主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2014/09/15 (Mon)12:31
↑番長というかギャングというかヤクザな風貌
どうも、グレアムです。ちょっと休むだけのつもりが大爆睡してしまいました。ぬああああ!
最近喧嘩番長をプレイしています。一作目。PS2のやつ。なんでいまさら。
いやーやっぱり面白いですね。マフィアやギャングが成り上がるゲームがあるなら、番長が成り上がるゲームがあってもいいじゃない。戦闘の扱いなんかは、今にして思えばトゥルークライム(&スリーピングドッグス)なんかがアプローチ的に近かったのかもしれませんね。
肝心の戦闘システムに関してはかなりマズイというか、たとえばDMCあたりと比べると明らかにレスポンス悪いというか練り込み不足でストレスマッハ加速なんですけど、まあベースがGTA系統のクライムアクションだと考えるとそれほど悪くもないというか。
↑敵の番長を諭す主人公。木刀はやめて!
ストーリーは王道というか、まあクサい話なんですけど、だがそれがいい!というか、このゲームでそんな奇をてらう必要はないですよね。一作目だし。
GTAとかセインツばりに暴れて悪行の限りを尽くしたい向きは続編をプレイしましょう。あれの悪人ルートはかなりヤバイ。これB指定でいいの!?って思いましたからね当時。どう考えても主人公が死ぬべきだったラストに無常感がハンパない。
↑誰が読んだか「ジョニー・ロビンソン」。オリエンタル番長
ちなみに今回、主人公の名前をジョニー・ロビンソンでプレイしてます。まさかの英名。
他のキャラに名前を呼ばれるたびに「誰だよ!?」感がハンパない。「ありがとうジョニー…いやロビンソン……」とか、シリアスシーンがギャグになる。いや変なことは言ってないはずなんですけどね。
↑啖呵失敗。たまにはこんなこともある
ゲームは残り三校ってところまで進んでいます。恋愛フラグ進めつつ。根は純情なヤンキー娘いいですよね。
しかしザコ戦で必殺技使ったら近くの車に多段ヒットしたらしく一気にシャバ僧になってしまい、勢いで木刀持って暴れまくったら光の速さでシャバ王になってしまった。参ったなぁ。
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2014/09/13 (Sat)16:26
↑某所で公開した採用前イメージ
俺ああいうリブート企画けっこう好きなんだけどね。
というわけでどうも、グレアムです。いきなりアレなネタで申し訳ないですが。
さてようやくというか、HPに新世代重装狐ことゲーム「コンコンコレクター」にて採用されたキャラクター「アンダーウッド」「ルイス」「エデン」の拡大版をUPしました。図鑑画像は例によってゲーム限定ということで、アーマーの中身が見れますので興味がある方は是非ゲーム中でゲットしてください。
<< アンダーウッド 200Pixel拡大版 >>
<< ルイス 200Pixel拡大版 >>
<< エデン 200Pixel拡大版 >>
<< 三匹集合 40Pixel拡大版 >>
<< 使用銃火器 60Pixel拡大版 >>
さて、ここからは新世代重装狐についての設定をチラリと。
ちなみに設定といってもオフィシャルではなく、あくまで絵描きの妄想扱いなので、その点は留意をお願いします。
ベケットたちのスーツは設計段階から本人専用に極度のカスタマイズを施された代物なのですが、アンダーウッドたちが着用するものは量産型の汎用スーツをそれぞれ個人的に改造したもので、その特性や運用法が根本的に異なります。
初代重装狐用のスーツは特殊作戦用で、ベケットは高機動力高火力、チャペルは通信・電子技術特化、クレインは潜入作戦特化。作戦に合わせて正しく運用すればかなり有用なのですが、いかんせん汎用性が低いのと継戦能力に乏しいということで、じつはかなり扱いが難しいのです(物語的に)。
第二世代重装狐は通常戦闘を目的として設計されたので、初代のように特別な機能などは一切ないのですが、各種センサーに短距離通信装置、パワーアシストなど兵士の戦闘能力を向上させるものが一通り揃っています。いわゆるランドウォーリア・システムの正当進化みたいな感じです。初代のはフューチャーウォーリアをさらに各人に合わせて尖らせたような性能です。
機動性もまったく違い、初代の装甲は軽合金とポリマーの複合素材なので高い機動性と静音性を両立させた反面、抗弾性能はあまり高くないです。一方で第二世代はチタニウムとセラミックの複合素材で抗弾性能がかなり高い(大口径ライフル弾の直撃も止める)反面、機動性が低く歩行時にかなり甲高い金属音を立てます。
後輩たちが☆4で先輩より性能が高いのは、まぁあくまで通常戦闘における単純火力と継戦能力が高いから、ということで。いや本当は☆3希望だったんですけどね、意外な誤算でした。まさかと思うものなー。
アンダーウッドはベケットの妹(正確には義体のベースになった素体に遺伝子的な繋がりがある)で、イメージとしては大和撫子な感じです。ベケットのことをお兄様って呼びます。能力的にはザ・平均値という感じで、無個性っぽいのを想定しています。ただ格闘能力は突出していて、ベケット直伝の空手の腕は第二世代重装狐の中でも群を抜いています。
ルイスは学者志望のインテリなのですが、貧乏なせいで入隊を余儀なくされた青年です。彼はずっと人間社会に溶け込んで生活していたのですが、入隊時の検査で狐魂とバレて否応なしに重装狐部隊に編入されたという。そもそも軍隊生活に思い入れがないので、あまりやる気がないです。
エデンは湾岸戦争中に米海兵隊員に拾われた狐魂で、軍人に憧れて海兵隊に入隊した生粋の軍人気質の持ち主です。育ての親の恩義に報いるため、差別や迫害を受けながらもSEALSの厳しい入隊試験を潜り抜けた猛者なのですが、新世代重装狐部隊の創設にあたって当人の意思に関係なく陸軍に転属を言い渡されるという不本意な境遇に置かれる結果に。そのため他の仲間と打ち解けず、しばしば問題を起こすことがあるとか。
最後にそれぞれが使用する銃火器について。
アンダーウッドが使用するアサルトライフルXM2014は新世代重装狐部隊に標準支給される予定の銃で、デザインの元ネタはもろにXM29OICWです。口径は7.62x51mmで、装弾数は20発(30発装填のロングマガジンもありますが、まず使われることはないです)。アンダーバレル・グレネードは40mm口径で、装弾数は1発。装填機構はM203のようなスライド式ではなく、AG36のような中折れ式です。
ルイスが使用するケルベロスヘッドは7.62x51mm口径の銃身が二本、さらに12.7x99mm口径の銃身が一本という三連銃身式で、デザインのベースはM60です。7.62x51mmは上面排莢で、12.7x99mmはブルパップ式(銃の後部上面にドラムマガジンを水平に装填する)の下面排莢です。おそらく瞬間火力はベケットのガトリングガンより上でしょう、反動がハンパないためルイスしか扱えないアホみたいな銃です。制圧射撃用ですが、バリケードごと標的を粉砕します。
