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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2016/11/24 (Thu)20:09








 どうも、グレアムです。ひさしぶりにオブリビオンのSSを更新しました。たぶん一年ぶりくらい。環境を再構築してテンション上がったので。
 じつはクエスト「父の罪」を扱ったリアのエピソードの画面写真は環境を再構築するまえ、OSを再インストールする前に撮影したものです。画像の更新日時見たら丁度一年前だった。今に至るまでテキストを用意する気力が沸かなくて放置していたのです。
 過去には先にテキストを用意してから画面写真を撮影する、という手法で書いていたのですが、あらかじめ決定されたシチュエーションに合わせて画面写真を用意するのはものすごく難しいので(昔の俺は手間かけてたなー)、今回からは先に画面写真を撮影し、画像に合わせてテキストを用意するという、プレイ日記と同様の手法を取りました。

 ジェメイン兄弟は、たしか公式的にはどちらが兄でどちらが弟か、といったことは明言されていなかったと思いますが、本SSでは酔っ払いだけど根っこに熱い魂を持っている兄、真面目で温和な弟という設定にしています。
 ちなみに今回から各名詞をコンシューマ版準拠にしています。そのほうが検索で引っかかりやすいかな、という姑息な思惑と、オブリビオンはコンシューマのほうが知名度あるので、読者的にもわかりやすい(のかなぁ…)と思ったので。いちいち名前を調べなおすのが面倒臭いですが。
 フォールアウト3とニューベガスは有志翻訳と公式訳にそれほど大差がないのと、スカイリムはそもそも公式で日本語版が扱えるので、そんなことに頭を悩ませる必要はないんですが。






 ちびのノルドは闘技場&吸血鬼病治療編です。
 当初の予定では闘技場での戦いも全部フォローするつもりだったんですが、さすがにいまさらそこまでやるのは面倒臭すぎるので決勝部分のみ触れています。
 吸血鬼病治療は、本来なら普通にバニラのクエスト準拠でハシルドゥア伯爵のところまで泣きつく予定だったんですが、どういうわけか、吸血鬼病を発症してもクエストが発生しなかったんですよね…Wikiを参照にあちこち話を聞きに行ってもそれらしいトピックが出現する気配がなかったんで頭を抱えました。ロヴィディカス卿に鬼のようにボコボコにされてようやく発症したのに!
 仕方ないから独自設定をでっちあげるか、ということで、ドレイクかミレニア経由でシンデリオンを紹介してもらうか、リア経由でハシルドゥア伯爵を紹介してもらう二通りの展開を考えたんですが、前者を選びました。最終的にはマグリールを利用するという変わり手を使いましたけど。
 せっかくスカイリムに(死体で)登場したので、シンデリオンはもうちょっとクローズアップしてもいいかなあという思惑もあり。けっきょく、展開的にはオリジナル主人公揃い踏みというちょっとおいしい形に収まりました。
 ロヴィディカス卿に関しては、何十年も血を吸っていない飢えた吸血鬼という設定のはずなのに、血色の良いムキムキの半裸のジジイが襲ってくるというものすごい違和感しかないビジュアルになってしまったんですが、そのへんはもうどうしようもないので仕方がない。






 グレイ・プリンスとの決戦は、戦士としてはテメエの勝手な都合で塩試合させられるほうの身にもなってみろやボケェ!ということで、ああいった形で全力を出してもらいました。
 熱狂的なファンが問答無用でブン殴られたのは、彼に非があったからというより、ちびのノルドが情緒不安定な状態だったせいです。全力で戦えたのは良しとしても、それはそれで感情に整理がつかない部分もあり、結局アリーナにも自分の居場所はなかった…と認識させられたというか。






 今後もオブリビオンのSSについてはコンスタントに更新して、できれば完成まで漕ぎ着けたいんですよね。
 いままでけっこう話を進めてきたので、あとはクヴァッチ行ってメインクエ終わらせれば完了かな、くらいに考えてたんですが、改めて設定ノート読み返したらまだ序盤だったと気づいて戦慄。
 とはいうものの予定している話数の大半がギルドクエスト関連で、消化試合的なエピソードも多いんで、そのへんをばっさりカットして本筋だけ追うようにすればまだ完成の目処はあるかなと思ってます。

















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2016/11/22 (Tue)18:21





 吸血病の治療薬を作るため、強力な吸血鬼の灰とアルゴニアンの血を求めてスキングラードを発ったちびのノルドだったが、これといってアテがあるわけではなかった。
「どうしよう…」
 このまま何の目処もなく森の中をふらついて、目当てのものが見つかるだろうか?
 吸血鬼は廃坑や洞窟を根城にしていることがあるので、そうした場所を探せば見つかることもあるだろう。治療薬の製造に必要な力を満たしているかはともかく…アルゴニアンも同様に、そうした場所にたむろしている山賊を狙うという手がある。
 しかし、なんとも途方のない話だ。本当に一晩でこなさなければならないのか?
 暗澹たる気持ちを抱えるちびのノルドの前に、聖堂が見える。ゴトルズフォント修道院というらしい、せっかくなので探索の成功を祈願するために立ち寄ってみようか。






 聖堂には先客がいた。
 賊の類には見えないが、さりとて修道女というわけでもない。何者だろうか?
 眼帯で片目を覆った銀髪の女性はちびのノルドを一瞥すると、静かに口を開いた。
「どなた?」
「あー、えーっと、旅の者です。ちょっとお祈りに…あなたは、ここの人ですか?」
「いいえ、私も旅の途中で立ち寄っただけよ」
 旅人を名乗る女性は物腰こそ柔らかかったものの、その口調はどこか冷たいものを感じる。
 戦士には見えないが、ただの旅行者ではないはずだ。商人?あるいはやはり、山賊か何かだろうか?
 どことなく異様な空気を感じ取ったちびのノルドは、考えるよりも先に口を滑らせてしまう。
「あの、もしかすると、ですが…吸血鬼の遺灰とか、持ってませんか?」
「吸血鬼の遺灰?私が?…なぜ?」
「いえ、その、特に深い理由はないんですが。じつはわたし、強力な吸血鬼の遺灰を探してて、それで…」
「そんなもの、何に使うの?」
「く、薬を作るんです。錬金術で」
「あなた、錬金術師?」
「やや、ち、違います。知り合いに、ですね。頼まれて。というか、頼んで、というか」
「ふうん…」
 どこか値踏みするような目つきの女を前にして、ちびのノルドはいささかたじろぐ。
 吸血鬼になってしまった動揺がずっと尾を引いているせいもあるが、どういうわけかこの女性に対して、苦手意識のようなものが生まれている。それがなぜなのかは、自分でもわからなかった。
 やがて女が言った。
「幾ら出せる?」
「え?」
「強力な吸血鬼の遺灰。幾らで買う?」
「持ってるんですか!?」
「おそらく、ね」
 そう言って、女は腰のベルトに下がっていたポーチから帆布製の袋を取り出した。
「ヴィセンテ・ヴァルティエリっていう…暗殺者の遺灰よ。ずっと人間社会に溶け込み、決して正体を明かさなかった…まあ、強力な吸血鬼と言えるのではないかしら?信じるかどうかは、あなたの勝手だけれどね…」
 どこか物憂げ、けだるげな表情で女は訥々と語りだす。
 本物だろうか?新手の詐欺商法という可能性も、もちろん考えられた。
 たまたま遺灰を持って教会へ祈りに来たら、吸血鬼の灰などというけったいなものを求めている変人に出会ったので、適当にふっかけて大金をせしめようと思いついたのかもしれない。本来は位牌とともに飾るか、墓に埋められるはずだったイシュトヴァーンおじさんの遺灰に感謝、というわけだ。
 もちろん、遺灰は本当に強力な吸血鬼のものだという可能性もある。
 これから山の中を駆けずり回って、あるかどうかもわからないものを探すか?それともここで金を払って手打ちにするか?時間のないちびのノルドにとっては考えるまでもなかった。
「…500G、で、足りますかね?」
「市価の十倍ね。よほど急いでるのね…いいわよ、それで」
 ちびのノルドが金貨の入った皮袋を渡すと、引き換えに女は遺灰の入った帆布袋を差し出してきた。驚いたことに、女は金貨の数を数えようともしない。そもそも、金に興味がないふうな態度だった。
 またしても疑問が頭をもたげる。彼女は何者なんだろう…
 しかし、それを詮索している暇はない。
「あ、あのっ、ありがとうございます」
 ちびのノルドは頭を下げると、小走りに教会を出ていった。







 残るはアルゴニアンの血液だが、これがまた厄介だった。
 第一、こんな夜中にそうそうアルゴニアンが出歩いていることなどない。彼らは寒さを苦手としているため、理由もなく夜に散歩するような習慣を持っていなかった。
 しばらく歩き通していると、ポツポツと雪が降りはじめ、自分がかなり山の深い部分まで来てしまったことに気づく。
 ひょっとしてジュラル山地のあたりまで到達してしまったのか?
 引き返すべきか…そう思ったとき、ちびのノルドは見覚えのある影を発見した。黒いコートを着た、アルゴニアンの剣士。






