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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/10/06 (Sun)00:27
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2016/11/20 (Sun)03:03








『ガイデン・シンジの名に賭けて、たったいまブルーチームに新たなるチャンピオンが誕生しました!皆様、惜しみない拍手をお願いします!』
 帝都闘技場、円形のコロシアムの中心で、闘士専用の軽装鎧を身に着けたちびのノルドが血にまみれた拳を高々と天に捧げる。彼女の周囲には、闘技場のなかでも最高ランクの闘士たち三人が血の海に沈んでいた。

 レーヤウィンを発ったちびのノルドは帝都へ戻ったあと、興味本位から闘技場の闘士に参加し、瞬く間に上位ランカーへと登りつめていた。
 そして、今回の試合…対抗馬であるイエロー・チームに参加していたのは現チャンピオン、そして彼と互角の力量を持つ戦士二人。剣士、射手、魔術師という隙のない三人組を相手にちびのノルドはたった一人、それも徒手空拳で挑み、これを打ち破ったのだった。

「素晴らしい!素晴らしい試合だったぞチャンピオン!最初に見かけたときは、どんな無謀な役立たずかと思っていたが…いやはや、人間っていうのは見かけによらんな!」
 試合を終え、闘士の控え室である流血路へ向かったちびのノルドは、闘士たちを束ねる剣豪オーウィンの激励に迎えられた。
 いまでこそ多少は愛想が良いものの、ちびのノルドが無名の闘士だった頃は、それこそ罵詈雑言の嵐を浴びせかけてくる恐ろしいオヤジだった。とはいえ、そうした扱いは戦士ギルドで慣れていたので、ちびのノルドにとっては「脳筋はみんな思考が変わらねーな」という感想しか出なかったのだが。
 なによりちびのノルドにとって、難しいことを考えずにただ研鑽を積み、正々堂々と全力で対戦相手とぶつかり合える闘技場の闘士という仕事はかなり性に合っていた。
 賞金の500Gを受け取ったちびのノルドに、オーウィンが立て続けに言葉を捲くしたてる。
「この次はグランド・チャンピオン、あのグレイ・プリンスとの対決だぞ!試合の準備には一週間か、十日ほどかかる…なんといっても、ヤツへの挑戦者が現れるのはほぼ十年ぶりのことだからな!記念に残るイベントになるだろうよ」
「あのー、それはいいんですけど…この鎧じゃ動きにくいんで、自分の装備を使いたいんですけど、駄目ですか?」
「まだそんなことを言ってるのか?いいか、その鎧はアリーナの闘士のためにデザインされた、ガイデン・シンジがこの闘技場を創設したときから存在する伝統的な装束なんだぞ?それを、おまえのためにルールを曲げるわけにはいかんのだ。…と、言いたいところだがな」
「?」
「じつはグランド・チャンピオン戦には特別ルールが適用される。参加者の装備に関しては、いかなる私物をも持ち込みが可能になるんだ。というのもな…グランド・チャンピオンの鎧には特別なエンチャントが施されているんだ。そういうルールにでもしないと、釣り合いが取れないんだよ」
「えぇー…いや、あの、まあ、なんにせよ、全力で戦えるってわけですよね、お互いに」
 若干顔を引きつらせながらも、ちびのノルドはどうにか前向きに考えようと努力した。
 自分の身体にフィットする、使い慣れた装備を着用できるのは朗報だが、彼女の装備にはエンチャントといった類の強化は何一つ施されていない。まったく、ただの革と鋼の耐久力しかない代物である。
 それで、自分があのグレイ・プリンスに勝てるのか…






「まさかお嬢さんがチャンピオンになるとは!」
「アハハ、じつはまだ手が痺れてるんですよ」
 オークには珍しい青白い肌を鎧の隙間から覗かせ、修練に励んでいたグランド・チャンピオンのアグロナック・グロ=マログ、通称グレイ・プリンスがちびのノルドに笑顔を向ける。
「一週間後にはどちらがが強いか決着がつくわけですね!互いに闘士として、名誉ある死を臨みましょう!」
「どっちが死んでも恨みっこなしですよ?」
 彼は我が強く攻撃的な者が多い闘士のなかにあって、圧倒的な力を持ちつつも穏やかな人柄であることから、周囲の敬意を一身に集めていた。そんなグレイ・プリンスには、人見知りの激しいちびのノルドもすぐに打ち解けることができたのだ。
 戦士同士の戦いは命を継ぐ/繋ぐ行為であり、忌避すべきものでも、また罪の意識を感じるべきものでもない。
 相手が親友だろうと、いや、親しい仲だからこそ、相手を打ち破り命を奪うことはお互いにとって最大級の栄誉なのだ。
「しかし、あと一週間でどちらかがこの世から姿を消すことになるとは…」
 物憂い表情でそうつぶやくグレイ・プリンスに、ちびのノルドが問いかける。
「なにか心残りでもあるんですか?」
「ええ。以前から言っているように、私はさる高貴なる血族の生まれです。しかし、それを信じていない者が多いのも知っています。いまの私には、自らの出生を証明するものがありませんから」
「たしか、ずっと帝都で暮らしてたんですよね?」
「そう、母とともにね。しかし、出生は別の場所です…私の母はかつて、クロウヘイヴン砦に住む貴族ロヴィディカス卿に雇われていた使用人だったのです。そして貴族と使用人という、禁断の恋に落ち…誕生したのが私というわけです。ロマンティックな話ではありますが、現実はそう甘くはありません。事実の露見を恐れた母は私を連れて砦から逃げ出し、帝都に落ち着いたのです」
「つまり、追い出されたってことですか?」
「わかりません。母は詳しい話をしたがらなかった…世間体を恐れたロヴィディカス卿が母を捨てたのか、それともロヴィディカス夫人や他の使用人が事実を嗅ぎつけて母を外界へ追いやったのか、それとも母が自発的に出奔したのか…その母は他界する直前に、クロウヘイヴン砦へ向かうための地図と、一つの鍵を私に託しました。もし真実を知りたいなら、それが必要になると…」
 グレイ・プリンスは自身の私物棚から地図と鍵を取り出すと、それをちびのノルドに見せた。
「生憎と、帝都闘技場のグランド・チャンピオンという立場にいる私はそこまで遠出ができません。クロウヘイヴン砦はシロディール西部、黄金海岸沿いにあるのです。もし可能であるなら、あなたにそこへ行っていただき、私が本当に貴族の血を引いていたという何かしらの証拠を持ち帰ってほしいのです」
「急に言われても…一週間後には試合が控えているんですよ?それに、そういう事情があるならもっと早く言ってくれても良かったじゃないですか、なにもこんなタイミングで…」
「あなたが信頼に足る人物か、相応の力を持つ者がどうかを見極めるには、このタイミングまで待つしかありませんでした。もし試合で死ぬのが私なら、その前に真実を知りたい。もし試合で死ぬのがあなたなら、もう、私にはこのような重大事を頼める知人はいないのです。今しかないのです」
 そこまで言うと、グレイ・プリンスは地図と鍵をちびのノルドに託し、さらに金貨が詰まった皮袋を押しつける。皮袋はずっしり重かった。
「旅費と、報酬を先に支払っておきます。2000枚あります。あなたなら、大金を渡されても持ち逃げはしますまい」
「こ、こんなに…!?」
「グランド・チャンピオンなぞになってしまうと、どれだけ稼いでも使う暇がありません。遠慮せず受け取ってください」
 断ることもできたはずだが、ちびのノルドはグレイ・プリンスの頼みを承知してしまった。
 あまりに断りづらい雰囲気だったのもあるし、金貨2000枚の重さに大変な説得力があったのもあるが、なにより、彼女にはグレイ・プリンスのために何かをしてやりたいという気持ちが強かった。
 名誉を賭けて戦う相手に、心残りがあるまま死んでほしくなかったのである。










「とっ、遠い~!」
 シロディール西部、クヴァッチ領内。
 すっかり日が傾きかけたころ、ちびのノルドは丘の上で膝に手をつき、荒い呼吸を必死に沈めようとしていた。
 帝都闘技場を出発したちびのノルドはクロウヘイヴン砦へ向かうため、帝都からプリナ・クロスまでは馬車で移動したのだが、そこからは歩くしかなかった。おまけに、ずっと荷台で揺られていたせいで若干気分が悪く、山岳部の移動が想像以上にこたえている。
 なんといっても、今回の依頼には厳格な時間制限がある。
 一週間後までに帝都闘技場へ戻れなければ、ちびのノルドはグランド・チャンピオンへの挑戦権を破棄したと見做され、その不名誉な行為によって二度とアリーナへ出場することができなくなるだろう。
 なんで、こんな面倒な頼みを聞いてしまったのだか…
 ちびのノルドは自分自身の軽率さを罵りながら、砦の周辺をうろついていたスケルトン・アンデッドともを蹴散らし、クロウヘイヴン内部へ侵入した。






「だいぶん、荒れてますね…」
 砦内部に巣食っていた巨大ネズミや狼をしばき倒し、ちびのノルドは松明に明かりを灯す。
 グレイ・プリンスの母は最近まで生きていた…ということは、父のロヴィディカス卿も同様に存命だったはずだが、この砦の荒れようは一朝一夕のものではない。まるで何十年も手入れがされていないようで、まったくの廃墟と化していた。
 いったい、グレイ・プリンスとその母が砦を出てから、何があったのか…

 砦の探索を続け、ロヴィディカス卿の私室へ続くものと思しき扉を発見したちびのノルドは、厳重にかけられていた施錠にグレイ・プリンスから受け取った鍵を使う。
 音を立てないよう、ゆっくりと扉を開き、ちびのノルドはあたりを見回した。
 部屋の中には本棚や机などの家具が配置してあり、おそらくはロヴィディカス卿の書斎だったのだろうと予測できる。机の上に日記を発見したちびのノルドは、無意識的に手を伸ばし、ページをめくっていた。

 その内容は驚くべきものだった。
 ロヴィディカス卿はグレイ・プリンスの母グロ=マログとの禁断の恋を自覚していたが、なんと彼は吸血鬼であり、自身の正体を打ち明けるべきかどうか思い悩んでいた。
 グロ=マログが妊娠したのを期にロヴィディカス卿は真実を伝えるが、グロ=マログはショックのあまり塞ぎこんでしまい、そしてグレイ・プリンスが産まれた直後、グロ=マログはロヴィディカス卿をこの部屋に閉じ込めて鍵をかけ、砦から脱出した…

 日記には使用人への慕情、純粋な愛情の表現、そして愛する者に裏切られた怨嗟の言葉が書き連ねられていた。
 身分違いの恋は許せても、乙女グロ=マログは吸血鬼との恋は許せなかったらしい。
 そこまで考え、ちびのノルドはあることに気がつく。
 …吸血鬼?この部屋に閉じ込めた?






