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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2014/12/06 (Sat)22:43

「なんですって…オルドスが、オーリックに殺された!?」



 レヴァナ・ネダレン邸二階。
 暖炉の火に煌々と照らされながら、レヴァナの青白い顔がよりいっそう青ざめた。
 昼間出会ったとき、懸命にオルドスの世話を焼いていたレヴァナにこの事実を報告する必要があるとミレニアは判断したのだ。そして、オルドスがオーリックに斬りかかったときに使った短剣を手渡す。
 はじめはミレニアを追及しようとしたレヴァナだったが(なぜ止められなかったのか?)、すぐに思い直し、かわりに力ないつぶやきを漏らした。
「たしかにあいつは悪党だと思ってた。けど、まさか殺しまで平気でやるなんて…」
「オーリックが人を殺したのは、オルドスが最初なの?」
「当たり前よ、でなければ他の市民が黙っちゃいないもの。それに、オルドス…残念だけど、私以外の住民はあまり彼に関心がなかったのよ。奥さんを強盗に殺されて悲嘆に暮れる、それは理解できるけどやっぱり酔っ払いは迷惑だってわけ。殺されたのが他の誰でもなくオルドスなら、やはり関心を払うことはないでしょうね」
 そう言って、レヴァナは落胆する。
 オルドスがシェイディンハルの住民にとって好ましくない存在であったことは事実らしい。ミレニアが昼間に見た印象だけでも、近寄り難い性格であったのは確かだ。
 レヴァナが言うには、妻を失ってから奇行が目立ちはじめたという話だが…
「奥さんを亡くして酒に逃避するようになる前は、それはもう素敵な男性だったのよ?彼は…なんといっても、私が盗みから足を洗うきっかけを作ってくれたのは彼なんだから」
「そうだったの!?」
「若くて才能がある商人で、美人の若い奥さんがいて…羨むというか、妬んでしまうのも無理はない話だと思わない?それで、私は昔、彼の家に盗みに入ったの。ところが少しばかり長居をし過ぎて、彼に見つかってしまって…もうこの街では生きていけないと覚悟したけど、彼は私を厳しく罰しようとはせず、通報もせず、誰にも何も言わずに見逃してくれた。それ以来、せこい盗みのために身を賎しめる自分が恥ずかしくなってしまってね。それで、まっとうに生きていくことを決めたのよ」
「そんなことがあったんだ…彼は、オルドスはあなたにとっての恩人だったんだね」
「ええ。それ以来、その…年甲斐もないことを言うようだけど、私は彼が気に入ってしまってね。いつも、彼の隣にいるのが私だったらって思ってた。でも実際に奥さんが不幸な目に遭って、彼の変わり果てた姿を見たときに…私は、なんて浅ましいことを考えてたんだろうって…」
 そこまで言って、レヴァナは口を噤んだ。その瞳から、堰が外れたように涙が溢れてくる。
「彼が家を差し押さえられたときも、本当はすぐに私の家へ招き入れたかった。でも、それは亡くなった奥さんに申し訳ない気がして…でも、こんなことになるなら…もっと早く決断すればよかった……!!」
 唇をきゅっと結び、歯を食いしばって涙をこらえようとするレヴァナ。しかし溢れる涙は留まることなく、ミレニアもつられて涙を流しそうになる。
 ただの友人かなにかだと思っていた、まさかこんなふうに特別な感情を抱いていたとは…
 しばらく無言のまま泣いていたレヴァナは、やがて顔を上げると、鬼のような形相でつぶやく。
「…殺してやる。あいつ、あの衛兵隊長。復讐だ、もう我慢できない。生かしてはおけない!」
「えぇ!?ち、ちょっと待ってよ!?」