エデンが使用するヴァン・ドッケン・ロングボアは専用のハンドロード弾(.557Mag)を使用する狙撃用ライフルで、ブルパップ式のボルトアクションです。デザインの元ネタはWA2000ですね。じつはこれ、とある小説に登場する架空銃器を再現したものです。エデン曰く「1km先の象を即死させる威力と、1km先の蟻を狙撃できる精度を持つ世界最高の銃」。もっとも、その扱いにはかなりの習熟を必要とするらしい。
そんなわけで、ようやくというか、第二世代重装狐の設定を紹介することができました。
怪文書という名のSSはいまシロッコ編が大詰めで、次はベケットがシロッコと遭遇するエピソードを予定しています。その次はサチコのオリジン、チャペルとクレインの個別エピソードと予定が詰まっており、第二世代重装狐の話を書くのはかなり先になりそうです。
2014/09/07 (Sun)15:59
↑ウィル・オ・ウィスプに襲撃される帝国軍馬。乗り手はスイーツ(笑)した。
じつはアメリオンの遺産クエで流れてきたのはこいつ。偶然の産物です。
どうも、グレアムです。
先日TES4SSのドレイク編とちびのノルド編でクロスオーバーをやりましたが、じつはこれ、ずっとやりたかった話なんですよね。構想自体はかなり初期段階からあって、地味に両者の旅の行程を合わせてたりします。
といっても厳密にタイムラインを組んでるわけではないのですが、じつはSSに登場する五人とも、全員似たようなルートを通って旅をしているんですよね。これは最終的にクヴァッチでのイベントで集結するフラグなんですが、そこまで行くにはまだまだ時間がかかりそうです。
で、今回の話のコンセプトはというと…「ちびのノルドのお尻を見せる!」。これに尽きます。
いやじつはちびのノルドのデザイン・コンセプトには元ネタのようなものがあって、今回の話はそれに対するオマージュも含んでいるんですよ。
まあ、その元ネタっていうのは某大手サークルが過去に出してたモンハンのおまけ本なんですが。リノプロ装備の。まあ俺モンハンやったことないんですが。
そんなわけで、絶対に尻を出すエピソードは一回はやりたいと最初から思ってて、別キャラとクロスでという…あ、ガリダンの涙クエでやろうってのも最初から決まってました。なぜか。
この程度の描写なら少年誌レベルだから問題ないでしょう。許してくれるだろうか許してくれるねありがとうグッドトリップ。答えは聞いてない。ninjatoolsの倫理規定なぞ知ったことか!(CV:杉田)
↑河中遊泳。犬かきする馬がぷりてぃすぎる。
2014/09/03 (Wed)08:31
「そろそろ本当にシェイディンハルに戻らないと…」
ビエナ・アメリオンの一件を無事に処理し、戦士ギルド・レーヤウィン支部長のブロドラスから報酬を受け取ったちびのノルドは、いままさにレーヤウィンを発とうとしているところだった。
馬車の手配や移動にかかる時間、必要になる携帯食料の用意といった算段を頭の中で組み立てていたとき、不意に彼女を呼び止める声が飛び込んでくる。
「そ、そこの君っ!」
「…は、はい、わたしですか?」
雨の中を猛然と走ってくるローブ姿のカジート、魔術師ギルドの者だろうか?
ちびのノルドに追いつき、膝に手を置き肩で息をしながら、カジート…魔術師ギルドの一員サ=ドラッサが話をはじめた。
「君、戦士ギルドの人だよね?ちょっと前に、あちこちで仕事の斡旋先を探して回っていた」
「そうですけど…」
「じつは、君に頼みたい仕事があるんだ」
その言葉を聞いたとき、ちびのノルドは「なんだか嫌な予感がする」と直感する。サ=ドラッサの必死な様子は、あからさまに面倒事の臭いがするのだ。
「あの、わたし、そろそろ所属の支部に戻らなければならないので…仕事の依頼であれば、この街のギルドの人に頼んでください、申し訳ないですけど」
「いや、君じゃなきゃ駄目なんだ。この街の戦士ギルドにノルドはいないし、それに、仕事に関しては君が特に優秀だと聞いた。是非君に頼みたい…相応の報酬は支払う」
ノルド?
戦士として優秀かどうかはさておき、ちびのノルドはカジートの口から自らの種族の名を聞いたとき、マスクの下で眉をひそめた。
種族的には異端な体躯、そして同族から虐げられてきた経験から、ちびのノルドは自分がノルドであることを誇りに思ったことなどなかった。だからこそ、仕事の要件に「ノルドであること」が含まれているらしいことにいささか複雑な感情を抱いてしまう。
そんなちびのノルドの心情など気づくはずもなく、サ=ドラッサは話を進める。
「じつは先日、アルゴニアンの戦士にとある仕事を依頼したのだが…あるものを渡し忘れてしまったんだ。彼が赴いたのは特殊な寒冷地で、おそらく耐寒用の装備がないと長くは保たないだろう」
「寒冷地…ああ、ノルドが必要っていうのは、そういう理由ですか?寒さに強いからっていう」
「その通り、このポーション…僕が自作した、フロストウォードの媚薬という代物だが…これは寒冷地において肉体のコンディションを優れたコンディションのまま保ってくれるものだが、生憎、一人用しか用意していない。つまり、これを配達する人員はポーションに頼らなくても、できるだけ長期間寒冷地で行動できる者でなければならないんだ」
「その、アルゴニアンの戦士さんが向かった場所って…危険なところなんですか?」
「ああ危険だ、かつて幾人もの冒険者たちが挑んでは帰ってこなかった魔窟…だからこそ、優秀な戦士でなければ、このポーションの配達を任せることができないんだ」
ほら、やっぱり面倒な依頼だ…そう思いながらも、一方でちびのノルドはこの仕事がかなり魅力的なものであるようにも感じていた。
たんに金銭的な話だけではない。
もとよりレーヤウィンはブラックウッド商会が幅をきかせ、戦士ギルドにはほとんど仕事がない状況だった。そこでこの困難な任務をやり遂げ、魔術師ギルドとコネを作っておけば、その功績はかなり評価されるに違いない。
所謂大きなビジネル・チャンス、さんざん帰郷が長引いたことを勘定に入れても、バーズ・グロ=カシュだって文句を言ったりはしないはずだ。
「わかりました。その仕事、この戦士ギルド会員であるアリシア・ストーンウェルが責任をもって引き受けます」
「ありがたい!事態は急を要する、いますぐにでも現地へ向かってほしい」
足代を含む報酬の半額を前払いで受け取ったちびのノルドは、本来シェイディンハルへ向かうために手配していた馬車に飛び乗ると、行き先の変更と追加料金の支払いを御者に告げ、レーヤウィンを発った。
** ** ** **
馬車を走らせ向かった先は、ハートランド北部。ジェラル山地に近い「炎凍の洞窟」と呼ばれる場所だった。
「間に合うといいんですが…」
アルゴニアンの戦士との出立時期の誤差は一日、そのことを知っていたちびのノルドはかなり予定を切り詰めて最速でこの場所まで移動してきたのだ。
なるべく、アルゴニアンの戦士がゆっくりこの場所まで移動してくれたなら良いのだが。
たとえ急いでこの場所に来ていたとしても、ほとんど強行軍のような形でやって来たちびのノルドよりは確実にペースは遅かったはずだが、それで一日という時間差が埋まったかどうかは判断が難しいところだ。
「これは…」
洞窟の中に入ると、そこには絶命した野生動物の死体がそこかしこに転がっていた。
傷口を見るに、動物たちはどれも鋭利な刃物による一撃で屠られている。いずれも見事な手際だ。
「まだ死体が温かい…血も固まってない…これ、ついさっきなんだ」
間違いない、自分が探しているアルゴニアンの戦士はさっきここを通ったばかりだ!
