 (Fri)00:53
プロローグ『勇者出現!悪党どもに明日はない』
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
森のなかを疾駆する、小さな影が一つ。
赤い頭巾をかぶった少女が、おおきなバスケットを抱えて一生懸命に走っている。
それは急いでいるというより、『なにか』から必死に逃げているという様相だった。
小さな歩幅でせわしく駆けているものの、やがてそのテンポも遅くなっていく。
その様子を、木々に止まっている鳥たちはじっと見守っていた。
やがて赤頭巾の少女のうしろから数人の男たちがドカドカと押し寄せてきたのを見て、鳥たちは一斉に飛び立った。
ガサガサ、バタバタバタ。
その音を聞きつけた赤頭巾の少女は、ハッとうしろをふり向いた。
「ま、まさか…」
「そんな小さな足で、よくもまぁこれだけの距離を逃げられたもんだな?」
人数にして五人。
ちいさい頃から勉強が得意で、都市学校を卒業したインテリ集団…という風体には、ちょっと見えない輩たちだ。
勉強よりも運動を、知識を追い求めるより肉体の鍛錬を追求してきた男たち。
とまあ、そういう表現をすれば多少は聞こえが良くなるのだろうか。
「なんでわたしを追ってくるんですかっ!?」
「こちとらだって追いたくて追ってるわけじゃねえ。おまえさんが逃げるのをやめればいいだけの話だ」
赤頭巾の少女を追ってきたこいつらは要するに、山賊野盗のたぐいだ。
本当に肉体の鍛錬を追及していれば、理由もなしにここまで落ちぶれるほど国は不景気ではない。王国軍兵士、傭兵、剣闘士、なんなら飲み屋の用心棒だっていい。
どうにも勤労意欲というものをカケラも持つことのできない連中のなれの果てが、山賊や強盗といったやくざな職業だ。というか、正確に言えばそれは職業とすら呼べるものでもない。はやい話がニートだ。
そして、そういう連中が肉体の鍛錬にのみ努力を欠かさないなどということは、まず有り得ない。
現に赤頭巾の少女を追ってきた五人の男たちも、その身体つきはまばらなうえに中途半端だ。
「わ、わたしのことは放っておいてください。わたしはただ、おばあちゃんに薬を届けにきただけなんです」
「その薬が目当てなんだよ。錬金術師謹製の、高価な薬がなあ」
「そんな…」
男たちの言葉に、赤頭巾の少女は思わず手にしていたバスケットをぎゅっと抱きかかえた。大木を背に、尻もちをついてしまう。
バスケットのなかには病弱な祖母のための食料と、そして病状を和らげるために錬金術師から買った高価な薬が入っていた。
この世界では、怪我や病気の治療は魔術師の専売特許となっている。
さまざまな材料から薬剤を調合する錬金術師は魔術師から嫌われており、またこの世界では魔術師のほうが圧倒的多数派なため、錬金術を学ぶ者は本当に数がすくない。
しかし錬金術師によって作られた薬は、魔術の心得がなくても扱うことができるという利点がある。
圧倒的多数派とはいえ、街を歩けば必ずぶつかるほど、世界に魔術師がありふれて(・・・・・)いる(・・)わけではない。
まして治癒の魔法を専門に扱う魔術師となれば、その数はさらに限定される。
魔術師に頼むか、錬金術師から薬を買うか。
どちらも子供の小遣い銭程度ですむわけではない。どちらを選ぶかは、環境によるだろう。
ただ、薬はどこの国でも高く売れる。
「こ、このお薬がないと、おばあちゃんが…」
「老い先短いババアのことなんか知るか。それより未来ある若者に生活費を恵んでやるほうが建設的だと思わんかね」
「なんの役にも立たない社会不適合者を生かしておくぐらいなら、年寄りを延命させたほうがマシですっ!」
「な、なんだとぅっ!?」
雪のように白い肌の、華奢な身体つきの赤頭巾の少女から、抜き身のナイフよりも鋭い言葉が飛び出したため絶句する野盗たち。
「こ、こんなちいさい子供までっ…!」
