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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/26 (Tue)14:49
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2013/06/07 (Fri)13:06


 トビウオ師匠の朝は早い。

 どうも、グレアムです。
 TES4SSで公開している画面写真ではたびたびゴア(残虐)表現が見られますが、じつはあれ、MODではなくて単なる合成だったりします。
 いちおう、残虐表現(四肢や頭部の切断等)を可能にする「Deadly Reflex」というMODもあるにはあるんですが、あれはかなりシステム部分に手を加えるので他のMODとコンフリクトを起こしやすいっていうのと、イマイチ動作が不安定なんで今は入れてないんですよね。
 それにシステム的に可能だからといって、それで思ったような画面写真が撮れるかっていうと、これがなかなか難しい、というか実質不可能に近い。

 そんなわけでグレさんは出血や切断等の残虐表現を手作業の合成でやってるわけですが、今回はその、ゴア表現のための合成作業がどのように行われているかを簡単に解説したいと思います。例に使うのは、前回の話でログバト嬢がナイトメア・トロールを斬りつけた場面です。


↑これですね。

  **  **  **

 まず最初に、ベースとなる2枚の画面写真を用意します。


↑合成対象がいない写真(写真1)。


↑合成対象がいる写真(写真2)。

 次に、写真2の一部(ナイトメア・トロールの切断箇所)を消します。


↑消しゴム等で一部が消えた状態。

 一部が消えた写真2を写真1に合成。


↑こうすれば、ちゃんと消した部分にも背景がありますね。

 さらに、消した箇所に肉の断面を合成します。これはゲームとはまったく無関係の画像を使用します。適当に描くなりして調達しましょう。


↑切断面まる見え。

 最後に、色彩や明暗をちょいと調整しつつ血を合成すれば…


↑完成。

  **  **  **

 ね、簡単でしょ?(ボブ風に

 だいたい、こんな感じで合成してます。
 ゴア表現以外だと、バイクに変身したリアが走行する場面での白煙や帯電ですとか。炎なんかの、それそのものが光源として作用しちゃう代物の場合は、多少無理してでもゲーム内で再現しますけどね。





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2013/06/05 (Wed)12:33
「よくやったな!まさか、本当にやってのけるとは思わなかったぜ」
「あ、はぁ…」



 バーズ・グロ=カシュの賞賛は、ちびのノルドを困惑させた。
 シェイディンハルの戦士ギルド2階、支部長の執務室にて。
 ブラヴィルでの仕事を終えたちびのノルドを待っていたのは、バーズ・グロ=カシュの気味の悪い笑顔だった。普段滅多に見ることのないオークの笑顔を見て卒倒しそうになりつつも、ちびのノルドはたったいまのバーズの台詞に引っかかりを覚える。
「え~と…ひょっとして、あまり期待してませんでした?」
「まあな。というか、今回のはテストみたいなもんだった。そこそこ腕が立つヤツの中途採用ってのは、結構気を遣うもんでな…ときどき、こうやって難題を吹っかけちゃあ、失敗したときの反応を見て評価を決めるようにしてるんだが」
 つまり、最初から失敗することを前提に…というより、失敗することを期待して任務に送り出したのか、とちびのノルドは理解した。
 もちろん、そんなことをぶっちゃけられたところで嬉しいはずがない。組織の体裁や部下の士気などを考えての行為だったことは理解できるが、それでもそういうことは普通、本人には言わないんじゃあ…ここは怒るべきか、あるいは素直に打ち明けたバーズに関心すべきか、ちびのノルドには判断がつかなかった。
「とにかく、これでお前が信頼に足る人材だってことが証明されたわけだ。方法が手荒かったのは謝るが、こっちも慈善事業じゃないからな」
「はぁ…」
「そこで、お前に1つ頼みがある。これは正式な仕事の依頼だが、信頼できる部下にしか頼めない代物だ」
「なんでしょう?」
 なんというわかりやすいアメとムチ。
 さんざん相手を持ち上げるということは、それだけ仕事が困難なものであるか、面倒なものであるかのどちらかである可能性が高い。いずれにせよ、「ロクな仕事ではなさそうだ」とちびのノルドは思った。
 一方でバーズも諸々の件に関して、ちびのノルドが素直に喜んでいないことを理解しているようで、回りくどい言い方はせず簡潔に内容を口にした。
「シェイディンハルの北に邸宅を構えているラグダンフ・グロ=シャーガク卿の一人娘が行方不明になった。ラグダンフ卿の屋敷に行って事情を聞き、一人娘のログバト嬢を探し出してきてくれ」
「わかりました」
 …他に返答の仕様があるだろうか?
 極めてありきたりな言葉を返すちびのノルドを一瞥し、バーズはため息をついた。
「…本来なら、俺が自分で行きたいところだがな。立場上、そうそう身軽に動くこともできやしねぇ」
「なにか、特別な事情でもあるんですか?」
 口を挟むちびのノルドを、じろり、バーズが睨みつける。
 ああ、また余計なことを口にしてしまった…ちびのノルドが早くも後悔したところで、バーズはいつものように罵声を浴びせるでもなく、ぷいと背中を向けて言った。
「くだらんことを気にするな。いいから早く行け、行ってこい」

  **  **  **

 どうも、バーズが「できるなら自分自身で」と言ったのはまんざら嘘でもなさそうな気がする、とちびのノルドは考えた。べつに根拠がある考えではなかったが。
 もちろん、それが本当なら「支部長が本来自力で解決したかった仕事を代行する」というので名誉に感じてもいいはずだが、半ば仕事の失敗を強制させられそうになった手前、素直に喜ぶことはできなかった。
 バーズは口にこそ出さなかったが、悪党狩りに失敗することを予測していた、というのはつまり目標を見失う可能性が高かったことを示唆していただけに留まらず、返り討ちに遭い、最悪命を落とすことすら思慮の範囲内であったことを意味している。
 それは、言うなれば使い捨てと変わらない行為だ。
 使える人材であるかどうかを判断するために、こういった危険な賭けのチップとしてベットされるのは不快の極みだったが、結果として職場の信頼を勝ち得たのだから、当のちびのノルドとしては複雑な気持ちだった。
「少なくとも、怒ったところで状況が良くなるわけじゃありませんしねー…」
 すぐに職を変える、というのでもなければ、割り切るしかないだろう。
 そんなことを考えながら…ちびのノルドは、ラグダンフ卿の屋敷の門を目の前にしていた。



「わ、すっごいなぁ」
 いかにも金持ちらしい広大な敷地を前に、ちびのノルドは感嘆の声を上げる。
「…この格好のまま行っても、大丈夫…ですよね?」
 バーズは服装に気を遣え、などとは言わなかったが、もし「そんなのは言うまでもないことだ」と考えていたとしたら…いやいや、考え過ぎだろうか。
 もとより戦士ギルドの使者が礼服で来ることを期待するのは、場末の安酒場の客にテーブルマナーを要求するくらい酔狂なことだから、あまり気にする必要はないだろう。

  **  **  **

「よく来てくださった。新人の方ですかな?はじめて見かける顔だったもので、違っていたら謝りますよ。いやなに、私は戦士ギルドとはそれなりに懇意にしているものでしてな」



