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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/10/06 (Sun)07:52
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2015/12/06 (Sun)16:37



 どうも、グレアムです。Fallout3です。
 まずは上の写真を見て頂きたい…ええ、そうです。自作キャラが揃って同じ画面に入ってますね。これは自作コンパニオンをゲーム内に反映させたものです。いままで面倒くさそうで手をつけていなかったのですが、新しくSSを開始するにあたって遂に着手しました。

 Oblivionではキャラを複製できる「CreateFullActorCopy」という大変に便利なコンソールコマンドがありまして、プレイヤーキャラを複製したあと「ShowRaceMenu」で作り直し、それをまた複製して…という手順で簡単に自作キャラをボコスカ量産することが可能でした。さらにWryeBashを使えばCreateFullActorCopyで複製したキャラから種族データをプレイヤーに移植することが可能(別のセーブデータから情報を呼び出すこともできる)であるため、SSを書くときに複数主人公で同時進行、みたいなシチュエーションを簡単に用意できたんですよね。
 ただこのコマンドには色々と問題があったのか、Fallout3以降では使用できなくなりました。そのため自作キャラを複数ゲーム内に登場させるためにはGECK等の開発キットを使用しなければならず、どうしても手間が煩雑になるためいままで避けていたんです(もっとも、やろうと思えばFO3Editだけで自作キャラを登場させることは可能です。じつは上の写真で登場しているキャラがそれに当たるんですが、説明がめんどくさいので今回はそのへんは触れません)。
 今回Fallout3のSSをリブートする際にも、複数の自作キャラが同じシーンに登場する場合には別データでそれぞれ撮影した写真を画面分割で合成してでっちあげる予定でした。
 ただSS執筆とはまったく関係ないタイミングで、なんとなくFallout3用のコンパニオンMODを色々探していたとき、たまたま自作コンパニオンに関する記事に目を通したときに「あれ、ひょっとしてコンパニオン作るのって意外と簡単なんじゃね?」と思い、とりあえず写真撮影用途と割り切って性能その他ガン無視で作業したら、いちおうそれっぽいものができてしまったという。

 そんなわけで、次回以降の話ではクレイブとカーチャが同じ画面内に写ってるとか、そういう写真を作ることができそうです。もうマスクの中身がジェリコとか、胴体だけ写っててじつは首から上がジェリコとか、そういう苦肉の策で乗り切る必要はなさそうです。やったぜ。
 というわけで、今回の更新は完全に俺得でしかない話でした。







 おまけ話。

 上で出たOblivion用のコンソールコマンドCreateFullActorCopyについてですが、実際にゲーム内で使われた例としては、Bruma防衛クエストの後に建造される救世主像がこのコマンドを使ってプレイヤーキャラを複製したものだったりします。
 たしか麻痺スペルだかAI停止コマンドを使ったうえでポーズを固定し、外観が石像っぽく見えるエフェクトをかけて「石造っぽく見える無敵の不動NPC」をでっちあげたとか、そんな仕様だったと思います。
 石像っぽい外観というのは内部的には魔法エフェクトの一種で、燃えると赤くなったり、凍ると青くなったり、というのと同系統の効果なんですね。
 で、事前に何も対策せず建造に至ると大抵全身デイドラ装備の禍々しい救世主像になってしまうのは、手持ちのアイテムの中でもっとも性能が良いものを装備するという「NPCの特性」に則ったものだったりします(NPCへの装備のスリ渡しに熟達された方なら直感的に理解できるかと思います)。CreateFullActorCopyはステータスから所持アイテムから魔法から全てをフルコピーするので、環境によっては動作が重くなったり、またNPCがMODアイテムを所持することで動作が不安定になったりするようです。
 極稀に「石像が動き出した!」という報告があるのは、何らかのきっかけで動きを停止させていた効果が切れた(あるいは動作停止用のスクリプトが正常に作動しなかった)せいだと思われます。このへんは俺は詳しい検証をしたわけではないので、詳細はわかりません。なんらかのMODが干渉している…と考えるのが自然ですが、たしかバニラ環境(というかコンシューマ版)でも動く石像の報告例があったような…











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2015/12/04 (Fri)19:46





 俺の名はクレイブ、ヴォールト脱走者だ。
 生まれ故郷のヴォールト101を出てメガトンへ流れついた俺は、日銭を稼ぐためクレーターサイド雑貨店を営む女主人モイラのもとで「ウェイストランド・サバイバルガイド」という本の執筆のアシスタントを担当することになった。
 放射能を浴びてこいだの、重症を負ってこいだのといった難題を乗り越えたあと、メガトン近郊のスーパーマーケットの調査を依頼された俺はグールとの出会いやレイダーとの戦闘を経て食料と医薬品を持ち帰ることに成功し、いままさにメガトンへと戻るところだった。
 しかしメガトン方面から断続的に響く銃声が、安堵しかけた俺に不安の種を植えつける…







 ドガッ、ドカドカドカッ!
 ゲートの見張り台に集中して叩き込まれた銃弾が、守衛のストックホルムの肩を貫く。


「ぐあっ、ち…畜生…!!」
 見張り台の上からの狙撃でレイダーの攻撃を食い止めていたストックホルムだったが、すでに何人かの侵入を許してしまっており、状況の悪化を押し留めることができない。

 その様子を遠目から見ていた俺は、岩陰からスーパーマーケットでレイダーから奪ったサコーTRG42狙撃ライフルをかまえると、脇腹の痛みをこたえながら照準に集中した。
「くそ、こっちは怪我人だぞ…ていうかこのスコープ、ゼロインやミル調整どうなってんだ」
 いまスコープの調整をする余裕はないし、ミリタリー・スナイパーだって、銃撃戦の最中に標的別にいちいち調整するわけではない。
 メガトンに侵入しようとしているレイダーは二人。二人の距離はそれほど離れていないため、片方に命中弾を叩き込めた場合、もう片方も同じ場所を狙えば同様にヒットするだろう。
 まずは初弾で着弾位置を確認し、自前で狙点を補正するしかない。
 ライフルの反動も考慮し岩に寄りかかった姿勢で身体を固定し、深呼吸をしたうえで息を止める。人差し指でトリガーを舐め、ファースト・ステージを落とした。
 レイダーの胴体の中心を狙って、ゆっくりと指を引き絞る。


 ドンッ!
 反動とともに腕がはね上がり、標的がスコープの視界から外れる直前、レイダーの頭部がはじけ飛ぶのが見えた。
 標的までの距離がそれほど離れていないためか、弾は狙点よりも高い位置に命中した。左右へのブレはない。いいぞ…思っていたよりもいい、だいぶマシな状況だ。
 ガチャリ、ボルトを操作して空薬莢を排出し、次弾を装填。ふたたび射撃姿勢にはいる。
 ドンッ!
 仲間の死を目の当たりにし、新たな狙撃主の位置を探るレイダーの腹のあたりを狙って発砲。今度は首のあたりに命中し、動脈が裂けて派手に出血する。首の皮一枚で繋がっていた頭部がぶらりと揺れ、やがてちぎれ落ちた。


「メガトンが危険だ…!」
 すでに外に出ているレイダーがいないことを確認した俺はすぐさま立ち上がり、メガトンのゲートへ向かって駆けだす。
 ゲート前はストックホルムが始末したレイダーのほかにも、水乞食の死体や、案内役のプロテクトロン「副官ウェルド」の残骸が転がっている。メガトンから聞こえる銃声はまだ続いていた。
 中がどんな様子になっているかは想像もつかない。
 俺は最悪の事態を想定しながら、メガトンへ続くスクラップ・メタルの扉を開放した。









 不幸中の幸いと言おうか、俺が到着した頃にはすでに戦闘は収束しかかっていた。
 家畜や民間人に被害が出ていたが、規模はいたって小さく、メガトンに侵入したレイダーたちは市長兼保安官のルーカス・シムズや腕の立つ流れ者たちの手によって早々に鎮圧されていた。
 俺がメガトンに入ったとき、入り口の近く…俺の目の前、ちょうど俺に背を向けるようなかたちで、アサルトライフルをかまえているレイダーの姿が目に入る。


「ふざけやがって畜生、殺してやる、全員ブッ殺してやる…!!」
 おそらくは。
 街の中心部で戦闘を繰り広げているメガトンの住民たちは、こいつの存在に気がついていない。
 メガトンはクレーターのように、街の外周が高く盛り上がった構造になっている。そのため入り口は街の中心部を見下ろせる立地になっており、高所から弾丸をばら撒けば、よほどの下手糞でもなければ甚大な被害をもたらすことができるだろう。
 もちろん、俺がレイダーの行為を黙って見過ごせば、そうなっていたかもしれないが。

 ドガッ!