「これって…」
 そのとき、ちびのノルドは「施錠された部屋」という本の内容を思い出していた。吸血鬼の眠る部屋に閉じ込められる際の描写が際立っていて、思わず背筋が凍りつく物語だった。
 物語に登場したのは数ヶ月もの間ずっと閉じ込められていた老人の吸血鬼で、日暮れとともに目覚め、錠前師をその牙にかけたのだった。
『皮だけになるまで血を吸われるぞ…』
 グロ=マログがこの砦を出てから何年経つ?何十年?もしそれほどの間、一滴も血を吸っていない吸血鬼が生きていたとすれば、新鮮な獲物を前に、どれだけ凶暴になるというのか?
 もし、生きていたのなら。

『グアガアアァァアアアアアアッッ!!』
「痛っ!?」
 ちびのノルドの肩に鋭い痛みが走り、彼女の背に吸血鬼…ロヴィディカス卿が覆いかぶさるようにして牙を突き立てていた。






「くぉのおおぉぉぉぉっ!!」
 ドガッ!!
 ちびのノルドは渾身の裏拳でロヴィディカス卿を殴り飛ばし、壁に激突した彼の顎を両手で掴むと、首を捻りきった。首が180度回転したロヴィディカス卿は絶命し、ぐったりと横たわる。
 荒い息を吐きながら、ちびのノルドは肩に刺さったまま折れていた吸血鬼の牙を抜き、震える手でそれを目の前まで持ち上げる。
 …噛まれた!?
 いったい、それが何を意味するのか。自分も吸血鬼になってしまうのか!?
 シロディールにおける吸血鬼伝説は情報が錯綜しており、その正確な像を掴んでいる者はそう多くない。そしてただの戦士であるちびのノルドに、シロディールの吸血鬼の正しい情報など知り得るはずもなかった。
 とりあえず、脱出しなくては…
 ロヴィディカス卿の日記を掴み、ちびのノルドは震える足を意思の力で無理矢理に動かし、どうにか外へ脱出した。すでに空は闇に染まっており、木々が星明りで照らされていた。
 その日は満月だった。







 ショック症状が収まらず、ちびのノルドは混乱したまま足を動かす。すでに自分が正しい方向へ進んでいるのかすらわからなくなっていた。
 人目を避けて山中を歩き続けるうちに一日、二日と経ったが、動揺は続いており、徐々に体調を崩しはじめていた。やがて湖畔へ辿りついたちびのノルドは水を飲むために水面に口をつけ、そして水面に写った自分の姿を見て愕然とする。






「そんな…これが、わたし……?」
 痩せこけた頬、黒ずみはじめた肌。落ち窪んだ眼窩には、明らかに人のものではないとわかる瞳が光を放ち、ぎょろついている。
 怯え、疲れきった吸血鬼が、水面から自分を見返していた。
 ちびのノルドは半狂乱になって叫びかけたが、叫べなかった。こんな姿を他人に見られるわけにはいかなかった。そう思って自分を制御するだけの精神力があったことに、ちびのノルドは自分自身で驚いていた。
 まだ肉体の変化はそれほど劇的なものではなく、おそらく顔さえ隠していれば正体を勘づかれる恐れはないだろう。
 だが太陽光が肌を焼き、日中はまともに身動きが取れなくなるであろうことを予測したちびのノルドは勇気を振り絞って立ち上がり、涙を拭って歩きはじめた。
 こんなとき、親の胸を借りて泣けたらどんなに良いものかと思う。だが、それは不可能だ。両親はここにはいないし、自分はもう大人だし、子供だったとしても、両親は自分がそんな真似をすることを許さなかっただろう。
 ちびのノルドには兄弟がいた。両親が兄弟以外に、ことに自分に、優しい表情を向けたり、甘い言葉を囁いてくれた記憶を思い出すことができない。
 当たり前だ。そんな瞬間はなかったのだから。ただの一度も。







 どうにかスキングラードへ到着したときには、ちびのノルドはかなり衰弱していた。数日間ほとんど食べ物を口にせず、口にしても飲み込めずに吐き出してしまい、また、このところずっと悪夢に悩まされていた。
 そんな酷い有様だったので、ウェストウィルドの宿へ立ち寄ったとき、客のボズマーがこちらを見てあからさまに警戒しだしたときも、すぐにそれと気づくことができなかった。
「チッ、さすがに戦士ギルドに嗅ぎつけられたか…」
 鉄の鎧装備に身を包んだボズマーの戦士の台詞が自分に向けられたものだとは知らず、ちびのノルドは蜂蜜酒の注がれたマグを手にしたまま、がっくりうなだれる。
 自分と同じくらいの背丈の男に肩を揺すられたとき、ようやくちびのノルドは彼が自分に話しかけているのだと気がついた。






「あんた、戦士ギルドのアリシアだろ。レーヤウィンではご活躍だったそうじゃないか」
「え?あのー…あなたは?戦士ギルドの人ですか?」
「マグリールだ。なんだ、てっきり俺が仕事を放置してるんで、ギルドがレーヤウィンの連中に対してやったみたいにあんたを送り込んできたんだと思ってたけどな」
「…わたしの同僚って、なんでこんな連中ばっかりなんだろう」
 悪びれもせず自身の不真面目さを表出させるマグリールに、ちびのノルドは思わず頭を抱えかける。
 がしかし、とちびのノルドは思いなおした。この状況は利用できるかもしれない。
「あの。仕事を放置してるって言いましたよね?」
「なんだよ、なんか文句あるのか?だいたいあんな、危険のわりに報酬に見合わない…」
「あたしが代わりにやってもいいですよ。いますぐは無理ですけど…手柄も、あなたのものにして結構です」
「なんだって?」
「そのかわり、人を紹介して欲しいんです。腕の良い治癒師か、錬金術師でもいいんですけど…」
 それは賭けだった。
 もし吸血鬼から人間に戻れるのなら、その方法を知っている者がいるとすれば、それは魔術師のほかにない。しかしちびのノルドの知人に吸血病を治せるような人間はいなかったし、見ず知らずの相手に自分の正体を明かして協力を迫るわけにもいかない。
 組織や知人の紹介を通せば、少なくとも門前払いを喰らうことはないだろう。そう思っての提案だった。
 マグリールは渋い表情を見せながらも、納得したように頷く。
「まあなんだ、あんたにも色々と事情はあるんだろうし、俺の仕事を代わりにこなしてくれるんなら、その程度のことはしてやってもいいか」
「本当ですか!?」
「この宿屋の地下にな、シンデリオンっていう錬金術師がいる。腕は良いが、なにせ変わり者でね。俺はヤツのために何度か錬金術の材料を調達してやったことがあるから、俺の名前を出せば多少の融通は利かせてくれるだろう」
「あ、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」
 ちびのノルドは感謝のあまり、額を床にこすりつけんばかりの勢いで頭を下げる。
 尋常ではない熱心な礼にマグリールは多少訝りながら、最後に一言つけ足した。
「ああそれと、シンデリオンの部屋に入るなら、すぐに扉を閉めろよ」
「?えーと、あ、はい」
 わけがわからず、ちびのノルドは扉の取っ手を掴み、部屋に入ると同時にすぐさま扉を閉める。

「くさっ!」
 室内は錬金術の実験で生じたと思われる奇妙な異臭で満たされていた。
 なるほど、このことか…
 まるでニルンルートを大量に煮詰めたような激臭に眉をしかめつつ、ちびのノルドは階段を下りていく。
 やがて長身のアルトマーの姿を見つけたちびのノルドは、丁寧な物腰で話しかけた。
「あの~…シンデリオンさんですか?」
「うん、なにかね?こんな場所に一見の客とは珍しい」
「あのっ、じつはわたし、マグリールさんの紹介で来たんですけど。腕の良い錬金術師だと聞いて」
「ほう、マグリール…ということはレディ、あなたは戦士ギルドのかたですか?」
「そうです。といっても、今日ここへ来たのはギルドとは関係がないんですが…じつはわたし、ちょっとした病気、に、かかってしまって…薬を作ってほしいんです」
「なるほど?」






「できるだけ、急がなきゃならなくて…でも、ひとに相談しにくいことで…っ!お願いします、お金なら幾らでも出します!もうあなたしか頼れる人が…お願いします……!!」
 そう言って、ドサッ、大量の金貨を惜しげもなくテーブルに広げるちびのノルドを見て、シンデリオンは仰天してしまった。
 まして目前の少女は肩を震わせ、泣き出している。
「あの、きみ、いいかね。落ち着きなさい、いきなりこんな…」
「も、もおっ、わたし、どうしたらいいか、こんな…っ!う、うう、うぁぁああああああっっっ!!」
「落ち着いて」
 ずっと抑えつけていた我慢が限界を超えたのだろう、頭を抱えて泣き叫びはじめたちびのノルドに、シンデリオンは掌をかざし青白い光を迸らせる。
 沈静の魔法だ。
「落ち着いて。ゆっくり…深呼吸だ。そうだ、なにも恐がることはない。わかるね?」
「うっ…ううっ、は、はい……」
「よし。それじゃあ、事情を説明してくれるね?」
 ちびのノルドは廃墟と化した砦で吸血鬼に襲われ、それ以後体調が激変したことを告白した。
 もっとも自分がアリーナの闘士であることや、グレイ・プリンスの依頼があったことは言わなかったが、それは秘密主義云々より、いまそれを話しても意味がないと判断したためである。
 やがてちびのノルドは兜を脱ぎ、変わり果てた素顔をシンデリオンの前に晒す。
 ロヴィディカス卿とグロ=マログ嬢の関係を思い出し、自分が吸血鬼だとわかったらシンデリオンは自分を部屋に閉じ込めて逃げるのではないかと思ったが、彼は幾らか驚いた表情を見せはしたものの、冷静に彼女の顔を観察し、症状を告げた。
「吸血鬼に襲われたと言ったね?フム…これはポルフィリン血友病の進行状態、吸血病の典型的な症状だね。可哀想に…ここまで酷く進んだということは、吸血病を患ってからも血を飲んでいないね?その精神力には敬服するよ」
「吸血病、ですか…?」
「シロディールの吸血鬼というのは、絵本や何かに出てくるような伝説のモンスターではない。言ってしまえば、たんなる病人だ。危険な病気ではあるが。しかも君の場合、強力な吸血鬼に襲われたせいか、あるいは病気と相性が良い体質なのかはわからないが、常人よりかなり進行が早い。これはぐずぐずしていられないな。おーい、ミレニア!」
 シンデリオンが名前を呼ぶと、部屋の片隅からエルフの少女が飛び出してきた。