「あなたは…」
「またおまえか!相変わらず、そんな格好でよく寒いなかをうろつけるな、ええ?」
 アルゴニアンの剣士ドレイクはちびのノルドを見るなり、露骨に嫌そうな顔をして言い放った。どうやら以前、ズボンを奪われたことを根に持っているらしい。
 本来なら血液はそのへんの野盗や山賊の類を殺し、その死体から抜き取る予定だったのだが、ここで知り合いに出会ったのは運が良かったのか、あるいは…
 望みが望みだけに、ちびのノルドはおそるおそる訊ねる。
「あの、じつは頼み事があるんですけど…」
「ああ?もうズボンは貸さねーぞ」
「いえ、そうではなくて。その…少し、血を頂けたらなー、と」
「血だと?そんなもの、おいそれとくれてやるわけにいくか。どういう事情だよ、いったい…」
 ドレイクはすっかり呆れ顔で、当然ながら、拒否反応を示した。
 本当のことを話して良いものだろうか…ちびのノルドはしばし逡巡する。
 このドレイクという男は、少々ガラの悪いところはあるが、かつて共に仕事をした限りでは実直さを取り得としているようだった。一か八かだが、素直に白状するしかない。
「じつは…わたし、吸血鬼と戦って。病気を移されたんです。吸血鬼に、なっちゃったらしいです…」
「吸血鬼?おまえがか?」
「それで、いま、シンデリオンっていう錬金術師のひとに、治療薬を作ってもらってるんですけど…材料に、アルゴニアンの血が必要らしくて、それで」
「シンデリオンだと?なるほど、あいつがな…ヤツの言うことなら、まあ、デタラメじゃあないんだろうさ」
「お知り合いですか?」
「師匠筋のな。それで、血と言ったって、どれだけ必要なんだ?」
「えっと…」
 聞いていなかった。
 シンデリオンは何と言っていただろう?アルゴニアンの血がどれだけ必要かと?
 必死に思い出そうとしたが、なんのことはない、シンデリオンは血の分量については一言も口にしなかった。どうしようもなかった。わかりません、と素直に言うか?
「エート…2Lくらい?」
「死ぬわ」
「じゃあ、あの、インク瓶くらいの量で」
「少なかぁねーが、事情が事情だ。しょうがねえなあ…」
 そうつぶやき、ドレイクが渋々銀製のダガーを抜き、刃を左手の母指球のあたりにあてがう。
 そのまま柄の部分を引き、手に傷をつけようとして…ドレイクは動きを止めた。血が噴き出す瞬間を待ち侘びるかのように、ちびのノルドが食い入るように見つめていたからである。
 素早くダガーを鞘におさめ、ドレイクは首を振った。
「やめた」
「えっ?」
「おまえ、飲むだろ?」
「飲みませんよ!」
「ウソつけ、いま、自分がどんな顔してたか、自分でわかってねーだろ。どうやら相当症状が進んでるみたいだな…ダメだ、ここで血を渡すわけにはいかない」
「そんな!無茶なお願いだってわかってますけど、でも、わたし…!」
「だからよ、フウ…俺がついていってやるよ、シンデリオンのところまで。どうせおまえ、ちゃんと分量も聞いてなかったんだろう?」
 血は渡せない、と言われたショックから、ちびのノルドはドレイクの言葉の意味をしばらく理解できなかった。
 だが彼の好意を理解すると、ちびのノルドはふらふらと膝をつき、その場で泣き出してしまった。ドレイクが彼女の扱いに困ったのは言うまでもない。







 吸血鬼の遺灰と、アルゴニアンの血…の保有者を連れたちびのノルドが研究室に戻ったときには、すでにシンデリオンとミレニアが他の材料をすべて揃えて待っていた。






「おやドレイク、グラアシアの件以来だね」
「またここに来ることになるとは思ってなかったぜ。相変わらず酷い臭いの部屋だな…ところで、エリクサーとやらは完成したのか?」
 どうやらシンデリオンとドレイクが顔見知りなのは本当らしい。顔を合わせるなり、挨拶も抜きに二言、三言雑談を交わす。
 またドレイクとミレニアも見知った仲らしく、それもたんにシンデリオンを通じての知人というより、また別の事情があるらしかった。
「セリデュールは…」
「終わったよ。なにもかも」
「そうですか」
 二人は短い言葉でやり取りしたのち、意味ありげな目配せを交わす。
 いったい、なんだろう?シンデリオンは二人の話を聞いていたはずだが、これといって突っ込みを入れたりはしない。事情を知っているというより、我関せずといった態度を取っているように見える。
 弟子と知人の内密のやり取りに興味を抱かない、なんてことがあるだろうか?
 まあ、自分には関係のないことだ…と、ちびのノルドは考え直す。なによりいまは、薬が無事に完成することを祈るしかない。

 半日ほどかかり、ついに完成した薬をちびのノルドが口にする。
 味があまりにも酷く、思わずちびのノルドは吐き出しかけたが、どうにか我慢して一気に全部飲み干した。異臭と喉越しの悪さも相まって、あとから涙が溢れてくる。
 どうもそれらの特徴はニルンルート由来の滋養成分によるものらしい、吸血鬼化が原因で衰弱した身体の調子を整えるためのものらしいが…






「体内の毒素が中和されるまで、すこし時間がかかる。一日ほど安静にしていたほうがいい」
 シンデリオンの忠告に従い、ちびのノルドは研究室のベッドを借りて目を閉じる。
 肉体的疲労はもちろんあったが、それ以上に心労が祟っていたのか、ベッドの上で横になると同時にちびのノルドはあっという間に意識を失った。それは、信頼できる知人…仲間たち、と言えるほど深い仲ではない…に見守られ、安心したせいもあるかもしれない。







 ほぼ丸一日のあいだ、一度も目を醒まさずに眠り続けていたちびのノルドは、帝都闘技場のグランド・チャンピオン決定戦当日の朝に意識を取り戻した。
 どうやら吸血病の影響はすっかり抜けたらしく、だいぶ衰弱してはいたものの、気分は悪くなかった。






「どうやら薬がちゃんと効いたようだね」
「ありがとうございます、シンデリオン先生!ところで、他の二人は…」
「君が眠ったあと、すぐに出発してしまったよ。皆、いろいろと事情を抱えているからね。もしまた旅先で出会うようなことがあれば、そのときは改めて礼を言っておくといい」
 大変な借りを作ってしまったと思ったが、悪い気はしなかった。
 利用できるものはなんでも利用する、偉大なクソ野郎に対して作る借りは大変な負債になるが、今回のような…口の悪いアルゴニアンの剣士、風変わりなアルトマーの錬金術師弟に対しての借りは、むしろ、そういう形で繋がりを持てたことに感謝すらしていた。
 ちびのノルドにとって、相手の悪意を気にせず付き合える相手というのは本当に珍しかったのだ。
 吸血病治療の対価としてシンデリオンは謝礼を受け取るかわり、ニルンルートの収集を依頼してきた。現在研究中の、エリクサーというポーションを作るために必要らしい。今すぐというわけではなく、旅の途中で見かけたら持ってきて欲しい、という程度のものだった。
 吸血病治療の対価としては破格の良心的提案だ。断る理由はなかった。
 若干ふらつきながら、外に出ようとするちびのノルドをシンデリオンが制す。
「病気が治ったとはいえ、すぐに激しく動き回らないほうがいい。二、三日は休養を取って、栄養をつけたほうがいいだろう」
「あの、そう言ってくれるのは有り難いんですけど…ちょっと、先延ばしにできない用事があるので」
 そこでちびのノルドは、自分がアリーナの闘士であること、グランド・チャンピオンへ挑戦する権利を獲得したことを話し、今日の夕方までには帝都闘技場まで戻らねばならないことを説明した。
 また、吸血鬼に襲われたのはグランド・チャンピオンであるグレイ・プリンスからの依頼を遂行する過程での出来事だったことも話した。
 それを聞いたシンデリオンは驚いた表情を見せ、なぜそれを早く言わなかったのかと問い詰めようとしたが、けっきょく、そうする意味もないことに気づき、それは諦めた。
 そのかわり、言うべきことがあった。
「なあ…君は、嵌められたんじゃないのかい?その、グレイなんとかいうチャンピオンに」
「え?」
「だってそうだろう、これから対戦する相手に重要な頼み事をするってこと自体がまず怪しいし、彼が吸血鬼の存在を知ってて君を死の穴に送り込んだと考えるほうが自然だ。そいつが無敗のチャンピオンでいられたのも、そういう卑劣な手を使ってきたからじゃないのかい」
「違っ、彼はそんな人じゃあ…」
 臆面もなくそう言い放つシンデリオンに、ちびのノルドは反論しようとしたが、すぐに口を閉ざした。
 一見誰にでも愛想が良く、自分の身分を鼻にかけない好漢。
 それが実際は卑怯な手を惜しみなく使う悪党だったなんてパターンは、故郷のスカイリムで、このシロディールで、呆れるほど目にしてきた。
 だからこそ、グレイ・プリンスに会ったことすらないシンデリオンの言葉が、逆に納得できるのだ。相手を油断させる懐柔術、愛想の良さといった「目くらまし」の影響を一切受けていない部外者の言葉だからこそ。
 しかしそれなら、だからこそ、あのグランド・チャンピオンをアリーナの中心で血の海に沈めなければならない。どのみち、ここで逃げるなどという選択肢は有り得ないのだ。







