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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/03/29 (Fri)02:47
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2015/11/27 (Fri)23:53


 いまさらになって、ヴォールトでの思い出がかけがえのなかったもののように思えてくる。
 そう、あれは10歳の誕生日だったか…俺が、監督官からピップボーイをもらった日のことだ。パルマーおばさんが焼いてくれたスイートロールの味を、いまでも思い出すことができる。
 アマタがくれた、残念ながら外れ回だった英雄グロッグナックのペーパーバック。悪ガキどもの思わせぶりな内緒話。粉砕されたバースデイケーキ。妙なポエム。
 そうそう、親父とジョナスがプレゼントしてくれたBBガンのことも忘れちゃいけない。あのときは、ちゃちなのでいいから実弾を使う銃が欲しいと言って、親父を大層ガッカリさせたっけな。もっとも、その気持ちは今でも変わってないが…
 そして忠犬K-9。本物の犬は、少なくとも機械仕込みでない生来の犬は人語を喋ったりなんかしないってことを知ったのは、かなり後のことだった。



 16歳のときに受けたG.O.A.T.試験のことも記憶に残っている。
 たしか、あの日は会場の前で悪ガキども、トンネル・スネークとかいったっけな、ブッチとその仲間たちがアマタにしつこくつきまとってたな。
 俺がじっと見てると、ブッチの野郎、なんかつっかかってきたっけ。
「おい白子野郎、なにジロジロ見てやがる?」
「いや、べつに。それよりアマタ、ダイエットは成功したのかい?」
「なっ…!」
「オイオイ、こいつ体重を気にしてんのか?え、ブーちゃん?」
「そんなことない!」
「気をつけろ、油断してるとアマタに食われちまうぞォ!」
「アマタの顎は中国の電話帳より分厚いんだぜ!しかも、怪我したら血のかわりに肉汁が噴き出すんだ!」
 言いすぎだろ。
 同年代の類稀な言語センスに感心しながら、俺は俺で自分のイタズラが成功するかどうか胸を躍らせながら会場に入ったんだっけな。


「これよりG.O.A.T.試験を開始…なんだこのスライドは!?」
 手元のテキストを読み上げようとしたとき、スクリーンに映し出されたレクリエーション用フィルムのタイトルバックを目にしたときのブロッチ先生の表情は傑作だったな!
「くそ、全部わけのわからない写真に差し替えられている!誰ですかこんなイタズラをしたのは!こんな意味不明なものをマメに仕込むのは…クレイブ、貴方ですね!?」
「し、知りませんよぉ…(ププッ)」
「ええい、こうなったら映像なしで文章の読み上げだけで試験を続けるしか…さて第一問、西部署所属の刑事部長の名前を答えなさい。小門圭介、中門圭介、大門圭介、肛門圭介、菊門圭介…ってコラーッ!文章まで差し替えられてるじゃないか!!」
 ヴォールトの悪童といえばブッチたちトンネル・スネークが悪目立ちしてたが、俺は俺でけっこうヤンチャをしたもんだ。
 といっても俺は誰かを傷つけるのがイヤだったから、人畜無害なイタズラばかりしてたけどな。椅子の向きを意味もなく変えたり、他人の教科書の表紙と中身を入れ替えたり、HBのシャーペンに2Bの芯を入れておいたり、いま考えると自分でも意味わからんぞこれ。




「ま…そんなこともあったよな……」
 パチリ、親父の残した.45口径に弾倉を押し込みながら、俺はなんだかんだでエンジョイしていた穴蔵生活を懐かしみつつ、深く重いため息をついた。



