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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/04/27 (Sat)18:08
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2019/07/07 (Sun)02:56







Marauder

(aka E8: Man of Prey)


Replay: "Bloody Fairy" _07










*注意*本リプレイでは主人公のキャラクターモデルを変更し、
設定や一部ストーリーを改変しています。











ニコラ:
「軍人の死体だ。少し古い、地雷でやられたわけじゃなさそうだ。NATO軍との銃撃戦で亡くなったのかな…?」

 ギャングの所持していたAKSUを背負い、ニコラは地下保管所のエントランスをざっと見回す。貨物用エレベータが稼働しなかったため階段を使わざるを得ず、重い荷物を抱えたまま自力で地下深くまで下りるのはそれだけで重労働だ。もし動力の復旧が不可能なら、軍人たちも荷物の搬出に大変な苦労を強いられることになるだろう。
 施設は貨車用のレールを通じて保管庫に繋がっていた。トンネルには貨車が荷物を積んだまま放置されている。
 ひとまず地雷の存在を警戒しなければならないが、万一ギャングや他の侵入者が地上の軍人たちに気づかれずやってきた場合に備えて、背中を無用心にしておきたくはなかった。念のため地雷の解除は後回しにして、施設内の捜索を優先しよう。まだNATO軍の残党が残っているかもしれないし、あるいはロシア人の負傷者が取り残されているかもしれない。









 巨大なシャッターの向こう側には、大量の物資がほぼ手付かずのまま残されていた。アメリカ人たちが略奪し尽くしているものと思っていたが…たぶん、彼らはメイド・イン・ロシアの品々に興味がなかったのだろう。
 鍵のかかった金庫にはMR-448ピストルと予備弾倉が保管されていた。プラスチック製のフレームと多弾数マガジンを備え、マカロフの後継として設計された新型だ。将校用だろうか?
 これくらいならこっそり貰ってもいいかな、などと考えた矢先、トンネルの向こう側からニコラに呼びかける声があった。

フォメンコ:
「おい工兵、地雷の処理は終わったのか?」

 数人の部下を引き連れたフォメンコがこちらに近づいてくる。なぜ彼が?いま、ここに?

ニコラ:
「うん。だいたい片づいたよ」

フォメンコ:
「そうか、それは朗報だ。ところでおまえ、まさか誰も見ていないのをいいことに、こっそり倉庫の物資を盗もうなどと考えてはいないよな?それはいけない、それは許されないな。おまえが物を盗めば、そのぶん、他の誰かが得られるはずの利益が失われるわけだからな」

ニコラ:
「たとえば…あなたとか?もしボクに手出しをしたら、マクシミッチは何と言うかな」

フォメンコ:
「おまえは地雷処理に失敗して死んだ、と報告するさ。ヤツにそれを疑う理由があると思うか?どのみち、おまえはもう終わっているんだ」

 どうやらフォメンコは個人的に保管庫の物資を狙って来たらしい、ついでにニコラを始末するつもりのようだ。それはマクシミッチやコーネフ大佐の関知するところではなく、フォメンコの独断だろうということも推察できる。
 どうしてこうも自分は厄介事に巻き込まれるのか、とニコラは嘆息する。とはいえ、こういう事態を想定していたわけではなかったが、対策はすでにできていた。









 トンネルから爆発音が聞こえる。続いて、軍人たちの悲鳴。

フォメンコ:
「じ、地雷…だと……!?始末したはずじゃあ…あ、あっ、貴様!?」

ニコラ:
「どうやら地雷処理に失敗して死ぬのは、ボクじゃなくてあなたのほうになりそうだ。それも、文字通りにね」

 そう、ニコラは発見した地雷を処理せずに保管庫まで来た。不意の侵入者対策だったが、予想外の相手だったとはいえ、功を奏したようだ。

フォメンコ:
「くそっ、あんな…あんな、得体の知れない餓鬼に、いいようにやられるなどと!」

ニコラ:
「エリートの兵隊さんには我慢できないって?自分を恨みなよ…強欲なロシア人め」







 地雷から逃れ、隔壁から飛び出したフォメンコの頭上に弾丸が降り注ぐ。倉庫への出入り口は一つだ…もしフォメンコが冷静であったなら、ウサギの巣穴に仕掛けられた罠に自ら飛び込むような真似はしなかっただろう。







 フォメンコの部隊の全滅を確認したニコラは、憤懣やるかたなしといった表情でため息をつき、改めて周囲を見回した。

ニコラ:
「…なんか、だんだん腹が立ってきた」

 自分はなにも争いを望んでいたわけではない、だのに、どうして誰も彼もが自分から殺されに来るんだ!?
 それでも相手が民間人であれば…明日食うにも困るがゆえ、仕方なしに凶行に走ったというのであれば、まだしも後悔の余地はあった。だが、今回の相手は軍人だ。生殺与奪に関して心得のある、自分が何をしているのかをきちんとわきまえた連中だ。そういう輩が、明日を生きるためでなく、ただ私欲のために襲いかかってきた。十人近くで徒党を組んで、一人の女を殺すために。
 地雷処理を任されただけでも面倒なのに、こんなことにまで頭を突っ込みたくはなかった。そして、ある点に疑問を抱く…もしマクシミッチがフォメンコとグルなら、自分が生きてこの場所から出られる望みはないのではないか、と。


 *Intel*
 Fomenkoの部隊はAkhmetの現在地から一定距離はなれた場所からスポーンする。スポーン地点が固定ではないため、出現と同時に至近距離から狙い撃ちする、といったことは不可能だが、あらかじめ出現位置を予測して地雷を仕掛けておくことで一網打尽にすることができる。直前のカットシーン後に倉庫の中心部分から移動しなかった場合、Fomenkoの部隊はトンネルの真ん中からやや先、水筒が二個入った木箱のあたりからスポーンする。
 クレイモアは感知範囲が狭いものの、作動時の威力と効果範囲は折り紙つきだ。どうやら本作のAIは発見した地雷を避けて行動するようなので、うまく仕掛けたい。












 地雷処理を終えて地上へ戻ったニコラは、マクシミッチに地下で起きたことをありのまま話した。てっきり抹殺されるものとばかり思っていたが、どうやらマクシミッチはフォメンコの「悪癖」をそれとなく察していたらしく、地下での戦闘について特に咎め立てることはしなかった。
 ペンタゴンへ帰還したニコラはコーネフ大佐にも釈明をする必要があったが、彼もニコラを強く追及することはなかった。むしろフォメンコの抜けた穴を埋めるためにニコラをスカウトしたほどだったが、ニコラはこれを丁寧に辞退した。
 報酬として幾らかの物資を受け取り、ニコラはアパートへ戻る。