「国家だけじゃねえ、こんなガキにすら生きる価値がないと思われてんのか、俺たちは…!」
野盗たちはあまりのショックに動揺し、口々につぶやきを交わす。
「働きたくないわけじゃねえ、でも落ちこぼれに仕事をくれるやつなんかいねぇし、やりたい仕事も見つからなかった。ただそれだけなんだよ…!」
無職にお決まりの台詞が、涙とともに口からこぼれる。
その隙を逃さず、赤頭巾の少女は逃げだそうとした。
「いまだっ!」
ダッシュ。
尻もちをついた体勢から、さっと身を起こして駆け出そうとした、そのとき。
ドテッ。
「んきゃっ!?」
まるで人間の足を引っかけるためだけに存在しているような木の根につまづいて、赤頭巾の少女は顔面から草地にダイブ・インした。
「なにやってんだ、こいつは」
赤頭巾の少女が逃げ出そうとしたことにも気がついていない野盗たちは、地面に顔を突っ込んだままうめいている姿を見て首をかしげる。
「なんにせよ、このガキは俺たちの心をズタズタに傷つけた。こりゃあ荷物をぶん取るだけじゃあ気が晴れねーな」
「おうともよ。たっぷりエッチなおしおきをしたあとで、奴隷商人に売り飛ばしてやる」
「そ、そんなぁ!」
野党の一人が赤頭巾のフードを掴み、少女を持ち上げて宙吊りにする。
赤頭巾の少女はなんとか男の手から逃れようと必死に抵抗し、叫び声を上げる。
「このロリコン、変態、ペドフィリア、童貞、無職!」
「無職は関係ねぇだろ無職はあ!」
「童貞もな」
ほかの男たちも群がり、赤頭巾の少女の服を脱がせようとする。
少女の貞操に危機が迫る。クライシス(危険)がクライマックス(最高潮)に迫ったとき、どこからか声が聞こえてきた。
「悪党でょも、そこまだだ!」
悪党ども、そこまでだ…そう言いたかったのだろう。おもいっきり台詞をかんでいる。
それにやや早口で、おまけにちょっと声が裏返っていた。
「誰だぁ?なぁにがまだだってぇ?」
さりげなくツッコミを入れつつ、野盗の一人が周囲を見渡す。
やがて一人の青年が、近くの木の上から飛び降りてきた。
右手に拳銃、左手に拡声器を持った状態で、見事に着地を決める。さっきの恥ずかしい失敗を、これで取り戻したかたちだ。
栗色の髪の青年が着ている緑色のコートは、この国では大変に珍しいファッションだ。コートとズボンの裾を全部まくっているのが、微妙なダサさを醸し出している。
「純粋無垢な少女に乱暴狼藉を働こうとするその悪行、この勇者クレイド・マクドゥーガル様が容赦せん!」
勇者を自称した青年…クレイドは立ち上がると、野盗集団に見栄を切った。
「なんだぁこの野郎!」
「このガキは純粋無垢なんかじゃねぇ、俺たちを無職童貞呼ばわりしやがったんだ!」
突然の出来事にいくらか面喰らいつつ、野盗たちはそれぞれ武器(ナイフ、斧、弓、トゲつき棍棒など)を取り出しながら、クレイドに向かって口々に叫ぶ。
野盗たちが、クレイドの持つ拳銃を見て怯む様子はない。
それはそうだ。この世界では、銃は武芸の才能のカケラもない人間が最後にすがりつく武器だと認識されているからだ。
銃口から火薬と銃弾を装填し、一度に一発しか撃てない銃は不意を突く一撃としてしか利用価値がない。弓より射程が短く威力も劣り、再装填にも異様に時間がかかる。
「銃か。ガキのオモチャにはピッタリだな」
野盗の一人がナイフに舌を這わせる。
「女のガキには利用価値があるが、男のガキに用はねえ。ぶっ殺す!」
迫り来る野盗たち。
「死ぬのは貴様だ、喰らえッ!」
クレイドは雄叫びを上げると、容赦なく引き金をひいた。
キイィィィィイイイイイィィィィィィンンンン。
とてつもない異音が、周囲を覆いつくした。
拡声器から発せられたノイズに、野盗と、赤頭巾の少女が耳を塞ぐ。
「あーやばい、こっちじゃなかった」
そう言いながら、クレイドは拡声器を投げ捨てる。
「てっ…めえ、ナメてんのかこのクソガキャアァァ!」
迫り来る野盗たちに、クレイドは今度こそ拳銃をぶっ放した。
ドゴンッ!
