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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/10/06 (Sun)19:28
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2014/10/19 (Sun)18:55



 どうも、グレアムです。Fallout3 Mercs Effect、いちおうの完結と相成りました。
 正直Broken Steelはその難易度を除けばたんなる残党狩りという名の消化試合なので、わざわざ死人を起こしてまで引っ張るネタだったのかというと今になっては疑問なのですが、それでも主人公クレイブの心象の変化を描くという点では意義があったように思えます。

 以前の彼は放埓な楽天家ながら凄まじいまでの破壊欲と破滅願望の持ち主で、その行動の根底にあったのはアナーキズムでした。権力者に敵愾心を抱くきっかけはVaultを追い出されたことで、そのことがBoSに対しての不信にも繋がっています。
 メインクエスト終了時には「皆は自分を英雄として称えるだろうが、自分が何を思い生きてきたのかについて考えることは決してないだろう」というおセンチな言葉を残し、さらに生き返って父の功績がウェイストランドの平和にまったく寄与していないことを知ると憤慨します。
 つまりクレイブの原動力は社会に対する不満であり、所謂ルサンチマン的思考です。
 これまでのクレイブは社会の暗部、自分の力ではどうすることもできない世界の流れを「悪意ある権力者」のせいだと思い戦いを続けてきました。

 しかし一度争いの渦中から離れて冷静な思考を取り戻したとき、エンクレイブの壊滅やThe Pittでの虐殺、さらに悪化していく事態にまったく対処できていないBoSの醜態を改めて観察したときに、世の中が平和にならないのは「悪意ある権力者がそのようにコントロールしているから」ではなく、「そもそも平和など人間が勝手に生み出した幻の概念に過ぎない」ことに気づきます。
 つまりこの時点で、クレイブは怒りの端緒や戦いの動機を失ったのです。
 以降、万年賢者タイムに突入したクレイブはふたたび戦いの渦中に巻き込まれることになりますが、その思考は以前とはかなり異なったものになっています。

 最後にはゲームの通りBoSの派遣したベルチバードに乗ってエンクレイブの最期を見届けますが、おそらく以前までのクレイブであればベルチバードには乗らず、そのまま死を選んだでしょう。生きる目的がなく、死後の世界で最愛の人が待っているのですから。
 しかし「介入者」であった以前から「傍観者」として世界を見つめる精神的超人と化したクレイブは、どうせなら寿命一杯まで世界の行く末を見届けようと考えるようになります。もちろんこれは、恋人ブレンダの「ちゃんと待っててやるから」という言葉を心の拠り所にしたものではあるのですが。

 結果としてクレイブは「生きる理由のない破滅的思考の持ち主」から「すぐに死ぬ理由もない達観した超越者」として舞台に幕を引きます。
 おそらく続きを書くことはないと思いますが、兼ねてより執筆中であるブレンダとの出会いを描いた短編が予想外に難航中で、ひとまずこれを中断させることなく書き終えることに注力したいと考えています。






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2014/10/15 (Wed)00:53

「俺の名はクレイブ、傭兵だ。物語が終わっても時間の流れが止まることはない、当たり前のことだが人々はみなそのことを忘れがちだ。めでたし、めでたしで締めくくっても結局それは自己完結に過ぎない。大きな流れの中の小さな節目に過ぎないのだ、今回も。そして、あのときも…」



  **  **  **  **





 夜明けとともにスティールの急襲部隊と合流した俺は、隊員の一人が持っていた奇怪な武器に目を留めた。
「バズーカかなにかか?」
「ああ傭兵、丁度良いときに来た。パラディン・トリスタンから、こいつをあんたに渡すよう言われていた」
 そう言って、パワーアーマーに身を包んだ隊員はロケットランチャーにも似た巨大な円筒形の光学兵器を俺に差し出す。
 クロームメッキ加工され、朝日を受けて輝くその新兵器はついさっき、ベルチバードをものの数撃で叩き落した凄まじい性能を有している。たったの一発でカートリッジを交換しなければならないほどに多量のエネルギーを必要とするが、その変換効率は高く、通常の光学兵器ではカートリッジすべてのエネルギーを使ったとしてこの兵器一発分の威力の足元にも及ばないだろう。
 これが以前、クレイブがオルニー発電施設から回収したテスラ・コイルをもとに急造されたスティールの最終兵器。
「テスラ・キャノン、か…俺、光学兵器はあまり好きじゃないんだけどねぇ」
「不服なら返してくれ。みんな使いたがってるんだぜ、そいつは」
「そりゃあ、ミッキー・マウスのオナホールが出たら誰だって一度は試してみたいもんさ」
 下劣かつ不可解なジョークに、隊員が絶句する。
 しかしそれに対するフォローはせず、俺は航空管制塔へと向かった。



「改めて全景を見ると、まあしかしリバティ・プライムとどっこいのトンデモ兵器だな、こいつは」
 エンクレイブのとっておきの秘密兵器、移動要塞クローラー。
 軍事衛星との通信に用いる巨大なパラボラアンテナをトレードマークに、漆黒のパワーアーマーに身を包んだ兵士たちが給水塔や無人タレットの周囲を所狭しと動き回っている。ガスタンクも併設されているところを見ると、外部からの補給を受けなくても長期間施設内で生活できるよう設計されているようだ。
 クローラーへの侵入路は限られている。
 ベルチバードを使った空挺降下も不可能ではないが、それをもっとも懸念しているエンクレイブはばっちりと対策を立てているはずだ。周到に用意された対空火器によって、近づいただけで叩き落されるだろう。
 ロックランド基地から持ち帰り解析した情報をもとにパラディン・トリスタンが発案したのは、航空管制塔からクローラーのコントロール・システムにインタラクトし、乗降用のタラップを降ろすことだ。俺もそれに賛成した。
 航空管制塔からはすでに人員が出払っているようで、無人の施設内をしかし警戒しながら俺は進んでいく。
 コントロール・ルームに到着した俺は端末を操作し、クローラーへの侵入路が確保できたことを確認する。
 最後の防衛戦を展開すべく、すべての人員をクローラーに収容したエンクレイブはすぐにそれとは気づかないはずだが、それも時間の問題だ。俺はすぐに航空管制塔を飛び出し、クローラーに向かって駆け出した。
 ある程度近づいたところでクローラーが急遽移動をはじめ、さらにタラップが格納されていく。
「くそ、気づかれたか!」
 俺はほとんど無意識のうちに膝をつき、テスラ・キャノンをクローラーの脚であるキャタピラに向かって撃ち放した。