 俺の名はクレイブ、ヴォールト脱走者だ。別に逃げたくはなかったが、成り行きでそうなってしまったからしょーがない。
 俺が生まれ育ったヴォールト101は独立した核シェルターで、200年前の核戦争以後、誰一人地上に出ることなく施設内で営々と存続を続けていたコミュニティだった(もっとも「誰一人出入りせず」というのは間違ってたんだが、このときの俺には知る由もない)。
 親父はヴォールトで医者として働いており、お袋は俺を生んだ直後に死んじまったらしい。顔なんか覚えてないし、どんな名前だったかすら記憶にない。母を知らず、母という存在になんの感慨もない俺にとって、親父こそが唯一の指標であり、尊敬できる存在だった。
 だが、親父はヴォールトを出ていってしまった。つい先日。
 たぶん、なにか特別な理由があるんだろう。それを追求するつもりはない。
 しかし親父の脱走がヴォールトにもたらした混乱は深刻で、放射能で巨大化したゴキブリ「ラッドローチ」をはじめとするクリッターの侵入、さらに隔壁の外で機会を窺っていたらしい無法者集団「レイダー」の攻撃でヴォールトは大打撃を受けた。
 そして混乱の元凶である親父、そして、その肉親である俺をヴォールトの住民は許さず、昨日まで優しい隣人だった誰彼、頼れる先輩だったガードマンがいっせいに俺に襲いかかってきた。
 俺は親父の机に残されていたM1911、.45口径ピストルを掴み、どうにか同胞を傷つけることなくヴォールトを脱出し、近郊の荒廃した無人都市スプリングベールへと逃げ延びたのだった。
 無人都市、いや…厳密に言えば、無人ではなかった。
 いきなり外界に放り出された俺はしばらく水と食料を口にしておらず、たまたま立ち寄った民家で出会った女、シルバーとかいう…娼婦だかヤク中だか知らんが、もうそんなことはどうでもいいが…誤解からくるイザコザがもとで、俺はそいつを撃ち殺しちまった。
 はじめての殺人。
 れっきとした正当防衛ではあったが、それでも、誰一人殺すまいとヴォールトを出たあとのアクシデントは、俺の心の中に癒えない爪痕を残した…








「で、朝イチでやることが死体の処理かね。やるせねぇ、やるせねぇな」
 なるべく首の断面を見ないようにしながら、俺はシルバーの死体を引きずり、近くのゴミ収集箱にそいつを放り込む。
 まだ死んで日の浅い死体には色々と利用価値がある、レイダーだったらそう考えるだろう。
 だが、俺はそこまで堕ちたくはない。いまは、まだ。
 とりあえずシルバーの家を拠点にしばらく活動することを決めた俺は、周囲を警戒しながら、ここからそう遠くない街メガトンへと向かった。




『ご機嫌麗しゅう、ヤング・マスター!』
「おまえ…K-9か!?」
 メガトン前を通りがかったキャラバンに近づいたとき、俺を驚かせたのは喋る犬…ヴォールトにいたとき、親父と俺が飼っていた忠犬K-9だった。
「どうして、どうやってここに?」
『ひどい混乱の中を、モールラットの掘った穴を通じてここまで辿り着きました、ヤング・マスター。ところで、お父上はいずこへ?ご一緒ではないのですか?』
「いや、それがな…」
 とりあえず、俺は(キャラバンの奇異な視線を受けながらも)自分が知り得る限りの情報をK-9に伝えた。
「まーそんなワケで、俺はいまやヴォールトを追われた孤独なさすらいびとってわけよ」
『なんということ。父上を探しに参りましょう、いますぐ!なんとなれば、この私めがメガトンで情報を収集…』
「よせよせ、やめなさいって。喋る機械仕掛けの犬なんてそんな、解体されちまうよ?メガトンにはおっかない連中がいるんだから」
『なんと』
「それに、俺は親父の行方には興味がねーのよ。親父が自分の意思でヴォールトを出て行ったんなら、それなりの理由があるんだろうし、俺に何も知らせず、俺を置いて出て行ったんなら、それにも大層な理由があったんだろうさ。俺に追ってほしい、ってんなら話は別だけども、親父の性格を考えりゃあな、そうではねえってのはわかるだろ?」
『しかし…』
「どのみちヴォールトに戻れねーんなら、ほら、このウェイストランドで強く逞しく生きていくほかねーだろう。イヤだけど。そんなワケだから、そうだな、K-9は俺の自宅で留守番しててくれないか?さすがに見張り番の一人もいないと心配だからな」
『自宅ですと?昨日の今日でもう住む場所を見つけたのですか、さすがはヤング・マスター』
「まぁよ」
 まさか女をぶっ殺して財産ともども接収したなどとは言えない。
 シルバーの家の位置を教え、K-9を適当にあしらった俺は、メガトンに入ると、クレーターサイド雑貨店へと向かった。
 先日立ち寄った酒場で、流れ者に向きな仕事がないかどうか尋ねたところ、この店を紹介されたのだ。なんでも、本の執筆に協力してくれる冒険者を探しているとかいう話だったが…




