主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2015/12/04 (Fri)19:46
俺の名はクレイブ、ヴォールト脱走者だ。
生まれ故郷のヴォールト101を出てメガトンへ流れついた俺は、日銭を稼ぐためクレーターサイド雑貨店を営む女主人モイラのもとで「ウェイストランド・サバイバルガイド」という本の執筆のアシスタントを担当することになった。
放射能を浴びてこいだの、重症を負ってこいだのといった難題を乗り越えたあと、メガトン近郊のスーパーマーケットの調査を依頼された俺はグールとの出会いやレイダーとの戦闘を経て食料と医薬品を持ち帰ることに成功し、いままさにメガトンへと戻るところだった。
しかしメガトン方面から断続的に響く銃声が、安堵しかけた俺に不安の種を植えつける…
ドガッ、ドカドカドカッ!
ゲートの見張り台に集中して叩き込まれた銃弾が、守衛のストックホルムの肩を貫く。
「ぐあっ、ち…畜生…!!」
見張り台の上からの狙撃でレイダーの攻撃を食い止めていたストックホルムだったが、すでに何人かの侵入を許してしまっており、状況の悪化を押し留めることができない。
その様子を遠目から見ていた俺は、岩陰からスーパーマーケットでレイダーから奪ったサコーTRG42狙撃ライフルをかまえると、脇腹の痛みをこたえながら照準に集中した。
「くそ、こっちは怪我人だぞ…ていうかこのスコープ、ゼロインやミル調整どうなってんだ」
いまスコープの調整をする余裕はないし、ミリタリー・スナイパーだって、銃撃戦の最中に標的別にいちいち調整するわけではない。
メガトンに侵入しようとしているレイダーは二人。二人の距離はそれほど離れていないため、片方に命中弾を叩き込めた場合、もう片方も同じ場所を狙えば同様にヒットするだろう。
まずは初弾で着弾位置を確認し、自前で狙点を補正するしかない。
ライフルの反動も考慮し岩に寄りかかった姿勢で身体を固定し、深呼吸をしたうえで息を止める。人差し指でトリガーを舐め、ファースト・ステージを落とした。
レイダーの胴体の中心を狙って、ゆっくりと指を引き絞る。
ドンッ!
反動とともに腕がはね上がり、標的がスコープの視界から外れる直前、レイダーの頭部がはじけ飛ぶのが見えた。
標的までの距離がそれほど離れていないためか、弾は狙点よりも高い位置に命中した。左右へのブレはない。いいぞ…思っていたよりもいい、だいぶマシな状況だ。
ガチャリ、ボルトを操作して空薬莢を排出し、次弾を装填。ふたたび射撃姿勢にはいる。
ドンッ!
仲間の死を目の当たりにし、新たな狙撃主の位置を探るレイダーの腹のあたりを狙って発砲。今度は首のあたりに命中し、動脈が裂けて派手に出血する。首の皮一枚で繋がっていた頭部がぶらりと揺れ、やがてちぎれ落ちた。
「メガトンが危険だ…!」
すでに外に出ているレイダーがいないことを確認した俺はすぐさま立ち上がり、メガトンのゲートへ向かって駆けだす。
ゲート前はストックホルムが始末したレイダーのほかにも、水乞食の死体や、案内役のプロテクトロン「副官ウェルド」の残骸が転がっている。メガトンから聞こえる銃声はまだ続いていた。
中がどんな様子になっているかは想像もつかない。
俺は最悪の事態を想定しながら、メガトンへ続くスクラップ・メタルの扉を開放した。
不幸中の幸いと言おうか、俺が到着した頃にはすでに戦闘は収束しかかっていた。
家畜や民間人に被害が出ていたが、規模はいたって小さく、メガトンに侵入したレイダーたちは市長兼保安官のルーカス・シムズや腕の立つ流れ者たちの手によって早々に鎮圧されていた。
俺がメガトンに入ったとき、入り口の近く…俺の目の前、ちょうど俺に背を向けるようなかたちで、アサルトライフルをかまえているレイダーの姿が目に入る。
「ふざけやがって畜生、殺してやる、全員ブッ殺してやる…!!」
おそらくは。
街の中心部で戦闘を繰り広げているメガトンの住民たちは、こいつの存在に気がついていない。
メガトンはクレーターのように、街の外周が高く盛り上がった構造になっている。そのため入り口は街の中心部を見下ろせる立地になっており、高所から弾丸をばら撒けば、よほどの下手糞でもなければ甚大な被害をもたらすことができるだろう。
もちろん、俺がレイダーの行為を黙って見過ごせば、そうなっていたかもしれないが。
ドガッ!