そう確信したちびのノルドは、松明を手に洞窟を奥へ、奥へと進んでいく。
アルゴニアンの戦士がサ=ドラッサに依頼されたのは、かつてジェラル地方にある一領地を治めていた騎士ガリダンの遺したアーティファクトの回収。
干ばつに見舞われた領地を救うため、無限に水を生成し続ける水差しを求めてこの地にやって来たガリダンの伝説は戦士にとって有名な逸話だ(ギルドと縁のない戦士でもたいていは知っている)。
水差しを守護する魔神との一騎打ちに敗れ、死の直前にガリダンの流した涙が女神マーラの祝福を受け、強大な魔力を秘めたアーティファクトとしてかの地に遺されているという。サ=ドラッサはその、ガリダンの涙と呼ばれるアーティファクトの回収を流浪のアルゴニアンの戦士に依頼したというのだ。
「まさか、こんな形で自分があの伝説に関わることになるなんて…」
やがて白銀の扉の前に到着したちびのノルドは、かつて魔術結界によって守られていた扉にそっと手を触れる。
『扉の結界を解くアイテムは彼に渡してあるから、もし彼が先行しているなら、君もそのまま侵入できるはずだ』
サ=ドラッサの言葉を思い出し、ちびのノルドは扉を開け放つ。
扉の先に広がっていたのは、一面雪に覆われた幻想的な光景だった。
話に聞いていたように相当な寒さだったが、かつてスカイリムで活動していたちびのノルドにとってはさほど苦になるものではなかった。とはいえこの地の寒さはスカイリムのものともまた違う、どこか異質なものではあったが。
「さて、アルゴニアンの戦士さんを探さないと」
わずかな異変も見逃さないよう感覚を研ぎ澄まし、しばらく周囲を捜索するちびのノルド。
「ぐ、ほっ…」
『他愛もない、劣等種め。握り潰してくれよう』
やがて、ちびのノルドはこの地に君臨する魔神…炎凍のアトロナック、グレイド・ウォーデンの手によって捕らえられたアルゴニアンの戦士の姿を目撃した。
どうやら間に合ったようだが、このままでは危険だった。
いますぐに行動を起こさなければ!
そう直感したちびのノルドは、いまにもアルゴニアンの戦士を握り潰そうとするグレイド・ウォーデンに向かって全力でダッシュすると、地面を蹴り、天高く飛び上がった!
「イヤァーーーッッッ!」
グガギンッ!
アルゴニアンの戦士を拘束していた巨大な拳に向かって、ちびのノルドは強烈な蹴りを浴びせる!
鋼鉄をも砕く一撃に耐え切れず、グレイド・ウォーデンはアルゴニアンの戦士…ドレイクを掴む手を放す。
宙空に放り出され、地面に叩きつけられたドレイクは荒い息をつきながら、いま起きたことを正確に把握しようとしていた。
「い、一体…」
「間に合ってよかった」
地面に着地すると同時にグレイド・ウォーデンから距離を取りつつ、ちびのノルドはドレイクの無事を確認し安堵のため息をつく。
「…!?おまえは」
一方で、ちびのノルドの姿を見たドレイクは驚いたような表情を見せた。
あれ、顔見知りだったっけ?
アルゴニアンに知人はいないので、それらしいのがいればすぐに思い出せるはずだが…そんなことを考えながら、ちびのノルドはサ=ドラッサの依頼を思い出し、ポーションをドレイクに投げ渡した。
「戦士さん、これを!」
「これは?」
「寒さに効くポーションだそうです。わたし、レーヤウィンで魔術師のカジートさんに頼まれたんですよ、これをあなたに届けるために」
「カジート…サ=ドラッサか!」
表情を明るくするドレイク、なるほど依頼対象に間違いなさそうだ…ふつう、アルゴニアンとカジートは仲が悪い。というか、カジートを好く者など滅多にいないのだが。
そんなことを考えながら、ちびのノルドはまず第一目標を達成したことを確信した。
残る問題はガリダンの涙の回収と、目前の魔神への対処だ。
自分の受けた仕事はポーションの配達だけなので、魔神やガリダンの涙は放っておいてもいいのだが、おそらくドレイクがガリダンの涙を持ち帰れなければ依頼主の心象は最悪なものになるだろう。後金を貰えなくなる可能性もある。
いちおう戦士ギルドの信頼にも関わるし、ここはドレイクと共闘して目前の脅威を排除し、一緒に依頼主のもとへ帰るのが最善だろう…そう判断すると、ちびのノルドはふたたび拳を握り固めた。
『おのれ小癪な、小娘!』
「シロディールではどうか知らないですけど、本場ノルドの寒さへの耐性を甘く見ないほうがいいですよ」
ビュン、巨大な拳を振り回すグレイド・ウォーデンに、軽い身のこなしを披露し翻弄するちびのノルド。
なるほどたしかに、この冷気はシロディールの人間には辛いものだろう。しかし、一年を通して雪に閉ざされた大地で生きてきたちびのノルドにとっては、この程度ではさほどの障害足り得なかった。
『抜かすか、ワシに向かって…このこわっぱが!』
猛り狂うグレイド・ウォーデンの拳をかわし、ちびのノルドは鋼鉄をも砕く一撃を繰り出す。
ガシ、ガギ、ガキンッ!
派手な破砕音を響かせ、グレイド・ウォーデンのボディが氷の粒子を散らせながら擦り減っていく。
…このまま、いける!
そう確信したちびのノルドはしかし、その油断が命取りになったことを数瞬後に思い知らされた。
ドガッ!
「うわっ!?」
『小娘、ここまでだ!』
あと一撃、もう一撃…そう考えながら拳の乱打を浴びせていたちびのノルドは、咄嗟に放たれた素早いパンチを避けきれず、直撃を受け吹っ飛ばされてしまう。
『いまとどめを刺してやる!』
ドサッ、雪の上に倒れたちびのノルドを覆うようにグレイド・ウォーデンが両掌をかざし、ちいさなボディを叩き潰さんとオーバーアクションで振りかぶる。
避けなきゃ…そう思いながらちびのノルドが、ふと視線をグレイド・ウォーデンの背後に向けたとき。
どうやらちびのノルドから渡されたポーションを飲み干したらしいドレイクが、いままさにカタナを抜き放とうとしていた。
ズドシャアァァアアアアッッッ!!
「……え…?」
ちびのノルドが全力で殴ってさえ表面を削ることしかできなかったグレイド・ウォーデンのボディを、たったのカタナの一振りで粉砕するドレイク。
「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、砕牙・弐式」
なにやらつぶやきながらカタナを鞘に戻すドレイク、その技を目の当たりにしたちびのノルドはただ呆気に取られるしかなかった。
あれは…カタナを振る瞬間、筋肉を痙攣させ刀身を微細振動することによって共鳴作用でグレイド・ウォーデンの鋼鉄よりなお固い氷の身体を破壊したのだ。
ただの力ではない、カタナの切れ味によるものでもない。武器に頼っているわけではない、腕力だけに頼っているのでもない。
あれはどういう剣技だろう…シロディールではおよそお目にかかれない、いやスカイリムでもついぞ目にしたことのなかった異端の剣技に興味を惹かれながら、未だ粉砕されたグレイド・ウォーデンの細氷舞うなかでちびのノルドは口を開いた。
「いやー、すごいですね…いまの技」
「お嬢ちゃん、怪我は平気なのか?」
「ええ、幸いヤバイところにはもらわなかったので」
「それは良かっ…!?」
安堵の息をつきかけたところで、ドレイクが急に視線を逸らす。
なんだろう、なにか変わったところがあるだろうか?
