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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/25 (Mon)21:33
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2014/12/16 (Tue)20:22

 どうも、グレアムです。
 なんとなく作業用PCをネットに繋げてみました。いままでアレコレ諸般の事情で用途を分けてたんですが、まぁ便利は便利ですわな。
 せっかくなのでOrigin通さないとプレイできないSyndicateをインストールしついでに久しぶりにOriginにログインしたら、なんとゲームを一本プレゼントしてくれるという嬉しい通知が。
 タイトルはシムシティ。



 …に、2000かァ~ッ……!!
 いやオレ4の日本語版(完全版)持ってるし、いまさら2000を英語でプレイしたいとは正直微塵も思わんのだが、えーと、いやーううn…ついでに言うと3000も持ってるしなぁ…
 しかしCrysisシリーズがえらい安売りしてますね。といっても俺クレカ持ってないんで、このへんは利用できないんですが。昔ちゃんと稼いでたときに作っときゃよかったよ。
 Syndicateも当時リテール版を5000円くらいで買ったのだが現在セールで1000円ですと。DL販売ってこんなもの、世の流れですなぁ。







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2014/12/10 (Wed)03:39



「あの」
 時は十二月、ノイエルの聖夜祭を満喫していたときだった。
「なんだ」
「私たち…その、結婚してるんですよね?」
「そーだが?」
 ヴェルニースで再会して以来、ともに旅を続けてきた少女の不満そうな顔に、俺は怪訝な表情を向ける。
 彼女の機嫌が悪そうなのはいつものことだ、いまさら気にするようなことじゃない。
「結婚して、もうだいぶ経つ気がしますけど」
「そうだな。おまえ普段ツンツンしてるくせしてデレるの早かったから」
「殺しますよ」
「やめてね」
「あの、そういうんじゃなくってですね。その、まだ結婚指輪とか、もらった記憶がないんですけど」
 土産物屋の前に陳列されてる宝飾品を手振りで示しながらそう言う少女に、俺はようやく納得したように「ああ」と声を上げた。
「だっておまえ、結婚指輪なんかあげたら絶対に返してくれないだろ」
「ふつう結婚指輪は返しませんよ」
「だからさ。せっかくなら、おまえに合ったエンチャントつきの指輪を選びたいじゃん?一生使えそうなやつをさ」
「エンチャントって…ここをシロディールか何かと勘違いしてませんか」
「呼び名なんてただの名前さ」
「はぁ…」
 なんとなく不満気なため息をつく少女の頭を、俺はよしよしと撫でてやる。
「やめてください。殺しますよ」
「嬉しいくせに」
 顔を真っ赤にして照れながらも、穏やかではない台詞を口にする少女の頭を撫でくりながら、俺はこういう時間が永遠に続けばいいのに、などという碌でもないことを考えていた。



 どうも、グレアムです。ひさしぶりにノースティリスに舞い戻ったので、どえらくキモイ短文をでっちあげてみました。
 そんなわけでelona plus 1.41ですよ。未だに更新が続いてるとかすごくね?
 前回は間違えて嫁の足を増やしてしまったショックで長時間プレイしたデータを封印してしまったので、今回は同じミスをしないよう気をつけながらプレイしています。
 elonaは他にも多くのヴァリアントがあって、機能的に優れたシステム拡張が成されたやつもけっこうあるんですが、個人的にはトータルバランスでやはりplusが遊びやすいなーと感じますね。新規マップとかにはあんまり興味ないですけど。







 現在のプレイヤーのステータスと装備品。
 行動半径を広げるセブンリーグブーツとオーロラリングは願いで叶え、あとは防弾服ですね。こいつはミラル・ガロクでメダルと交換した*素材変化の巻物*を使ってます。翼鳥鱗は優秀なのだよ。本当は竜鱗がいいんだけど全然出やしねぇ。
 武器はそのうちワイバーンから二挺拳銃手に入れるかplusで上方修正かかったウィンチェスター・プレミアム使う予定なんで保留で。二挺拳銃に連射弾装填でガン=カタごっこがしたいでござる。







 現在の嫁こと初期少女のステータスと装備品。
 ヴァリアントによっては任意のスキルを覚えさせたりもできるんですが、スキルが多いってことはそれだけ成長度合いが分散されるってことでもあるので、まぁこのままでいいのかなーとか。同じ理由でまだ合成にも手を出してません。純然たる近接特化脳筋に育ってます順調に。
 ちなみに彼女が装備している剣は時止め効果があるんですが、あんまり有効的に扱えてないっぽい。
 あとメッセージ欄見るとtextもいじってあるというのがおわかり頂けるだろうか。



 装備品の選定はまだ全然煮詰まってません。
 序盤の願いに関してですが、個人的にはバーベキューセットもオススメに入れていいんじゃないかと思ってます。というのも店には滅多に並ばないのと、パーティ依頼で盗めるとはいえ実行にはかなり訓練が必要になるので、序盤のブーストとしてはけっこう強力なんじゃないかと。
 素材変化の巻物で霊布にしておけば持ち歩きに耐える重量(3.3s)になるので、同じく霊布化した幸せのベッド(12.4s)と併せて常時携帯すれば寝食には困らないという。
 でもって肉料理は高く売れるので、ジェノパで肉を乱獲しつつピリ辛炒めがコンスタントに作れるようになればかなり収入が安定するんじゃないかと。あれたしか1000gpくらいで売れたはずなんで。パルミアだったら死体を確保した先から祭壇に捧げてもいいかもしれない。




2014/12/08 (Mon)16:48



 下調べ中になんとなく適当なポーズ取らせたら意外と絵になっていたので思わず写真撮影してしまった、そんなシェイディンハルの街中。おそらく本編では出番がないであろうMecha Foxさんとともに、後ろで見守っているのは改変形SSであるにも関わらず本編同様あえなく死を遂げたオルドス・オスランさん。



 どうも、グレアムです。ENB導入後の初エピソードであるミレニア10~11話、如何だったでしょうか。本当は一つに纏まってたんですが、投稿しようとしたら久しぶりにninjatoolsさんから「一記事あたりの文字数長すぎんよー」と言われたので分割しました。
 じつは地味にMOD環境も見直してます。これは以前、Franのバージョンアップしたときのついでなんですが、環境系のテクスチャをバニラに戻したり、あとHGECをOMOD化していた弊害(元からOMOD形態での配布だっけ?覚えてないや)で体型変えるたびにカジートのテクスチャバグ(というか体型に合ってないテクスチャがなぜか同梱されている)が再現されることに気づいてファイルをバラし、該当部分を削除したりだとか。
 でもってエフェクトマシマシのENB環境でも果敢に合成に挑戦してます。暗視装置のフィルタ、オルドスの首切断、麻痺薬の黄色い粉塵なんかですね。最初は難しいかとも思ったんですが、なんとかやれないこともないっぽいです。それとキャラやアイテムの位置をsetposで整えたりもしてるんで、それなりに手間かかってる感じで。

 ストーリー自体は、俺が復讐モノに思い入れがあるのもあって、いまさら手垢のつきまくった題材で正否がどうのと論じるのもアホくさいので、行動の正否の先にある人間性の追及みたいなのを目指してみました。
 要するに「納得はすべてに優先する」という話なんですが、正当性っていうのは容易に自己の行動に対する免罪符になってしまうのに対し、「自分の行いは間違っている」とわかりつつもそれを止められない、むしろ「間違っていても行動しなければ気が済まない」といった人間心理が存在することも確かなわけで。
 正論吐いたり過ちを否定するのは誰にでもできるんで、ちょっと違う角度で話を進めたいっていうのが、最近は常に自分の中にあります。たいてい、あまり上手く話に組み込めてないんですけど…そこは反省点です。





 で、えーまぁ、以前ニコニコに投稿した動画「【oblivion】シェイディンハルの衛兵がハゲの同僚に見つめられながらひたすら飯を食うだけの動画」における不具合吐いたのがこのときの画面写真撮影中だったわけです。
 以前の記事でも解説してますが、これはtaiでAIを停止させた状態でマップをリロードした際に起きた不具合です。再現性があるのかどうかはわかりませんが…こんなもん検証する気も起きないしなぁ。