 少女は片手に玉杓子を持ったまま、朗らかに声をあげる。
「なんですかシンデリオン先生、もうすぐ晩メシができるッスよ?」
「キミねぇ…さっきの様子を見てなにも思わなかったのかい?」
「先生のお客さんって、変わった人が多いですから」
 まるで場違いに見える明るい少女、シンデリオンを先生と呼んでいるあたり、師弟関係か何かだろうか?
「あのねえミレニアいいかい、この女性が吸血病に罹ってしまったので、すぐにでも治療薬を用意する必要がある。至急、手配を頼む」
「吸血病?そいつは大変だ!アイアイサー!」
 ミレニアと呼ばれた少女は玉杓子を放り出すと、そのまま部屋の外へ駆け出していった。
 さっき晩飯の用意ができると行っていたが、作りかけの料理はどうするつもりなのだろうか?
 呆然と部屋の扉のほうを見つめるちびのノルドに、シンデリオンがやれやれと首を振ってみせる。
「ミレニアは私の弟子だよ。そそっかしくて、やかましい、手のかかる弟子だが、錬金術の腕はそれほど悪くはない。さて、治療薬を作るにあたって、君にもやってもらいたいことがある」
「わたしにも?」
「本来なら安静にしていたほうがいいのだが、急を要するため、止む無くだ。さもないと手遅れになる…吸血病の治療薬にはニンニク、ベラドンナ、ブラッドグラス、そして空の極大魂石が必要になる。それらは私とミレニアが魔術師ギルドや錬金術店をあたって揃えておこう。だが、他に…強力な吸血鬼の灰、アルゴニアンの血は、このあたりでは手に入らない。その二つは君自身の手で揃えてほしい」
「強力な吸血鬼の灰、アルゴニアンの血…」
「できれば今晩のうちにだ。どんな手段を使うかは君次第だ、これは君の問題なのだからね。それに…吸血病を患っているのなら、夜の間はいままで以上に機敏に動けるはずだ、本来なら。そう認識できるのなら、可能なはずだ」
「…わかりました」
 ちびのノルドはゆっくりと兜をかぶり、おぼつかない足取りで部屋を出る。
 なんとしても薬の材料を入手し、人間に戻らなければ。戻りたい…!
 扉を開けっ放しにしたせいで部屋の悪臭が宿に漏れ、苦情を言われながらも、ちびのノルドはいまいちど気力を振り絞ってスキングラードを出た。

















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2016/11/18 (Fri)03:22





 帝都魔術大学の依頼でスキングラード領主ジェイナス・ハシルドア伯爵と接触したリアは、スキングラード城内で活動していた死霊術師たちを始末し、シロディール各地で死霊術師の活動が活発化していることを知らされる。

 帝都へ帰還する途中でコロールの街に立ち寄ったリアは、カジートの女将が経営するオーク・アンド・クロージャー亭で休憩を取ることにした。疲れを知らぬ鋼鉄の身体とはいえ、駆動機関に負担をかけ続けるのは良いことではない。金属も磨耗はする。
 料金の支払いを済ませ、女将のタラスマから鍵を受け取ったリアが二階の部屋へ向かおうとしたとき、奇妙な髪型の男が彼女へ話しかけてきた。






「そこの娘さん。じつは貴女に、折り入ってお話ししたいことがあるのですが、御手隙ですかな?」
「うむ?なんであるかな?」
 貴族らしい身なりの初老のダンマーは、シロメのタンカードに注がれたワインをちびちびと口つけつつ、興味深いといった様子でリアを見る。
 どうやらこの男は、こちらの素性を知ったうえで声をかけてきたらしい…とリアは察する。たんに、見知らぬ少女に適当に挨拶をしたわけではなく。
 とはいえ自分はこの世界であまり大したことはしておらず、特定の役職についているわけではない。過去に関わったいずれかの事件が人目を引いた可能性はあるが、それが何であるかは見当がつかなかった。
 とはいえ、その疑問はすぐに目の前の男…ファシス・ウレスが晴らしてくれたのだが。
「じつは貴女が最近関わった、ジェメイン家の一族について相談したいことがあるのですよ」
「ほう?」
 ジェメイン…レイナルドとギルバートの兄弟だ。最近、彼らの生家であるウェザーレアを荒らしていたオーガたちをリアが退治し、兄弟が故郷を取り戻すのを手伝ったのだった。
 ジェメイン兄弟はオーディル農園の親父に話を聞いてリアの実力を見込んだと言っていたが、もしウェザーレアでの一件が周知のことであるなら、このファシス・ウレスという男はリアに傭兵まがいの荒事を頼む気かもしれない。
 いや、待て、とリアは思った。さっきのファシス・ウレスの台詞をメモリ・バンクからリピート再生し、「ジェメイン家の一族について」という言葉を確認した。
「おぬし、あの兄弟に何ぞ用かの?」
「誤解のないよう最初に言っておきますが、私があの兄弟に対して直接何かをする、それを望んでいる、ということはありません。話したいのは、彼らの父親のことについてです」
「父親?ギルバートを連れてウェザーレアから逃げ延びたと聞いたな…すでに亡くなっているそうだが」
「ええ、それは『我々』も把握しています。重要なのは、生前の彼が何者だったか、なぜウェザーレアのような危険な土地に家を建てたのか、です」
 我々?
 その言葉にリアは内心で眉をしかめる。これは組織ぐるみの動きなのか?ということは、目の前にいる男はたんなる連絡員に過ぎないということか…
 なにより気になるのは、そういう動きができる組織が、いったいどういう理由であの無害な兄弟に関わろうとしているのか?という点だった。
 ファシス・ウレスが言葉を続ける。
「兄弟の父アルバート・ジェメインは、ある道のプロフェッショナルとして我々の組織に雇われていました。そして我々から依頼を受け、『ある場所』から『ある物』を盗んだのです。しかし彼は掟を破り、それを我々に渡すことなく、自分の物にしてしまった。ウェザーレアに住居を構えたのは、我々と、コロールの監視の目から逃れるためだった」
 そこまで言って、ファシス・ウレスは一度言葉を切り、リアを見つめた。
 リアもファシス・ウレスをじっと見つめていた。そこに感情はなかったが、右手はいつでも武器を抜けるようにしていた。
 荒廃したウェザーレア、離れ離れになった家族のことを思い、リアはぽつりとつぶやく。
「…主等か?」
「違いますとも。あれはレッドガード峡谷に住むオーガどもの仕業です。実際にウェザーレアが壊滅し、レイナルドと彼の母親がコロールに逃げ延びたのを確認するまで、我々は彼らがウェザーレアに居たことすら知らなかった。アルバートと彼の次男の消息が途絶え、彼らは助からなかったと判断したとき、我々はアルバートと、彼が盗んだものへの興味を失った…彼の死にしても、我々は決して喜んだりはしていない。たとえ、彼が我々を裏切ったとしてもね」
「ところが、死んだと思っていたギルバートが見つかったもので、また興味が沸いてきたというわけじゃな?」
「そうです。我々は一度、ウェザーレアを捜索していますが、アルバートが所持し保管していたであろう物品の数々については痕跡を掴めませんでした。おそらくはウェザーレアを襲ったオーガたちが自分たちの寝ぐらに持ち帰ったのでしょう。そこで貴女には是非とも、レッドガード峡谷へ向かい、アルバートが隠匿していたものを取り戻して欲しいのです」
「兄弟にはなにも知らせず、かえ。アルバートは…兄弟の親父殿は、盗賊だったのか?」
「そう考えていただいて結構です。おそらく兄弟はそのことを知らないでしょう、彼は自分の正体を隠すのが上手かった。自分の家族に対してもね」
 だから、余計なことは考えないほうがいい…ファシス・ウレスはそう締めくくった。
 なるほど、ジェメイン兄弟と関係があることには違いないが、直接の関わりはないわけだ、とリアはひとりごちた。おそらくは断ったところで、兄弟に被害が及ぶことはないだろう。彼らは何も知らないに違いないのだから。ファシス・ウレスも、組織の面子のために兄弟を痛めつけるような無益なことをやりそうには見えなかった。
 だがリアには断る理由もなかった。そもそも目的があってこの世界に来たわけではないのだし、こんな面白そうな事件に首を突っ込まない手はない。










 ウォン、ドガッッッ!!
『ゼロシーッ、またなにか轢きましたよ!?』
 リアの知覚領域内で、自律型思考支援システム「TES4」通称フォースが叫ぶ。
 コロール城壁沿いの人目がつかない場所で二輪駆動形態へ変身したリアは、一目散にレッドガード峡谷へと向かっていた。
 軽合金製の車体に突き飛ばされ、宙を舞うトロールを後部カメラで確認しながら、リアはファシス・ウレスとの会話内容を反芻する。
 そもそも彼と、彼が所属する組織がアルバートに盗ませたものは何か。
 その肝心な部分をファシス・ウレスは教えようとしなかった。彼曰く、「見ればわかる」らしいのだが…

 レッドガード峡谷の洞窟では、青白い肌をした巨体のオーガたちがひしめいていた。
 とはいうものの、ウェザーレアで見かけた連中ほど強い個体ではないらしい。リアは両手にカタールを閃かせ、不敵な笑みを浮かべて立ち向かう。
「ひとまず、あの小坊主らの恨みを晴らしてやるとしようかの!」






 リアが駆け出すと同時に、オーガたちが彼女の存在を認識し咆哮をあげる。
 根っからの好戦的な種族なのだろう、あるいは縄張りに勝手に入られたことを怒っているのかもしれないが、戦う以外の選択肢は頭にないらしい。もっとも、こちらが相手を殺しにかかっている以上、それで問題はないのだが。
 もとより平和的に宝だけ持ち出せると考えていたわけではない。
「フンッ!」
 油圧式の金属骨格から繰り出される豪腕の一振りで、分厚い脂肪に包まれたオーガの腹が容易く切り裂かれる。
 その後も次々とオーガが襲いかかってきたが、急所への精確にして強力無比な一撃はオーガたちを物言わぬ肉塊へと無慈悲に変えていく。