同居人:
「ああ、神様!これは奇跡に違いないわ、あなたが戻ってくるなんて!」

ニコラ:
「ボクも無事に戻ってこれるとは思わなかったよ」

同居人:
「なんですって!?嘘つき!出て行くとき、なにも危険はないって言ってたくせに!」

ニコラ:
「…しまった。つい本音が」

 ヒステリックな声をあげる同居人に、ニコラは思わず顔を背ける。普段はうんざりするようながみがみ声だが、今はそれを聞いて安堵していた。それは彼女が無事であることの証明であり、そして、世界がこんな有り様になる前の生活に戻れたような気分になれたからかもしれない。もちろん、後者はただの錯覚以外の何物でもなかったが。
 部屋には同居人だけでなく、隣人のヴィテクもいた。彼が銃を持っていて、部屋が荒らされていないということは、先日のような暴徒から同居人を守ってくれていたということだろう。あの日の騒ぎを知らなかったはずはないから、彼が暴徒の列に加わらなかったこと、そしてニコラがいないことを知ったうえでやましい気持ちを抱かなかったことは、彼への信頼を証明するのに充分な役に立っていた。

ヴィテク:
「軍人たちに連れて行かれたと聞いたから、心配していたが…なんとまあ、たいしたお土産を持ってきたな!これだけの食料があれば、暫くは食うに困らない」

同居人:
「でも、心配だわ。これだけのものを持っていたら、まだ誰かが奪いにくるんじゃないかしら」

ニコラ:
「その点についてなんだけど…ボクに提案がある。いまボクたちに必要なのは、ご近所同士の相互扶助ってやつじゃないかと思うんだけど」

ヴィテク:
「どういうことだ?その…話の要点が掴めんが」

ニコラ:
「みんなに食料を分け与えるんだ。そもそも先日のような悲劇が起きたのは、食べ物が手に入らないような状況で、ああでもしないと飢え死にを免れなかったからだ…もちろん、タダっていうわけじゃない。この建物のまわりにバリケードを作ろうと思う、悪い連中が押し入ってきたりしないようにね。それを手伝ってもらうんだ」

同居人:
「バリケード?なんだか物々しいわね…それは本当に必要なもの?それに、せっかく手に入れた食料をばら撒くような行為も賛成しかねるわ。そりゃあ、みんなは感謝してくれるでしょうけど…食料を持って、他の土地に移るんじゃ駄目なの?なにも、ここに留まる必要はないでしょう?」

ニコラ:
「行く宛てがあるならね。それに、荷物をまとめて出て行くといっても、そう簡単にはいかないよ。どうやって荷物を運ぶんだい?部屋にあるものを全部持ち出すってわけにはいかないし、山のような荷物を抱えて移動するのは大変だ。なにより、ひどく目立つ。略奪者の格好の標的になってしまうよ」

ヴィテク:
「確かにな…」

ニコラ:
「どうせ全部持っていけないなら、幾らかの食料を失ってでも、ここに留まったほうが安全だ。近所の人たちも、自分たちが作ったバリケードがどれだけ頑丈か、自分で試す気にはならないだろうし」











 こうしてニコラは近隣住民を説得し、食料の配給と引き換えにバリケードの構築をはじめた。仕事もなく、食料を手に入れるあてもなかった住民の多くは快く手を貸し、そしてニコラに感謝した。とはいえ全員が飢える心配がないほどの食料を分けるほどの余裕はニコラにもなく、冬を無事に乗り切ることができた家庭は多くなかった。
 市場をはじめとする周辺地域の治安維持はコーネフ大佐の率いる軍隊が引き受けており、目立つ腕章を身につけ不穏分子に目を光らせる彼らの存在は頼れる自警団として充分に機能していた。住民からの通報を受けると彼等は即座に行動し、拘束された犯罪者はその場で射殺された。
 しかし時間が経つにつれ、自らの立場を悪用する兵士たちの姿が目立つようになった。無論、そうした兵士の存在はコーネフ大佐の意にそぐわぬものだったが、大佐も部隊のすべてを自らの手でコントロールできているわけではなかった。
 やがて隊内に複数の派閥が形成されると、兵隊同士の諍いが後を絶たなくなった。誰もがそのことを悪しき予兆として捉えていたが、事態の解決を図れる者など存在しなかった。

 そして夏が訪れる…





 【続く】





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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2019/06/09 (Sun)04:22







Marauder

(aka E8: Man of Prey)


Replay: "Bloody Fairy" _06










*注意*本リプレイでは主人公のキャラクターモデルを変更し、
設定や一部ストーリーを改変しています。





 虐殺のあった翌日、玄関戸を激しく叩く音でニコラは目を醒ました。

同居人:
「いったい、こんどはなんなの…?」

ニコラ:
「ここで待ってて。ボクが見てくる」

 先日のことで同居人はすっかり精神的に参ってしまっている。落ち込んでいるといえばニコラもそうなのだが、それでも危機対処能力に関してはニコラのほうがまだ上だ。
 金庫から拳銃を取り出し、装弾を確認して隠し持つ。よからぬ輩がトラブルを持ち込んできたとしても、上手く切り抜けるつもりだった。
 もっとも、そんな気持ちは扉を開けた時点で吹っ飛んでしまったが。





軍人:
「先日この地区で発生した殺人について話を聞きたい。武器を下ろしてもらおうか、お嬢さん?でないと、君も表で転がっている死体の仲間入りをすることになる。我々の基地まで同行願おうか」

ニコラ:
「(あ、終わった──)」

 先日の暴徒など話にもならないほど厄介な連中がそこに立っていた。斧やナイフのかわりに軍用ライフルをかまえ、襤褸布のかわりに軍服を着た男たちが鬼のような形相でニコラを待ち構えていた。
 指揮官らしい男、一見水兵のように見えるストライプ模様のシャツは、たしかスペツナズの装備だとニコラは記憶していた。だとすれば、こいつらは特殊部隊か。
 抵抗するには相手が悪すぎる…玉砕覚悟で拳銃を使ったところで、無抵抗で捕まるより良い結果になるとは到底思えなかった。なにより、そんなことをすれば確実に同居人の立場までもが危うくなる。