 帝都へ向かう荷馬車の御者に多額のチップを渡し、かなり無茶な高速移動を強いて帝都に到着したちびのノルドは、間もなく日が暮れるというタイミングで闘技場へ戻り、その結果、剣豪オーウィンの激しい叱責を受けることになった。
「おまえ、一週間もどこへ行方をくらましてた!?この大事な試合が中止になったら、アリーナ始まって以来の歴史的汚点になるところだったぞ!」
「すいません、本当にすいません!」
「悪いが休んでる暇はないぞ、もう観客席は満員でおまえたちの登場を待ち望んでるんだ!」
「あの、それはいいんですけど…ちょっとの間だけ、グランド・チャンピオンに挨拶していきたいんですけど」
 そう言って、ちびのノルドはオーウィンが止めるよりも早くその場を離れた。





 すっかりコンセントレーションが整った様子で木椅子に腰かけているアグロナック・グロ=マログに、ちびのノルドはクロウヘイヴンで発見したロヴィディカス卿の日記を押しつける。
「ひょっとして、戻ってこれないのではないかと思っていた。これは父の日記か?」
「そうですけど…どうして、あなたの父が吸血鬼だと教えてくれなかったんです!?」
「なんだって?吸血鬼…ちょっと待ってくれ!」
 激昂した様子で叫ぶちびのノルドに、グレイ・プリンスは虚を衝かれたような表情でおののいた。
 必死で日記のページを読み進めるグレイ・プリンスの態度に、ちびのノルドは疑問を覚えた。ひょっとして彼は本当に何も知らず、単純に自分のルーツを辿る目的で依頼をしてきたのか?
 せいぜい試合前に、彼の依頼のせいでどれだけ酷い目に遭い、多額の散財をする破目になったかを言ってやるつもりだったが、もうそんな気は失せていた。ひょっとすると、グレイ・プリンスは演技の達人で、動揺しているフリをしているだけかもしれないという考えは捨てていなかったが。
「なんということだ、本当に…私の父は、ヴァンパイアだったというのか!?私は灰色の王子などではなく、悪魔の落とし子だったのか!ナインよ、シンジよ!こんなことが、あって良いものなのでしょうか!?」
 互いに動揺を隠せないなかで、オーウィンが二人の出場を急かす。
 釈然としないまま、ちびのノルドは重い足取りでブルーチームの出場エリアへと向かった。










『本日は十年振りのグランド・チャンピオン決定戦、あなたはこの瞬間を一生忘れないでしょう!ブルー・チーム対抗者は短期間で瞬く間にハイ・ランカーへのぼりつめた徒手格闘の達人、鋼鉄の肉体を持つ乙女アリシア・ストーンウェル!対するは無敗の王者、灰色の貴族アグロナック・グロ=マログ!』
 会場はすでに熱しきっており、試合が始まるまえにぶっ倒れる人間が出てくるのではないかというほどの熱狂ぶりだ。ちびのノルドとグレイ・プリンスが登場した瞬間にドッと歓声が沸き、まるで騒音の海に包まれたような気分になった。
 確執を残したまま戦いに挑むのは気が進まなかったが、予定をずらすことはできなかった。そんなことをすれば暴動が起きるだろう。
『いまここに、今紀最大の戦いがはじまります!刮目せよ、それでは…試合開始ッ!!』
 大音量のアナウンサーの声とともにゲートが開き、ちびのノルドとグレイ・プリンスは同時に駆け出す。
 接近と同時にグレイ・プリンスが剣を振りかぶるが、先刻のショックが大きいためが動きがのろく、まるで隙だらけだった。ちびのノルドはそれを難なくかわし、懐へ入り込むと同時に肘鉄を相手の脇腹へ食い込ませようとする。
 命中すればアバラの骨折は確実、内蔵へダメージを与えることができればその時点で勝利は確定したも同然だ。
 攻撃を繰り出す間際、ちびのノルドとグレイ・プリンスの目が合う。
「…… …… …ッ!!」
 彼の纏う異様な雰囲気を察したちびのノルドは身を捻って反転し、勢いを殺さぬまま横転して大きく距離を離した。
 一見すると、門外漢には理解できない高度な攻防があったかのような光景だったが、これはそんなものではなかった。
 あいつ、攻撃を受けるのがわかっていて、防ごうとも避けようともしなかった……!?
「どういうつもりです」
 一定の間合いを保ちながら問いかけるちびのノルドに、グレイ・プリンスがこたえる。
「わかっているだろう、汚らわしい吸血鬼の血を引く私はこれ以上生きていけない。生きていては、いけないんだ!だから、頼む…私を殺してくれ。君にも随分、迷惑をかけた。これはその罪滅ぼしだ、さあ!」
 死を受け入れた表情で、グレイ・プリンスは自らの盾を剣でガンガン叩きつける。おそらく観客からは、自らを鼓舞しちびのノルドを挑発する動きにしか見えていないだろう。
 この期に及んで彼がブラフをかけているとは思えなかった。本気で殺されたがっているのだ。
 ちびのノルドはふたたび駆け出し、グレイ・プリンスの膝を蹴って体勢を崩させると、隙だらけになった顔面に向かって跳躍し…






 平手で叩いた。
 パアン、という乾いた音が会場全体に広がり、攻撃がクリーンヒットしたことで一瞬会場は沸くものの、必殺の一撃を打てたはずの状況で平手を使ったことに早くも観客たちは疑問を抱きはじめていた。
 もちろん、それはグレイ・プリンスとて同じことだった。
「なぜだ、君ならいまのタイミングで殺せたはず!これ以上、私に生き恥を晒させるつもりか!?」
「…ふざけないでくださいよ」
「なに?」
「こんなくそっくだらない茶番であなたの自殺を手伝って、そんなの、けっきょく、あなたの一人勝ちじゃないですか。それで名誉もなにもあったもんじゃないグランド・チャンピオンなんていう称号をもらって、わたしが喜ぶと本気で思ってんですか」
「私にはもう戦えない。戦う理由がない。生きる理由がない…たのむ、これ以上私を苦しませないでくれ。ひと思いに殺してくれ」
「わがままばっかり言ってんじゃねぇよ、負け犬!薄汚いバケモノの血のせいで脳味噌まで腐っちまったのか、えぇ!?てめぇがブザマな死にざまを晒す最期の最期くらい、ちょっとは根性見せてみろよ、このクズ野郎!!」
「なんだと!?」
 あまりに口汚く罵られたせいで、先刻まで覇気を失っていたグレイ・プリンスが激昂しかける。
 だが、ちびのノルドが嗚咽を漏らしているのに気づいたとき…考えを改めた。
 あんなこと、言いたくはないのだ。戦士としての名誉と誇りを守るため、互いに全力を尽くして戦うことを望み…心を鬼にして、あのような暴言を吐いたのだ。それでも心が耐えきれず、涙を流しているのだ。
 膝をついていたグレイ・プリンスはゆっくりと立ち上がり、武器を持ち直す。
 そしてちびのノルドをまっすぐ見つめ、口を開く。その表情に迷いはなかった。
「失礼した。我が名はアグロナック・グロ=マログ、またの名をグレイ・プリンス…アリーナのグランド・チャンピオンとして、全力でお相手する」

 ちびのノルドは微笑み、兜の下の涙を拭えぬまま、拳をかまえる。










 この戦いは、のちにアリーナの伝説として語り継がれることになる。










「ワオ、グランド・チャンピオンだ!以前からずっとファンだったんですよ、さっきのグレイ・プリンスとの闘いも見てました!もしよかったら、僕を従者に連れ…」







ゴガツ!!







 グレイ・プリンスに勝利したちびのノルドは、グランド・チャンピオン戦の伝統を破り、敗者の装具を奪うことなくアリーナから立ち去った。
 そのことに対し剣豪オーウィンと闘士長イサベルは最大級の叱責を与えるべく彼女の姿を探したが、すでにちびのノルドの姿は闘技場にはなく、未だ興奮冷めやらぬ歓声に満ちたアリーナで、二人はただ呆然と立ち尽くしたという。
 グランド・チャンピオン不在となった帝都闘技場はその後長きにわたって暗黒の時代が続くが、それはまた別の話として後世に語り継がれることになるだろう。

 夜になって、闘技場の前で気を失っている少年の姿が衛兵によって発見された。目撃者の証言によると、試合直後に新生グランド・チャンピオンが闘技場を出たところ、猛スピードで駆け寄った少年が一方的に殴り倒されたという。
 おそらく少年が新生グランド・チャンピオンに対して不愉快な態度を取ったか、あるいは、たまたまグランド・チャンピオンの機嫌が悪かったせいかは定かではないが、いずれにせよ看過できない暴力行為であることに変わりはなく、そういった点も含め、帝都闘技場は新生グランド・チャンピオンの不敬な態度を厳しく追求すると発表した。
 しかし彼女がアリーナへ姿を見せることは二度となかった。
















2016/11/20 (Sun)03:03








『ガイデン・シンジの名に賭けて、たったいまブルーチームに新たなるチャンピオンが誕生しました!皆様、惜しみない拍手をお願いします!』
 帝都闘技場、円形のコロシアムの中心で、闘士専用の軽装鎧を身に着けたちびのノルドが血にまみれた拳を高々と天に捧げる。彼女の周囲には、闘技場のなかでも最高ランクの闘士たち三人が血の海に沈んでいた。