 バシュウゥゥゥッ、ズアッ!
 凄まじい量のエネルギー放射とともにカートリッジがはじき飛ばされ、履帯とともに破損したギアが轟音を立てて地面を転がり落ちる。
「なるほど、凄ぇ威力だ。多少の足止めはできるわけだな」
 ふたたび駆け出し、俺は半ばまで格納されつつあったタラップに向かって飛び込む。どうにかして手摺を掴むことに成功した俺はそのまま無理矢理よじのぼり、入り口のドアに手をかけた。



  **  **  **  **



 クローラーへの侵入に成功した俺はテスラ・キャノンのエネルギー・カートリッジを交換し、壁面に埋め込まれていたコントロール・パネルを操作して施設内の電磁シールドを解除する。
「「「侵入者だ!」」」
 シールド解除とほぼ同じタイミングで警報装置が作動し、重武装のエンクレイブ・ソルジャーたちがなだれこんでくる。
「おいおい、こいつは単発式なんだぜ。いくら威力があるからって、数は捌けねーぞ」
 俺はひとまず先陣切って向かってきた兵士にテスラ・キャノンをぶちこみ、再装填はせずその場に放り出すと、軍用バヨネットをシースから数本引き抜き、パワーアーマーの装甲目掛けて投げつけた。



 ズボッ、ゴシャアァッ!
「ロックランドで使った爆装ナイフだぜ、どんなに頑丈な鎧でも内側からの爆発には耐えられないだろ!」
 四散する仲間を目の当たりにしながら、しかし兵士たちが攻撃の手を緩める気配はない。
 ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ、ドゴンッ!
 エンクレイブ・ソルジャーたちを次々と爆殺しながら、どうにかして全滅させた頃には俺も何発か銃弾を受けてしまっていた。
「ガフッ、くそ…こんな狭い場所でバカスカ撃ちまくりやがって。子供だって一発は当てられるだろうよ、こんなやりかたは」
 物言わぬ死体に向かって毒づきながら、俺はMed-X注射を乱暴に腕に突き立てる。
 麻酔は思考能力の低下が厄介だが、それでも痛みがなくなるのはありがたい。俺は空になった注射器を放り出し、床に転がったテスラ・キャノンを拾って再装填すると、階上を目指して移動をはじめた。



 バシ、ズシャアッ…ゴッ!
 テスラ・キャノンの威力は先の例を出すまでもなく、光学兵器を無力化するシールドを展開する特別仕様のパワー・アーマーでさえも消し飛ばす光景を見れば一目瞭然だ。
 肉塊を跨ぎ、血溜まりを踏みつけながら俺は先へ、先へと進む。
 複合施設であるらしいこのエリアには非戦闘員も数多くいた。おそらくエンクレイブが標榜する、純粋なアメリカ人によって築かれる未来社会の礎となるであろう、FEV非感染者。
 貴重な存在には違いない。しかし、だからといって、それが何の役に立つというんだ?
 メイン・システム端末に向かうまえに、俺は中央セキュリティ・コントロール・ルームへと探すことにした。施設を警護するエンクレイブ・ソルジャーの数は多く、さらに警備用のロボット…センチネルやガッツィー・タイプといった本物の戦争用が配備されている。まともに戦える相手ではないし、そうしたいとも思わない。
「パスワードを新規発行…指揮系統に割り込み…攻撃対象を反転、すべてのエンクレイブ構成員に敵対指示。ROE、ウェポンズ・フリー(自由射撃)…呼吸停止を確認するまで銃撃を止めるな、すべてを殲滅しろ!」
 コンソールを使ってコマンドをタイプしながら、俺はうわごとをつぶやく。どうもZAX、M.A.R.Go.T.との対話を経て機械に話しかけるクセがついてしまったようだ。
 エンクレイブ構成員、という言葉にはもちろん、非戦闘員も含まれる。
 しかし俺がここに来た以上、どのみちこの施設にいる人間に助かる道はない。これは、そういう「作戦」なのだ。
 やがてあちこちから銃撃音とともに悲鳴が聞こえてくる。畜生め、誰がこれ以上、正々堂々と戦ってなんかやるもんか。



  **  **  **  **



 管制塔へ向かうため一度外に出た俺は、ベルチバードによる援軍を目にした。
「あれは仲間じゃないな…エンクレイブの増援か」
 センチネル・タイプの軍用ロボットとともに迎撃準備を整え、俺はベルチバードにテスラ・キャノンの銃口を向けた。



 ゴガッ、ズドン!
 テスラ・キャノンの一撃でベルチバードの片翼が吹き飛び、バランスを崩した機体はそのまま地面に落下し爆発炎上する。
 しかし既にかなり多くのエンクレイブ・ソルジャーが降下に成功しており、最新鋭の武装をもって向かってきていた。
 やがて…ガチンッ!
「あ、くそっ!」
 プラズマ・キャノンの一撃を受けたテスラ・キャノンが俺の手元から弾き飛ばされ、手摺を越えて遥か彼方に消えていく。
 高い戦闘能力を有するセンチネル・タイプのロボットが次々と破壊されていくなか、俺はエンクレイブ・ソルジャーの死体から奪った武器を手に応戦する。V.A.T.S.起動、リフレクス・エンハンサーとグリムリーパー・スプリント・プログラム出力最大。
「オオッ!」
 スローモーの世界のなかで、ときの声を上げた俺は照準器のクロスヘアに捉えた標的に的確に銃弾を浴びせていった。