そんなことを思いながらドレイクを観察するうち、ちびのノルドは彼と以前会ったことがあることを思い出した。そうだ、たしか帝国軍からの依頼でアイレイド遺跡…ヴィルバーリンといったか…そこを根城にしている盗賊団の壊滅に向かったとき、なんの因果かちょっとした争いに発展したのだった。
「いったいどうし…あ、あなた!いつか古代遺跡で会った剣士のひと!?」
先刻からのドレイクのいささか不審な挙動にようやく納得がいったちびのノルドだったが、それでもドレイクは一向にこちらを振り向こうとしない。
まさか、あのときのことを後悔しているわけでもないだろうが、いったい何事だというのだろうか。
「どうしたんですか?」
その場から立ち上がり、身体に纏わりついた雪をぽんぽんと払ってからドレイクに近づくちびのノルド。
「なに、ぼーっとしてるんです?ひょっとして具合でも悪いんですか?怪我をしたとか…」
もしや、自分が到着する前に追った傷でもあるのか?あるいはポーションの効き目が切れたとか。
どうも調子が良くなさそうに見えるドレイクを観察しようと、ちびのノルドは身体を密着させる。これでもずっと傭兵稼業で食ってきたのだ、応急処置などはお手の物である。
しかし、ポン、ドレイクはちびのノルドの肩に手を置くと、努めて平静を装うふうに声を低く落としながら、搾り出すように言った。
「いいか、ちょっと聞いてくれ」
「なんです?」
「いまから俺がなにを言おうと、決して動揺するな。いいな?」
「動揺なんかしませんよ、いったいどうしたっていうんです?」
「おまえ、ケツ丸出しだぞ」
「…… …… …… ……」
ドレイクの一言で、ちびのノルドはピタリと動きを止める。
…そういえばさっきから、やけに下半身がスースーするような気がしていたが。
ひょっとしてグレイド・ウォーデンから受けた攻撃による衝撃で、下半身のプロテクターが破壊されたのか?そして、ドレイクはさっきからずっとそれに気がついていた?
視線を下に向けたちびのノルドは、やがて女の子が出してはいけない叫び声を上げ、顔を真っ赤にして暴れた。
「あ、ゎ…ゎぁあぎゃぎゃぎぐがぎゃぐゃげぎゃぎゃぎゃ!!!!」
「うわっ!?おい暴れるなこの筋肉娘!」
「見たんですね?見たんですね!?」
「見てない見てない見てない!見てねェよ!」
ちびのノルドが平静を取り戻すのには、多少の時間を要した。
** ** ** **
「無事に帰ってきてくれて何よりだ、しかし…君たちにそういう倒錯した性癖があるとは知らなかったよ」
「うるせぇシバくぞこの野郎」
魔術師ギルド・レーヤウィン支部、サ=ドラッサのオフィスにて。
ドレイクのズボンを履いたちびのノルドと、哀しい目つきでブリーフ姿を晒しているドレイクを前に、サ=ドラッサは驚きの声を上げていた。
「ガリダンの涙を持って来てくれたのは嬉しいけど、そんな姿を見たら君のご両親も涙を流してしまうよ」
「息子のために流した涙にマーラ様がくそったれの加護を授けてくれりゃあいいよな、畜生め。おっと失礼、不信心な発言だった。でもな、この格好でハートランドからレーヤウィンまで移動するのは大層な拷問だったぞ」
「女の子を下半身丸出しのまま連れ歩くよりましだと思いません?」
「…テメェのつるつるの股なんか見たって、誰も欲情しねえよ」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!見たんじゃないですか!見でだんじゃないでずがっっっ!」
ドレイクの失言を耳にしたちびのノルドが、ドレイクの膝をガシガシと殴り続ける。
「痛ぇ痛え痛ぇ痛ぇ!」
「剃ってるだけですから!剃ってるだけですから!」
「あの…ここ、いちおう公共施設だから、あまり騒がないでほしいんだけど…」
狭い空間のなかで暴れる二人に向かって、サ=ドラッサがばつが悪そうにつぶやく。
周囲のギルド会員たちの視線に気がつくと、ちびのノルドとドレイクは誤魔化すように咳払いをした。
「と、ともかくっ!これからもどうか、戦士ギルドを贔屓にしてくださいねってことで!」
ピッ、人差し指を突きつけながら、ちびのノルドがセールストークをぶちまける。といっても今回の依頼は魔術師ギルドとは無関係な個人の依頼だったのだが、ちびのノルドは知る由もなく。
そんなことを思ってか、サ=ドラッサは苦笑しながら返答した。
「商魂たくましいね、しかし君のおかげで助かったのも事実だ」
「わざわざ戦士を雇って魔道具を届けてくれるとはな。あのポーションは効いたぜ、口にした途端、全身に力が漲ってきたからな」
素早い対応でピンチを救ってくれたサ=ドラッサに、ドレイクが感心したようにつぶやく。
しかし、それに対する反応は驚愕だった。
「…飲んだのかい?」
「え?」
「あれ、塗布用の薬剤なんだけど…少なくとも、ヒューマンが飲んだら身体に負荷がかかりすぎて、最悪死ぬ危険もある薬だよ?」
「おいおいおいおい!」
「でもまあ後を引くような代物じゃないし、ここまで無事なら悪影響も残っていないだろう。サンプルとしては特殊すぎて参考にならないけど…アルゴニアンの特性か…それとも特異体質?まあ、早めに尿を排出しておいたほうがいいと忠告しておくよ。まだならね」
「ハートランドからここまで小便せずに移動したら膀胱が保たねぇよ」
「そりゃそうだ」
そこまで言ったとき…ズドン!
遠くから爆発音が響き、地鳴りとともに建物全体が揺れた。
いったい何が起きたのかと訝る三人の耳に、建物の外で叫ぶ声が聞こえる。
『爆発だ!元帝国軍総司令官のアダムス・フィリダが襲撃された!』
「なんだ?」
「そういえば、帝都のお偉いさん…もう引退したらしいけど…この街にある別荘で隠居生活送ってるって聞いたな。いつも護衛を引き連れてて目立つし、新聞にも書いてあったから有名だったけど」
「へー」
おそらくは深刻な事態が発生したのだろうが、蚊帳の外にいる三人はどこか他人事のように言葉を交わす。
その後一人の暗殺者が教会の尖塔から身を投げ込まれることになるが、ちびのノルドがそのことを知る機会はなかった。
2014/09/01 (Mon)06:04
あのとき…彼女は俺に助けを求めた。だが、俺には何もできなかった。
あのときは。
だが、今は?
今なら、いや、今だからこそできることがある。だから俺は、ここに来たんだ。
そろそろ、ふたたび現実と向き合うときだ。
** ** ** **
「おまえか、カイリウスを殺った傭兵ってのは」
レーヤウィンを出て行こうとしたドレイクを呼び止めたのは、二人組の衛兵だった。
豪雨のなかに身を晒した状態で剣を抜く衛兵たちに、ドレイクはただならぬ雰囲気を察知する。これは犯罪容疑者への対応ではない、殺気を隠そうともしない若き衛兵たちの態度は、端っから「生死問わず(Dead or Alive)」の凶悪犯に立ち向かうような…あるいは、自分たちにとって都合の悪い者を始末するときのような、それだ。
「官憲の恨みを買うような真似はしてないつもりだが。剣を向けるなら、その前に容疑の読み上げくらいしてくれてもいいんじゃないのか…たとえ、ここの女主人が亜人種を嫌ってたとしてもだ」
「口が立つな、傭兵。だが、言っておくが、法律に違反していなくても、俺たちが手を下さなきゃいけない案件はゴマンとあるんだぜ」
居丈高な態度を崩さない衛兵の口ぶりに、しかしドレイクは奇妙な違和感を覚える。
傭兵?俺たち?