 レーヤウィンを発ったちびのノルドは帝都へ戻ったあと、興味本位から闘技場の闘士に参加し、瞬く間に上位ランカーへと登りつめていた。
 そして、今回の試合…対抗馬であるイエロー・チームに参加していたのは現チャンピオン、そして彼と互角の力量を持つ戦士二人。剣士、射手、魔術師という隙のない三人組を相手にちびのノルドはたった一人、それも徒手空拳で挑み、これを打ち破ったのだった。

「素晴らしい!素晴らしい試合だったぞチャンピオン!最初に見かけたときは、どんな無謀な役立たずかと思っていたが…いやはや、人間っていうのは見かけによらんな!」
 試合を終え、闘士の控え室である流血路へ向かったちびのノルドは、闘士たちを束ねる剣豪オーウィンの激励に迎えられた。
 いまでこそ多少は愛想が良いものの、ちびのノルドが無名の闘士だった頃は、それこそ罵詈雑言の嵐を浴びせかけてくる恐ろしいオヤジだった。とはいえ、そうした扱いは戦士ギルドで慣れていたので、ちびのノルドにとっては「脳筋はみんな思考が変わらねーな」という感想しか出なかったのだが。
 なによりちびのノルドにとって、難しいことを考えずにただ研鑽を積み、正々堂々と全力で対戦相手とぶつかり合える闘技場の闘士という仕事はかなり性に合っていた。
 賞金の500Gを受け取ったちびのノルドに、オーウィンが立て続けに言葉を捲くしたてる。
「この次はグランド・チャンピオン、あのグレイ・プリンスとの対決だぞ!試合の準備には一週間か、十日ほどかかる…なんといっても、ヤツへの挑戦者が現れるのはほぼ十年ぶりのことだからな!記念に残るイベントになるだろうよ」
「あのー、それはいいんですけど…この鎧じゃ動きにくいんで、自分の装備を使いたいんですけど、駄目ですか?」
「まだそんなことを言ってるのか?いいか、その鎧はアリーナの闘士のためにデザインされた、ガイデン・シンジがこの闘技場を創設したときから存在する伝統的な装束なんだぞ?それを、おまえのためにルールを曲げるわけにはいかんのだ。…と、言いたいところだがな」
「?」
「じつはグランド・チャンピオン戦には特別ルールが適用される。参加者の装備に関しては、いかなる私物をも持ち込みが可能になるんだ。というのもな…グランド・チャンピオンの鎧には特別なエンチャントが施されているんだ。そういうルールにでもしないと、釣り合いが取れないんだよ」
「えぇー…いや、あの、まあ、なんにせよ、全力で戦えるってわけですよね、お互いに」
 若干顔を引きつらせながらも、ちびのノルドはどうにか前向きに考えようと努力した。
 自分の身体にフィットする、使い慣れた装備を着用できるのは朗報だが、彼女の装備にはエンチャントといった類の強化は何一つ施されていない。まったく、ただの革と鋼の耐久力しかない代物である。
 それで、自分があのグレイ・プリンスに勝てるのか…






「まさかお嬢さんがチャンピオンになるとは!」
「アハハ、じつはまだ手が痺れてるんですよ」
 オークには珍しい青白い肌を鎧の隙間から覗かせ、修練に励んでいたグランド・チャンピオンのアグロナック・グロ=マログ、通称グレイ・プリンスがちびのノルドに笑顔を向ける。
「一週間後にはどちらがが強いか決着がつくわけですね!互いに闘士として、名誉ある死を臨みましょう!」
「どっちが死んでも恨みっこなしですよ?」
 彼は我が強く攻撃的な者が多い闘士のなかにあって、圧倒的な力を持ちつつも穏やかな人柄であることから、周囲の敬意を一身に集めていた。そんなグレイ・プリンスには、人見知りの激しいちびのノルドもすぐに打ち解けることができたのだ。
 戦士同士の戦いは命を継ぐ/繋ぐ行為であり、忌避すべきものでも、また罪の意識を感じるべきものでもない。
 相手が親友だろうと、いや、親しい仲だからこそ、相手を打ち破り命を奪うことはお互いにとって最大級の栄誉なのだ。
「しかし、あと一週間でどちらかがこの世から姿を消すことになるとは…」
 物憂い表情でそうつぶやくグレイ・プリンスに、ちびのノルドが問いかける。
「なにか心残りでもあるんですか?」
「ええ。以前から言っているように、私はさる高貴なる血族の生まれです。しかし、それを信じていない者が多いのも知っています。いまの私には、自らの出生を証明するものがありませんから」
「たしか、ずっと帝都で暮らしてたんですよね?」
「そう、母とともにね。しかし、出生は別の場所です…私の母はかつて、クロウヘイヴン砦に住む貴族ロヴィディカス卿に雇われていた使用人だったのです。そして貴族と使用人という、禁断の恋に落ち…誕生したのが私というわけです。ロマンティックな話ではありますが、現実はそう甘くはありません。事実の露見を恐れた母は私を連れて砦から逃げ出し、帝都に落ち着いたのです」
「つまり、追い出されたってことですか?」
「わかりません。母は詳しい話をしたがらなかった…世間体を恐れたロヴィディカス卿が母を捨てたのか、それともロヴィディカス夫人や他の使用人が事実を嗅ぎつけて母を外界へ追いやったのか、それとも母が自発的に出奔したのか…その母は他界する直前に、クロウヘイヴン砦へ向かうための地図と、一つの鍵を私に託しました。もし真実を知りたいなら、それが必要になると…」
 グレイ・プリンスは自身の私物棚から地図と鍵を取り出すと、それをちびのノルドに見せた。
「生憎と、帝都闘技場のグランド・チャンピオンという立場にいる私はそこまで遠出ができません。クロウヘイヴン砦はシロディール西部、黄金海岸沿いにあるのです。もし可能であるなら、あなたにそこへ行っていただき、私が本当に貴族の血を引いていたという何かしらの証拠を持ち帰ってほしいのです」
「急に言われても…一週間後には試合が控えているんですよ?それに、そういう事情があるならもっと早く言ってくれても良かったじゃないですか、なにもこんなタイミングで…」
「あなたが信頼に足る人物か、相応の力を持つ者がどうかを見極めるには、このタイミングまで待つしかありませんでした。もし試合で死ぬのが私なら、その前に真実を知りたい。もし試合で死ぬのがあなたなら、もう、私にはこのような重大事を頼める知人はいないのです。今しかないのです」
 そこまで言うと、グレイ・プリンスは地図と鍵をちびのノルドに託し、さらに金貨が詰まった皮袋を押しつける。皮袋はずっしり重かった。
「旅費と、報酬を先に支払っておきます。2000枚あります。あなたなら、大金を渡されても持ち逃げはしますまい」
「こ、こんなに…!?」
「グランド・チャンピオンなぞになってしまうと、どれだけ稼いでも使う暇がありません。遠慮せず受け取ってください」
 断ることもできたはずだが、ちびのノルドはグレイ・プリンスの頼みを承知してしまった。
 あまりに断りづらい雰囲気だったのもあるし、金貨2000枚の重さに大変な説得力があったのもあるが、なにより、彼女にはグレイ・プリンスのために何かをしてやりたいという気持ちが強かった。
 名誉を賭けて戦う相手に、心残りがあるまま死んでほしくなかったのである。










「とっ、遠い~!」
 シロディール西部、クヴァッチ領内。
 すっかり日が傾きかけたころ、ちびのノルドは丘の上で膝に手をつき、荒い呼吸を必死に沈めようとしていた。
 帝都闘技場を出発したちびのノルドはクロウヘイヴン砦へ向かうため、帝都からプリナ・クロスまでは馬車で移動したのだが、そこからは歩くしかなかった。おまけに、ずっと荷台で揺られていたせいで若干気分が悪く、山岳部の移動が想像以上にこたえている。
 なんといっても、今回の依頼には厳格な時間制限がある。
 一週間後までに帝都闘技場へ戻れなければ、ちびのノルドはグランド・チャンピオンへの挑戦権を破棄したと見做され、その不名誉な行為によって二度とアリーナへ出場することができなくなるだろう。
 なんで、こんな面倒な頼みを聞いてしまったのだか…
 ちびのノルドは自分自身の軽率さを罵りながら、砦の周辺をうろついていたスケルトン・アンデッドともを蹴散らし、クロウヘイヴン内部へ侵入した。






「だいぶん、荒れてますね…」
 砦内部に巣食っていた巨大ネズミや狼をしばき倒し、ちびのノルドは松明に明かりを灯す。
 グレイ・プリンスの母は最近まで生きていた…ということは、父のロヴィディカス卿も同様に存命だったはずだが、この砦の荒れようは一朝一夕のものではない。まるで何十年も手入れがされていないようで、まったくの廃墟と化していた。
 いったい、グレイ・プリンスとその母が砦を出てから、何があったのか…

 砦の探索を続け、ロヴィディカス卿の私室へ続くものと思しき扉を発見したちびのノルドは、厳重にかけられていた施錠にグレイ・プリンスから受け取った鍵を使う。
 音を立てないよう、ゆっくりと扉を開き、ちびのノルドはあたりを見回した。
 部屋の中には本棚や机などの家具が配置してあり、おそらくはロヴィディカス卿の書斎だったのだろうと予測できる。机の上に日記を発見したちびのノルドは、無意識的に手を伸ばし、ページをめくっていた。

 その内容は驚くべきものだった。
 ロヴィディカス卿はグレイ・プリンスの母グロ=マログとの禁断の恋を自覚していたが、なんと彼は吸血鬼であり、自身の正体を打ち明けるべきかどうか思い悩んでいた。
 グロ=マログが妊娠したのを期にロヴィディカス卿は真実を伝えるが、グロ=マログはショックのあまり塞ぎこんでしまい、そしてグレイ・プリンスが産まれた直後、グロ=マログはロヴィディカス卿をこの部屋に閉じ込めて鍵をかけ、砦から脱出した…

 日記には使用人への慕情、純粋な愛情の表現、そして愛する者に裏切られた怨嗟の言葉が書き連ねられていた。
 身分違いの恋は許せても、乙女グロ=マログは吸血鬼との恋は許せなかったらしい。
 そこまで考え、ちびのノルドはあることに気がつく。
 …吸血鬼?この部屋に閉じ込めた?