 やがて管制塔への侵入に成功し、残存兵を掃討しつつ俺はメイン・システム端末が設置されたフロアへと向かう。
 そして端末のコンソールに触れたとき…生き残っていたエンクレイブの士官が俺に銃を突きつけ、口を開いた。
「おまえ、スティールに雇われた傭兵らしいな。キャピタルに展開していた我が同胞を壊滅状態に追い込み、そしてオータム大佐を殺したという」
「ああ。特に大佐はオヤジの仇だったからな、一応」
「いま、おまえが触れているそれが何なのか…わかっているのか?」
「わかっているとも」
 コンソールを操作する手を止め、振り返った俺は銃口を正面に見据えながら言葉を続ける。
「核弾頭を搭載した軍事衛星への接続ターミナル。こいつだろう、リバティ・プライムをヤッたのは」
「スティールは我々が考えていたよりも優秀だった、というわけだ。そこまで掴んでいたとは…それで、どうするつもりだ」
「残りの核弾頭をすべてこの真上に落とす」
「馬鹿な!」
 グリッ、エンクレイブ士官が銃口を俺の首筋に押しつける。
 あと少しでシアの連結が外れそうになるほど引き金に力をこめたところ、急に思いついたような態度で彼は言った。
「なあ傭兵、我々と手を組まないか?おまえはスティールの本拠地の場所を知っている…その位置座標を入力し、核弾頭の発射コードをセットしろ」
「それで俺が得るものはなんだ」
「金だ。それと、混沌(カオス)。おまえも傭兵なら、争いの絶えない世界ほど都合が良いはずだ。ここで我々を壊滅させるよりも、スティールの連中に打撃を与え戦いを継続させたほうが儲かるだろう?おまえが金のために人を殺すのか、それともスリルに酔う魅力に抗えず戦場に身を置いているのかは私は知らん。どちらにしろ、私の提案は悪くないはずだ」
「それで、そうすればいままでの行為は全部水に流してくれるってわけか?」
「そうしたくはない。おまえのせいで数多くの同胞の命が失われた…しかしおまえが味方につくということは、それ以上に価値があるということを認めざるを得ない、ということだ」
「なるほどね」
 わかった、というふうに両手を挙げ、俺は賛意を示す。そこでエンクレイブ士官が油断して銃口をわずかに下げた、本当に馬鹿なやつだ。
 俺は即座にV.A.T.S.を起動し、ホルスターからの抜き撃ちで相手の握る銃を、続いて両膝を砕く。
「ぐあああぁぁぁっ!?」
「あんたさ、なにか勘違いしてないかい」
 サプレッサーの先端から漂う硝煙を鼻から大きく吸い込みながら、俺は呆れたような口調で言い放つ。
「混沌とした世界、争いの絶えない世界が望みだろうとあんたは言ったな。まるでスティールの味方について、エンクレイブを壊滅させれば世界が平和になっちまうような口ぶりでさ。エンクレイブがなくなれば、争いのない世界でスティールが平和な統治をするかもしれないって具合にさ」
「…… …… ……?」
「そんなわけねぇだろう」
「なにを…」
「有史以来、人間はずっと同族同士で殺し合ってるんだ。何千年もの間、どの大陸でも、どの部族も馬鹿の一つ覚えみたいに隣人の頭蓋骨を砕きながら生きてきたんだ。それをあんた、たかがスティールごときが、その争いの歴史に幕を引けるとでも思ってるのか?有り得ないね」
「おまえは…まさか、最初から何も信用して…」
「俺がどれだけ血を流したって、浄水施設が清浄な水を垂れ流したって、ウェイストランドはなにも変わりゃしなかったよ。なーんにもな。人は過ちを繰り返すって言葉、知ってるか?人間が人間である限り、この世から争いがなくなることは有り得ない。だから、俺は安心して正しい側につくことができるのさ」
「スティールが正しいと言うのなら、その正しいというのはなんだ!?」
「そうだな」
 俺はエンクレイブ士官の頭に銃口を向けると、すこしだけ考えてから、言った。
「より多数の同意ってやつかな。民主主義。好きだろ?ミスター・純血アメリカ人」
 そして。



 パシュッ。
 俺は引き金をひいた。
「言ったろ。神様は、戦いの道義の正当性なんて気にしてないんだよ」
 血がべっとりとこびりついたコンソールにふたたび向き直り、俺は核弾頭の標的をこの機動要塞にセットする。
 さて…核弾頭の発射から目標地点への着弾まで、それほど時間はない。
「これでいいかい、神様?そろそろ彼女に会わせてくれてもいいだろう」
 もともと、助かるつもりはなかった。
 ヤハウェだかブッダだかアッラーだかは知らないが、神様は俺を楽園からふたたびこのウェイストランドの地に放逐した。まだ果たしていない役割があるから、らしい。しかし、それももう、終わったはずだ。
 俺が瞳を閉じたそのとき、ピップボーイが個人通信用のメッセージを受信したことを知らせてきた。
『こちらパラディン・トリスタン、外へ出ろ傭兵。サプライズを用意してある』
「…場違いな守護天使の呼び声か」
 ゆっくりと目を開け、重い腰を上げた俺は、非常口を出てベルチバードの発着場へと向かう。



「驚いたな、サラ・リオンズ」
「パーティには間に合わなかったかしら?」
 ベルチバードで俺を迎えにきたのは、なんと要塞で療養中だったはずのサラ・リオンズだった。
「メインディッシュはこれからさ。核弾頭を使ったクローラーの丸焼き。一流シェフ、クレイブ・マクギヴァンが送る本日限りの特級エンターテイメントにようこそ」
 そう言って、俺はマスクの下でとびきりの皮肉をきかせた笑みを浮かべると、ベルチバードに乗り込んだ。