同居人:
「この人たちは…!?」

ニコラ:
「昨日のことについて、話を聞きたいんだってさ。ちょっと出かけてくるよ、大丈夫、なにも危険なことなんてないよ。もしボクらに危害を加えるつもりなら、最初からドアを蹴破って突入してきているはずさ」

 厳つい軍人たちを目の当たりにして言葉を失う同居人をニコラが優しくなだめる。
 だが、その言葉はむしろ自分に言い聞かせるためのものだった。軍人たちが催涙ガスを投げ込んで銃をぶっ放しまくったりしないのは、ニコラを尋問、あるいは拷問するためかもしれない…ただ、そうならそうで、同居人がそれを知ることも、あるいは、同居人にまで被害が及ぶようなこともないだろう。

ニコラ:
「軍人さん、あなたの言う通りにするよ。だけど、一つだけ約束してくれ…彼女には一切危害を加えたりしないと。彼女は無関係なんだ」

軍人:
「すべてはお前次第さ」

 そうだろうとも。
 ニコラは拳銃を軍人に渡すと、彼らとともにアパートを出た。一度だけ振り返り…もう、ここへ帰ってくることはないだろうという、漠然とした予感を抱いた。















コーネフ大佐:
「自衛のためとはいえ、随分とたくさん殺したものだ。正当防衛で済まされる範疇を軽く越えている、そうだろう?これを無罪放免というわけにはいかない、君には疑わしい点が多過ぎる。たとえば、そう、文化ホール爆破事件への…関与とかな。我々の倉庫へ盗みに入ったという目撃情報もある。あの、ヴァレクとかいうこそ泥と一緒に。彼はどうしたね?」

 通称「ペンタゴン」と呼ばれる基地にて、ニコラはこの地域の軍人を纏める指揮官、N・C・コーネフ大佐と直に向き合っていた。
 すでにこのあたりで正規軍と呼ばれるものは機能しておらず、かつて軍服を着ていた連中は大半が軍務を放棄して暴徒やギャングに身を落としていた。しかし、なかにはコーネフ大佐のように部下を統率し、以前と変わらぬ組織体系を維持することで地域の自治に努める者もいる。
 指導者として、コーネフ大佐はかなり「マシ」なやつだ、という話を以前、ニコラは市場で聞いたことがあった。軍人らしく、ごく真っ当に治安維持を考えていると。おそらく、治安を乱すような不穏分子には容赦しないだろう。
 大佐はニコラが考えていた以上に彼女の情報を正確に掴んでいた。ヴァレクの裏切りに端を発する一連の行動に彼の言及が及んだとき、ニコラは心中穏やかではいられなくなった。大佐は控えめな物言いをしているが、たんなるカマかけでは有り得ないはずだ。
 その一方で、ニコラは奇妙な違和感を覚えてもいた。
 てっきり、軍人たちはニコラが関わった事件の詳細について知りたがっているのだろうと思っていた。そのためなら尋問、あるいは拷問も辞さないだろうと。チェーカーのバッヂがよく似合いそうなフォメンコとかいう下士官が大佐の傍らに控えているのも、そのためだろうとニコラは考えていた。
 しかし、どうも違うらしい。大佐の物言いはニコラ自身の所業に関心があるふうではなく、それどころか、どこか無関心なようにさえ見える。
 軍人がこういう接し方をする場合、目的は一つしかない…取り引きだ。

コーネフ大佐:
「驚いたかね?我々は君が倉庫へ盗みに入ってから、ずっと追跡を続けていたのだよ、クロアチア人のニコラ・ミロスラフ?まあ、文化ホールを占拠していた連中は我々にとっても頭痛の種ではあったのだがね。旧ソ連の素晴らしい建造物が失われたのは胸が痛むが…どうやら君は爆弾を作るのが得意なようだ。だが、解体のほうはどうだね?」

ニコラ:
「種類による、としか」

 爆弾を作るのが得意だなどと言われるのは、ニコラにとって大変に心外なことだった。おそらく大佐はニコラが紛争でセルビア人を爆破しまくっていたとでも勘違いしているのだろう、爆薬を作ったのは後にも先にも文化ホールでの一件だけだというのに。
 とはいえ、そのことがニコラを生かしておく理由になっているのであれば、わざわざそれを否定する必要もなかった。

コーネフ大佐:
「…バラバシュに、放棄された軍の補給基地があってな。先日までNATO軍が占拠していたのだが、我々が追い出した。ところが連中、逃げる途中で置き土産を残していきおってな。おかげで物資を運び出すことができんのだ」

ニコラ:
「置き土産…地雷ですか?」

コーネフ大佐:
「M18、クレイモアといったかな。ロシア製のコピーではない、純正の西側産だ。すでに十名近い死傷者を出している。そこが補給基地だったことは周囲に知れ渡っている、つまり、残された物資を狙っている連中が他に大勢いるということだ。昼夜襲われるリスクを負ってまで現地に留まって陣地を構築する気はないし、長期間、兵力を分散させておきたくはない。さっさと物資を運び出して部隊を撤退させたいのだよ」

 クレイモア、大量のベアリングを射出する指向性地雷だ。
 数は少ないが、サラエボでソ連製のMON-50を見かけたことがあった。基本的な構造は同じはずだ、撤退中に仕掛けたというのなら、それほど凝った仕掛け方はしていないはずだ…大佐の話を聞きながら、ニコラは思考を巡らせる。

コーネフ大佐:
「運の悪いことに、我々には地雷処理に適した工兵が不足していてね。ものは相談だが、バラバシュへ行き補給基地周辺に仕掛けられた地雷を始末してくれんか?フォメンコと彼の部下が同行する、もちろん脱走を阻止するための安全措置だが、何者かの襲撃を受けた場合、地雷ではなく銃弾で死ぬようなことがないよう計らってくれるだろう。そうだな、フォメンコ?」

フォメンコ:
「私は賛同しかねます、同志コーネフ。このような得体の知れない、それも子供を使うなど…しかし、命令とあらば。いつでも出動できるよう、部下はすでに待機させています」

コーネフ大佐:
「ニコラ、先に言っておくが拒否権はない。だが、これは君にとっても悪い話ではない…無事に任務を終えたら、いままで君が犯した罪に関しては不問としよう。無論、君の同居人に嫌疑が及ぶこともない。それどころか、働きに見合った報酬も与えようではないか」