「これって…」
 そのとき、ちびのノルドは「施錠された部屋」という本の内容を思い出していた。吸血鬼の眠る部屋に閉じ込められる際の描写が際立っていて、思わず背筋が凍りつく物語だった。
 物語に登場したのは数ヶ月もの間ずっと閉じ込められていた老人の吸血鬼で、日暮れとともに目覚め、錠前師をその牙にかけたのだった。
『皮だけになるまで血を吸われるぞ…』
 グロ=マログがこの砦を出てから何年経つ?何十年?もしそれほどの間、一滴も血を吸っていない吸血鬼が生きていたとすれば、新鮮な獲物を前に、どれだけ凶暴になるというのか?
 もし、生きていたのなら。

『グアガアアァァアアアアアアッッ!!』
「痛っ!?」
 ちびのノルドの肩に鋭い痛みが走り、彼女の背に吸血鬼…ロヴィディカス卿が覆いかぶさるようにして牙を突き立てていた。






「くぉのおおぉぉぉぉっ!!」
 ドガッ!!
 ちびのノルドは渾身の裏拳でロヴィディカス卿を殴り飛ばし、壁に激突した彼の顎を両手で掴むと、首を捻りきった。首が180度回転したロヴィディカス卿は絶命し、ぐったりと横たわる。
 荒い息を吐きながら、ちびのノルドは肩に刺さったまま折れていた吸血鬼の牙を抜き、震える手でそれを目の前まで持ち上げる。
 …噛まれた!?
 いったい、それが何を意味するのか。自分も吸血鬼になってしまうのか!?
 シロディールにおける吸血鬼伝説は情報が錯綜しており、その正確な像を掴んでいる者はそう多くない。そしてただの戦士であるちびのノルドに、シロディールの吸血鬼の正しい情報など知り得るはずもなかった。
 とりあえず、脱出しなくては…
 ロヴィディカス卿の日記を掴み、ちびのノルドは震える足を意思の力で無理矢理に動かし、どうにか外へ脱出した。すでに空は闇に染まっており、木々が星明りで照らされていた。
 その日は満月だった。







 ショック症状が収まらず、ちびのノルドは混乱したまま足を動かす。すでに自分が正しい方向へ進んでいるのかすらわからなくなっていた。
 人目を避けて山中を歩き続けるうちに一日、二日と経ったが、動揺は続いており、徐々に体調を崩しはじめていた。やがて湖畔へ辿りついたちびのノルドは水を飲むために水面に口をつけ、そして水面に写った自分の姿を見て愕然とする。






「そんな…これが、わたし……?」
 痩せこけた頬、黒ずみはじめた肌。落ち窪んだ眼窩には、明らかに人のものではないとわかる瞳が光を放ち、ぎょろついている。
 怯え、疲れきった吸血鬼が、水面から自分を見返していた。
 ちびのノルドは半狂乱になって叫びかけたが、叫べなかった。こんな姿を他人に見られるわけにはいかなかった。そう思って自分を制御するだけの精神力があったことに、ちびのノルドは自分自身で驚いていた。
 まだ肉体の変化はそれほど劇的なものではなく、おそらく顔さえ隠していれば正体を勘づかれる恐れはないだろう。
 だが太陽光が肌を焼き、日中はまともに身動きが取れなくなるであろうことを予測したちびのノルドは勇気を振り絞って立ち上がり、涙を拭って歩きはじめた。
 こんなとき、親の胸を借りて泣けたらどんなに良いものかと思う。だが、それは不可能だ。両親はここにはいないし、自分はもう大人だし、子供だったとしても、両親は自分がそんな真似をすることを許さなかっただろう。
 ちびのノルドには兄弟がいた。両親が兄弟以外に、ことに自分に、優しい表情を向けたり、甘い言葉を囁いてくれた記憶を思い出すことができない。
 当たり前だ。そんな瞬間はなかったのだから。ただの一度も。







 どうにかスキングラードへ到着したときには、ちびのノルドはかなり衰弱していた。数日間ほとんど食べ物を口にせず、口にしても飲み込めずに吐き出してしまい、また、このところずっと悪夢に悩まされていた。
 そんな酷い有様だったので、ウェストウィルドの宿へ立ち寄ったとき、客のボズマーがこちらを見てあからさまに警戒しだしたときも、すぐにそれと気づくことができなかった。
「チッ、さすがに戦士ギルドに嗅ぎつけられたか…」
 鉄の鎧装備に身を包んだボズマーの戦士の台詞が自分に向けられたものだとは知らず、ちびのノルドは蜂蜜酒の注がれたマグを手にしたまま、がっくりうなだれる。
 自分と同じくらいの背丈の男に肩を揺すられたとき、ようやくちびのノルドは彼が自分に話しかけているのだと気がついた。






「あんた、戦士ギルドのアリシアだろ。レーヤウィンではご活躍だったそうじゃないか」
「え?あのー…あなたは?戦士ギルドの人ですか?」
「マグリールだ。なんだ、てっきり俺が仕事を放置してるんで、ギルドがレーヤウィンの連中に対してやったみたいにあんたを送り込んできたんだと思ってたけどな」
「…わたしの同僚って、なんでこんな連中ばっかりなんだろう」
 悪びれもせず自身の不真面目さを表出させるマグリールに、ちびのノルドは思わず頭を抱えかける。
 がしかし、とちびのノルドは思いなおした。この状況は利用できるかもしれない。
「あの。仕事を放置してるって言いましたよね?」
「なんだよ、なんか文句あるのか?だいたいあんな、危険のわりに報酬に見合わない…」
「あたしが代わりにやってもいいですよ。いますぐは無理ですけど…手柄も、あなたのものにして結構です」
「なんだって?」
「そのかわり、人を紹介して欲しいんです。腕の良い治癒師か、錬金術師でもいいんですけど…」
 それは賭けだった。
 もし吸血鬼から人間に戻れるのなら、その方法を知っている者がいるとすれば、それは魔術師のほかにない。しかしちびのノルドの知人に吸血病を治せるような人間はいなかったし、見ず知らずの相手に自分の正体を明かして協力を迫るわけにもいかない。
 組織や知人の紹介を通せば、少なくとも門前払いを喰らうことはないだろう。そう思っての提案だった。
 マグリールは渋い表情を見せながらも、納得したように頷く。
「まあなんだ、あんたにも色々と事情はあるんだろうし、俺の仕事を代わりにこなしてくれるんなら、その程度のことはしてやってもいいか」
「本当ですか!?」
「この宿屋の地下にな、シンデリオンっていう錬金術師がいる。腕は良いが、なにせ変わり者でね。俺はヤツのために何度か錬金術の材料を調達してやったことがあるから、俺の名前を出せば多少の融通は利かせてくれるだろう」
「あ、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」
 ちびのノルドは感謝のあまり、額を床にこすりつけんばかりの勢いで頭を下げる。
 尋常ではない熱心な礼にマグリールは多少訝りながら、最後に一言つけ足した。
「ああそれと、シンデリオンの部屋に入るなら、すぐに扉を閉めろよ」
「?えーと、あ、はい」
 わけがわからず、ちびのノルドは扉の取っ手を掴み、部屋に入ると同時にすぐさま扉を閉める。

「くさっ!」
 室内は錬金術の実験で生じたと思われる奇妙な異臭で満たされていた。
 なるほど、このことか…
 まるでニルンルートを大量に煮詰めたような激臭に眉をしかめつつ、ちびのノルドは階段を下りていく。
 やがて長身のアルトマーの姿を見つけたちびのノルドは、丁寧な物腰で話しかけた。
「あの~…シンデリオンさんですか?」
「うん、なにかね?こんな場所に一見の客とは珍しい」
「あのっ、じつはわたし、マグリールさんの紹介で来たんですけど。腕の良い錬金術師だと聞いて」
「ほう、マグリール…ということはレディ、あなたは戦士ギルドのかたですか?」
「そうです。といっても、今日ここへ来たのはギルドとは関係がないんですが…じつはわたし、ちょっとした病気、に、かかってしまって…薬を作ってほしいんです」
「なるほど?」






