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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
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2014/07/01 (Tue)11:34

 かつて、マリスキア公国の存続を脅かす一人の男がいた。



 その名を、フォージ。彼は自らを「狂王」と名乗った。
 その素性を知る者はなく、高位の魔術師である彼は悪魔の軍勢を従え、強力な魔法を駆使しマリスキア公国の半分を我が領土とした。それだけに留まらず、彼はマリスキア公国の土地すべてを奪い、破壊し尽くそうとしたのである。
 彼の目的は富でも権力でもなく、徹底した破壊、それだけだった。
 何が彼をそこまで駆り立てたのかはわからない。ただ、彼は人間をひどく憎んでいるようだった。

 事態を重く見た、時の王ダクネイト一世はただちに軍を召集しフォージの軍勢に攻撃を仕掛けたが、結果は惨敗。最終的に、敵の大軍勢の目を掻い潜りフォージを直接暗殺するため少数の精鋭を派遣することになった。
 公国が恐れていたのはフォージが率いる悪魔達ではなく、フォージそのものだったからである。彼の魔法は山を軽々と消し飛ばし、平原を一瞬で焼き払う。かつて投入した軍隊が敗北したのも、その原因のほとんどがフォージの魔法攻撃によるものだった。
 そしてフォージ討伐のため最後に組織された部隊に、「彼ら」は存在した。



 のちにブラック17の両親となる男女、聖騎士レイル・セイバーと元死刑囚のセレナ・フォークロアである。



 多大な犠牲を払いながらも、敵の本拠地へと乗り込んだ二人はついにフォージを討ち倒す。
 生還したレイルとセレナの二人は英雄となり、やがて二人は歴史の表舞台から姿を消した。

  **  **  **  **

 フォージ討伐から半年後、レイルとセレナの二人は山奥の片田舎に新居を構えた。
 静かな暮らしを求めて、余計なものに関わりを持たぬよう…なぜ二人が世捨て人のような生き方を選んだのか、そのことを知る者はいない。ただ、フォージを討ったことに対してひどく罪の意識があったようだという証言が僅かながら残されている。
 やがて二人の間に一人娘ができたが、ささやかな幸福は長くは続かなかった。

 城を離れる直前、セレナは両腕を切り落としていた。
 それは彼女が力を手に入れるため両腕に悪魔を寄生させていたからであり、その悪影響をなくすため、フォージ討伐後に彼女は自ら進んで手術を受け入れたのだ。
 しかし、それだけでは済まなかった。
 すでにセレナの身体中を回っていた悪魔の血はたびたび彼女の精神を錯乱させ、娘が誕生してから六年後、突発的な凶行に及んだ末に命を落とした。



 セレナの死をきっかけに、穏やかで紳士的な好青年だったレイルの性格に変化が生じた。
 自宅から滅多に外に出ようとはせず、一日中うわごとを呟き、娘に暴力を振るうようになった。やがて暴行はエスカレートし、行為は性的な虐待にまで発展する。
「すまない。愛している」
 泣き叫び、許しを請いながら乱暴を働く父を、しかし娘は受け容れた。
「それで、父が幸せになれるのなら」
 しかしレイルの心神喪失と痴呆の度合いは日を追う毎に酷くなるばかりで、やがて粗相を繰り返し、まともに言葉も通じなくなると、娘はある決意をした。
「これ以上、父さんが苦しむ姿を見たくない」
 そして…



 娘は、父であるレイルを殺した。護身用の短剣で、百回以上突き刺したのだ。

 この事件が表沙汰になることはなかった。娘がレイルを惨殺した直後、何者かが娘を連れ去ったからである。

 レイルも、セレナも、そしてその一人娘も、自分たちがずっと何者かに監視されていることに気づいていなかった。しかし、「彼ら」はたしかに機会を窺い続けてきたのである。
 それが、暗殺者集団<黒の里>だった。

 当時、黒の里に所属していた<賢者たち>が研究していた<プロジェクト・ブラック>は成果に行き詰まりを見せていた。
 それは人間の肉体を極限まで強化するため、血液をすべて悪魔の血と入れ換え、金属骨格や竜鱗の皮膚装甲を移植するというものだったが、改善すべき技術的問題があまりに多く、多大な費用を投資して行なう手術も成功確率が極めて低かった。 
 一番の問題点は、闘争心を喚起し、身体機能を飛躍的に向上させ、そして人工魔法詠唱具<キャスト・デバイス>の起動に不可欠となる悪魔の血の存在だった。ほとんどの人間は移植と同時に拒否反応によって死亡し、手術が成功しても、しばしば躁鬱や錯乱といった精神不安を併発し、それが原因で死亡することも少なくなかったのである。
 そこで彼らが目をつけたのが、悪魔の血が流れる女性の胎内から産まれた、最初から悪魔の血と適合している存在…レイルとセレナの娘だった。