 ゆっくりとライフルを地面に寝かせた俺はフォーティファイヴを抜くと、躊躇なくレイダーの背中に向けて発砲した。
 いきなり撃たれたレイダーはその場できりもみし、ばたんと仰向けに倒れる。
 銃は握ったままだったが、腕を上げる力はもうないようだった。
「て、テメェ…いったい、なにを……」
「うるせェ、黙って死ね!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ!
 なにごとかを言いかけたレイダーに、俺は連続して銃弾を浴びせかける。
 鼻と口から血を垂らし、苦しそうな声で呻いていたレイダーは電気ショックを浴びたかのようにビクン、ビクンと身体を揺らしたのち、微動だにしなくなった。
「そのへんにしておくんだな」
 フーッ、フーッ。
 荒い息をつく俺に、ルーカス・シムズが諭すような口調でそう話しかけてくる。
 顔を上げると、ルーカス・シムズのほかにも難を逃れたメガトン住民たちが一様に俺を見つめており、その表情は、いずれも腫れ物を見るような、好意的とは言い難いものだった。
 …俺が、なにかしたか?
 そう思い、俺は返り血で真っ赤に染まった自身の身体を見下ろした。
 人を殺したせいか?そのせいで、疎ましい目で見られているのか。
 そうではない。
 トドメを刺したから、あるいは、トドメの刺しかたに過剰な残虐性を見たからだろう。あるいは、つい先日まで平和ボケしたヴォールト住民だった俺の変わりように驚いていたのかもしれない。
「(…そんな目で俺を見るなよ……)」
 街を襲ったレイダーを殺した。正しいことをしたはずだ。だのに、この心苦しさはなんだ…?
 俺はいままで、ウェイストランドはルール無用の無法の地だと思っていた。もちろん、厳格な法のもと運用されていたヴォールト101の環境に比べれば無法もいいところだろう。
 だが、そうではないのだ。このウェイストランドにも、ちゃんとルールはあるのだ。
 ルールがなければ、レイダーも、メガトン住民も区別はないはずだ。しかし現にメガトン住民はレイダーとは明確に区別できるし、その境界線ははっきりとしている。
 レイダーと、そうではない者を分ける境界線。
 俺はいま、その境界線を踏み越えようとしていた。だから、メガトン住民たちは俺の危うい精神状態、倫理観を危険視しているのだ。
 行為の正当性は問題ではない。
 理由があれば殺す、そのことに疑問を持たなくなったとき…いや、「殺すための理由にすら頓着しなくなったとき」か?そのとき、人間は精神までレイダーになってしまうのだ。
 そのことに気がついた俺を、モイラがじっと見つめる。
 モイラはしばらく俺の様子を観察すると、ニコリ、笑顔を浮かべ、言った。
「いやー、逞しくなったな!青年!」
 その言葉は、この場においては相応しくなかったかもしれない。
 しかし彼女の言葉で俺は救われたような気分になった。
 それはモイラが俺を認めてくれたからではない。彼女が、俺を拒絶しなかったからだ。そのことが、無性に嬉しかった。








「あまり俺に手をかけさせるなよ、小僧。今度面倒な傷をこさえてきたら、俺が殺すぞ」
「ありがとう。感謝してますよ、ドクター」
「やかましい。礼を言うくらいなら金置いてけ、まったくどいつもこいつも…」
 いちおう街の防衛に貢献した、ということで、ルーカス・シムズに医療の無償提供を命ぜられたドクター・チャーチは普段にも増して不機嫌そうな態度で俺を睨みつけた。
「腹の弾丸は摘出したが、傷口が塞がるまで派手に動き回るなよ。傷口広げて俺のところに来てみろ、俺が貴様の腹を裂いてハラワタ引きずりだしてやるからな」
「そのときは頼みますよ。ついでに腸の中を洗ってから元に戻してもらえると助かります」
「くたばれ」
 ドクター・チャーチは口は悪いが医師としての腕は確かだし、患者を無碍に扱ったことはないと聞く。感情よりも医師としてのプロ意識のほうが勝る人物なのだろう。
 そんな彼の罵声を背中に受けながら、「このツンデレ医師」と言いたくなる気持ちをこらえて診察所を出る。

 メガトン中央広場(と俺は便宜的に呼んでいる)では、労働者がレイダーの死体を片づけたり、有用そうな装備や物資を検分しているほか、ルーカス・シムズと街の有力者たちがなにやら難しそうな顔で話し合っていた。
 とりあえずモイラのところへ顔を出してスーパーウルトラマーケットでの成果を報告しようかと思っていたが、どうにも彼らのことが気になった俺は、会話に顔を突っ込んでみる。
「どうしたんです?」
「ああ、おまえか。いや、レイダーを撃退したはいいんだが、何人かに逃げられてな。そいつらがうちの住民を連れ去っていったもんだから、どうにか救出に行けないかと話し合ってたところだ」
 ルーカス・シムズが、顎ひげに手を添えながらため息がちに語る。
「そういえばおまえ、ついさっき戻ってきたばかりだったな。そいつらを見ていないか?」
「いや、入り口で二人ばかり殺したけど、人質なんて連れてなかったよ。行き違いだったかな…それより、ここは頻繁にレイダーに襲われるのかい?」
「そんなことはない、むしろ、滅多にこんな事態にはならないんだがな。何年か前に手ひどく痛めつけてやって以来、あのクソガキどもが寄ってくることはなかったんだが」
 そんなことを話し合っていたとき、キャラバンの商人がこちらに走ってきた。
 彼らは普段は街の中にまで入ってこないのだが、レイダーの襲撃を受けたという話を聞いたからか、ルーカス・シムズに近づき何事かを耳打ちする。
 キャラバンの商人が去ったあと、ルーカス・シムズは俺を含む周りの人間を集めて話をはじめた。
「いい情報だ、どうやら連中はスプリングベールの小学校を根城にしているらしい。キャラバンの商人が、うちの住民を連れたレイダー数人が入っていくのを見たそうだ。そこで、救出部隊を募りたい。奇襲作戦だ、連中に勘づかれないよう少人数編成、決行は夜中。俺は立場上ここを動くことができんが、志願者には相応の報酬を約束しよう」
 その言葉を聞いて、真っ先に手を挙げたのは俺だった。
 正義感とか、レイダーをぶちのめしたいという感情があったのも確かだが、それ以上にスプリングベール小学校はいま俺が行動の拠点としている民家のすぐ近くだ。
 そんな場所にレイダーをのさばらせておくのは精神衛生上よくない。
 まして大義名分のもと仲間つきでゴミ掃除ができるなら、それを利用しない手はなかった。それにやり残しがないかどうか、最後までこの目で確かめておきたい。
 ちなみにメガトン住民には俺の住処は明かしていない。今後敵対しないとも限らないし、メガトンは人の出入りが激しいから、どういう経緯でどこに情報が漏れるかわかったものではない。レイダーにでも知られたら大変なことになる。
 決行は夜中ということで、俺は集合場所と時間だけ聞きだしてから、他の志願者が決まるまでのあいだクレーターサイド雑貨店で時間を潰すことにした。モイラと仕事の成果について話し合わなくては。それとやはり、あのアーマーの改造は俺には不要なので、少なくとも肩パッドだけは外してもらうことにしよう。







 2200時、ピップボーイのタイマー機能で時間を確認した俺は、武器を手にスプリングベール小学校の前へとやってきた。
 今回の奇襲作戦のメンバーは三人。俺と、元レイダーの用心棒ジェリコ、そして元リベットシティ・セキュリティのガンマン、風来坊のマルコム。まさしく隠し砦「に」三悪人、といった風情の、どっちがレイダーだかわからん面子だ。
「来たか坊主、準備はいいか?小便は済ませたか?」
「偉大なるアトム神へのお祈りもバッチリすよ、旦那。ところで、元レイダーって聞きましたけど…ここの連中、あなたの元仲間だったりするんですか?」
「うるせぇ知るかバカ。俺がレイダーだったのは昔の話だ…過去だから関係ねぇ、というんじゃねえぞ?ガキに顔馴染みはいねぇってことさ」
「なるほど」
 レイダーは新陳代謝が激しい。それに、仲間内での諍いも珍しくはない。
 年かさのレイダー、というのも有り得なくはないが、たいていはグループのお荷物になる前にドジを踏んで死ぬか、仲間に始末されるのがオチということで、そのどちらでもないという点から言えば、ジェリコはレイダーからも孤立した存在であることが想像できた。悪いことを聞いてしまった。
「ところで坊主、おまえ、そんなクラップガン(ガラクタ銃)でいいのか?」
「あ、これすか?」
 渋い顔をするジェリコに、俺は手にしていたフルオート改造済のイントラテックTEC-DC9ピストルを見せた。
 これはメガトンに侵入したレイダーの一人が持っていた銃で、ウェイストランドにおけるスタンダードなハンドガン・ブレットとして普及している10mm弾仕様のコンバージョン・キットが組み込まれている。
 動作性と命中精度において最良の選択肢と言えるような代物ではないが、閉所においてそのコンパクトなサイズとファイア・パワーは役に立ってくれるはずだ。というか、さすがにM1911の一挺吊りでは心もとない。
 そんなことを説明すると、ジェリコは面倒臭そうな顔で手を振り、肩をすくめた。
「おめぇがいいならそれでいい」
 おそらく、無法の荒野で揉まれてきたジェリコにとって、俺の頭でっかちな理屈は聞くに堪えないものだったのだろう。それに、この期に及んでつまらない言い合いをしても仕方がない。
 俺たち三人は顔を見合わせると、意を決して小学校に突入した。


 ドガッ、ドガガガガンッッ!!
 扉を開けると同時に、近くに立っていたレイダーの頭を吹き飛ばし、オヤジ二人が俺に先駆けて先行する。
「坊主、おまえはまず人質を解放しろ!その間に俺たちがクソどもをブッ飛ばす!」
「アイアイサー!」
 ジェリコの指示で俺は連れ去られたメガトン住民が捕らえられている檻をこじ開ける。


「大丈夫か、助けに来た。もう安全だ」
 突然の出来事に動転する捕虜をなだめ、拘束を解いて立ち上がらせる。
 非戦闘員を連れてドンパチはできないので、彼らには自力でメガトンへ戻ってもらうことにした。それほど距離は離れていないし、俺やジェリコたちが無事にここまで来れたことで安全は保障されていると見ていいだろう。
 そうこうしている間にも、あちこちから銃声が響き、レイダーたちの罵声や悲鳴が耳に届く。
 銃撃戦が続いているということは、ジェリコたちが健闘しているということだ。数のうえでは不利なはずだが、奇襲の効果と、根っからの実力の差によるものだろうか。
 それにジェリコとマルコムは顔見知りというほどでもない仲だと聞いたが、戦闘におけるコンビネーションは中々のものだ。
「おっと、上から目線で感心してる場合じゃないな。俺も仕事しないと」
 開放した人質が無事に小学校から出るところを見届けると、俺も足早にジェリコたちに追いつき、銃撃戦に加わった。