『グォォオオオォォォオオ!!』
「畜生めが、手間を、かけさすでない!」
 洞窟最深部にいた巨体のオーガを始末したとき、周辺に脅威となる生物が存在しなくなったことをフォースが告げた。
『警戒ステータス、オール・グリーン。お疲れ様でした、ゼロシー』
「うむ。どうやらこのいっちゃんデカブツが、連中の頭目だったようじゃの」
 頚椎に深々と突き刺した刃を引き抜き、リアはオーガの巨体から飛び降りる。
 オーガたちの寝床を探し回り、リアは細々とした宝石や、ちゃちな金属細工に混じって、一振りの剣を発見した。






「どうやら、これのようじゃの」
 それはコロール王家の紋章が刻まれた、エングレーヴ入りの黒檀剣。
 なるほど見事な業物だ、装飾が美しいだけではなく、単純に武器として優れている。名剣と呼んで良いだろう。
「しかし、王家の紋章とはな…王族に伝わるものか?」
 なるほど、たしかに、力のある組織が外部の人間を雇って盗ませるほどのものと考えれば納得はいく。それはアルバート・ジェメインが真に優れた腕を持つ盗賊だったことをも証明していた。
 これを、そのままあの胡散臭い男に渡してしまって良いものか?
 そうすれば、一応は丸く収まるのだろうが…







 レッドガード峡谷の洞窟を出たあと、リアが向かったのはファシス・ウレスが待つオーク・アンド・クロージャー亭ではなく、ジェメイン兄弟がいるウェザーレアだった。






「おや姐さん、わざわざ会いに来てくれたんですか?」
「だからその姐さんという呼びかたはやめんかね」
 愛想良く手を振って呼びかけるギルバートを咎めつつ、リアはウェザーレアの様子をぐるり見回して驚いた。
 このあたりに住みついていたオーガたちを退治してから、まださほど時間が経っていない。にも関わらず、見るも無残だった廃墟は見る影もなくなり、きちんと補修された家に、畑までがきちんと手入れをされていた。
「じつは、折り入って話があっての」
「なんです?」
「主等の…父親についてじゃ。せっかくだから、中に入らんか?」
 二人を促し、リアは兄弟が住む家へと入る。
 荒れ放題だった屋内もすっかり綺麗になっており、失敗した日曜大工のような有様から、どこに売り出しても恥ずかしくないようなものになっていた。床に転がっている酒の空瓶が多いことに目を瞑りさえすれば。
 この場所を取り戻してから、二人は血の滲むような努力をして土地を再建したに違いない。努力だけではなく、金もかかったはずだ。こうしてその価値があったと思わせる見た目になったのは、兄弟にとって何よりの慰めだっただろう。
 聞けば、ときおりコロールへ買い物に行く以外は自給自足でやっていけるという話だった。
 リアはすこしためらったあと、レッドガード峡谷の洞窟で発見した剣を二人に見せた。






「立派な剣だね、それをどこで手に入れたんだい?」
 おそらくは自分たちと関係がある品だとは思っていないのだろう、ギルバートはまるで他人事のような感想を漏らす。
 そんな彼に真実を口にするのは心苦しかったが、リアはギルバートの目をまっすぐ見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「これはな、おぬしの父親がコロール王家から盗み出したものだ」
「……えっ?」
 ギルバートの表情には笑みが張りついたままだった。リアの言葉があまりにも唐突で、突飛だったからだろう。冗談を言ったのか、自分が聞き違えたにちがいないという顔だった。
 家に入ってからさっそくワインに手を出したレイナルドの動きも止まっていた。
 やがてギルバートが、納得しかねるという顔で訊ねる。
「すまない、もう一度言ってくれないか。僕たちの父がなんだって…」
「主等の父は盗賊だった。ある組織に雇われて、この剣を盗みだしたのじゃ。ところがおぬしの父はそれを組織には渡さず、自分のものにした。ワシはの、それを取り戻すよう頼まれたのじゃ」
「待て、ちょっと…待ってくれ。なんだって?僕の父さんが盗賊?なにかの間違いでしょう?」
「いや」
「だって、そんな…僕たちの父は平凡な農夫で…」
「おぬしの父を雇っていた、ファシス・ウレンという男が詳しく話してくれた。おぬしの父は、正体を隠すのが上手かったと…ウェザーレアで起きたことも、ワシがおぬしらと関わったあとのことも、すべて知っておった。ヤツは嘘をついてはおらんかったよ」
 相手の表情や声から感情を読み取るエモーション・センサーがそれをはっきり証明していた、とまでは言わなかった。相手が理解できないことを口にしても意味がない。
 真実を知らされたギルバートは打ちのめされた様子でがっくりと肩を落とす。
「なんで…そんなことを僕に教えるんです」
「真実を知る必要があると思ったのじゃ。自分たちの父が何者であったのかを、知りたいと思って…」
「こんなことは望んでいなかった!僕は…僕の尊敬する父は、ただの平凡な農夫で、普通の人間だった!ずっとそう思っていたし、これからもそう思っていたかった、なのに!」
「す、すまぬ…」
 完全に平静さを失い、わめき散らすギルバートに、リアは頭を垂れる。
 そもそも二人に真実を伝えようとしたことに、深い考えはなかった。ただ、身内に関すること、その真実を知る権利があるだろうと、それだけのことである。
 機械であるリアに家族はなく、血の繋がりという概念を知らぬリアにとって、人間が家族に向ける感情など未知の領域だ。ギルバートがこれほどまでに取り乱すことを、彼女は予測していなかった。
 目に涙を浮かべ、なおもリアを責めようとするギルバートを止めたのは、兄のレイナルドだった。
「止めるんだ弟よ、姐さんだって辛いんだ。姐さんはいつだって俺たちのことを心配してくれていた…なのに、姐さんが嫌がらせでこんなことをするはずがないだろう?」
「…そうだ。その通りだ、兄さん。姐さんも、すまなかった」
 普段はどうしようもない酔っ払いの飲兵衛である兄の説得を受け、ギルバートは驚くほど素直に事実を受け入れる。
 しかしショックは癒えないようで、その場に座り込んでうなだれるギルバートのかわりに、レイナルドがリアに訊ねた。
「それで、姐さんはその剣をどうするつもりだい?」
「それはおぬしらが判断すべきことだと思う。そのためにワシはここへ来たのじゃ、この剣をおぬしらに託すためにな。この家に飾るもよし、あるいはファシス・ウレンという男のもとへ持っていけば、それなりの金を払ってくれるじゃろう。すくなくとも、おぬしらの父の責を負わせるような真似はせん、それはワシが保障する。また、本来の持ち主へ返すつもりであれば、ワシに言うといい」
「…すぐには決断できないよ。一晩だけ待ってくれないかな?」
「もちろんじゃ。いまさら急くこともあるまい」
 その日、リアはジェメイン兄弟とともにウェザーレアの家で一晩を過ごした。
 しかし彼女には、レイナルドがすでに決意を固めていたことなど知る由もなかった。また、その決断に重い責任が伴うということにも…







「大変だ姐さん、兄さんがいない!剣も!」
「なんじゃと!?」
 翌朝、リアが機能を復旧させたときにはすでにレイナルドの姿は消えていた。
 暖炉の上に、酔って震えた手で書いたであろう判読が困難な書き置きが残されている。
『剣をコロールに返してくる』
 簡潔な文章ではあったが…それが意味することに、リアは激昂する。
「あんの…バカモノがッ!!」






 おそらくレイナルドは父の罪を清算するため、一人でコロール城へ向かったに違いない。
 犯罪結社の一員たるファシス・ウレスは父の罪を息子たちに背を負わせる気はなかったろうが、コロール政府はそうは考えまい。
 城から、それも伯爵ゆかりの品を盗み出すことは重罪であり、二度とこのような事件が繰り返されないためにも、見せしめとして罪人の身内を処刑するというのはおおいに有り得ることだった。たとえ、レイナルド自身に非はないことをわかっていたとしても。
 そしてレイナルド自身も、そのことは理解しているはずだった。だからリアとギルバートには黙って、一人で剣を返しに行ったのだ。
「あの馬鹿者め、ワシはなにも、こんなことを望んだわけではないぞ…ッ!」
 もし兄弟が剣を持ち主に返すべきだと判断したのなら、そのときはリアが城へ剣を持っていくつもりだったのだ。もし盗品を返しにきたのがまったくの第三者であるなら、コロール政府としても無闇に誰かを罰するというような行動は取れない。
 それも、レイナルドはわかっていたに違いない。そして彼は、自らの命と引き換えに、父が犯した罪にけじめをつけようと考えたのだ。
 ぐずぐずしてはいられなかった。
 ギルバートが制止する間もなく、リアはすぐさまコロールに向かった。







 コロールへと到着したリアは城の外壁にセンサーを走らせ、牢獄の在り処を探り当てる。






「ここじゃな…」
 壁越しにレイナルドが捕えられた牢屋を透視したリアは拳を振り上げ、城壁を粉砕する!
 轟音とともに石造りの壁が倒壊し、城内がざわめきに包まれる。
「いったい何事だ!?」






 衛兵隊が騒ぎたてるなか、独房にレイナルドの姿を発見したリアは鉄格子を無理矢理こじ開けると、重く頑丈な鉄格子を蹴り飛ばして衛兵にぶつけ、ノックダウンさせる。
 当のレイナルドは普段通りのぼんやりした態度でリアに言った。
「あれぇ、姐さん。こんなところでどうしたの?」
「阿呆か貴様は!おぬしのせいで大変なことになったのだろうが、そら、逃げるぞい!」
「いいの~?」
「良いも悪いもない!ワシは、おぬしをむざむざ死なせるためにあんな話をしたのではないわっ!わかったら、しっかりついて来んかい!」