ニコラ:
「もしその約束が言葉通りに実行されたなら、市場の人々はあなたを称賛するでしょう」

コーネフ大佐:
「もちろん、そうなるとも」













マクシミッチ:
「どうやらコーネフ大佐はウォッカの飲み過ぎで二日酔いらしい。まあいい、私が現場指揮官のマクシミッチだ、バルバシュへようこそ。小さな工兵さん?」

 フォメンコの率いる部隊とともに、ニコラはバルバシュの補給基地へと到着した。
 コーネフ大佐が懸念するように、地元のギャングがこの基地に備蓄されている物資を狙っているのであれば、あまり悠長に時間をかけてはいられない。周辺警戒のためスペツナズが展開するなか、ニコラは気が進まない思いで建物に近づいていった。
 敷地内は瓦礫が積み重なっており、雑然と散らかっている。地雷を仕掛けるにはもってこいの環境だ。誤って作動させた場合、運が良ければ即死できるが、下手をすればパーツを失ったGIジョーのような有り様でこの先の人生を過ごすことになる。気が進むはずもなかった。


 *Intel*
 このあたりのカットシーンでのやりとりはほぼ創作。
 実際は元軍人であるAkhmetと軍人たちによる「本人たちにしかわからない会話」が展開され、それに対するフォローもないため、翻訳していても何を言ってるのかよくわからなかった。このあたりは英訳が酷いというより、本作のダイアログの設計自体に問題があるように思う。
 テキストは原作者自身が担当しているのだが、小説の会話文だけを抜き出したような格好になっており(所謂地の文による説明を欠いている)、説明台詞のようなものが一切ないので、原作既読者でない限り何が起きているのかわからないような作りになっている。
 ゲーム中に確認できるミッション内容も、主人公の一人称による漠然とした語りに終始するため、残念ながらストーリーを理解する手助けにはならない。














 配電室と思われる建物のロッカーからIMP-1地雷探知機を回収し、基地周辺を調べていく。
 地雷は建物をぐるりと囲むような配置で草場や物陰に設置されていた。最低限の偽装はしてあるが、たとえば爆弾魔が芸術作品と呼ぶような手合いの、凝った仕掛けはされていない。
 この場合、重要になるのは爆弾解体の技術ではなく、爆弾の発見に役立つ思考回路を持つことだ。狙撃兵を狩るカウンター・スナイパーのように、相手の気持ちになって考えることだ。相手の手口がわかってさえいれば、セオリーが読める。
 もし自分が地雷を仕掛ける側なら、侵入者を本気で殺そうとするなら、どこへ、どうやって仕掛けるか?


 *Intel*
 地雷の解体にはMechanicスキル、地雷の発見にはEyesightスキルが判定で使われる。本MAP以外にも地雷が仕掛けられているステージがあるため、いずれかの能力が低い場合、本作の攻略はとても困難なものとなる。
 本作(あるいはBrigade E5、7.62 High Calibre)の爆発物は実際に数百の破片を射程距離内に飛ばしてダメージ判定を行うため、爆発の瞬間は非常に処理が重くなる






 おおかた地雷を回収し終わったころ、瓦礫を踏み越えて敷地内への侵入を試みる足音が聞こえてきた。軍人たち…ではない。かれらがこそこそする理由はないし、もしそうなら、もっと上手く足音を隠すだろう。
 おそらくは地元の盗賊たちと思われた。待ち伏せしていたのか、あるいはたまたま今のタイミングで来たのかはわからないが、ニコラたちが来た南のゲートからではなく、塀を越えて北から侵入してきている。
 すでにマクシミッチ率いるスペツナズたちは盗賊の存在に気づき、戦闘態勢に入っている。両者の戦いは正面からの撃ち合いになるだろう、と判断したニコラは北西の操車場から回りこみ、側面から盗賊を叩くことにした。







 軍人たちの応戦に釘付けになっている盗賊たちへ手榴弾を投げ込み、フラッシュライトを装着したマカロフ拳銃で狙撃していく。思わぬ方向から攻撃を受けた盗賊たちはパニックに陥り、そのまま成す術なく壊滅。僅かに残った者たちは降参し、投降した。







マクシミッチ:
「作業を急がねばならない、という指令の意味がよく理解できたろう。それにしても、拳銃だけでよく戦えたものだ」

ニコラ:
「AKが必要な任務とは聞いていなかったので…」

マクシミッチ:
「地雷の撤去も終えたようだな。しかし残念ながら、まだ君の任務は終わっていない。これより施設の地下保管庫へ向かうことになるが、そこにも大量の地雷が敷設されているのだ。それも撤去してもらう必要がある」





 【続く】





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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2019/06/06 (Thu)18:03







Marauder

(aka E8: Man of Prey)


Replay: "Bloody Fairy" _05










*注意*本リプレイでは主人公のキャラクターモデルを変更し、
設定や一部ストーリーを改変しています。








近隣住民:
「お嬢さんがた、こんな時代に食べ物の独り占めはよくないな!」

近隣住民:
「困ったときは助け合うのがご近所付き合いってものだ、そうだろう!うちの赤ん坊がお腹を空かせてるっていうのに、君達は優雅に砂糖入りの紅茶を楽しむというのか?不公平だ!」

近隣住民:
「持てる者は持たざる者に富を分け与える、それが常識だろう!共産主義的に考えて!」

 翌朝。なにやら表が騒がしいので窓の外を見ると、近所の住民が総出でアパートを取り囲んでいた。彼らの口からは頻繁に「独り占め」「不公平」といった単語が飛び出してくる。わけがわからない。
 おそらくは扇動している者がいるのだろう、自然にこうして集まったとは思えない。問題は、彼らが武器を持っていることだ。たいていはナイフ、斧といった道具で、なかには石を握り締めている者もいるが、猟銃を持つ者の存在も僅かに見受けられる。





同居人:
「なんなの?これはいったい何の騒ぎ?」

ニコラ:
「たぶん、ボクが市場で買い物してる姿を見た誰かが、良くない勘違いをしたんじゃないかな。やたらに金払いの良い小娘を見て、近所の人たちにあることないこと吹き込んだとか…ボクも迂闊だったよ。目立たないはずがないのに」

同居人:
「彼ら、武器を持っているわ!あなたも…そんなものを持って、どうするつもり?」

ニコラ:
「なんとか説得してみるよ。ひょっとしたら、彼らの誤解を解けるかもしれない。けど、もしものことがあったら…隠れるんだ。ベッドの下とか、クローゼットとか…とにかく、身を隠せる場所に。ひょっとしたら、彼らは部屋に入ってくるかもしれない。物を壊したり、盗んだりするかもしれない。けど、絶対に姿を見せちゃ駄目だ。なにがあっても、彼らが帰るまで出ていったりしちゃ駄目だ。そうすれば、怪我をせずに済むから。いいね?」