 ゲームプレイ中、レヴァナの復讐を完遂させガルースから報酬を得るために時間を進めたところオーデンスの襲撃に遭った。そういえばなんだかんだ回避して殺してなかったなこのハゲ…
 でー何とはなしにpayfineを入力したらハゲが剣を下げた(敵対状態が解けた)罠。何度か試して、ステータス上は懸賞金がかかってなかったんですが、たぶんハゲが元衛兵だったことと関係してそのへんの処理がイベントで使われてるっぽい。なぜかプレイヤーが他の衛兵から敵対されることもあったり、このへんはバニラ準拠の挙動なのかMOD入れた弊害なのかはわかりませんけども。



 でーそのまま死体を残しておくと街の景観がかなりアレなことになるので、オーデンスのハゲ、汚職衛兵隊長オーリック、オルドス、そしてオルドスの家の前を見張っている衛兵(通常は不死属性ついてるのでコンソールからフラグ外してね)の死体を、いまは主人なきレヴァナ邸の中に放り込んでおいた。
 あとで必要になったらここから取り出せるって寸法よー。





 シェイディンハルの陽光がまぶしい…
 さて次は誰の話を書きましょうか。おそらく他の面子に比べて進行が遅れてるリアかミレニアになると思いますが。







2014/12/06 (Sat)22:43

「なんですって…オルドスが、オーリックに殺された!?」



 レヴァナ・ネダレン邸二階。
 暖炉の火に煌々と照らされながら、レヴァナの青白い顔がよりいっそう青ざめた。
 昼間出会ったとき、懸命にオルドスの世話を焼いていたレヴァナにこの事実を報告する必要があるとミレニアは判断したのだ。そして、オルドスがオーリックに斬りかかったときに使った短剣を手渡す。
 はじめはミレニアを追及しようとしたレヴァナだったが(なぜ止められなかったのか?)、すぐに思い直し、かわりに力ないつぶやきを漏らした。
「たしかにあいつは悪党だと思ってた。けど、まさか殺しまで平気でやるなんて…」
「オーリックが人を殺したのは、オルドスが最初なの?」
「当たり前よ、でなければ他の市民が黙っちゃいないもの。それに、オルドス…残念だけど、私以外の住民はあまり彼に関心がなかったのよ。奥さんを強盗に殺されて悲嘆に暮れる、それは理解できるけどやっぱり酔っ払いは迷惑だってわけ。殺されたのが他の誰でもなくオルドスなら、やはり関心を払うことはないでしょうね」
 そう言って、レヴァナは落胆する。
 オルドスがシェイディンハルの住民にとって好ましくない存在であったことは事実らしい。ミレニアが昼間に見た印象だけでも、近寄り難い性格であったのは確かだ。
 レヴァナが言うには、妻を失ってから奇行が目立ちはじめたという話だが…
「奥さんを亡くして酒に逃避するようになる前は、それはもう素敵な男性だったのよ?彼は…なんといっても、私が盗みから足を洗うきっかけを作ってくれたのは彼なんだから」
「そうだったの!?」
「若くて才能がある商人で、美人の若い奥さんがいて…羨むというか、妬んでしまうのも無理はない話だと思わない?それで、私は昔、彼の家に盗みに入ったの。ところが少しばかり長居をし過ぎて、彼に見つかってしまって…もうこの街では生きていけないと覚悟したけど、彼は私を厳しく罰しようとはせず、通報もせず、誰にも何も言わずに見逃してくれた。それ以来、せこい盗みのために身を賎しめる自分が恥ずかしくなってしまってね。それで、まっとうに生きていくことを決めたのよ」
「そんなことがあったんだ…彼は、オルドスはあなたにとっての恩人だったんだね」
「ええ。それ以来、その…年甲斐もないことを言うようだけど、私は彼が気に入ってしまってね。いつも、彼の隣にいるのが私だったらって思ってた。でも実際に奥さんが不幸な目に遭って、彼の変わり果てた姿を見たときに…私は、なんて浅ましいことを考えてたんだろうって…」
 そこまで言って、レヴァナは口を噤んだ。その瞳から、堰が外れたように涙が溢れてくる。
「彼が家を差し押さえられたときも、本当はすぐに私の家へ招き入れたかった。でも、それは亡くなった奥さんに申し訳ない気がして…でも、こんなことになるなら…もっと早く決断すればよかった……!!」
 唇をきゅっと結び、歯を食いしばって涙をこらえようとするレヴァナ。しかし溢れる涙は留まることなく、ミレニアもつられて涙を流しそうになる。
 ただの友人かなにかだと思っていた、まさかこんなふうに特別な感情を抱いていたとは…
 しばらく無言のまま泣いていたレヴァナは、やがて顔を上げると、鬼のような形相でつぶやく。
「…殺してやる。あいつ、あの衛兵隊長。復讐だ、もう我慢できない。生かしてはおけない!」
「えぇ!?ち、ちょっと待ってよ!?」
「だってそうだろう、誰もあいつをなんとかしようとしない、だったら私がやるしかないじゃないか!」
 オルドスの短剣をがっしと掴み、いますぐにでも家を飛び出そうとするレヴァナ。
 慌ててミレニアは彼女の前に立ち塞がり、バックパックから一冊のノートを取り出してみせた。オーリックが部屋に残していた帳簿だ。
「待ってってば!これ、昼間にオーリックの部屋に忍び込んで盗んだ帳簿です、これがあればあいつを牢獄送りにできるんだってば!わざわざレヴァナさんが手を汚す必要なんかないんだって!」
「それで、あいつはどうなるんだい?十年、あるいは二十年?もっと短いかもしれないし、あるいはもっと長いかもしれないけど、それでもあいつはいつか牢屋を出て、人並みの生活に戻るんでしょうよ。それじゃあ割に合わない、釣り合わないじゃないのさ!人一人の命には、オルドスの命には!」
 いかん、完全に復讐モードのスイッチ入ってる…ミレニアは額に汗を浮かべた。
 そりゃあ、大切な人が殺されたとなれば、こうなるのも無理はない。というか、本当は「帳簿の提出によってオーリックを牢獄送りにし、オルドスの無念は晴らすから安心してくれ」と言うつもりで立ち寄ったのだ。まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
「いいですか、わかってんですか?相手は衛兵隊長で、伯爵に仕える身分なの、殺したら重罪なんだよ?それにあいつは腕が立つし、そうそう殺すことなんてできやしないんだってば!」
「それじゃあ、ずっとこの無念を抱えて生きろというのかい…あいつか、私が死ぬまで」
 そう言って、レヴァナはがっくりと肩を落とした。
 たしかに…たしかに、大切な人を亡くした悲しみと、怒りはわかる。ミレニアは考えた…もし自分の両親を殺したのがオーリックだったとしたら、やはり殺したいと思うだろう。なんとしてでも、自身の手で殺してやりたいと考えるだろう。
 ふーーーっ。
 深呼吸してから、ミレニアはいままでにない真剣な眼差しでレヴァナを見つめ、言った。
「…そんなに復讐したいですか」
「ああ」
「だったら、協力してあげてもいいです。オーリックを誘い出し、誰にも邪魔が入らない場所で、確実にあなたが殺せるように仕組んであげます。ただし、条件が一つだけあります」
「なんだい、条件って」
「自首してください」
「……え?」
「もし罪を被るのがイヤなら、そんな程度の低い復讐なら、協力する気はないです。あたしとしては、オーリックの不正を暴ければそれで任務完了っすから。あいつが二百万年牢の中で過ごそうと、三日後に出てこようと、そんなのは関係ないんで。もちろん、復讐に手を貸すような危ない橋を渡る理由なんか、これっぽっちもないし」
 ミレニア自身はオーリックに何の恨みもない。
 そのことを再認識させられたレヴァナは、この小さな娘を自身の復讐に巻き込んだものか少し考え、やがて結論を出した。
「…それでも、私は復讐したい。あんたの手を借りたい、復讐を遂げることができたら必ず城へ行って、自らの罪を告白するよ。約束する、あんたに手間以上の迷惑はかけない」
「わかりました。それじゃあ」
 そう言って、ミレニアはバックパックから乾燥茶葉の入った陶磁の容器を取り出すと、食器棚を勝手に探って茶道具をテーブルに並べはじめた。
「それじゃあ、まずはお茶にしましょうか」
「…あんたもよくよくわけのわからない娘だねぇ。復讐の前の気つけかい?」
 呆れた、というふうにつぶやくレヴァナ。
 一方でミレニアは自らがブレンドした特殊な茶の香りを嗅ぎながら、どこか上の空といった態度で言った。
「ま、そんなようなもんです」