「いらっしゃい、あら、見慣れない人ね。その背中の大きな数字…あなたね?最近ヴォールトから出てきた人って」
 俺を迎えた店の女主人モイラ・ブラウンは気さくな人物だった。
 コンバット・アーマーと高価そうなライフルで武装したガードマンの鋭い視線に気後れしながらも、俺はヴォールトを出てきたいきさつと、酒場で仕事を紹介された旨を手短に伝える。
 いかにも興味津々といった顔つきで話に聞き入っていたモイラは、いたく感心したような表情を見せながら、仕事の要件を切り出してきた。
「じつはね、ウェイストランドの厳しい環境で生きていくのに必要な知識を集めたガイドブックを作ろうと思ってるの。タイトルはもう決めてあるわ、ウェイストランド・サバイバルガイド!この不毛の大地で、ちょっとした生存の知識や機転が足りないばかりに命を落とした人は数知れないわ。そういう不幸を減らすためには、是非ともこの本の完成が必要なのよ」
「なるほど、いいアイデアだね。信憑性のあるデータを集めることができれば、唯一無二の学術書になるだろうし…それに、間違いなく売れるだろう」
「でしょ?理解してくれて助かるわ…でも私はこの店の番をしなくちゃならないし、文献や資料のみで得られる知識には限度があるの。だから、私の代わりに資料の裏づけやデータ収集をしてくれる人がいなきゃだめなの」
「オーケー、わかった。趣旨はよく理解できるし、こっちも仕事だから、見合った報酬さえ貰えれば、できる限りのことはするよ。それで、俺はまず何をすればいい?」
 このとき。
 このとき、俺はまだ気づいていなかった。
 俺がとんでもないクソ仕事を回されたこと、この先続く妙な冒険の泥沼の淵に足をどっぷり漬けてしまったことを。
 モイラはさっきまでと変わらぬ満面の笑みを浮かべながら、造作もなく言い放った。
「まず、致死量ギリギリの放射能を浴びてきてくれない?」
「…… …… …は?」







 同日、夜中。
 モリアティの酒場に、クレイブとは別の流れ者が姿を現した。


「はぁ、ようやく安全な場所で休むことができそうですわ!」
 陰気な酒場に似つかわしくない、明るい声を出した女。
 機械油の染みたジャンプ・スーツに、分厚いセルフレームの野暮ったい眼鏡。もとは鮮やかな色だったのだろう金髪はくすみ、みすぼらしい格好にしてはやけに上機嫌というか、曇りのない態度は確実に他の客の目を惹いていた。
 しかし他人の視線など気にも留めていない女…カーチャ・ブリチェンコは、スツールに腰掛けると、グールの店員を前に物怖じした様子もなく注文を出した。
「よく冷えたビールをお願い、それと食べ物のメニューを見せてくださる?」
「悪いけど、このところ冷蔵庫の調子が悪くて…」
「あら、残念。でも、仕方ありませんわね」
 グールの店員ゴブが差し出した、あまり冷えていないビールの栓を抜き、グラスも使わずラッパ飲みすると、カーチャは天使のような笑みを浮かべ、大きく息を吐き出した。
「たまりませんわ!こたえられませんわ!」
「若いお嬢さん、あんたもヴォールトから出てきたのかい?」
 だしぬけにそう尋ねたのは、この酒場の老獪な店主コリン・モリアティだった。
 まだメガトンに到着したばかりで、クレイブの存在を知らなかったカーチャは質問の意図がわからず、目をぱちくりさせながら返事をかえす。
「ヴォールト?いえ、まさか!わたくしはただの放浪者(ウェイストランダー)ですわ」
「ほう、あんたみたいなのがな。さぞかし大変だったろう」
「えぇ、えぇ、それはもう!女身一つでウェイストランドを旅するのは容易ではないのですわ」
 女ごときが、というニュアンスを含むモリアティの言葉を理解していないのか、あるいは素直に受け取ったうえで皮肉を気にも留めなかったのかはわからないが、カーチャはまるで気分を害した様子を見せず言葉を続ける。
「できれば、しばらくここに留まりたいので、なにか仕事の一つでも紹介していただけると、助かるのですけれど」
「そうだな…ウチで客を取るなら、まずはその汚い服装をなんとかしなけりゃならんな」
「Уж、誤解です、そういう意味で言ったのではありませんわ!心外なのですわ!」
 臆面もなく下品な話題を振るモリアティ(といっても、このときの彼は大真面目だったのだが)に、カーチャがオーバーリアクション気味に手をばたばたと振る。
 本気で怒ったわけではないようだが、それよりも、モリアティが気になったのは彼女の嘆息と、そのイントネーションだった。
「…お嬢さん、アンタ、ロシア人か?」
「祖先が。大戦前の話ですわ、わたくしは移民の末裔ですの。いまでも、ああ、祖国を想うと胸が熱くなります!惜しいことに、わたくしが祖先の地を踏む機会は訪れないのでしょうね」
 なんの疑問もなく、熱に浮かされたような顔つきで語るカーチャに、しかし好意的な目を向ける者はいなかった。
 面と向かって文句を言う者はいなかったが、彼らの代表として、モリアティが先刻までの友好的な態度とはうって変わった鋭い表情で言い放つ。
「いいかお嬢さん、ここは腐ってもアメリカだ。コミィの居場所はねぇ」
「あら、心外なのですわ!わたくしは祖国を想いこそすれ、共産主義に傾倒しているわけではないのですわ!思い違いなのですわ!」
「ほうそうかね、それじゃあ政治的な思想もなしに祖国を想う気持ちはどこから来るのかね?」
「文学です」


