忍者ブログ
主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2018/04/29 (Sun)21:03






「…起きないな」
「起きませんね…」
「こいつマジか」







 どうも、グレアムです。
 新生オブリビオンSS、全12話予定のうち4話まで進んだということで、とりあえず前半戦終了といったところでしょうか。すごいぞ、もう7年前から更新してる旧SSより話が進んでるじゃないか!…う~ん。
 以前書いた通り、今回はメインクエストのみを扱い短いスパンで完結させるというコンセプトなので、そのぶん画面写真撮影に力を入れています。
 ちなみにですが、今回は旧SSのような後加工や合成を一切使用していません、ゲーム内のみでどれだけのことができるかというデモンストレーションも兼ねているので。以前と違い、TES4EditやBlender、NifSkopeをそれなりに扱えるようになったということもありますが、他では見ないような試みをけっこうやってるんじゃないかという自負はあります。えーっと、CSは使ってないです。使いにくいしアレ。
 OblivionはFallout 3以降とはけっこう仕様が違ってて、コンソールコマンドのTfc_1が使えないのは画面写真撮影において割と致命的に厳しいんですが、そのかわりCreateFullActorCopyコマンドが使えたり、WryBashのFace Import機能が使えたりと後続にはない機能が利用できるので、そのへんで楽ができる部分はありますね。あとTaiコマンドでAIを停止させたあとの挙動が違ったりとか。








今回の主人公三人衆



  *旧SSとの違い

 まずは異世界絡みの三人(リア、ブラック17、ミレニア)のリストラですね。そして旧SSでは「真紅の暗殺者」として少し出番のあったヤツ(エロール)をレギュラーに格上げしました。若者らしさを強調するため、ロアフレンドリーさを若干犠牲にパーカー姿での登場です。ヴェスイウスという姓で気づいた方もいるかもしれませんが、いちおうSkyrimに登場したサイラス・ヴェスイウスの祖先という(当ブログ時空における)設定になります。
 牢獄スタートで名実ともにメイン主人公の座を獲得したちびのノルドことアリシアは若干設定を変えてます。見た目からしてフルフェイスから仮面のみへの変更、腕に包帯を巻いてる等(このへんはBlenderを使ってModを改造しました)の変化があるんですが、設定的にも過去の厳しい訓練を原因とする後遺症を抱えていたり、スクゥーマ中毒だったりと幾つかのダメージを負っています(このあたりの描写は五話目以降に登場予定です)。これは旧SS執筆以前の草稿にあった設定で、旧SSは「全クエストをフォローする!」という無謀極まりないコンセプトで進めていた関係上、ダメージ設定が長編に向かないという判断から削除したのですが、今回は全12話という短い構成なので復活させました。
 ドレイクはほとんど旧SSの設定を引き継いでますね。そもそも旧SSではクヴァッチ到達後に「オブリビオン界に幽閉された恋人を助ける」という目的が明かされる予定で、まだそこまで到達してないので、設定もクソもないんですが(笑)ただ新SSではドレイクの過去に関するエピソードを拾いきれないので、そのうち旧SSのほうで補間したいとは考えてるんですが。

 ゲーム本編との設定の差異なんかについては、下の各話解説で触れていきます。




矢を叩き落す描写のテスト撮影








散らかったエロールの部屋



  第一話『はじまりの刻』

 冒頭一枚目、二つの月の下での捕り物はちびのノルドが負傷したときの様子です。主人公が売人に刺されるシーンからはじまるSS。
 レノルト指揮官が若干性格キツめに描写されてますが、ゲーム本編でもこんな感じだから仕方ない。「ブレイズが一般には知られていない秘密組織」と書いてますが、これはSS独自の設定です。もっとも、実態があまりよく知られていないのは確かみたいですが。
 ブレイズの面々とは別に看守がいるのもSS独自の設定です。「他の独房が満杯で云々~」といった台詞も。そして例のボズマーはリストラです。
 ユリエル七世が「ちびのノルドの存在が予知と喰い違っている」と言ったのは、ここで旧SSと明確に未来が分岐したことを示唆しています。それに続く台詞は今後の展開に関わるので、今は割愛。
 ドレイク登場シーンでセンセイが口にした「実の弟でさえその手にかけた~」というのは勿論、旧SSにおけるシャドウスケイルの実弟ファングとの確執を指したものです。そこを説明してしまうと長尺を割くことになるので、今回はチラッと触れるだけの扱いです。
 そして今回新たにレギュラーの座を獲得したエロール、見るからのコメディリリーフです。その前のシーンでハードボイルド臭をぶり撒いてたドレイクとの落差が酷い。








陛下を守護るボーラス(守護れなかった)



  第二話『監獄脱出』

 寝ていて気づかなかった、という理由でチュートリアルを総破棄する暴挙。
 ゲーム本編では必ず死んでしまう、某馬泥棒並に不運なレノルト指揮官が生存です。といっても、今後重要な役割が与えられるということもないのですが。グレンロイが両手剣使いというのは独自設定で、実際は他の隊員とおなじく片手剣使いです。たしかジョフリーが両手剣だったかな。
 細かい部分ですが、ちびのノルド登場シーンで吹っ飛ぶ暗殺者のうち一人は自作のポーズを使ってます。目立たないけど。そのうちもう一回使う予定。
 下水道を走るシーンでちびのノルドが王家のアミュレットを身につけてますが、本SSでは「身につけることは誰でも可能だが、本来の力を発揮するにはアレッシアの直系でないと駄目」という位置づけになります。だって首にかけようとすると自然に外れるとか幾らなんでも画的にホラー過ぎるし。
 ちなみにゲーム本編の自然に外れる描写はプレイヤーが装備しようとした時のみ発生するので、他のNPCに渡して状態を更新すると普通に装備しやがります。楽園でキャモランが装備してたのは…実はあれ、所持品に入れてたら装備しちゃったとかいうミスじゃねぇの?って気がしないでもないんですが(笑)どうなんでしょうね。ベセスダはそういうニアミスをけっこう普通にやらかすしなあ。
 そして世界線が変わっても相変わらず股間を蹴られるエロール、しかも今回は湖に投棄されるという追い討ちが発生。わかめを巻かず寝てしまったぼのぼのみたいに流されてく破目に。








敵に見つかってたらかなりヤバかった状況



  第三話『集結前夜』

 こいつ倒れてばっかだな。
 この話で注目すべきは都市間の距離です。
 Oblivionでのシロディールは快適なゲームプレイを優先して実際よりもミニマムに描かれている、という想定のもと(そうじゃないとシロディール人口少なすぎ問題だし…)、おそらく実寸に近いスケールで描かれているであろう一作目のArenaを参考におおまかな実寸距離を算出。といってもArenaのシロディールは帝都しか存在しないので、だいたい帝都からコロールと同じくらい距離が離れている(であろう)エルスウェーアのオークレスト⇔デューン間を参考にしました。コロールとクヴァッチの距離もだいたいそんな感じでおおまかに計算してます。
 どちらもだいたい400km前後の距離で、これは日本に例えると東京から大阪までの(直線)距離に匹敵します。ちびのノルドはこれをほぼ休まず半月で走破しました。彼女はもうちょっと人生を楽に捉えるべきだと思う。
 なおSkyrimではあっという間に到達できるリバーウッド⇔ホワイトラン間はArenaだと180km、移動には馬で三日かかります。
 まあここまで書いといてナンですが、色々無理があるのはわかってるので、飽くまで雰囲気で楽しんで頂ければ幸いです。
 ウェイノン修道院で出したお茶は、Mount and Blade: Warband用のMOD「The Red Wars」からMeshを移植しました。意外とありそうでない小道具ですよね。

 エロールはレイヴン・キャモラン直々の怒りを買い、家を燃やされました。いちおう(画面写真を見て気づいた人はいるかもしれませんが)モラグ・バルのメイスの所有者で、戦闘能力は高く忠誠もそれなりにあったので組織内ではそこそこ評価されてたっぽいんですが、なにせバカで肝心なときに役に立たないので破門です。
 ちなみにエロールの家はゲーム内で購入できる帝都港湾地区の自宅です。いちばん安いやつ。ヘンなところで主人公アピール&さもしい男の一人暮らしという無闇に生々しい設定を持ち込みつつ。

 ドレイクが口走った「この邪気は……!?」は、もちろんゾンビがリベンジなアノお方へのリスペクトなのであった。
 なお、タイトルの前夜とはたんに前日の夜という意味ではなく、物事が起きる直前であることを意味する比喩です。念のため。




お茶ドゾー( ´・ω・)⊃旦








難民キャンプの様相を呈す教会



  第四話『クヴァッチの戦い』

 更新に時間がかかりました。すげー面倒臭かったから。たぶん、全12話中で一番面倒臭いシーンだと思います。
 とにかく一画面中に写るキャラの数が多いのと、戦闘シーンも噛ませてあるので制御が難しく、さらにクヴァッチ自体が処理の重いマップってこともあり、強制終了の脅威とも戦いながらの撮影でした。いちおうモブにも隙なく演技をさせてるので、あんまり写ってないような部分にもけっこう労力を割いてるんですよ。
 本SSではオブリビオンの門を閉じずにクヴァッチ城の戦いを展開しているので、空が赤いです。その他に設定も色々変えてる、というか、このへんは変えてない部分のほうが少ないので説明は割愛します。
 矢を叩き折るシーンですが、これは実際に折れた矢三種類を自作(バニラのMeshを改造)して配置してます。また、このときのちびのノルドのポーズは自作したものです。
 エロールの変身シーンのポーズも自作ですね。これは普段着姿のエロールに深遠の暁鎧装備のエロール(コンソールコマンドで透明度を変更した)を同じポーズ&同じ座標で重ね、さらにコンソールからEffect Shaderをかけました。変身ポーズの元ネタはもちろんブレイド。「ヘシン!」と書かなかったのは良心。
 本当は自作ポーズとEffect Shaderを併用してライトニングソニックの再現でもやろうかと思ってたんですが、あまりネタに走りすぎると違和感しかないので自粛しました。
 なお本SSではクヴァッチで攻城兵器は使われず、たんにデイドラたちの侵攻で破壊された、という筋書きになっています。それだけヤバイ相手だ、という点を強調してるんですが、そのへんを戦闘シーンで活かせなかったのが反省点です。