 ラグダンフ・グロ=シャーガク卿は気さくな人物だった。あるいは相手がオークだったから、そのように見えただけかもしれないが。
 貴族といえば高慢ちきなインペリアルかアルトマー(ハイエルフ)と相場が決まっており、オークといえば口の悪い無精者というイメージが強い。そのどちらでもなければ、それだけで好人物と評価してしまいそうになるのは無理もないことだ。
 ただし、そういうひねくれた物の見方を抜きにしても、ラグダンフ卿は貴族にしては親しみやすい人柄に見えた。
「てっきり、島人のケルドあたりが来るものだと思っていたが」
「なぜです?」
「彼は、あのギルドの中じゃあ一番バーズに信頼されているからね。君はまだ知らないかもしれないが、あの気難しいバーズの信頼を勝ち得るのは容易なことじゃあない。たんに腕が立つだけなら、他に幾らもいるのだろうけど」
 そう言って、ラグダンフ卿はカップの中のミード(はちみつ酒)をくゆらせた。
「貴女も一杯いかがです?うちで醸造した、自家製ハーブ入りの特別なミードですよ」
「あ、いえ。仕事に支障が出るので」
「おや、珍しい。ノルドはみな酒豪だと聞きましたが…いや、口が過ぎましたかな?」
 笑みを漏らすラグダンフ卿に、ちびのノルドは申し訳ばかりの愛想笑いを浮かべた。
 こういうときほど、平素から顔を隠していることに安堵を覚えることはない。表情からこちらの感情を判断されない、というだけで、ちびのノルドは常に平静でいられるのである。
 ラグダンフ卿の丁寧な物言いは不快でこそないものの、いささか肩が凝るものではあったので、ちびのノルドは早々に話を切り上げるべく、本題に入った。
「ところで、えー…娘さんが行方不明になったと聞いたんですが」
「ああ、ログバトのことですな。ああ、我が愛しの娘よ。彼女は我が屋敷の敷地内で花を摘んでいたところ…隠語ではありませんぞ…トロールの集団に襲われたのです。娘に付き添っていた使用人はみな殺され、娘はここから北に向かったところにある王紋洞窟へと連れ去られてしまったのです」
「トロールですか」
 トロール、類人猿に似た緑色の怪物のことだ。とても力が強く、頑丈で、凶暴。
 毎年、かなりの数の冒険者がトロールの犠牲になっているはずだ。ゴブリンと比べると数が少なく、知能も低いが、戦闘能力は桁外れに高く、おまけに多少の傷はすぐに再生してしまう能力(というか、生物的特徴)を持っている。
 捕食目的で人間を襲うこともあるらしく、個体によっては光りモノを好む者もいるため、巣に餌(となる人間)や宝飾品を持ち帰っていた例が討伐隊によってしばしば報告されている。
 いずれにせよ、ログバト嬢がまだ生きている可能性は限りなく低いように思えるが…ちびのノルドの思考を余所に、ラグダンフ卿が話を続ける。
「王紋洞窟にトロールが居を構えていることは、以前から把握しておりました。かねてよりバーズが討伐の許可を求めてきていたのですが、私は承認しませんでした。無益な殺生は好みませんし、トロールといえど、人に害を成す存在でなければ、あえて手を出す必要もないと考えていましたからな。しかし、それはどうやら思い違いだったようだ」
 そう言って、ラグダンフ卿は一旦言葉を切った。
 ラグダンフ卿がトロールの生態について堪能だったとは思えないが、それでも、オークの娘と一緒に花を摘むような存在でないことは、今では充分理解しているだろう。
 人間に誘拐されたときのように複雑怪奇な動向を考えなくても済むぶん、絶望もまた深いに違いなかった。
 なにせ、トロールにはログバト嬢を生かしておく理由がないのだ。
 どう慰めの言葉をかけていいやら…ちびのノルドが口を開きかけたとき、突然、ラグダンフ卿が立ち上がった。
「頼む、あのバケモノどもを1匹残らず始末してきてくれ!もう人間に悪さをしようなんて考えないよう、徹底的に殲滅してきてくれ!血の一滴も残さない完全なる粛清を敢行し、そしてできることなら、ログバトぅをっ…!?」
 そこまで大声でがなり散らしたところで、ラグダンフ卿は苦しそうに咳き込んだ。
 たぶんミードが喉に詰まったのだろう、ちびのノルドはラグダンフ卿の背をさすりながら、いままでは一切手を出さなかったトロールを全滅させろというラグダンフ卿の極端な思考に少々呆れていた。
 幾分気持ちが落ち着いたところで、ラグダンフ卿は咳払いをすると、改めて話を続けた。
「…まぁ、とにかく。貴女には、王紋洞窟に巣食うトロールどもを1匹残らず始末し、そして可能ならログバトを救出してきて頂きたい。本来なら、バーズが自ら敢行したかったことでしょうが、彼にも立場というものがありますからな」
「えーと、その。バーズさんとは親しいんですか?」
 ちびのノルドがそう言ったとき、ラグダンフ卿は目を丸くした。まるで、泥ガニと徒競走したことがあるかどうかを訊かれたように。
 帝都はシェイディンハルの西にあります、と言うのと同じような口調で、ラグダンフ卿は答えた。
「バーズはログバトの婚約者なのですよ。少々、予定が先延ばしになってはいますが」
「え…うぇえっ!?」
 婚約者。
 あまりに想定外だった単語を耳にして、ちびのノルドは思わず素っ頓狂な声を上げる。
 このときようやく、自分に対するバーズの「信頼」というのがどれほどのものか、ちびのノルドには理解できたような気がした。
 もちろんそれに対しては、「光栄」というよりもむしろ「勘弁してくれ」という思いのほうが強かったが。

  **  **  **

 ラグダンフ卿の屋敷から王紋洞窟まではそれほど離れてはいなかった。
 ご近所付き合いができるほどではないが、通常考え得るトロールの行動半径にはばっちり収まっている。
「いままで何の問題もなかったことが、むしろ不思議ですよねぇ」
 無益な殺生は好まない…ラグダンフ卿の言葉を、ちびのノルドは反芻する。
 たしかに立派な思想だ、ただしトロールには通用しなかったようだが。逆に、今回の件でラグダンフ卿はトロールをすべて駆除しろと言ったが、そのことに対してトロール達が異議を申し立てることはないだろう。
 なんという皮肉。
 そもそも人間的な倫理観やモラルというのは、自然の摂理に反することなのだ。
 虎が鹿を狩るのにいちいち言い訳をしないのと同様、鹿が虎を糾弾するための権利団体を設立することはない。よしんば鹿の数が減りすぎたとして、そのことを憂慮した一部の虎が鹿の保護を同族に訴えるようなこともない。少し匙加減を間違えればただ滅びゆく、自然とはそうした摂理で回っているのだ。
 もちろんそれは虎や鹿が人間のような知能を持っていないからだが、もし彼らが人間と同等の知能を持っていたとして、世界がより良い方向に向かうことなど有り得るだろうか?
 目には目を、やられたらやり返す。シンプルな話、けっこうなことだ。
「けっこうなことなんですけど…」
 王紋洞窟までやって来たちびのノルドは、たったいま自分が考えたことを早くも否定したくなっていた。