「だってそうだろう、誰もあいつをなんとかしようとしない、だったら私がやるしかないじゃないか!」
 オルドスの短剣をがっしと掴み、いますぐにでも家を飛び出そうとするレヴァナ。
 慌ててミレニアは彼女の前に立ち塞がり、バックパックから一冊のノートを取り出してみせた。オーリックが部屋に残していた帳簿だ。
「待ってってば!これ、昼間にオーリックの部屋に忍び込んで盗んだ帳簿です、これがあればあいつを牢獄送りにできるんだってば!わざわざレヴァナさんが手を汚す必要なんかないんだって!」
「それで、あいつはどうなるんだい?十年、あるいは二十年?もっと短いかもしれないし、あるいはもっと長いかもしれないけど、それでもあいつはいつか牢屋を出て、人並みの生活に戻るんでしょうよ。それじゃあ割に合わない、釣り合わないじゃないのさ!人一人の命には、オルドスの命には!」
 いかん、完全に復讐モードのスイッチ入ってる…ミレニアは額に汗を浮かべた。
 そりゃあ、大切な人が殺されたとなれば、こうなるのも無理はない。というか、本当は「帳簿の提出によってオーリックを牢獄送りにし、オルドスの無念は晴らすから安心してくれ」と言うつもりで立ち寄ったのだ。まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
「いいですか、わかってんですか?相手は衛兵隊長で、伯爵に仕える身分なの、殺したら重罪なんだよ?それにあいつは腕が立つし、そうそう殺すことなんてできやしないんだってば!」
「それじゃあ、ずっとこの無念を抱えて生きろというのかい…あいつか、私が死ぬまで」
 そう言って、レヴァナはがっくりと肩を落とした。
 たしかに…たしかに、大切な人を亡くした悲しみと、怒りはわかる。ミレニアは考えた…もし自分の両親を殺したのがオーリックだったとしたら、やはり殺したいと思うだろう。なんとしてでも、自身の手で殺してやりたいと考えるだろう。
 ふーーーっ。
 深呼吸してから、ミレニアはいままでにない真剣な眼差しでレヴァナを見つめ、言った。
「…そんなに復讐したいですか」
「ああ」
「だったら、協力してあげてもいいです。オーリックを誘い出し、誰にも邪魔が入らない場所で、確実にあなたが殺せるように仕組んであげます。ただし、条件が一つだけあります」
「なんだい、条件って」
「自首してください」
「……え?」
「もし罪を被るのがイヤなら、そんな程度の低い復讐なら、協力する気はないです。あたしとしては、オーリックの不正を暴ければそれで任務完了っすから。あいつが二百万年牢の中で過ごそうと、三日後に出てこようと、そんなのは関係ないんで。もちろん、復讐に手を貸すような危ない橋を渡る理由なんか、これっぽっちもないし」
 ミレニア自身はオーリックに何の恨みもない。
 そのことを再認識させられたレヴァナは、この小さな娘を自身の復讐に巻き込んだものか少し考え、やがて結論を出した。
「…それでも、私は復讐したい。あんたの手を借りたい、復讐を遂げることができたら必ず城へ行って、自らの罪を告白するよ。約束する、あんたに手間以上の迷惑はかけない」
「わかりました。それじゃあ」
 そう言って、ミレニアはバックパックから乾燥茶葉の入った陶磁の容器を取り出すと、食器棚を勝手に探って茶道具をテーブルに並べはじめた。
「それじゃあ、まずはお茶にしましょうか」
「…あんたもよくよくわけのわからない娘だねぇ。復讐の前の気つけかい?」
 呆れた、というふうにつぶやくレヴァナ。
 一方でミレニアは自らがブレンドした特殊な茶の香りを嗅ぎながら、どこか上の空といった態度で言った。
「ま、そんなようなもんです」