 ドガドガドガドガッ!!
 V.A.T.S.を起動しながら、銃撃戦が展開れている部屋に踏み込みレイダーに向けて発砲する。
「うわああぁぁぁぁああっっ!!??」
 突然の闖入者の出現にレイダーたちは驚き、背を向けてその場から逃げ出した。
 メガトン襲撃に失敗し、どうにか人質を連れて逃げ出したのも束の間、おっかないオッサン二人に追い回されたうえでのダメ押しである。そりゃあ、逃げたくもなろう。
 しかしそんなレーダーたちを、ジェリコとマルコムの放った銃弾が容赦なく撃ち抜いていく。
 あたり一面が血の池風呂と化し、鉄と火薬の匂いが充満した。
「ふう、スッとしたな」
 AKを肩に担ぎ、ジェリコが軽い口調でそう漏らす。
 どうやら、かつての自分と同じ境遇であった若者たちを殺したことに対して罪悪の念などは一切ないようだ。それでも、こんな男でもレイダーとは一線を引いた向こうの側に立っている。不思議なものだ。
 殺人に罪悪感が伴うかどうかも、絶対的な判断基準ではない、ということか。

 レイダーの残党がいないかどうか、建物の地下を探っていたとき、マルコムが妙なものを発見した。
「よう、ちょっとこっちに来てくれ、旦那がた」
 すでにレイダーの生き残りはいないと思っているのか、大声でこちらを呼ぶマルコムのほうへ向かうと、そこには床を剥がして地下道を掘ったとおぼしき穴があった。


「なんでぇ、こいつは…」
 怪訝な表情で洞穴を見つめるジェリコに、俺が説明をする。
「さっき連中のターミナルを見つけたんだけど、そいつに残された記録によると、どうやら連中、ヴォールトへ侵入するための穴を掘ってたらしいんだな。そのために労働力となる人間を誘拐してたんだそうな」
「ヴォールトへ?ハッ、ご苦労なこった…そういや坊主、おめえ、ヴォールト出身とか言ってたな。レイダーが襲ってきたと聞いたが、そいつら、この穴から来たのか?」
「いや…あの連中は正面ゲートから入ってきた。地下からじゃない。たぶん、この地下道は完成しなかったんだ…放射能で巨大化した蟻の巣に阻まれて先に進めなくなった、とターミナルに書いてあった。こいつは放置しておくとまずいかもね」
 故郷のヴォールトを襲った連中は地上から侵入してきた。
 たぶん、親父がヴォールトから脱出するとき、物陰から機会を窺っていたんだろう。親父が脱出して隔壁が閉まるまでの間に侵入してきたのだ。まったく…
 いや、いまは過去のことで感傷に浸っている場合ではない。
 いますぐ洞窟内の巨大蟻どもが地上に這い出してくるとは思えないが、それでもレイダーという「お守り」が居なくなったいま、時間が経てばメガトン周辺や、まして俺の拠点の近くまで生息域を拡大するであろうことは目に見えている。
「レイダーどもの装備と、連中がこの建物に貯め込んだお宝をメガトンまで運ぶために後日、作業員が派遣されるはずだ。そのとき爆薬を仕掛けて洞窟を埋めてしまおう」
 マルコムの言葉に頷いた俺とジェリコは、ひとまずのところこの場を離れ、小学校を出ることにした。
「すぐ近くに裏口がある。そこから出よう」







 小学校地下の裏口から出た途端、無数の銃弾が足元に降り注いだ。


「ちくしょう、上から撃ってきてやがるのか!」
 小学校の裏は床や天井が崩れ、吹き抜けのような構造になっていた。
 どうやら待ち伏せしていたらしいレイダーの残党が階上からこちらを狙撃しており、俺たちは柱や岩場の影に隠れながら応戦を試みる。
「なんで裏口から出ようなんて言ったんスか!?」と、俺。
「すまん、なんとなくだ!」と、マルコム。
「ふざけんなテメェ!」と、ジェリコ。
 そんな漫才をしながら、どうにか反撃するも敵の正確な位置がわからず、それどころか制圧射を受けて効果的な行動が取れない。
「こうなったら、いったん建物の中に引き返して…」
 そうジェリコが言いかけたとき、タン、タン、タン、いままでレイダーが発していたものとは違う耳慣れない銃声が響き、次いでレイダーの悲鳴が聞こえてくる。
 なにが起きているのか把握できず、俺たちが物影から様子を窺っていると、不意に銃声が止み、あたりがしんと静かになった。
「…なにが起きた?」
 そうジェリコがつぶやいたとき、その声に応えるかのように、女の声がした。


「そちらの殿方、猟場にむざむざ飛び込むのは感心いたしませんわ」
 月を背に、金めっきが施されたトカレフ・ピストルを手にこちらを見下ろしていたのは、俺とほぼ同じ日にメガトンへと流れ着いた女漂流者、カーチャ・ブリチェンコ。
 面識はなかったが、水道の修理や機械整備といった雑用を好んでこなす女の新入りがいるという話は聞いていた。もちろん銃が撃てるなどという話は知らなかったし、ジェリコやマルコムの驚きの表情を見る限り、おそらくは誰も知らなかったのだろう。
 もちろん女身一つでウェイストランドを旅していたというのだから、そんなことは謎でも不思議でもないはずだったが…
「女に助けられるとはな。気に喰わねぇ」
「うーん…」
 面白くなさそうにそうつぶやくジェリコに、俺は否定とも肯定とも取れぬ曖昧な返事をかえした。





< ⇒Wait for feeding next bullet... >












2015/12/02 (Wed)18:22





 どうも、グレアムです。またPCトラブルの話だよ。
 先週末の話なんですけども、PCの電源を入れたらですね、起動すらせずに停止。そこから再起動してまた起動せず停止、再起動の繰り返し。
 また週末で心が暗黒色ですよ。しかも今度は間違いなくハードウェア・トラブル。この前書いたけどハードウェア面は俺の守備範囲外なんだよ!俺は自作とかしない人種なんだから!
 まぁ嘆いても仕方ないのでまたPCケースをバラしたけどさ。

 症状を正確に書くと、電源ボタンを押して起動、ファンの回転がはじまったものの、BIOSが起動せず停止、再起動。その繰り返し。ディスプレイに信号は行ってないようだ。この再起動ループを止めるにはケース背面の電源スイッチを切るしかない。
 どうも以前電源トラブルやHDDトラブルでPCを買い換えたときとはまた症状が違うように思える。なによりBIOSが起動しない、これが非常に示唆的だ。
 電源やHDDが原因だった場合、たいてい、動作が不安定でタスク進行がまちまちであることが多い。また電源が入る場合は、少なくともBIOSは起動するはずだ。HDDトラブルの場合は異音がシグナルだったりするのだが、今回はそうした前兆もない。
 アテにならない俺の素人直感によると、こいつは電源やHDDではなくCPUかGPU依存のトラブルのように思える。ので、そっち方面で調査を進めることにした。

 まずPCケースを開き、コンデンサを確認する。
 起動トラブルの原因として可能性が高いのはコンデンサの破損だ。まずマザーボードのコンデンサを確認し、次いで前回は手をつけなかったグラボを外し中を確認する(ついでに掃除もしておく)。しかし、見た目でわかるような異常は確認できない。
 電源ボックスも外装を外して中を確認するが、これといって妙な部分は見当たらなかった(解体するにあたってネジ部分に安全シールが貼ってあったが、もとより保障期間外でメーカーに修理を出す気もないので剥がしてしまった)。
 コンデンサはどれも破損していない。それどころか、僅かに膨張してすらいない。向こう数年は問題なく戦えそうな面構えだ。まったく頼もしい。
 せっかくなので前回のトラブルで試さなかったCMOSクリアもしておく。マザーボードにセットされているボタン電池を外すのだが、これがまた固い!外すのに一苦労する、が簡単に外れるようでは困るので、こればっかりは仕方がない。それに固いといってもセガサターンほどではない(あれはマジで外させる気ねぇだろうってくらい難儀する)。ボタン電池を外しマザーボードの電源が完全に切れるまでの間、念のため幾つかのファイルをサブPCにバックアップしておく。
 毎度お世話になっているSATA/USB変換機を使ってデータをコピーするわけであるが、やはりHDDそのものは快調に動いている。こいつは原因ではなさそうだ。
 バックアップを終え、ボタン電池をふたたび入れたらPCケースを組み立てて作業は終わりだ。

 はっきり言って、今回俺がやったこと(というか、俺にできたこと)と言えばグラボの掃除とCMOSクリアだけだ。これで問題が解決したようには思えないが…とりあえず、電源を入れる。が、やはりBIOS起動前に落ちる。
 だめか…
 再起動をはじめるPCに、俺が諦めてケース背面の電源スイッチを切ろうとした、そのとき。

 …ファンが止まらねぇぞ?

 俺がスイッチを切ろうとした、その直後、こんどはファンの回転が続いていることに気づく。ディスプレイを見ると…正常に起動してるじゃないか!
 だが、俺の心は晴れなかった。なぜなら一発で起動しなかったということは根本原因は解決していないということであり、二回目の再起動で無事に立ち上がったのはたまたま、運が良かっただけというのが容易に想像できたからだ。

 しばらくPCを操作していたが、動作そのものは安定している。ためしにFOOK2+MMMにMidhrastic ENBというヘヴィ設定のFallout3をしばらくプレイしてみたが、フレームレートの低下や不具合は見られなかった。
 どうやら起動に成功しさえすれば動作は安定しているようだ。さて、これをどう見るか。
 しかしCMOSクリアは役に立ったのか、立たなかったのか…

 ……

 …… ……

 …… …… …まてよ?