俺を傭兵と断定するような材料をこいつらが持っているのか、そしてこいつらは衛兵や城の名のもとに動いているのか、さもなくば独断で…仲間内だけで、所謂「俺たち」のために動いているのか?
はじめに口に出した名、「カイリウス」というのは誰だ?
ドレイクが推察を重ねる間もなく、衛兵の口から真実が語られる。
「いいかおのぼりさん、お前やリレクスのような正義漢気取りが好き勝手やってくれたおかげで、俺たちはものすげー迷惑してんだよ。いままでは、ただ口を閉じてるだけで大金が懐に入ってきたってのに、今じゃあ酒代にも困る有り様だ。お前がこっちの立場なら、我慢できねーだろうが、エェッ!?」
カイリウス、リレクス、金。
ああそうか、ドレイクはひとりごちた。
これは、グレイランド…カイリウスとかいうドラッグ・ディーラーを始末するため、リレクスという名の衛兵隊長に雇われて汚れ仕事を引き受けた、あの案件だ。
そういえばカイリウスは金で衛兵を買収していたと聞いた。なるほど、汚い金で私服を肥やしていたクズ野郎どもが逆恨みしてきても不思議はないということか。
不穏なのは、奴らが他でもなくドレイクの元へ来た、そのタイミングだ。
カチリ、カタナの鍔を指で鳴らしながら…ドレイクは、口を開いた。
「…リレクスはどうした」
「いまごろはトパル湾の底で寝ぼけてるぜ。お前もすぐに後を追わせてやるよ!」
「野郎…ッ!」
こいつら、私怨で上司を殺しやがったのか!
ドレイクはスッと腰を屈めると…目前の男たちを一閃で屠るべく精神を集中させた。
…官憲に手をかけるようなリスクは、避けたかったが!
衛兵たちが足を踏み出し、ドレイクがカタナを抜きかけた、その刹那!
バシュウゥゥゥゥゥウウウッッッ!!
青白い閃光とともに衛兵たちの足元が氷塊に覆われ、急激に冷却された空気中の水分が凝固。あられと化した雨粒が衛兵の顔面を叩く。
「ぐあッ、な、なんだ…魔法か!?」
「そこまでだ、ゴロツキども…この男に手を出したら、僕がタダじゃあおかない」
足を取られ身動きが取れない衛兵たち、一方で魔法を繰り出した男…魔術師風のローブを羽織ったカジートの男は、あきらかにドレイクを庇う目的でいまの一撃を放った。しかしドレイクはこの男に見覚えは…少なくとも、命を助けられるような縁を持った覚えはない。
こいつは、誰だ?
「貴様、魔術師ギルドのカジート!我々に手出しをしたらどうなるか、わかっているのか!?」
「お前たちこそ、いままでの悪事の証拠をアレッシア・カロに突き出されたら首くらいでは済まないぞ。こっちは証拠を握っているんだ…リレクスを『ただ殺した』のはまずかったな!」
「くそ、畜生この、クソッ、クソ猫め!」
「なんとでも言うがいい、金のために同族を裏切る畜生に何を言われようと心など痛むものか」
やがて魔法の効果が切れ、身体が自由に動くようになった衛兵たちは一目散に退散しはじめる。
それを見てふたたびカタナを抜こうとしたドレイクを、カジート…サ=ドラッサが止めた。
「あんな連中のために、君が手を汚す必要はない」
「まさか俺に殺させないために、わざとあのタイミングで魔法を使ったのか?お前、何者だ」
「紹介が遅れてすまない。僕はサ=ドラッサ…魔術師ギルドの一員だ。じつは君に、頼みたいことがある。一度ギルドまで来てくれないか」
「それは、いいが…これは魔術師ギルドが絡む仕事の話か?」
「いや、僕自身の個人的な依頼だ」
** ** ** **
「リレクスと僕は、ともにスクゥーマ撲滅を誓い合った同志だった」
魔術師ギルド、レーヤウィン支部の一室。
サ=ドラッサのオフィスにて、ドレイクは彼の話に耳を傾ける。
「そもそもスクゥーマはカジートがシロディールに持ち込んだ薬と聞いていたがな」
「その通りだよ。あれはカジートにとって『お菓子』みたいなものなのさ。もっとも、多くの人間にとっては極めて常習性の強い劇薬と成り得るが…信じ難いことに、そのことを知ってもなお、それについて深刻に考える仲間はいなかった。社会基盤そのものを破壊しかねない麻薬を、はじめは身内同士でやり取りしていた。原料のムーンシュガーを持ち込み、栽培し…しかし、『人間相手に商売すれば高く売れる』ということがわかってから、同志たちはこぞってスクゥーマ・ビジネスに手をだすようになった。やがて仲間だけではなく、ヒューマンやエルフまでもがシェアを奪い合い…最悪の結果だ」
「子供の教育によくないのは確かだな」
「まったくね。僕は仲間が招いたこの結果に責任を感じている、だからいままでの魔術師生命を賭してスクゥーマ中毒を治療できる薬の開発に心血を注いできた」
そう言うサ=ドラッサのオフィスの本棚には、古今あらゆる種類の錬金術に関する本が並んでいた。中にはデイドラ言語で書かれたものと思しき書物、とうの昔に絶版となりプレミア価値のついた古書なども混じっている。
「そんなとき…僕は、リレクスと出会った。不正を許さず、スクゥーマ撲滅に尽力する彼とはすぐに意気投合したよ。だから、グレイランドでの一件も聞いている。その結果彼が不幸に遭ったのは…無念というほかない」
『私はね、正義があると信じたいんだよ。こんな世の中でも、善良な人間が幸せに暮らせる世界をね…罪人は、たとえどんな地位や権力や、あるいは金を持っていても、犯した罪を償わなければならない世界を信じたいんだ』
サ=ドラッサの言葉を聞き、ドレイクはかつてリレクスが語った言葉を脳裏で反芻させる。
あいつめ…だから、そんな台詞は死亡フラグだと言ったんだ。
「それで、俺に頼みっていうのはなんだ?リレクスから俺のことをどういうふうに聞いているかは知らんが、俺はあまり誠実なほうじゃないぜ」
「僕が君にこの仕事を依頼するのは、君が誠実だからじゃない。君が、腕の立つ戦士だからだ。君に依頼したいのは…さるアーティファクトの回収だ」
そう言うと、サ=ドラッサは一冊の大判書籍をテーブルの上に広げた。タイトルは、「騎士の黄昏」。
「昔、あるところにガリダン・スタルラスという名の騎士がいた。ファーマントル・グレンズという地を治める領主だったガリダンは、大干ばつに見舞われた領民を救うために私財を投げ打って彼らのために尽くした。しかし状況が改善されないまま収穫の時期を迎え、このままでは…」
「ちょっと待ってくれ。この講釈はいつまで続くんだ?」
「…すまない、要点だけ話そう。あるとき彼のもとに一人の賢者が現れ、『永遠に水が溢れ出す水差し』と呼ばれる魔道具の存在を示唆した。ブルーマ地方の山中にある洞窟を越えてそれを見つけたガリダンは、領民を救うためそれを持ち帰ろうとした」
「だんだん話が読めてきたな。依頼っていうのはその、水差しの回収か?」
「いや、違う。水差しはもう、この世には残っていない…話を続けよう。ガリダンが水差しに手を触れたとき、氷の魔神…水差しを守護するガーディアンが目を醒ました。死闘の末ガリダンは魔神の一撃を水差しで庇い、破壊された水差しから溢れる大量の水でガリダンと魔神はもろとも凍りつき、戦いは決着した。いまでもその場所には、氷の中に閉じ込められたガリダンと魔神の姿が残っているそうだ」
「……それで?」
「凍りつく直前、ガリダンは自分の冒険が失敗し、領民を救うことが不可能になったと悟ったときに、幾許かの涙を流したそうだ。あくまで自分の命ではなく領民のために涙を流したガリダンを憐れんだ女神マーラの手によって、その涙は魔力を吹きこまれ結晶化した…それが、『ガリダンの涙』と呼ばれるアーティファクトにまつわる逸話のすべてだ」