「できるだけ、急がなきゃならなくて…でも、ひとに相談しにくいことで…っ!お願いします、お金なら幾らでも出します!もうあなたしか頼れる人が…お願いします……!!」
 そう言って、ドサッ、大量の金貨を惜しげもなくテーブルに広げるちびのノルドを見て、シンデリオンは仰天してしまった。
 まして目前の少女は肩を震わせ、泣き出している。
「あの、きみ、いいかね。落ち着きなさい、いきなりこんな…」
「も、もおっ、わたし、どうしたらいいか、こんな…っ!う、うう、うぁぁああああああっっっ!!」
「落ち着いて」
 ずっと抑えつけていた我慢が限界を超えたのだろう、頭を抱えて泣き叫びはじめたちびのノルドに、シンデリオンは掌をかざし青白い光を迸らせる。
 沈静の魔法だ。
「落ち着いて。ゆっくり…深呼吸だ。そうだ、なにも恐がることはない。わかるね?」
「うっ…ううっ、は、はい……」
「よし。それじゃあ、事情を説明してくれるね?」
 ちびのノルドは廃墟と化した砦で吸血鬼に襲われ、それ以後体調が激変したことを告白した。
 もっとも自分がアリーナの闘士であることや、グレイ・プリンスの依頼があったことは言わなかったが、それは秘密主義云々より、いまそれを話しても意味がないと判断したためである。
 やがてちびのノルドは兜を脱ぎ、変わり果てた素顔をシンデリオンの前に晒す。
 ロヴィディカス卿とグロ=マログ嬢の関係を思い出し、自分が吸血鬼だとわかったらシンデリオンは自分を部屋に閉じ込めて逃げるのではないかと思ったが、彼は幾らか驚いた表情を見せはしたものの、冷静に彼女の顔を観察し、症状を告げた。
「吸血鬼に襲われたと言ったね?フム…これはポルフィリン血友病の進行状態、吸血病の典型的な症状だね。可哀想に…ここまで酷く進んだということは、吸血病を患ってからも血を飲んでいないね?その精神力には敬服するよ」
「吸血病、ですか…?」
「シロディールの吸血鬼というのは、絵本や何かに出てくるような伝説のモンスターではない。言ってしまえば、たんなる病人だ。危険な病気ではあるが。しかも君の場合、強力な吸血鬼に襲われたせいか、あるいは病気と相性が良い体質なのかはわからないが、常人よりかなり進行が早い。これはぐずぐずしていられないな。おーい、ミレニア!」
 シンデリオンが名前を呼ぶと、部屋の片隅からエルフの少女が飛び出してきた。






 少女は片手に玉杓子を持ったまま、朗らかに声をあげる。
「なんですかシンデリオン先生、もうすぐ晩メシができるッスよ?」
「キミねぇ…さっきの様子を見てなにも思わなかったのかい?」
「先生のお客さんって、変わった人が多いですから」
 まるで場違いに見える明るい少女、シンデリオンを先生と呼んでいるあたり、師弟関係か何かだろうか?
「あのねえミレニアいいかい、この女性が吸血病に罹ってしまったので、すぐにでも治療薬を用意する必要がある。至急、手配を頼む」
「吸血病?そいつは大変だ!アイアイサー!」
 ミレニアと呼ばれた少女は玉杓子を放り出すと、そのまま部屋の外へ駆け出していった。
 さっき晩飯の用意ができると行っていたが、作りかけの料理はどうするつもりなのだろうか?
 呆然と部屋の扉のほうを見つめるちびのノルドに、シンデリオンがやれやれと首を振ってみせる。
「ミレニアは私の弟子だよ。そそっかしくて、やかましい、手のかかる弟子だが、錬金術の腕はそれほど悪くはない。さて、治療薬を作るにあたって、君にもやってもらいたいことがある」
「わたしにも?」
「本来なら安静にしていたほうがいいのだが、急を要するため、止む無くだ。さもないと手遅れになる…吸血病の治療薬にはニンニク、ベラドンナ、ブラッドグラス、そして空の極大魂石が必要になる。それらは私とミレニアが魔術師ギルドや錬金術店をあたって揃えておこう。だが、他に…強力な吸血鬼の灰、アルゴニアンの血は、このあたりでは手に入らない。その二つは君自身の手で揃えてほしい」
「強力な吸血鬼の灰、アルゴニアンの血…」
「できれば今晩のうちにだ。どんな手段を使うかは君次第だ、これは君の問題なのだからね。それに…吸血病を患っているのなら、夜の間はいままで以上に機敏に動けるはずだ、本来なら。そう認識できるのなら、可能なはずだ」
「…わかりました」
 ちびのノルドはゆっくりと兜をかぶり、おぼつかない足取りで部屋を出る。
 なんとしても薬の材料を入手し、人間に戻らなければ。戻りたい…!
 扉を開けっ放しにしたせいで部屋の悪臭が宿に漏れ、苦情を言われながらも、ちびのノルドはいまいちど気力を振り絞ってスキングラードを出た。

















2016/11/18 (Fri)03:22





 帝都魔術大学の依頼でスキングラード領主ジェイナス・ハシルドア伯爵と接触したリアは、スキングラード城内で活動していた死霊術師たちを始末し、シロディール各地で死霊術師の活動が活発化していることを知らされる。

 帝都へ帰還する途中でコロールの街に立ち寄ったリアは、カジートの女将が経営するオーク・アンド・クロージャー亭で休憩を取ることにした。疲れを知らぬ鋼鉄の身体とはいえ、駆動機関に負担をかけ続けるのは良いことではない。金属も磨耗はする。
 料金の支払いを済ませ、女将のタラスマから鍵を受け取ったリアが二階の部屋へ向かおうとしたとき、奇妙な髪型の男が彼女へ話しかけてきた。






「そこの娘さん。じつは貴女に、折り入ってお話ししたいことがあるのですが、御手隙ですかな?」
「うむ?なんであるかな?」
 貴族らしい身なりの初老のダンマーは、シロメのタンカードに注がれたワインをちびちびと口つけつつ、興味深いといった様子でリアを見る。
 どうやらこの男は、こちらの素性を知ったうえで声をかけてきたらしい…とリアは察する。たんに、見知らぬ少女に適当に挨拶をしたわけではなく。
 とはいえ自分はこの世界であまり大したことはしておらず、特定の役職についているわけではない。過去に関わったいずれかの事件が人目を引いた可能性はあるが、それが何であるかは見当がつかなかった。
 とはいえ、その疑問はすぐに目の前の男…ファシス・ウレスが晴らしてくれたのだが。
「じつは貴女が最近関わった、ジェメイン家の一族について相談したいことがあるのですよ」
「ほう?」
 ジェメイン…レイナルドとギルバートの兄弟だ。最近、彼らの生家であるウェザーレアを荒らしていたオーガたちをリアが退治し、兄弟が故郷を取り戻すのを手伝ったのだった。
 ジェメイン兄弟はオーディル農園の親父に話を聞いてリアの実力を見込んだと言っていたが、もしウェザーレアでの一件が周知のことであるなら、このファシス・ウレスという男はリアに傭兵まがいの荒事を頼む気かもしれない。
 いや、待て、とリアは思った。さっきのファシス・ウレスの台詞をメモリ・バンクからリピート再生し、「ジェメイン家の一族について」という言葉を確認した。
「おぬし、あの兄弟に何ぞ用かの?」
「誤解のないよう最初に言っておきますが、私があの兄弟に対して直接何かをする、それを望んでいる、ということはありません。話したいのは、彼らの父親のことについてです」
「父親?ギルバートを連れてウェザーレアから逃げ延びたと聞いたな…すでに亡くなっているそうだが」
「ええ、それは『我々』も把握しています。重要なのは、生前の彼が何者だったか、なぜウェザーレアのような危険な土地に家を建てたのか、です」
 我々?
 その言葉にリアは内心で眉をしかめる。これは組織ぐるみの動きなのか?ということは、目の前にいる男はたんなる連絡員に過ぎないということか…
 なにより気になるのは、そういう動きができる組織が、いったいどういう理由であの無害な兄弟に関わろうとしているのか?という点だった。
 ファシス・ウレスが言葉を続ける。
「兄弟の父アルバート・ジェメインは、ある道のプロフェッショナルとして我々の組織に雇われていました。そして我々から依頼を受け、『ある場所』から『ある物』を盗んだのです。しかし彼は掟を破り、それを我々に渡すことなく、自分の物にしてしまった。ウェザーレアに住居を構えたのは、我々と、コロールの監視の目から逃れるためだった」
 そこまで言って、ファシス・ウレスは一度言葉を切り、リアを見つめた。
 リアもファシス・ウレスをじっと見つめていた。そこに感情はなかったが、右手はいつでも武器を抜けるようにしていた。
 荒廃したウェザーレア、離れ離れになった家族のことを思い、リアはぽつりとつぶやく。
「…主等か?」
「違いますとも。あれはレッドガード峡谷に住むオーガどもの仕業です。実際にウェザーレアが壊滅し、レイナルドと彼の母親がコロールに逃げ延びたのを確認するまで、我々は彼らがウェザーレアに居たことすら知らなかった。アルバートと彼の次男の消息が途絶え、彼らは助からなかったと判断したとき、我々はアルバートと、彼が盗んだものへの興味を失った…彼の死にしても、我々は決して喜んだりはしていない。たとえ、彼が我々を裏切ったとしてもね」
「ところが、死んだと思っていたギルバートが見つかったもので、また興味が沸いてきたというわけじゃな?」
「そうです。我々は一度、ウェザーレアを捜索していますが、アルバートが所持し保管していたであろう物品の数々については痕跡を掴めませんでした。おそらくはウェザーレアを襲ったオーガたちが自分たちの寝ぐらに持ち帰ったのでしょう。そこで貴女には是非とも、レッドガード峡谷へ向かい、アルバートが隠匿していたものを取り戻して欲しいのです」
「兄弟にはなにも知らせず、かえ。アルバートは…兄弟の親父殿は、盗賊だったのか?」
「そう考えていただいて結構です。おそらく兄弟はそのことを知らないでしょう、彼は自分の正体を隠すのが上手かった。自分の家族に対してもね」
 だから、余計なことは考えないほうがいい…ファシス・ウレスはそう締めくくった。
 なるほど、ジェメイン兄弟と関係があることには違いないが、直接の関わりはないわけだ、とリアはひとりごちた。おそらくは断ったところで、兄弟に被害が及ぶことはないだろう。彼らは何も知らないに違いないのだから。ファシス・ウレスも、組織の面子のために兄弟を痛めつけるような無益なことをやりそうには見えなかった。
 だがリアには断る理由もなかった。そもそも目的があってこの世界に来たわけではないのだし、こんな面白そうな事件に首を突っ込まない手はない。