 娘を誘拐した賢者たちはすぐに手術を行なった。
 手術に伴う耐え難い激痛を多量の薬物投与によって無理矢理押さえ込まれ、その影響で娘は記憶を失い、精神を破壊された。
 そして手術後、黒の里への忠誠を刷り込まれ徹底した暗殺教育を受けた娘は、<コード1028>…のちの<ブラック17>として、「造り変えられた」。



 こうして、黒の里の暗殺者…プロジェクト・ブラックの被験者であり、精鋭部隊<ブラック・ナンバー>の十七番目としてのブラック17が誕生した。
 彼女はまだ知らない。自らに待ち受ける運命、そしてその結末を…






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2014/06/29 (Sun)04:03

 なんの変哲もない、いつもの、いつも通りの食事風景。
 彼らと寝食を共にするようになってから、いったいどれだけの時間が経っただろう。
 年月だけを見れば、おそらくは浅い付き合い。でも、私にとってそれは、いままでに経験したことのない…かけがえのない時間。
 人を殺すためだけに生かされてきた私が、はじめて覚えた温もり。
 だけど、それは私には必要のないものだった。
 だから今から私はそれを…一時でも、少しでも大切な存在だと思ってしまった余計な一切合財を、切り捨てる。本来の、あるべき姿に戻るために。
 ブラックナンバーとしての誇りを取り戻すために。

  **  **  **  **



「ブラックハンドから直接指令を受けたんだって?出世したもんだなぁ」
 鋼の鎧を身に纏った大柄のオーク…ゴグロンは、ブラック17に向かって笑いかけた。
 ブラック17も、それに控え目な笑みで答える。
 一方、聖域に来たばかりの頃のブラック17の愛想の無さを知っているオチーヴァは戒めるように口を尖らせた。
「出世という言い方は正しくありませんよ、ゴグロン。彼女はもともとブラザーフッドの人間ではないのですから。それに、私たちの仲間のように言われるのは、彼女も迷惑でしょう」
「あーいや、スマン。このところ、他の家族と同じように接してたもんだからな」
「気にしてないわよ。べつに迷惑なんかじゃないわ」
 申し訳無さそうに頭を掻くゴグロン、そんな彼をブラック17は優しくフォローする。
 オチーヴァが目を丸くして驚く傍らで、ム=ラージ=ダーがあまり嫌味ではない口調で呟いた。
「ともかく、有能な人間はどこへ行っても需要があるってわけだな。うらやましいね、あやかりたいよ」
「それにしても彼女、このところ特に愛想が良くなったと思わない?」
「恥ずかしいこと言わないでよ。でも…ありがとう、アントワネッタ」
 皆が和気藹々と談笑する様子を眺めながら、吸血鬼のヴィセンテは目を細める。
「たとえブラザーフッドの一員でなくとも、かけがえのない仲間には違いない。いつまでここに滞在するのかは私にはわからないが、ここにいる間は自分の家のようにくつろいで欲しい」
「…そうね」
 そう言葉を返したときの、慈しみに溢れたブラック17の瞳の奥底に一瞬だけ冷たいものが走ったのを見た者はいなかった。
 聖域のメンバーがぼちぼち食事を終え、食後酒を嗜んでいたところへ、ブラック17が出し抜けに質問を投げかける。
「ところで、浄化の儀式…って、知ってる?」
「なんだ、そりゃ」
「知りません。教会にそのような風習もなかったと思いますが」
 彼女の口から飛び出した耳馴染みのない言葉に、誰もが首を傾げる。
 しかしヴィセンテだけは例外で、彼はしばらく考え込むような仕草をしたあと、ブラック17に言った。
「風の噂で聞いただけだが…ダーク・ブラザーフッドの言い伝えで、裏切り行為を働いた聖域のメンバーを粛清する血の掟というのが存在するらしい。たしか、それが浄化の儀式と呼ばれていたはずだ。もっとも、信憑性は薄いのだがね」
 裏切り者、という単語を耳にして、その場にいたメンバーの表情に緊張が走る。
 ティナーヴァの死は言うに及ばず、ティリンドリルが帝国軍に情報を横流しし、ブラック17に教会の尖塔から投げ込まれ処刑されてからまだ日が浅い。
 誰もが話題に出さないようにしていたが、メンバーの中から死者が出たこと、のみならず裏切り者まで潜んでいたことに対するショックは未だに癒えていない。
 普段ならメンバーの心象を慮ってとぼけていただろうヴィセンテがあえて口に出した理由が、他のメンバーにはわからなかった。ただ一人、ブラック17を除いて。
 彼女の顔色を窺いながら、ヴィセンテが慎重に訊ねる。
「それで…なぜ、今その話を?」
「もし、私がルシエンに依頼されたのが、その浄化の儀式…だったら、どうする?」
 ブラック17の一言で、場が静まり返った。
 しばらくして、ム=ラージ=ダーが口を開く。
「どういう意味だそりゃあ、浄化の儀式って…聖域のメンバー全員を処刑するだって?で、お前がルシエンから依頼されたってことは…粛清を受ける聖域ってのは、まさか…」
「おいおいビビるなよカジート、ふつう、ブラックハンドからの勅命ってのは他人に知らせないものさ、たとえ家族が相手でもな。つまり、お嬢ちゃんは冗談を言ったのさ」
 大きな音を立てて息を呑むム=ラージ=ダーを冷やかすように、ゴグロンが言った。
 そうだよな?同意を求めて笑いかけるゴグロンに、ブラック17は微笑みを返しながら話を進める。
「残念だけど、冗談じゃないわ。これから、私があなた達を全員殺すの。これはもう決定事項よ」
 はじめは、その場にいた誰もが彼女の言葉を理解できなかった。
 ぽかんと口を開け、やがて言葉の内容を把握したところで、やはりこれはそういうジョークなのではないかという風にしか考えることができなかった。
 いったいどこの世界に、「これからあなたを殺します」と標的に宣言する殺し屋がいるだろうか?それも非武装の一般人や戦いの素人相手ではなく、練達の暗殺者集団に向かって?
 これはブラック17にとって、予想された範囲の反応だった。
 フゥ、彼女はため息をつくと、ふたたび口を開く。
「信じられないようね。それじゃあ、すこしやる気を出させてあげるわ」
 そう言って…