「ぐあっ!」
胸板に銃弾を喰らった野盗の一人が、あおむけにのけぞってぶっ倒れる。
「ひるむんじゃねえ、銃なんざ一発撃てばそれっきりだ。バラバラに切り刻んでやれ!」
どうやらリーダー格らしい、斧を抱えて横歩きをしている野盗がそう叫んだ。
「うおおおおおお!!」
「バカめ、オレサマの勇者流最強銃術は無敵だッ!」
ドカン、ドカン、ドカンッ!
連続して銃弾が野盗たちの身体にぶち込まれる。
拳銃の排莢口から飛び出す空薬莢、そのメカニズムは野盗たちがついぞ見たことのない代物だ。
なす術もなく倒れる部下を前に、リーダー格の男は動揺を隠せない。
「ば、バカな、連射できる銃だと!?それも、拳銃サイズでこの威力とは…!」
「いくぞ、必殺!ヒーロー・ブレイク・エクスプロージョン!」
残った相手がリーダー格の男一人になったのを確認したクレイドは、拳銃に装填されていた弾倉をおもむろに抜き、リーダー格の男に向かって投げつける。
そして薬室に一発だけ残った銃弾を、宙を切る弾倉にぶち込んだ。
バカアァンッッッ!!
弾倉に装填されていた弾が連鎖爆発を起こし、撃ち抜かれた弾倉はさながら手榴弾のように金属片を撒き散らして野盗のリーダー格の男の身体をズタズタに引き裂いた。
「おが、ばっ、べえぇぇぇぇ…」
妙な悲鳴をあげ、リーダー格の男は地面にぶっ倒れた。
拳銃に新しい弾倉を装填し、クレイドは拳銃を腰のホルスターにおさめる。
「これで、また…一つの悪が消え去り、正義は成された…」
皆殺しの森のなかでクレイドは一人、格好をつける。
しかしその光景は赤頭巾の少女が見るに、クレイドのズボンのチャックが開いていたせいでわりと雰囲気台無しだった。
「さて、お嬢さん」
「ひっ」
くるりと振り返るクレイドを見て、思わず悲鳴に近い声を出してしまう赤頭巾の少女。
「なに、もう恐れることはない。悪は滅んだのだ…さ、お嬢さん。手を貸そう」
完全に自分の世界に入っているクレイドは、外見のガキッぽさに似合わない台詞を口にしながら、赤頭巾の少女に右手を差し伸べる。
だが赤頭巾の少女が、ほかならぬ自分を警戒していることを認識したクレイドは、驚いたような表情を見せた。
「このオレサマが、謝礼を求めてこのような行動を取ったと思っているなら、それは無粋な誤解だと言っておこう。オレサマは、成されて当然の正義を下したまで」
「そ、そう、ですか」
「あえて求めるとするならそう、ちょっとした感謝の気持ちとキスだ」
「思いっきり謝礼を求めてるじゃないのよぉっ!」
「なにが?」
「あんたはさりげなく言ったつもりかもしれないけどっ!キスなんかぜーったいにしないんだからぁっ!」
「いやか」
「いやです」
「安心しろ、きみはまだ全然オレサマの守備範囲内だ」
「そういう問題じゃなくってですね!」
「先っちょだけでいいから。先っちょだけで」
「それはキスの話ですよね!?」
「当然だ。ほかに思い当たることでもあるのか?」
「あーん、もう!あなたチャック開いてるっ!」
「え、うそ」
赤頭巾の少女の指摘に、クレイドは思わず自分の股間を見つめる。
いままで本当に社会の窓が全開だったのだから、世話はなかった。
チャックを上げようとするクレイドに、赤頭巾の少女は野盗の一人が持っていたトゲつき棍棒を叩きつける。
「死ねえぇぇぇぇぇっっっ!」
「おぼばびゃーっ!」
グメシャアッ!