「オガアアァァァァアアアアッッッ!!」
 やられたらやり返す、けっこう。ちびのノルドはここへピクニックに来たわけではない。
 ちびのノルドはここへ、トロールを殲滅しにやって来た。もちろん、トロールには殺されないよう全力で反撃する権利がある。そのために頭数を揃える権利がある。フェアではないが、そのことについて神は文句を言わないだろうし、人間の法に照らし合わせても、「殺意のある人間を数人がかりで撃退する」ことに違法性を説くことはあるまい。
 ただ、そう、それでも…この状況が、えらく理不尽で、アンフェアなものに見えるのはなぜだろう?
「え~と…1匹づつ相手に、っていうわけには、いきませんかねぇ…」
 どういうわけか、ちびのノルドは王紋洞窟を根城にしているトロールどもが、わざわざ倒されるために1匹づつ現れるものだと思い込んでいた。
 しかし現実はこの有り様である。
 いきなり囲まれた。相手が人間の犯罪者だったら幾らでも撹乱する方法はあっただろうが、だいたいが食欲と破壊欲求を満たすことにしか興味がない怪物が相手では、実力で捻じ伏せるしかなかった。
 本気で戦うしかないようだ。少なくとも、トロールどもに手を抜く気はないようだった。目には目を。けっこう。
「グアアァァァァァアアッ!」
 唸り声を上げながら突進してきたトロールの顎を爪先で蹴り上げ、宙で一回転してから着地する。
 鋼鉄製のプロテクターに覆われたブーツの一撃は、さながら斧の一振りのようにトロールの顎を引き裂き、鋭い歯列を滅茶苦茶に弾き飛ばしながら、脳を直撃した。吹き飛んだ歯が散弾のように口内に喰い込み、皮膚を千切り、頭部を貫通して目をえぐる。
 クリティカルなダメージを受けたトロールは意識を失うと、突進していた勢いのまま壁に激突した。頭部が潰れたスイカのようにひしゃげ、ピクリとも動かなくなる。
「フゥッ!」
 1体目のトロールを屠ったちびのノルドは一息つくと同時に横へ飛び跳ね、別のトロールが放ったかぎ爪の一撃を避けた。
 あと2体。
 2体のトロールの立ち位置が常に直線上に並ぶよう意識しながら、ちびのノルドは距離を保ちつつ相手の動向を窺う。
 格闘戦のセオリーは、常に「一対一」の状態を保つことだ。いかに強健な武闘家といえど、異なる角度から繰り出される複数の攻撃を同時に捌くことはできない。そうならないよう状況をコントロールする必要がある、つまり、対戦相手が常に一直線上に並ぶよう立ち回るのだ。
 トロールは確かに危険な相手だ。だが彼らには知能がない。単調な動きを繰り返す木偶の坊、そういう相手は、こちらが「殺す手段」さえ持っていれば、屠るのは容易い。
「グフッ、グフッ、ギョ、ギョアッ、ギョァェエエエエッ!!」
 唾を吐きながら迫り来るトロールの脚を払い、倒れこみそうになったトロールの顔面を掴むと、ちびのノルドは壁の尖った部分にこめかみを叩きつけた。
 グシャア、肉が裂け骨が砕ける生々しい音とともに、トロールの複眼がポンと勢いよく飛び出す。
 ほんの小さい、ちっぽけな人間に次々と殺されていく仲間の姿に恐怖したのか、最後に残ったトロールが勢いをつけて飛びかかってきた。
 しかしちびのノルドはそれを避けることはせず、逆に自らも地面を蹴飛ばし、トロールに向かって飛翔した!



「っっせぇやああぁぁぁぁぁッッ!!」
 グゴキャッ!!
 ちびのノルドの鋭い蹴りが炸裂し、トロールの顎が砕け、首の骨が捻じ切れる派手な音が響く。
 ギュン、トロールは空中でスピンすると、勢いよく地面に激突した。どす黒い血が床一面に広がる。
「…っはぁー。でかいの相手は疲れるからイヤなんですよねー……」
 地面に着地したちびのノルドは荒い息をつきながら、誰に言うでもなく呟く。
 とはいえ人間相手にこれほど全力で攻撃することもそうそうないので、ある意味では快感だったりもするのだが。ちびのノルドの極限まで鍛え抜かれた肉体はまさに全身凶器とも呼べるもので、軽々しく人間相手に振るえるものではない。
 ひとまず戦闘を終えたところで、周囲を捜索しなければならない。
 トロールの殲滅はもとより、今回の任務はログバト嬢の捜索が最優先事項だ。いまのところログバト嬢の姿も、あるいはトロールがログバト嬢を喰い散らかした痕跡も見当たらない。
 だいぶ歩き回ったところで、ちびのノルドは床が浸水しているエリアへと足を踏み入れていた。既に地上からはかなり離れているはずだ。
「こういうときって、御伽噺では大抵、悪の親玉がいたりするんですよね」
 そのちびのノルドの一言に反応したかのように、暗闇の奥から、ひときわでかい唸り声が聞こえてきた。
「!?」
 咄嗟にちびのノルドが身構える。なぜならその声は、かなり近くから発せられたものだったからだ。
 やがてちびのノルドが「暗闇だと思っていたもの」がうごめき、波打ち、揺れて、紅い光が発せられる。
「ガフッ……」
 やがてそれを「トロールの変種」だとちびのノルドが把握したとき、通常のトロールの2、3倍はあろうかという巨体を揺すりながら、漆黒の怪物…通称<ナイトメア・トロール>がちびのノルドの姿を捉えた。



「ゲー…ドン引きですこれ……」
 目の前にいる、まさしく「御伽噺の悪の親玉」然とした怪物を見上げ、ちびのノルドは気の抜けた声を漏らす。
 一方でナイトメア・トロールはやる気満々のようで、ちびのノルドを軽く捻り潰せそうな巨大な拳でドラミングしながら立ち向かってきた。
「殺(ヤ)るしかない、ってわけですか…!」
 ちびのノルドは決心を固めたように身構えると、ドスドスと地鳴りを伴いながら突っ走ってくるナイトメア・トロールに向かって跳躍した。



「ホアッチャァァアーーーッ!」
 怪鳥音を叫びながら、ちびのノルドが空中で鋭い蹴りを放つ。
 かなりの高度から繰り出されたそれは、まるで吸い込まれるようにナイトメア・トロールの額に向けて一直線に叩きつけられた。頭骨がメリメリと裂ける音がし、衝撃が脳にまで達したと思われたそのとき……
 ガツッ!
 ナイトメア・トロールが横薙ぎに振るった拳がちびのノルドの脇腹を直撃し、ちびのノルドはピンポン玉のように軽々と吹っ飛ばされてしまった。
「がふっ!?」
 背中から地面に激突したちびのノルドは瞬間的に呼吸困難に陥り、激しく咳き込んだ。
 ナイトメア・トロールは複眼から血の涙を流しながらも、致命傷を負ったようには見えなかった。ボコ、ボコと額が隆起し、早くも損壊した頭骨の修復がはじまっているらしいことが窺える。
「っ…!こいつ、手ごわい」
 どうやら多少のダメージなどものともしないらしい、目の前に聳え立つ漆黒の巨体を前に、ちびのノルドは挫けそうになる。
 しかし動揺している暇はない、それは人生の無駄というものだ。まさしく…もたもたしていたら、次の一撃で本当に人生そのものをフイにされかねない。
 考えるべきことは、ただ1つ。この怪物に、どうやって有効打を与えるか。
「グアァガアアアァァァァァッッッ!!!」
 いまふたたびナイトメア・トロールが咆哮し、両の腕を振り下ろそうとする。
 ちびのノルドが慌ててその一撃を回避しようとした、そのとき!
 ザシャアッ!
 ナイトメア・トロールの肩口が切り裂かれ、おびただしい量の鮮血がほとばしる!