 二人はリアがぶち破った壁の大穴を抜け、一目散にコロールから脱出する。

 一方、宮殿内は大混乱に陥っていた。
 なにごとかと問い詰めるアリアナ・ヴァルガ伯爵夫人に、衛兵が報告する。
「例の囚人が脱獄しました!どうやら外部の協力者の手引きによるものと思われ、いかなる手段を使ってか外壁を破壊され、そこから侵入されました!」
 およそ信じ難いその報告に伯爵夫人が目を丸くする。
 彼女の傍らに控えていた執事のレイス・ウォヴリックが指示を仰いだ。
「これはコロールの信用を揺るがす大事件です。すぐに追跡隊を編成し、ヤツを追いましょう!」
「待ちなさい。待って…その必要はありません」
「なんですと!?」
「おそらく彼らはウェザーレアへ逃げるつもりでしょう。あそこはコロールの管轄外です、いまから追跡隊を組織しても間に合わないでしょう。かつて、この剣が盗まれたときと同じね…でもいま、剣は帰ってきたことだし、それに、あの若者は処刑されるのを承知で、勇気をもって出頭してくれました。そんな若者の命を奪うのは、本来なら誰にとっても本望ではないでしょう?」
「しかし…」
「コロールはジェメイン兄弟を永久追放とし、この件は終わったものと判断します」
 アリアナ・ヴァルガ伯爵夫人は毅然とそう言い放ち、立ち上がると、犯人の追跡に向かった衛兵たちをすべて城へ呼び戻し、他の罪人の逃亡阻止と、城の破損部分の片づけをするよう衛兵隊長に命じる。
 不安そうな表情をするレイスに振り向くと、伯爵夫人は楚々とした笑みを浮かべた。
「城壁の修繕が終わるまでは、風通しが良くなりますね」







 その頃、リアとレイナルドの二人は。






「姐さん、まだ着かないの?」
『うっさいわ!なんもかもおぬしのせいじゃろうが、まったくもう』
 逆向きに座るレイナルドを乗せ、リアは一路ウェザーレアへと向かうのであった。

















2016/11/16 (Wed)00:34






正面からは普通の格好に見えても…




背後からだとキャップちんちん見えてるキャプー!



 どうも、グレアムです。なんとなくシロディールへの郷愁に駆られてOblivionの環境を再構築してしまいました。
 日本語化とENB導入まではスムーズに行ってたんですが、Fran v5や諸々の装備MODを入れたあたりでCTDの嵐。既存のセーブデータが読めない、街から外に出るとCTDするなどはまだしも、新規スタートしても地下水道から出た瞬間に確定CTDするので困ってしまった。
 MODリストをなんども見直し、適用順をあれこれ変更してみても問題は一向に解決されない。そもそもWrye Bashを使えば過去のセーブデータで適用したMODと適用順のリストが参照できるので、現環境との統合性を取るのは難しくないはずなのだが、一見問題がないはずの環境であるにも関わらず状況が一向に改善されない。
 TES4、Fallout3、New Vegas、TES5と触れ続けてきた過程で、一応は各種MODがどのような作用を及ぼすのか大体は理解できるようになっているつもりだったが、まるで原因がわからない。それとも俺は、詳しくなった「つもり」でいただけなのか?
 いまいちどFran v5の各種ファイルを一つづつチェックしていたとき、俺はあることに気がついた。
 …MeshやTexture等のリソースが入ったBSAファイルを丸ごと入れ忘れている!

 そりゃ強制停止するわ。

 原因不明の不具合というのは、たいていこの手のヒューマン・エラー、イージー・ミステイクであることがよくわかる出来事だった。半日ほどの時間を無駄な試行錯誤に費やしたことが、対価として妥当であるかどうかはわからないが。




牢獄脱出後、美しきシロディールの風景




赤い空が目にしみるクヴァッチ



 ちなみにENBプリセットはATEを使用しています。たしか以前はAeroを使っていたと思うんだけど、改めて比較したらAeroはAmbientOcclusionがおそろしく非実用的なレベルで汚すぎた(比較画像はない、いまさら試す気もない。申し訳ない)。それに比べるとATEのAmbientOcclusionはかなり綺麗で、一部オブジェクトが透過するという問題は残っているものの、それもAeroのものよりは大分マシになっている。
 またゲーム中にDepthOfFieldの設定を細かく調整できないか色々試してみたが、現状では打開策が思いつかない。Fallout3以降のようにenbeffectprepass.fxの設定をゲーム中に変更できればいいのだが。直接ファイルを書き替えるという手はあるものの、さすがにそれは面倒すぎる。
 TES4のENBは設定項目が少ないぶん、扱い易い。というか、Skyrimが煩雑すぎる。もっともコンソール・コマンドが貧弱なので、画面写真撮影はかなり苦労することになるが…

 せっかくなので、二次創作の主人公の面々を適当に撮影してみた。




傭兵ちびのノルドことアリシア




異界から召喚されたアンドロイドのリア




異界から召喚された暗殺者ブラック17




ブラックマーシュ出身の剣士ドレイク




異世界人を両親に持つ錬金術師、盗賊のミレニア
いまは亡き(笑)シンデリオンとともに



 そういえばシンデリオンって、Skyrimにおいて前作から続投している唯一のキャラですよね?見つかったときは死体になってますが…Oblivionにおいてはオカート議長やユリエル7世あたりも過去シリーズからの続投でしたが、作品を跨って登場する人物ってTESシリーズではそんなにいないので、そういった意味ではかなり優遇というか、レアなキャラではあります。死んでるけど。












2016/11/14 (Mon)02:19





 俺の名はアーケイド、アルゴニアンの商人だ。
 ラビリンシアンでマグナスの杖を入手した俺は、一路ウィンターホールド大学目指して一心に駆ける。アンカノを止めるために、ヤツが何を企んでいるのかは知らないが、好き勝手にやらせておくわけにはいかない!
 いよいよ決着をつけるときだ。







 大学の前ではアーニエルとファラルダ、そしてトルフディルが呆然と立ち尽くしていた。






 かつてマグナスの目の周囲を覆っていた結界は大学全体にまで広がり、おそらく三人はそのまま結界を破る手立てを見つけられないまま外に締め出されたものと思われる。
 途方に暮れていたトルフディルは、俺の姿を目にして表情を変えた。
「おお、アーケイド君!マグナスの杖を発見したのかね!?」
「アタコーよ。ところで、ミラベル先生は?」
「彼女は…助からなかった。大学から皆を逃がそうとして…」
「…そうか……」
 ちくしょうめ、アンカノの野郎、いったいどれだけ死体を積めば気が済むんだ?もっとも、ヤツにとってはこの程度、小手調べの段階なのだろうが…もしアンカノがマグナスの目の力をすべて解放したら、一人や二人死んだくらいで悲しんでいる暇などなくなる。
 だが俺が来た以上、これ以上事態が悪化するような行為は許さない。ここで食い止める!
「ひょっとしたらマグナスの目の影響力の余波で、前みたいに街に化け物が出るかもしれない。アーニエルとファラルダはここに残って街の監視を、ボルガクさんとトラフディルは俺と来てくれ!」
 大学では一番キャリアが浅いが、こと荒事の解決に関しては、他の連中よりも俺のほうに分がある。
 いまの指示に不満を抱く者はいないようだった。それなら、もう俺が言うべきことは何もない。
 マグナスの杖を振りかざし、結界に向けてエネルギーを集中させる。
 杖の先端に取りつけられたオーブから雷鳴がほとばしり、目のくらむ閃光とともに、結界が消し飛んだ。まるで頑丈な金庫が開いたのを見たようだった。物を投げたり、ありったけの力を込めて魔法をぶつけてもビクともしないが、ピッタリと合う鍵を使いさえすれば、いとも容易くガードは崩れる。
 そのまま元素の間へ侵入し、俺はアンカノがマグナスの目に魔力を送り続けるお馴染みの光景を目にする。
「アンカノォォォオオオオッッ!!」
 ヤツが俺たちに向けて魔法を放ったのは、俺がカタナを振り下ろしたのとほぼ同時のタイミングだった。






 背後でボルガクとトルフディルが床に倒れる「バタン」という音がし、俺のカタナはアンカノの肉体を切り裂くことなく素通りしてしまう。
「……ッこれは!?」
「ほう、貴様には私の魔法が通じないらしい。マグナスの杖の加護か。小癪な…エストルモは任務に失敗したようだな。だが、まあいい」
 アンカノはその場から飛び退き、今度は氷の精霊や異形魔法を召喚し俺に向けて放ってきた。さらにアンカノ自身も破壊呪文を行使し、俺は飛び交う爆炎を避けつつ化け物どもを相手に戦う破目に。
 しかもアンカノは倒れた二人を囮に使うためか、ときおり昏倒したボルガクやトルフディルに向けて牽制の火球を放ってくる。俺は二人に被害が及ばないよう回復魔法を使ったり、ときとして自らが盾となってアンカノの破壊呪文を受けなければならなかった。
 そんな俺の懸命な動きが滑稽に見えたのだろう、アンカノは哄笑をあげる。
「この力さえあれば、世界を手にすることだってできる!貴様如きに止めることなどできん!」
「そうかよ…」
 アンカノの目的なんざどうだっていいが、このままではジリ貧だ。ヤツは確実に俺を追い詰めているし、俺にはヤツにダメージを与える方法がない。
 そのとき、気を失っていたはずのトルフディルが渾身の力で声を振り絞った。
「杖だ…杖の力を、マグナスの目に…ッ」
「なに?」
 そうか、と俺は気づく。
 おそらくアンカノを無敵たらしめているのはマグナスの目の力によるもの、であればマグナスの杖を使って目を無力化すれば、アンカノへの力の供給も断たれる…無敵の力も失われる。
 おそらくトルフディルは確信があって言ったわけではないのだろう。彼がそんなことを知っているはずがない。
 直感…しかし、俺はその直感は正しいはずだと信じることにした。
 アンカノが放った火球を避け、マグナスの杖に全神経を集中、目に向けて魔力を放出する。






 すると半ばまで解放されていたマグナスの目が閉じはじめ、魔力の奔流がみるみるうちに失われていくのがわかる。
「なっ…!?」
 先刻までの、無限大に感じられた力が急激に萎んでいくのを感じたらしいアンカノが驚愕の表情を浮かべる。
 やがてマグナスの目はピッタリと閉じ、アンカノへの力の供給の一切が断たれた。
 いまならダメージが通る、そう確信した俺は一度の跳躍で柱の影に隠れていたアンカノの目前まで接近し、左手に携えたマグナスの杖をおおきく振りかぶった。






 ドガッ!!
「ぐああっ、がぁぁあああああああ!!」
「これでもう逃げらんねーぞ」
 振り下ろされたマグナスの杖がアンカノの胸部を貫通し、柄の先端が背中を突き破ると同時に、ヤツの悲鳴がこだまする!
 だが、これで終わりではなかった。
 俺はゆっくりと愛刀・泉州時次郎拵を持ち上げ、その刃をアンカノの首筋にピッタリと当てて言い放つ。
「いいか、おい、世界の支配なんつーよくわからん、ぼんやりした目的のために振り回されるのはなあ…いい加減、うんざりなんだよッ!!」