 それだけ言うと、ニコラは銃身を切り詰めた散弾銃を掴んで部屋を飛び出した。階段を駆け下りながら、窓の外で大声を張り上げる近隣住民の姿をときおり盗み見る。
 あれは暴徒だ。すでに話し合いの段階を通り過ぎている、彼らはただ自分の主張を押し通し、相手を打ち倒し、自分たちが当然享受できて然るべきと思い込んでいるものを手にすることしか考えていない。
 彼らは目的を達するまで、絶対に退いたりはしないだろう。どんなことをしてでも。あの狂気的な、血走った目…過去に何度も見たことのある目つき。

近隣住民:
「誰かバールを持ってないか!玄関をこじ開けるんだ!」

 略奪が日常化した昨今、厳重に戸締りをしておくのは極当たり前の習慣となっている。とはいえ、こういう状況では僅かな時間を稼ぐ程度の役にしか立たない。
 メリメリと音を立てて金具が飛び、開放された玄関に近隣住民たちが押し寄せてくる。ニコラは彼らのど真ん中に向けて散弾銃を発砲した。






近隣住民:
「銃を撃ってきた!人殺しだ、人殺しィーッ!」

 口々にニコラを批難しながらも、近隣住民は一方に怯む気配を見せない。
 大の大人の男だけではなく、若者、老人、女性、老婆までもが一心不乱に武器を振り回して襲い掛かってくる。そのさまは悪夢的狂気としか言い様がない。
 二つの銃身に装填されていた散弾を撃ち尽くし、ニコラは拳銃に持ち替えて応戦する。再装填している暇はない、狙いをつけている暇さえ…二本の予備弾倉が空になったとき、ニコラはナイフを抜くと決死の覚悟で表に飛び出した。




 直後、散弾銃の閃光が目に飛び込んでくる。
 やられた…!そう思ったが、痛みは感じなかった。アドレナリンのおかげか、いや違う、弾はすべて目の前にいた別の暴徒に命中したのだ。同士討ちだ!
 統制がとれず、闇雲に突撃することにか頭にない彼らは、手にした銃がどこに向いているのか、その先に誰がいるのかさえ気にしていない!
 全力でその場を脱し、物陰に隠れたニコラは二挺の銃に弾を装填すると、ふたたび射撃を開始した。






 拳銃、散弾銃を交互に撃ち、暴徒たちを血の海に沈めていく。
 やがて彼らのうち半数が減ったあたりで、恐れをなしたのか、あるいは扇動していたリーダー格の者が倒れたせいかはわからないが、暴徒たちは散り散りに退散していった。




 助かった…
 安堵のため息をついたニコラは、ふと周囲を見回して心が凍りつく。
 死体だらけだ。
 兵隊でもなんでもない、ただの一般人たちが血まみれで倒れている。あたり一面血だらけだ。戦闘状況下での興奮が醒め、アドレナリンが抜けたいま、ニコラは自分が何をしたのかを冷静に受け止める必要があった。
 正当防衛だったことに疑う余地はない。もし抵抗せずにいたら、いまごろはニコラが亡骸となって路上で無様に転がっていたことだろう。しかし身を守った結果どうなったかといえば、一人が生き延びるかわりに十数人の死体が出来上がったという、ただそれだけの現実が残されたのだった。
 …なぜこんなことになってしまったのだろう?自分は彼らに恨みなど何もないのに。
 暗澹たる気持ちを抱えたまま、ニコラはアパートに戻った。問題が解決したことを同居人に報告しなくては。


 *Intel*
 序盤の難関ミッション。一箇所に留まってモタモタと銃を撃っていると、あっという間に囲まれてボコボコにされるので上手く立ち回る必要がある。近接攻撃を受けると直前のアクションをキャンセルして防御動作に入ってしまううえ、ダメージを受けると出血とスタンを伴うので一方的にやられてしまう。いざとなったら走って敵との距離を離すのも手。
 投石もなかなか厄介で、命中するとスタンを引き起こす。視界外からの投石でスタンし、囲まれてAkhmet is killedされないよう注意しよう。基本的に本作はプレイヤーと敵の性能がフェアな関係にあるので、自分が攻撃を当てづらいと思った敵の動作を覚えておき、自分もそれを実践すること。移動する相手に近接攻撃は当てられないし、遮蔽物で視界を切れば射撃も命中しない。
 もし地雷を入手しているなら、それを利用するのも有効だ。











同居人:
「無事だったの!?」

ニコラ:
「隠れてって言ったのに…でも、もうその必要もないか。うん、ボクは大丈夫。たぶん彼らは、二度とボクらを襲おうなんて気は起こさないんじゃないかな」

同居人:
「銃声が聞こえたわ、それも、たくさん。彼らを殺したの?」

 どう答えれば良いというのだ?
 正当防衛だった、やらなければやられていた、自分が銃を撃たなければ、あなただって殺されていたはずだ。そのほうがよかったのか…そう言うこともできたはずだ。しかしニコラは、そうした言葉で自分の行動を正当化できるとは思えなかった。
 どんなに取り繕ったところで、自分が平然と人を殺せる人間であることに変わりはない。
 自分が戦うべき戦争は終わり、人を殺す必要なんかなくなったはずなのに、まるで自分の中でだけいつまでも戦争が続いているようだ。軍人が敵を殺すように、故郷から遠く離れた地でわけもわからず人を殺し続けている。







ニコラ:
「ボクは…汚れているんだ」





 【続く】





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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2019/06/03 (Mon)03:09







Marauder

(aka E8: Man of Prey)


Replay: "Bloody Fairy" _04










*注意*本リプレイでは主人公のキャラクターモデルを変更し、
設定や一部ストーリーを改変しています。








同居人:
「なんなの、この酷い臭いは!?」

 市場から戻ったニコラはアパートのキッチンで爆弾作りに励んでいた。
 肥料爆弾を容積15Lのジェリカン二個分、おそらく建物一つ吹っ飛ばすくらいなら充分な量だろう。レシピはうろ覚えだったが、もともと作業自体はそれほど難しいものではないし、多少の熱や衝撃で爆発するほど敏感な代物でもない。
 問題は臭いだ。ニコラに爆弾の作り方を教えたムジャヒディンは、材料の揮発剤が発する刺激臭については何も言ってくれなかった。窓を全開にするのと、同居人がキッチンに乗り込んでくるのはほぼ同時のタイミングだった。