  **  **  **  **



 かくして、ブラザーフッド・オブ・スティールとエンクレイブの抗争は一応の決着がついた。



 移動要塞クローラーが核弾頭によって破壊される光景に、サラ・リオンズ以下スティールの面々は歓喜の声を上げたが、それとは対照的に、傭兵の態度はひどく冷めたものであったという。
 傭兵は知っている。いかなる類の争いであっても、その本質はなにも変わらないということを。
 見た目や匂いや形が違っていたとしても、クソは所詮クソでしかないということを。



 エンクレイブが壊滅的打撃を受けたことは、たしかに歴史を変える出来事として記録されるだろう。
 しかし歴史が変わっても、人間の本質はなにも変わらない。変わることはない。



 スティールの本拠地である要塞に帰還した傭兵は、エルダー・リオンズ自らの任命によって名誉職に就くことを勧められたが、彼は慎んでそれを辞退したという。
 そして、その後の傭兵の行方を知る者はいない。



 人は過ちを繰り返す。そして、それが人の本質でもある。
 彼は…傭兵は、そのことを誰よりもよく理解している。彼はかつて人間が犯してきた過ちを数多く目にし、そして自らもまた多くの過ちを犯してきたからだ。
 彼は知っている。
 大切なのは、過ちを犯さぬことでも、過ちを犯した者を処断することでもない。
 真に大切なのは、過ちを受け容れることなのだ、と。なぜなら、過ちを犯さぬ人間はいないのだから。

「気長にやるさ。どうせ死んだ人間は、どこにも逃げやしないんだからな」






2014/10/13 (Mon)22:04

「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」



  **  **  **  **



 荒涼とした街路地に、累々と死体が横たわっている。
 ペンシルバニア通り、ホワイトハウス前。
 バリケードが張り巡らされ、かつて国政の中枢だった爆心地への侵入を防がんと積み上げられた土嚢の影にはスティール隊員の亡骸が残っている。その目前、旧時代の戦争で大穴が穿たれた道路には巨像の如き強靭な肌を持つスーパーミュータントの死体が散乱していた。



「ひどいざまだな、兄弟」
 先刻まで激しい戦闘が繰り広げられていたらしい、硝煙の残り香を放つ薬莢を蹴飛ばしながら、俺は金属製のボックスに所在無く腰掛けるスティール隊員に話しかけた。
 疲れきった様子の隊員はしばらく俺を見つめてから、まるで期待していないような素振りで口を開く。
「あんた…援軍かい?」
「残念だが違う、上からの勅命でね。新設されたエンクレイブの基地に潜入するため、大統領専用の…古い政府のな…メトロを使いたい。場所はわかるか?」
「ああ、あんたがトリスタンから連絡のあった傭兵か。そこのマンホールからホワイトハウスの地下トンネルへ入れる、大統領専用メトロに繋がっているはずだ。幸運を祈るよ…他に頼れるものなんか、ないだろうからな」
「…ここの状況は酷いみたいだな?」
「俺以外の隊員は全滅した。指揮官も、仲間も。だのに物資の補給も、補充兵が来る様子もない。忘れられちまったんだろう、いまはエンクレイブ狩りがトレンドだからな。スーパーミュータントの脅威なんか過去の話ってわけだ、まだそこいら中にいるってのに」
 なにもかも諦めきった口調で話す隊員に気の利いた台詞の一つでも言いたかったが、今の俺にできることはなにもなかった。
 スティールは明らかに手を広げすぎている。拡大する戦線に人員も物資も追いついていないのだ、だがそれを改める気はないらしい。大義はときに目を曇らせる、だから俺は政治信条など信用しない。
 孤独なソルジャーに背を向け、俺はマンホールの蓋を開けると、薄暗い閉鎖空間へと身を落とした。



  **  **  **  **



 ガガガガガガッ、ガシャン!
『俺の亡骸は故郷の土に埋めてくれ…』



「まだセキュリティが生きていたとはな。厄介なことになりそうだ」
 Mr.ガニーことMr.ガッツィーに中国製の弾丸を浴びせた俺は、ガチャリと弾帯を揺らしながら周囲の様子を窺う。
 旧世紀のセキュリティ・ロボットに守られた地下施設の中で、俺は未だに色褪せぬメッキの光を放つトマス・ジェファーソンの銅像を見つめながら、複雑なため息をついた。
 テスラコイル回収後、俺がスティールのパラディン・トリスタンから新たに命ぜられたのは、エンクレイブの第二の拠点アダムス空軍基地への潜入。
 アンカレッジ記念館前の下水溝からジョージ・タウンを経由し、ホワイトハウスの地下くんだりまでやって来たのは、他に安全なルートがなかったからである。単独でのステルス・ミッションゆえ、エンクレイブから接収したベルチバートを使うこともできなかった。
「部隊の大部分を陽動作戦に導入するとか言ってたが、大丈夫なんだろうな…?」
 エンクレイブの拠点の位置割り出しと潜入ルートの特定は、以前ロックランドの通信施設から得た情報によるものである。テスラコイルをスティールの要塞の届けたとき、暗号解析が終了し潜入作戦の算段が整ったことを聞かされた俺は、そのまま休む間もなくこんな場所まで向かわされたわけだ。
「愚痴はほどほどにして、ゆっくり休むのは全てが終わってからにするか」
 前向きに考えよう。
 あまり役に立たない自己暗示をかけながら、俺は旧世紀の死体が散乱する通路を通り抜けた。
 幾つかのフロアを経由し辿りついたのは、M.A.R.Go.T.(マーゴット)と呼ばれる、人工知能を搭載したセキュリティの中枢端末だった。
『ただいま当施設は厳戒体制下にあります。端末の利用に際してはセネター・クラスのIDの提示を願います』
「IDね…こいつでどうかな?」
 俺は道中で見つけた上院議員のものと思われる死体から取ったIDカードをM.A.R.Go.T.の視覚センサーに提示してみせる。
「個人的には、対話形式よりもコンソールを使うほうが好みなんだけどな。現在のメトロの利用状況を教えてくれ」
『貴君のIDを承認しました。現在メトロ構内に多数の不審人物が侵入しており、セキュリティ・ユニットが対処に当たっています。すべての路線はステータス・グリーン確認後に再開される予定です』
「路線は再開予定…ってことは、いまは閉鎖されてるってことか。アダムス空軍基地に繋がる路線だけ、管理者権限を使って特例で稼働させることはできないかな?」
『不可能です。現在、アダムス空軍基地行きの路線は電源ボックスの不備により再開することができません。ステータス・グリーン確認後にセンチネル・ユニットが修理予定です』
「参ったな。てことは、例の不審者を排除しない限り電車を走らせることはできないわけだ。で、その不審者の特徴は?」
『各種センサーによる情報を統合したところ、対象はいずれも人型でありながら体温では検知できず、さらに致死量の放射線を帯びていると予測されます』
「…体温を検知できない、だって?」
 てっきりメトロ構内を徘徊する不審者はエンクレイブ・ソルジャーだとばかり思っていた俺は、M.A.R.Go.T.の意外な返答に困惑してしまった。
 ひょっとして、エンクレイブ製のパワーアーマーが体温の放射を遮っているのか?
 そう思った俺はしかし、それでは「致死量の放射線を帯びている」という点に説明がつかないことに気づき、ようやく不審者の正体を察することができた。
「まさか…フェラル・グールか!」
『そのような単語は私のメモリ・バンク内には存在しません』
 M.A.R.Go.T.は戦前に作られたAIで、まして閉鎖的な環境で稼働し続けていたため、フェラル・グールの存在を知らなくても無理はない。
「なるほど、あいつら地下鉄大好きだもんなぁ。わかった、連中を掃除すればいいんだな?おっと、セキュリティ・システムの攻撃対象から俺を外しておいてくれよ」
『了解、貴君の外観的特長を全セキュリティ・ユニットに送信しました。よい一日を』