  **  **  **  **

 深夜。
 自身の部屋にて「帳簿と日記を返して欲しければ教会前の広場に一人で来い」という置手紙を発見した衛兵隊長オーリックは、面白くなさそうな表情で街灯に照らされた路地を歩いていた。
「まったく、賊の侵入を許すとは。揃いも揃って無能ばかりか、私の部下どもは…」
 そして、指定された広場へと到着。周囲に人影はなく、静寂があたりを包んでいる。
 最近まではオルドスが差し押さえられた家に勝手に入り込むのを防ぐため部下を一人常駐させていたが、当のオルドスがいなくなったことで監視員を引き上げさせたのだ。
 残しておくべきだったろうか?そう考え、オーリックは一笑する。
 なに、賊くらい自分一人で対処できずになにが衛兵隊長か。汚職に手を染めてはいるが、部下たちと違って堕落しているわけではない。どのみち、やるべきことは一つだ。
「身の程ってものを知らせてやらんとな」



 ガキィッ!
「えぇ、そうだろう?レヴァナ・ネダレン」
 いままで暗闇に潜んでいたのか、突如襲いかかってきたレヴァナの手をがっしりと掴むオーリック。
 怒りに顔を歪ませるレヴァナを見つめながら、まるで世間話の水を向けるような口調で話しかけた。
「まさか衛兵の詰め所に侵入してくるとはな。さすがは元盗賊といったところか…知らないとでも思ったか?もっとも帝都のヒエロニムス・レックスと違い、私は伝説のグレイ・フォックスとその取り巻きになぞ興味はなくてね。いつでも料理できる鴨は最後まで取っておこうと思っていたが、そろそろ潮時のようだな」
「私の過去なんか、どうだっていいだろう!あんたは私服を肥やすために、いったいどれだけの横暴を働けば気が済むんだい!?」
「…それで、その短剣で決着をつけようというわけか。それはオルドスが俺を刺そうとしたものだな」
「そうさ!あんたはこの、オルドスの剣で死ぬのが似合いさ!」
「なるほど。薄汚いダンマーに打ち砕かれた我が一族の誇りを、いまふたたびダンマーの手で汚そうというのだな」
「…… ……は?」
「日記を読んでいないのか?私の日記と帳簿は貴様が持っているのだろう?」
 鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を見せるレヴァナに、オーリックは眉をひそめる。
 レヴァナはミレニアがオーリックを誘うために使った置手紙の文面や、ましてオーリックの日記の存在を知らない。オーリックの台詞に疑問を覚えるのも無理はない話だ。
 そういった事情をそれとなく悟ったオーリックは、レヴァナの腕を掴む手に力をこめ、短剣をはじき飛ばした。
「なるほど、協力者がいるのか。まあ、貴様一人でお膳立てをしたと考えるよりは腑に落ちるな。おおかたガルースか…あるいはあの、アルトマーの小娘が関わっているのだろうが…ひとまず、目の前の問題を片づけるか」
 オーリックに突き飛ばされ、石畳の上に尻餅をつくレヴァナ。
 丸腰になり、無抵抗になったレヴァナに向かってオーリックが斧を振りかぶろうとした、そのとき!



「ぐあっ!?」
 黄褐色の粉末がどこからともなく漂い、それを浴びたオーリックがくぐもった悲鳴を上げる!
「くそ、邪魔が入ったか…こんな小細工、なんということはない…レヴァナ、まずは貴様だけでも始末を…!」
 苦しそうに呻きながらも、必死に斧を振り下ろそうとするオーリック。しかし身体が思うように動かず、やがて斧を落としてしまった。
 一方でレヴァナも若干の身体の不自由を感じたが、オーリックのようにまったく動きが取れないわけではない。彼女は短剣を拾うとオーリックの脇腹に突き刺し、そのままオーリックを地面に引き倒した。
「間に合った、かな…」
 二人の視界の外で、建物の屋根にぶら下がりながら薬瓶を傾けるミレニアは、安心したようにつぶやいた。
 これはミレニアが調合した特性の麻痺薬で、身体の自由を奪う効果がある。あまり長くは続かないが、人を一人殺すには充分な猶予だ。後遺症も残らない。
 そしてレヴァナの家を出る前に飲んだお茶、あれはこの麻痺薬の毒性を中和する効能があったのだ。さすがにまったく影響が出ないとはいかないが、茶を飲んでいない者との差は非常に大きい。
 身動きが取れずに地面で呻いているオーリックに近づき、レヴァナがとびきりの残酷な笑みを浮かべる。
「どうやらあんた、身体が思うように動かないみたいだねえ。ひと思いに刃物で刺し殺してやろうかと思ったけど、そういうことなら、もうすこし気の利いたやりかたがあるよ」
 そう言って、レヴァナが呪文の詠唱をはじめる。
 オーリックが恐怖に目を丸くするなか、あちこちの茂みから「ガサ、ゴソ」と物音が聞こえてくる、やがて広場に、大量のドブネズミが集まってきた。
「さあ、可愛い坊やたち。お食事の時間だよ!」
「ま、まさか…や、やめ…やめろ…う、うあああーーーっ!」