ニコラ:
「えっと、その…料理、失敗しちゃって…」

同居人:
「料理!?これが料理の臭いですって?それに、その…マニキュアの除光液と硝安!?そんなもので何を作っていたの!?知ってるわよ、爆弾でしょう、それ!」

ニコラ:
「ご、ごめん!あのさ、市場の人に頼まれたんだ。ほら、知ってるでしょ、文化ホールにギャングが集まってるって。そいつらをやっつけるのに使うんだって、これを届けたら幾らかファイブが貰えることになってるんだ」

同居人:
「どうしてそんなこと引き受けたりしたの!?」

ニコラ:
「どうしてって…お金は必要だし。弾薬があれば、食べ物が…」

同居人:
「そんなことは聞いてない、どうしてあなたなの?どうして爆弾を作るのがあなたでなければならないの?あなた、他に何も隠してないでしょうね?ヴァレクのことだって…」

ニコラ:
「隠してないって!爆弾を作って届けるだけだよ、それだけだ。いまから出かけてくるけど…そうだ、帰ってきたらお茶、飲もうよ!あのインド人が象に乗ってる箱のやつ、好きでしょ?買ってくるよ」

 同居人はニコラの過去を知らない。メモの一つも見ずにキッチンで爆弾を作る姿に疑問を抱くなというのが無理な話だ。

同居人:
「責めてるわけじゃないのよ。ただ、あなたが心配なの…本当にそれをただ市場の人に届けるだけなのね?それ以外に何かをするわけじゃないのね?危険はなにもないのね?お願いだから、私に対して嘘をついたりしないでちょうだい」

ニコラ:
「大丈夫だって、危険なんかなにもないよ。うん、嘘なんかつかない」

 ニコラは自己嫌悪に苛まれながら、どうにか平静を保って言った。
 最悪だ…自分は最低の人間だ。もう嘘をついた。ニコラは逃げるように同居人に背を向けると、足早にアパートを出て文化ホールへ向かった。30kgの爆弾と、心に重荷を抱えたまま。















 文化ホールはちょっとした宮殿のようだった。周辺には土嚢が積み上げられ、武装した男たちが油断なく周囲に目を光らせている。おそらくは元軍人だろう、お守りを任されたチンピラと、歩哨の経験がある兵隊では目つきや動きがまるで違う。
 見つからずに侵入するのは無理なように見えた。ニコラはゆっくりとホールに近づく。







ギャング:
「止まれ、誰何?」

ニコラ:
「あの、修理屋です。なんでも直せますよ、テレビとか、水道とか。あ、水は通ってないか…バネの悪いベッドとかありません?お安くしておきますよ、旦那さまがた」

ギャング:
「修理屋?おまえがか、小僧?それでデカい荷物背負ってるのか。オーブンは直せるか?なんでも冷たいまま食うのは飽き飽きだ。入れてやるが、手早く済ませろよ。怪しい動きをしたら鉛弾をぶち込んで犬の餌だからな」


 *Intel*
 実際のゲームプレイで施設に侵入する場合、通りの向かい側に立っている乞食の服を着て変装する必要がある。乞食は煙草か食料、或いはファイブ6発を要求するので、適当なアイテムを渡して服を譲ってもらう。殺して奪う選択肢もあるが、乞食は敵対すると物凄い早さで逃げていくうえ、乞食のいる場所はギャングの視界が届くので、まず無理だと考えたほうがいい。
 ギャングはプレイヤーが武器を持つor背負っている姿を見ると問答無用で敵対状態になる。このミッションではクリアするだけなら一発も撃つ必要がないので、平和的に解決するつもりなら武器を自宅の金庫に預けておいたほうがいいかもしれない。
 …そもそも、なぜ技術者を装うために乞食に変装する必要があるのかはわからないが……










 ホールの内部は多数のギャングが銃を手に巡回していた。ものものしい雰囲気のなか、ニコラは手始めに二階のオーブンに一個目の爆弾を仕掛け、続いて一階のATMに二個目の爆弾を仕掛ける。この順番でなければ上手くいかない、オーブンの中に仕掛けるぶんには人目につかないが、ATMの鍵を開けて中に爆弾を置くのは無理なので、ATMの傍に爆弾を置く形になるが、それは当然、人目のつく場所に爆弾を放置することになる。


 *Intel*
 ATMに爆弾を設置するさい、正面玄関の扉を開けたままにしていると表のギャングに爆弾を仕掛けたことがばれ、その場で戦闘状態に突入してしまう。爆弾を仕掛けるまえに玄関の扉を閉めておくこと。うまくいけばATMに爆弾を設置した瞬間にカットシーンへ以降し、ホールが吹っ飛ぶ。
 武器を手に持つor背負っている状態で目撃される、玄関扉が開いた状態でATMに爆弾を仕掛ける、の二点が敵対フラグ成立の条件のようで、他の行動(爆弾を手に持つ、爆弾を仕掛ける瞬間を目撃される、敵に近づく、鍵を開けるor鍵を開けているところを見られる、等)ではギャングに素性が怪しまれることはなかった。
 今回はロールプレイ重視のため省いたが、施設内のアイテムをすべて回収してから爆弾を仕掛けても何も問題はないようだ。
 建物を爆破した場合、敵は死亡ではなく削除される処理が行われるため、死体からアイテムを回収することはできなくなる。アイテムや経験値が欲しい場合は小細工抜きで戦って敵を全滅させても構わない。








 爆弾を仕掛け終え、建物から離れたニコラは爆発と同時にギャングたちがばらばらに吹っ飛ぶか、あるいは瓦礫の下敷きになったことを確認する。
 彼らが他人に対し悪さをすることは二度とないだろうが、悪党を退治したことに対する達成感はなく、ニコラは鈍い疲労感を覚え、ため息をついた。
 ボスニアでは、敵は家族や友人を殺した憎むべき存在であり、誰に頼まれるでもなく銃を手に取って戦う明確な動機があった。ただ、今回はそうではない。個人的な恨みがあるわけでも、迫害を受けたわけでもない相手を、ただ漠然とした理由で殺している…
 戦争では、戦争中ですら戦う相手を選んでいたのに、戦場から離れたいま、自分は相手を選ばずに見境なく人を殺して回っているのか……?
 そこまで考えたところで、ニコラはかぶりを振った。
 終わりにしよう、こういうのは今回限りにしよう。どれだけ貧しく飢えようとも、それで誰かを傷つけたり、まして殺したりするのは、絶対にいけないことだ。同居人のためにも。
 そう胸に誓いつつ、ニコラは誰にも姿を見られないうちに現場から離れた。