 モリアティを相手にまったく気後れすることなく言い放ったカーチャは、続けて小説の一節と思われる文章をそらんじてみせた。
「что наконец в мировом финале, в момент вечной гармонии, случится и явится нечто до того драгоценное, что хватит его на все сердца, на утоление всех негодований, на искупление всех злодейств людей, всей пролитой ими их крови, хватит, чтобы не только было возможно простить, но и оправдать все, что случилось с людьми.(いつかこの苦しみも癒え、人の矛盾がもたらす喜劇も幻と化し、原子のようにちっぽけな人間の作り出したユークリッド的頭脳の醜い産物も消え失せ、世界が終わるとき、永遠の調和が訪れるときに、かつてない高次の奇跡が顕現し、それがすべての人々の心を満たし、怒りを鎮め、悪行も、これまで流された血も贖い、人間のすべての業も非業も一切が赦され、それらはあるべきものとして認められる)」
「пусть, пусть это все будет и явится, но я-то этого не принимаю и не хочу принять!(たとえそれが成されたとしても、俺はそれを認めることも、認める気もない!)…ドストエフスキーだな」
「!!」
 いきなり行われたロシア語の羅列に、てっきり激昂するかと思われたモリアティが、続きの台詞を暗唱してみせたとき、カーチャのみならず、ゴブや、娼婦のノヴァでさえもが目を丸くして彼を見つめていた。
 唖然とする一堂に尊大な笑みを見せつけながら、モリアティは言った。
「俺様はインテリなのさ。そうだな、この奇怪な出会いに免じて一つ教えてやろう…お嬢さん、あんた、見たところエンジニアか何かのようだが、機械いじりはできるのか?」
「え?ああ…ちょっとした機械の修理やメンテナンス、なんでしたら戦前のセキュリトロンの整備くらいでしたら、機材さえあれば」
「そりゃあいい。この街の水処理場にいる、ウォルターって爺さんがな…いけすかねぇガンコじじいだが、幾つか問題を抱えてるらしい。小銭稼ぎにゃあピッタリの仕事を回してくれるだろう」
「あら、うふふ、感謝しますわ。見かけによらず、優しいんですのね?」
「参ったな、いま気づいたのか?」
 あっはっはっ、互いに笑い出す二人を見て、ノヴァが「やってられない」と呆れ顔をする。
 やがてカーチャが席を立ち、店を出る。しばらくはメガトンの共同住宅を借りる予定らしい。
 珍しい客がいなくなったあと、一連のやりとりを黙って見ていたゴブがぽつりとつぶやいた。
「モリアティはロシア人が嫌いかと思ってたのに」
「俺が嫌いなのはな、共産主義者と、ゴブ!テメェだ!」
 ボカッ!
 しっかり聞いていたモリアティの鉄拳を受けてゴブがぶっ倒れる。
 地面を這いつくばり、大股で店の裏に引っ込むモリアティを恨めしげな目つきで睨みながら、ゴブは心の中で悪態をついた。
「(畜生!いつか殺してやる)」





< ⇒Wait for feeding next bullet... >









 どうも、グレアムです。
 いつまで続けるかわかりませんが、以前書いたFallout3のSS「マークス・エフェクト」のリブートをはじめました。以前のは途中まではただのプレイ日記で、後半からSSの体裁を取って連載していましたが、今回ははじめからSSとして独自進行していく予定です。
 いちおう今回は第一話なんですが、話としては現状でのマークス・エフェクトの最終話「Going Down The First Way(記事名は「終わった物語のはじまり」)」の直接の続きとなります。
 リブート前のオリジナル版の記事のまとめはHPのnovelカテゴリから参照することができます。いまとなっては自分で読んでて恥ずかしい部分も多いですが、何卒よろしくお願いします。












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