「フギャアアアァァァアアッ!?」
 驚くべきことに、傷口は再生することなく徐々に凍りついていった。ここがスカイリムなら話は別だが、通常、傷口が凍りついたまま体温や血の温度で溶けないということはまず有り得ない。
 つまり、この氷は魔法の力…おそらく、エンチャントが付与された武器によって生成されたものであることが予想された。
「ちょっと、大丈夫、あんた?」
 勇敢にもナイトメア・トロールの背後から飛びかかり、柄の両端に刃がついた槍で斬りかかったのは、高級なローブを身に纏ったオークの女性だった。
「ま…まさか、ログバト嬢?」
 てっきり命を落としたものとばかり思っていた貴族の娘が生きていたことに、ちびのノルドは驚きを隠せなかった。まして彼女は精神的なショックを受けた様子もなく、極めて平静を保っている。
 しかしまず、ログバト嬢の身柄を確保する前にやるべきことがあった。
 傷が再生しないとはいえ、ナイトメア・トロールはまだ致命傷を負ったわけではない。
 ちびのノルドはナイトメア・トロールの身体を駆け上がると、頭部から伸びる禍々しい角を叩き折った。呻き声を上げるナイトメア・トロールの切り裂かれた肩口を滑り降り、若干凍りつきながらもしぶとく脈打っている心臓を見つけ、先程折り取った角を突き刺した。
「グルェアアアァァァァッッ!!??」
「往生、してくださいッ!!」
 ワイン樽ほどもある心臓に、ちびのノルドとほとんど大きさの変わらない角を突き刺されてもまだ死ぬ気はないらしいナイトメア・トロールの生命力の高さにちびのノルドはほとほと呆れながらも、駄目押しの一撃を加えた。
 全力で角を蹴り飛ばしたのだ。
 推進力を得た角は心臓を突き破り、腎臓を貫通し、腰から先端が飛び出したところで動きを止めた。
 ちびのノルドの熱意に負けたのか、あるいは角の物理的ダメージに負けたのかはわからないが、ナイトメア・トロールはこれ以上生命活動を続けることを断念したようだ。いままでのやかましさが嘘のようにぐったりすると、地面に突っ伏して動かなくなった。



「まるで手のかかる赤ん坊ね。まぁ、みだりに殺したりできないぶん、赤ん坊のほうが性質が悪いけど」
 そう言ったのは、ログバト嬢だった。
 この怪物より、赤ん坊のほうが性質が悪いって?ちびのノルドは耳を疑ったが、すぐに考えるのをやめた。たぶん、今のはオーク流のジョークなんだろう。
「ところでそれ、どこで手に入れたんです?」
「ああ、これ」
 ログバト嬢は手にした槍を見つめ、こともなげに言った。
「ここのトロールども、光りモノを貯めるのが好きみたいね。宝石だけじゃなくて、エンチャントつきの武具なんかもお気に入りみたい。ほら、こういうのって微かに光を帯びているじゃない?使い方も知らないくせに、豚に真珠とはこのことだわ」
「貴女は使い方を知っていましたね」
「誰が豚だって?」
 ギロリ、ログバト嬢に睨みつけられ、ちびのノルドは萎縮してしまった。
 そんなつもりで言ったわけではないのだが……
 ちびのノルドに他意はなかったと理解したのか、ログバト嬢は表情を緩めると、ふたたび口を開いた。
「こう見えても、武道には堪能なのよ。葡萄とは縁がないけどね…うちはミード専門だから。それはともかく、父はそのことにあまり好意的ではなかったみたい。淑女のイメージに合わないからって、でも、父が今回の外出に斧の持ち出しを許可してくれたら、こんな連中に遅れを取ることなんかなかったんだけど」
「あー…」
 ちびのノルドは何かを言いかけたが、結局、何も言わなかった。
 どうやらログバト嬢はトロールに誘拐されたことも、トロールに使用人を殺されたことも、あまり気にしてはいないらしい。
 ログバト嬢が今も五体満足なのは、彼女が決してトロールを自分に近づけなかったからだろう。だが、自力で脱出できるほど易しい状況でもなかった。そんなところか。
「父や、バーズがこの状況を放っておくなんてことは考えられなかったから、私としては飛び出す機会を窺っていれば良かったと思ったのだけど」
「その判断は正しかったと思います」
 現にちびのノルドは窮地をログバト嬢に助けられ、結果として洞窟内のトロールの殲滅に成功したのだから、まったく理想的な結末と言って差し支えない。
 なにより、ログバト嬢のしたたかさは助けになった。戦士ギルドに所属する女性の中にも、これほど肉体的・精神的にタフな者がいるかどうかはわからない。たとえ貴族の娘が死んでいなくとも、恐慌状態に陥った女性をなだめるのがどれだけ大変か、ちびのノルドが考えていなかったわけではない。
 王紋洞窟から出るとき、ログバト嬢がたいして感情を表に出さない口調で言った。
「私さっき言ったわね、トロールどもは光りモノが好きだったって」
「ええ…持ってきたんですか?」
 ちびのノルドの言葉に、ログバト嬢は「いけないかしら」と首を傾げた。ちびのノルドは首を横に振った。どのみち、ログバト嬢を責めるために言ったわけではない。
「使用人は殺されてしまったけれど、いま私の手元には新しい使用人を雇っても十分に余るほどの値打ちの宝飾品があるのよね。これって、かえって得をしたってことになるのかしら?もちろん、死んだ人間が生き返ることなんてないけど…あなた、どう思う?」
「使用人は亡くなった、あなたの手元には多くの金品が残った、それを関連付けて考える必要ってあるんでしょうか?」
 ちびのノルドはそっけなく答えた。その言葉にログバト嬢が満足したのかどうかまではわからなかった。

  **  **  **

「いやはや、まさか万事上手くやってのけるとは、大したものですなぁ!」
 ラグダンフ卿はこれ以上ないくらい上機嫌な態度でそう言った。



 王紋洞窟に巣食っていたトロールを「すべて自分が」排除し、ログバト嬢を救出した…そう報告するとき、ちびのノルドはいささか居心地の悪さを覚えたが、それでも他に言い様はなかったし、その点についてラグダンフ卿が疑いを持つことはなかった。
 「私が加勢したことは父に言わないように」というログバト嬢の提案を受けてのものだったが、娘の評判を気にするラグダンフ卿の心情はともかく、ログバト嬢自身はそれで本当に良いのかと念を押して確認はしたのだ。
「そりゃあ、武勇伝を胸の内に秘めておくのは心苦しいけど。かといって、戦士ギルドの表彰状なんか貰っても嬉しくもなんともないし、ちっぽけな謝礼を貰ったところで、ねぇ…」
 だったら全部あなたの功績にしてしまうほうが良いんじゃない、とログバト嬢は答えた。どのみち、あなたに命を救われたことに変わりはないんだし、とも。
 しかしブラヴィルでの一件といい、独力では成し得なかったことをすべて自分の手柄のように話すことに、ちびのノルドは心苦しさを感じていた。ただ、ログバト嬢はその悩みを「無意味なもの」と一蹴したが。
「戦士ギルドで成果の水増し報告なんて珍しいものでもなんでもないわよ、いまどき。もちろん幹部もそのことは知っているし、幹部がそのことを知ってることも、会員は知ってる。それでも誰も、何も文句を言わないんだから、それでいいじゃない」と。
 調和が肝心なのよ、とログバト嬢は言った。
「例えそれが、虚飾されたものの上に成り立っていても?」
「碌でもない真実よりはましなんじゃない?」
 その見識はいささか斜視に過ぎるものだったが、なるほど、世の中はそういう風に成り立っているものだと、ちびのノルドは一応納得した。そもそも、普段そういったことにあまり頓着しない自分がどうこう言ったことが、今では不思議だった。
 ひとまず気持ちに整理がついたところで、あとはシェイディンハルのバーズに報告すれば終了なのだが…
「礼と言っては難ですが、是非この剣を受け取ってください」
「…え~と……」
 テーブルの上に差し出された一振りの長剣を前に、ちびのノルドは頭を掻いた。
「これは我が一族に代々伝わる宝剣でしてな、今後の活動に必ずや役立つでしょう」
 そう自信満々に言ってのけるラグダンフ卿に対し、ちびのノルドはどう返答していいかわからなかった。辞去が許されるような雰囲気でもなかった。
 エンチャントが付与されたクレイモア、華美な装飾もさることながら、実用性も見た目に引けを取らない立派な剣であることが窺える。問題は、ちびのノルドは剣をまったく使わないということだったが。
「…売ったら絶対に足がつきますよね、これ」
 無碍に断ることもできない手前、バーズに報告に行く前にこの剣の処遇をどうすべきか、ちびのノルドは頭を悩ませなければならなかった。