股間をトゲつき棍棒で殴られたクレイドは、バターンと音を立てて倒れると、ビクビクと痙攣しながら気をうしなった。
慌ててバスケットを抱え、森の奥へと姿を消す赤頭巾の少女。
昏倒したまま、クレイドは悲しみの涙を流す。
「オレサマはただ、ほっぺにチューしてほしかっただけなのに…」
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」
森のなかを疾駆する、小さな影が一つ。
赤い頭巾をかぶった少女が、おおきなバスケットを抱えて一生懸命に走っている。
それは急いでいるというより、『なにか』から必死に逃げているという様相だった。
小さな歩幅でせわしく駆けているものの、やがてそのテンポも遅くなっていく。
その様子を、木々に止まっている鳥たちはじっと見守っていた。
やがて赤頭巾の少女のうしろから数人の男たちがドカドカと押し寄せてきたのを見て、鳥たちは一斉に飛び立った。
ガサガサ、バタバタバタ。
その音を聞きつけた赤頭巾の少女は、ハッとうしろをふり向いた。
「ま、まさか…」
「そんな小さな足で、よくもまぁこれだけの距離を逃げられたもんだな?」
人数にして五人。
ちいさい頃から勉強が得意で、都市学校を卒業したインテリ集団…という風体には、ちょっと見えない輩たちだ。
勉強よりも運動を、知識を追い求めるより肉体の鍛錬を追求してきた男たち。
とまあ、そういう表現をすれば多少は聞こえが良くなるのだろうか。
「なんでわたしを追ってくるんですかっ!?」
「こちとらだって追いたくて追ってるわけじゃねえ。おまえさんが逃げるのをやめればいいだけの話だ」
赤頭巾の少女を追ってきたこいつらは要するに、山賊野盗のたぐいだ。
本当に肉体の鍛錬を追及していれば、理由もなしにここまで落ちぶれるほど国は不景気ではない。王国軍兵士、傭兵、剣闘士、なんなら飲み屋の用心棒だっていい。
どうにも勤労意欲というものをカケラも持つことのできない連中のなれの果てが、山賊や強盗といったやくざな職業だ。というか、正確に言えばそれは職業とすら呼べるものでもない。はやい話がニートだ。
そして、そういう連中が肉体の鍛錬にのみ努力を欠かさないなどということは、まず有り得ない。
現に赤頭巾の少女を追ってきた五人の男たちも、その身体つきはまばらなうえに中途半端だ。
「わ、わたしのことは放っておいてください。わたしはただ、おばあちゃんに薬を届けにきただけなんです」
「その薬が目当てなんだよ。錬金術師謹製の、高価な薬がなあ」
「そんな…」
男たちの言葉に、赤頭巾の少女は思わず手にしていたバスケットをぎゅっと抱きかかえた。大木を背に、尻もちをついてしまう。
バスケットのなかには病弱な祖母のための食料と、そして病状を和らげるために錬金術師から買った高価な薬が入っていた。
この世界では、怪我や病気の治療は魔術師の専売特許となっている。
さまざまな材料から薬剤を調合する錬金術師は魔術師から嫌われており、またこの世界では魔術師のほうが圧倒的多数派なため、錬金術を学ぶ者は本当に数がすくない。
しかし錬金術師によって作られた薬は、魔術の心得がなくても扱うことができるという利点がある。
圧倒的多数派とはいえ、街を歩けば必ずぶつかるほど、世界に魔術師がありふれて(・・・・・)いる(・・)わけではない。
まして治癒の魔法を専門に扱う魔術師となれば、その数はさらに限定される。
魔術師に頼むか、錬金術師から薬を買うか。
どちらも子供の小遣い銭程度ですむわけではない。どちらを選ぶかは、環境によるだろう。
ただ、薬はどこの国でも高く売れる。
「こ、このお薬がないと、おばあちゃんが…」
「老い先短いババアのことなんか知るか。それより未来ある若者に生活費を恵んでやるほうが建設的だと思わんかね」
「なんの役にも立たない社会不適合者を生かしておくぐらいなら、年寄りを延命させたほうがマシですっ!」
「な、なんだとぅっ!?」
雪のように白い肌の、華奢な身体つきの赤頭巾の少女から、抜き身のナイフよりも鋭い言葉が飛び出したため絶句する野盗たち。