ゆっくりとライフルを地面に寝かせた俺はフォーティファイヴを抜くと、躊躇なくレイダーの背中に向けて発砲した。
いきなり撃たれたレイダーはその場できりもみし、ばたんと仰向けに倒れる。
銃は握ったままだったが、腕を上げる力はもうないようだった。
「て、テメェ…いったい、なにを……」
「うるせェ、黙って死ね!」
ドン、ドン、ドン、ドンッ!
なにごとかを言いかけたレイダーに、俺は連続して銃弾を浴びせかける。
鼻と口から血を垂らし、苦しそうな声で呻いていたレイダーは電気ショックを浴びたかのようにビクン、ビクンと身体を揺らしたのち、微動だにしなくなった。
「そのへんにしておくんだな」
フーッ、フーッ。
荒い息をつく俺に、ルーカス・シムズが諭すような口調でそう話しかけてくる。
顔を上げると、ルーカス・シムズのほかにも難を逃れたメガトン住民たちが一様に俺を見つめており、その表情は、いずれも腫れ物を見るような、好意的とは言い難いものだった。
…俺が、なにかしたか?
そう思い、俺は返り血で真っ赤に染まった自身の身体を見下ろした。
人を殺したせいか?そのせいで、疎ましい目で見られているのか。
そうではない。
トドメを刺したから、あるいは、トドメの刺しかたに過剰な残虐性を見たからだろう。あるいは、つい先日まで平和ボケしたヴォールト住民だった俺の変わりように驚いていたのかもしれない。
「(…そんな目で俺を見るなよ……)」
街を襲ったレイダーを殺した。正しいことをしたはずだ。だのに、この心苦しさはなんだ…?
俺はいままで、ウェイストランドはルール無用の無法の地だと思っていた。もちろん、厳格な法のもと運用されていたヴォールト101の環境に比べれば無法もいいところだろう。
だが、そうではないのだ。このウェイストランドにも、ちゃんとルールはあるのだ。
ルールがなければ、レイダーも、メガトン住民も区別はないはずだ。しかし現にメガトン住民はレイダーとは明確に区別できるし、その境界線ははっきりとしている。
レイダーと、そうではない者を分ける境界線。
俺はいま、その境界線を踏み越えようとしていた。だから、メガトン住民たちは俺の危うい精神状態、倫理観を危険視しているのだ。
行為の正当性は問題ではない。
理由があれば殺す、そのことに疑問を持たなくなったとき…いや、「殺すための理由にすら頓着しなくなったとき」か?そのとき、人間は精神までレイダーになってしまうのだ。
そのことに気がついた俺を、モイラがじっと見つめる。
モイラはしばらく俺の様子を観察すると、ニコリ、笑顔を浮かべ、言った。
「いやー、逞しくなったな!青年!」
その言葉は、この場においては相応しくなかったかもしれない。
しかし彼女の言葉で俺は救われたような気分になった。
それはモイラが俺を認めてくれたからではない。彼女が、俺を拒絶しなかったからだ。そのことが、無性に嬉しかった。
「あまり俺に手をかけさせるなよ、小僧。今度面倒な傷をこさえてきたら、俺が殺すぞ」
「ありがとう。感謝してますよ、ドクター」
「やかましい。礼を言うくらいなら金置いてけ、まったくどいつもこいつも…」
いちおう街の防衛に貢献した、ということで、ルーカス・シムズに医療の無償提供を命ぜられたドクター・チャーチは普段にも増して不機嫌そうな態度で俺を睨みつけた。
「腹の弾丸は摘出したが、傷口が塞がるまで派手に動き回るなよ。傷口広げて俺のところに来てみろ、俺が貴様の腹を裂いてハラワタ引きずりだしてやるからな」