「なるほどな。それで、依頼っていうのはその、ガリダンの涙っていうアーティファクトの回収ってわけか。しかし、逸話と言ったな?まさか本当は存在しないとかいうオチじゃないだろうな」
「いままで」
話を続けながら、サ=ドラッサが小さな皮袋に手をかけた。口紐を緩め、中から小さな結晶のかけらを取り出す。
「幾人もの冒険者がこの伝説に挑み、そして帰ってこなかった。だが一人だけ、わずかなかけらのみを手にして帰ってきた者がいた…僕はそれを高額で買い取り、その構造、成分を分析した。その結果、このアーティファクトがスクゥーマ中毒に対し極めて効果的な中和作用があることを突き止めたんだ」
「なるほど。それが本当に涙からできてるかどうかはともかく、それらしいものは実存するってわけだ」
「僕はこれを複製したい。これと同じものを作りたいんだ、しかしこのかけらだけでは、ちょっとした実験に使うだけで無くなってしまう。そしてシロディール全域に中和薬を普及させるためには、おそらく現存するガリダンの涙だけでは数が圧倒的に足りないだろう」
「だから、研究のためにより多くのガリダンの涙が必要ってわけだ…その、ちっぽけなかけらだけじゃあなく」
「その通り」
そこまで言って、サ=ドラッサは一枚の地図と、氷に似た粒…レンズのようなものをテーブルに乗せた。
「これがガリダンの元へ通じる洞窟の位置を記した地図と、魔法による結界に守られた扉を開くための精製されたフロストソルトだ。帝都の魔術大学から取り寄せた一級品さ」
「用意がいいんだな」
「ずっと準備はできていた。しかし、この仕事を任せられるだけの人材がいなかった…もっと君に早く会えていたらと思うよ」
「…ここまで話を進めておいて野暮だが、俺に得はあるのか、この話は?」
「ハハッ、さすが傭兵、しっかりしてるね。もちろん報酬は約束する、生きて帰ってきたときに後悔させないだけの額は用意できるつもりだ」
「縁起でもないこと言うな。それじゃあ…ボーナスを期待しても?」
「金かい?」
「情報だ。お前が魔術師ギルドの一員だってところを見込んで、ある情報を知りたい。特に錬金術師なら、その方法を知っているはずだ」
「僕にできることなら、何でもしてあげたいけど…」
勿体つけて話すドレイクに、サ=ドラッサが困惑を隠せない表情で応える。
しかしドレイクにとってもこれは、リスクを伴う提案だった。狂人と思われるかもしれない…しかし、いまさら後には引けなかった。少なくとも、目前のカジートは自分を信用してくれている。
「俺が知りたいのは…オブリビオンの領域に侵入する方法だ」
「!!」
ドレイクの言葉に、サ=ドラッサが絶句する。
しばし逡巡したのち、しかしサ=ドラッサは意を決したように顔を上げると、口を開いた。
「…わかった。それは魔術師ギルド、いや魔術大学が扱う部外秘の情報だから、本当はいけないことなんだけど…いいだろう、もしガリダンの涙を持ち帰ってくれたら、その方法を教えるよ」
「交渉成立だ」
そう言って、ドレイクはテーブルの上にあった地図と精製済フロストソルトを掴む。
部屋を出る直前、ドレイクはふと思い出したように立ち止まると、サ=ドラッサに問いかけた。
「…ところで。ガリダンの領地にいた人間はどうなった?」
「ガリダンの死と時を同じくして、大量の雨によってもたらされた豊作によって飢饉を乗り越えたそうだ。これをガリダンの徒労に対する皮肉と取るか、ガリダンのもたらした奇跡と取るかは人次第だけどね」
「ありきたりなハッピーエンドだ」
面白くなさそうな口調でつぶやいたが、しかしドレイクの口許は、こころなしか微笑んでいた。
** ** ** **
途中までの移動を馬車で済ませ(足代はサ=ドラッサが前払いで出してくれた。気前のいいやつだ)、ドレイクは地図で示された場所…「炎凍の洞窟」と呼ばれる場所までやって来た。
「どれ、幾多の冒険者が帰らぬ者となった魔窟…腕を試させてもらうか」
すらりとカタナを抜き放ち、ドレイクは洞窟の入り口へと手をかける。
ギィィィ…いまにも腐り落ちそうな木製の扉が軋みながら開いた、そのとき。
『キュイィィィィッ!』
「ムンッ!」
ザシュッ!
おもむろに顔面目掛けて飛び込んできた巨大なドブネズミを、ドレイクはカタナの一振りで両断する。
洞窟の中でドレイクを出迎えたのは、ドブネズミの群れに野生の狼といった動物たち。こんな場所ではエサの確保もままならないのか、皆死に物狂いでドレイクに襲いかかってくる。
「とはいえ…難攻不落のダンジョンと言うには役不足だな。冒険者の死体も見当たらないし、これはただの前座か」
やがてドレイクは、古びた洞窟の中にあって似つかわしくない白銀の扉を発見する。
鍵らしきものはどこにも見当たらない、しかしハンドルを引いても扉はピクリとも動かず、まるでフェイクのように開く気配がなかった。
「なるほど、これが盗賊除けの魔術結界か」
ドレイクは慌てることなく、腰のベルトに身につけていた革のポーチから精製済フロストソルトを取り出し、扉にピタリと当てる。
すると…
「うおっ!?」
精製済フロストソルトの特性に呼応した結界が閃光を放ち、ドレイクの目を眩ませる。
しばらくしてその現象は収まり、やがて扉は何事もなかったかのように元の状態に戻る。しかし、先刻まで感じられた結界の気配は失せていた。
ドレイクは幾度か瞬きしたのち、ドアのハンドルに手をかける。さっきまでは良家の子女の貞節のように固かった扉はすんなりと開き、目の前に雪が吹きすさぶ幻想的な光景が広がる。
「これがガリダンの領域…炎凍の大地、か」
そうつぶやきながらも、ドレイクはこの場所のあまりの寒さに身を縮こまらせた。
「うぅ、くそ…俺は寒いのは苦手なんだぜ」
身体が焼けつくほどの痛みを感じる凍土、すなわち炎凍…と呼ばれるだけのことはあるな。
そんなことを考えながら、ドレイクは英雄ガリダンの亡骸と、彼が流したとされる涙の結晶を探すために周囲の散策をはじめた。
「こいつか?」
遠目からでもわかるほど、ひときわに輝く宝石のようなものを発見したドレイクは、足早に駆け寄ったあと、それを拾った。
「なるほど、一目でわかる魔力を秘めたアイテムだ。これがガリダンの涙…」
腰を屈め、涙滴状に結晶化したクリスタルを拾い上げるドレイクの目前には、巨大な氷塊に閉じ込められた英雄ガリダンと、拳を振るい永遠に水が沸き続ける水差しを破壊した姿で固まった氷の魔神の姿があった。
「ずっとこの姿のままで残っているのか…」
極低温では細菌が繁殖することはできない、だからこそ腐敗すらしていないのだろう。
しばらくその光景に目を奪われながらも、ふと我に返ったドレイクはガリダンの涙を早々に皮のポーチに仕舞い、その場から立ち去ろうとする。
「ガリダン…結果的に、あんたは領民だけじゃない。シロディールで苦しむ多くの人間を救うかもしれないんだぜ。英雄冥利に尽きるってもんだろう、なあ?」
そう言って踵を返した、そのとき。
『卑しい人間どもめ、まだ諦めがつかんと見える。我が領域より、物を持ち出すことなど不可能。我が領域に存在するものは、すべて我のもの。つまり貴様も、すでに我が物となったのだ』
「なんだと?」
どこからともなく聞こえてくる声に、ドレイクはカタナを抜き放ち周囲を警戒する。
やがて…
ドシャアァァァァアアッッッ!!