 市場で買い物を済ませ、アパートに戻ったニコラは同居人の相も変わらずの渋面に正面から向き合わなければならなかった。







同居人:
「さっき、物凄い爆発があったわね」

ニコラ:
「えっ?ああー、うん。たぶん、誰かがうまくやったんじゃないかな。ボクの作った爆弾で。まあ、ボクには関係ないけど」

同居人:
「あなたがやったんじゃないのね?本当に?」

ニコラ:
「そんなわけないじゃないか、そんな危険なこと、ボクにはできないよ。帰るのが遅れたのは、市場で買い物をしてたからさ。何を買おうかなって迷っちゃって、ほら、爆弾を届けて幾らか貰ったからね。
約束通り、紅茶を買ってきたよ!それから牛肉の缶詰と、シリアルと…小麦粉もある!ねぇ、今度なにか作ってよ!爆弾じゃなくって、その、普通の女の子が作るようなものを。とにかく、これでしばらくは食べ物に困らないよ」

同居人:
「そうね、えぇ。その通りね…」

 わざとらしく明るい態度で振る舞うニコラに、同居人は沈鬱な面持ちで相槌を打つ。
 誤魔化せているはずはなかった。そのことはニコラにもわかっていた。しかし大切なのは、とにもかくにも現状、食べるものには困らない、ということだった。二人とも。
 水も電気も止まり、社会基盤が崩壊し、缶詰一つを巡って人々が殺しあうような状況では、それは本当に大切なことなのだ…






 【続く】











 *Intel*
 本作に登場する紅茶のパッケージ、練乳の缶詰のラベルに見覚えがある人がいるかもしれない。
 これらは以前、本ブログで記事を作成したことがある「Day R Survival」に登場したものと酷似しており、調査の結果、実在の製品がモデルになっていることが判明した。
 紅茶は「со слоном(with an elephant)」と呼ばれるシリーズで、1893年操業の「Московская чайная фабрика(Moscow Tea Factory)」社の製品。現在も製造が続いているベストセラーである。Day Rに登場したものは象が青く、本作のものは象が赤いが、これはグレードによって二種類のパッケージが存在しているため。赤い象のほうが値段が高い。
 練乳は「Рогачёвский молочноконсервный комбинат(Rogachevsky milk canning plant)」というベラルーシの工場で製造されたもので、こちらも1936年から操業・現在まで製造が続いているベストセラーである。ロシアにおける練乳は市民生活と密接に関わっており、戦時下の配給品や政府の備蓄食料の一品目に指定されているほど。またロシアでは練乳を加熱してキャラメル状にしたものを食する変わった風習があり、Day Rで練乳を沸騰させて作成するBoiled Milkはこれを再現したものと思われる。

 また本作に登場するロシア煙草二種のうち、バルト運河の地図がプリントされたものは「Беломор(Belomor)」あるいは「Беломоркана́л(Belomorkanal)」と呼ばれる銘柄で、1932年からレニングラードのラフェルム煙草工場で製造されていた実在の煙草である。ヨーロッパで入手できるもっとも安価で強い煙草とされた(ニコチン1.5mg・タール30mg)。
 また宇宙飛行士がデザインされたパッケージ(ゲーム中では「≪Astral≫ cigarettes」と表記される)は「Космос(Kosmos)」と呼ばれる銘柄で、通常は宇宙ロケットをモチーフにしたデザインで知られる(おそらくボストーク1号をモチーフにしている)。宇宙開発はソビエトが世界に誇る技術であり、宇宙ロケットやアストロノーツがプリントされたパッケージはロシア国民の愛国心に訴えるものであったのだろう。ゲーム中に登場するバージョンも実在は確認できたが、バリエーション違いかコレクターパッケージ的なものかは調べきれなかった。

 おそらくは今回紹介したもの以外にも実在の製品をモチーフにしたアイテムが存在するはずなので、興味がある人は調べてみては如何だろうか。



 *モスクワ茶工場・公式HP*
moschay.ru/

 *ロガチェフスキーMKK・公式HP*
rmkk.by/en/







 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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2019/05/31 (Fri)03:00







Marauder

(aka E8: Man of Prey)


Replay: "Bloody Fairy" _03










*注意*本リプレイでは主人公のキャラクターモデルを変更し、
設定や一部ストーリーを改変しています。








 アパートに帰ると、同居人が険しい顔つきでニコラを迎えた。
 おそらくは年頃の娘がヴァレクのようなゴロツキとつるんで悪さをしているのが気に入らないのだろう。彼女とはロシアに来たときにたまたま知り合い、家賃を折半することで部屋をシェアしているだけの関係だが、どうにも波長がうまく合わない。そもそも、ニコラはロシア人の女性と仲良くなれた試しがない。
 悪い人間ではないのだ。むしろ、心根の優しい女性と言ってもいい。ただ、少しばかり口やかましく、心配性で、いらぬ世話を焼きすぎるきらいがある。
 ヴァレクを殺したなどと言った日には、どんな反応を見せるかわかったものではない。放蕩娘をたしなめるような態度で嫌味をこぼす同居人に、ニコラは疲れた表情で適当に相槌を打ちながら寝室へ向かった。


 *Intel*
 本来ならばこの女性は主人公Akhmetの妻なのだが、今回のリプレイでは主人公のバックグラウンド変更に伴い、設定を変更させて頂いた。
 口煩い妻と粗野な夫という構図はロシア文学あるあるであり、普段は喧嘩ばかりしているものの時折見せる互いの深い愛情に確かな絆を見出すといった流れは、まさしく「喧嘩するほど仲が良い」といったところであろうか。犬も喰わぬ夫婦喧嘩を見せられる第三者からすればたまったものではないが。















 朝を迎え、ニコラは先日の外出で手に入れたものを売るために市場へ向かうことにした。
 出かけようとするニコラに、同居人が心配そうに声をかけてくる。どうやら最近、近くの文化ホールをギャングたちが占拠したというのだ。メンバーの中には元警官や軍人も含まれており、その動きは組織化されているという。現在は武装を強化し、文化ホールにバリケードや機銃陣地を築いて防備を強化しているところらしい。もし彼らが付近一帯を支配するようになれば治安のさらなる悪化は避けられず、別の土地へ移動せざるを得なくなるかもしれない。