  **  **  **  **

 深夜。
 自身の部屋にて「帳簿と日記を返して欲しければ教会前の広場に一人で来い」という置手紙を発見した衛兵隊長オーリックは、面白くなさそうな表情で街灯に照らされた路地を歩いていた。
「まったく、賊の侵入を許すとは。揃いも揃って無能ばかりか、私の部下どもは…」
 そして、指定された広場へと到着。周囲に人影はなく、静寂があたりを包んでいる。
 最近まではオルドスが差し押さえられた家に勝手に入り込むのを防ぐため部下を一人常駐させていたが、当のオルドスがいなくなったことで監視員を引き上げさせたのだ。
 残しておくべきだったろうか?そう考え、オーリックは一笑する。
 なに、賊くらい自分一人で対処できずになにが衛兵隊長か。汚職に手を染めてはいるが、部下たちと違って堕落しているわけではない。どのみち、やるべきことは一つだ。
「身の程ってものを知らせてやらんとな」



 ガキィッ!
「えぇ、そうだろう?レヴァナ・ネダレン」
 いままで暗闇に潜んでいたのか、突如襲いかかってきたレヴァナの手をがっしりと掴むオーリック。
 怒りに顔を歪ませるレヴァナを見つめながら、まるで世間話の水を向けるような口調で話しかけた。
「まさか衛兵の詰め所に侵入してくるとはな。さすがは元盗賊といったところか…知らないとでも思ったか?もっとも帝都のヒエロニムス・レックスと違い、私は伝説のグレイ・フォックスとその取り巻きになぞ興味はなくてね。いつでも料理できる鴨は最後まで取っておこうと思っていたが、そろそろ潮時のようだな」
「私の過去なんか、どうだっていいだろう!あんたは私服を肥やすために、いったいどれだけの横暴を働けば気が済むんだい!?」
「…それで、その短剣で決着をつけようというわけか。それはオルドスが俺を刺そうとしたものだな」
「そうさ!あんたはこの、オルドスの剣で死ぬのが似合いさ!」
「なるほど。薄汚いダンマーに打ち砕かれた我が一族の誇りを、いまふたたびダンマーの手で汚そうというのだな」
「…… ……は?」
「日記を読んでいないのか?私の日記と帳簿は貴様が持っているのだろう?」
 鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を見せるレヴァナに、オーリックは眉をひそめる。
 レヴァナはミレニアがオーリックを誘うために使った置手紙の文面や、ましてオーリックの日記の存在を知らない。オーリックの台詞に疑問を覚えるのも無理はない話だ。
 そういった事情をそれとなく悟ったオーリックは、レヴァナの腕を掴む手に力をこめ、短剣をはじき飛ばした。
「なるほど、協力者がいるのか。まあ、貴様一人でお膳立てをしたと考えるよりは腑に落ちるな。おおかたガルースか…あるいはあの、アルトマーの小娘が関わっているのだろうが…ひとまず、目の前の問題を片づけるか」
 オーリックに突き飛ばされ、石畳の上に尻餅をつくレヴァナ。
 丸腰になり、無抵抗になったレヴァナに向かってオーリックが斧を振りかぶろうとした、そのとき!



「ぐあっ!?」
 黄褐色の粉末がどこからともなく漂い、それを浴びたオーリックがくぐもった悲鳴を上げる!
「くそ、邪魔が入ったか…こんな小細工、なんということはない…レヴァナ、まずは貴様だけでも始末を…!」
 苦しそうに呻きながらも、必死に斧を振り下ろそうとするオーリック。しかし身体が思うように動かず、やがて斧を落としてしまった。
 一方でレヴァナも若干の身体の不自由を感じたが、オーリックのようにまったく動きが取れないわけではない。彼女は短剣を拾うとオーリックの脇腹に突き刺し、そのままオーリックを地面に引き倒した。
「間に合った、かな…」
 二人の視界の外で、建物の屋根にぶら下がりながら薬瓶を傾けるミレニアは、安心したようにつぶやいた。
 これはミレニアが調合した特性の麻痺薬で、身体の自由を奪う効果がある。あまり長くは続かないが、人を一人殺すには充分な猶予だ。後遺症も残らない。
 そしてレヴァナの家を出る前に飲んだお茶、あれはこの麻痺薬の毒性を中和する効能があったのだ。さすがにまったく影響が出ないとはいかないが、茶を飲んでいない者との差は非常に大きい。
 身動きが取れずに地面で呻いているオーリックに近づき、レヴァナがとびきりの残酷な笑みを浮かべる。
「どうやらあんた、身体が思うように動かないみたいだねえ。ひと思いに刃物で刺し殺してやろうかと思ったけど、そういうことなら、もうすこし気の利いたやりかたがあるよ」
 そう言って、レヴァナが呪文の詠唱をはじめる。
 オーリックが恐怖に目を丸くするなか、あちこちの茂みから「ガサ、ゴソ」と物音が聞こえてくる、やがて広場に、大量のドブネズミが集まってきた。
「さあ、可愛い坊やたち。お食事の時間だよ!」
「ま、まさか…や、やめ…やめろ…う、うあああーーーっ!」



 レヴァナの号令一過、ドブネズミたちがオーリックを生きたまま貪り喰らいはじめた!
「げっ…」
 遠くからその光景を見つめていたミレニアは、あまりの凄惨な光景に思わず喉を詰まらせる。
 一方でレヴァナは高笑いを上げながら、満面の笑みを浮かべてオーリックに言い放った。
「アッハハハハハ、どうだい!これがモロウィンド流の復讐だよ、たっぷりと堪能しな!」
「くそ、貴様ら…この汚い術…あのときと同じ…そうまでして、我が一族を…辱めたいのか!おのれ、ダンマーめ!」
「何を言ってるのかわからないねぇ。それに指一本満足に動かせないやつに脅されたって、怖くもなんともないよ」
「恨んでやるぞ、ダンマー…たとえ、この身地獄に落ちようとも…オブリビオンの業火に焼かれるがいい、この…ぐ、ぐああっ、がああぁぁぁぁあああ!!」
「…なんだい、こいつ…」
 てっきり命乞いでもしてくるかと思っていたオーリックの呪詛に、レヴァナはわずかにたじろぐ。
「ああぁぁぁあああっっ!!がふっ、す…すまない…イザベル…ジェネッタ…可哀想な、私の……」
 最後に、悔恨の言葉を口にし…オーリックは、息絶えた。
 復讐を果たしたにも関わらず、どこか釈然としない気持ちを抱えたままレヴァナは佇む。
 協力者であるミレニアの姿を求めて周囲を見回したが、すでに彼女の姿はなく、そこには食事を終えて満足げに鼻を鳴らすネズミと、オーリックの無残な亡骸が残されるのみ。
 本当に、これで良かったのか。
 取り返しのつかない疑問を頭に浮かべながら、レヴァナは一旦帰路につくことにした。
 事前にミレニアと交わした約束によって、翌朝になったら城に出頭することになっている。そのことに後悔はない、自分はやるべきことをやったのだ。有り難いことに、帳簿の提出でオーリックの罪を暴くことにより、レヴァナの罪が軽減される可能性があるという。まあ、それを期待して復讐に走ったわけではないが。