 そういえば、CMOS用ボタン電池の寿命ってどれくらいだ?
 調べてみたところ、もののページによっては五年前後で劣化するという。しかし「なにをもって五年とするか」が書かれていなかったため、あるいは電池の個体差や、PCの使用状況(利用頻度)によってはそれより早く劣化するのではないか、と判断。以前書いたように、俺のPCはちょうど購入して四年を迎える。充分に射程範囲内と考えていいだろう。
 もしCMOS用ボタン電池の劣化が原因なら、BIOSが立ち上がらず再起動を繰り返していたのも、今回たまたま起動できたのも、起動後は動作が安定しているのも、すべてに説明がつくんじゃないか?
 たとえるなら、切れかけの電池が入った手のひらピカチュウ(懐かしいな!)が普段は「びがぢゅう゛…」という、地獄の亡者のような声を上げるのに、稀に「ぴかちゅう♪」という美しい声を聞かせてくれるときがあるように。
 なにが言いたいかっていうと、声が出るおもちゃは切れかけの電池を入れて遊ぶと楽しいよそうじゃなくて、劣化して電圧が不安定な電池を使っているため、今回起動に成功できたのは本当に運の産物だった、ということだ。
 そうとわかれば対応はやりやすい、新しい電池に交換すればいいのだ。

 後日、新しいボタン電池を購入しPCにセット、動作確認をする。
 果たして、結果は…一発で起動に成功!


 原因は…CMOS用ボタン電池の劣化だったか!
 もちろん、まだそうと断定できるわけではない。今後似たような不具合が出る可能性はあるし、そのときは今回たまたま起動に成功しただけで根本原因はなにも解決していないのに俺がぬか喜びしていただけということになるが、そうでないことを祈りたい。
 なんにせよパーツを交換、ってことになると、PC買い替えとまでいかずとも大層な出費になるので、俺はかなりネガティヴな精神状態だったのだが、当面は安心できそうでなによりだ。
 いちおう原因を調査していたとき、最悪のケースも考えてPCの値段を調べたりもしていたのだが、いや、高くなったね、PC。
 というか俺がいまのPCを買ったのがちょうどタイの洪水が起きた直後で、価格調整が入る前の一番安い時期だったんだよね。当然予測はできたことだけど、こう数字で見ちゃうとショックだね。
 なにより今の経済状況では新しいPCなんぞ買えません。ただでさえ本買うために食費削ってる状況なのに。

 そんなわけで最近の恒例となっているPCトラブル記事でしたが、なにが酷いって、どれも関連性がなくて原因が独立してるトラブルだっていうのがね。なぜか直接関係のないトラブルが立て続けに降りかかってきてるという。今年の年末は天中殺かなにかか。













2015/11/30 (Mon)18:29







「さてと、こんなものかしら?」


 額の汗を裾で拭い、漏水していた水道管の破損箇所を補修したカーチャは満足げにため息をつくと、バルブをレンチで「こつん」と軽く叩いてから、すっくと立ち上がって夕日を見つめた。
「うわ」
 背を伸ばしたとたんに足元がふらつき、その場に倒れかける。
 立ちくらみであった。
「いけない、軟弱になったかしら。それとも、アレのせいかなぁ…」
 そう言って、カーチャは街の中心部にどかりと鎮座する巨大な物体を横目で睨みつけた。
 核爆弾…旧世紀の遺物だ。そして、この街「メガトン」の名の由来でもある。
 メガトン。墜落した航空機の廃材で作られた街。
 おそらく、いや間違いなく墜落した航空機というのはスーパーフォートレス(大型爆撃機)だったのだろう。あの爆弾はそいつが腹の中に抱えていたもの、と考えれば辻褄が合う。
 とはいえ街の建設にあたって爆弾を中心にする思想は理解し難いものだが、たんに爆弾を解体して無力化する技術がなかったからとか、爆弾から離れた場所へ資材を運搬することができなかった、というのではなく、終末思想を持つ宗教の崇拝対象として祀られてる、というのはナンセンスなギャグ以外の何物でもなかった。
 この街の住民の全員がそうした思想に傾倒しているわけではないようだが、誰もが爆弾を無害なものとして扱っている現状について、カーチャは僅かばかり深刻に考えざるを得なかった。
 破損した水道管を修理するついでに爆弾を観察したのだが、ちょっと調べただけでも、あの爆弾はいつ活性化してもおかしくない状態だとカーチャは理解していた。
「(携帯用の小型核なら、まだ楽観視できるけど…あれだけ大きいと、仮にフィズフル不完全爆発で済んだとしても、この街を吹き飛ばすくらいの威力は充分にある)」
 たとえ核分裂反応が起きなかったとしても、起爆用の雷管と爆薬の威力だけでメガトンは灰燼に帰すだろう。そして、飛散した放射能は周囲一帯を死の大地へと変える。
 たぶん、街の住民が爆弾へネガティヴな感情を抱いてないのは、単純に知識不足からくるものだろう。
「いまはどうにもできないけど…そのうち、なにか考えておかないと」



 作業を終えたカーチャは、水処理場の前で一服している老人…メガトンの設備整備を一手に担っているウォルターのもとへ向かった。


「いいつけ通り、すべての漏水箇所の補修が完了いたしましたわ!」
「おや、思ったより早かったな。なかなか見込みがある、若いの…このトシになると、足場の悪い場所での作業が難しくていかん」
「この程度の仕事でしたら、お安い御用ですわ」
「ホホッ、頼もしいことだのう」
 相手が若い娘だからか、ウォルターは普段の気難しさがすっかり隠れた表情でキャップを一掴み、カーチャに手渡す。
 あのモリアティの紹介というから、どんな難物を押しつけられるかと思っていたが…とウォルターは内心で安堵していたが、もちろん、それをカーチャに言うほど迂闊な性格ではない。
「それで、今後についてだがな…じつはいまのところ、お嬢ちゃんに回してやれるような仕事は残っておらんのだ」
「あら、そうですの?」
「強いて言えば、補修の材料に使えそうな廃材を外から集めて欲しいんじゃが…さすがに、スカベンジャーの真似事はしたくないじゃろ?」
「外…外界、ですか…」
「まあ、人には向き、不向きがあるからの。いや、ああいった仕事を喜んでやるような連中もおるでな、ゴミ集めに妙な執念を燃やすような変わりモンがの。それに、キャラバンから買うより安く上がるというだけで、どうしても必要というわけではないからな」
 外が危険だから、というよりは、たんに地味で面白くない仕事に興味を持てない(カーチャは街の様子を観察しながら水道管を修理するより、何もない荒野で腰を曲げながらゴミを集めるほうが余程に絶え難い苦痛と考えていた)だけだったのだが、ウォルターはそのあたりをちゃんと察したらしい。
「そうじゃな、この街でちょいと変わった仕事が欲しければ、クレーターサイド雑貨店のモイラが人手を募っておったかな」
「雑貨店ですか?」
「ああ、なんでも本の執筆のために足を動かしてくれる人材を必要としておると聞いたが、ただ、な…」
「どうしたんですの?」
「その、モイラという娘はちと風変わりでな。ひょっとすると、難題を押しつけられて苦労するかもしれんが」
 なにやら眉をひそめて口を濁すウォルターに、まだモイラのことを知らないカーチャはただ首をかしげるしかできなかった。








「あ、アトムのちからを感じるっ!!」

 俺の名はクレイブ、ヴォールト脱走者だ。
 故郷を追われメガトンにたどり着いた俺は日銭を稼ぐため、モリアティという男の紹介でクレーターサイド雑貨店の女店主モイラのもとで働いていた。
 雑貨店の手伝いといっても、べつに売り子をやるわけじゃない。どうやらモイラはこの不毛の地ウェイストランドを生き抜くために必要な知識を集めたサバイバル教本を執筆したいらしく、文献から得た知識の裏づけや実地調査をするため俺のような風来坊を雇ったというわけだ。
 そして、俺が最初に任された仕事は…「致死量ギリギリの放射能を浴びてこい」というものだった……




「死ぬかと思った…」
「じっとして、いま放射能治療薬を注射してあげるからね」
 爆弾から放射能が漏出している水場に浸かってから、どれだけの時間が経っただろうか。
 こらえようのない吐き気に苛まれながら、俺は命からがらモイラの雑貨店へと戻ることができた。普通は死んでるような気もするが、すでに判断能力を失っていた俺はただモイラの施す治療を黙って受けるしかできなかった。
 なんか良性の遺伝子変異を確認したとかで、濃度の高い放射能を浴びると傷が治るようになったとかなんとか言ってた気もするが、たぶん与太だと思うので忘れることにしよう。
 こころなしか、最初は俺のことを厳しい目で見てたガードマンも哀れみの目で俺を見つめている気がする。たぶん気のせいだろう。
「なぁ、俺の身体光ってないか?アトムの輝きに満ちてないか?」
「大丈夫よ、あなたにはまだアトムの救済は訪れてないみたいね。それで、次の仕事なんだけど…」
「なんだ」
「ちょっと、重症を負ってきてもらえる?」
「…… …… ……」



「さーくりーふぁーいすとぅーばーいす、おーるだいばざはんどぶ♪」
 がくりとうつむきながら店を出た俺は、陰気に明るい声で歌をうたいはじめる。
「かーさーんがーゆー、こーゆーパーマはへんだと♪」
 ぽつり、ぽつりと歩き続け、街を見下ろせる足場で手すりを掴み…


「死のう!!」
 おもむろに、飛び降りた!