「そのときは頼みますよ。ついでに腸の中を洗ってから元に戻してもらえると助かります」
「くたばれ」
ドクター・チャーチは口は悪いが医師としての腕は確かだし、患者を無碍に扱ったことはないと聞く。感情よりも医師としてのプロ意識のほうが勝る人物なのだろう。
そんな彼の罵声を背中に受けながら、「このツンデレ医師」と言いたくなる気持ちをこらえて診察所を出る。
メガトン中央広場(と俺は便宜的に呼んでいる)では、労働者がレイダーの死体を片づけたり、有用そうな装備や物資を検分しているほか、ルーカス・シムズと街の有力者たちがなにやら難しそうな顔で話し合っていた。
とりあえずモイラのところへ顔を出してスーパーウルトラマーケットでの成果を報告しようかと思っていたが、どうにも彼らのことが気になった俺は、会話に顔を突っ込んでみる。
「どうしたんです?」
「ああ、おまえか。いや、レイダーを撃退したはいいんだが、何人かに逃げられてな。そいつらがうちの住民を連れ去っていったもんだから、どうにか救出に行けないかと話し合ってたところだ」
ルーカス・シムズが、顎ひげに手を添えながらため息がちに語る。
「そういえばおまえ、ついさっき戻ってきたばかりだったな。そいつらを見ていないか?」
「いや、入り口で二人ばかり殺したけど、人質なんて連れてなかったよ。行き違いだったかな…それより、ここは頻繁にレイダーに襲われるのかい?」
「そんなことはない、むしろ、滅多にこんな事態にはならないんだがな。何年か前に手ひどく痛めつけてやって以来、あのクソガキどもが寄ってくることはなかったんだが」
そんなことを話し合っていたとき、キャラバンの商人がこちらに走ってきた。
彼らは普段は街の中にまで入ってこないのだが、レイダーの襲撃を受けたという話を聞いたからか、ルーカス・シムズに近づき何事かを耳打ちする。
キャラバンの商人が去ったあと、ルーカス・シムズは俺を含む周りの人間を集めて話をはじめた。
「いい情報だ、どうやら連中はスプリングベールの小学校を根城にしているらしい。キャラバンの商人が、うちの住民を連れたレイダー数人が入っていくのを見たそうだ。そこで、救出部隊を募りたい。奇襲作戦だ、連中に勘づかれないよう少人数編成、決行は夜中。俺は立場上ここを動くことができんが、志願者には相応の報酬を約束しよう」
その言葉を聞いて、真っ先に手を挙げたのは俺だった。
正義感とか、レイダーをぶちのめしたいという感情があったのも確かだが、それ以上にスプリングベール小学校はいま俺が行動の拠点としている民家のすぐ近くだ。
そんな場所にレイダーをのさばらせておくのは精神衛生上よくない。
まして大義名分のもと仲間つきでゴミ掃除ができるなら、それを利用しない手はなかった。それにやり残しがないかどうか、最後までこの目で確かめておきたい。
ちなみにメガトン住民には俺の住処は明かしていない。今後敵対しないとも限らないし、メガトンは人の出入りが激しいから、どういう経緯でどこに情報が漏れるかわかったものではない。レイダーにでも知られたら大変なことになる。
決行は夜中ということで、俺は集合場所と時間だけ聞きだしてから、他の志願者が決まるまでのあいだクレーターサイド雑貨店で時間を潰すことにした。モイラと仕事の成果について話し合わなくては。それとやはり、あのアーマーの改造は俺には不要なので、少なくとも肩パッドだけは外してもらうことにしよう。
2200時、ピップボーイのタイマー機能で時間を確認した俺は、武器を手にスプリングベール小学校の前へとやってきた。