  **  **  **  **

 翌日。
 衛兵隊長オーリックの死とレヴァナの自首、そして「ガルースがオーリックの死後に部屋を捜索した際に見つけた帳簿」の公開により、シェイディンハルにまつわる汚職事件は一応の解決を見た。
 公式にはミレニアは事件に関わっておらず、オーリックの死もあくまで「第三者による不慮の事態」。盗賊ギルドに課せられた「ギルドの介入を悟られないこと」「殺傷行為の禁止」という題目はいちおう果たされたわけだ。
 オーリックの死により、汚職発覚の立役者となったガルースは衛兵隊長に昇格。レヴァナも友人の死による義憤とオーリックの横暴の数々を鑑みて「酌量の余地あり」と判断され、本来想定された刑期よりもかなり短い期間での出所が認められたという。
 そんな、なにもかも丸く収まったように思えるなかで、ミレニアは一人、浮かない表情でレヴァナ邸の暖炉の前に佇んでいた。
『移民の受け入れ政策だと!?いったい皇帝はなにを考えているんだ!?たしかに、帝都への影響はほとんどないかもしれない。しかし国境沿いの各都市はどうなるというのだ?移民の流入による混乱、治安の悪化は避けられないものとなるだろう。父上もそのことを危惧しておられる、これからどうなるというのか…』
『近頃、ダンマーたちが権力を伸ばしつつある。ダンマーの貴族だと!商人風情が、金で買った地位で浮かれる成金どもめ。ずっとこの地を統治し続けてきた由緒ある我が家に、不遜にも対等な付き合いを求めてきたと聞いたときの、父上の激昂ぶりは察するに余りある。可哀想なのは妹たちだ、イザベル、ジェネッタ。もとから身体の弱かった彼女たちは、この状況にひたすら怯えている。なんとかしなければ。少なくとも、彼女たちの身は私が守ってやらなければ』
『とうとう父上がダンマーの使用人を雇いはじめた。いまや我が家の地位は貶められ、幅を利かせる成り上がりどもと付き合っていくには仕方のないことだと言うのだ。差別主義者という批難を避けるためらしい。この状況は嘆かわしい限りだが、実際に新しい使用人たちと話をしてみると、ダンマーもそれほど悪い連中ではないのかもしれない。私が思っていたよりも教養があるし、なにより妹たちが親しげに接しているのを見ると、私も頑固な態度を改めるべきかと考えるときがある…』
 ミレニアはいま、オーリックの部屋から盗み出した日記のページを捲っていた。
 伯爵に提出することなく、誰にもその存在を伝えなかったオーリックの手記。かつて彼は東ニーベン地方の一部を治めていた貴族の長男で、両親のほかに二人の妹と暮らしていたようだ。
『嵌められた!あの使用人どもは我が家の領地を乗っ取るために周辺諸侯が放った刺客だったのだ!ダンマーの怪しげな魔術によって屋敷はドブネズミで溢れ返り、父上と母上は…生きたまま…か、書けない。いや、心を鬼にして書こう。両親は生きたままネズミに食われた!ああ、アーケイよ!なぜこのような非道をお許しになるのです!?』
『私は妹たちを連れ、どうにか屋敷を脱出した。私も妹たちもかなり傷を負ったが、少なくとも、生きている…いま私の目の前で屋敷に火が放たれ、残虐非道なダンマーどもが歓声を上げるのが聞こえる。この恨みは一生忘れはしない!しかし、いまは安心して眠れる場所が必要だ。いま熊にでも襲われたら、私には妹たちを守れる自信がない…』
『傷が完治した私は、身分を隠してシェイディンハルに潜りこみ、剣の腕を活かして衛兵の職を得た。妹たちの傷は重く、しかも悪い感染症にかかってしまったのか、美しかった肌が日に日に醜く爛れていく。これでは嫁の貰い手もつかないだろう、可哀想に…なにより親しく付き合っていた使用人に裏切られたショックが大きかったのか、あの事件以来、一言も言葉を話そうとしない』
『ダンマー、ダンマー、ダンマー!なんということだ、この街はダンマーだらけだ!昔、父上に連れられ訪れたときはこんな有様ではなかったというのに!浮かれた顔で街を歩いているこの連中が、私の家を焼き払った外道どものように、どれだけ汚い手を使って金を稼いで立派な家を建てたのかなど、考えたくもない!気が狂いそうだ…』
『妹の怪我の治療に、とうとう医師たちが匙を投げはじめた。それも仕方のない話だ、私の薄給から治療費に充てられる額などたかが知れている。先日など、とうとうダンマーの金貸しに世話になる破目に陥ってしまった。それでも、なにがあろうと妹たちを失うわけにはいかない。彼女たちがいなければ、私はもう生きていけない。金だ、金が必要だ…!』
『転機が訪れた。普段の努力が買われて衛兵隊長に任命されたことで、かなり自由な行動が取れるようになった。きっかけは些細な出来事だったが…私が過剰な罰金を請求しても、それを咎める人間がいないとは。伯爵は奥方が亡くなられて依頼、すっかり腑抜けになってしまっている。かつてはその無能ぶりに腹を立てたこともあったが、いまでは感謝したいくらいだ。部下たちにも罰金に関する法の改正に意見を求めたところ、喜んで賛成してくれた。ちょろいものだ』
『最近、自分の行動に自信が持てなくなっている。妹の治療費を稼ぐため、ダンマーへの復讐のためと自分に言い聞かせたところで、けっきょく自分もあの外道どもと同じ道に堕ちているような気がして…それに酒に溺れる部下たちを見ていると、言いようのない疲労を覚える。これが私の求めた統治なのか?いや、気弱になってはいけない。そもそも余所者がシロディールの地に足を踏み入れたことこそがすべての元凶なのだ。大人しくモロウィンドに引っ込んでいればよかったものを』
 日記は、ここで終わっていた。
 彼が、オーリックが過剰な罰金の徴収を行っていた理由は、家柄と家族を奪ったダンマーへの復讐と、そして妹たちの治療費を稼ぐため。
 もちろん、だからといってオーリックの行動が正当化されることはないし、彼のいままでの行為は許されるようなものではない。
 そもそも復讐というのは自分勝手という以上のものではない。
 亡くなった者の無念を晴らすためと言っても、その亡くなった人間の心理を代弁することができない以上、結局は自分自身を納得させるための儀式でしかないのだ。
 そのことを理解してもなお、その納得のために復讐に身を投じる、そのために自分は生きている。
 だからミレニアは、レヴァナに手を貸したのだ。彼女自身が納得するために。少なくとも、彼女にはその資格があると思ったからだ。そして復讐には代償がつきものであることを、自分に、レヴァナに、そしてオーリックに納得させるために。



 ガサ…ブオッ!
 ミレニアは暖炉の火の中に日記を投げ入れ、それが燃えていく様子をじっと眺める。
 これは、人の目に触れていいものではない。
 逆賊オーリックは自身の欲得のために市民から過重な罰金を取り立て、そして善意の一太刀によって不名誉な命を落とした。それ以上のことを、誰かが知っている必要はない。
 これが、復讐の代償だ。不名誉な死こそが。
 レヴァナは気づいているのだろうか?たとえ刑期が軽減されたとしても、自分が牢から出ることができないということを。「衛兵殺し」が牢に入るということが、なにを意味するのかを。
 彼女は理解していたのだろうか?
 オーリックのおかげで甘い汁を吸うことができた衛兵たちが、オーリックを殺しすべてを終わらせた元凶である彼女を生かしておくなどという、そんな都合の良い話があると本気で信じていたのだろうか?
 これが、復讐の代償だ。獄中の死こそが。
 それでは、自分は?
 自分が復讐を果たしたとき、そこに待っている代償はなんだろうか。
 ゆらめく炎を見つめながら、ミレニアは決断する。
 それでも、自分が復讐を止めることはない。その果てに待つのが不名誉な死だとしても。獄中での死だとしても。あるいは、もっと深い絶望が待っていたとしても。

  **  **  **  **

「うぃー、さぶいなぁ~。まさかの雷雨だよ」
 両親の遺品であるオイルランプを手に道を歩くミレニア、すでにひどい嵐に見舞われ全身が濡れそぼっている。
 …オーリックの妹たちは、どうなるんだろう。
 ふとそんなことを考え、ミレニアはかぶりを振る。
 彼女たちの治療費にしたって、不正に取り立てられた、汚い金が使われているのだ。たとえ本人たちにその気がなくとも、本人に罪がなくとも…因果は継がなければならない。
「世の中ってなぁ、善良な人間が幸せになるために作られたわけじゃないんだよねー」
 そんなことをつぶやきながら、先を急いでいると。
 ふと、誰も住んでいないはずの廃屋のそばを人影が通りすぎたような気配がした。
「…誰だろ?」
 特に警戒心を抱くこともなく、ミレニアは人影が消えた方向にランプの光を向ける。