 メシャアッ。
 わざと受身も取らず、無様な姿を晒し地面にのびる。
「がっ…か、かはぁっ……」
 たぶん骨が何本か折れた。おそらく内臓と動脈も損傷してる。ていうか、首が変な角度で曲がったまま動かない。そして口と鼻から血がダボダボ出てる。
 …おとーさん。
 息子はいま、とっても元気です。







「モイラさん、話がある」
「なぁに?」
 数日後。
 奇跡的に傷が完治した俺は(モイラの腕がいいのか、俺が例外的にタフだったのかはわからないが)、他人にあれだけ酷い難題というかイヤガラセに近い仕事を押しつけておきながら、まったく目に曇りのない(恐ろしい女だ!)モイラに話を切り出した。
「いつまで、こんなこと続けなけりゃいけないんだ?」
「いつまでって、そりゃあ…あっ」
 なにごとかを言いかけ、モイラはハッとしたような表情で口をつぐむ。
 いつになく真剣な眼差しを向ける俺を見つめ、不意に悲しそうな表情を見せると、モイラはうつむき加減に言葉を続けた。
「やっぱり、あなたもそうなのね…?」
「そうって、なにが」
「こんなくだらない本のために命を賭けるなんて馬鹿げてるって思ってるんでしょう?無理もないわ…あなたに無茶な仕事をさせてしまったのは、本当に申し訳なく思ってるの。これ以上の無理強いはしないから、もしイヤだったら…」
「いや、そうじゃない。サバイバルガイドの有用性については、俺は疑ってない。それにあなたは約束はちゃんと守ってくれる人だ。放射能にやられたときも、高いところから落ちて死にかけたときも、あなたはちゃんと俺を治療してくれた。副作用やら何やら、そんなのは瑣末な問題だ。報酬もきちんと払ってくれる。ただ、俺がいいたいのは…」
 俺の言葉が予想外のものだったのか、驚いたような表情を見せるモイラ。
 すこしの間無言になり、本当にこれを言ったものか悩んでから、俺は「バン!」とカウンターを両手で叩くと、声を張り上げた。


「頼むから、自傷以外の仕事をくれよぉっ!!」
 泣きそうな顔で叫ぶ俺に、モイラはきょとんとした表情を見せる。
 仕事そのものがイヤなわけではない、俺の言葉はそう取れるものだった。そこからモイラが出せる結論は一つ。
「エート…プライドの問題?」
「うん」







 もう少しでいいからマシなのを、と哀願する俺が次に任された仕事は、メガトンから少し離れた場所…ポトマック河沿いに位置するスーパーマーケットの調査だった。
「スーパーマーケットって…いかにも物資が残っていそうな場所だけど、危なくないか?とっくに誰かが物資を持ち去ってたりとか、最悪、ギャングの溜まり場になってたりとか…」
「それを調べてほしいのよ」
「マジすか」




「あれか…」
 そしていま、俺の眼下に目的地…スーパーウルトラマーケットが見えていた。
「しかし、コレ…重いなぁ…」
 ヴォールトを出たときからずっと着用している服に括りつけられたハーネスやポーチ、継ぎ当てされた装甲。
 これは外界の危険を鑑みて、モイラが改造してくれたものだ。たしかに、防御性能皆無なジャンプスーツよりは信頼感がある。
 しかし、重い。そして、動きづらい。
 どうしても我慢できないほどではなかったが、それでも、なぜ戦前の軍隊が装備の軽量化に腐心していたのかを実感として理解できる程度には不快だった。
 まぁいい、ここで嘆いても仕方がない。
「行くか…」
 そうつぶやいて一歩足を踏み出した途端、スーパーマーケットのほうから銃声が聞こえてきた。
「うわ、行きたくねぇ」
 帰ろうかな。
 前へ踏み出した足をすぐさま180度ターンさせかけたが、なんとか踏みとどまり、痛みはじめた胃をおさえながら深呼吸を繰り返す。
 逃げるのは簡単だ。
 しかし同時に、「外でのちょっとした調査もできない人間」が街でどういう扱いを受けるか、その末路が決して明るいものではないことを予想するのもまた、簡単なことだった。
「…しゃーねぇ。行くっきゃねえ」
 幸い、先の仕事で痛みには慣れてきたところだ。
 それでもたっぷり二、三分は迷ってから、俺は意を決してスーパーマーケットへ向かう道を降りていった。




 それは、ヴォールトを出たばかりの俺にはあまりに奇異な光景に映った。
「…不良がゾンビと戦ってる?」
 柱の影から様子を窺っていた俺は、スーパーマーケット前での奇妙な銃撃戦を注意深く観察する。
 ゾンビたちは、ある者は助けを乞い、またある者は武器を手に果敢に戦い、それに対するは全身にタトゥーを施し世紀末ファッションに身を包むモヒカンどもだった。
 あのモヒカン…俺はヴォールトでの混乱の一部始終を思い出す。
 たしか、レイダーとか呼ばれる無法者の連中だ。
 盗み、殺し、生きるためならばどんな悪事にも手を染め、それどころか悪事を働くために生きる、現代の悪鬼。
「え、なに、これ、俺どっちを助けるべき?」
 状況を見れば…外見さえ気にしなければ、ゾンビたちは無法者に襲われる無辜の民…に見えなくも…いや、やっぱり、ちょっと無理があるな。
 両方殺す?
「でも俺、銃撃戦なんて経験ないしな…ええい、なるようになれ、だ!」
 俺はピップボーイを操作してV.A.T.S.を起動し、柱の影から腕を突き出して.45口径(フォーティ・ファイヴ)の銃口をモヒカン男に向け、連続して発砲する。
 ダンッ、ダンッ!
 スローモーションの世界で閃光とともに薬莢がはじき飛び、寸胴の低速重量弾頭が回転しながらモヒカン男の頭に飛び込んでいく一部始終を見届ける。
 ドン、ドカッ!
 左眼と頬骨を突き破った二発の銃弾はモヒカン男の頭部でひしゃげ、脳組織をグシャグシャに掻き回しながら、後頭部を引き裂いて飛び出した。
 血飛沫とともに変形した弾頭がふっとび、モヒカン男がどうと音を立てて倒れる。
 突然の加勢に驚いたゾンビたちは困惑しながら、警戒した様子で俺に銃口を向けてきた。
「アイムフレンドリィー!アイムフレンドリィー!」
 波風を立てないよう、俺はオーバーリアクションで両手を上げ、拳銃を握った手をヒラヒラと振ってみせる。
 あぶないタイミングではあった。もし、ゾンビたちの指がトリガーにかかっていたら…俺は撃つつもりだった。たしかに人間の意志が宿った彼らの目を見つめながら、俺は若干引きつった愛想笑いを浮かべる。
「エート、キミたちは、その…なんだ、こういう陳腐な言葉しか出てこないけど…悪気はないんだ、侮辱する気はないんだよ、本当に!でも、あーっと…ゾンビ、なのかい?」
「…まさか、グールを知らずに助けたのかい?」
 まるで奇跡でも目の当たりにしたような表情で、彼らの仲間の一人の女性がつぶやいた。


「世の中には、それこそあたしらをゾンビ呼ばわりして射的の的にする連中だって珍しくないんだ。だっていうのに、あたしらをゾンビとしか認識してない人間が加勢するなんて、どういう神の御業だね、これは?」
「えーと、ゾンビ…ではない?グールといったね?」
「ああ。放射能で醜く朽ちた肉袋のなれの果てさ…アンタ、本当に、なんであたしらを助けようなんて思ったんだい?」
「外見さえ気にしなければ悪人には見えなかったから。あと、俺一人で全員相手にするとか無理ゲーだから数が多いほうにゴマすっとこうかなと」
「馬鹿をお言いでないよ、まったく本当に…ちかごろのスムーズスキンは妙なやつが多いねぇ」
「スムー…ス、クリミナル?」
「パウ!そうじゃない。スムーズスキン(つるつる肌)、あんたみたいな生っちろい人間のことさ」
「いやー、俺、穴倉から出てきたばっかりだからさ。ウェイストランドのスラングには疎くて」
「それでそんな、背中にばかみたいな数字が書かれた服を着てんのかい?呆れたね…」
 グール、放射能によって突然変異した人間。
 崩れかけの肉体、腐臭、外観はまさしくホラー映画に登場するゾンビそのものだ。おまけに加齢による寿命がないという、頭が弱点なのは「人間とおなじ」だそうだが…
 見た目はともかく、中身は普通の人間と大差ないらしい、と聞き、そういえばメガトンの酒場の店員もグールだったな…などと、いまさらながら思い出す。
 なにせロクに口をきかなかったし、あのときは最初の殺人のショックでそれどころではなかった。
 どうやらこのグールの集団は「アンダーワールド」と呼ばれるグールの集落を目指して旅をしているらしい。場所については「恩人でもスムーズスキンには教えられない」と拒否されてしまった。まあ、べつに興味もなかったし、いいのだが。
 去り際に、女グールが最後のアドバイスを俺に授ける。
「あんたね、お人好しなのも結構だけど、フェラルには気をつけなよ。世の中にはね、撃っちゃいけないグールと、撃たなきゃいけないグールがいるんだからね」
「フェラル?」
「脳の髄まで腐っちまった、グールのさらに成れの果てさ。あれこそが本物のゾンビと呼ぶべきものさ、知性も理性もなんにもありゃあしない。いいかい、撃つ相手は慎重に選ぶんだよ。そんで、自分の身が危ないと思ったら、躊躇なく引き金をひきな」
「…やっぱり、あんたたち、助けてよかったよ」
「馬鹿だねぇ…」
 グールの女は照れ臭そうにそう言い捨てると、すでに出発していた仲間たちのあとに早足で追いつこうと行ってしまった。
 奇妙な出会いだ。だが、悪くない出会いだった。
「ま、問題は、俺の仕事はこれからってことなんだけどな…」
 俺は気乗りしない気分で天井を見上げ、「スーパーウルトラマーケット」の看板と、鎖で吊られた奇妙なオブジェクト…四肢をもがれた死体を見つめると、「ハァ」とため息をついた。