2013/06/03 (Mon)15:55


 どうも、グレアムです。なんとなく設定画っぽいラフを書いてみました。本当は色をつける予定はなかったんですが、まあ申し訳程度に。
 全キャラ分、こういうイラストを用意できればいいなぁと思いつつ。ある程度枚数溜まったらHPのほうに纏めておきたいですね。

 ちびのノルド、イメージ的にはもっと筋肉ムキムキな感じなんですけど、ゲーム画面ではあんな感じなんで、まあ控え目でいいのかなぁとか。一応ゲームでもムキムキにすることは可能なんですが、それやると全部の女性キャラがムキムキになってしまうので(体系のモデリングは男女別で2種類のみ使い回しなんで)、ちょっとそれはイヤかなぁと。
 素顔はラフではけっこうカワイイ感じに描いちゃったんですが、これも本当はこんなに可愛くないです。自分にコンプレックスがあるキャラなんで、本当はもうちょっとブサイクに描かなきゃいけないと思うんですが。う~ん。





2013/06/01 (Sat)13:20
 傭兵が好む歌の1つに、「If I Die In A Combat Zone(もしも私が戦場で死んだら)」というのがある。
 もしも私が戦場で死んだら、故郷の皆に、友人に、恋人に、伝えてほしい。どうか悲しまないでほしい、自分は名誉ある死を遂げ、そして悔いはなかったと。自分の墓に名前はいらない、ただ1人の人間が生き、戦い、そして死んでいったと書いてほしい。そういう歌詞だった。
 わたしは、その歌がキライだった。大キライだった。
 なぜならその歌は、「自分が死ぬと悲しむ人がいる」ことを前提にしているからだ。帰るべき故郷がある人間のための歌だからだ。
 わたしには、そんなものはない。帰りたい故郷も、親しい友人も、恋人も、愛する家族さえも。
 望まなかったわけじゃない。求めなかったわけでもない。
 でも、わたしがどれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、誰もわたしを愛してはくれなかった。
 わたしはただ、みんなのように、普通にしていたかっただけなのに。それだけなのに。

  **  **  **

「ところであの新人、使い物になるんですか?」
「さてな…帝都じゃあそれなりに活躍してたらしいから、まったくのグズってわけじゃあねーんだろうが。なにせああいう性格だしよ」
 ちびのノルドが戦士ギルド長バーズ・グロ=カシュの執務室の戸を叩こうとしたとき、部屋の中から話し声が聞こえてきた。
 あの新人、っていうのは、たぶん、自分のことだ。
 質問しているのは、島人のケルドと呼ばれている剣士だろうか。ここシロディールでは戦士や傭兵も源氏名ではなく本名を名乗ることが多いため、かえって印象に残ったせいかすぐに名前を憶えたのを思い出した。
 それよりも、バーズが自分のことをハナから否定しなかったことに、ちびのノルドは驚いていた。前回たいした失敗をしていた自分のことを、手酷く批判するものと思っていたからだ。
 これを喜んでいいものか、どうか。
 多少なりと期待されているとわかると、それはそれでプレッシャーがかかるのも確かなわけで。
 そんなことを考えていると、ガチャリ、島人のケルドが執務室から出てきた。
「よお、ちびちゃん。どうした?」
「え、あ、あの…バーズさんに呼ばれたので、ここに」
「あー、そう。入りなよ」
 彼の態度からは、さっきまでバーズと何を話し合っていたのかはもとより、いま面と向かっている人物について話していたことさえ窺い知れなかった。
 まるでトイレの順番待ちみたいな気のないやり取りをしたあと、ちびのノルドは島人のケルドと入れ替わりにバーズの執務室へと入っていった。



「ああ、お前か」
 バーズは、そのでかい図体を事務机に押し込めるようにして座っていた。たぶん、先代はオークではなかったのだろう。ただ、バーズがそのことを気にしているようにも見えなかった。
 とりあえず機嫌が悪いわけではなさそうなバーズを見て内心ホッとしつつ、ちびのノルドはたどたどしい口調で話しかけた。
「あ、あのっ。えーっと、わたしに仕事があるって、聞いたんですけど」
「ああ。どうやらブラヴィル城の地下牢に収監されていた犯罪者どもが脱獄したらしくてな、旅費は出してやるからお前、始末してこい」
「えっ、ブラヴィルに?え、でもあの、そういうときって衛兵とか、現地の戦士ギルドが動くはずじゃあ」
「それで事足りるならオメーには頼まねぇ。なにか問題でもあんのか?」
 だんだん眉間にシワの寄ってきたバーズを警戒しつつ、ちびのノルドは慎重に質問した。
「えーっと…それで、その脱獄犯たちっていうのはどこに……」
「…… …… ……」
「あの?」
 うつむいたまま質問に答えないバーズを、ちびのノルドは怪訝な表情で見つめる。
 首を傾げつつ、もう1度質問しようと思ったそのとき、バーズが勢いよく立ち上がり、両手を振り上げた。さっきまで腰かけていた椅子が宙を舞う。



「テメエ、なにもかも俺様に訊くつもりか!?いいから早々(さっさ)と行って来いってんだよ、この脳無しウスノロ短小ボケがああぁぁぁーーーっ!!」
「はーいっ!行ってきまーすっ!」
 バーズの怒鳴り声が戦士ギルドの建物中に響き渡り、ちびのノルドは殴られるよりも先に執務室を飛び出していく。
 結局「旅費」とやらを貰わずに出てきてしまったが、現在手持ちに困っているわけでもないし、後で仕事の成功報酬と一緒に請求すればいいだろう。
 そう思い、ちびのノルドはブルーマ行きの馬車へと乗り込んだ。

  **  **  **

 ブルーマまでの道半ば、というところで、ちびのノルドは奇妙なものを目にした。
『もうちょっとスピード、スピード落としてぁぁああああああっっっ!』
『如何した小童、おい小童ーーーっ!?』
 なにやら青年と、少女が言い争うような声が聞こえてくる。



 だが御者とちびのノルドが目にしたのは、帯電しながら凄まじいスピードで走行する黒い塊と、それに振り落とされて路傍へと転がっていく青年の姿だった。
「なんなんだぁ、ありゃあ」
「さあ……」
 あまりの異様な光景に御者は馬車を止め、事の成り行きを見届けようとする。
 ほどなくして黒い塊はふたたび青年を乗せると、何処かへと走り去っていってしまった。
「…魔術師と使い魔?か何かかね?あれは」
「さあ…わたし、魔法のことはあんまりよく知らないんで…」
「そうか、お嬢ちゃんは戦士ギルドの所属だったっけか。今度誰かに訊いてみるかな」
 そんなことを呟きながら、御者はふたたび馬車を走らせた。

  **  **  **

 ブルーマへと到着したちびのノルドは、ひとまず戦士ギルドに立ち寄ることにした。
「お腹も空きましたし」
 ギルド員であれば施設は無料で利用できるし、寝る場所や食事も無償で提供してもらえる。もちろん環境に甘んじて仕事をしなければ除名されてしまうが、逆に言えば、除名されない程度にきちんと仕事をこなしていれば、戦士ギルドのメンバーでいる限り寝食に困ることはないのだ。
 フリーランスの傭兵だと、そうもいかない。そういう点では、「戦士ギルドに入って良かったかもなぁ」などと現金なことを考えてしまうちびのノルドであった。