今日の天気予報は「オブリビオン」のち「矢の雨」が降るでしょう




ちびのノルド&エロール。旧SSから割と気の合うコンビ







 まあこんな感じで、今後も何話か毎に解説を入れていきたいと思います。
 四話づつで全三回かなあ。たぶん八話目でブルーマ防衛の直前あたりまでいくと思います。とりあえず次回でようやく主人公三人が顔を合わせるので、ここから本格的にストーリーが進んでいくかなあという感じですね。
















PR
2018/04/27 (Fri)03:09





The Elder Scrolls IV: Oblivion
Fan Fiction "Crossing Over" #4

- エルダースクロールズ4:オブリビオン -

Side Story【クロッシングオーバー】

第四話 「クヴァッチの戦い」









「こ、これは、いったい……?」
 スキングラードを出て、馬を走らせてから四日ほど経ったろうか。
 扱いやすい小柄な馬をあてがわれたのが災いしたか、標準的なサイズの馬であればもう少し早く到着できたところを…そうちびのノルドは思ったが、それはいま悔やんでも仕方のないことだ。
 それでも可能な限り急いでは来たが、肝心の馬が倒れては元も子もない。
 焦る気持ちを抑えつつ、ときおり小休止を挟んでの移動だった。
 そして、いま…山頂にそびえるクヴァッチ城壁の門前に、禍々しい存在感を放つ魔界の門…オブリビオン・ゲートを目の当たりにしたちびのノルドは、心の動揺を抑えきれないでいた。






 オブリビオンの門のまわりには異形の怪物…“デイドラ”たちの亡骸が転がり、周囲に息のある者はいない。
 化物たちはいずれも鋭利な刃物で両断されており、手練の戦士がこの場にいたことは明白である。
「いったい、誰が…?」
 馬を下りたちびのノルドは城壁の門を開け、その先に廃墟と化した街並みが広がっているのを見た。それが異界の魔物たちの襲撃による産物であることは目に見えて明らかだった。
 あちこちで燻る炎を避けながら、ちびのノルドは嫌がるように首を振る馬をどうにか廃屋の一つに繋ぎ留め、このあたりで唯一無事な建物である教会へと足を踏み入れた。






「誰だっ!?」
 ギイィ、という扉の開閉音に混じって、ちびのノルドの正体を誰何する逼迫した声が発せられる。それはまだ、魔物を相手に戦っている人間が残っていることを証明していた。
 ちびのノルドの姿を見て…魔物ではなかったからだろう…抜きかけた剣をおさめる衛兵、その背後には難民と思われる非武装の人間たちが肩を寄せ合って身を震わせている。
 武装した衛兵数名の姿を確認したちびのノルドは、この教会は魔物の侵入を許していないらしいことを悟り、とくに理由があるわけではなかったが、“聖域”という単語を脳裏に思い浮かべた。
 事実、この場は生存者たちに残された唯一の聖域ではあったのが。
 今は、まだ。
「あの、わたし、アリシアといいます。この街の教会にお勤めしている、マーティンという神父様に用事がありまして…でも、まさか、こんなことになっているなんて……」
「マーティンに?」
 おそらくは顔馴染みなのだろう、隊長格の衛兵…サヴリアン・マティウスは驚いたような表情を見せ、避難民に混じって怪我人の治療にあたっている男のほうをチラと見やった。
 その視線の先に…いた。ちびのノルドは驚く、髪が白くなっていないこと、皺がないことを除けば、まさしくユリエル・セプティム七世に瓜二つ、生き写しと言っても良いほどに似た顔つきの神父がそこにいた。






 マーティンの近くで同じように怪我人の治療にあたっていた、赤い服の男が一瞬こちらを見てイヤそうな顔つきをしたが、そのことがちびのノルドの気に留まることはなかった。
 さて、どうしようか…ちびのノルドは頭を悩ませる。
 おそらく、このままマーティン一人をクヴァッチから脱出させ、ウェイノン修道院へ連れていくことは可能だ。
 だが、それで良いのか?
 予定に遅れが生じることは好ましくない、ジョフリーならそう考えるかもしれない…しかし、この街の、この状況を放ってはおけなかった。
「あの…この街の状況は、いま、どうなっていますか?」
「なんだって?」
 真剣な眼差しで問うちびのノルドに、サヴリアンはまたしても驚きの声をあげる。
 自分が兵隊に信頼されるような見た目をしていない、そのことはちびのノルドが一番よく理解していた。ずっとこの身体で生きてきたのだ。
「わたし、こう見えても戦士です。傭兵です、戦えます。力になりたいんです」
「傭兵だって?たとえ魔物どもを駆逐できたとしても、報酬を支払えるかどうかなんて…」
「いいんです、いまは。そういう話は後にしましょう」
 サヴリアンは熟考の唸り声をあげ、ちびのノルドを観察する。
 その目つきから、彼がちびのノルドを戦力外だと判断しているのは明らかだった。そのことは驚くべきことでもなんでもなかったが。
「ところで」サヴリアンが言う。「ここへ来るまでに、魔物に襲われたか?」
「…?いいえ。死体はたくさん転がっていましたが」
「そうか。ということは、あの男はまだ中で戦っているらしいな」
「?」
「しばらく前、アルゴニアンの男がやってきて、オブリビオンの門から続々と現れる魔物たちを一瞬で斬り捨てると、俺たちの制止も聞かずに一人で門の中へ飛び込んでいったんだ」






「なんて無茶を…」
「その通りだ。だが、あの門からまだ魔物が溢れてこないところを見ると、まだそいつが侵略を食い止めてくれてるようだ」
 驚くべき話だった。義憤か、それとも蛮勇の成せる所業か?
 少なくとも、いまこの場にいる人間はアルゴニアンの男が生きて戻ってくるとは考えていなかった。
「さて、この街の状況についてだったな」
 どうやらちびのノルドを疑っても仕方がないらしいと考えた(あるいはこの際、猫の手でも借りようと思ったか)サヴリアンは説明をはじめた。
「四日前、クヴァッチの門の前に突然オブリビオンの門が出現した。理由はわからん。次々と現れる魔物に街は破壊され、大勢の死者が出た。衛兵隊と市民の生き残りはこの教会に避難できたが、城にはまだ逃げ遅れた兵士と伯爵が残されている」
 四日前、空が赤く染まったのと同じタイミングだ、とちびのノルドはひとりごちる。
 やはりあれはオブリビオンの門が開いた影響によるものだったのか…
「アルゴニアンの男がデイドラの侵攻を食い止めているなら…我々はいまいちど、クヴァッチ城奪還のための戦いに赴くつもりだ。背後の心配をしなくて済むうちに」
「えっ!?」
「生き残った市民のうちの何人かは別の都市へ避難させることもできるだろう。だが、いますぐここを動かせない怪我人も多い。食料も医療品も不足している。他の都市からの支援を待っていては、おそらく手遅れになる。防戦一方では、そのうち自滅するだけだ」
「しかし…」
「なにより、領主を城に残したまま兵隊だけ逃げるわけにはいかない。そうだろう?我々は全滅覚悟で城を奪還するつもりだが、危険なのはここに居ても同じことだ。そういう状況で、きみは我々に協力を申し出るつもりなのか?」
「はい」
「いやに迷いなく返事をしたな。だが、こんな危険を冒してまで我々に協力する利点がきみにあるのかね?」
「…ここにいる人たちを助けたいから、では、駄目ですか?」
「駄目ではないが」
 その英雄願望は高くつくぞ。
 ちびのノルドにそう言うかわり、サヴリアンは講堂内にいる生存者たちを見回すと、大声を張り上げた。
「レディス・アンド・ジェントルメン、戦争の時間だ!すでにたっぷり休養は取れたものと思う、前もって言っておくが、この戦いには志願した者だけを連れて行く!兵隊だろうと市民だろうと、武器を取って戦える、我こそはと思う者は俺のところへ来い!」
 そして、ちびのノルドのほうを振り返る。
「きみは大丈夫か?さっき到着したばかりだが、休む必要があるなら、いまのうちに少しでも休んでおくといい。腹が減ってるなら、まだ食料が幾らか残っているはずだ…それくらいはしてやれる」
「あ、お気遣いなく。わたしもいま、けっこう昂ぶってるんで」
「ハハッ、頼もしい限りだ。ところできみは最初、マーティン神父に用があると言っていたが?」
「後にしましょう。彼がここに残るなら、わたしが急ぐ必要はないですから」
 やがて武装した衛兵に加え、乱雑に集められた装備…おそらく死者のものだ…の中から選んだ武器や防具を身につけた者たちが次々に戦列に加わる。
 しかし誰しもがその表情に色濃い疲労を残しており、決して万全なコンディションではないことが窺えた。だが、常に理想的な状況で臨めるほど戦場は甘くない。
 ちびのノルドが言う。
「…衛兵の数が少ないですね」
「アルゴニアンの戦士が訪れるまえ、偵察隊をオブリビオン界へ送り込んだのだ。いまのところ、誰一人、帰ってきていない…思えば、それが大きな失策の一つだった」
 しばらくして志願者が一定数集まったことを確認すると、サヴリアンを先頭に一向は教会の扉を開け、クヴァッチ城へ向けて進軍をはじめた。






 街路地には惨殺された市民の亡骸が散乱し、崩壊した建物から噴き出す炎が街を焼いている。
 おそらく街に火を放ったのはアトロナック…炎の精霊だろう。
 オブリビオン界の住民たるデイドラは、たとえ最下級の存在でさえ並の戦士を凌駕する戦闘能力を有している。それが湯水のように湧き溢れて出たのだ、僅か数日で街が廃墟と化したのも必然であったろう。
 人間の、人間の文明の、なんと脆いことか。
「ところで、君も余所者だろう?わざわざ戦いに参加しなくても…」
「いやあ、いいんです。たぶん、これも運命ってやつスよ」
 ちびのノルドが感傷に浸っていた横で、サヴリアンが赤い服の青年に声をかけている。
 たしか彼はマーティンと一緒に負傷者を治療していたはずだ。魔法を使っていたが、てっきりヒーラーかと思っていたが…鎧も着ず、魔道具を携帯している気配もない、戦えるのだろうか?ちびのノルドは首を捻った。
 彼女の視線を察したのか、赤い服の青年はふたたび渋面を向けてくる。
 なんだろう、彼に恨まれるようなことをしただろうか?…どこかで会っただろうか?ちびのノルドは頭を悩ませたが、それらしい記憶を掘り起こすことはできなかった。
 やがて頑丈に閉ざされたクヴァッチ城の門の前に辿り着き、一行は一斉に盾を構える。
 サヴリアンが言う。
「いま、別働隊が地下通路を通って城門の開閉装置に向かっているところだ。間もなく門が開かれるだろう」そしてちびのノルドを見つめ、「君は盾を持っていないのか?ドレモラと呼ばれる連中が城壁の上に陣取って弓を構えている、城門が開放された途端、一斉に射ってくるぞ?」
「あ、大丈夫です」動揺した様子もなく、片手を振って答えるちびのノルド。「わたし、平気なんで」
「平気って…どういうことだ」
 その質問にちびのノルドが答えるより早く、城門が軋んだ金属音を立てながら上昇していく。
 生き残りのクヴァッチ衛兵、そして市民からなる志願兵の表情がこわばる。やがて風を切り裂く音とともに、無数の矢が降り注いだ!