氷塊が吹き飛び、閉じ込められていたガリダンもろとも粉砕する。
そこから現れたのは、ガリダンとの戦いで氷塊に封じ込められていたはずの氷の魔神…炎凍のアトロナック、グレイド・ウォーデン!
「おいおい、冗談だろ!?」
自分の数倍はある身の丈の魔神の威容に圧倒され、ドレイクは絶句する。
『ムウゥゥゥンッ!』
グレイド・ウォーデンの繰り出す巨大な拳を、ドレイクは咄嗟の動作でかわす。
しかしここで、ドレイクは新たな脅威の存在に気がついた。
…さっきよりも寒くなっている!?
すでに視界は極端に狭まり、十メートル先の様子さえ窺うことができない。呼吸をするたびに鼻と口腔内が凍りつき、地面に接地する足がトラバサミの罠のように氷で絡め取られる。
そしてそれは、ドレイクにとって最悪の環境…そのことを理解したとき、ドレイクは自分がここで死ぬかもしれないことを認識した。
「くっ!…か…風詠(かぜよみ)が…コントロールできない…!」
風詠。
それはドレイクが習得した醒走奇梓薙陀流に伝わる独自の呼吸法であり、肉体と精神をコントロールするための基礎的な技術である。基礎でありながら、その習得には最低でも十年はかかると言われ、また風詠を自在に操れる者は百年に一度の逸材と言われる。
師範代クラスでも風詠を完璧にコントロールできる者は稀である。しかし、ドレイクは風詠をマスターしていた。それは、ドレイクがかつて故郷で尊敬されていた理由の一つでもあった。
だが並の呼吸すら困難であるこの環境で、ドレイクは風詠のコントロールができなくなっていた。
そして、足場。
醒走奇梓薙陀流の奥義は、そのほとんどが一歩踏み込んでからの一撃。しかし足が凍り地面に貼りつく最悪の足場では、理想の一撃を叩き込むために必要とされる踏み込みを困難なものにしていた。
「シィッ!」
ガキ、ガギィンッ!
劣悪な環境のなか、ドレイクはどうにかしてグレイド・ウォーデンに一撃を与えようとする。しかしカタナの一振りはまるで鋼鉄の塊を叩いたかのように弾かれ、些細な傷しか与えることができない!
「(…醒走奇梓薙陀流の奥義には、踏み込みを必要としない形もある。しかし、この氷の魔神をぶっ壊すための一撃を放つには、やはり踏み込みが必要…!)」
やがてドレイクの皮膚までもが凍りはじめ、筋肉は思うように動かなくなり、目の奥に鋭い痛みが走る。まさか、眼球の水分までもが凍りはじめている…!?ドレイクは慌てて瞬きをしたが、今度は目を開けることすら困難になってしまった。
ほとんど身動きが取れなくなったドレイクを攻撃するのは、おそらく容易であったのだろう。
ガキィッ!
「ぐ、ほっ…」
『他愛もない、劣等種め。握り潰してくれよう』
グレイド・ウォーデンの拳に捕らえられ、ドレイクは苦悶の表情を浮かべる。
勝機はなかった。
「つ、強すぎる…!」
おそらくはこの気候、この環境を作り出しているのも目前の魔神なのだろう。
あつらえた狩場に呑気にやってきた無力な獲物、それがいまのドレイクを形容するに相応しい言葉だ。
やがてグレイド・ウォーデンの拳に力が込められ、ドレイクの肉体を圧迫していく。握り潰されるのは時間の問題だった。
だが、そのとき!
「イヤァーーーッッッ!」
グガギンッ!
突如飛来した何者かが見舞った鋭い蹴りが、ドレイクを拘束していたグレイド・ウォーデンの拳を一撃!開かれた拳からこぼれ落ちたドレイクは地面を転がり、苦しそうな呻き声を上げる。
「い、一体…」
「間に合ってよかった」
「…!?おまえは」
たったいま命を救ってくれた者の姿を見て、ドレイクは驚きの声を上げる。
見覚えがあるぞ、この小娘…たしか以前、ユンバカノの依頼でアイレイドの彫像を探していたとき、帝都南部のヴィルバーリン遺跡で遭遇した記憶がある。
あのときはちょっとした行き違いから戦闘に発見したが、けっきょく、適当な理由で手打ちにして別れたのだったか。
といっても彼女のほうはドレイクの正体に気づいていないらしく、ドレイクがここにいることを知ったうえで追ってきたわけではないらしいのだが…
「戦士さん、これを!」
加勢してきた徒手格闘のファイター…ちびのノルドが、瓶入りのポーションをドレイクに投げ渡す。
「これは?」
「寒さに効くポーションだそうです。わたし、レーヤウィンで魔術師のカジートさんに頼まれたんですよ、これをあなたに届けるために」
「カジート…サ=ドラッサか!」
状況が状況だけに早口で言葉を交わす両者、しかしいつまでもお喋りを許すほどグレイド・ウォーデンも気が長いわけではなかった。
グン、巨大な拳が振りかぶられ、ちびのノルドに強烈な一撃を叩き込もうとする。
咄嗟の動きをそれを回避するちびのノルド。
『おのれ小癪な、小娘!』
「シロディールではどうか知らないですけど、本場ノルドの寒さへの耐性を甘く見ないほうがいいですよ」
『抜かすか、ワシに向かって…このこわっぱが!』
猛り狂うグレイド・ウォーデンの拳をかわし、重い一撃を繰り出し続けるちびのノルド。
あいつ、ノルドだったのか…ドレイクはぼんやりとそんなことを考え、この人死にが出かねない過酷な環境で軽快に動く少女の姿にいたく感心する。
しかし傍観者を気取っている場合ではない。ドレイクはさきほどちびのノルドに渡されたポーション…フロストウォードの媚薬と呼ばれる秘薬の封を乱暴にちぎると、一息に飲み干した。
「こ、これは…!」
灼熱の液体を喉奥まで一滴残らず流しこんだとき、ドレイクは自分がまったく寒さを感じていないことに気がついた。
目ははっきりと開き、筋肉の硬直はなくなり、血流が全身に行き渡る。自らの身体から発散される体温か、あるいは秘薬の力によって張られた魔法の皮膜によってか、いままでドレイクに纏わりついて動きを止めていた氷があっという間に融解していく。
全身が、熱い!
「うわっ!?」
ドガッ!