 ウォン、ドガッッッ!!
『ゼロシーッ、またなにか轢きましたよ!?』
 リアの知覚領域内で、自律型思考支援システム「TES4」通称フォースが叫ぶ。
 コロール城壁沿いの人目がつかない場所で二輪駆動形態へ変身したリアは、一目散にレッドガード峡谷へと向かっていた。
 軽合金製の車体に突き飛ばされ、宙を舞うトロールを後部カメラで確認しながら、リアはファシス・ウレスとの会話内容を反芻する。
 そもそも彼と、彼が所属する組織がアルバートに盗ませたものは何か。
 その肝心な部分をファシス・ウレスは教えようとしなかった。彼曰く、「見ればわかる」らしいのだが…

 レッドガード峡谷の洞窟では、青白い肌をした巨体のオーガたちがひしめいていた。
 とはいうものの、ウェザーレアで見かけた連中ほど強い個体ではないらしい。リアは両手にカタールを閃かせ、不敵な笑みを浮かべて立ち向かう。
「ひとまず、あの小坊主らの恨みを晴らしてやるとしようかの!」






 リアが駆け出すと同時に、オーガたちが彼女の存在を認識し咆哮をあげる。
 根っからの好戦的な種族なのだろう、あるいは縄張りに勝手に入られたことを怒っているのかもしれないが、戦う以外の選択肢は頭にないらしい。もっとも、こちらが相手を殺しにかかっている以上、それで問題はないのだが。
 もとより平和的に宝だけ持ち出せると考えていたわけではない。
「フンッ!」
 油圧式の金属骨格から繰り出される豪腕の一振りで、分厚い脂肪に包まれたオーガの腹が容易く切り裂かれる。
 その後も次々とオーガが襲いかかってきたが、急所への精確にして強力無比な一撃はオーガたちを物言わぬ肉塊へと無慈悲に変えていく。






『グォォオオオォォォオオ!!』
「畜生めが、手間を、かけさすでない!」
 洞窟最深部にいた巨体のオーガを始末したとき、周辺に脅威となる生物が存在しなくなったことをフォースが告げた。
『警戒ステータス、オール・グリーン。お疲れ様でした、ゼロシー』
「うむ。どうやらこのいっちゃんデカブツが、連中の頭目だったようじゃの」
 頚椎に深々と突き刺した刃を引き抜き、リアはオーガの巨体から飛び降りる。
 オーガたちの寝床を探し回り、リアは細々とした宝石や、ちゃちな金属細工に混じって、一振りの剣を発見した。






「どうやら、これのようじゃの」
 それはコロール王家の紋章が刻まれた、エングレーヴ入りの黒檀剣。
 なるほど見事な業物だ、装飾が美しいだけではなく、単純に武器として優れている。名剣と呼んで良いだろう。
「しかし、王家の紋章とはな…王族に伝わるものか?」
 なるほど、たしかに、力のある組織が外部の人間を雇って盗ませるほどのものと考えれば納得はいく。それはアルバート・ジェメインが真に優れた腕を持つ盗賊だったことをも証明していた。
 これを、そのままあの胡散臭い男に渡してしまって良いものか?
 そうすれば、一応は丸く収まるのだろうが…







 レッドガード峡谷の洞窟を出たあと、リアが向かったのはファシス・ウレスが待つオーク・アンド・クロージャー亭ではなく、ジェメイン兄弟がいるウェザーレアだった。






「おや姐さん、わざわざ会いに来てくれたんですか?」
「だからその姐さんという呼びかたはやめんかね」
 愛想良く手を振って呼びかけるギルバートを咎めつつ、リアはウェザーレアの様子をぐるり見回して驚いた。
 このあたりに住みついていたオーガたちを退治してから、まださほど時間が経っていない。にも関わらず、見るも無残だった廃墟は見る影もなくなり、きちんと補修された家に、畑までがきちんと手入れをされていた。
「じつは、折り入って話があっての」
「なんです?」
「主等の…父親についてじゃ。せっかくだから、中に入らんか?」
 二人を促し、リアは兄弟が住む家へと入る。
 荒れ放題だった屋内もすっかり綺麗になっており、失敗した日曜大工のような有様から、どこに売り出しても恥ずかしくないようなものになっていた。床に転がっている酒の空瓶が多いことに目を瞑りさえすれば。
 この場所を取り戻してから、二人は血の滲むような努力をして土地を再建したに違いない。努力だけではなく、金もかかったはずだ。こうしてその価値があったと思わせる見た目になったのは、兄弟にとって何よりの慰めだっただろう。
 聞けば、ときおりコロールへ買い物に行く以外は自給自足でやっていけるという話だった。
 リアはすこしためらったあと、レッドガード峡谷の洞窟で発見した剣を二人に見せた。






「立派な剣だね、それをどこで手に入れたんだい?」
 おそらくは自分たちと関係がある品だとは思っていないのだろう、ギルバートはまるで他人事のような感想を漏らす。
 そんな彼に真実を口にするのは心苦しかったが、リアはギルバートの目をまっすぐ見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「これはな、おぬしの父親がコロール王家から盗み出したものだ」
「……えっ?」
 ギルバートの表情には笑みが張りついたままだった。リアの言葉があまりにも唐突で、突飛だったからだろう。冗談を言ったのか、自分が聞き違えたにちがいないという顔だった。
 家に入ってからさっそくワインに手を出したレイナルドの動きも止まっていた。
 やがてギルバートが、納得しかねるという顔で訊ねる。
「すまない、もう一度言ってくれないか。僕たちの父がなんだって…」
「主等の父は盗賊だった。ある組織に雇われて、この剣を盗みだしたのじゃ。ところがおぬしの父はそれを組織には渡さず、自分のものにした。ワシはの、それを取り戻すよう頼まれたのじゃ」
「待て、ちょっと…待ってくれ。なんだって?僕の父さんが盗賊?なにかの間違いでしょう?」
「いや」
「だって、そんな…僕たちの父は平凡な農夫で…」
「おぬしの父を雇っていた、ファシス・ウレンという男が詳しく話してくれた。おぬしの父は、正体を隠すのが上手かったと…ウェザーレアで起きたことも、ワシがおぬしらと関わったあとのことも、すべて知っておった。ヤツは嘘をついてはおらんかったよ」
 相手の表情や声から感情を読み取るエモーション・センサーがそれをはっきり証明していた、とまでは言わなかった。相手が理解できないことを口にしても意味がない。
 真実を知らされたギルバートは打ちのめされた様子でがっくりと肩を落とす。
「なんで…そんなことを僕に教えるんです」
「真実を知る必要があると思ったのじゃ。自分たちの父が何者であったのかを、知りたいと思って…」
「こんなことは望んでいなかった!僕は…僕の尊敬する父は、ただの平凡な農夫で、普通の人間だった!ずっとそう思っていたし、これからもそう思っていたかった、なのに!」
「す、すまぬ…」
 完全に平静さを失い、わめき散らすギルバートに、リアは頭を垂れる。
 そもそも二人に真実を伝えようとしたことに、深い考えはなかった。ただ、身内に関すること、その真実を知る権利があるだろうと、それだけのことである。
 機械であるリアに家族はなく、血の繋がりという概念を知らぬリアにとって、人間が家族に向ける感情など未知の領域だ。ギルバートがこれほどまでに取り乱すことを、彼女は予測していなかった。
 目に涙を浮かべ、なおもリアを責めようとするギルバートを止めたのは、兄のレイナルドだった。
「止めるんだ弟よ、姐さんだって辛いんだ。姐さんはいつだって俺たちのことを心配してくれていた…なのに、姐さんが嫌がらせでこんなことをするはずがないだろう?」
「…そうだ。その通りだ、兄さん。姐さんも、すまなかった」
 普段はどうしようもない酔っ払いの飲兵衛である兄の説得を受け、ギルバートは驚くほど素直に事実を受け入れる。
 しかしショックは癒えないようで、その場に座り込んでうなだれるギルバートのかわりに、レイナルドがリアに訊ねた。
「それで、姐さんはその剣をどうするつもりだい?」
「それはおぬしらが判断すべきことだと思う。そのためにワシはここへ来たのじゃ、この剣をおぬしらに託すためにな。この家に飾るもよし、あるいはファシス・ウレンという男のもとへ持っていけば、それなりの金を払ってくれるじゃろう。すくなくとも、おぬしらの父の責を負わせるような真似はせん、それはワシが保障する。また、本来の持ち主へ返すつもりであれば、ワシに言うといい」
「…すぐには決断できないよ。一晩だけ待ってくれないかな?」
「もちろんじゃ。いまさら急くこともあるまい」
 その日、リアはジェメイン兄弟とともにウェザーレアの家で一晩を過ごした。
 しかし彼女には、レイナルドがすでに決意を固めていたことなど知る由もなかった。また、その決断に重い責任が伴うということにも…