 戦士ギルドでの食事は、ちびのノルドが考えていたよりも質素なものだった。
「<ブラックウッド商会>が台頭してきてから、こちとらも台所事情が厳しくてねぇ」
 そんなことを言いながら、ダンマー(ダークエルフ)のタッドローズがパンに手を伸ばす。
 ちびのノルドはハチミツ酒を嗜みつつ、いまの言葉について訊ねた。
「ブラックウッド商会?って、なんですか?」
「あんた知らないのかい?」
「えぇーっと…わたし、最近スカイリムからシロディールに来たばっかりで。あんまり、そのへんの事情については詳しくないんですよ」
「そうかい。アンタ、良くないタイミングでギルドに入ったねぇ」
「おい、よさないか。そんな話」
 タッドローズの言葉に、重装鎧姿のヴィンセントが口を濁す。
 …良くないタイミング?
 どうもシロディールの戦士ギルドは順風満帆というわけではないらしい、どこか活気に欠ける雰囲気にちびのノルドは困惑した。それに、自分だけ事情を知らないらしいのも気色の悪い話だ。
 しん…と場が静まりかえったところで、カジートのナーシィが助け舟を出した。
「あのねぇ。いくら新人だからといっても、何も知らせないで良いわけはないだろう?いちおう、いまギルドが置かれている状況くらいは把握しておいて貰わないと」
「しかし…」
「それで新人が考えを変えるようなら、それも仕方のないことさ」
「え~と?」
 どうやら状況はかなりシリアスらしい、浮かない顔つきをしているギルド員をぐるりと見回し、ちびのノルドは言葉に詰まる。
 ちびのノルドが口を開くより先に、ナーシィが話の続きをはじめた。
「最近、戦士ギルドにライバル組織ができてね。レーヤウィンを拠点にしている、ブラックウッド商会っていう傭兵集団さ。このところ、あたし達は連中に仕事を奪われっぱなしでね、懐事情が苦しいのも、そういうわけさ」
「え…でも、戦士ギルドって昔からある組織ですよね?信頼もありますし、それがどうして新興の組織なんかに、そう安々と」
「連中はウチより安い賃金で、どんな仕事でも請け負う。それが理由さ、単純な話だろう?でもって最近、連中は規模を拡大しつつある。既に戦士ギルドからも、何人かブラックウッド商会に転身したやつがいるらしいね」
「ああ…」
 さっきヴィンセントが口を濁したのはそういうわけか、とちびのノルドは納得した。
 ナーシィが話を続ける。
「それでも、うちらに分がないわけじゃないさ。これは連中の規模が拡大してる、ってのにも関係してるけど。あいつらは人員を雇うのに基準を設けない。前科者だろうがなんだろうが、使えるなら誰でもいいって気風なのさ。だから仕事のやり方が荒っぽいって苦情が入ることもあるらしいよ。その点、うちらは真人間しか雇わないし、仕事も丁寧さ。だから昔気質の人達は、未だにうちを頼ってくれるんだけどね」
 そこまで言って、ナーシィは笑った。葬式のときに親族に見せるような笑みを。
 ブラックウッド商会が信用を落とすのが先か、戦士ギルドがジリ貧の末に店を畳むのが先か。あまり分の良い賭けではないな、とちびのノルドは思った。
 組織にとって金は力だ。金があれば優れた人員を雇えるし、優れていない人員であれば、より沢山雇える。装備だって良いものが揃えられるし、宣伝に金をかければ客も増えるだろう。それが資本主義というやつだ。時代の先を行く思想だ。
 戦士ギルドの現在の方針を見る限り、ブラックウッド商会の活動に何らかの対策を立てているようには見えない。結局は、依頼人の良心に任せるしかないということか。
 ギルドに加入するには良くないタイミング、とはよく言ったものだが、それでもちびのノルドは今すぐブラックウッド商会に転身しようという気にはなれなかった。仕事が荒っぽい、ならず者でも平気で雇う、というその性質は、個人的にもやや気がかりだ。
 それに、もし転身するのであれば、それこそ戦士ギルドが潰れてからでも遅くはないだろう…そんなことを考えながら、ちびのノルドは鹿肉のステーキに手を伸ばした。

  **  **  **

「でー…肝心の、犯罪者たちの情報については何もわからないままなんですけどー…」
 後日。
 戦士ギルドを出たちびのノルドは、たいしたあてもなくブラヴィルの街をふらついていた。
『連中はブラヴィルでもかなり悪名高いワルどもでね。脱獄後、どこに行ったか目撃している住民もいるはずだが、仕返しを恐れて誰も話そうとはしないんだ…特に、我々戦士ギルドの人間にはね。衛兵も無関心を決めこむようだし、連中の居所を探るのはかなり難しいな』
 先日、食事のついでにヴィンセントが言ったことをちびのノルドは思い出す。
 ただし幸いと言おうか、標的の素性と人数については把握ができた。
 標的は4人。ノルドの戦士ホロフガル、レッドガードの戦士アシャンタ、アルゴニアンの弓兵ドリート=ライ、そしてアルトマー(ハイエルフ)の魔術師エンリオン。
 この4人は同じグループに属する武装強盗で、これまでシロディール各地で暴れ回り、何人も殺してきたという。目撃情報を衛兵に提供した人間は執拗に追いかけて殺すという話もあり、現在ブラヴィルはかなりの緊張状態にあるようだ。
 戦士ギルドが信頼されていないのは、ブラックウッド商会の台頭に伴う凋落が根底にあるのだろう(もちろん、戦士ギルドのメンバーはそんなこと言わないが)。そして、ブラックウッド商会を雇ってまで犯罪者達を討伐しようと考える人間も、ここブラヴィルにはいないようだ。
 財政が苦しいのか、治安維持に対する意識が低いのか。
 で、何故わざわざ余所の戦士ギルド会員であるちびのノルドが派遣されてきたのかというと。
『たぶん、戦士ギルドの人間だと信頼されないから、外部の人間だと思わせたかったんじゃないか?たんなる傭兵であれば、まだしも口を滑らせる住民がいるかもしれない』
 ヴィンセントからそう聞いたとき、ちびのノルドは思わず頭を抱えた。
「…つまり、最初に戦士ギルドに入っちゃダメだったってことじゃないですか!やだー!」
 ブラヴィルに到着して早々、ちびのノルドが戦士ギルドに入っていったのは、この街の住民が皆目撃している。つまり、既にちびのノルドの面は割れてしまっているということで。
 戦士ギルドの人間だと判明してしまった以上、街の住民がちびのノルドに協力的な態度を取ってくれるとは思えない。
「あー。どうしよう…手ぶらじゃ帰れないし…かといって、手掛かりもないんじゃあなぁ~…」
 こうしている間にも、もう標的は遠くまで逃げているかもしれない。バラバラに逃走していたとしたら、それこそお手上げである。
 どんよりとした気分のまま彷徨うちびのノルドの目前で、突然、何者かが叫び声を上げた。