「外に出てるのが全員じゃないとは思ってたけど…やっぱりいるよなぁ~…」
 グール狩りに出ていた連中はまだ戻ってこないのか、とかなんとか言ってる、どう見てもレイダーにしか見えない連中を物陰から見つめ、俺は嘆息した。
 スーパーウルトラマーケットに侵入してから、まだそれほど時間は経っていない。
「モイラから依頼されたのはマーケット内部の様子と周囲の治安状況の確認、そして存在するなら、食料品と医薬品の確保…だったな。骨が折れそうだな…ていうか、ぶっちゃけ無理じゃね?」
 なんたってこちとらは、平和イズピースだったヴォールトから叩き出されて間もない世間知らずのお坊ちゃま君だぶぁい。
 核戦争後の厳しい環境に鍛えられ、弱肉強食の世界で今日まで生きてきた屈強な悪漢どもと戦って勝てる自信はあまりなかった。多少はあったが。V.A.T.S.あるし。でも無茶は禁物なのだぜー。痛いのヤダし。
『まさかグール相手にやられちまったんじゃねーだろうな?』
『え、マジ?バカじゃん』
『ゲハハハハハ』
 外に出ていた(そして今は死体になっている)仲間の話題でバカ笑いするレイダーたち。どうやら、仲間意識はあまりないようだ。あるいは仲間という概念が俺の思うところと少し違っているのかもしれない。
 なるべく、人殺しはしたくない…が、この期に及んで「それがレイダーであっても」などと言う気はなかった。
 レイダーっていうのは、俺が解釈するところ、和製ホラーに出てくる白塗りの殺人鬼みたいなものだ。そんな連中に遠慮や容赦をしていて、どうやってこの先ウェイストランドで生きていけるというのか。
 まぁ、下手をやらかせば今日ここで死ぬことになるだろうが…
「(…っとー、待てよ?別に今回の仕事に、レイダー退治は勘定に入っとらんよな?)」
 チャリーン。
 俺の頭の中の計算機が働き、勘定をはじき出す。
 よし、決めた。レイダーは無視する。んで、物資の在り処を探したらとっととズラかる。うん、そうしよう。俺かしこい。
 戦前のスーパーマーケットの構造は、ヴォールトのレクリエーション用フィルムでだいたい把握している。
 俺は足音を立てないよう静かに移動しながら、まず食品倉庫へと侵入した。
「意外に残ってるもんだなー。けっこう物持ちがいいんだな、あの連中」
 半永久的に稼動する核分裂バッテリーの恩恵で快調に動き続ける冷蔵庫から、俺は手当たり次第に戦前の食品パッケージを掴んでウェストポーチに突っ込んでいく。
「こんなことなら容量の大きいバックパックを持ってくるんだった…また来るのもイヤだしなぁ」
 そんなことを言いながら周囲を見回し、俺は独り言をブツブツとつぶやいた。
「護身用のレーザーピストルはあったが…どうやら医薬品が保管されてるのは別の場所らしいな。めんどくさいが、仕方ない。もうちょっと働くか」
 バッテリーと電子制御で動くレーザーピストルは破損していない完動品だったが、俺はこのテの光線銃はどうも好かない。まぁ、持ち帰ればモイラが買い取ってくれるだろう。
 レーザーピストルを雑に尻ポケットへ突っ込み、フォーティ・ファイヴを持ち直してから俺は倉庫を出た。
 おそらく、医薬品が保管されているのは反対側の控え室のほうだろう。
 冷蔵庫は稼動していたが店の電源システムは死んでいるらしく、照明器具が点灯する様子はない。好都合だ。
 闇から闇へ紛れ、着実に控え室へと近づいていた、そのとき…
 ガコッ。
「…… …… …ッ!!」
『おい、なんだいまの音は』
 やばい!
 最初はその音が、どこから、どうして鳴ったか俺も把握していなかった。
 なぜって、それは、普段の俺なら立てなかったはずの音だったからだ。
 改造スーツの…肩パッドが、棚にぶつかった音だった!
『さっきから、なんか妙な気配がするんだよな。ちょっと見に行くか』
「(くそっ、クソクソクソ、ちくしょう!)」
 着実にこちらへ近づいてくるレイダーの足音を聞きながら、俺の心の中は悪態で満たされていた。
 なんッだよコレ、全然役に立ってねーうえに動きにくくて邪魔なくせ、こんな落とし穴まであんのか!
 いままで肩パッドを装着して歩く習慣のなかった俺は、身の振りに、肩パッドの判定を考慮して壁に当てないよう歩くという概念がなかった。それゆえのミスだった。
 隠れてやり過ごせるか?いや、無理だ!
「(ちくしょう!)」
 憤慨するあまり頭が沸騰しそうになりながら、俺はスッと立ち上がると、狭い廊下を駆けて扉の前に立った。
 扉の向こうから、こちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。


 バンッ、ドカッ!ドカドカッ!
 俺は扉を蹴破ると同時にV.A.T.S.を作動させ、目の前でいままさに扉の取っ手に手をかけようとしていたモヒカン男の肩、次いで頭を撃ち抜く。
「新鮮な肉だァ!!」
 もう一人、脇に控えていたレイダーが中国の軍用ピストル山西十七式をかまえてニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
 冷酷な殺人鬼の笑み…そんな単語が俺の脳裏に浮かぶ。
 だけど、いや、だが、こんな連中に気合負けしてたまるか。こんな連中にぶっ殺されてたまるか!そんなもん、納得できるか!バカ!
「穴倉育ちナメんなクソがアァァァあああああっっ!!」
 恐怖を紛らわすため、わけのわからない叫び声を上げながら、俺は扉にもたれかかりながら銃口の向きを変え、レイダーの両乳首と喉を繋ぐ三角形の中心…スナイパー・トライアングルを照準線上に捉え、引き金をひいた。
 パンッ!
 ドカン、ドカンッ!
 初弾は相手のほうがわずかに早かった。だがすぐに、俺のダブルタップがレイダーのクリティカルな部位を射抜き、レイダーはおびただしい量の血を吐いて倒れた。
「ハァーッ…ハァーッ…ハァ、フゥーーーッッ……」
 荒い息をつき、額をつたう汗が流れるに任せるまま、俺は二つの死体を見下ろす。
 全身から汗が噴き出し、頭がガンガンする。俺は、人を…殺したんだ。
 だが、今回は罪悪感は欠片もなかった。死体を目の当たりにした生理的なショックはあったが、自分の行為に非があるというような気分にはならなかった。むしろ、達成感のほうが強かった。
「はぁっ…ははっ、やってやったぞ、ザマミロ。ちくしょうったれめ」
 そこまで言ったとき、俺は不意に脇腹に痛みをおぼえた。
 あ、なんだ、ちくしょう、俺、撃たれてるわ。
 さっきまではアドレナリンのせいで感覚がなかったが、徐々に痛みが強くなってきた。脂汗は緊張のせいだけではなかったってわけだ。
「そうだ、医薬品…」
 最初に殺したレイダーが握っていたライフルを反射的に手に取り、俺は医薬品が保管されているはずの控え室へと向かう。
 だが、控え室へと続く扉は鍵がかかっていた。
「クソッ!」
 ドガンッ、俺は力任せに扉を蹴り上げるが、当然、俺の足が痛くなる以外の効果はない。
「ピッキングなんてまどろっこしい真似してられるか、畜生…!」
 たったいま殺した連中のほかにも、まだレイダーが潜んでいる可能性があるのだ。そいつらが、さっきの銃声を聞きつけてここにやってくるとも限らないのだ。
 スピード、スピードだ…!
 周囲を見回し、弾薬箱や手榴弾、地雷、セキュリティ管理用のターミナルを発見する。
 俺は手榴弾を手に取ると、ピンを抜き、レバーが外れるのを確認してから、それを扉とドア枠の間に足で踏んで押し込み、物陰に隠れた。
 ドガンッ!!
 派手な爆発音とともに、扉が鈍い音を立てて開く。
 すぐさま部屋の中に侵入し、俺は壁にかけられた医療品箱を強引に開けると、中身をロクに確認せずポーチに放り込み、止血用の包帯とスティムパックを取り出してから、俺は大きく息を吐き出した。


 包帯を巻き、スティムパックを腹に突き刺す。たしかこの注射は麻酔、抗菌剤、増血剤、栄養強化剤がいっしょくたにぶち込まれたクソみたいな薬品だったはずだ。ヴォールトにも備蓄されていた。普段使いには向かないと、親父が言ってたっけな。
「よし、これですぐには死なないな…」
 応急処置を終えて精神的に余裕ができた俺は、さっきぶん捕ったライフルを検分する。
「サコーTRG22か。.308口径、弾は弾倉に装填されてるぶんだけか…ま、いいだろ。しかし、このテーブルの上に置いてあんのは…携帯型核弾頭か?なんでこんなものが…いや、レイダーの戦利品かな」
 そこまで言って、俺は明かりがついている保存用ポッドに気がついた。
 中に収容されているのは…ロボット?プロテクトロンとかいう、ロブコ製だったか?戦前の多機能モデルだ、人型…と言っていいのか…とにかく、電源は生きている。然るべき手順を踏めば、おそらくまだ稼動するだろう。
 だが、こいつをどうこうしている時間はない。いまこうしてモタモタしている間にだって…

『ヘーイ、パパのお帰りだぜ!キスで迎えてくれよな、ガッハハハハハ!』

 マーケットの入り口から、大声でわめく声が聞こえる。
 ちくしょう、施設内に残ってた連中だけじゃなくて、グールを撃ってた連中とは別に外出してたグループがいたのかよ!
「(どうする、どうする!?)」
 腹に傷を抱えたまま複数人を相手に戦うのは無理だ、さすがにやばい。いや、待て…
 俺はふたたび開きっぱなしの医療品箱を覗き、さっきは取らなかった手術用のチューブを取ると、携帯型核弾頭を掴み、そいつに手榴弾をくっつけてチューブでグルグル巻きにして固定した。
「キックオフの時間だ」
 控え室を出た俺は、ドカドカとやかましい足音を聞きつけられるのも構わず、入り口に向かって一目散に駆けていく。
『おいおい、ヴォールト坊や(ボーイ)のお出ましだぜ!』
『首ィ捻じ切ってオモチャにしてやる!等身大ボブルヘッドにしてやらぁ!』
 俺の存在に気づいたレイダーどもが、次々に銃弾を放ってくる。しかし所詮は暗闇の中、メクラ撃ちだ。ビビッたら負けだ!
 荒い息をつきながら、俺は携帯型核弾頭に括りつけた手榴弾のピンを抜き、レイダーどもに向かってブン投げた。
『逃げるんじゃーねぇ、このダサ坊!ぶっ殺してやる!』
「うるっせェ、死ぬのはテメェだ!」