「あ…」
 そこには。
 そこには、黒装束に身を包んだ女性が佇んでいた。鋼色の髪が揺れている。
 やがて女性と目が合い、女性の片目が…真っ赤に…光る……
「……え?」
 一瞬だけ意識が朦朧としたミレニアは、次の瞬間、女性の姿がなくなっていることに気がついた。
 …魔法か?あるいは幻覚か…
 それよりもミレニアには、気になることがあった。あの黒装束、どこか見覚えがある。
「まさか、彼女が…」






2014/12/04 (Thu)22:29

 シロディール東部に栄える商業都市、シェイディンハル。
 ダンマー(ダークエルフ)が統治する国モロウィンドとの国境沿いに存在し、領主以下住民の多くがダンマーやオークで占められている。
 リサンダス夫妻のトラブルを解決したミレニアはシェイディンハルを出立する前に、ディベーラの魔法の筆を抜きに今回の事件の報告を済ませるにはどうすればいいかを考えていた。
「もう報酬は貰っちゃったしなぁ…ラミナスを誤魔化すのは簡単じゃないぞー」
 帝都魔術大学の要請で動いていたミレニアは、もとより金目当てではなく依頼人のプライバシーのために虚偽の報告をせざるを得なくなったのだが、ラミナス…通称「ミスター中間管理職」の慧眼を曇らせる自信はあまりなかった。
 あるいは正直に報告して、余剰の報酬金を口止めがわりに渡す手もあったが…相手が俗人なら喜んで口を閉じるだろうが、魔術的な脅威に対する危機回避をそもそもの目的とするラミナスが人情話に流されるとは思えない。
「…どうしよう……」
 魔術師ギルドと戦士ギルドの支部が並んで建つ裏手の広場、灯火を手にした老人の石像が見下ろす先のベンチで頭を抱えるミレニアに、一人の女性が声をかけてきた。



「ご活躍のようね、小さな同志」
「メスレデル?帝都から離れるなんて珍しいね」
 ミレニアの前に現れたのは、レザー装備に身を包んだボズマー(ウッドエルフ)だった。
 彼女の名はメスレデル。帝都を拠点に活動する盗賊ギルドの会員で、ミレニアの同期である。魔術大学の要請で各地を飛び回るミレニアとはたびたび協力し合う仲だ。
 盗賊ギルドの会員同士は互いの関係に無用な詮索が入るのを厭うため、戯れに声をかけ合うことはまずない。つまりこれは、仕事の話か。
「アルマンドから、あなたがいまシェイディンハルにいることを聞いてね。私は別件のついでに寄っただけだから、このまま帝都に戻るけど、あなた向けに仕事が一つあるそうよ」
「うぇ、あたしもあんまし長居できないんだけどなー。で、仕事って?」
「以前シェイディンハルで盗みをやった同志が、この街で衛兵の汚職が横行してるって話をアルマンドの耳に入れたらしくてね。あなた、なにか聞いてる?」
「それらしいことは聞いたけど…まだ深く突っ込みは入れてないけど、あたしもあとでアルマンドに聞こうとは思ってたんだ」
「ああ、関心があったなら話は早いわ。アルマンドがグレイフォックスに意見を求めたところ、早急な真実の解明を指示したらしいわね。あなたの仕事は事実関係の調査と、可能なら物証を押収することよ」
 淡々と仕事内容を言い渡すメスレデルに、うーん、ミレニアは低い声で唸った。
 盗賊ギルドにおける、こういった仕事に強制力はない。もとより盗品の扱いに一定のルールをもたらすために組織された組合であるから、命令で特定の品を盗むといった行動は本来イレギュラーなものなのだ。
 もっとも、こういった特殊な任務の達成はギルド内での地位を高めるのに大いに役立ち、そして仕事を断るということは、その機会をみすみす他人に譲るということに他ならない。
 ミレニアが危険を犯して盗賊ギルドに籍を置いているのは理由があり、ギルド内での地位の向上は目的達成のために不可欠なものだ。
 おそらく今回の仕事がミレニアに振られたのは、たまたま近くにいたという以上に、前回の帝都での任務成功によるところが大きいのだろう。
 こめかみを指で揉みながら、ミレニアはつぶやいた。
「…それで、オプションは?」
「殺傷行為の禁止、そして盗賊ギルドの関与を悟られないこと。以上よ、納得した( Accept )?」
「たしかに( I agree )」

  **  **  **  **

 はじめ、ミレニアがこの街にはびこる汚職問題を耳にしたのは、魔術大学に問題の解決を要請したティベラ・リサンダス夫人の口からだった。彼女ら夫婦には貸しがあることだし、調査のスタート地点に設定するには悪くないだろうとミレニアは判断する。



「あらあら、まあ。たったいま夫はアトリエで作業中なので、お会いさせることはできませんが…宜しければお茶でもいかがです?」
 よもや別件で訪ねてきたとは思っていないのだろう、ミレニアの訪問を受けたティベラ・リサンダスは少し驚いたような表情を見せてから、パタパタとキッチンへ駆け込んでいった。
 うやうやしく一礼し、ミレニアは案内されるまま居間の椅子に腰掛ける。やがて小さな茶会の準備を整えたティベラが向かいの席に座ると、瀟洒な作りのティーカップに紅茶を注ぎながら口を開いた。
「まさか、こんなに早く訪ねてくださるとは思いませんでしたわ。本当に、夫を助けていただいたことに対しては何とお礼を言ったらいいのか」
「そ、そんなに気を遣わなくていいっすよー?それに今日はちょっと、聞きたいことがあったんで」
「?なにか問題でもあったのですか」
「あの、旦那様が行方不明になったとき、衛兵じゃなくて魔術大学に助けを求めたと言ってたじゃないですか。いまこの街の衛兵の間では汚職が横行してて、とてもじゃないけど頼れる状況じゃないって。そのことについて、もうちょっと詳しく話が聞きたいんですけど」
「…ひょっとして魔術大学や帝都が関心を?」
「あーいや、これはその、個人的な興味というか。仕事じゃないんですけど」
 まさか盗賊ギルドの仕事だと言うわけにもいかず、かといって迂闊に帝都の関与を匂わせるようなことを言って話を大きくされても困る。今回の行動を魔術大学に追及されたら、最悪の場合ラミナス以外に盗賊ギルドへの所属が露見し追放されかねない。
 とはいえ個人的な行為だというミレニアの言葉に失望を隠しきれなかったのか、ティベラはいささか落胆したような表情を見せる。
「…まあ、帝都が一地方都市の醜聞に関心を持つことはないのでしょうね」
「すいません、期待させるようなこと言っちゃって…でも、だからといって誰も問題の解決を望んでないわけじゃ、ないっすよ?ここだけの話、あたしも野次馬で済ませるつもりじゃありませんし」
 そう言いながら、これはあまり上手くない綱渡りだぞ、とミレニアは思った。
 第三者の関与を匂わせ、自身も問題解決のために尽力するというその言葉に嘘はない。しかし思わせぶりな台詞はときに相手を警戒させ、また不快にさせることが往々にしてある。
 もっともティベラはミレニアに恩義があるからか、躊躇いながらもシェイディンハルの内情について語りはじめた。
「こんなこと、私の口から聞いたなんて言わないでくださいね?数年前まで住民と衛兵隊の間で問題が生じることなど、なかったのですが…オーリック・オーランドが衛兵隊長に就任してから、状況が一変してしまいました。彼は次から次へと新しい法を作っては重い罰金を設定し、住民から金を巻き上げているのです」
「新しい法?」
「ゴミのポイ捨て、通りでの喧嘩、川での遊泳、それから封を開けたアルコール瓶の携帯だったかしら?そういったあれこれを禁止したの、言葉だけ聞けば他愛のないものだと思うでしょう?でも衛兵隊は私たちのあらゆる行為に難癖をつけて、どの違法行為にあたると罪をでっち上げては罰金を取っているのよ。最近では怖くて通りを歩くこともできないわ」
「わかりやすいなぁ…」
 話を聞く限り、衛兵の汚職が横行していることは事実らしい。
 とはいえ盗賊ギルドの仕事は一般人への聞き込みだけで済ませられるものではない。直接「問題を解決しろ」と言われたわけではないが、可能ならばそうすることが…実力を証明するためにも…望ましいことは確かである。
 ただの情報伝達員なら誰にでもできる仕事だからだ。
「それで、誰か問題を解決しようって人はいないんですか?まさか皆が皆、見て見ぬふりをしているわけじゃないでしょう?」
「そうね…とはいっても、衛兵を敵に回すことは誰にとっても避けたいことですから。生きていけなくなります…そういえば、レヴァナ・ネダレンが問題解決のために活動しているような話を聞いたことがあります。この街に住むダンマーです、勇気のある人ですよ」
 ティベラの口から出てきた名前をしっかり頭の中に留めておいてから、ミレニアは少しでも活動的な人間がいたことに感謝した。
 もし批判的な活動をする者が一人も出てこないほど圧政が凄まじいものだとしたら、まさに八方ふさがり。本当に独力で問題に対処しなければならないところだったが、味方として利用できる人間がいるなら、幾らでもやりようはある。
 その後はしばらく茶菓子をつまみながらティベラと談笑し、紅茶のおかわりを断ってからミレニアはリサンダス邸を出た。
 レヴァナ・ネダレンに会いに行こう。