「ソイヤァーーーッ!」
「えっ!?」
 ドッパァーーーン。
 謎の声を上げながら、街の中心を流れる川にアルゴニアンの女性が飛び込んでいった。
「セイヤァーーーッ!」
 ザッパァーーーン。
 今度は凄まじい跳躍力で川から飛び出すと、スタッ、ちびのノルドの目前に見事着地した。両足はまったくふらつくことなく、ピタリと揃っている。
 わけがわからずまごついているちびのノルドに向かって、アルゴニアンの女性は声を張り上げた。
「おぉ、君は知っているかッ!美しく輝く水面を跳躍し、建物の屋根から屋根へと飛び移り、街の影から影へと疾駆するその姿をッ!」
「え?あ、あのぅ…」
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、我こそは正義の使者トビウオ師匠ッ!この世にはびこる悪という悪は、この私が月にかわって仕置きするッ!ヘアッ!」
「あ、あのっ!」
 ちびのノルドが呼び止めようとしたとき、トビウオ師匠を名乗る女性はふたたび川に飛び込んでいってしまった。
 ドップゥーーーンッ!
 ゴッパァーーーンッ!
 驚くべき跳躍力で繰り返し川から岸へと移動を繰り返すトビウオ師匠。
 その様子を観察していたちびのノルドはついに彼女の動きを見極めると、着地の瞬間を狙ってトビウオ師匠を捕まえ、関節技をキメた。
「ちょっと、お話を、聞いてください、ねっ!」
「ノーッ!オー、ノーーーッ!!ギブッ、ギブギブッ!ギブアップ!」
 メキメキメキメキ。
 降参するトビウオ師匠を放し、ちびのノルドはフーッと息をつく。
「ところで、あの。あなた、さっき『正義の使者』って言ってましたよね?」
「いっ…いかにもっ…!このトビウオ師匠、この世の悪を正すためにアカトシュから遣わされた正義の使者ナリよ……!」
 ぶっ倒れて肩で息をしながら大言を吐いても、あまり説得力はないのだが。
 ちょっとやり過ぎたかな、などと思いながら、ちびのノルドは質問を続けた。
「それじゃあ、最近ブラヴィル城の地下牢から脱獄した凶悪犯たちがどこに逃げたか、知りませんか?」
「もちろん知っているとも!しかし、それを言っては私の命が危ない…もとい、無辜の民を巻き込むわけにはいかないのだ」
 ギリギリギリギリ。
 口を濁すトビウオ師匠を、ちびのノルドはふたたび締め上げた。
「ノーッ!オー、ノーーーッ!!ギブアップ!ギブアップナリよッ!」
「で、彼らはどこにいるんですか?」
「連中は、ここから西にある<ブラッドマイン洞窟>に潜伏しているッ!しかし、私の口から聞いたとは誰にも言わないでほしい。私もまだ命が惜しいッ!もとい、正義の使者には秘密がつきものであるからして」
「言い訳になってないと思います、それ」
 トビウオ師匠の言い訳はともかく、これで必要な情報は揃った。
 あとは凶悪犯達が逃げる前に始末をつければ良いということだ。ブラヴィルの戦士ギルド員に協力を要請しようかとも考えたが、連中が歩哨を立てていた場合、大人数で向かうと事前に察知されて逃げられる恐れがある。
 …単独で決着をつけるか。
 そう決心し、立ち去ろうとしたとき。
 ブラヴィル城の衛兵達が、凄い形相でちびのノルドに向かって来るのが見えた。
「あー…ひょっとして、往来で一般人をシメたのはまずかったでしょうか」
 面倒なことになったなー…と思った矢先、衛兵達はちびのノルドを素通りして一目散にトビウオ師匠の元へと向かっていった。
 やがて、衛兵達が叫ぶ。
「コラーッ、シティ=スイマー!川に飛び込んではいかんと、何度言ったらわかるんだ!?」
「今日こそは逮捕してやるッ!」
 逮捕、という言葉を聞き、トビウオ師匠(どうやら本名はシティ=スイマーというらしい)はガバッと起き上がると、やはり人間離れしたジャンプを披露しその場から脱出した。その動きは、さながらセクシーコマンドー使いのようである。



「フハハハハーーーッ!我が名はトビウオ師匠、正義の使者は決して権力の横暴には屈しないのだァーッ!」
「なァにが正義だ、このオタンコナス(死語)!」
 トビウオ師匠と衛兵と掛け合いを眺めながら、ちびのノルドは一言、呟いた。
「…楽しそうだなぁ……」
 ちなみに、ブラヴィルの川(ラーシウス川)には各家庭の下水が流れ込んでいる。

  **  **  **

 ゴトッ。
「うん?…いま、何か物音がしたような」
 そんな死亡フラグ丸出しの台詞を口にしたのは、ブラヴィル城の地下牢から脱獄した武装強盗の1人ホロフガル。
 ここブラッドマイン洞窟で、脱獄囚4人はふたたび活動を始めるための態勢を整えるために潜伏していた。はじめは協力者を見つけて国外へ脱出するつもりだったのだが、かつての仲間達がみな非協力的だったため、4人は独立せざるを得なくなったのである。
 もともとこの4人の横暴さは武装強盗団の中でも抜きん出ていて、仲間内からもあまり快く思われてはいなかった。それが今回の脱獄劇で完全に表に出た形になる。
「チクショウ、あいつらめ。いままで、いったい誰のおかげで稼げてたと思ってんだ…」
 そんなことを愚痴っていたとき、ホロフガルの背後に、ひらりと舞い降りる影があった。



「こ、こ、だ、よん」
「…え?な、ハッ!?」
 ドキャアッ!
 ちびのノルドの強烈な飛び後ろ回し蹴りが顔面に炸裂し、ホロフガルが涎を飛ばしながら吹っ飛んだ。
 どう考えても無事には見えないホロフガルに近づき、ちびのノルドは脈を取る。
「…よし。死んでない」
 最近どうも殺人技が板についてきたようで、本人にとってはそれがイヤで仕方なかったので、とりあえず1人目を殺さずに済んだのは良い兆候だった。
 …そもそも徒手格闘は、剣なんかの刃物より生殺与奪に関する調整がききやすいはずなんだけどなー。
 そんなことを考えながら、しかし実戦では力の加減が難しいことを、改めてちびのノルドは痛感していたのだ。
 とりあえず、だらしなく倒れているホロフガルを縄で縛り上げるちびのノルド。
「あと…3人、ですか」
 おそらく、他の連中にはまだこちらの存在を知られていないはずだ。
 ちびのノルドはふたたび息を殺すと、ブラッドマイン洞窟の最奥へと進んでいった。



 しばらく暗い道を歩くと、いったいどこから運んできたのか、木材が山積みにされているのが見えた。続けて、木材の向こうから物音がしたため、ちびのノルドは咄嗟に木材の陰に隠れる。
 ちらりと顔を覗かせて物音がしたほうを見ると、周囲を警戒するように、斜面を動き回る人間の姿が見えた。
 全身を皮製の装備で包み、手には鉄製のロングソードが握られている。
 女性のようだ…おそらく、レッドガードのアシャンタだろう。
 さて、どうやって無力化したものか。少しばかり思案してから、ちびのノルドはたったいま目の前にあるものを利用しようと考えた。
「ふ、ん…のぉおりゃあぁぁぁっ!」
 腰を落とし、山積みにされた木材を持ち上げてひっくり返す。
 大量の木材が斜面を転がり落ち、アシャンタが異音に気がついたときには既に逃げられない状況になっていた。
「え?あ、ああぁぁぁっ!?」
 ドガッ、ガラガラガラ、ゴシャァーン!