 ズドーーーンッッ!!
 核爆発とともにレイダーどもが吹っ飛び、血と肉片が周囲に降り注ぐ。
『ぐはっ…!』
「言ったろ、死ぬのはテメェらだ。あと、その格好、死ぬほどダセェぞ!」
 悪態もそこそこに、実際余裕なんかカケラも残ってない俺は敵の生き残りを恐れてさっさと入り口から外へ飛び出し、後ろも振り返らずに全力疾走しながら、スーパーマーケットを離れた。







「ハァ~~~ッ、シチーボーイには刺激が強すぎるぜ、なんこの」
 ここまで逃げれば安全だろう、というところまで走ったところで、俺は膝をつき、数分間、ずっと荒い息を吐き出し続けた。ついでに、嘔吐も。ひょっとしたら脱糞もしたかわからんが、仕方ないだろう、そんなの。
「ウェイストランド人っていつもこんなストレンジでハードコアな日常送ってんのか?有り得ねぇだろ、ヴォールトの常識的に考えて」
 しかしだ…朦朧とした頭で考える。
 俺は、自分がこんな荒っぽくて残虐な性格だとは思ってなかった。
 極限状況下での緊張状態だからこそ成せた業か?それとも、抑圧された環境からの解放で心の内にあった残酷さが発露したとでもいうのだろうか?




「ま、いまはそんなこと、どうでもいいや。それより、早く治療してもらわないとな…」
 痛む脇腹を抱え、俺はようやくメガトンが見えてきたところで安堵のため息をつく。
 スティムパックはあくまで応急処置にすぎない。傷を治すためのものではない、だからこそ、できるだけ早く治療を受ける必要がある。
 だが、そのとき…

 パァーーー…………ン……

 乾いた銃声が残響をともなって空に響き、俺の心を動揺させる。
「…いまの銃声…メガトンのほうから聞こえなかったか…」

 トラブルは、人間の都合なんか考えない。





< ⇒Wait for feeding next bullet... >













2015/11/27 (Fri)23:53


 いまさらになって、ヴォールトでの思い出がかけがえのなかったもののように思えてくる。
 そう、あれは10歳の誕生日だったか…俺が、監督官からピップボーイをもらった日のことだ。パルマーおばさんが焼いてくれたスイートロールの味を、いまでも思い出すことができる。
 アマタがくれた、残念ながら外れ回だった英雄グロッグナックのペーパーバック。悪ガキどもの思わせぶりな内緒話。粉砕されたバースデイケーキ。妙なポエム。
 そうそう、親父とジョナスがプレゼントしてくれたBBガンのことも忘れちゃいけない。あのときは、ちゃちなのでいいから実弾を使う銃が欲しいと言って、親父を大層ガッカリさせたっけな。もっとも、その気持ちは今でも変わってないが…
 そして忠犬K-9。本物の犬は、少なくとも機械仕込みでない生来の犬は人語を喋ったりなんかしないってことを知ったのは、かなり後のことだった。



 16歳のときに受けたG.O.A.T.試験のことも記憶に残っている。
 たしか、あの日は会場の前で悪ガキども、トンネル・スネークとかいったっけな、ブッチとその仲間たちがアマタにしつこくつきまとってたな。
 俺がじっと見てると、ブッチの野郎、なんかつっかかってきたっけ。
「おい白子野郎、なにジロジロ見てやがる?」
「いや、べつに。それよりアマタ、ダイエットは成功したのかい?」
「なっ…!」
「オイオイ、こいつ体重を気にしてんのか?え、ブーちゃん?」
「そんなことない!」
「気をつけろ、油断してるとアマタに食われちまうぞォ!」
「アマタの顎は中国の電話帳より分厚いんだぜ!しかも、怪我したら血のかわりに肉汁が噴き出すんだ!」
 言いすぎだろ。
 同年代の類稀な言語センスに感心しながら、俺は俺で自分のイタズラが成功するかどうか胸を躍らせながら会場に入ったんだっけな。


「これよりG.O.A.T.試験を開始…なんだこのスライドは!?」
 手元のテキストを読み上げようとしたとき、スクリーンに映し出されたレクリエーション用フィルムのタイトルバックを目にしたときのブロッチ先生の表情は傑作だったな!
「くそ、全部わけのわからない写真に差し替えられている!誰ですかこんなイタズラをしたのは!こんな意味不明なものをマメに仕込むのは…クレイブ、貴方ですね!?」
「し、知りませんよぉ…(ププッ)」
「ええい、こうなったら映像なしで文章の読み上げだけで試験を続けるしか…さて第一問、西部署所属の刑事部長の名前を答えなさい。小門圭介、中門圭介、大門圭介、肛門圭介、菊門圭介…ってコラーッ!文章まで差し替えられてるじゃないか!!」
 ヴォールトの悪童といえばブッチたちトンネル・スネークが悪目立ちしてたが、俺は俺でけっこうヤンチャをしたもんだ。
 といっても俺は誰かを傷つけるのがイヤだったから、人畜無害なイタズラばかりしてたけどな。椅子の向きを意味もなく変えたり、他人の教科書の表紙と中身を入れ替えたり、HBのシャーペンに2Bの芯を入れておいたり、いま考えると自分でも意味わからんぞこれ。




「ま…そんなこともあったよな……」
 パチリ、親父の残した.45口径に弾倉を押し込みながら、俺はなんだかんだでエンジョイしていた穴蔵生活を懐かしみつつ、深く重いため息をついた。



 俺の名はクレイブ、ヴォールト脱走者だ。別に逃げたくはなかったが、成り行きでそうなってしまったからしょーがない。
 俺が生まれ育ったヴォールト101は独立した核シェルターで、200年前の核戦争以後、誰一人地上に出ることなく施設内で営々と存続を続けていたコミュニティだった(もっとも「誰一人出入りせず」というのは間違ってたんだが、このときの俺には知る由もない)。
 親父はヴォールトで医者として働いており、お袋は俺を生んだ直後に死んじまったらしい。顔なんか覚えてないし、どんな名前だったかすら記憶にない。母を知らず、母という存在になんの感慨もない俺にとって、親父こそが唯一の指標であり、尊敬できる存在だった。
 だが、親父はヴォールトを出ていってしまった。つい先日。
 たぶん、なにか特別な理由があるんだろう。それを追求するつもりはない。
 しかし親父の脱走がヴォールトにもたらした混乱は深刻で、放射能で巨大化したゴキブリ「ラッドローチ」をはじめとするクリッターの侵入、さらに隔壁の外で機会を窺っていたらしい無法者集団「レイダー」の攻撃でヴォールトは大打撃を受けた。
 そして混乱の元凶である親父、そして、その肉親である俺をヴォールトの住民は許さず、昨日まで優しい隣人だった誰彼、頼れる先輩だったガードマンがいっせいに俺に襲いかかってきた。
 俺は親父の机に残されていたM1911、.45口径ピストルを掴み、どうにか同胞を傷つけることなくヴォールトを脱出し、近郊の荒廃した無人都市スプリングベールへと逃げ延びたのだった。
 無人都市、いや…厳密に言えば、無人ではなかった。
 いきなり外界に放り出された俺はしばらく水と食料を口にしておらず、たまたま立ち寄った民家で出会った女、シルバーとかいう…娼婦だかヤク中だか知らんが、もうそんなことはどうでもいいが…誤解からくるイザコザがもとで、俺はそいつを撃ち殺しちまった。
 はじめての殺人。
 れっきとした正当防衛ではあったが、それでも、誰一人殺すまいとヴォールトを出たあとのアクシデントは、俺の心の中に癒えない爪痕を残した…








「で、朝イチでやることが死体の処理かね。やるせねぇ、やるせねぇな」
 なるべく首の断面を見ないようにしながら、俺はシルバーの死体を引きずり、近くのゴミ収集箱にそいつを放り込む。
 まだ死んで日の浅い死体には色々と利用価値がある、レイダーだったらそう考えるだろう。
 だが、俺はそこまで堕ちたくはない。いまは、まだ。
 とりあえずシルバーの家を拠点にしばらく活動することを決めた俺は、周囲を警戒しながら、ここからそう遠くない街メガトンへと向かった。




『ご機嫌麗しゅう、ヤング・マスター!』
「おまえ…K-9か!?」
 メガトン前を通りがかったキャラバンに近づいたとき、俺を驚かせたのは喋る犬…ヴォールトにいたとき、親父と俺が飼っていた忠犬K-9だった。
「どうして、どうやってここに?」
『ひどい混乱の中を、モールラットの掘った穴を通じてここまで辿り着きました、ヤング・マスター。ところで、お父上はいずこへ?ご一緒ではないのですか?』
「いや、それがな…」
 とりあえず、俺は(キャラバンの奇異な視線を受けながらも)自分が知り得る限りの情報をK-9に伝えた。
「まーそんなワケで、俺はいまやヴォールトを追われた孤独なさすらいびとってわけよ」
『なんということ。父上を探しに参りましょう、いますぐ!なんとなれば、この私めがメガトンで情報を収集…』
「よせよせ、やめなさいって。喋る機械仕掛けの犬なんてそんな、解体されちまうよ?メガトンにはおっかない連中がいるんだから」
『なんと』
「それに、俺は親父の行方には興味がねーのよ。親父が自分の意思でヴォールトを出て行ったんなら、それなりの理由があるんだろうし、俺に何も知らせず、俺を置いて出て行ったんなら、それにも大層な理由があったんだろうさ。俺に追ってほしい、ってんなら話は別だけども、親父の性格を考えりゃあな、そうではねえってのはわかるだろ?」
『しかし…』
「どのみちヴォールトに戻れねーんなら、ほら、このウェイストランドで強く逞しく生きていくほかねーだろう。イヤだけど。そんなワケだから、そうだな、K-9は俺の自宅で留守番しててくれないか?さすがに見張り番の一人もいないと心配だからな」
『自宅ですと?昨日の今日でもう住む場所を見つけたのですか、さすがはヤング・マスター』
「まぁよ」
 まさか女をぶっ殺して財産ともども接収したなどとは言えない。
 シルバーの家の位置を教え、K-9を適当にあしらった俺は、メガトンに入ると、クレーターサイド雑貨店へと向かった。
 先日立ち寄った酒場で、流れ者に向きな仕事がないかどうか尋ねたところ、この店を紹介されたのだ。なんでも、本の執筆に協力してくれる冒険者を探しているとかいう話だったが…