 レヴァナの号令一過、ドブネズミたちがオーリックを生きたまま貪り喰らいはじめた!
「げっ…」
 遠くからその光景を見つめていたミレニアは、あまりの凄惨な光景に思わず喉を詰まらせる。
 一方でレヴァナは高笑いを上げながら、満面の笑みを浮かべてオーリックに言い放った。
「アッハハハハハ、どうだい!これがモロウィンド流の復讐だよ、たっぷりと堪能しな!」
「くそ、貴様ら…この汚い術…あのときと同じ…そうまでして、我が一族を…辱めたいのか!おのれ、ダンマーめ!」
「何を言ってるのかわからないねぇ。それに指一本満足に動かせないやつに脅されたって、怖くもなんともないよ」
「恨んでやるぞ、ダンマー…たとえ、この身地獄に落ちようとも…オブリビオンの業火に焼かれるがいい、この…ぐ、ぐああっ、がああぁぁぁぁあああ!!」
「…なんだい、こいつ…」
 てっきり命乞いでもしてくるかと思っていたオーリックの呪詛に、レヴァナはわずかにたじろぐ。
「ああぁぁぁあああっっ!!がふっ、す…すまない…イザベル…ジェネッタ…可哀想な、私の……」
 最後に、悔恨の言葉を口にし…オーリックは、息絶えた。
 復讐を果たしたにも関わらず、どこか釈然としない気持ちを抱えたままレヴァナは佇む。
 協力者であるミレニアの姿を求めて周囲を見回したが、すでに彼女の姿はなく、そこには食事を終えて満足げに鼻を鳴らすネズミと、オーリックの無残な亡骸が残されるのみ。
 本当に、これで良かったのか。
 取り返しのつかない疑問を頭に浮かべながら、レヴァナは一旦帰路につくことにした。
 事前にミレニアと交わした約束によって、翌朝になったら城に出頭することになっている。そのことに後悔はない、自分はやるべきことをやったのだ。有り難いことに、帳簿の提出でオーリックの罪を暴くことにより、レヴァナの罪が軽減される可能性があるという。まあ、それを期待して復讐に走ったわけではないが。