  **  **  **  **




「おおっ、なんと美味しそうなキノコが!キャプチャー開始ッ!」
「オルドス、それは毒キノコよ!ベニテングタケ、食べたら死んじゃうわよ!?」
「なにぃ~、毒キノコ…だいじょうぶへーきへーき、一機減るだけだから…」
「なに言ってんの!あなたはマリヲでもルーイヂでもないのよ!?」
 なにやら騒がしいダンマーの男女の姿を目にして、ミレニアは低い声でつぶやいた。
「なんだろ、あれ…」
 ちなみにベニテングタケの毒はそれほど強力なわけではなく、命に関わることは滅多にない(よほど大量に食さなければ、だが)。毒を抜いて調理する方法もあり、国や地方によっては普通に食材として用いられることもあるという。
 ミレニアも錬金術の勉強をしていたときに、錬金材料としてこのキノコの研究をしたことがある。錬金材料としてはともかく食用に用いる場合は、「あくまで自己責任で。過量摂取、常食はしないこと」というのが彼女の下した結論だった。死ななければいいというもんでもない。
 おそらく男女の片割れが、ミレニアの探していたレヴァナ・ネダレンだろう。事前にティベラから聞いた人相風体に一致している。もう一方の男のほうは誰だかわからないが…
「あの、レヴァナ・ネダレンさん?」
「あなた誰、なんで私の名前を知ってるの…それよりこの、彼を止めて頂戴!あーっ、た、食べちゃ駄目だってばさ!」
「うますぎる!」
 女性…レヴァナが目を反らした隙に男はベニテングタケを口の中に放り込み、野太い咆哮を上げた。その直後、ダウン。
 あー、とか、うー、とか唸りながら倒れている男を、レヴァナが揺り起こそうとした。
「オルドス、死なないで!お願い死んじゃ駄目よ!?」
「あー、命に別状はないと思うッスよ。こんなに早く中毒症状が出るのは珍しいけど…大抵は吐き気を催すとか消化器系に影響が出たり、一時的な情緒不安定に陥る程度で…たまに幻覚を見る人もいるらしいけど。一日もすれば収まるから、医者に見せる必要もないと思うな」
「あなた詳しいのね。植物学者かなにか?」
「ちょいと錬金術をかじってるってカンジ」
 あえて魔術大学への在籍は伝えない、そのことが裏目に出ない保証はまだないからだ。
「ふら~いん、ふら~いんざすか~い、くりふれーさーふらいぞんは~い…ふら~い♪」
「なにその歌」
 どうやら中毒症状が酩酊に似た効果を引き起こしたらしい、ちょっとヤバイ目つきで歌いはじめた男にミレニアは思わず警戒してしまう。
「あの…え~と、あたし、この街で衛兵の汚職が横行してるって聞いて…ある機関からの依頼で調査してるんですけど。ところでこの人、誰なんですか」
「彼はオルドス・オスラン、つい最近衛兵から不当に家を接収されて宿無しになってしまったのよ。酷い話よね」
「あー…ご愁傷様です」
「ところで、衛兵の汚職の調査と言った?それで、なんで私に会いに来たの?」
「ある人から、この街で積極的に反対活動をしているのがあなただと聞いて」
「その、ある人って誰かしら」
「言えません。この件とは無関係な情報提供者なので」
「ある機関からの依頼と言ったわね。それ、どこ」
「それも言えません、申し訳ないですけど」
「信用できないわね。たとえば、あなたが反対勢力を潰すために衛兵に雇われた工作員じゃないって証拠がどこにあるというの?私はただの一般人よ、協力はできないわ」
「現状で衛兵側は工作員を雇うより、正面から潰しに来るほうが手間がない…って言い訳は意味ないですよね、この場合」
 レヴァナが言っているのは個人的な信用の問題であって、衛兵側が工作員を送ってくる可能性についての推量ではない。
 どうしたものか…少し考えてから、ミレニアは「ちょっと待っててください」と言ってその場を離れた。
 いったい何をするつもりなのか、と見守るレヴァナの前で、ミレニアは通りを巡回していた衛兵を呼び止めると、他愛のない雑談をはじめた。しばらくして二人は別れたが、戻ってきたミレニアの手には金貨が詰まった皮袋が握られていた。
 さっき話をしていた衛兵の腰にぶら下がっていたものだ。
「これ、いま衛兵から盗んだものです。あたしが信用できないなら、いまここであたしを告発することもできますよ」
「なんとまあ」
 おそらく今日も不運な誰かから罰金を徴収していたのだろう、若干重みのある皮袋を手渡されたレヴァナは、しばらくミレニアの顔をじっと見つめると、目を細めて言った。
「…あなたには影の加護がついてるように見えるけど。どうかしら、私の思い違いかしら?」
「あ、それ!」
 影の加護、というキーワードにミレニアが耳をぴんと立たせる。
 なぜならそれは盗賊ギルドの一員や、その協力者たちが好んで使う単語だからだ。
「あなた、ひょっとして…」
「もう引退した身だけどね。といっても脱退したわけじゃなくて、たんに活動してないだけだけれども。ひょっとしてこれはギルドからの仕事の依頼なの?」
「言えません」
「あ、そ。まあいいわ」
 たとえ相手が敵ではない…味方かもしれない…とわかっても、途端にお喋りになるようでは盗賊失格だ。
 それをわかっているのか、ミレニアが「正体を明かせない」という態度を崩さなくとも、レヴァナの警戒心はさっきまでと比べて随分と薄れていた。
「いいわ、協力してあげる。といっても、本当は私のほうこそ協力者を必要としていたのだけどね。だから、実際は私がしてあげられることって、そんなにないのだけれど」
「いや、協力してくれるってだけで心強いッスよ。それで、現状はどうなってるんです?伯爵はこの件について関知してないんですか?」
「伯爵?知らないことはないでしょう、といっても不正の確実な証拠が挙がらない限り、動くことはないでしょうけどね。あの人は自分の台所に影響がなければ、市民の暮らしになど興味を持たないのです。シェイディンハルの恥さらし、まったくどうしようもない」
「ぐえー。伯爵の協力は望めない、と。なにか具体的な対策って用意してあります?」
「対策というか…衛兵も、誰も彼もが堕落してるわけではないわ。特に副隊長のガルースという男はオーリックの横暴にかなり批判的だとか。なんとか彼と接触したいんだけど、私は衛兵隊長のオーリックから目をつけられているせいで城へは門前払いを喰らって入れないし、ガルースもオーリックの指示でパトロールを禁じられているらしく、城に閉じ込められているのよ。なんとか彼と連絡を取ることができれば、少しは前進できると思うのだけどね」
「つまり、あたしが城に入ってガルースさんと話をしてくればいいんですかねー。とりのあえずは」
「できるの?というのもいま、城への謁見には厳しい制限が課せられていて、普通の身分の人は入れないのよ」
「そりゃー、まあ。任せてくださいッスよ」
 ミレニアには城に潜り込むための秘策があったが、それをレヴァナには言わず、ただ唇に人差し指をあてて不敵な笑みを浮かべた。