 ざばッッ!!
 きらり、青白い光を放つ刀身が一閃し、アンカノの首が飛ぶ!
 首筋の断面から鮮血がほとばしり、俺の全身を真っ赤に染め上げる。ヤツの胴体から杖を引き抜くと、首を失った胴体はそのまま床に崩れ落ちた。






「うぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!!」
 宿敵であり、天敵であったアンカノを打ち倒し、俺は天に向かって咆哮する。その声はさながら、竜の叫びのようであった…







 アンカノの死と同時にボルガクとトルフディルにかけられていた魔法(どうやら変性系統の麻痺呪文だったらしい)が解け、二人は大量の血を噴いて倒れるアンカノの死体を見てすべてが終わったことを悟る。
 さすがにマグナスの目も、首なし死体に二度目の人生というボーナスチャンスを与えるほどの力はないらしい。






『終わったか。どうやら、君を信じるという我々の信念は正しかったようだ』
 未だ興奮冷めやらぬ俺たちの前に、いつからそこにいたのか、サイジックの僧兵が感慨もひとしおといった風貌でつぶやく。
 勝手に一人で納得してんじゃねぇ、と言いそうになるのをこらえ、俺はサイジックの男に訊ねる。
「こうなることがわかっていたのか?」
『ああ。我々の予言では…だからこそ、これまで迷いなく君を導くことができた。もっとも、大変なのはこれからだがな。大学の存続のため、これまで以上の努力が必要になるだろう。さすがに、こればかりは我々サイジックの力を持ってしても先の見通しが立たぬ』
「マグナスの目はどうなる?」
『現状で、この魔道具は非常に不安定な状態にある。言わずもがな、ここに置いておくことはできない…以前言った通り、この世界はまだこれを使いこなす準備ができていない。アンカノを例に出すまでもなく』
 そこまで言ったとき、俺の前におよそ信じ難い光景が広がった。
 さっきまで誰もいなかった空間から一人、また一人とサイジック僧兵たちが姿を現し、マグナスの目を魔法の力で拘束しはじめた。
『とりあえず、この危険な魔道具は我々サイジックが管理することになるだろう。時至らば、そのときは…また会える日を楽しみにしている、ドラゴンボーンよ』
 そう言うと、サイジック僧兵たちはマグナスの目とともに姿を消してしまった。
 こうして…元素の間は、マグナスの目が運び込まれる前とおなじ姿に戻った。サボス・アレンやミラベルが二度と姿を見せることはない、という点を除けば。それは、あまりにも取り返しがつかない損失だった。
 けっきょく…この事件はなんだったのか?
 アンカノの目的は?動機は?そんなものは存在せず、ただ思いつきでマグナスの目を利用してみようと考えついたのか?この件へのサルモールの関わりは?そして今後、この件についてサルモールはどう関わるつもりでいるのか?
 大学の連中は今回の事件をどう受け止めている?ウィンターホールドの首長は、他の都市の首長は、国内で起きた前代未聞の陰謀事件についてどう考えているのか?
 そして、この件にわざわざ首を突っ込んだサイジック会の真意は?
「今回の事件ってよう、けっきょく、サイジックの連中が得しただけじゃねーか」
「なんだって?」
 毒々しく愚痴を吐き出す俺に、トルフディルが目を丸くする。
 俺はさっきまでマグナスの目があったほうへ視線を向け、やれやれと首を振った。
「だってさ、なんか適当なことゴチャゴチャ抜かして、マグナスの目を持ち逃げしたろ。あれ火事場泥棒でしょうよ?あいつらが、自分たちが口で言うほどマトモな動機で動いてるなんて、いったい誰に証明できるっていうんだ?」
 そう、連中は最初からマグナスの目を確保するために俺たちを利用していた、と考えることだってできる。
 もちろん、そのことを証明できたって(できないが)、いまさら俺たちに出来ることは何もない。






「とりあえず、コレ、どうするよ」
 疲労からその場に座り込み、俺は床を転がっていたアンカノの首を持ち上げる。
 けっきょく、オマエ、なにがやりたかったんだ?
 続々と大学の関係者たちが戻ってくるなかで、トルフディルが俺の顔色を窺うように言った。
「アーケイド君…サボス・アレンの後任を務めてみる気はないかね?たしかにキャリアは浅いが、君はその力と献身で大学を危機から救ってくれた。おそらく君がその地位に立つのなら、誰も文句は言うまい」
「アークメイジになれって?ああ、いや、俺パスで。色々やることが残ってるし、大学のために生涯を捧げるってガラでもないしさ。それよりトルフディル、あなたのほうが適任じゃないかね?サールザルではお転婆たちをよく統率していたみたいだし」
 俺が大学に入ったのはあくまで魔術の研鑽を磨くためで、組織のために働くとか、地位の向上を目指すとか、そういうことではない。
 一つの危機が去ったとはいえ、世界はまだ破滅的危機に満ちている。俺は旅を続けなければならない。こう言ってしまうのはナンだが、俺はもう、大学のために尽くす気はなかった。
 トルフディルに頼まれた仕事の幾つかはまだ進行中だが、それだけだ。それはトルフディル個人との関わりであり、魔術大学という組織へ貢献するためではない。
 これで終わりだな、と俺は思った。たしか、吟遊詩人大学を出たときもこんな気持ちになったことを思い出した。厄介ごとを押しつけられただけで、俺が本当に望んでいたこと、学びたかったものは与えられなかった。
 潮時だろう。なにより、もう、雪は見飽きていた。







 ウィンターホールドを離れた俺たちは、ハイゲートの遺跡と呼ばれるドラウグルの墓地へとやって来た。そこでアンスカという女性と接触し、彼女の頼みを聞くことに。
 彼女の話によれば、この遺跡にはヴォクンというドラゴンプリーストの司祭が奉られており、彼の生前の所持品の一つである巻物に、彼女の家系がイスグラモルと関わりを持つことを証明する記述があるのだという。
「なるほど、ルーツの探索ですか。まあいいでしょう、引き受けましょう」
 そもそも俺がこの遺跡に来たのは偶然ではない。トルフディルの研究に協力するため、ドラゴンの鱗を剥ぐのに必要とされる祭具「カホヴォゼインの牙」を探すために来たのだ。つまり、遺跡を探索するという彼女と利害は一致していた。

 道中で数々のドラウグルと戦い、また、ヴォクンではない下級ドラゴン・プリーストとも戦闘になる。






 このアンスカという女性、はじめは悲鳴を上げながら逃げ惑うだけだったので、まるっきりの戦力外かと思っていたのだが、どうやらエクスプロージョンの魔法を操る手練の魔術師だったらしい。
 とりあえず俺を巻き込むのはやめてくんねーかな。

 やがて遺跡の深部に到着した俺たちは、ドラゴン・プリーストの司祭ヴォクンと対峙した。






「ほお、仮面つきかい…こいつは一石三鳥、だな!」
 アンスカの巻物捜索、カホヴォゼインの牙の捜索、そしてドラゴン・プリーストの仮面。さらに言葉の壁が遺跡に存在していたことを考えると、一石四鳥か。結構なことだ。






 他のドラゴン・プリーストの例に漏れず、ヴォクンの戦法もフレッシュ系の魔力装甲呪文を自身にかけてからの引き撃ち・遠距離から破壊呪文を放つ戦法を使ってきた。
 俺はそれらを巧みに避け、ときに受けながらも、怯むことなくヴォクンに接近する。
「アトロナックの加護がついてる俺に、魔法攻撃は最善手ではないぜ!」
 俺は変成魔法のスキルのうち、魔法耐性と精霊を取得している。魔法によるダメージを軽減するばかりか、そこからマジカを吸収することができるのだ。
 素早く距離を詰め、俺は床を蹴って跳躍し、ヴォクンに斬りかかった。






 ドシャアッ!!
 魔力装甲ごと叩き斬る一撃を受けたヴォクンは破裂音とともに灰化し、身につけていた装具が耳障りな金属音を立てて床に転がり落ちる。
 ヤツの仮面を手にした俺は、その後の探索でカホヴォゼインの牙と呼ばれる短剣と、そしてアンスカの捜し求めていた巻物を発見する。
 とはいえ巻物の文字は暗号化されているらしく、解読には時間がかかるとのことだった。







 ハイゲートでアンスカと別れたあと、俺はウステングラブという別の遺跡に足を運んでいた。
 だいぶ前にハイ・フロスガーでグレイビアードたちと接触したとき、ユルゲン・ウィンドコーラーゆかりの角笛を回収するよう言われていたのだ。
 しかし、どうも遺跡内の様子がおかしい。
 遺跡を守っているはずのドラウグルの死骸(死骸の死骸だ)が転がり、まるで俺に先んじて何者かが侵入したような形跡があちこちに残っている。






 角笛があるはずの祭壇へ向かうと、そこには一枚の紙切れがナイフで止められていた。
『ドラゴンボーンへ、早急に話し合う必要がある。リバーウッドの宿屋で屋根裏部屋を借りてほしい、そこで会おう。友より』
「なんてこったい…」
 どうやら俺の行動を知っているらしい何者かが、俺を誘き寄せるために角笛を持ち去ったらしい。
 わざわざこんな手を使ってきたということは、相手は表立って俺に協力することができない立場の人間だろうか?帝国か、あるいは…とにかく、面倒事なのは確かだろう。友より、なんて書いてあるが、どれだけ信用できるものやら。
 俺をドラゴンボーンと知って、そのうえで接触を図るとは、いったい何者だ?