「ハアァァァーーーッッ、ヤッ!!!」
 兵士たちの構える盾に矢が突き刺さる音に混じり、ちびのノルドが矢を掴んで折り、叩き落とす破砕音が響く!
 なんという業(ワザ)だ…!?
 その場にいた全員が、凄まじいスピードで飛来する矢を精確に無力化しながら果敢に前進するちびのノルドの姿に吃驚する。
 やがて矢が尽きはじめたのか、敵の攻撃の手が緩くなったとき、赤い服の青年が針千本のような有様になった盾を投げ捨て、ちびのノルドに続いて他の者より前に出る。
「こうなったら…俺もちょっと本気出すしかねーよなぁ…ッ?」
 まるで目立ちたいがためのように…実際、そうだったのだが…中庭に躍り出た赤い服の青年、エロールは大袈裟な身振りでポーズを取ると、キリリと表情を引き締め、呪文を口にした!






「ヘンシン!」
 赤い煙と空間の歪みを伴い、エロールの身体を禍々しいフォルムの鎧が包む。
 果たして、そこに姿を現したのは…ちびのノルドが帝都地下下水道を出た直後に遭遇した、真紅の暗殺者であった!
「あっ、あなたは……!?」
「ま、待ってくれ!」驚きの声とともに拳をかまえるちびのノルドに、魔装鎧殻(まそうがいかく)を纏ったエロールは腰を抜かしたような姿勢でストップをかける。「俺は敵じゃあない、だから、金玉を蹴るのはやめてくれないか!?」
「蹴りませんよ、そんなところ!」
「蹴ったじゃないか、蹴ったじゃないか!あのとき!ていうか、湖に投げこまれたあと、割とマジで死にかけたんだぞ!?」
 敵陣の只中で突然言い合いをはじめる二人に、兵士たちは唖然とする。
 なにやってんだ、こいつら?
「敵じゃあないなら…というか、こんなところで、なにやってんですか」エロールに問うちびのノルド。
「話すと長くなるが、じつはあの後…」
 説明をはじめるエロールだが、その無防備な姿目がけて矢が放たれ、寸でのところで命中するところだったのをどうにか避ける。
「じつは、あの後…」
 説明を再開しようとしたエロール目がけて、今度は子鬼のような姿のデイドラ“スキャンプ”の放つ火球が飛来し、エロールはその攻撃を咄嗟にメイスで防ぐ。
「じつはな、あの後…」
 ふたたび説明を再開しようとしたエロール目がけて、今度はエリマキトカゲのような外観のデイドラ“クランフィア”が襲いかかり、エロールは振りかぶったメイスでその頭部を叩き割る。
「……ッ、あー、もう!説明は後だ、今はとりあえず俺を信用してくれ!」
 無茶言うな。
 そう言いかけたちびのノルドだったが、状況が状況だけに、いまエロールの正体や狙いを勘繰っている暇はない。リスクはあるが、今は信用せざるを得ないようだった。
「サヴリアンさん、わたしと彼が城内に突入します!中庭の確保を頼みます!」
「エッ、あ、わ、わかった!」
 ちびのノルドの提案に口を挟む間もなく、サヴリアンと兵士たちは頷く。
 飛来する矢や魔法攻撃を避けつつ、ちびのノルドとエロールはクヴァッチ城の正面扉からまっすぐに城内へと侵入した。






 城内はデイドラの攻撃によって荒廃しており、街の様子とおなじく酷い有様になっていた。
 いまだに数多くのデイドラが徘徊し、周囲には兵士や使用人の死体が乱雑に放置されている。生存者がいる気配はない。
 侵入者の気配を察知したデイドラたちによってあっという間に囲まれてしまったちびのノルドとエロールは、それぞれ戦いの構えをとり反撃の用意を整える。
 エロールが叫んだ。
「円周防御だ、背中合わせに180度づつ!ロックンロール!」
「エッ!?」
「聞こえたろ?」
 疑問の声をあげるちびのノルド、しかしエロールは反論を挟む余地を与えない。
 ちびのノルドが疑問を感じたのは、作戦そのものではない、“背中合わせ”という点だ。信頼できない人間に背中を向けるほど危険なことはない、まして、相手が皇帝暗殺を企てていた暗殺者なら尚のことだ。
 しかしエロールは何一つ躊躇なく、ちびのノルドにぴたりと背中をくっつけている。彼女を信用しているのか、それとも、何も考えていないのか。たぶん、何も考えていないんだろう…ちびのノルドはそう思った。
 あまり計算高い男には見えなかった。なら、今この瞬間くらい、信じてやってもいいのかもしれない。
「ハアアァァァーーーッッ!!」
 ときの声をあげ、ちびのノルドは炎の精霊に強烈な拳撃を繰り出す。
 その一撃…鋼鉄をも粉砕する剛拳は、鎧のように炎の精霊を覆うデイドラ金属の外殻を破壊し、灼熱の肉体を四散させる。
 一方で無数に群がるクランフィアを悪魔的形状のメイスで叩き伏せていったエロールは、すこし戦闘が落ち着いたあたりで彼女に訊ねた。
「素手で炎の精霊をブン殴るなんて、おまえくらいだぞ。熱くないのか?」
「ああ…わたし、子供の頃、篝火に拳を突き立て続ける修行とかさせられてたんで。熱いのを殴るのは慣れてるんです」
「ええぇぇ……」
 壮絶な過去をさらりと口にするちびのノルドに、エロールは絶句する。
 こいつ、修行僧か何かだったのか?
 そんな疑問を頭に浮かべながらも、エロールはちびのノルドとともに城内のデイドラを掃討し、やがて領主の部屋へと辿り着く。






「チッ、遅かったか…つか、入った瞬間からわかってたよな。手遅れも甚だしい状況だってさ」
「……ええ…」
 荒らされた室内、砕けたワインボトルの破片に紛れて、血にまみれたクヴァッチの領主オーメリアス・ゴールドワイン伯の亡骸が横たわっていた。
 全身をデイドラの返り血に染めながら、ちびのノルドとエロールは言葉を無くしてその場に佇む。
 城内に生存者は残っていなかった。ただの一人も。完璧な皆殺しだった。
 とりあえず城を制圧していたデイドラたちはすべて葬った。だが…わかっている、そんなことはないとわかってはいるのだが、ちびのノルドは、自分たちのやったことが何も意味を成さなかったのではないかと思わずにはいられなかった。
 そんな彼女の心情を察したのか、エロールはちびのノルドの肩を叩くと、部屋を出るよう促した。
「こうなっちまった以上、いつまでもこんなところにいたって仕方がないぜ。とりあえず、サヴリアン隊長に報告しに行こう」
「……うん」
 哀しげに頷き、ちびのノルドはゴールドワイン伯爵の亡骸に背を向ける。その表情は、鋼鉄の仮面に遮られて窺うことができない。






 同じ頃、中庭の戦いにも決着がついていた。
 サヴリアン率いる即製のクヴァッチ城奪還部隊が勝利し、魔界の眷属たちはみな地獄へ叩き返された。しかし、人間側の被害も甚大であった。





【 To be continued ... 】










2018/04/15 (Sun)03:12





The Elder Scrolls IV: Oblivion
Fan Fiction "Crossing Over" #3

- エルダースクロールズ4:オブリビオン -

Side Story【クロッシングオーバー】

第三話 「集結前夜」









 皇帝ユリエル・セプティム七世暗殺の報がシロディールに広まってから、間もなく半月が経とうとしている。
 帝都の西方、コロールに近いウェイノン修道院に仕える修道僧ジョフリーは、帝国を揺るがす一大事件を伝える黒馬新聞の記事から目を離し、鼻根を揉んだ。目を痛めたのは、たんに老齢による視力の低下だけが原因ではないだろう。
『皇帝、暗殺さる!』
 衝撃的な見出しではじまる号外記事には、皇帝と、三人の皇太子が謎の暗殺集団の手によって命を落としたことが記されていた。新皇帝即位までの政権を元老院が代理で担う、帝国軍は事件に関する報道を規制する動きを見せている…といったような具体的な記述が続くにつれて、このニュースがたんなる誤報や悪戯ではないかというジョフリーの希望的観測は早々に失せてしまった。
「なんということだ…」
 すでに直系の後継者たる皇帝の血族は存在せず、悉くが暗殺者の手にかかったことは新聞に報じられている通りだ。
 それでもジョフリーには一人、その資格に値する者に心当たりはあったが…
 沈痛な面持ちで帝国の行く末を案じるジョフリーだったが、一人の若者…同じく修道院に仕える僧、同志のピナールが大声をあげながら階段を駆け上がってきたのを見て、なにごとかと眉をひそめた。
「大変ですジョフリー様、門の近くで人が倒れています!」
「なんだって?」
 報告に来る手間でどうして介抱しないのか、という言葉が喉まで出かかったが、たんに気が動転している以上の理由があるようだと察したジョフリーは同志ピナールのあとに続いて外へ出る。