  **  **  **  **

「帝都魔術大学からわざわざお越しくださったとか。たいしたもてなしもできませんが、どうかお寛ぎください」
「やや、そんな気を遣わないでくださいって」



 副隊長ガルース・ダレリアンは見た目からして誠実そうな青年だった。
 門衛から「いま伯爵は誰とも会わない、出直してくれ」と言われたものの、「城に入るだけ!入るだけでいいから!」とミレニアは無理を押し、なんとか彼と会うことができたのであった。魔術大学の会員という身分はなかなかどうして、役に立つことがある。濫用は禁物だが。
「隊長と、部下たちの汚職については私も聞いている。伯爵が何も対策を講じないのも事実だ。しかし、伯爵は…奥様を亡くされてから、ずっと心を病んでおられるのだよ。可哀想なお方だ…もちろん、それが市民への何の慰めにもならないことはわかっている。だが、伯爵とて好んで享楽に身を任せているわけではないのだ。そのことは、理解してほしい」
「…はい……」
 今は亡き伯爵夫人の席に献花を捧げるガルースの姿に、ミレニアは心苦しさを覚える。
 まるで、伯爵夫人が今もまだどこかで生きているかのように。まるでいつの日か、ひょっこりと…何事もなかったかのように戻ってくるのではないか。そんな伯爵の期待が、生前と同じく残されたままの伯爵夫人の椅子を通して見えるようだ。
 もちろん、傷心から政治に支障をきたすようでは統治者失格だ。衛兵隊長のオーリックとその部下も、伯爵の政治への無関心を利用して横暴を働いているのは明らかだった。
 それでも大切な人を亡くしたその想いを、ミレニアは無視できなかった。
 悲しそうな表情をするミレニアにガルースは驚き、そんなつもりはなかったと前置きして笑みを浮かべた。あからさまに作り笑いっぽかったが。
「早々に湿っぽい話をして申し訳なかったですね。ところで、魔術大学からの要件とは?宜しければ、私が伯爵にお伝えしておきますが」
「やや、いや、その。じつはあたしが用があるのって、伯爵じゃなくてあなたなんですよ」
「私に?」
 目を丸くするガルースに、ミレニアは「こうなったら一か八かだ」と危ない綱渡りをはじめることを決心する。
「じつはシェイディンハルの、衛兵による罰金の過剰な徴収に魔術ギルドの支部から苦情が報告されてきまして。このままでは活動に支障をきたすからと…そこで大学が、内密に問題解決のための人員を、まあ、あたしなんですが、派遣することに決めたってことで」
「帝都がこの街の政治に関心を持っているとは思いませんでしたが、まさか魔術大学が…」
「あくまで密命で、このことはギルドのシェイディンハル支部にも知らされていないので、他言は無用なんですが…街で情報を集めたところ、あなたが隊長の横暴に批判的だと聞いたので、どうにか協力してもらえないかと思って来たんですが」
 ここで無関係な魔術大学やギルドの名前を出すのはかなり危険な行為だったが、そういったバックグラウンドを持たずに協力を仰ぐことは不可能だろうとミレニアは考えていた。
 たとえガルースが市民の置かれた状況に同情的だとしても、たんなる一市民に問題解決を任せることはないだろう。逆に彼の正義感がそれを拒むはずだ、重い責任と危険を負わせるわけにはいかないと…
「魔術大学が動いているなら、こちらとしても静観を続けるわけにはいかないですね。伯爵の名誉にも関わりますし、問題解決のために尽力しましょう」
 どうやらミレニアの嘘を信用したらしいガルースは、一本の鍵を腰のベルトから取り出した。
「これはオーリック隊長の寝室の鍵です。どうにか複製するところまではいったんですが、その後に他の衛兵を使った監視の目が厳しくなりまして。もし寝室に忍び込むことができれば、不正の証拠となるものが見つかると思ったのですが」
「…警戒云々を言うなら、余所者のあたしのほうが目はないと思うんだけど」
「もちろん。ただ、魔法の中には姿を消したり、人の目を撹乱するといった術があると聞きます。もしあなたにそういった術の心得があるとすれば、あるいは」
「まぁねー」
 実際のところミレニアは錬金術専門であって、魔法はほとんど使えない。つい最近ラミナスに急かされるまで、魔術師の杖すら作ろうとしなかったほどだ。
 もっとも魔法を行使しない「盗みの術」そのものについての心得があるミレニアにとっては、ここでガルースの提案を断る理由はない。もちろん、本当のことを話す意味もない。
「できるだけ寝室に侵入しやすいようセッティングしておきます。夕暮れ過ぎに部下たちが酒盛りをはじめますので、そのときに入るのが一番いいでしょう」
「了解了解。それじゃああとは、成果が挙がったあとにまたここで会うってことで。あんまし頻繁に連絡を取り合って、関係を疑われるのもまずいしねー」
 ガルースから鍵を受け取りながら、ミレニアは軽い口調で会話を流す。
 頻繁な接触を避ける本当の理由は、ガルースに始終つきまとわれると仕事がやりにくくなるからだ。特に盗賊としての、盗みの仕事をするならなおさらだ。
「ところで主犯格…て言い方でいいかどうかはわかんないけど、隊長のオーリックってどんなヤツなの?」
「勤勉な男…でした。伯爵が彼を隊長に任命したのは、戦いの実力も勿論でしたが、純粋に仕事への誠実さからでした。同僚からの信望も厚く、それがどうしてああなってしまったのか…私にはわかりません。ただ」
「ただ?」
「以前から、ダンマーに対して差別意識のようなものがあったような気はします。それに彼が執拗に罰金を取り立てるのはダンマーに対してのみで、オークや他の種族に対してはそれほど厳しく科料を迫らないのです。これが何を意味するのかは、わかりませんが」
 もちろん、理由があったからといって行為が正当化されるわけではない。
 そう言うガルースに対し、ミレニアは肯定とも否定とも取れぬ曖昧な返事しかできなかった。

  **  **  **  **

 ガルースが指定した夕刻過ぎ、ミレニアはオーリックの寝室がある衛兵の詰め所へと侵入していた。



「いやー、めいっぱい飲んでるねぇー。こんな酒やご馳走に自分たちの金が使われてると知れば、そりゃあ市民のミナサマも激怒するわさ」
 仕事用の盗賊装束に身を包み、部屋の影に身を潜めながら、ミレニアはそんな独り言をつぶやいた。
 どうやらガルースが事前に細工したらしい、部屋の照明が減らされ暗くなった室内で衛兵たちが歯に衣を着せぬ言葉で駄弁りはじめる。



「しかし、まさか蝋燭の搬入が遅れたせいで部屋の照明がつけられねーとはな。ガルースが注文書で手違いをやらかしたらしいが、あいつもけっこう抜けてるところあるよな。蝋燭の在庫が残ってないってのも変な話だが」
「ま、そういうこともあるんだろうよ」
 それとなく会話に耳を傾けながら、ミレニアは暗視装置のスイッチを入れ、アクティヴ・ヒートシーカーをオンにした。緑一色になった世界の中で、酒の影響かやや体温が高くなった衛兵たちの姿がくっきりと赤く浮かび上がる。
 この暗視装置はミレニアの両親が遺したもので、どうやらシロディールの技術で作られたものではないらしい。といっても、その詳細を両親に聞く機会はなかったが。
「ところで隊長はどこ行ったんだ?飲みの席に主役がいないんじゃあ、仕方ねーだろうに」
「パトロールだとよ、いつものことだろ。熱心だよな、あんだけガッツリ稼いでんのに、酒はほとんど飲まねーし、贅沢してるようには見えないんだ。おまえら隊長の部屋を見たことあるか?ビックリするぜ、ありゃあ安給取りの下っ端と変わらんよ」
「そのくせ俺たちへの気前はいいときたもんだ、有り難い話じゃねぇか…なあ、隊長が貯めた金を何に使ってるか予想してみないか?俺はなんか、ヒトには言えない趣味でも持ってんじゃあねーかと思うが」
「麻薬かな?」
「いやー女だろ!ありゃあ女に貢いだ挙句、身を持ち崩す性格だぜ」
「違ぇねえ!」
 ガッハハハハハハハ!
 下品な笑い声を上げ、こちらの様子にはまるで注意を払うこともない衛兵たちをジト目で睨みつけながら、ミレニアはそっとオーリックの寝室に侵入した。
 さっき衛兵が言っていた通り、オーリックの部屋は至って簡素で、不正に金を稼ぐ者にありがちな贅沢品や華美な装飾などはまったく見当たらなかった。何の変哲もない焼き物の壷、金属製の食器は金銀ではなく安物の合金製、タペストリーは木綿で編まれたものだ。唯一ベッドは豪華だったが、これはもともと城が要職に就く者のためにあてがったものだろう。
「うーん…盗賊の目で見ても、あえて盗もうって思えるようなものが一ッつもないんだよねー」
 そのくせ部下への気前はいいという、まさかすべて部下への酒代に費やしているわけではないだろうが…それにしては稼いだ額が大きすぎる、必ず「何か」に使っているはずなのだ。あるいは、目的もなく金を貯めるのが趣味の拝金主義者だろうか?
 しばらく部屋を漁っていたミレニアは、やがて目当てのものを発見した。