 市場はアパートの東、ウーリツァ・コスモナフトフの廃校内にあるバスケットコートで開かれている。
 ただし誰でも入れるわけではなく、入場料として5.45x39mm弾が一発必要になる。
 ロシア国内ではすでに通常の貨幣はその価値を失い、人々は弾薬を通貨のかわりに使用している。5.45x39mm弾、通称「ファイブ」を基準に価値1として扱い、9x18mmマカロフ弾、通称「ナイン」をファイブの半値である価値0.5、7.62x39mm弾を「セブン」と呼び価値2として扱っている。







 もし市場へ向かうまえにどうしてもファイブが確保できなかった場合、入り口の乞食が他の弾薬や食料と引き換えにファイブを都合してくれるだろう。ただし彼の要求するレートは法外も甚だしく、なるべくなら他の手段で手に入れることを推奨する。
 敷地内では武装した多くの警備員が目を光らせており、市場を利用するにせよ、しないにせよ、武器を手に持ったまま彼らの前を歩くのは懸命ではない。

 それでは、市場を切り盛りするトレーダーたちを紹介していこう。







 サネック、あるいは「オセット人」と呼ばれるこの男は食料品を扱っており、また特別な上客のために高級な酒や煙草を探している。もしウォッカやウィスキー、あるいはマルボロのような外国産の煙草を持っているなら、彼はそれを高値で買い取ってくれるだろう(言うまでもないが、粗悪な密造酒やロシア製の煙草に彼は関心がない)。







 オレグ・ペトロビッチは酒や煙草といった嗜好品を扱っている。
 彼自身は特別な取引を持っていないが、事情通である彼に街の状況を尋ねることは無駄ではないだろう。ときには耳寄りな情報や、思ってもみない話を聞けるかもしれない…


ニコラ:
「文化ホールをギャングが占拠したと聞いたけど、そのことについて市場の人たちはどう考えてるのかな」

オレグ:
「そうだな…ところで君は、爆弾を作れるか?」

ニコラ:
「…!?えーと。なんでそんな質問をしようと思ったのかがまずわからないけど、もしボクが爆弾を作れるとして、話はどんなふうに広がるのかな」

オレグ:
「噂によると、君はサラエボ出身らしいじゃないか。あの紛争で民兵として、多くの…それはもう、多くのセルビア人を殺したと。その行為そのものをどうこう言う気はない。その噂が本当なら、つまり君は戦う方法を知っているということだ。あるいはそう、爆弾の作り方の一つも知ってるのじゃないか、とね。
文化センターを占拠したギャングたちについては我々もひどく頭を悩ませている。もし彼らが今のペースで軍備の強化を進めた場合、おそらくはNATO軍でさえ迂闊に手出しができなくなるだろう。
ギャングたちが地域一帯を支配したら、彼らはあらゆるものを略奪するようになるだろう。あるいは見逃すかわりに高い税の支払いを強いるかもしれない。そうなったら、この市場も存続できなくなる。
現状でさえ、ギャングたちの存在は脅威だ。正面から撃ち合ったら多くの犠牲者が出るに違いない。だから、そう、建物にこっそり侵入して、爆弾で建物ごと吹っ飛ばす…文化ホールの要塞化が進めば、それも難しくなる。
もし君が文化ホールのギャングたちの面倒を見てくれるなら、相応の報酬を支払おう。市場の商人たちからカンパしたファイブがある、それを君に進呈しよう」

ニコラ:
「…やってみる」


 思ってもみない展開になった。気の進む話ではなかったが、それでもギャングたちの問題についてはニコラも無関係ではいられない。この土地に居座り続ける理由はないが、避難したところで安全な住居や食料を確保できるあてもなく、ならば見知った顔のいる土地に留まっていたほうが懸命だとニコラは考えていた。
 かつてサラエボで戦っていたとき、たまたま知り合ったムジャヒディンから爆薬の作り方を教わったことがあった。とはいえニコラ自身は作ったことも、使ったこともなかったが、材料さえあれば家庭用の台所で作れるようなものだったと記憶していた。
 材料は市場の誰かが売っているはずだ。







 元医者のゲンナジーは医療品を取り扱っている。商品を売買する以外にも、もしここへ訪れたときに怪我を負っていた場合、彼に治療してもらうことができるだろう。もちろん、無料というわけにはいかないが。







 武器商人のアリックは各種銃火器を取り扱っている。
 注意すべき点として、彼が扱っている銃火器は必ずしも状態が良いわけではない。どちらかといえば銃本体よりも弾倉やサプレッサー、レーザーアタッチメントといったアクセサリ類の購入がメインになるはずだ。







 古着屋のマーシャはチェストリグやヘルメット、バックパックといった装備を扱っている。
 また、彼女は服の材料にするための犬の毛皮を欲している。犬の毛皮?そう、このあたりには飢えた野犬の存在が脅威となっている。もし毛皮を剥いで持っていけば、マーシャはハーフマガジン=弾倉半分、15発のファイブを報酬として支払ってくれる。







 「教授」は斧やナイフ、銃器清掃キットやロックピックといった雑貨を扱っている。
 また彼は銃火器のカスタマイズも行っており、もし改造可能な銃器を所持していた場合、彼に相応のファイブを支払えば改良を施してくれるはずだ。
 教授はジャンクパーツから道具を製作する技術者であり、もしリモコンや電気ポット、カーステレオといった電気製品を持っていた場合、それらを特別価格で買い取ってくれることだろう。







 爆弾の材料は教授が扱っている。肥料用の硝酸アンモニウム、有機化合物のアセトンを購入し、代金の50ファイブを支払おう。アイテムを個数指定する場合、右クリックを押してDivideを選択する。


 *Intel*
 オセット人、マーシャ、教授の買い取りクエストは専用の会話を発生させる必要がある。以後は対象となるアイテムを所持している場合に専用の選択肢が表示されるので、それを選ぶ。通常よりも高値で売れるだけでなく経験値も入手できるので、経験値の入手機会が有限である本作では可能な限り活用していきたい。
 文化ホールへ爆弾を仕掛けるクエストについて、本リプレイではオレグから依頼されたことになっているが、実際はAkhmetが自発的に行うことであり、当然ながら報酬等は発生しない。




 【続く】





 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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