 そこで倒れていたのは、黒い装具に身を包んだ小柄な戦士…ちびのノルドであった。
 一切の武器を携帯していないが、戦いで武器を失ったようには見えない。外傷や出血は見当たらず、野盗やモンスターの類に襲われたわけではないようだった。
 一見してそれらの特徴を捉えたジョフリーはしかし、彼女の傍らに転がっている宝石細工を見て驚きの声をあげた。
「こ、これは…王者のアミュレット!」







「失敗した、で済まされると思っているのか、この大馬鹿者が!」
「スイマセンでしたッ!!」
 薄暗い穴蔵の奥深くで、何者かの怒声が反響した。
 帝都地下下水道…都市環境を支える重要な生活インフラ施設にして、複雑に張り巡らされたその構造はちょっとしたダンジョンになっている。凶暴な巨大ドブネズミ、マッドクラブが棲息しているほか、武装したゴブリンが潜んでいることもあり、その危険性から内部構造を把握するのは至難である。
 それを利用し、しばしば犯罪者や人ならざる者の隠れ家として使われることもある。
 帝都転覆を目論む秘密結社“深遠の暁”もまた、人目を避け潜伏するためにこの地下下水道を利用していたのである。






 タロス広場地区とエルフガーデン地区の間に跨る通路の中継地点に、彼らのアジトの一つがあった。壁には深遠の暁のシンボルが刺繍されたタペストリーが掛けられ、ベッドや本棚といった調度品が、数は少ないながらも几帳面に並べられている。
 組織の幹部であり、教祖マンカー・キャモランの息子でもあるレイヴン・キャモランは、目前の若者…監獄を脱出したちびのノルドに睾丸を蹴られ、ルマーレ湖に投げこまれ、命からがら舞い戻ってきた暗殺者エロール・ヴェスイウスを前に、不愉快極まるといった表情を崩さない。
「寝坊して作戦に参加できず、さらには王者のアミュレットを持った無頼者をみすみす取り逃がした、だと…貴様のような無能者が組織にいたこと、それ自体を私はいま恥じているところだ!」
「ぐっ…!うう……っ!!」
 恫喝するレイヴンに、エロールは反論する術も余地もなく、ただひたすらに膝を折り、平身低頭するしかできない。
 さらにレイヴンは続ける。
「そんな役立たずの貴様でも、襲撃作戦にさえ加わっていれば、せめて仲間の盾くらいにはなれたものを…ブレイズと渡り合い、見事皇帝を討ち取りながらも、その命を散らした仲間たちに申し訳が立たぬとは思わぬか!そうであろうが、この恥晒しめ!」
「申し訳ありません…本当に…なんとお詫びすればいいか……」
「もう侘びで済まされる段階など、とうに過ぎておるわ!我が偉大なる父上も、貴様の失態には心(しん)の底から失望されておる!よって、たったいまより貴様は破門とする!」
「は、破門っ!?それだけは、どうか、それだけはッ!!」
「聞く耳持たぬわ!どこへなりと失せるがいい、それと…今後はせいぜい、身の安全に気をつけて生きることだな!」
「まっ、待ってください!レイヴン様ぁ!」
 エロールはぶざまな醜態を惜しげもなく晒してレイヴンの膝にすがりつくが、すげなくあしらわれ、傍らに控えていた信者に追い返されてしまう。
 かつての仲間が向けてくる侮蔑の視線を背中に受けながら、エロールはふらふらと立ち上がり、アジトから出ていった。

「どうしよう。これから…」
 取り返しのつかない失態を演じ、組織を追い出されてしまったエロールは、今後の見通しも立たぬままふらふらと帝都を彷徨う。
 …とりあえず、家に帰って寝るか。
 そう思い、自宅のあばら家がある帝都港湾地区のスラムへ向かおうとした、そのとき…なにやら騒々しく駆け回る人波が見え、なにごとかとエロールは顔を上げた。
 時刻は夕方、すっかり空は赤く染まっていたが、そのルビー色の輝きはたんに太陽の明るさ以上のものに見えた。まるで空が燃えているような…そして、濛々と立ち昇る黒煙さえ見える。
「…本当に何か燃えてるぞ」
 まさか…?
 嫌な予感をおぼえ、エロールは野次馬たちを脇にどけながら、駆け足で自宅へと向かう。






「お、俺の家があアアァァァァァッッ!!」
 物凄い勢いで炎に巻かれ、燃えさかる自宅をまえに、エロールは膝をついて叫ぶ。
『今後はせいぜい、身の安全に気をつけて生きることだな』
 先刻のレイヴン・キャモランの忠告、いや、警告の言葉が脳内に蘇り、エロールはこの火事が偶発的事故や、放火魔の手による突発的犯行ではなく、つい先日までは同志であった深遠の暁の手によるものだと直感的に悟った。







「このプロテクターはどうやって外すんだ?」
 うん……?
 意識が朦朧とするなかで、ちびのノルドはぼんやりと自分の“真上”で交わされるやりとりに耳を傾ける。
 自分はどうしてここにいるのか?そもそも、ここはどこなのか…自分はどんな状況に置かれているのか?何もかもわからないまま、ちびのノルドはうっすらと瞼を開いた。






 仮面のスリット越しに見えたのは、低い天井と、二人の修道僧の姿だった。どこか落ち着かない様子でこちらを見守る若い男と、厳めしい顔つきで装具を検分する老人。
 敵ではなさそうだが…
 もうしばらく気がついてないふりをして様子を見ていようか、と考えた矢先、若いほうの男、同志のピナールが声をあげた。
「気がついたようですよ」
 薄目を開けていたのがバレバレだったか、あるいは筋肉の緊張を見て悟られたか。
 どのみち、このまま空惚けていても仕方がないので、ちびのノルドはゆっくり身体を起こすと、老齢の男のほうに声をかけた…かけようとして、腹部に走る痛みに顔を歪めた。
「あの、ここはいったい…あ痛っ」
「無理に動かないほうがいい、我々が発見したとき、きみの腹の傷口が開きかけていた…魔法で治療したのだろうが、少しばかり無茶が過ぎたようだな」
「きみは修道院の近くで行き倒れていたんだよ」同志のピナールが説明を加える。「かなり衰弱していた様子だったので、我々が介抱したのです。よろしければ、名前をお聞かせ願いませんか?」
「え、と」ちびのノルド、という、不名誉な渾名を脳裏から振り払い、「アリシア・ストーンウェルといいます。わたし、ウェイノン修道院っていうところへ行こうとしてて…ジョフリーさんっていう、お坊様に会いに行くところだったんです」
 その言葉を聞いて、二人の修道僧は驚いたような表情を見せた。
 老人が言う。
「ここがそのウェイノン修道院で、わたしがジョフリーだ。どうやら…きみがこれを持って、この場所を目指していたというのは、たんなる偶然ではないと考えて良いのだね?」
 そして、ジャラリ…鎖が音を立て、ジョフリーの手に握られた王者のアミュレットが窓の光を反射してきらめいた。