今回の奇襲作戦のメンバーは三人。俺と、元レイダーの用心棒ジェリコ、そして元リベットシティ・セキュリティのガンマン、風来坊のマルコム。まさしく隠し砦「に」三悪人、といった風情の、どっちがレイダーだかわからん面子だ。
「来たか坊主、準備はいいか?小便は済ませたか?」
「偉大なるアトム神へのお祈りもバッチリすよ、旦那。ところで、元レイダーって聞きましたけど…ここの連中、あなたの元仲間だったりするんですか?」
「うるせぇ知るかバカ。俺がレイダーだったのは昔の話だ…過去だから関係ねぇ、というんじゃねえぞ?ガキに顔馴染みはいねぇってことさ」
「なるほど」
レイダーは新陳代謝が激しい。それに、仲間内での諍いも珍しくはない。
年かさのレイダー、というのも有り得なくはないが、たいていはグループのお荷物になる前にドジを踏んで死ぬか、仲間に始末されるのがオチということで、そのどちらでもないという点から言えば、ジェリコはレイダーからも孤立した存在であることが想像できた。悪いことを聞いてしまった。
「ところで坊主、おまえ、そんなクラップガン(ガラクタ銃)でいいのか?」
「あ、これすか?」
渋い顔をするジェリコに、俺は手にしていたフルオート改造済のイントラテックTEC-DC9ピストルを見せた。
これはメガトンに侵入したレイダーの一人が持っていた銃で、ウェイストランドにおけるスタンダードなハンドガン・ブレットとして普及している10mm弾仕様のコンバージョン・キットが組み込まれている。
動作性と命中精度において最良の選択肢と言えるような代物ではないが、閉所においてそのコンパクトなサイズとファイア・パワーは役に立ってくれるはずだ。というか、さすがにM1911の一挺吊りでは心もとない。
そんなことを説明すると、ジェリコは面倒臭そうな顔で手を振り、肩をすくめた。
「おめぇがいいならそれでいい」
おそらく、無法の荒野で揉まれてきたジェリコにとって、俺の頭でっかちな理屈は聞くに堪えないものだったのだろう。それに、この期に及んでつまらない言い合いをしても仕方がない。
俺たち三人は顔を見合わせると、意を決して小学校に突入した。
ドガッ、ドガガガガンッッ!!
扉を開けると同時に、近くに立っていたレイダーの頭を吹き飛ばし、オヤジ二人が俺に先駆けて先行する。
「坊主、おまえはまず人質を解放しろ!その間に俺たちがクソどもをブッ飛ばす!」
「アイアイサー!」
ジェリコの指示で俺は連れ去られたメガトン住民が捕らえられている檻をこじ開ける。
「大丈夫か、助けに来た。もう安全だ」
突然の出来事に動転する捕虜をなだめ、拘束を解いて立ち上がらせる。
非戦闘員を連れてドンパチはできないので、彼らには自力でメガトンへ戻ってもらうことにした。それほど距離は離れていないし、俺やジェリコたちが無事にここまで来れたことで安全は保障されていると見ていいだろう。
そうこうしている間にも、あちこちから銃声が響き、レイダーたちの罵声や悲鳴が耳に届く。
銃撃戦が続いているということは、ジェリコたちが健闘しているということだ。数のうえでは不利なはずだが、奇襲の効果と、根っからの実力の差によるものだろうか。
それにジェリコとマルコムは顔見知りというほどでもない仲だと聞いたが、戦闘におけるコンビネーションは中々のものだ。
「おっと、上から目線で感心してる場合じゃないな。俺も仕事しないと」
開放した人質が無事に小学校から出るところを見届けると、俺も足早にジェリコたちに追いつき、銃撃戦に加わった。
ドガドガドガドガッ!!