  **  **  **  **





「しかし、あいつ…どことなく、エデン大統領とおなじZAXシステムに似てる気がするんだよなぁ」
 M.A.R.Go.T.から離れた俺は、どうやら相打ちとなったらしいセキュリトロンのスクラップとフェラル・グールの死骸を見つめながら、そんなことをつぶやいた。
 メトロ構内のグール狩りはそれほど難しいものではなかった。
 セキュリティ・ロボットたちが手こずっていたのは小回りがきかないからだが、ひとたび銃声が聞こえれば機敏に対処することができるため、俺は機械が見つけにくい場所に隠れているやつを探し出せば、あとは血の気の多いMr.ガッツィーが過剰な武装で処理してくれるといった按配だ。
 やがて何十年かぶりに構内の安全を確認したセキュリティ・システムの命令によりセンチネル・ユニットが破損した電源ユニットを修理し、地下鉄にふたたび命が吹き込まれた。
「どうやら電源ユニットの破損は経年劣化や流れ弾とかじゃあなく、人為的な工作跡があったな。グールの爪跡なんかじゃあない、あれに限ってはエンクレイブの仕業…だろうな」
 地下鉄に乗車し、走行中に他の路線から流れてきたらしいフェラル・グールの大群とセキュリティ・ロボットたちの交戦を眺めながら、俺はそんなことをつぶやいた。
 拠点とD.C.を繋ぐ交通網だ、まさかエンクレイブがこの施設の存在を把握していないはずがない。
 エンクレイブの主要な移動手段はベルチバードだ、地上の交通ルートを潰しても問題はない、という思惑だろう。もっとも暗号化された情報が奪われ解析される可能性はほとんどないと考えていたのか、スティールが侵入に使うという懸念については大した対策はされていないようだ。



「それで、万一のことを考えての監視には最低限の人員しか配置されてないわけだ」
 たいして警戒している素振りも見せないエンクレイブ・ソルジャーを壁越しに発見した俺は、コンバット・ショットガンの銃口を持ち上げ発砲のタイミングを計る。
 こんな場所に人数を割くわけにいかないのはわかるが、俺だったら天井を爆破なりして侵入路を完全に塞いじまうけどな…などと考えてみるものの、万一のことを考えて施設を稼動状態のまま保っておきたかったのかもしれない。
「判断ミスとまでは言わないが、俺が相手では不幸だったな」
 V.A.T.S.起動、リフレクス・エンハンサーとグリムリーパー・スプリント・プログラムの出力を最大設定。
 壁から飛び出した俺は、まず一人目の股関節…パワーアーマーが保護しきれない部位にスラッグ弾を叩き込む。内股の動脈が破裂し、おびただしい出血とともに相手はもんどりうって倒れる。続けて、慌てて銃を構えた兵士の指を弾き飛ばし、宙空に舞う大口径拳銃を視界の隅に捉えながら首を狙い撃った。
 ゆっくり流れていた時間がふたたび元の速度を取り戻し、首が吹き飛ばされた死体と、脚の付け根から大量の血を流し床をのたうち回りながら悲鳴を上げる兵士を眼下に捉える。
 急所っていうのはなにも、即死部位だけを指すものじゃない。動脈を破壊すれば、たいていの人間は助からないものだ。首だろうが、脇だろうが、内腿だろうが、それは変わらない。
 いますぐ適切な治療をすれば助かるだろう。だが、そんな手段はこの荒廃世界にはもう残されていない。
「No, no, no... Sorry, sorry... 」
 こういうときに苦痛から解放してやるのは、傭兵にとっての義務のようなものであり、また、兵士への敬意を示すものでもある。
 俺はかぶりを振り、12ゲージの巨大な銃口をエンクレイブ・ソルジャーのこめかみに突きつけると、引き金をひいた。



  **  **  **  **





 地下施設から這い出たとき、最初に聞こえてきたのはベルチバートの飛行音だった。
「元気だねぇー…まだあんな余力が残ってたのかい」
 アダムス空軍基地には多数のベルチバードが駐留し、施設全体にやけくそのような数の無人タレットが配置されている。
「まずはあれを潰すか」