「こ、こんなちいさい子供までっ…!」
「国家だけじゃねえ、こんなガキにすら生きる価値がないと思われてんのか、俺たちは…!」
野盗たちはあまりのショックに動揺し、口々につぶやきを交わす。
「働きたくないわけじゃねえ、でも落ちこぼれに仕事をくれるやつなんかいねぇし、やりたい仕事も見つからなかった。ただそれだけなんだよ…!」
無職にお決まりの台詞が、涙とともに口からこぼれる。
その隙を逃さず、赤頭巾の少女は逃げだそうとした。
「いまだっ!」
ダッシュ。
尻もちをついた体勢から、さっと身を起こして駆け出そうとした、そのとき。
ドテッ。
「んきゃっ!?」
まるで人間の足を引っかけるためだけに存在しているような木の根につまづいて、赤頭巾の少女は顔面から草地にダイブ・インした。
「なにやってんだ、こいつは」
赤頭巾の少女が逃げ出そうとしたことにも気がついていない野盗たちは、地面に顔を突っ込んだままうめいている姿を見て首をかしげる。
「なんにせよ、このガキは俺たちの心をズタズタに傷つけた。こりゃあ荷物をぶん取るだけじゃあ気が晴れねーな」
「おうともよ。たっぷりエッチなおしおきをしたあとで、奴隷商人に売り飛ばしてやる」
「そ、そんなぁ!」
野党の一人が赤頭巾のフードを掴み、少女を持ち上げて宙吊りにする。
赤頭巾の少女はなんとか男の手から逃れようと必死に抵抗し、叫び声を上げる。
「このロリコン、変態、ペドフィリア、童貞、無職!」
「無職は関係ねぇだろ無職はあ!」
「童貞もな」
ほかの男たちも群がり、赤頭巾の少女の服を脱がせようとする。
少女の貞操に危機が迫る。クライシス(危険)がクライマックス(最高潮)に迫ったとき、どこからか声が聞こえてきた。
「悪党でょも、そこまだだ!」
悪党ども、そこまでだ…そう言いたかったのだろう。おもいっきり台詞をかんでいる。
それにやや早口で、おまけにちょっと声が裏返っていた。
「誰だぁ?なぁにがまだだってぇ?」
さりげなくツッコミを入れつつ、野盗の一人が周囲を見渡す。
やがて一人の青年が、近くの木の上から飛び降りてきた。
右手に拳銃、左手に拡声器を持った状態で、見事に着地を決める。さっきの恥ずかしい失敗を、これで取り戻したかたちだ。
栗色の髪の青年が着ている緑色のコートは、この国では大変に珍しいファッションだ。コートとズボンの裾を全部まくっているのが、微妙なダサさを醸し出している。
「純粋無垢な少女に乱暴狼藉を働こうとするその悪行、この勇者クレイド・マクドゥーガル様が容赦せん!」
勇者を自称した青年…クレイドは立ち上がると、野盗集団に見栄を切った。
「なんだぁこの野郎!」
「このガキは純粋無垢なんかじゃねぇ、俺たちを無職童貞呼ばわりしやがったんだ!」
突然の出来事にいくらか面喰らいつつ、野盗たちはそれぞれ武器(ナイフ、斧、弓、トゲつき棍棒など)を取り出しながら、クレイドに向かって口々に叫ぶ。
野盗たちが、クレイドの持つ拳銃を見て怯む様子はない。
それはそうだ。この世界では、銃は武芸の才能のカケラもない人間が最後にすがりつく武器だと認識されているからだ。
銃口から火薬と銃弾を装填し、一度に一発しか撃てない銃は不意を突く一撃としてしか利用価値がない。弓より射程が短く威力も劣り、再装填にも異様に時間がかかる。
「銃か。ガキのオモチャにはピッタリだな」
野盗の一人がナイフに舌を這わせる。
「女のガキには利用価値があるが、男のガキに用はねえ。ぶっ殺す!」
迫り来る野盗たち。
「死ぬのは貴様だ、喰らえッ!」
クレイドは雄叫びを上げると、容赦なく引き金をひいた。
キイィィィィイイイイイィィィィィィンンンン。
とてつもない異音が、周囲を覆いつくした。
拡声器から発せられたノイズに、野盗と、赤頭巾の少女が耳を塞ぐ。
「あーやばい、こっちじゃなかった」
そう言いながら、クレイドは拡声器を投げ捨てる。
「てっ…めえ、ナメてんのかこのクソガキャアァァ!」
迫り来る野盗たちに、クレイドは今度こそ拳銃をぶっ放した。
ドゴンッ!