  **  **  **  **

 翌日。
 衛兵隊長オーリックの死とレヴァナの自首、そして「ガルースがオーリックの死後に部屋を捜索した際に見つけた帳簿」の公開により、シェイディンハルにまつわる汚職事件は一応の解決を見た。
 公式にはミレニアは事件に関わっておらず、オーリックの死もあくまで「第三者による不慮の事態」。盗賊ギルドに課せられた「ギルドの介入を悟られないこと」「殺傷行為の禁止」という題目はいちおう果たされたわけだ。
 オーリックの死により、汚職発覚の立役者となったガルースは衛兵隊長に昇格。レヴァナも友人の死による義憤とオーリックの横暴の数々を鑑みて「酌量の余地あり」と判断され、本来想定された刑期よりもかなり短い期間での出所が認められたという。
 そんな、なにもかも丸く収まったように思えるなかで、ミレニアは一人、浮かない表情でレヴァナ邸の暖炉の前に佇んでいた。
『移民の受け入れ政策だと!?いったい皇帝はなにを考えているんだ!?たしかに、帝都への影響はほとんどないかもしれない。しかし国境沿いの各都市はどうなるというのだ?移民の流入による混乱、治安の悪化は避けられないものとなるだろう。父上もそのことを危惧しておられる、これからどうなるというのか…』
『近頃、ダンマーたちが権力を伸ばしつつある。ダンマーの貴族だと!商人風情が、金で買った地位で浮かれる成金どもめ。ずっとこの地を統治し続けてきた由緒ある我が家に、不遜にも対等な付き合いを求めてきたと聞いたときの、父上の激昂ぶりは察するに余りある。可哀想なのは妹たちだ、イザベル、ジェネッタ。もとから身体の弱かった彼女たちは、この状況にひたすら怯えている。なんとかしなければ。少なくとも、彼女たちの身は私が守ってやらなければ』
『とうとう父上がダンマーの使用人を雇いはじめた。いまや我が家の地位は貶められ、幅を利かせる成り上がりどもと付き合っていくには仕方のないことだと言うのだ。差別主義者という批難を避けるためらしい。この状況は嘆かわしい限りだが、実際に新しい使用人たちと話をしてみると、ダンマーもそれほど悪い連中ではないのかもしれない。私が思っていたよりも教養があるし、なにより妹たちが親しげに接しているのを見ると、私も頑固な態度を改めるべきかと考えるときがある…』
 ミレニアはいま、オーリックの部屋から盗み出した日記のページを捲っていた。
 伯爵に提出することなく、誰にもその存在を伝えなかったオーリックの手記。かつて彼は東ニーベン地方の一部を治めていた貴族の長男で、両親のほかに二人の妹と暮らしていたようだ。
『嵌められた!あの使用人どもは我が家の領地を乗っ取るために周辺諸侯が放った刺客だったのだ!ダンマーの怪しげな魔術によって屋敷はドブネズミで溢れ返り、父上と母上は…生きたまま…か、書けない。いや、心を鬼にして書こう。両親は生きたままネズミに食われた!ああ、アーケイよ!なぜこのような非道をお許しになるのです!?』
『私は妹たちを連れ、どうにか屋敷を脱出した。私も妹たちもかなり傷を負ったが、少なくとも、生きている…いま私の目の前で屋敷に火が放たれ、残虐非道なダンマーどもが歓声を上げるのが聞こえる。この恨みは一生忘れはしない!しかし、いまは安心して眠れる場所が必要だ。いま熊にでも襲われたら、私には妹たちを守れる自信がない…』
『傷が完治した私は、身分を隠してシェイディンハルに潜りこみ、剣の腕を活かして衛兵の職を得た。妹たちの傷は重く、しかも悪い感染症にかかってしまったのか、美しかった肌が日に日に醜く爛れていく。これでは嫁の貰い手もつかないだろう、可哀想に…なにより親しく付き合っていた使用人に裏切られたショックが大きかったのか、あの事件以来、一言も言葉を話そうとしない』
『ダンマー、ダンマー、ダンマー!なんということだ、この街はダンマーだらけだ!昔、父上に連れられ訪れたときはこんな有様ではなかったというのに!浮かれた顔で街を歩いているこの連中が、私の家を焼き払った外道どものように、どれだけ汚い手を使って金を稼いで立派な家を建てたのかなど、考えたくもない!気が狂いそうだ…』
『妹の怪我の治療に、とうとう医師たちが匙を投げはじめた。それも仕方のない話だ、私の薄給から治療費に充てられる額などたかが知れている。先日など、とうとうダンマーの金貸しに世話になる破目に陥ってしまった。それでも、なにがあろうと妹たちを失うわけにはいかない。彼女たちがいなければ、私はもう生きていけない。金だ、金が必要だ…!』
『転機が訪れた。普段の努力が買われて衛兵隊長に任命されたことで、かなり自由な行動が取れるようになった。きっかけは些細な出来事だったが…私が過剰な罰金を請求しても、それを咎める人間がいないとは。伯爵は奥方が亡くなられて依頼、すっかり腑抜けになってしまっている。かつてはその無能ぶりに腹を立てたこともあったが、いまでは感謝したいくらいだ。部下たちにも罰金に関する法の改正に意見を求めたところ、喜んで賛成してくれた。ちょろいものだ』
『最近、自分の行動に自信が持てなくなっている。妹の治療費を稼ぐため、ダンマーへの復讐のためと自分に言い聞かせたところで、けっきょく自分もあの外道どもと同じ道に堕ちているような気がして…それに酒に溺れる部下たちを見ていると、言いようのない疲労を覚える。これが私の求めた統治なのか?いや、気弱になってはいけない。そもそも余所者がシロディールの地に足を踏み入れたことこそがすべての元凶なのだ。大人しくモロウィンドに引っ込んでいればよかったものを』
 日記は、ここで終わっていた。
 彼が、オーリックが過剰な罰金の徴収を行っていた理由は、家柄と家族を奪ったダンマーへの復讐と、そして妹たちの治療費を稼ぐため。
 もちろん、だからといってオーリックの行動が正当化されることはないし、彼のいままでの行為は許されるようなものではない。
 そもそも復讐というのは自分勝手という以上のものではない。
 亡くなった者の無念を晴らすためと言っても、その亡くなった人間の心理を代弁することができない以上、結局は自分自身を納得させるための儀式でしかないのだ。
 そのことを理解してもなお、その納得のために復讐に身を投じる、そのために自分は生きている。
 だからミレニアは、レヴァナに手を貸したのだ。彼女自身が納得するために。少なくとも、彼女にはその資格があると思ったからだ。そして復讐には代償がつきものであることを、自分に、レヴァナに、そしてオーリックに納得させるために。