【 →To Be Continue? 】








 どうも、グレアムです。無事に魔術大学のクエストを終了しました。
 それにしてもちょっと説明が少な過ぎねぇ!?もうちょっとこう背景説明とか、周囲への影響とかあるでしょうよと思うんですが(笑)そもそもマグナスの目や杖が元はどんなものだったのか(どんな目的で造られたものか)といった説明が皆無ですし、サイジックの連中もなんだかなー。ただのお助けマンっていうのもちょっとご都合主義じゃあないですかい。
 アンカノの行動も謎ですよね。魔術大学のみならずスカイリム全土を敵に回すような行為に踏み切るどんな理由があったのか。常に主人公の一歩先を行ってる点にも何の説明もないですし。
 そういった諸々の手落ちな部分にきちんと説明つけて統合性持たせれば面白い話ができるとおもうんですが、俺がやってるのはあくまで「プレイ日記&脳内妄想+アルファ」という程度のものなので、そこまでやる気は出なかった。

 ちなみにアンカノ戦に挑んだときはレベル110だったのだが、このとき出現した異形魔法はレベル194、体力2351というバケモノになっておった。アホか。

 あと最近、BGMを差し替える「Fantasy Soundtrack Project」というMODを導入したんですが、いや、いいですよコレ。めっちゃ盛り上がります。そもそもの楽曲の出来が素晴らしいですし、世界観にもバッチリ合ってます。
 そもそも元のSkyrimは音楽の主張が弱いんですよね。俺は映像作品やゲームでは、音楽の自己主張は強くて良いと思ってるので、こういうMODの存在は有り難いですね。












2016/11/12 (Sat)01:59





 俺の名はアーケイド、アルゴニアンの商人だ。
 マグナスの杖の在り処を探り出した俺がウィンターホールド大学へ戻ると、なんとサルモールから派遣されてきた顧問アンカノがマグナスの目を使い公然と敵対行動を取ってきた!ウィンターホールドの街には亡霊が出現し、大学のメンバー数名が負傷するとともに、アークメイジのサボス・アレンが命を断たれる。
 これはアンカノの独断か、それともサルモールの意思なのか!?ともすればアルドメリとスカイリムの全面戦争のきっかけとなりかねない異常事に挑まなければならない。
 それはそうと、ドーンスターでなにやら悪夢騒ぎが発生しているようなので、そちらも解決せねば。まったく忙しすぎるぜ、スカイリム生活。







 マーラの信徒エランドゥルとともに、俺は悪夢の発生源であるナイトコーラー聖堂へと向かっていた。
「かつて聖堂には、ヴァーミルナを信奉する者たちがひっそりと暮らしていた。だが数年前、いまのドーンスターの人々と同じように悪夢に苛まれていたオークたちの軍団が大挙して押し寄せてきた。彼らを撃退するのが不可能だと悟った信者たちは、『ミアズマ』と呼ばれる薬品を使ってオークともども深い眠りに落ちた…」
 道中、たびたび出くわすフロスト・トロールを撃退しながらエランドゥルが今回の事態の背景を説明する。
「ミアズマはヴァーミルナの儀式を執り行うために作り出されたもので、摂取した者の生命活動を維持したまま数ヶ月、あるいは数年の眠りをもたらす。しかし眠っている時間が長いほど精神に深刻なダメージを与え、ときにはそのまま目覚めることなく命を落とす者もいる」
「随分と詳しいな」
「この際だから言ってしまうが、私はかつてヴァーミルナの司祭だった。仲間がミアズマを使ってオークの戦士ともども眠りにつくなか、私は仲間を見殺しにして逃げ出した…恐ろしかったんだ。だがいま、ふたたびヴァーミルナの力が世に悪影響を及ぼし、そして君が私の前に現れた。おそらく…これは天啓なんだと思う。私が罪を贖うための」
 ナイトコーラー聖堂に足を踏み入れると、エランドゥルの懸念通り、ミアズマが霧散したことで長い間眠りについていたオークの戦士とヴァーミルナの信徒たちに襲いかかられた。彼らはすでに正気を失っているらしい。
 それらを撃退しつつ、道の途中で呪力障壁に行く手を阻まれ、俺とエランドゥルは蔵書庫でそれを突破する方法を模索しはじめる。






 エランドゥルが提案したのは、ヴァーミルナの不活性薬というポーションを用いて『夢中の歩み』を使い、ミアズマを解放したのち障壁を無効化するというものだった。
「見たとこ、普通のクスリみたいだけどねぇ…」
 なんの変哲もない薬瓶をしげしげと眺め、俺はあまり気が進まない思いで封を切る。
 夢中の歩みとは、夢の中から現実に干渉することができるという、ヴァーミルナの錬金術師のみが再現できる能力らしい。その詳細は判明しておらず、いかなる作用によってそれが成し得るのかはエランドゥルにもわからないらしい。
 またマーラの加護を受けるエランドゥルには薬が効果を発揮できず、そうなると自然、この得たいの知れない薬品の実験体になるのは俺の役目ということになる。
 これは…賭けだ。俺がエランドゥルを信用できるかどうかの。
 夢中の歩みに立っているときは自身の肉体が無防備に晒されるという。エランドゥルは俺が意識を取り戻すまでのあいだ、責任持って俺の肉体を保護すると提案してくれたが、もし彼に俺を裏切るつもりがあった場合、俺はわざわざ自分の心臓を差し出す破目になるわけだ。
 だが…彼の苦悩と、神に求めた救い、過去の清算にかける意思は本物だと思いたい。
 俺はヴァーミルナの不活性薬を口にし、そのまま意識を失って昏倒した。

 夢の中で、俺は過去を追体験した。
 俺はヴァーミルナの司祭カシミール…かつてのエランドゥル…となってミアズマを解放し、そして塔から脱出すべく、オークたちと戦う仲間の背をすり抜け、外界との接触を断つための呪力障壁を無効化した。
 目覚めたとき、俺は無効化された障壁の向こう側に立っていた…

 エランドゥル曰く、夢中の歩みに立っていたときの俺は肉体が消失し、呪力障壁の無力化とともにふたたび姿を現したという。このような現象は過去に例がないらしい。
 聖域深部へと向かう俺たちの前に、二人の男が立ちはだかった。夢の中で見たカシミールの盟友たち。






「よくも裏切ったな、信じていたのに…!」
 正気を失っているであろうヴァーミルナ信者たちの叫ぶ声はあまりに悲痛で、そのせいでエランドゥルの決意が揺らぐ。
「これが私の受けるべき報いなのか?かつての親友を手にかけるなど…」
 だが、選択の余地はなかった。すくなくとも、ヴァーミルナ信者…エランドゥルのかつての親友ヴェーレンとソレクは、俺たちを殺す気で術式の構築をはじめていた。
 鋭い音を立ててカタナを抜き放ち、俺は咆える。すべての余計なものを振り払うために。
「これは試練だ!過去を贖うなら…障害を打ち倒さなければならない。たとえ、親友を殺してでも!」
 俺の斬撃がヴェーレンの肉体を両断し、メイスを振りかぶったエランドゥルの一撃がソレクの頭蓋骨を粉砕する。
 二人のヴァーミルナ信者の死体が無残に転がり、その光景を目の当たりにしたエランドゥルが膝をついて許しを請うように呻いた。
「なんということだ…我が身可愛さに、仲間を捨てて逃げ、そして命まで奪うとは。私は、私はなんという罪深きことを…!」
「エランドゥル…」
「…いや、いい。わかっている。これはドーンスターの人々を救うため、そのために仕方がなかったことだ。彼ら二人の命が失われたところで、それに見合うだけの価値はあった。そうだろう?」
「なにを言ってるんだ、物事は単純な足し引きで考えたりするもんじゃない。あんたは過去を清算する、ドーンスターは救われる、そして仲間は死ぬ。これは全部、別勘定だろうが」
「アーケイド…」
「誰だって恐いさ。逃げるさ。恥ずかしいことかもしれないが、そんなもん、誰だってやるじゃないか。そうじゃないかね?だが、過去と向き合い、償うのは勇気が要る。もっとも、ほとんどの人間はそうは言わないがね。負債は返すのが当たり前だなんて、みんなは言うがね。まるで他人事だと思って、自分が何かやるわけでも、できるわけでもないのに、まるで誰もがやっている、簡単にできる、自分だってやれる、そんなふうに言うのさ」
 俺は祭壇に奉られた、ヴァーミルナの秘宝…堕落のドクロと呼ばれる杖を睨みつける。
「だが、そんなふうに言うやつはみんな詐欺師か、クソ野郎だよ。実際のところ…世の中ってのはみんな、誰かから何かを借りてるんだよ。少なくとも、あんたは自分が借りている物すら見えずに清廉潔白ぶってる伝道師よりマシに見えるよ。俺の目からはな。傷と泥にまみれてたって、誰にそれを笑う権利があるもんか」
 俺だって、目の前に立ち塞がっているのがエイドだったら、剣を振り下ろせていたかどうか…






 俺に両脇を抱えられ、どうにか立ち上がったエランドゥルはよろめきながらも祭壇に向かい、デイドラのアーティファクトを葬るための術式を行使する。
 だが、デイドラ・プリンスがそれを黙って見過ごすはずがなかった。
『エランドゥルはドクロの力を解放して我が物とし、あなたを始末する気でいます』
「この声は…ヴァーミルナか!」
 突如として脳裏に響く言葉に、俺は動揺の声をあげる。
 エランドゥルは依然として儀式に集中しており、俺の異変に気づいた様子はない。どうやら彼にはヴァーミルナの声も、そして俺の声も聞こえていないようだ。
『ヴァーミルナが汝に命ず、エランドゥルを始末せよ!』
「ククッ」






 俺はいままで、デイドラ・プリンスの命令に背いたことはない。どだい、定命の者が異界の神に叛意を示すことなどおこがましいにもほどがある。
 だが、今回は…今回だけは…!