 ザシュッ!
「ゲボッ、ぐ、グゴボッ、ガ、ガハァッ……!?」
 ブラック17はム=ラージ=ダーを背後から取り押さえると、首筋に短刀を突き刺した。
「馬鹿な!」
 その光景を目にしたあとの、他の聖域のメンバーの反応は早かった。
 素早く席を立ち武器を抜いたが、すぐにブラック17に襲いかからず、その場から姿を消したのだ。



「…ふん、魔法でまとめて殺られるのを恐れたか。暗闇に身を潜めて待ち伏せする気か…」
 ドチャッ、ブラック17の拘束から解放されたム=ラージ=ダーが重力に従って仰向けに倒れ、カーペットにどす黒い血の染みができる。
 さて、他の連中はどこに隠れた?それとも逃げたか。
 数において圧倒的に有利なのは聖域の連中だが、追う者、追われる者でカテゴライズするなら、こちらが追う側なのだ。
 短刀にこびりついた血を指先で拭うと、ブラック17は微笑を浮かべながら謳うように呟いた。
「手を鳴らしなさい、鬼を誘うようにね…はやく逃げないと、捕まるだけじゃ済まないわよ」
 居住フロアを抜けて、ブラック17はホールへ向かおうとする。
 すると…



「…そこ!」
 ギィンッ!
 天井から矢のように飛び出してきた「それ」を、ブラック17は短刀の一撃でいなす。
 飛びかかってきたのは、銀製のダガーを握り不敵な笑みを浮かべるアントワネッタだった。
「一度あなたと本気でやりあってみたかったわ」
「あら、そう」
「それに、そろそろ裏切りに怯えて生活するのもうんざりしていたところなの。あなたの首とブラザーフッドの情報を手土産に別の組織へ移るのも手だと思わない?」
「悪くないわね。あなたに、その実力があるなら」
 互いに言葉を交わしながら、ブラック17の視覚を撹乱するように縦横無尽に跳ね回っていたアントワネッタが徐々に間合いを詰めていく。
 そして彼女は、ブラック17が見せた僅かな隙を見逃さなかった!



 ズバシャアッ!
 閃光のような早さで飛びかかるアントワネッタを、ブラック17が一刀のもとに斬り伏せる!
 切断された首が宙を舞い、おびただしい量の血を噴きながら床に転がり落ちた。
「残念だけど…あなたの攻撃よりも、それを見てから私が剣を振るう速度のほうが早いのよ」
 信じられない、という表情のまま絶命するアントワネッタの首を一瞥し、ブラック17はふたたび通路を進みはじめた。
 居住フロアの扉を開けてホールに出たが、人の気配はなかった。気配を消すのが上手いのか、あるいは本当に聖域から飛び出したのかもしれない。
 オチーヴァの執務室の前を通ったとき、ブラック17は扉が開いているのに気がついた。あのアルゴニアンの女性は几帳面な性格だから、扉を開け放ったまま部屋の外を動き回るようなことは決してしないはず。
 部屋の中を覗き込もうとしたところで、鋭い殺気を察知したブラック17は咄嗟に身を引いた。
 スパッ。
 白刃のきらめきとともに暗殺装束が切り裂かれ、ブラック17は僅かに出血する。しかし、襲撃者の姿はどこにも見られない。
「…オチーヴァね?」