「ぐあっ!」
胸板に銃弾を喰らった野盗の一人が、あおむけにのけぞってぶっ倒れる。
「ひるむんじゃねえ、銃なんざ一発撃てばそれっきりだ。バラバラに切り刻んでやれ!」
どうやらリーダー格らしい、斧を抱えて横歩きをしている野盗がそう叫んだ。
「うおおおおおお!!」
「バカめ、オレサマの勇者流最強銃術は無敵だッ!」
ドカン、ドカン、ドカンッ!
連続して銃弾が野盗たちの身体にぶち込まれる。
拳銃の排莢口から飛び出す空薬莢、そのメカニズムは野盗たちがついぞ見たことのない代物だ。
なす術もなく倒れる部下を前に、リーダー格の男は動揺を隠せない。
「ば、バカな、連射できる銃だと!?それも、拳銃サイズでこの威力とは…!」
「いくぞ、必殺!ヒーロー・ブレイク・エクスプロージョン!」
残った相手がリーダー格の男一人になったのを確認したクレイドは、拳銃に装填されていた弾倉をおもむろに抜き、リーダー格の男に向かって投げつける。
そして薬室に一発だけ残った銃弾を、宙を切る弾倉にぶち込んだ。
バカアァンッッッ!!
弾倉に装填されていた弾が連鎖爆発を起こし、撃ち抜かれた弾倉はさながら手榴弾のように金属片を撒き散らして野盗のリーダー格の男の身体をズタズタに引き裂いた。
「おが、ばっ、べえぇぇぇぇ…」
妙な悲鳴をあげ、リーダー格の男は地面にぶっ倒れた。
拳銃に新しい弾倉を装填し、クレイドは拳銃を腰のホルスターにおさめる。
「これで、また…一つの悪が消え去り、正義は成された…」
皆殺しの森のなかでクレイドは一人、格好をつける。
しかしその光景は赤頭巾の少女が見るに、クレイドのズボンのチャックが開いていたせいでわりと雰囲気台無しだった。
「さて、お嬢さん」
「ひっ」
くるりと振り返るクレイドを見て、思わず悲鳴に近い声を出してしまう赤頭巾の少女。
「なに、もう恐れることはない。悪は滅んだのだ…さ、お嬢さん。手を貸そう」
完全に自分の世界に入っているクレイドは、外見のガキッぽさに似合わない台詞を口にしながら、赤頭巾の少女に右手を差し伸べる。
だが赤頭巾の少女が、ほかならぬ自分を警戒していることを認識したクレイドは、驚いたような表情を見せた。
「このオレサマが、謝礼を求めてこのような行動を取ったと思っているなら、それは無粋な誤解だと言っておこう。オレサマは、成されて当然の正義を下したまで」
「そ、そう、ですか」
「あえて求めるとするならそう、ちょっとした感謝の気持ちとキスだ」
「思いっきり謝礼を求めてるじゃないのよぉっ!」
「なにが?」
「あんたはさりげなく言ったつもりかもしれないけどっ!キスなんかぜーったいにしないんだからぁっ!」
「いやか」
「いやです」
「安心しろ、きみはまだ全然オレサマの守備範囲内だ」
「そういう問題じゃなくってですね!」
「先っちょだけでいいから。先っちょだけで」
「それはキスの話ですよね!?」
「当然だ。ほかに思い当たることでもあるのか?」
「あーん、もう!あなたチャック開いてるっ!」
「え、うそ」
赤頭巾の少女の指摘に、クレイドは思わず自分の股間を見つめる。
いままで本当に社会の窓が全開だったのだから、世話はなかった。
チャックを上げようとするクレイドに、赤頭巾の少女は野盗の一人が持っていたトゲつき棍棒を叩きつける。
「死ねえぇぇぇぇぇっっっ!」
「おぼばびゃーっ!」
グメシャアッ!
股間をトゲつき棍棒で殴られたクレイドは、バターンと音を立てて倒れると、ビクビクと痙攣しながら気をうしなった。
慌ててバスケットを抱え、森の奥へと姿を消す赤頭巾の少女。
昏倒したまま、クレイドは悲しみの涙を流す。
「オレサマはただ、ほっぺにチューしてほしかっただけなのに…」
PR