 自分よりも大きいサイズの、それも大量の木材にプレスされ、アシャンタが圧死する。
「あ、あやー…やりすぎちゃったかな……」
 気絶さえさせれれば、と考えていたちびのノルドは、自分で思っていたよりも凶悪な攻撃をしてしまったことに後悔する。脈を確認するまでもなく、アシャンタがまだ生きているとは思えなかった。

 残るは2人。
 またしばらく進み、「この洞窟はどこまで続くんだろう…」と思いかけたところで、ちびのノルドの視線の先に明かりが見えた。
「焚き火…ですかね」
 人の気配を感じ、ちびのノルドはおそるおそる歩を進める。
 姿勢を低くして音を立てないように、そして立ち位置にも気をつけて(姿を見られていないつもりでも、光源がある場合は自分の影にも気をつけなければならない)移動していたはずだが、気がついたのは相手のほうが先だった。
「ほう…知らない気配だ。どうやらホロフガルとアシャンタは貴方に気付かなかった…いえ、違いますね。もう始末されてしまったとか?」
 いかにも思慮深くて聡明な男が取るような態度でそう言ったのは、アルトマーの男だった。身軽な服装で、腰には青白く発光する(おそらく、何らかのエンチャントが付与されているのだろう)銀製のダガーがぶら下がっていた。
 恐らく、彼が魔術師のエンリオンだろう。
 なぜこちらが先に見つかってしまったのか、ちびのノルドには心当たりがあった。ついさっき、移動している最中に微かな違和感を覚えたのだ。薄い膜を突き破ったような感触、あるいは、結界か何かに触れたような感触を。
「魔法って厄介ですね。こっちがどんなに慎重に移動してても意味ないんですから」
「貴方も魔法が使えたなら、対策は立てれたでしょうけどね」
 そう言って、エンリオンは腰のダガーを抜いた。
 まさか、接近戦を挑むつもりか?ちびのノルドは拳をかまえながら、相手の真意を測れないでいた。



「フンッ!」
 素早い動きで斬りかかってくるエンリオンを、ちびのノルドは拳で弾くように押しのける。
 魔剣士…とでもいうのか、どうやらエンリオンは剣術も多少嗜んでいるらしく、動きに隙がなかった。もっとも、ちびのノルドのような近接格闘に特化した戦士を相手にするには少々役不足だったが。
 いくら高価な武器を使っているとはいえ、あまりに考えが甘すぎやしないか。
 そう思ったとき、ちびのノルドはハッとした。
 …こいつは、わざとこちらの油断を誘おうとしている!
「悪いが、いただきだ。おちびちゃん」
 そのとき、ちびのノルドの死角になっている影から声が聞こえてきた。
 エンリオンの素早い動きにも対処しなければならないため、ちびのノルドは振り向くことはせず、少しだけ視線を動かして声の主の姿を追った。そこにいたのは、弓を引くアルゴニアン…ドリート=ライ。
 タイミングを見計らったかのようにエンリオンが飛び退き、ドリート=ライが矢を放とうとする!
「やばいっ!」
 ちびのノルドは咄嗟にドリート=ライのつがえる矢の角度と引きの強さを観察し、軌道を読もうと試みる。
 飛来する矢を拳で叩き落とすのは、スカイリムで過ごした傭兵時代に何回かやったことがある。しかし、それらはいずれも見通しが良く距離の離れた平野での話で、今回は閉鎖空間、しかも互いの距離が近い。
 果たして、やれるのかどうか。失敗すればただでは済まないだろう。
 ドリート=ライが矢から指を離した、その瞬間。
 ドガッ!
 何処からか飛んできた謎の「影」が、ドリート=ライに飛び蹴りをかました!
 突然の衝撃によって矢は大きく狙いを外し、天井に突き刺さる。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、この世にはびこる悪は許しちゃおけねぇ、いつでも出番だ正義のヒーロー!ちょっと遅れて来るのはご愛嬌、終わり良ければすべて良しッ!」
「と、トビウオ師匠!?」
 なんと、登場と同時にドリート=ライに蹴りを炸裂させたのは、ブラヴィルで出会ったトビウオ師匠ことシティ=スイマーだった!
 あまりに突然の出来事に、ドリート=ライとエンリオンは呆気に取られている。
 しかし、その隙を見逃す2人ではなかった。



「今だ、スキありっ!」
「ぐぼべらっ!」
 ゴキャッ!
 ちびのノルドがエンリオンの首筋に踵落としをキメ、昏倒させる。
 そして……
「邪悪なる魔性の眷属よ、今こそ正義の鉄槌を受けるがよいっ!」
「ちょ、て、鉄槌っていうかそれ、木箱…うぉあああぁぁぁぁぁっっっ!?」
 シティ=スイマーは脱獄囚達が逃走中にかき集めた武器の詰まっている重い木箱を軽々と持ち上げると、それをドリート=ライに向けて投げつけた!
 ゴッシャァーーーン。
 どうにか逃げようとしたものの、腰を抜かしてしまっていたドリート=ライは顔面からもろに木箱の直撃を受け、バタンと倒れる。大量の鼻血を出しているが、どうやら死んではいないようだ。
 とりあえずエンリオンも死んではいないらしい、今回は割と平和的に問題を解決できたようだと満足しつつ、ちびのノルドはシティ=スイマーに向き直った。
「あ、あのっ、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいやら…」
「よいのだ、勇敢なる市民よ。本来悪を滅ぼすのはこの正義の味方であるトビウオ師匠の役目、むしろ、こちらこそ礼を言いたいくらいだ」
「あ、はぁ…」
 なにやらやたらとカッコ良いことを言うスティ=スイマー、ちゃんと行動が伴っているあたりは厨二病患者の鑑と言って差し支えないだろう。
 まるでストレッチのような変なポーズを取っているのは、まあこの際無視するとして。
「しかし、この世にはまだまだ滅(メツ)さねばならない悪が存在している。トビウオ師匠に、安らぎの時はないのだ…!では、サラダバーッッ!」
「あ、あのっ!?」
 ちびのノルドが止めるよりも早く、シティ=スイマーは忽然と姿を消してしまった。
 泡を吹いてぶっ倒れている脱獄囚達を見つめながら、ちびのノルドはぽつんと、呟いた。
「…これ、手柄は全部わたしのものにしちゃっていいんですかねー……」






2013/05/30 (Thu)10:41



 どうも、グレアムです。
 SS用に画面写真を撮影していたところ(しかしこのSSって言い方も相当にややこしいな、「スクリーンショット=画面写真」と「ショートストーリー」でダブッてる…TES4SSのSSは後者の意)、思いがけないバグに遭遇したのでつい撮影してしまいました。
 ArmAのバグ撮影動画のときに、碌に検証しないまま撮影を終えてしまった反省を活かし、今回は色々と試してみましたよ。まぁ、期待していたほど面白い結果にはならなかったけど。
 ちなみにBGMは映画「戦場でワルツを」から。

  **  **  **

 あーそうそう、冒頭で何を「自粛」したのかについても一応解説。
 これの元ネタは「荒ぶる高校球児たち」という動画です。


一応ニコニコにもあるんだけど、削除される可能性の低いYoutube版で一つ。

 これは「98甲子園」というゲームの「投球フォームエディット」という機能に関するネタ動画です。
 ゲーム内容そのものの説明は割愛しますが(字面でだいたい察してくれ)、この動画の凄いところは、バグではないってこと。あくまでもゲーム上の仕様で、その気になれば(えらく手間がかかるらしいが)誰にでも再現可能だという点だ。
 この動画に使用されている曲は、Mintjamの「rival」。じつはこれがクセモノで、この動画がニコニコで公開された際に爆発的な再生数を獲得し(初出がつべとニコのどっちだったかは未確認)、「この曲といえばこの動画」という認識が広まったため、元々のMintjamファンが激怒。結果として動画が(自主)削除されることになった。
 でまあ、今回のバグ動画を撮影した際、真っ先に思い浮かんだのがこの動画だったため、控え目ではあるが(リスペクトの意も込めて)冒頭でネタとして扱った次第である。

  **  **  **



 上のイラストは動画の最後で表示されるちびのノルドのちびキャラ版。
 乳袋いいよね。現実には有り得なくとも。





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