「大変だ姐さん、兄さんがいない!剣も!」
「なんじゃと!?」
 翌朝、リアが機能を復旧させたときにはすでにレイナルドの姿は消えていた。
 暖炉の上に、酔って震えた手で書いたであろう判読が困難な書き置きが残されている。
『剣をコロールに返してくる』
 簡潔な文章ではあったが…それが意味することに、リアは激昂する。
「あんの…バカモノがッ!!」






 おそらくレイナルドは父の罪を清算するため、一人でコロール城へ向かったに違いない。
 犯罪結社の一員たるファシス・ウレスは父の罪を息子たちに背を負わせる気はなかったろうが、コロール政府はそうは考えまい。
 城から、それも伯爵ゆかりの品を盗み出すことは重罪であり、二度とこのような事件が繰り返されないためにも、見せしめとして罪人の身内を処刑するというのはおおいに有り得ることだった。たとえ、レイナルド自身に非はないことをわかっていたとしても。
 そしてレイナルド自身も、そのことは理解しているはずだった。だからリアとギルバートには黙って、一人で剣を返しに行ったのだ。
「あの馬鹿者め、ワシはなにも、こんなことを望んだわけではないぞ…ッ!」
 もし兄弟が剣を持ち主に返すべきだと判断したのなら、そのときはリアが城へ剣を持っていくつもりだったのだ。もし盗品を返しにきたのがまったくの第三者であるなら、コロール政府としても無闇に誰かを罰するというような行動は取れない。
 それも、レイナルドはわかっていたに違いない。そして彼は、自らの命と引き換えに、父が犯した罪にけじめをつけようと考えたのだ。
 ぐずぐずしてはいられなかった。
 ギルバートが制止する間もなく、リアはすぐさまコロールに向かった。







 コロールへと到着したリアは城の外壁にセンサーを走らせ、牢獄の在り処を探り当てる。






「ここじゃな…」
 壁越しにレイナルドが捕えられた牢屋を透視したリアは拳を振り上げ、城壁を粉砕する!
 轟音とともに石造りの壁が倒壊し、城内がざわめきに包まれる。
「いったい何事だ!?」






 衛兵隊が騒ぎたてるなか、独房にレイナルドの姿を発見したリアは鉄格子を無理矢理こじ開けると、重く頑丈な鉄格子を蹴り飛ばして衛兵にぶつけ、ノックダウンさせる。
 当のレイナルドは普段通りのぼんやりした態度でリアに言った。
「あれぇ、姐さん。こんなところでどうしたの?」
「阿呆か貴様は!おぬしのせいで大変なことになったのだろうが、そら、逃げるぞい!」
「いいの~?」
「良いも悪いもない!ワシは、おぬしをむざむざ死なせるためにあんな話をしたのではないわっ!わかったら、しっかりついて来んかい!」






 二人はリアがぶち破った壁の大穴を抜け、一目散にコロールから脱出する。

 一方、宮殿内は大混乱に陥っていた。
 なにごとかと問い詰めるアリアナ・ヴァルガ伯爵夫人に、衛兵が報告する。
「例の囚人が脱獄しました!どうやら外部の協力者の手引きによるものと思われ、いかなる手段を使ってか外壁を破壊され、そこから侵入されました!」
 およそ信じ難いその報告に伯爵夫人が目を丸くする。
 彼女の傍らに控えていた執事のレイス・ウォヴリックが指示を仰いだ。
「これはコロールの信用を揺るがす大事件です。すぐに追跡隊を編成し、ヤツを追いましょう!」
「待ちなさい。待って…その必要はありません」
「なんですと!?」
「おそらく彼らはウェザーレアへ逃げるつもりでしょう。あそこはコロールの管轄外です、いまから追跡隊を組織しても間に合わないでしょう。かつて、この剣が盗まれたときと同じね…でもいま、剣は帰ってきたことだし、それに、あの若者は処刑されるのを承知で、勇気をもって出頭してくれました。そんな若者の命を奪うのは、本来なら誰にとっても本望ではないでしょう?」
「しかし…」
「コロールはジェメイン兄弟を永久追放とし、この件は終わったものと判断します」
 アリアナ・ヴァルガ伯爵夫人は毅然とそう言い放ち、立ち上がると、犯人の追跡に向かった衛兵たちをすべて城へ呼び戻し、他の罪人の逃亡阻止と、城の破損部分の片づけをするよう衛兵隊長に命じる。
 不安そうな表情をするレイスに振り向くと、伯爵夫人は楚々とした笑みを浮かべた。
「城壁の修繕が終わるまでは、風通しが良くなりますね」







 その頃、リアとレイナルドの二人は。






「姐さん、まだ着かないの?」
『うっさいわ!なんもかもおぬしのせいじゃろうが、まったくもう』
 逆向きに座るレイナルドを乗せ、リアは一路ウェザーレアへと向かうのであった。

















2016/11/16 (Wed)00:34






正面からは普通の格好に見えても…




背後からだとキャップちんちん見えてるキャプー!



 どうも、グレアムです。なんとなくシロディールへの郷愁に駆られてOblivionの環境を再構築してしまいました。
 日本語化とENB導入まではスムーズに行ってたんですが、Fran v5や諸々の装備MODを入れたあたりでCTDの嵐。既存のセーブデータが読めない、街から外に出るとCTDするなどはまだしも、新規スタートしても地下水道から出た瞬間に確定CTDするので困ってしまった。
 MODリストをなんども見直し、適用順をあれこれ変更してみても問題は一向に解決されない。そもそもWrye Bashを使えば過去のセーブデータで適用したMODと適用順のリストが参照できるので、現環境との統合性を取るのは難しくないはずなのだが、一見問題がないはずの環境であるにも関わらず状況が一向に改善されない。
 TES4、Fallout3、New Vegas、TES5と触れ続けてきた過程で、一応は各種MODがどのような作用を及ぼすのか大体は理解できるようになっているつもりだったが、まるで原因がわからない。それとも俺は、詳しくなった「つもり」でいただけなのか?
 いまいちどFran v5の各種ファイルを一つづつチェックしていたとき、俺はあることに気がついた。
 …MeshやTexture等のリソースが入ったBSAファイルを丸ごと入れ忘れている!

 そりゃ強制停止するわ。

 原因不明の不具合というのは、たいていこの手のヒューマン・エラー、イージー・ミステイクであることがよくわかる出来事だった。半日ほどの時間を無駄な試行錯誤に費やしたことが、対価として妥当であるかどうかはわからないが。




牢獄脱出後、美しきシロディールの風景




赤い空が目にしみるクヴァッチ



 ちなみにENBプリセットはATEを使用しています。たしか以前はAeroを使っていたと思うんだけど、改めて比較したらAeroはAmbientOcclusionがおそろしく非実用的なレベルで汚すぎた(比較画像はない、いまさら試す気もない。申し訳ない)。それに比べるとATEのAmbientOcclusionはかなり綺麗で、一部オブジェクトが透過するという問題は残っているものの、それもAeroのものよりは大分マシになっている。
 またゲーム中にDepthOfFieldの設定を細かく調整できないか色々試してみたが、現状では打開策が思いつかない。Fallout3以降のようにenbeffectprepass.fxの設定をゲーム中に変更できればいいのだが。直接ファイルを書き替えるという手はあるものの、さすがにそれは面倒すぎる。
 TES4のENBは設定項目が少ないぶん、扱い易い。というか、Skyrimが煩雑すぎる。もっともコンソール・コマンドが貧弱なので、画面写真撮影はかなり苦労することになるが…

 せっかくなので、二次創作の主人公の面々を適当に撮影してみた。




傭兵ちびのノルドことアリシア




異界から召喚されたアンドロイドのリア




異界から召喚された暗殺者ブラック17




ブラックマーシュ出身の剣士ドレイク




異世界人を両親に持つ錬金術師、盗賊のミレニア
いまは亡き(笑)シンデリオンとともに



 そういえばシンデリオンって、Skyrimにおいて前作から続投している唯一のキャラですよね?見つかったときは死体になってますが…Oblivionにおいてはオカート議長やユリエル7世あたりも過去シリーズからの続投でしたが、作品を跨って登場する人物ってTESシリーズではそんなにいないので、そういった意味ではかなり優遇というか、レアなキャラではあります。死んでるけど。












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