「あんだって~っ!!?耳が遠くて聞こえねーよー!!!」
『なっ……!?』

 驚きの声をあげるヴァーミルナ、と同時に、エランドゥルの手によって堕落のドクロがオブリビオンの次元に放逐される。
 すべてが終わった…
 なお、俺はヴァーミルナの命令に背いたわけではなく、あくまで命令が聞こえず遂行が間に合わなかっただけなので、叛意があったわけではない。以上、弁解終了。護身完成。
「まあ、とりあえずは大団円を迎えたわけだが…エランドゥル、あんた、これからどうするんだい」
「聖堂に、マーラを祀る小さな祠を立てたんだ。私は余生をここで、過去を悔い許しを乞うために祈りを捧げ続けるつもりだよ。できれば君の役に立ちたいんだが、相棒はすでに間に合っているようだしな」
「相棒っていえば、ボルガクさん、待機を命じてないのに外に立ちっぱなしなんだよなー…ま、ともかく、貸しはいつか返してもらうさ」
 そう言って、俺はエランドゥルと別れた。







 寄り道もほどほどにせんといかん。






 ラビリンシアンへと向かう途中、化粧した牛を連れた農民と遭遇。
 なんでもこの牛は近くに住む巨人へ捧げる供物らしく、年に一度こうして村の好意を証明する印をつけた牛を提供することで、巨人は村を荒らしたり家畜に手を出すことがなくなるという。
 古くからある習わしらしい、なんという平和な共生関係。
 いままで巨人といえば経験値…ゲフン倒すための標的としか考えていなかった俺はいたく感心してしまった。そういえばあの連中、こちらから手を出さなければまず襲ってこないしな。
 いろいろな風習があるものだ。







 ラビリンシアンへ到着後、紙片と木彫りの仮面を握ったまま息絶えた死体を発見。
 雇いの悪漢…というと、過去に俺が鮭を盗んだだけで命をつけ狙ってきた復讐代行屋だが、こいつはそうした業務とは関係ない災難に巻き込まれたらしい。
 この仮面、俺が過去に手に入れたドラゴン・プリーストのものにそっくりだが…
 そう思って顔に嵌めてみた瞬間、明滅とともに俺は別の空間へ飛ばされていた。






「ヘェ・・・」
 狭い一室に、あつらえたような祭壇がどっかり鎮座している。ドラゴン・プリーストをかたどった彫像は、ちょうど仮面がピッタリ嵌まりそうな窪みが顔の部分に空いている。
「これは、アレかな?集めた仮面を全部嵌めると伝説のドラゴンが現れて願いを叶えてくれるとかいう。手・に・入・れ・ろ!ドラゴンマスク!世界でいっとースリルなひーみーつー」
 というか、それくらいしてくれんとワリに合わんぞ。
「さっきの手紙を見る限り…この仮面を嵌めている間だけ、この空間に居られるようだねェ…とはいえ他の仮面は全部リフテンの本拠地に置いたままだし、とりあえずは放置か」
 そう言って俺は仮面をはずし…戻れなかったらどうしよう…そんな心配は無用だった。無事、心配そうな顔をするボルガクの前に戻ることができた。
「相棒、おまえ、どこ行ってたんだ!?なんでそう不用意に魔道具を身につける!」と、ボルガク。
「いや、平気だという確証はあったけどね。ただまあ、何も言わずに被ったのは悪かったよ」
 ボルガクにしてみれば俺がいきなり蒸発したわけで、いやはや申し訳ないことをしたもんである。

 そんなことよりラビリンシアンだ。
「いやにだだっ広い遺跡だねェ…」
 他のノルド遺跡とは比べ物にならない広大さに、多少迷いながらも俺たちは目的の迷宮の前に到着する。
 そこではなにやら、亡霊たちが会話を…
 はじめはサイジックの僧兵たちが出迎えてくれたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。中に入るかどうか議論しているあたり、どうも過去の出来事を反芻しているようだが…
 俺は大学でミラベルから受け取ったネックレスを扉に嵌め込み、ラビリンシアンの封印を解いた。






 解放された扉を抜けると、目の前には大量の髑髏が転がっていた。おそらく、さっきの亡霊たちの成れの果てだろう。
 いまも目の前でなにやら話し合っているが、どうも彼らはウィンターホールドの学生たちで、こそこそした態度を見ると、他の仲間や偉い人には内緒で来ているらしい。好奇心か、功名心か、あるいは若気の至りか。
 驚いたのは、亡霊の中にかのアークメイジ、サボス・アレンの姿があったことだ。
 どうやら彼は以前にここへ来たことがあったらしい。もっとも、今回の件とは無関係だろうが…しかし他の亡霊に見覚えがないことを考えると、やはりアークメイジ以外の魔術師は遺跡のいかしたインテリアになってしまったらしい。生きた警告塔というわけだ。死んでるけど。
 それから先へ進むと、コロッセオのような広場で大勢のスケルトンに出迎えられた。のだが、どういうわけか鉄格子の仕掛けがちゃんと作動せず、中へ侵入できない。互いに見えない壁越しに睨みあうという、ワケのわからん状況になってしまった。
 あれこれ策を尽くしてスケルトン軍団と、それから竜の骨…スケルタル・ドラゴンを倒したが、どうもこの遺跡、バグっぽい挙動がクサいのでボルガクには外で待ってもらうことに。






 その後も形なき軍用犬、透明なドラウグルなど、他では見ないタイプのアンデッド・モンスターに遭遇。こやつらは自身と同じく霊体化?した武具を所持しており、大変に珍しい代物なので、普段はあまりそうしたものを拾わない(重くて嵩張るから)俺もつい回収してしまう。
 外があれだけ広いので中はどんなもんかと思っていたが、たいして迷うこともなく最深部へ到着した。なんか途中でぶつくさ文句垂れながらマジカを吸い取る壁が出てきたり、因縁のウィスプマザーが出てきたりしたが大丈夫だ問題ない。レベル103をナメてもらっちゃ困る。






「エート、これはぁ…」
 魔術師の亡霊が放つ魔法のビーヌ。何かを封印しようと(力を抑えようと)しているのか、あるいは力を送り込んでいるのか、まるで検討がつかない。
 とりあえず背後から近づいて挨拶してみたが、殴られたので敵だったらしい。こちらも殴り返して応戦、そういえばスカイリムのゴーストは銀製装備や魔法の力を使わなくてもダメージを与えることができるようだ。やはり霊まで脳筋か。
 亡霊どもをあの世へ送り返し、彼らがビーム光線を放っていた源(みなもと)へ視線を向けると…そこにはドラゴン・プリースト、モロケイが荘厳な佇まいで漂っていた。
 いかに威厳があろうとドラゴン・プリーストっていうのは遠距離からチクチクと魔法で攻撃してくるけったいな連中だということはわかりきっているので、俺はすかさずカタナを抜き、高速で接近する。






『ウルド・ナー・ケスト( Whirlwind Fury Tempest )!』
 シャウトを使って一気に距離を縮め、相手が魔力装甲を身に纏うのとほぼ動じに斬撃を繰り出す。
「仮面置いてけ、なあ、ドラゴン・プリーストだ!!ドラゴン・プリーストだろう!?なあドラゴン・プリーストだろおまえ」
 薩人マシーンばりの捨てがまり台詞を吐き、俺は渾身の力を込めて刀身を叩き込んだ!
 すると…以前はかなり、大苦戦したような気もするのだが、今回はあっさりと上位ドラゴン・プリーストを打倒することができた。
 なんとなく消化不良というか、これから殺る気満々だった俺は若干拍子抜けし、カタナを鞘に納める。
「ああ…そういえば片手剣スキルも大分(だいぶん)育ってるっけねぇ」
 もとより俺はマジック・ユーザー、近接戦闘を得手としておらぬゆえアームズマンを最大ランクまで上げただけだが、それでも鍛冶/付呪を組み合わせた強化武器と組み合わせれば恐ろしい威力を発揮する。






「まあ、ともかく…その仮面と、マグナスの杖は頂いていくよ」
 目的のブツであるマグナスの杖はモロケイが所持していた。使う余裕がなかったのか、使うほどの知能が残っていなかったのかはわからないが、こいつが俺に向けて使われなかったのは幸運と見るべきだろう。
 どうやらアークメイジたちは遺跡の探索中にモロケイと遭遇し、こいつを封印したのちアークメイジだけが脱出に成功したらしい。となると、あのビームを放っていた亡霊たちは死後もモロケイの復活を防ごうとしていた、と考えるのが自然だろうか。
 ともかく…別件ではあるが、アークメイジが過去にやり残したことを終えることができたわけだ。あとはこの杖を持ち帰り、アンカノをシメるまでだ。その後のことは、いま考えても仕方がない。
 これ以上の障害が立ちはだかることはないだろう、そう俺が早合点しそうになったとき、俺の目の前にサルモールの魔術師が姿を現した。
「ほう、生きて脱出するか。アンカノの見立ては正しかったらしい…」
「おまえ、アンカノの遣いか」
 マグナスの目を利用する気なら、アンカノがマグナスの杖の存在を無視するのはおかしいと思ってたが、なるほど、はじめから部下を使う気だったとは。だが、少しばかり遅すぎた。
 ヤツは優秀なのかもしれないが、どうも他人を甘く見る欠点があるらしい。ジャガル・サルンか。
 そういえばこのラビリンシアンは、かつてエターナル・チャンピオンがジャガル・サルンを討ち滅ぼすため、混沌の杖の欠片を求めて侵入した場所ではなかったか。
 俺は目前のアルトマーに質問する。
「一つだけ訊きたい。これはサルモールの総意か?」
「おまえに答える義務はない。アンカノはその杖が誰の手にも届かぬ安全な場所に保管されること、そしておまえの死を望んでいる。覚悟してもらうぞ、個人的な恨みはないがな」
「甘いねェ。その台詞は、いま俺が言おうとしてたところだぜッ!」

『リズ・スレン( Ice Flesh )!』
「なっ!?」
 相手が魔法を使おうとしたところを、すかさず氷結のシャウトで阻止。
 抵抗させる暇を与えず、俺はヤツの心臓にカタナの切っ先を突き立てると、そのまま地面に押し倒した。






「あのなあ…もし俺が杖を回収したところを狙うなら、たかだか魔術師一人じゃあ役不足だってことくらい悟れよな!」
 刀身を引き抜き、血飛沫がかからないよう身をかわしてから、俺はすでに絶命しているサルモールの魔術師に対して吐き捨てた。
「恨んでくれるなよ。『個人的な恨みはない』んだからな」

 さて、あとはこの杖をウィンターホールド大学へ持ち帰るだけだ…
 俺はボルガクと合流するため、ラビリンシアンの出口を目指して歩きはじめた。





【 →To Be Continue? 】








 どうも、グレアムです。そろそろ魔術大学のクエストがクライマックスです。くらいマ~ックス!オ・ト・コ!これスカイリムで吟遊詩人が歌ったらウケませんかね。ウケませんか…ドラゴンボーン無頼控。
 ヴェルミーナ…ヴァールミナ…ヴァーミルナのクエストは、個人的にエランドゥルに感情移入してしまったので珍しく反抗ルートで終わりました。あとでアーティファクト全種揃える実績の存在を知ったんですが。ちくしょうエランドゥルなんか放っておけばよかったッ!
 さすがに事態が事態なので、いまは魔術大学クエストを最優先に進めています。本当はもうちょっと寄り道したい先もあるんですが、このままだとトルフディル先生やミラベル先生、ましてアンカノがずっと頑張っている間にふらふらしているという、非常に体裁の悪いことになるので。














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