 ガサ…ブオッ!
 ミレニアは暖炉の火の中に日記を投げ入れ、それが燃えていく様子をじっと眺める。
 これは、人の目に触れていいものではない。
 逆賊オーリックは自身の欲得のために市民から過重な罰金を取り立て、そして善意の一太刀によって不名誉な命を落とした。それ以上のことを、誰かが知っている必要はない。
 これが、復讐の代償だ。不名誉な死こそが。
 レヴァナは気づいているのだろうか?たとえ刑期が軽減されたとしても、自分が牢から出ることができないということを。「衛兵殺し」が牢に入るということが、なにを意味するのかを。
 彼女は理解していたのだろうか?
 オーリックのおかげで甘い汁を吸うことができた衛兵たちが、オーリックを殺しすべてを終わらせた元凶である彼女を生かしておくなどという、そんな都合の良い話があると本気で信じていたのだろうか?
 これが、復讐の代償だ。獄中の死こそが。
 それでは、自分は?
 自分が復讐を果たしたとき、そこに待っている代償はなんだろうか。
 ゆらめく炎を見つめながら、ミレニアは決断する。
 それでも、自分が復讐を止めることはない。その果てに待つのが不名誉な死だとしても。獄中での死だとしても。あるいは、もっと深い絶望が待っていたとしても。

  **  **  **  **

「うぃー、さぶいなぁ~。まさかの雷雨だよ」
 両親の遺品であるオイルランプを手に道を歩くミレニア、すでにひどい嵐に見舞われ全身が濡れそぼっている。
 …オーリックの妹たちは、どうなるんだろう。
 ふとそんなことを考え、ミレニアはかぶりを振る。
 彼女たちの治療費にしたって、不正に取り立てられた、汚い金が使われているのだ。たとえ本人たちにその気がなくとも、本人に罪がなくとも…因果は継がなければならない。
「世の中ってなぁ、善良な人間が幸せになるために作られたわけじゃないんだよねー」
 そんなことをつぶやきながら、先を急いでいると。
 ふと、誰も住んでいないはずの廃屋のそばを人影が通りすぎたような気配がした。
「…誰だろ?」
 特に警戒心を抱くこともなく、ミレニアは人影が消えた方向にランプの光を向ける。



「あ…」
 そこには。
 そこには、黒装束に身を包んだ女性が佇んでいた。鋼色の髪が揺れている。
 やがて女性と目が合い、女性の片目が…真っ赤に…光る……
「……え?」
 一瞬だけ意識が朦朧としたミレニアは、次の瞬間、女性の姿がなくなっていることに気がついた。
 …魔法か?あるいは幻覚か…
 それよりもミレニアには、気になることがあった。あの黒装束、どこか見覚えがある。
「まさか、彼女が…」






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