 ちびのノルドは修道院の一階に案内され、茶のもてなしを受ける。
 どうやら来客用らしい、棚の奥からわざわざ出してきたと思われる銀製のティーポットで華奢な陶磁器のカップに紅茶を注ぎながら、ジョフリーは丸机の上に置かれていた新聞に視線をやった。
「これを見たかね?黒馬新聞が発行した、皇帝暗殺を報せる新聞記事だ」
「いえ…」
「いま、帝国の民は不安に怯えている。皇帝とその血族がすべて暗殺者の手にかかり、跡継ぎがいない状況で、元老院が国を代理統治している。この状況で平和がいつまで続くのか?これは、たんに、王族が亡くなったというだけの話ではない。暗殺者の正体が不明なのもそうだが、脆弱な基盤のうえに成り立つ帝国に他国がどのような反応を示すか。これをきっかけに、大陸中が戦火に呑まれる可能性さえ有り得る」
 そこまで言ってジョフリーは一旦言葉を切った。
 ちびのノルドの表情を伺い、彼女が話を正確に理解していることを確認してから、机の上に置かれた王者のアミュレットを手に取り、話を続ける。
「そういう状況で、きみがこの、王家の象徴であるアミュレットを持って私のもとへやってきた。そのことについて、当然、納得のできる説明をして頂けるのだろうね?」
「え、と…」
 こころなしか鋭い眼差しで見つめてくるジョフリーに、ちびのノルドは口ごもる。
 帝国の一大事に巻き込まれたことをいまさら再認識させられたこともあるが、このジョフリーという老人が帝国の関係者であれ、国の行く末を案じるただの一市民であれ、適当な説明を許しそうな気配はなかった。
 城の地下に存在する遺跡と、そこへ続く地下下水道で逃走中の皇帝一派と暗殺者グループが争う場面に出くわし、助太刀に加わった。奮闘も虚しく皇帝は暗殺者の手にかかり、皇帝からアミュレットを託された自分は、ブレイズの生き残りであるボーラスの助言に従ってこの修道院へ向かった…そのように説明した。
 たんに素直に話せば良いだけのことだった。ちびのノルドが“話さなかった”点を除けば。
 そして当然のことながら、ジョフリーは彼女が口にしなかった点について疑問を抱いたようだった。
「だいたいの事情はわかったが」ちびのノルドを見つめるジョフリーの表情は依然として緩まない。「いったい、どういう理由できみはそういう場面に遭遇したのだね?」
「えっ?」
「偶然、そんな場所に居たはずはないだろう?なにも、理由なく疑っているわけではない…きみはいま、一国の命運を握る立場にある。そういう人間の行動に曇りがあるようでは、こちらとしても無条件に信頼するというわけにはいかない。それだけ、厳しい状況にあるのだということを、いまいちど理解して頂きたい」
「う~ん…あ、あの、はい」
 返事にならない声を発しながら、ちびのノルドは必死に頭を回転させようとした。
 おそらく…密売人と取引しようとしていたところを衛兵に見つかり、独房に入れられていた、などと正直に話したら、信頼どころの話ではなくなるだろう。
「えーと、えと…あ、うん、そうだ、そのう、ちっ、地下の!下水道の、ネズミと、あと、ゴブリン!ゴブリンの退治を依頼されてましてっ!それで、地下下水道にいたところを、偶然、皇帝陛下御一行と鉢合わせましてっ!そーいう事情で、えーと、なんか、巻き込まれた?みたいな?」
 あはははは。
 誤魔化し笑いで語尾を濁しつつ、ちびのノルドはたどたどしい口調で一生懸命に説明する。
 たしかに辻褄は合っている。“いまこの場で思いついた話です!”と態度で力説してさえいなければ。そして、そんな茶番に騙されるほどジョフリーはお人好しではなかった。むしろ、余計に警戒を強めた感さえある。
 だが真っ向から疑問を呈することなく、ジョフリーはやや質問の矛先を変えた。
「ゴブリン退治の依頼、というと、きみは戦士かね?」
「え!?ぁ、うん、あっ、はい」
「ギルドの人間かね?」
「いえ、そのう、傭兵です。フリーの」
「それで、ボーラスに言われてここへ来たのかね?」
「はい。急がなきゃいけないと思って、一睡もせずに歩き通してきたんです」
「なるほど」
 そう言って、ジョフリーは目前の傭兵を改めて観察した。
 いかにも怪しい人物ではある。素性が知れず、バレバレの嘘を平然と口にし、茶を出しても仮面を外そうとしない…だが、意識をなくして倒れるまで休みなく、王者のアミュレットをここまで運んできたというのも、確かな事実だ。
 暗殺者の一派ではあるまい。だが、だからといって帝国に不利益をもたらす者ではないと確信はできない。何らかの狙いがあって協力者のふりをする、他国の諜報員か…
 そこまで考えて、ジョフリーはかぶりを振った。諜報員にしては、あまりに“不出来”すぎる。
 フゥーッ…大きなため息をつき、ジョフリーは今この場における、ちびのノルドへの評価を“保留”として扱うことに決めた。ここで彼女の正体の詮索ばかりしていても仕方がない。
「それで、ボーラスがわたしの名を出した理由については?」
「えと、うーん…いいえ、聞いてないです」
 ひょっとして覚えてないだけじゃないのか。
 曖昧な返事ばかりするちびのノルドに対し今一度疑問が首をもたげるが、その点についてジョフリーは努めて無視する努力をしつつ、説明をはじめた。
「わたしはかつてブレイズの隊長として皇帝陛下に仕え、現在はブレイズのグランドマスターの地位にある」
「えと。引退、なされた…?」
「現役だよ。いまはここで、タロス修道会の修道院長として本来の身分を隠しつつ、ときおり皇帝陛下のために働くことがある」
 ジョフリーは“帝国のために”ではなく、“皇帝陛下のために”と言い、その点を強調した。
 ときおり皇帝陛下のために働くことがある、という言い方をしてはいるが、実際は普段から情報収集をしつつ市井の状況観察や不穏分子の監視を行う、常駐の諜報要員としての正確が強いのではないか、とちびのノルドは考えた。
「ボーラスさんは、皇帝陛下に隠し子がいるのではないか、と言ってましたが…」
「彼がそんなことを?事実を知っての発言ではないだろうが、なるほど、彼は聡明だからな。その可能性には考えが及んでいたか…いかにも。皇帝には一人、妾腹の息子がいるのだ。これはわたしを含め、ごく僅かな側近しか知らない話だから、くれぐれも他言のないように」
「はい…」
「彼はクヴァッチの街の農家の夫婦に引き取られた。彼自身、王家の血を引く者であることを知らされてはいない。名をマーティンという…現在はアカトシュの教会に神父として仕えているはずだ。いまとなっては彼がこの世に残された、セプティム朝を継ぐ唯一の人間ということになる」
「ってことは、その、マーティンさんを王宮にお連れする必要があるんですよね?」
「そうだ。そして、この王者のアミュレットをもって王位継承の儀を行う必要がある…しかし、陛下を亡き者とした暗殺者たちの素性、そして、その狙いを突き止めなければ、また悲劇が繰り返されるやもしれぬ。なんとしても、それは阻止しなければ…我々ブレイズは、そのための活動をすでにはじめている」
「あの、わたしに協力できることって、なにか、ないですか?」
「フム」片眉を吊り上げ、ジョフリーはちびのノルドを一瞥する。「たしかに、我々ブレイズだけでは人手が足りない状況だ。帝国軍も動いてはいるが、全力を投入できるほど国内の状況が安定していない。残念なことに…きみはクヴァッチに向かい、マーティンをここへ連れてきてほしい」
「わかりました!じゃあ、急いだほうがいいですよね!いますぐ…」
「待ちたまえ」
 唐突に席を立つちびのノルドを、ジョフリーが呼び止める。
「きみは衰弱して倒れたところを運び込まれたばかりなのだぞ?まして、ここからクヴァッチまでは距離がある。時間がないのは確かだが、悪いことは言わない、暫く休んでから行きなさい。それに、怪我のこともある」
「……すいません…」
「謝る必要はない。むしろ礼を言わねばならないのはこちらのほうだし、それに重要な仕事だからこそ、確実にこなして頂かなければ。何事も、急いては事をし損ずるというもの。それがわかったら、さあ、茶をおあがりなさい。冷めてしまう前に」
 そう言ってから、ジョフリーははじめて、ちびのノルドに笑顔を見せた。







 数日間の休養を経て、ちびのノルドはウェイノン修道院を発つことになった。そのさい、ちびのノルドは修道院で買っている馬を一頭貸してもらうことに。
 ウェイノン修道院からクヴァッチまでは約400km、馬で移動してもだいたい一週間はかかる。時間と労力の観点から徒歩で移動するのは非現実的で、またタイミングの悪いことに、コロールを拠点にしている辻馬車はすべて出払ってしまっていた。






 ちびのノルド、ジョフリー、ピナールの三人は厩舎へと向かい、やがてピナールが標準よりも一回り小さな牝馬を引いてくる。
「どういうわけか、一頭だけ成長の遅い馬がいてね。ただ、きみのように小柄な女性の場合はそのほうが扱いがいいだろう」ジョフリーが説明する。
 ちびのノルドは馬の扱いが得意ではなかったが、幸いなことに借りた牝馬は大人しい性格で、危なっかしい動きで手綱を握るちびのノルドを乗せても嫌がる素振りを見せることはなかった。
「それじゃあ、行ってきますね」
「その前に一つ、尋ねたいことがある。きみはなぜ、我々に協力するのだね?」
 疑問を口にするジョフリーに、ちびのノルドは目をぱちくりさせる。
 どう説明したものだろうか、そもそも、そんなことを説明する必要があるのだろうか、といった表情のまま、ちびのノルドは頭に大量の疑問符を浮かべつつ、口を開く。
「えっと…いま、国が大変なことになってて、ブレイズの皆さんもお困りで…それにこれは、皇帝陛下直々のご依頼ですし」
「それで、きみに何の得が、見返りがあるのだね?」
「…見返り?」
 まるで大金を前にした原始人のように不可解極まる困惑顔を見せたちびのノルドを前に、ジョフリーは直感的に、このアリシアという娘の本質を理解した気がした。
 なんということだ、この娘、ただの善意で行動しているのか?疑いもせずに?
 そのとき、急に…ちびのノルドを疑っていた自分が可笑しく思え、ジョフリーは苦笑を漏らす。改めて馬上の人となったちびのノルドの顔を真正面に見つめ、言った。
「道中、気をつけてな。汝にタロスの加護があらんことを」
 ジョフリの捧げた祈りの言葉に、今度はちびのノルドが苦笑した。
 タロス、初代皇帝タイバー・セプティムが神格化した存在。九大神の一柱にして、かつてタムリエルの地を統一したノルドの英雄。
 果たしてこれは偶然か?あるいは、何らかの巡り会わせか…







 ちびのノルドがウェイノン修道院を出発してから、しばらく経ったころ。
 教団を追われ、家を焼かれたエロールは旅行客用の馬車を利用し、シロディール西端の都市アンヴィルを訪れていた。






「残された財産は、財布に入ってたぶんの現金だけ、か…ハァ。とりあえず、ここなら教団の人間も…すくなくとも、俺のことを知ってるやつは居ないだろうし、暫くは現実を忘れて羽を伸ばそう」
 エロールがアンヴィルへやって来た理由、それはただ現実逃避のための傷心旅行であった。
 ゴールドコースト以東とは異なり、このあたりはレッドガードの故郷であるハンマーフェルの建築様式が取り入れられている。異国情緒のある港町、というのは、心機一転を図るのに丁度良い土地柄だとエロールは考えていた。
「とりあえず、海で泳ごうかな」







 さらに、同じ頃…
「オブリビオンについて、何か知っていることはないか?」
「いいえ…」
「それじゃあ、深遠の暁という集団について聞き覚えは?」
「さあ…」
「…わかった。酒をもらおうか、ウィスキーはあるか?」
「申し訳ありません、うちはワインとビールしか置いてないんです」
「…ボックをたのむ」






 背後でウッドエルフの店主と、街道パトロール中に立ち寄ったのであろう帝都衛兵がひそひそ声で自分の正体を誰何する声を聞きながら、アルゴニアンの剣士ドレイクは上面発酵の濃厚なビールが注がれたマグを片手に、食堂の席に腰かけた。
 ガットショー、シロディール西部はクヴァッチに近い街道沿いに建つ宿であり、しばしば冒険者や衛兵が利用するらしいこの場所で、ドレイクは早くも自分の旅の行き詰まりを感じはじめていた。
 オブリビオンの時空に取り込まれた恋人シレーヌを救うため、手がかりを探してブラックマーシュからシロディールまで来たものの、これといった有力な情報を得られないまま時間と金だけが費やされていく。

 だが…無為な日々も間もなく終わり、帝国の行く末に関わる壮大な戦いの渦中に自分が投げ込まれることを、ドレイクはまったく予想していなかった。







 クヴァッチへの道程も半分を過ぎたころ。
 コロールの南、スキングラードの街で休息を取ったちびのノルドは、夜が明けてから馬屋“感謝の道”に預けていたウェイノン修道院の牝馬を引き取った。
 いざ出発しようとした、そのとき。