「いらっしゃい、あら、見慣れない人ね。その背中の大きな数字…あなたね?最近ヴォールトから出てきた人って」
 俺を迎えた店の女主人モイラ・ブラウンは気さくな人物だった。
 コンバット・アーマーと高価そうなライフルで武装したガードマンの鋭い視線に気後れしながらも、俺はヴォールトを出てきたいきさつと、酒場で仕事を紹介された旨を手短に伝える。
 いかにも興味津々といった顔つきで話に聞き入っていたモイラは、いたく感心したような表情を見せながら、仕事の要件を切り出してきた。
「じつはね、ウェイストランドの厳しい環境で生きていくのに必要な知識を集めたガイドブックを作ろうと思ってるの。タイトルはもう決めてあるわ、ウェイストランド・サバイバルガイド!この不毛の大地で、ちょっとした生存の知識や機転が足りないばかりに命を落とした人は数知れないわ。そういう不幸を減らすためには、是非ともこの本の完成が必要なのよ」
「なるほど、いいアイデアだね。信憑性のあるデータを集めることができれば、唯一無二の学術書になるだろうし…それに、間違いなく売れるだろう」
「でしょ?理解してくれて助かるわ…でも私はこの店の番をしなくちゃならないし、文献や資料のみで得られる知識には限度があるの。だから、私の代わりに資料の裏づけやデータ収集をしてくれる人がいなきゃだめなの」
「オーケー、わかった。趣旨はよく理解できるし、こっちも仕事だから、見合った報酬さえ貰えれば、できる限りのことはするよ。それで、俺はまず何をすればいい?」
 このとき。
 このとき、俺はまだ気づいていなかった。
 俺がとんでもないクソ仕事を回されたこと、この先続く妙な冒険の泥沼の淵に足をどっぷり漬けてしまったことを。
 モイラはさっきまでと変わらぬ満面の笑みを浮かべながら、造作もなく言い放った。
「まず、致死量ギリギリの放射能を浴びてきてくれない?」
「…… …… …は?」







 同日、夜中。
 モリアティの酒場に、クレイブとは別の流れ者が姿を現した。


「はぁ、ようやく安全な場所で休むことができそうですわ!」
 陰気な酒場に似つかわしくない、明るい声を出した女。
 機械油の染みたジャンプ・スーツに、分厚いセルフレームの野暮ったい眼鏡。もとは鮮やかな色だったのだろう金髪はくすみ、みすぼらしい格好にしてはやけに上機嫌というか、曇りのない態度は確実に他の客の目を惹いていた。
 しかし他人の視線など気にも留めていない女…カーチャ・ブリチェンコは、スツールに腰掛けると、グールの店員を前に物怖じした様子もなく注文を出した。
「よく冷えたビールをお願い、それと食べ物のメニューを見せてくださる?」
「悪いけど、このところ冷蔵庫の調子が悪くて…」
「あら、残念。でも、仕方ありませんわね」
 グールの店員ゴブが差し出した、あまり冷えていないビールの栓を抜き、グラスも使わずラッパ飲みすると、カーチャは天使のような笑みを浮かべ、大きく息を吐き出した。
「たまりませんわ!こたえられませんわ!」
「若いお嬢さん、あんたもヴォールトから出てきたのかい?」
 だしぬけにそう尋ねたのは、この酒場の老獪な店主コリン・モリアティだった。
 まだメガトンに到着したばかりで、クレイブの存在を知らなかったカーチャは質問の意図がわからず、目をぱちくりさせながら返事をかえす。
「ヴォールト?いえ、まさか!わたくしはただの放浪者(ウェイストランダー)ですわ」
「ほう、あんたみたいなのがな。さぞかし大変だったろう」
「えぇ、えぇ、それはもう!女身一つでウェイストランドを旅するのは容易ではないのですわ」
 女ごときが、というニュアンスを含むモリアティの言葉を理解していないのか、あるいは素直に受け取ったうえで皮肉を気にも留めなかったのかはわからないが、カーチャはまるで気分を害した様子を見せず言葉を続ける。
「できれば、しばらくここに留まりたいので、なにか仕事の一つでも紹介していただけると、助かるのですけれど」
「そうだな…ウチで客を取るなら、まずはその汚い服装をなんとかしなけりゃならんな」
「Уж、誤解です、そういう意味で言ったのではありませんわ!心外なのですわ!」
 臆面もなく下品な話題を振るモリアティ(といっても、このときの彼は大真面目だったのだが)に、カーチャがオーバーリアクション気味に手をばたばたと振る。
 本気で怒ったわけではないようだが、それよりも、モリアティが気になったのは彼女の嘆息と、そのイントネーションだった。
「…お嬢さん、アンタ、ロシア人か?」
「祖先が。大戦前の話ですわ、わたくしは移民の末裔ですの。いまでも、ああ、祖国を想うと胸が熱くなります!惜しいことに、わたくしが祖先の地を踏む機会は訪れないのでしょうね」
 なんの疑問もなく、熱に浮かされたような顔つきで語るカーチャに、しかし好意的な目を向ける者はいなかった。
 面と向かって文句を言う者はいなかったが、彼らの代表として、モリアティが先刻までの友好的な態度とはうって変わった鋭い表情で言い放つ。
「いいかお嬢さん、ここは腐ってもアメリカだ。コミィの居場所はねぇ」
「あら、心外なのですわ!わたくしは祖国を想いこそすれ、共産主義に傾倒しているわけではないのですわ!思い違いなのですわ!」
「ほうそうかね、それじゃあ政治的な思想もなしに祖国を想う気持ちはどこから来るのかね?」
「文学です」


 モリアティを相手にまったく気後れすることなく言い放ったカーチャは、続けて小説の一節と思われる文章をそらんじてみせた。
「что наконец в мировом финале, в момент вечной гармонии, случится и явится нечто до того драгоценное, что хватит его на все сердца, на утоление всех негодований, на искупление всех злодейств людей, всей пролитой ими их крови, хватит, чтобы не только было возможно простить, но и оправдать все, что случилось с людьми.(いつかこの苦しみも癒え、人の矛盾がもたらす喜劇も幻と化し、原子のようにちっぽけな人間の作り出したユークリッド的頭脳の醜い産物も消え失せ、世界が終わるとき、永遠の調和が訪れるときに、かつてない高次の奇跡が顕現し、それがすべての人々の心を満たし、怒りを鎮め、悪行も、これまで流された血も贖い、人間のすべての業も非業も一切が赦され、それらはあるべきものとして認められる)」
「пусть, пусть это все будет и явится, но я-то этого не принимаю и не хочу принять!(たとえそれが成されたとしても、俺はそれを認めることも、認める気もない!)…ドストエフスキーだな」
「!!」
 いきなり行われたロシア語の羅列に、てっきり激昂するかと思われたモリアティが、続きの台詞を暗唱してみせたとき、カーチャのみならず、ゴブや、娼婦のノヴァでさえもが目を丸くして彼を見つめていた。
 唖然とする一堂に尊大な笑みを見せつけながら、モリアティは言った。
「俺様はインテリなのさ。そうだな、この奇怪な出会いに免じて一つ教えてやろう…お嬢さん、あんた、見たところエンジニアか何かのようだが、機械いじりはできるのか?」
「え?ああ…ちょっとした機械の修理やメンテナンス、なんでしたら戦前のセキュリトロンの整備くらいでしたら、機材さえあれば」
「そりゃあいい。この街の水処理場にいる、ウォルターって爺さんがな…いけすかねぇガンコじじいだが、幾つか問題を抱えてるらしい。小銭稼ぎにゃあピッタリの仕事を回してくれるだろう」
「あら、うふふ、感謝しますわ。見かけによらず、優しいんですのね?」
「参ったな、いま気づいたのか?」
 あっはっはっ、互いに笑い出す二人を見て、ノヴァが「やってられない」と呆れ顔をする。
 やがてカーチャが席を立ち、店を出る。しばらくはメガトンの共同住宅を借りる予定らしい。
 珍しい客がいなくなったあと、一連のやりとりを黙って見ていたゴブがぽつりとつぶやいた。
「モリアティはロシア人が嫌いかと思ってたのに」
「俺が嫌いなのはな、共産主義者と、ゴブ!テメェだ!」
 ボカッ!
 しっかり聞いていたモリアティの鉄拳を受けてゴブがぶっ倒れる。
 地面を這いつくばり、大股で店の裏に引っ込むモリアティを恨めしげな目つきで睨みながら、ゴブは心の中で悪態をついた。
「(畜生!いつか殺してやる)」





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 どうも、グレアムです。
 いつまで続けるかわかりませんが、以前書いたFallout3のSS「マークス・エフェクト」のリブートをはじめました。以前のは途中まではただのプレイ日記で、後半からSSの体裁を取って連載していましたが、今回ははじめからSSとして独自進行していく予定です。
 いちおう今回は第一話なんですが、話としては現状でのマークス・エフェクトの最終話「Going Down The First Way(記事名は「終わった物語のはじまり」)」の直接の続きとなります。
 リブート前のオリジナル版の記事のまとめはHPのnovelカテゴリから参照することができます。いまとなっては自分で読んでて恥ずかしい部分も多いですが、何卒よろしくお願いします。












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