「これは…帳簿?」
 まさか外部から盗みが入るなどとは思っていなかったのだろう、棚の上に無造作に置かれた一冊のノートには、いままで市民から取り立てた罰金の額が仔細に記されていた。
 事務的に書かれたそれは、あるいはたんなる悪趣味で作られたものかもしれないが…それとも彼にとって、徴収した金額の把握が重要なことだったのだろうか。
 そして帳簿の下には、一冊の日記が置かれていた。
 何気なくページを捲ったミレニアの目に飛び込んできたのは、苛烈な言葉だった。
『あいつらに復讐してやる』

  **  **  **  **

 誰にも見つかることなく詰め所から飛び出し、帳簿と日記をバックパックに詰めたミレニアは、このあとどうするかを考えていた。
 ふたたびガルースと会うのは翌日の午後と約束している、それまで特にやるべきことはない。
 おそらく帳簿を渡せば伯爵も動くだろう、さすがのオーリックも無事では済むまい。
 ただ…オーリックの日記を読んだミレニアは、悩んでいた。
 彼女も復讐のために行動している。盗賊ギルドと魔術大学の間で危ない綱渡りをしているのも、すべては復讐のための下準備に過ぎない。いままで汚いことも、人に自慢できないようなことも平気でしてきた。
 その自分が、復讐のために行動するオーリックを罰する資格があるのか。
 だが…
『もちろん、それが市民への何の慰めにもならないことはわかっている』
 伯爵を評するガルースの言葉を、ミレニアは思い出す。
 理由がある、というのは、免罪符にはならない。たとえ本人にどれだけ重い理由があろうと、あるいは自分の行為が間違っているとわかっていても、そう理解してもなお行動してしまう、それを納得できるだけの「何か」があったとしても。
 それは他人にとって何の価値もないものだ。他人には。
 そんなことを考えながら街を歩いていると…ミレニアは、教会前の広場で言い争う声を耳にした。
 衛兵二人に向かって罵詈雑言を吐き散らすのは、昼間レヴァナと一緒にいたダンマーの男オルドス・オスランだった。
 たしか、度重なる科料を支払いきれずに家を差し押さえられたと聞いていたが…
「オーリック、このクソ野郎!ここは俺さまの家だ、誰がなんと言おうとだ!ちくしょうめ、なにがあっても帰らせてもらうぞ…自分の家に帰れないなんて、そんな馬鹿げた話があるかってんだ」
「ふざけるな薄汚い酔っ払いのダンマーが、今ので名誉毀損と公務執行妨害がつく。50Gの罰金だ、といっても今の貴様には1Gぽっちも支払えんだろうがな」
「おまえが俺さまのケツの穴までほじくり返して何もかもぶん取ったからだろうが!これ以上邪魔すると、衛兵隊長だろうとなんだろうと容赦しないぞ!ぶっ殺してやる!」
 おそらく衛兵のうち一人は差し押さえたオルドスの家を監視するために常駐している見張りだろう。もう一人の黒髪の男、会話の内容からすると、彼があの悪名高い衛兵隊長のオーリックらしいが。
 事態はどうもまずいほうに転がっているようだ、酒に酔っているのか、あるいは昼間のベニテングタケがキマッているのかはわからないが、オルドスは明らかに素面ではない様子で、おもむろに腰のショートソードを抜き衛兵二人を威嚇している。
 止めなければ!
「…脅迫に威力業務妨害も追加して、投獄すれば何日の服役刑になるかな?」
「地獄でずっと同じこと言ってやがれ、このクソったれ野郎がぁーーーッ!!」
 ミレニアが現場へ駆け寄ろうとした直後、オルドスが短剣をオーリックに向けて振りかぶる!
 だが、いままで両腕を組んで微動だにしなかったオーリックが右手を一閃!素早く抜き放った銀製の斧の一振りで短剣をはじき飛ばし、続けざまに斧の柄をオルドスの首筋に叩き込んで昏倒させる!
「ぅぐあふっ!?」
「殺人未遂、衛兵へ刃を向ける行為は国家反逆罪にも該当するな。死罪だ…緊急時における自衛権の行使と衛兵隊長の権限をもって、私はそれを即時実行する」
 石畳の上に両膝をつくオルドス、オーリックはもはや無抵抗になった彼に向かって斧を振りかぶり…



「…な……!?」
 首を、切断した。
 首の切断面から血が洪水のように溢れだし、オルドスの青ざめた頭部がミレニアの足元に転がる。
 絶句するミレニアの姿に気づき、オーリックは斧にべっとりとこびりついた血を布で拭いながら、厳しい口調で迫ってくる。
「貴様、見ない顔だな。余所者か?見た通り、いまのは正当防衛であり衛兵としての通常業務だ。市民の命が失われたことは悲しむべきことだが。いや、こんな恥晒しの命知らずがシェイディンハル市民を名乗っていたことに悲しみを覚えるべきなのだ」
「だからって、殺すなんて…!」
「犯罪は犯罪、罰則は罰則だ。ルールが守られない社会など畜生道も同然、なにか問題があるのか」
 厳しい目つきで睨みつけるミレニアに平然と言い放つオーリック。
 そのとき傍らにいた衛兵が、オーリックになにやら耳打ちする。小声ではあったが、ミレニアのハーフ・メトセラの聴覚はそれを正確に聞き取ることができた。
『彼女は昼間、城への謁見に臨んでいた娘です』
『なに、あの小娘が?何者だ』
『魔術大学の遣いであるとか。であれば、無用なトラブルは避けるべきかと…』
 どうやら衛兵たちの間での情報伝達は早いらしい、たぶんガルースと話し込んでいる間に伝わったのだろう。
 ミレニアの正体を把握したオーリックは「フン」と鼻を鳴らすと、斧を下げて言った。
「帝都からの客人か。ここはいい街だ、くつろいでいくといい。ただし騒ぎを起こすなよ、あるいは妙な噂を聞きつけて犯罪者に加担などしてみろ。この街の法律は犯罪者に甘くはないぞ」
「それで、この街から人がいなくなるまで同じことを繰り返すわけ?」
「あるいはな。とはいえ勘違いしてもらっては困るが、虐殺は本意ではない。貴様は見たところアルトマー(ハイエルフ)のようだが…無用な詮索はするな」
 そう言って、オーリックは立ち去っていった。
 その背中に、あるいは皮肉の一つでも言ってやれたのかもしれない。あるいは、正義の一太刀を浴びせることができたのかもしれない。オーリックは腕の立つ戦士だったが、不意討ちならば可能であったろうか。
 しかしミレニアは何もせず、ただじっとオーリックの後ろ姿を睨みつけるだけだった。
 殺すだけなら、いつでもできる。負け惜しみではなく、ミレニアはそう考えていた。その判断を下すのにはまだ早い。
 ミレニアは目の前にいる衛兵の目を盗んでオルドスが落とした短剣を拾い上げると、その場を立ち去った。すくなくとも、ガルースと連絡を取る前にやるべきことが一つ、できた。







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グレアム・カーライル
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