『小娘、ここまでだ!』
寒さに強いとはいえさすがに実力差があったのか、攻撃を避けきれなかったちびのノルドがグレイド・ウォーデンの一撃で吹っ飛ばされる。
だが。
『いまとどめを刺してやる!』
だが、グレイド・ウォーデンは知らない。
ドレイクのコンディションが、いまだかつてないベストな状況であることに!
「…いけるッ!」
風詠によって全身のエネルギーをカタナに集中させ、ドレイクが腕(かいな)の一振りを放つ!
ズドシャアァァアアアアッッッ!!
「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、砕牙・弐式」
ドレイクの一撃を受けたグレイド・ウォーデンが、断末魔をあげる間もなく粉砕される!
粉々になった魔神の微粒子が宙を舞い、まるでダイヤモンドダストのような輝きを見せる。それはひどく幻想的な光景であり、まるでガリダンの無念が晴らされたことを祝福するかのようにしばらくの間降り注ぎつづけた。
カチリ、カタナを鞘に戻すドレイクに、どうやら無事だったらしいちびのノルドが声をかけてきた。
「いやー、すごいですね…いまの技」
「お嬢ちゃん、怪我は平気なのか?」
「ええ、幸いヤバイところにはもらわなかったので」
「それは良かっ…!?」
おそらく自分の命を救ってくれたことになるのだろう少女の無事に安堵しかけたドレイクは、彼女の姿を見て絶句する。
「いったいどうし…あ、あなた!いつか古代遺跡で会った剣士のひと!?」
どうやらちびのノルドはようやくドレイクと面識があったことを思い出したようだが、ドレイクが驚いているのはまた別の理由だった。
「(…お、俺は人間の女には興味はない!だから問題ない、なにも問題はない…はずだが…!)」
そんなことをあれこれ考えながらも、思わず目を背け掌で顔を覆うドレイク。
なぜかというと…
「どうしたんですか?」
おそらく、さっきグレイド・ウォーデンの一撃を受けたときにプロテクターが破損したのだろう。
たったいま、ちびのノルドはお尻が丸出しだった!
「(こいつ、自分で気がついていないのか!?雪に肌がついてるってのに…それとも、これもノルド特有の耐寒性ってやつなのか?)」
「なに、ぼーっとしてるんです?」
やがてちびのノルドは立ち上がり、ぽんぽんと身体の雪を払うと、ドレイクに駆け寄ってきた。下が丸出しのままで。
「(こ、こいつ恐ろしいヤツっ!まだ気づいてないのか、それとも羞恥心ってやつが一切ないのか?いくら俺がアルゴニアンだからって、どう反応すりゃあいいんだ…ケツが丸出しだぞって言うのか?)」
「ひょっとして具合でも悪いんですか?怪我をしたとか…」
ドレイクの葛藤など知る由もなく、ちびのノルドはドレイクに身体を密着させ、せわしなく視線をきょろきょろと動かす。
やがて…ぽん、ドレイクはちびのノルドの肩に手を置くと、努めて平静を装って、言った。
「いいか、ちょっと聞いてくれ」
「なんです?」
「いまから俺がなにを言おうと、決して動揺するな。いいな?」
「動揺なんかしませんよ、いったいどうしたっていうんです?」
「おまえ、ケツ丸出しだぞ」
「…… …… …… ……」
ドレイクの一言で、ちびのノルドがピタリと動きを止める。
視線を下に向け、やがて。
「あ、ゎ…ゎぁあぎゃぎゃぎぐがぎゃぐゃげぎゃぎゃぎゃ!!!!」
ちびのノルドは、およそ女の子が出してはいけない叫び声を上げ、顔を真っ赤にして暴れた。
** ** ** **
「無事に帰ってきてくれて何よりだ、しかし…君たちにそういう倒錯した性癖があるとは知らなかったよ」
「うるせぇシバくぞこの野郎」
魔術師ギルド・レーヤウィン支部、サ=ドラッサのオフィスにて。
ドレイクのズボンを履いたちびのノルドと、哀しい目つきでブリーフ姿を晒しているドレイクを前に、サ=ドラッサは驚きの声を上げていた。
「ガリダンの涙を持って来てくれたのは嬉しいけど、そんな姿を見たら君のご両親も涙を流してしまうよ」
「息子のために流した涙にマーラ様がくそったれの加護を授けてくれりゃあいいよな、畜生め。おっと失礼、不信心な発言だった。でもな、この格好でハートランドからレーヤウィンまで移動するのは大層な拷問だったぞ」
「女の子を下半身丸出しのまま連れ歩くよりましだと思いません?」
「…テメェのつるつるの股なんか見たって、誰も欲情しねえよ」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!見たんじゃないですか!見でだんじゃないでずがっっっ!」
ドレイクの失言を耳にしたちびのノルドが、ドレイクの膝をガシガシと殴り続ける。
「痛ぇ痛え痛ぇ痛ぇ!」
「剃ってるだけですから!剃ってるだけですから!」
「あの…ここ、いちおう公共施設だから、あまり騒がないでほしいんだけど…」
狭い空間のなかで暴れる二人に向かって、サ=ドラッサがばつが悪そうにつぶやく。
周囲のギルド会員たちの視線に気がつくと、ドレイクとちびのノルドは誤魔化すように咳払いをした。
「と、ともかくっ!これからもどうか、戦士ギルドを贔屓にしてくださいねってことで!」
ピッ、人差し指を突きつけながら、ちびのノルドがセールストークをぶちまける。
それに対し苦笑しながら、サ=ドラッサが返答した。
「商魂たくましいね、しかし君のおかげで助かったのも事実だ」
「わざわざ戦士を雇って魔道具を届けてくれるとはな。あのポーションは効いたぜ、口にした途端、全身に力が漲ってきたからな」
おそらく正当な報酬を払ってちびのノルドを雇ったのだろうサ=ドラッサに対し、ドレイクは感心したようにつぶやく。
しかし、それに対する反応は驚愕だった。
「…飲んだのかい?」
「え?」
「あれ、塗布用の薬剤なんだけど…少なくとも、ヒューマンが飲んだら身体に負荷がかかりすぎて、最悪死ぬ危険もある薬だよ?」
「おいおいおいおい!」
「でもまあ後を引くような代物じゃないし、ここまで無事なら悪影響も残っていないだろう。サンプルとしては特殊すぎて参考にならないけど…アルゴニアンの特性か…それとも特異体質?」
極度の興奮作用を誘発するポーションの毒性は、じつは風詠によって身体に悪影響を及ぼす前に中和・分散されたのだが、そのことはサ=ドラッサには知る由もない。
「まあ、早めに尿を排出しておいたほうがいいと忠告しておくよ。まだならね」
「ハートランドからここまで小便せずに移動したら膀胱が保たねぇよ」
「そりゃそうだ」
そこまで言ったとき…ズドン!
遠くから爆発音が響き、地鳴りとともに建物全体が揺れた。
いったい何が起きたのかと訝る三人の耳に、建物の外で叫ぶ声が聞こえる。
『爆発だ!元帝国軍総司令官のアダムス・フィリダが襲撃された!』
「なんだ?」
「そういえば、帝都のお偉いさん…もう引退したらしいけど…この街にある別荘で隠居生活送ってるって聞いたな。いつも護衛を引き連れてて目立つし、新聞にも書いてあったから有名だったけど」
「へー」
おそらくは深刻な事態が発生したのだろうが、蚊帳の外にいる三人はどこか他人事のように言葉を交わす。
その後一人の暗殺者が教会の尖塔から身を投げ込まれることになるが、ドレイクがそのことを知る機会はなかった。