「えっ!?な…なに……?」
 雷鳴とともに空が赤く染まり、不穏な空気があたり一帯を覆う。
 スキングラードの門を守っていた衛兵、馬屋の主人や従業員が口々に空を指して騒ぎはじめるなか、ちびのノルドは西の山頂に禍々しい光を放つ門が出現しているのをはっきりと目にしていた。
 すなわち、クヴァッチ領…自分がこれから目指そうとしていた場所に。







「なんだァ…?」






 その光景は、決して治安が良いとは言えないアンヴィルの港湾地区で飲んだくれていたエロールも目撃していた。
 彼は赤く染まった空と、そこから感じる威圧感、異界の瘴気に触れ、それがオブリビオンの次元に由来するものであることを理解した。腐っても元魔術師ギルドの一員としての知識と経験は衰えていなかった。
 そしてこれは、かつて自分が所属していた深遠の暁教団の計画の一旦であることも、同時に理解した。







 明け方、不穏な気配を察知して宿の外へ飛び出したドレイクは、変わり果てた空模様を見ておもむろに殺気立つ。






「この邪気は……!?」
 間違いない、かつてブラックマーシュで目撃したオブリビオンの門が開放されたときと同じだ。束の間、魔界へ通じる門が開き、あっという間に恋人を飲み込んで消え去った、あのときとまったく同じ光景だ。







 そして、クヴァッチでは…






 突如として開いたオブリビオンの門から、恐ろしい魔物たちが続々とその姿を現しはじめていた。





【 To be continued ... 】















2018/04/08 (Sun)17:13





The Elder Scrolls IV: Oblivion
Fan Fiction "Crossing Over" #2

- エルダースクロールズ4:オブリビオン -

Side Story【クロッシングオーバー】

第二話 「監獄脱出」











「いった…」
 鋼鉄製の仮面の奥で苦痛に顔を歪めながら、娘は目を醒ました。






 彼女の名はアリシア・ストーンウェル。“ちびのノルド”の通り名を持つフリーランスの傭兵で、かつては大陸の北方スカイリムにて傭兵団”雪狼一座”に所属していた経歴を持つ。
 近年シロディールへと渡ってきた彼女は、異様な安値で物品を売り捌く店の背後関係を調査したり、商船を改装した宿を襲撃した賊を撃退するといった、傭兵というよりは何でも屋、厄介事請負業者として生計を立てていた。
 そして、今回の事件…帝都をぐるりと覆う外壁の影で禁制品を扱う闇商人、“サム”という名の胡散臭い男から“スクゥーマ”と呼ばれる麻薬を買おうとしたところ、サムを捕らえるため草場に身を伏せていた衛兵隊の待ち伏せを受け、そのときに動転したサムから短剣の一撃を腹に受けたのである。
『貴様、帝国の犬か!俺を嵌めたな!?』
 いまも、慌てふためくサムの声が耳に残っている。どうやら自分が衛兵たちを手引きしたと勘違いしたらしい…見当違いの災難に見舞われ、ちびのノルドはため息をついた。
 それにしても…ちびのノルドは独房をぐるりと見回し、自分が囚人服ではなく、愛用の装具を身につけたままでいることに若干の疑問を覚える。実際のところ、帝都衛兵隊にとってちびのノルドは未だ容疑者のままであり、実刑が決まったわけではないため、手続き上、囚人服を着せることはできなかったのだが、ちびのノルドにはそこまで理解が及ばなかった。
 サムに刺された腹の傷は癒えていたが、包帯の跡はなかった。おそらくは治癒師…魔術師の手によって治療されたのだろう。
 腕の装具から覗く古い包帯、その傷跡は以前のままだった。これは長年の古傷であり、治癒師も手をつけようとはしなかったのだとちびのノルドは考えた。
 そして独房を見回していたときに、つい先刻この場を通り過ぎた皇帝の一団が開放した隠し通路を発見し、なおいっそう首をかしげた。彼女はさきほどの皇帝たちのやりとりの一切を関知していなかった。
「目を醒ましたか。言っておくが、その抜け穴には近づくなよ。危険だからな」
 ちびのノルドの覚醒を察知した衛兵が、鉄格子越しに睨みをきかせてくる。
 とはいえ、隠し通路を指して「危険」と言ったのはハッタリであり、それはきょとんとした表情で見返すちびのノルドが何の事情も知らないであろうことを察しての言葉だったが、結果的にその一言が彼女の関心を隠し通路へ向けることになってしまった。
 古代遺跡へと続く抜け穴と、看守を…その間を阻む、鍵のかかった鉄格子の扉越しに…交互に見つめ、ちびのノルドはゆっくり起き上がると、そっと手を振って看守に背を向けた。






「…… …… …じゃっ!」
「あっ、コラ!おまえー!?」
 足早に隠し通路を抜けようとするちびのノルドの姿に、看守は慌てて扉の鍵を開けようとする。しかし、鍵穴に鍵を差し込んだあたりで看守の脳裏にふとした懸念がよぎった。
 いま自分がここを離れたら、誰が他の囚人を監視するというのか?
 ちびのノルドを追って秘密の地下通路へと飛び込むのは、あまり懸命な判断とはいえない…のみならず、皇帝の命を狙う暗殺集団と鉢合わせる可能性を考えると、この身に危険が及ぶことも充分に考えられた。
「…ええ、くそ」
 この微妙な状況のなかで、行動を急ぐのはまずい…そう判断した看守は、同僚にこの事態を伝えるべく地上階へと続く階段を駆け上がっていった。
 それに、ちびのノルドの存在についてはまだ、文書が作成されていない。なんとなれば、最初からそんな者はいなかった…と誤魔化すこともできるだろう、といった打算を踏まえての決断であった。







「ハァッ!!」
 ときの声をあげ、レノルトは失われしアカヴィリ由来の刀を振りぬいて暗殺者を真っ二つに両断する。真紅のローブが鮮血に染まり、石畳にごろりと音をたてて亡骸が転がり落ちた。






「グレンロイ、ボーラス、無事か!?」
「私と陛下は無事です、しかしグレンロイが…」
「…くそっ」
 通路の向こう側から発せられたボーラスの言葉に、レノルトは皇帝の前であることも忘れ、思わず罵り言葉を口にしてしまった。
 グレンロイは大太刀、ダイカタナの使い手だ。この狭く入り組んだ遺跡内部では、そのリーチの長さがかえって不利になる。そこを突かれて倒されたに違いない、そうでなければ、あの錬達の剣の使い手がカルトの暗殺者風情に遅れを取るはずがなかった。
 誤算はほかにもあった。
 皇帝とブレイズが、宮廷の極一部にしかその存在を知らされていない秘密の地下通路を使って脱出しようとした、その理由。暗殺者の目を遠ざけ、あまつさえ迷路のように入り組んだこの場所は逃走を容易なものにしてくれるはずだった。
 しかし、現実はどうだ?
 暗殺者たちはこの迷宮の複雑な構造を我が物とし、まるで待ち伏せをしていたかのように奇襲を仕掛けてきている。暗殺者たちが、この地下通路の存在を最初から知っていたことは明白だった。
 宮廷内部に内通者がいたのか、それとも、ブレイズでさえ感知できない方法で事前の調査を完了していたのか、それはわからない。それにいま、そのことに頭を悩ませたところで、事態が好転するわけではない。
 そこまで考えたとき、レノルトは暗殺者の集団が近づく気配を感じた。
「ボーラス、陛下を連れて先へゆけ。ここは私が喰い止める」
「しかし、隊長!?」
「おまえの役目は、第一に陛下の身の安全をお守りすることだ!自らの命にかえても!そして、もちろん…同胞の命にかえても。私に構わず行け、早くッ!」
 ほとんど狂気的と呼んでもいい形相で叫ぶレノルトをまえに、ボーラスは束の間躊躇したのち、皇帝とともにその場を離れた。
 間もなく通風孔などの、外界からの侵入路となり得る、あらゆる場所から真紅の暗殺者たちが姿を見せはじめた。それぞれが召喚術を使い、魔法の鎧を纏ってレノルトに狙いを定めている。






 そしてまた、この事態とは何の関係もない、もう一つの小さな姿も…







 レノルトを置き去りにしてから、どれだけの時間が経ったことだろう。
 エルフの古代遺跡から、ゴブリンの潜む自然窟を抜け、ふたたび入り組んだ遺跡へと足を踏み入れたとき、ボーラスは自分が用意された罠にまんまとかかったことを思い知らされた。
「なんということだ、扉に…鍵が!」
 それは脱出用通路という用途を考慮し、決して施錠されることはないはずの扉であった。しかしいま、鍵は逃亡者が外せないよう外側からかけられており、それが暗殺者たちの仕業であることは目に見えて明らかである。
「…もはや、これまでかもしれぬな」
「陛下、お気をたしかに!」
 気を落とした、というよりは、達観した様子で諦めの言葉を口にする皇帝を激励しつつ、ボーラスは脱出の手段を考えた。扉を破壊するか、あるいは別の脱出路を探すか…
 しかし結論が出るよりも早く、罠を張って待ち構えていた暗殺者たちがここぞとばかりに二人に向かって襲いかかる。
 ボーラスは施錠された扉を背に、皇帝を庇いながら暗殺者たちと剣を交える。






 彼にとって誤算だったのは…というより、彼の考えが及ばなかったことに、施錠された扉は“外からは開けられる”という一点が、皇帝ユリエル・セプティム七世の命を奪うことになった。
 扉の開く音と、ドン、グチャリ…という、鈍い殴打音がほぼ同時に響き、ボーラスが「まさか」という表情で振り返ったとき、すでに皇帝は陥没した頭部からおびただしい量の血を流し、床に倒れていた。
「お、おおおおおお!!」
 激情のままボーラスは皇帝を手にかけた暗殺者を切り伏せる。だが、自身もその背に別の暗殺者の刃を受け、激痛に顔を歪めた。
 ここで死ぬのか、皇帝を守るという使命を果たせず、自分の身すら守れないまま…
 そのとき、視界の奥で殴打音とともに暗殺者が吹き飛び、次々と倒されていく様子が目に写った。
 あれは、なんだ?