V.A.T.S.を起動しながら、銃撃戦が展開れている部屋に踏み込みレイダーに向けて発砲する。
「うわああぁぁぁぁああっっ!!??」
突然の闖入者の出現にレイダーたちは驚き、背を向けてその場から逃げ出した。
メガトン襲撃に失敗し、どうにか人質を連れて逃げ出したのも束の間、おっかないオッサン二人に追い回されたうえでのダメ押しである。そりゃあ、逃げたくもなろう。
しかしそんなレーダーたちを、ジェリコとマルコムの放った銃弾が容赦なく撃ち抜いていく。
あたり一面が血の池風呂と化し、鉄と火薬の匂いが充満した。
「ふう、スッとしたな」
AKを肩に担ぎ、ジェリコが軽い口調でそう漏らす。
どうやら、かつての自分と同じ境遇であった若者たちを殺したことに対して罪悪の念などは一切ないようだ。それでも、こんな男でもレイダーとは一線を引いた向こうの側に立っている。不思議なものだ。
殺人に罪悪感が伴うかどうかも、絶対的な判断基準ではない、ということか。
レイダーの残党がいないかどうか、建物の地下を探っていたとき、マルコムが妙なものを発見した。
「よう、ちょっとこっちに来てくれ、旦那がた」
すでにレイダーの生き残りはいないと思っているのか、大声でこちらを呼ぶマルコムのほうへ向かうと、そこには床を剥がして地下道を掘ったとおぼしき穴があった。
「なんでぇ、こいつは…」
怪訝な表情で洞穴を見つめるジェリコに、俺が説明をする。
「さっき連中のターミナルを見つけたんだけど、そいつに残された記録によると、どうやら連中、ヴォールトへ侵入するための穴を掘ってたらしいんだな。そのために労働力となる人間を誘拐してたんだそうな」
「ヴォールトへ?ハッ、ご苦労なこった…そういや坊主、おめえ、ヴォールト出身とか言ってたな。レイダーが襲ってきたと聞いたが、そいつら、この穴から来たのか?」
「いや…あの連中は正面ゲートから入ってきた。地下からじゃない。たぶん、この地下道は完成しなかったんだ…放射能で巨大化した蟻の巣に阻まれて先に進めなくなった、とターミナルに書いてあった。こいつは放置しておくとまずいかもね」
故郷のヴォールトを襲った連中は地上から侵入してきた。
たぶん、親父がヴォールトから脱出するとき、物陰から機会を窺っていたんだろう。親父が脱出して隔壁が閉まるまでの間に侵入してきたのだ。まったく…
いや、いまは過去のことで感傷に浸っている場合ではない。
いますぐ洞窟内の巨大蟻どもが地上に這い出してくるとは思えないが、それでもレイダーという「お守り」が居なくなったいま、時間が経てばメガトン周辺や、まして俺の拠点の近くまで生息域を拡大するであろうことは目に見えている。
「レイダーどもの装備と、連中がこの建物に貯め込んだお宝をメガトンまで運ぶために後日、作業員が派遣されるはずだ。そのとき爆薬を仕掛けて洞窟を埋めてしまおう」
マルコムの言葉に頷いた俺とジェリコは、ひとまずのところこの場を離れ、小学校を出ることにした。
「すぐ近くに裏口がある。そこから出よう」
小学校地下の裏口から出た途端、無数の銃弾が足元に降り注いだ。
「ちくしょう、上から撃ってきてやがるのか!」
小学校の裏は床や天井が崩れ、吹き抜けのような構造になっていた。
どうやら待ち伏せしていたらしいレイダーの残党が階上からこちらを狙撃しており、俺たちは柱や岩場の影に隠れながら応戦を試みる。
「なんで裏口から出ようなんて言ったんスか!?」と、俺。
「すまん、なんとなくだ!」と、マルコム。
「ふざけんなテメェ!」と、ジェリコ。
そんな漫才をしながら、どうにか反撃するも敵の正確な位置がわからず、それどころか制圧射を受けて効果的な行動が取れない。
「こうなったら、いったん建物の中に引き返して…」
そうジェリコが言いかけたとき、タン、タン、タン、いままでレイダーが発していたものとは違う耳慣れない銃声が響き、次いでレイダーの悲鳴が聞こえてくる。
なにが起きているのか把握できず、俺たちが物影から様子を窺っていると、不意に銃声が止み、あたりがしんと静かになった。
「…なにが起きた?」
そうジェリコがつぶやいたとき、その声に応えるかのように、女の声がした。
「そちらの殿方、猟場にむざむざ飛び込むのは感心いたしませんわ」
月を背に、金めっきが施されたトカレフ・ピストルを手にこちらを見下ろしていたのは、俺とほぼ同じ日にメガトンへと流れ着いた女漂流者、カーチャ・ブリチェンコ。
面識はなかったが、水道の修理や機械整備といった雑用を好んでこなす女の新入りがいるという話は聞いていた。もちろん銃が撃てるなどという話は知らなかったし、ジェリコやマルコムの驚きの表情を見る限り、おそらくは誰も知らなかったのだろう。
もちろん女身一つでウェイストランドを旅していたというのだから、そんなことは謎でも不思議でもないはずだったが…
「女に助けられるとはな。気に喰わねぇ」
「うーん…」
面白くなさそうにそうつぶやくジェリコに、俺は否定とも肯定とも取れぬ曖昧な返事をかえした。
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