 俺は狙撃用ライフルを取り出すと、一つ、また一つと高火力無人タレットを潰していく。
 おそらく施設を探して回れば制御用のコンソールが見つかるはずだが、どこにあるか検討もつかない代物をアテにする気はない。それに、呑気に探し物ができるほどエンクレイブ製タレットのセンサーは鈍臭くはない。
 そして俺が狙撃をはじめたのとほぼ同時に、どこからか飛来したベルチバードが施設の攻撃をはじめた。
 あれはスティールが鹵獲したもので、はじめはエンクレイブの連中も戸惑っていたが、すぐに攻撃の正体を察知すると、反撃をはじめた。
 先の攻撃は、俺がアダムス空軍基地に到着してすぐに作動させたビーコンを合図に行なわれたものだ。もちろん、ビーコンが発した信号を傍受され侵入が察知される可能性もある。それをスティールの陽動攻撃が覆い隠してくれるといいのだが。
 無人タレットを始末し、居住区域への侵入は不可能だと判断した俺は倉庫のような場所へ入る。
「…!?お、おまえは!?」
 そのとき、俺の姿を見て狼狽した何者か…おそらくエンクレイブ所属の研究者だろう…白の防護スーツに身を包んだ男が慌てて警報装置を鳴らそうとする。
 しかし…ビシュッ!



「う、うわあああああ!」
 サプレッサーを装着したサブマシンガンの掃射で腕を切断され、エンクレイブの研究員が悲鳴を上げる。
「あまり騒ぐな、俺は無用な殺しをしたいわけじゃない」
「くっ、畜生!」
 俺の警告を無視するかのように、男は左手で自衛用のイオン・ピストルを抜こうとする。
 パキャッ!
 その手がピストルのグリップに触れる間もなく、俺の手のなかでサブマシンガンが震えた。
 頭部を砕かれた男の死体を跨ぎ、俺は階段を上がって倉庫内の様子を一望する。



「これは…デスクローの飼育施設か」
 バケツに雑多に押し込められた餌用の生肉…何の肉かは考えないでおこう…の放つ異臭に顔をしかめながら、俺は電磁シールドで覆われた檻を見下ろす。
 試作型のスクランブラーはまだ手元にある、が先例にある通りこいつらを放したとして物の役に立つとは思えない。なによりスクランブラーは俺の身の安全を保障するものではないのだ。
 ひとまずデスクローは無視するとして、俺は先を急ぐことにした。
 やがて日が落ち、俺は未だに続くスティールとエンクレイブの攻防を遠目に歩を進める。



「あれか…」
 巨大な電磁シールド越しに見つけた、最終的な潜入目標。
 ベルチバードによる攻撃にもビクともせず、その威容を見せつける巨大施設。
 エンクレイブ最後の砦、移動要塞クローラー。






2014/10/11 (Sat)04:02

「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」



  **  **  **  **





「やぁー、しばらくぶり」
「おや傭兵さんじゃないか。あのときは世話になったね」
 キャピタル・ウェイストランド全域を放浪するキャラバンが集う街、カンタベリー・コモンズ。
 スティールから引き受けた任務へ向かう道すがら、俺はかつてちょっとしたトラブルを解決したことのあるこの場所へとやって来ていた。長旅での中継地というわけだ。
「しかし、そのロボット…あのとき俺が壊さなかったっけ?」
「修理したんだよ。神経回路がすこし破損しただけらしくてね、ウルフギャングにパーツを都合してもらったのさ。いまではこの界隈を護衛してくれる優れたガーディアンだよ」
 ここから目的地はそれほど離れていないが、どうやらエンクレイブの連中はまだこの場所を発見していないか、あるいは不干渉でいるのか…友達付き合いをしている、という可能性もなくはないが、あの連中が監視装置一つつけずに地元民を野放しにしておくとも思えない。

 以前ロックランドの通信施設からエンクレイブの機密情報を持ち出した俺は、そのデータの暗号解析が終わるまでに別の任務を当たるようエルダー・リオンズに言い渡された。
 どうやらスティールには破壊されたリバティ・プライムに代わる隠し玉があるらしく、そいつの完成に必要な部品…戦前に製造されたらしい、テスラ・コイルといったか…それを回収するのが今回の任務だ。
 テスラ・コイルが存在する場所、それはオルニー発電施設。
 オールド・オルニーといえば、デスクローの棲息地域として恐れられている、キャピタルでも随一の危険スポットだ。そこの地下水道から発電施設に入れるらしいが、詳しい場所についてはスティールも把握していないらしい。
 さらに最近、オールド・オルニー付近でデスクローの研究のためにエンクレイブがキャンプを設営したという。
 どうやらデスクローに洗脳装置を取りつけ兵器として転用するのが目的らしく、その技術はすでに実用段階にまで達しているらしい。
「おっかない話だねぇ。まあ、こっちにも対抗策はあるけどさ」
 そうつぶやき、俺はスティールの技術官スクライブ・ヴァリンコート女史から受け取った携帯端末を取り出した。
 これはデスクローの洗脳装置から発せられる制御信号に干渉し、周波数を書き換える装置だ。まあ、一種のジャマーのようなものだ。これをデスクローの近くで作動させれば、暴走状態となったデスクローが飼い主を襲うようになる…その前に俺を齧ろうとさえしなければ…という代物だ。
 こいつはまだ試作品だが、今後エンクレイブが洗脳済のデスクロー部隊を差し向けてきた場合に備えて実地テストのデータが欲しいらしく、つまりこいつが役に立つかどうかの確認も任務に含まれるというわけである。
 単独で挑む潜入工作、この無茶振りはスティールの人材不足も勿論あるが、それ以上に俺への信頼を証明していると…まあ、そう思いたい。
「やっぱり、この服のほうがしっくりくるな」