 予想だにしなかった闖入者の存在に誰しもが驚くなか、やがて暗殺者たちがすべて斃されたとき、傷ついたボーラスの前に立っていたのは、徒手のまま大量の返り血を浴びた小柄な女性の姿だった。
「えっと、あの…だ、大丈夫、ですか?」
「おまえは…?」
 修羅場を潜り抜けた者にしては、いやに自信のなさそうな声でつぶやく娘…ちびのノルドを見つめ、ボーラスはその正体を訝る。
 そうだ、たしか、この娘はあの独房で眠っていた、あの娘だ。と、そのことは混乱する頭を抱えたボーラスにもすぐに理解できたが、それが手練の暗殺者たちを悉く屠ったという事実に、いまひとつ現実感を抱けないでいた。
「あ、あのっ、そのう、ぶ、ぶれいず?のかた、ですよね?れー、の…レノルト、という人からだいたいの事情は聞いています。皇帝陛下をお守りしているとか」
「レノルトに?まさか、彼女は生きているのか!?」
「はい、ただ、暗殺者たちとの戦いで負傷したので、いまは安全な場所で休んでいますが…その、皇帝陛下は……?」
 ボーラスの影に隠れていた皇帝の姿を見て、ちびのノルドは思わず顔を伏せる。
 危機は脱したものの、皇帝陛下を守るという使命を果たせず…それをまっとうするためならば自らの命、同胞の命でさえ捨てよというレノルトの命令を果たせず…そのことにボーラスが愕然とした、まさにそのとき。
 すでに息絶えたと思われた皇帝ユリエル・セプティム七世が這い起き、血まみれの顔面を晒したままちびのノルドの手を取った。
「やはり…御主が来たか……」
「陛下!?」
 ボーラスが驚きの声をあげ、ちびのノルドが仰天するなかで、皇帝が言葉を続ける。






「このアミュレットを受け取り…我が息子へ託すのだ。ドラゴンファイアを灯し、オブリビオンの門を閉じろ」
 自身が首にかけていた、赤く輝く巨大な宝石が埋め込まれた首飾りをちびのノルドに渡そうとする手はいまにも止まりそうで、弱々しくかすれた声は聞き取るのも難しかったが、それでも、その言葉には確かな力強さがあった。
 それは提案ではなかった。頼んでいるわけでもなかった。
 それは命令だった。かつて大陸全土を支配下に収めた皇帝ユリエル・セプティム七世としての、最期の命令だった。
 それからなにごとかを呟き、力を使い果たした皇帝はその場に崩れ、こときれる。なにを呟いたのかは聞こえなかったが、ちびのノルドは、直感から彼が「すまない」と言ったように思えた。ただし、その謝罪の真意を汲むことはできなかった。
 皇帝の亡骸の傍らに跪きながら、ボーラスがちびのノルドに向かって言う。
「陛下は…お前に何らかの予感があったようだ。いまわの際に、王家に代々伝わるアミュレットを他ならぬお前に渡したのも、おそらくは理由があってのこと。あの」先刻まで施錠され、そして皇帝を亡き者とした暗殺者が開いた扉を指し、「通路から下水道を抜ければ、帝都の北側、ルマーレ湖のすぐ傍に出ることができるだろう。私は陛下と…同胞の亡骸を葬り、レノルトと合流しなければならぬため、しばらくはこの場に留まるつもりだ」
「あの…」
「陛下はアミュレットを息子に託せ、と言ったが、生憎と陛下の御子息はみな暗殺者の手にかかってしまった。正式な血統は…あるいは、隠し子の存在があるかもしれぬ。ここを脱出したら西のコロールへ向かい、ウェイノン修道院のジョフリーという僧に事の次第を話すのだ。きっと、力になってくれることだろう」
 そこまで言って、ボーラスは口をつぐんだ。
 ここに至り、ちびのノルドには、皇帝の遺志を継ぐ理由が何一つないことに思い当たったからである。しかしこの状況で、ボーラスが他に頼れる者はいなかった。
 戸惑いながら見つめてくるちびのノルドに、ボーラスは口を開く。
「…頼まれて、くれるだろうか?」
「…… …… …はい」










 実際のところ、ちびのノルドにも打算の一つや二つ、ないではなかった。
 いま現在、帝国から見れば、ちびのノルドは闇商人から禁制品を買おうとした容疑者であり、さらには看守の目の前で独房から逃亡した脱走犯である。
 しかし皇帝陛下の勅命を受け、特殊任務を遂行していた…となれば、これらの罪を帳消しにしてもらうことは、そう難しいことではないはずだ。ブレイズの力添えがあれば、尚のことだ。
 さらには任務の重要性がある。これは明らかに国家の存亡に関わるものと思われ、見事果たしたとなれば、傭兵としてこれ以上の宣伝はない。この降って湧いた厄介事を引き受けるに足る理由は、充分にあるわけだ。
 …とはいうものの、ちびのノルドがあの場で咄嗟にそれだけのことを考えたわけではなかった。ボーラスの頼みを引き受けた理由のほとんどは、実質、彼女の生来の善良さによるものである。

 ボーラスの助言に従い下水道を抜けたちびのノルドは、仮面の隙間越しに陽光を浴びて目を細めた。どうやら、いつの間にか夜が明けていたらしい。東のモロウウィンド国境に近いヴァラス山地の稜線から朝日が顔を覗かせていた。空はまだ薄暗く、星明りがわずかに見え隠れしている。
 さて、ここでゆっくりしている時間はない。
 帝国にとって自分は未だ脱獄犯扱いであり、いまごろはすでに手配が回っているに違いない。道中で衛兵に見つかるわけにはいかない、どうやって対岸へ渡ったものか…ちびのノルドがそう考えはじめたとき、真紅の影が排水溝のブロックを飛び越えてきた。






「あれは…暗殺者の一味!?」
「待てィ、そこの小娘!」
 驚きの声をあげるちびのノルドの目前に、ザシャアッと派手な音を立て着地する真紅の暗殺者。その姿は皇帝とブレイドたちを襲った者たちと同じもので、この輩が連中の仲間であることは疑いようがなかった。
「まだ仲間が残っていたんですか…!」
「貴様が首からかけているソレは、王家に代々伝わるアミュレットだな!?どうやって貴様のよォな小娘がそれを手に入れたのかはわからんが、そいつを組織のアジトへ持って帰れば、寝坊して襲撃計画に間に合わなかった失態の埋め合わせができる!のみならず、幹部待遇だって有り得るかもしれん!どうやら俺にも運(ツキ)が残っていたようだぜ!ナイス、ナイスだ俺!」
「…え?」
 早口でわけのわからないことをベラベラと捲くし立てる暗殺者に、ちびのノルドはしばし呆然となる。どうも、地下迷宮で戦った連中とは若干雰囲気が異なる気がするのだが…
 そんな彼女の戸惑いを余所に、暗殺者はやたらに威嚇的なフォルムのメイスを振りかぶると、ちびのノルドを指差して叫んだ。
「というわけだから、この俺の出世のために散るがいいッ!小娘、覚悟!!」
 そしてちびのノルドに飛びかかる暗殺者!






「えいやっ」
 ガギン、と、鈍く重い金属音があたりに響く。
 ちびのノルドは上空から迫り来る暗殺者の股間を爪先で鋭く蹴りあげたのだった。
 勢いを増して落下していた暗殺者の身体は、蹴られた衝撃で、ぴょこんと飛び上がっていた。たった一点に集中したダメージ、さらには自身の体重がそこへ乗り、暗殺者は仮面の下でぐるりと白目を剥いて悲鳴をあげた。
「イチニーサンダァァァァーーーーーー!!」
「!?」
「ちょっと出たぁぁぁーーーっ!!」
「…え、なにが?ねえ、なにが!?」
 不穏当な言葉を口走る暗殺者に尋ねるちびのノルド、しかし暗殺者はその質問にこたえることなくバターンと派手な音を立てて地面に倒れ、口から泡を吹いて失神した。
 …どうしよう。
 おそらく、とどめを刺すのは、簡単だ。
 そしてたぶん、そうすべきなのだろうが…ちびのノルドは逡巡する。どうにもこの、そそっかしいというか、おっちょこちょいというか、バカっぽいというか、要するにアホにしか見えないこの暗殺者の命を奪うことは、躊躇われた。
 しばらく悩んだすえ、ちびのノルドはある結論を出した。
「…よし。流そう」






 ザッパーン。
 大きな水音を立て、ルマーレ湖に投げこまれた暗殺者の身体はプカプカと水面を漂いながら、対岸へ向かってスィーッと流されていく。
 運が良ければ、命は助かるだろう。かなり、物凄く、運が良ければ。たぶん…
 枯葉のように静かに流されていく暗殺者の姿を見届けてから、ちびのノルドはウェイノン修道院へ向かうべく、その場をあとにした。





【 To be continued ... 】















2018/04/04 (Wed)18:41







 これは太陽系から遠く離れた、別の星系でのおはなし…
 マッサー、セクンダと呼ばれる二つの月を持つ惑星ニルン、そのなかで複雑な歴史と文明を持つ大陸タムリエル。生命の誕生から現在に至るまで数多くの戦乱を経験したこの地で、また、新たな争いが巻き起ころうとしていた。
 第三紀433年、収穫の月27の日。
 かつて大陸全土を支配していたセプティム王朝もいまやその影響力は衰え、大陸中央部のシロディールを帝国領として治めるに留まっていた。
 65年もの歳月を権力者として君臨してきた、ときの皇帝ユリエル・セプティム七世。数多くの苦難に直面しながらも支配者として辣腕を振るい続けた彼の生涯がいま、閉ざされようとしている。
 それは、決して逃れ得ぬ運命。
 姦計を用い邪悪なる神の召喚を目論む集団と、その計画に巻き込まれた者たち。それを望むと望まざるとに関わらず、彼らの運命もまた奔流に呑まれ、一つの時代の終焉と、新たなる激動の時代の訪れに直面しようとしていた…










 シロディール中央部、帝都北東部に位置する獄舎地区。
 普段ならば看守の足音と、ときおり聞こえる囚人の嘆きしか耳にすることのない監獄で、慌しく移動する一団の姿があった。それも、すっかり日が暮れたあとに、である。
 ときの皇帝ユリエル・セプティム七世を中心とし、その周りを囲む異様な兵装の集団。彼らが皇帝陛下の護衛であることは誰の目にも明らかであったが、おなじく明らかなこととして、帝国軍のものとは異なる軍装に身を包んだこの集団の正体を訝る者があったとしても、これは不思議なことではない。
 彼らは“ブレイズ”という…帝国軍ではなく皇帝直属の組織で、皇帝の護衛や諜報活動がその主な活動内容である。その存在を知る者は少なく、構成員や組織の性格については極めて慎重に秘匿されてきた。
 もとより獄舎の看守に命令をきかせるために素性を明かす必要などなく、ただ一般の兵士よりも皇帝に近しい存在であることを態度で示すだけで事は足りていた。






「おいっ!この独房は決して使わぬようにと言っておいたはずだ、なぜ囚人が眠っている?それも、囚人服すら着ることなく!」
 ブレイズの一人、それも隊長格であろうと目される者が凛とした、いささか耳に突き刺さる高音で声を張り上げる。驚きべきことに、皇帝の身の安全を任される部隊の長は女性であった。
 彼女は名をレノルトという、実力でブレイズの指揮官にまで上り詰めた女丈夫で、平素であれば見るものをはっとさせるような美貌の持ち主であるが、いまは顔を覆う兜の奥でひたすらに険しい表情を浮かべている。
 レノルトの剣幕に圧されてか、看守はいささか動揺した様子でしどろもどろに説明をはじめた。
「じつは今日の夕刻過ぎ、帝都外周にて、我々がずっと目をつけていた禁制品の密売人を相手に捕り物を演じまして。この娘はそのとき、密売人が咄嗟に放った凶刃を腹に受けて負傷したのです。そのため、怪我の手当てをしたのち独房に寝かしつけた次第で」
「たわけを申すな、なぜ怪我人を独房に入れるのだ!」
「…といいますのも、この娘、我々が捕らえた密売人の客だったのです。どうやら、密売人は娘が我々の雇った密偵だと早合点をしたらしく…それゆえ、娘の意識が戻ったのち、取調べをする予定であったのです。生憎と他の独房はすべて埋まっておりまして、よもやこのタイミングで独房の開放が必要であったなどとは考えてもみず…」
「わかった、わかった!もうよい、下がれ」
 うやうやしく一礼する看守を脇にどけ、レノルトは鉄格子の扉の鍵を開けて独房のなかへと足を踏み入れる。
 それにボーラス、グレンロイという名の部下がつづき、最後に皇帝ユリエル・セプティム七世が独房の鉄格子をくぐる。その様子を確認したのち看守がふたたび扉に鍵をかけ、そのときに大きな音がしたにも関わらず、先刻から続く喧騒もろとも意に介さぬ様子で床に伏せる娘が目を開く様子はない。
 やがてレノルトが壁に隠されていたスイッチを探り当て、独房の壁の一部が横にスライドする。
 それは古くから監獄に用意されていた隠し通路であり、かつては古代エルフ“アイレイド”の遺跡であった地下施設を利用したものだった。
「陛下、お急ぎください。追っ手が迫っています、ここで時間を無駄にはできません」
 レノルトに促され隠し通路へと向かう皇帝、しかし床に伏せる娘の傍らを通ったとき、何を思ったのか…彼はその場で足を止め、腰を落として娘のほうを見やった。






 鋼鉄製の面で隠れた表情を窺うかのように皇帝は娘を凝視し、やがて、口を開く。
「この者は、この者の存在は…わたしの予知にはなかった」
「陛下?」
「いや、この者の存在そのものを予期してはいた。だが、この者は本来ならば、この場所にはおらぬはず…この者からは、大きな運命のねじれを感じる。運命の変化を、いや、運命が変わるからこそ、“本来ならば変わるはずであった運命が元の流れへと戻る”…?」
「…陛下、お急ぎください」
「うむ」
 ボーラスに促され、皇帝は彼らとともに隠し通路へと向かう。
 その様子を独房の外から観察していた看守は、一つの懸念を抱いていた。…あの隠し通路の扉は、どうやって封鎖するのだろう?
 皇帝陛下とその護衛たちは、隠し通路の扉を戻すことなく行ってしまった。いまは眠っている娘があの通路を発見し、脱獄を試みたらどうなる?看守の目が光っているとはいっても、隙の生じる時間は存在する。
 とはいえ…看守は嘆息する…謎の暗殺集団に皇帝陛下が襲撃され、あまつさえ王家の血統を継ぐ者たちの命が奪われたいま、そのような問題は瑣末なことに思えた。







 一方、舞台は変わり…
 タムリエル大陸南部、アルゴニアンの国“ブラックマーシュ”。
 シロディール(帝国領)に近いロックガードの村にたった一つ、立派な屋敷が建っている。かつてアルゴニアンとともにブラックマーシュを開墾したダンマー(ダークエルフ)、その祖先である古代種“アイレイド”文明の研究家であり、また武道家、哲学者、経済学者としての側面を持つ村の名士の邸宅である。
 その功績と人柄の好さゆえ“センセイ”と呼ばれ慕われる初老の男とともに、ベランダに立つもう一人の男の姿があった。






 男の名は“ドレイク”。
 ロックガード東部の都市ヘルストロムにて五十名を数える門下生を持つ剣術道場の師範代であり、これもまた街の名士にして、地方豪族の末裔であった。
 キルティングが施された白い絹織物のローブという服装のセンセイと、黒い外套を纏い腰に大小を差したドレイクの対比は、端から見れば(また双方の年齢差からしても)親子のように見え、事実、この二人はドレイクが幼少の頃から付き合いの深い仲であり、ドレイクにとってセンセイは気性の激しく子育てに興味のない実父よりもよほど父親のかわりであった。
 そしていま、ドレイクは実の父よりも父のように慕っていた恩人に別れを告げるため、この場所に立ち寄っていたのだった。
「センセイ、突然こんな話をして、信じてもらえるかはわからないが…シレーヌが姿を消した。二人で森の中を歩いているとき、突如として開いた魔界の門に引き寄せられ、そのまま閉じ込められてしまったのだ。門は消え、俺はただ一人、取り残された」
 シレーヌとは狩猟家の娘で、ドレイクの幼馴染であり、また、長年連れ添った恋人同士でもある。結婚しなかったのは、ドレイクの父がそれを許さなかったからだ。
 思い詰めた表情で眼下の村落を見下ろすドレイクに、センセイが語りかける。
「おそらく、それはオブリビオンの門だろう。すぐに閉じてしまったのは、それが意図的に開かれたものではない、不安定な存在だったからだ。おそらくは、何らかの力の余波…」
「余波、とは?」
「近頃、帝国領でデイドラ公メエルーンズ・デイゴンの顕現を目論む動きがあるとか。破壊と変革をもたらし、天災を象徴する存在…その崇拝者である、深遠の暁と呼ばれる集団。その足跡を辿れば、あるいは娘の行方を追えるかもしれぬ」
「俺は…行かなければならない」
「婚姻を許されなかった娘のために、確たるあてもなく、シロディールへ?ドレイクよ、道場はどうなる?一族にはなんと申し開きをするつもりか?」
「俺は気づいたのです。一族の栄誉、自らに課せられた使命、それよりも大切なものがあるということを。彼女を失い、ようやく…それを取り戻すためなら、俺は他のすべてを捨てても構わない」
「…一族の誇りのため、実の弟でさえその手にかけた男が、いままで頑なに守り、自らの人生の指標としてきたものを捨てるというのか。たとえ娘を取り戻せたとしても、二度とこの国の土を踏むことはできまいぞ」
「もとより承知のうえ。貴方とも、二度と会うことはないでしょう。センセイ…貴方から受けたこれまでの御恩、決して忘れることはありません。今日は、それを伝えに来ました」






 背を向けて村から去っていくドレイクの姿を見つめ、センセイはため息を漏らす。
「…あまりにも。こうしてみると、あまりに。早い別れであった、若き獅子よ……」
 老人の心はいま、過ぎ去りし日々のなかにあった。
 厳しい伝統と鍛錬によって心を削られながらも、その瞳の奥に輝きを残す少年の姿。長きにわたり燻り続けていたその光はいま、自らの肉体をも焼き尽くす灼熱としてドレイクを包んでいた。
 おそらくドレイクは、自らの胸に抱く希望によって命を落とすことになるだろう。
 そう思うと、センセイは悲嘆せずにはおれなかった。










 また舞台は変わり、帝都港湾地区の一画。
 これは皇帝が独房を訪れるより前、密売人の凶刃を受けた娘がその原因である捕り物に直面するよりも前のことである。
 いままさに日が落ちようとしていたところ、ルマーレ湖に面した貧民街のあばら家にて目を醒ました一人の男がいた。






「モ…モンテスキュー!?」
 極めて奇ッ怪な単語を口にしつつ飛び起きる男、美男子というよりは三枚目と呼ぶにふさわしい容貌の青年は窓の外を見つめ、すっかり赤く染まったルマーレ湖を見るに至り、その慌てぶりはいっそう輪をかけたものになった。
「しまったー!寝過ごした!今日は皇帝暗殺の日なのに!!」

 …このうっかり者、彼こそは人類に死と破壊をもたらす邪悪なデイドラ公メエルーンズ・デイゴンをこの地に呼び寄せようと画策する密教団“深遠の暁”信者にして、皇帝ユリエル・セプティム七世とその血統を根絶やしにすべく集められた暗殺部隊の構成員。
 名を、エロール・ヴェスイウスという。帝国人(インペリアル)にして、かつてはメイジギルドに所属する魔術師であった。










The Elder Scrolls IV: Oblivion
Fan Fiction "Crossing Over" #1

- エルダースクロールズ4:オブリビオン -

Side Story【クロッシングオーバー】

第一話 「はじまりの刻」























【 To be continued ... 】















1  2  3  4  5  6 
忍者ブログ [PR]