  **  **  **  **



 翌朝、カンタベリー・コモンズを出てオールド・オルニー近くのエンクレイブ・キャンプへ向かう途中、銃火器を装備した三人の男たちを目にした。
「レギュレイター、あの連中、まだ俺のことをつけ回してたのか。さて…窪地で待ち伏せするバカどもを返り討ちにするなら、崖上から攻撃するのがベストでーす。そのとき核地雷を投げ込むのはいけないことでしょうかー?」



 ニヤリ、俺は悪魔的な笑みを浮かべると、かつてエンクレイブの拠点からガメてきた核爆風地雷(ニュークリア・ブラスト・マイン)の安全装置を外しレギュレイターの連中に向かって投げつけた。威力は推して知るべし。



  **  **  **  **



 エンクレイブ・キャンプへ到着した頃には、すでに夕方になっていた。
「意外と時間がかかったな…ま、ここはただの通過点ですし?試作品のテストをサクッと終わらせちゃいましょうか」
 漆黒のパワーアーマーに身を包んだエンクレイブ・ソルジャーに見つからないよう、連中が捕らえたらしいデスクローの檻へ近づく。頭部に洗脳装置が装着されていることを確認し、スティール謹製の試作装置を起動させる。
 すると、さっきまで大人しかったデスクローが檻を破壊せんばかりの勢いで暴れ出した!



「フラストレーションはあの黒い連中相手に晴らしておくれよな。それっ」
 俺は慣れた手つきで檻の鍵を爆破し、デスクローをキャンプのど真ん中へと放逐する!
 が、しかし…
 ズパパパパパパパパンッ!
 エンクレイブ・ソルジャーが手にした銃火器による一斉掃射で、デスクローはあっという間に蜂の巣にされてしまった!
「おいおいおいおい、瞬殺されてんじゃねーか!あーあ、アーマーに埃一つついてやしねー。レイダー以下じゃねえか…」
 俺は道中で始末したレギュレイターの一人が持っていたベネリM4ショットガンを構え、装甲貫徹用のスラッグ弾を装填する。エンクレイブ製のパワーアーマーといえど、こいつを喰らって平気なやつはいない。
「結局俺がやるしかないのかい」
 まだこちらの正体が割れていないことを確認しながら、俺は物陰から物陰へ移動し、リフレクス・エンハンサーとグリムリーパー・スプリント・プログラムの出力を最大にセットすると、勢いよく飛び出した。
 ズドドッ、ズドッ、ズドッ、ズドン!
 相手がこちらに銃口を向ける隙を与えず、俺はスローモーの世界で12ゲージのダブルタップを決める。
 三人のエンクレイブ・ソルジャーを瞬時に始末し、V.A.T.S.停止後の反動にふらつきながら、連中が使用していたらしいコンソールを発見した俺はそいつに手をつける。幸いにもプロテクトは甘く、手早くクラッキングを済ませ内部に保存されていたデータを片っ端から体内に分散格納されているピップボーイの内蔵メモリにコピーしていった。
「こんなもんか…さすがに通信用のソフトウェアは使い物にならないな。連中は純粋にデスクローの研究目的でこんな場所まで出張ってきてたのか、少なくとも発電施設に関する情報は皆無だな」
 ざっとコピーしたデータに目を通したところ、現状で役立ちそうな情報はない。
「それじゃあ、オールド・オルニーへ向かうとしますか」



  **  **  **  **



 目的地に近づいたあたりで、激しい銃撃音が耳に届く。
「なんだ?」
 レイダーや地元住民の諍いではない、それにしては銃音が「ハイテク」すぎる。
 目を凝らしてみると、どうやら周辺をパトロール中だったらしいアウトキャストがデスクローと遭遇してしまったようだった。すでに何人かやられてしまっており、一人残った隊員が果敢に応戦している。
 距離はだいたい80m…ショットガンで狙える距離じゃない、が。
「スラッグ弾てのは、もともとショットガンで遠くを狙うためのものなんだぜ」
 誰ともなく俺はそう言うと、赤い光を放つ蓄光サイトの上にデスクローの姿を捉え、引き金をひいた!
 バゴンッ!
 破壊的な炸裂音とともに銃口が跳ね上がり、アウトキャスト隊員と相対していたデスクローの顎が吹き飛ぶ!
「正直、当てられる自信はなかったけどな…モダンな照準器に感謝、だな」
 カチンッ、チューブマガジンに一発弾を補充し、俺は周辺を警戒しながらアウトキャスト隊員に近づく。
「大丈夫か?このへんは危ないんだ…ピクニックには向かないぜ」
「ケッ、どうせ俺たちはボーイスカウトだよ。だがまぁ、助かった。その点については礼を言うぜ、たしかあんたは…ヴォールト出身の傭兵だったな?」
「驚いた。素顔は見えなくても顔は売れるものなんだな」
「キャスディンから話は聞いてる、あんたは信頼できるってな。こんなこと頼める義理はないが、あのクソどもの掃除に手を貸してもらえないか?」
「デスクロー退治か。ちょうど、俺もあのへんに用事があったんだよ。途中までなら付き合うぜ」
「感謝する」



 アウトキャスト隊員とともにオールド・オルニー地区へと突入し、この界隈を徘徊していたデスクローどもを排除していく。
 何匹目かのデスクローを始末したあと、弾倉を交換しながらアウトキャスト隊員が訊ねてきた。
「ところで、あんたはなぜこんな場所に?スティールのために働いてるってのは本当なのか」
「まぁね。リオンズの得にならないと言えば嘘になる」
 アウトキャストはBoSの分派で、その仲は殺しあうほどに悪い。ライバルなんてものじゃない、仇敵のようなものだ。
 そんなわけだから、俺がスティールのために働いていると聞いた彼が当然顔色を良くするはずもない。それをわかっていて口を滑らせたのはたしかに軽率だし、いちおうフォローはしておくが。
「たんなる仕事さ。いまスティールはエンクレイブとの戦争に夢中で、死に体のアウトキャストなんぞに構う暇はないとよ」
「舐められたものだ。だが、まぁ、状況を考えれば否定はできん。我々もエンクレイブの連中は好かんし、勝手に潰しあってくれるならそれに越したことはない」
「もっとも、決着がつけばスティールはさらなる勢力拡大を画策するだろうが…ね」
「だろうな。あんたの目には、俺たちがさぞかし惨めに映るだろうな。この落ちぶれよう…たまに、スティールに残ったままのほうが良かったんじゃないか、そう思うこともある。あんたはどう思う?俺たちを笑うか?」
「もしそうなら」
 別れ際、オールド・オルニーに張り巡らされた地下水道への入り口を下りていくとき、俺は僅かな間ともに戦ったアウトキャストの隊員に向かって言った。
「もし俺がスティールの大義とやらを信じてたなら、いまごろは傭兵としてじゃなく、スティールの一員としてあんたの前に現れてたさ」
 この一言が、彼にとって僅かでも慰めになればいいのだが。



  **  **  **  **





 地下水道もデスクローだらけだった。
 ズドンッ、足を撃ち抜かれ、もんどりうって倒れたデスクローの背に連続して00バック散弾を叩き込む。
「しっかしこいつら、どこからこんなに沸いてきやがるんだ?やっぱり繁殖してるのか…卵生らしいが、こんだけぶっ殺しても気づいたらそこいら中にいるとか、勘弁してほしいぜまったく」
 デスクローの戦闘力は、あらゆる装甲を紙切れのように引き裂く鋭利な爪もさることながら、その俊敏な機動力に頼るところが大きい。それを見越して脚部、できれば膝の関節を破壊して飛び跳ねたりできないようにすれば、格段に始末しやすくなる。
「さて、発電施設へと出る通用口はどこかな?」
 地下施設の詳細な構造が記された見取り図でもあれば簡単に見つかるのだろうが、残念ながらそういった魔法のアイテムはいま手持ちにない。
 ただ幸いにも方角とだいたいの位置は把握しているので、あとは勘を頼りに進んでいくだけだ。といっても、俺の土地勘はあまり信用できないのだが。
 やがて…



「おいあんた、どうやってここに来たんだ!?」
「…グール?」
 途中で見つけた梯子を上った先にいたのは、作業着に身を包んだ二人のグールだった。
「あんたたちこそ、なんでこんな危険な場所にいるんだ」
「べつに好きでこんな場所にいるわけじゃない。無理矢理トンネルなんか掘らされて、このザマさ。でもまあ、銃声がしたってことはあんた、デスクローを殺しながらここに来たってわけだろ?つまり血の跡を辿れば安全に地上に出れるってことだ…ハハッ、そうとわかれば、こんな糞垂れた場所とはおさらばだ!」
「お、おい…ちょっと待てよ!」
 こっちはまだ聞きたいことが色々とあったのだが、グール連中は勝手に自己完結すると、さっさと出口へ向かって行ってしまった。もっとも、あの様子ではまともな情報交換ができたかどうかは怪しいが。
 しかしあの口吻だと、どうやら連中は自分の意思でここに来たわけではないらしい。来た、というか、居た、というべきか。



「とりあえず、一休みするか…しかし、ここはいったい何なんだ?」
 どうやらグールの居住区だったらしいスペースで、俺は火を囲んで一息つくことにした。
 さすがにデスクロー相手の連戦は疲れる。僅かな油断が命取りになるからだ。これだけの荒行は、それこそ浄水施設の奪還作戦以来だ。
 なに、エンクレイブの連中がテスラ・コイルに興味を抱いてないとすれば、急ぐ必要はない。休息も仕事のうちだ。休めるうちに休む、いざってときに身体が動かなければ何の意味もない。俺は別に修行僧を目指しているわけじゃない。
「さて…」



 オールド・オルニー地下からSウィルソンビルを経由し、途中でエンクレイブの襲撃を受けつつどうにか発電施設に到着。未だに稼動していた古いセキュリティ・システムに手こずらされながらも、俺はテスラ・コイルの入手に成功した。
「こいつがねぇ…いったいなんの役に立つんだか。門外漢の俺にはガラクタにしか見えないが」
 いやに仰々しいプロテクトで固められていたが、こいつが苦労に見合う代物であることを祈る。



  **  **  **  **





『キシェエエェェェェェッ!』
「おいちょっと待てよ!」
 オルニー発電施設の緊急脱出用梯子からオールド・オルニー地上へと出た俺を、デスクローの爪が襲う。
「不意討ち闇討ちは汚い人間の特権じゃあねーのかよ、たまんねーな」
 ズルッ、俺は慌てて攻撃を避けた勢いでマンホールの中にずり落ちてしまう。
 しかしそれが幸いしたのか、俺の姿を見失ったデスクローが前後不覚に陥った。この巨体でマンホールの中にいる俺を追撃するのは難しかろうし、暗闇の中を見分ける能力には長けていないはずだ。
 さらに俺からは、街灯に照らされたデスクローの姿がクッキリ浮かんで見えていた。
「仲間が向こうで待ってるぜ。ま、そのうち俺も追いつくさ」
 そう言って、俺は引き金をひいた。






2014/10/05 (Sun)23:17

 どうも、グレアムです。
 このところ二次創作ネタの擦り合わせをすべくバルドスカイをぼちぼちプレイしているのですが、やっぱりDiveXのEsモードは時間泥棒ですわ。びっくりするくらいあっという間に時間が過ぎていく。
 でもって、狭いステージにノインツェーン四体同時出現とかやめたってくれんかー!ラスボスの威厳はどうしたー!エキストラダンジョンにゾーマ四体同時出現とかそういうレベルの暴挙ですよこれ。
 まあこのモードでの戦闘力は単純に装備依存なので、めっちゃ育てた回数無限武器が幾つかあればそんなに苦戦はしないんですが。









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