 擬態能力を持つ暗殺者…かつて彼女自身が目の前で行使するのを目撃した…その存在に気づいたブラック17は、右目の義眼<シルヴィアの魔眼>と右腕のキャスト・デバイスユニットを直結させ、空間操作を行なおうとする。
 しかし、ザシュッ!ブラック17が技を使うよりも早く、オチーヴァの容赦のない斬撃が繰り返しブラック17の身体を捉える!
「くっ…、小細工をする余裕はない、か」
 ブラック17はオチーヴァの執務室へと入り、壁を背に正面を見据える。



 グジュッ、ズグ!
 いままさに刃を振り下ろさんとしていたオチーヴァの胴を、ブラック17の短刀が貫いた!
「な!ど、どう…して」
「閉鎖空間では攻撃のパターンが限られる。それと、たまにはカーペットを洗濯したほうがいいわよ。姿を消していても、床を踏んだときに塵が舞っては台無しだから」
 ズスッ、ドチャッ。
 ブラック17が短刀を引き抜くと同時に、オチーヴァが半ば透明の姿のまま倒れる。
「残っているのは、ヴィセンテ…と、ゴグロンか」
 あと探していないのは、訓練室か。
 オチーヴァの執務室の向かいにある訓練所の扉を開け、ブラック17は周囲を見回す。
 どこにいる…警戒するブラック17の背後で巨大な扉がバタンと音を立てて閉じた瞬間、強烈な一撃とともにブラック17の身体が宙に投げ出された!



 でかい図体をどこに隠していたのか、どでかい斧を携えたゴグロンがブラック17の目の前に姿を現す。
 ガッ、ドスン、扉に叩きつけられ床に手をつくブラック17に、ゴグロンが言った。
「残念だぜ、お嬢ちゃんとは上手くやっていけると思ってたのにな」
「怨むなとは言わないわ」
「だが、まあ、仕事なんだからしゃあねぇやな。もっとも、せこい手を使わずに正面から挑んできたことには敬意を表するぜ!」
 グオン、言葉を終えると同時に繰り出された斧の一撃を、ブラック17は今度はかわす。
 しかし次の一撃を短刀で受け止めようとしたとき、ブラック17は短刀もろとも吹っ飛ばされてしまった。バキンッ、音を立てて短刀が真っ二つに折れる。
「くがっ、くぅ…」
「おいおい、まさか俺様に力勝負でかなうと思ってるのか?」
 血を吐きながら立ち上がるブラック17に、ゴグロンが僅かに隙を見せる。
 だが、それが命取りになった…あっという間に間合いを詰めたブラック17はゴグロンの頭を掴むと、その巨体を片手で持ち上げ、握りつぶさんばかりの握力で締め上げた。
「ぐぬおおおおっ、ば、馬鹿なっ、こんな…!」
 細腕からは想像もつかない怪力に、ゴグロンが驚きの声を上げる。
 あらん限りの力を振り絞って巨体を揺らし、振りほどこうとするが、ブラック17の腕はびくともしない。
 しかも、彼女の攻撃はそれで終わりではなかった。
「コール・ブラッドキャスト」
『アクセプト、レディ。フリーズ(氷結)…ストーム(暴嵐)…複合構術開始。クリスタル・アイス(輝晶風華)、ラン(起動)』
「ぬおおっ、まさか…魔法か!?」
 ブラック17の右腕に内蔵された人工魔法詠唱具キャスト・デバイスが起動し、右腕の展開とともに核となる魔導球が露出する。
 いよいよ全力で抵抗をはじめたゴグロンだったが、すでに身体から切り離された右手が彼の頭部を掴む力を緩めることはない!



 ガシャン。
 周囲に冷気が満ち溢れ、ゴグロンはその肉体を氷の彫像へと変化させる。
 クリスタル・アイス…肉体の組成変化。
 ゴグロンの肉体が凍ったのではなく、肉体そのものが水の固体へと変化してしまったのだ。
 ブラック17が手を離すと同時に、床に落下したゴグロン「だったもの」は音を立ててバラバラに崩れ去る。
 残るは…ヴィセンテただ一人。
 しかし彼はいったいどこへ向かったというのか。まさか、本当に逃げ出してしまったのか?
 これまでの戦闘でぼろぼろになり、血まみれになりながらも聖域の出口へと赴くブラック17。その背を、刀の一振りが襲った。



 ビシュッ!
 銃弾のように鋭い剣先の一撃をかわし、ブラック17は低い姿勢のまま振り返る。
 体勢を整え、ふたたび刀を構えたヴィセンテが口を開いた。
「まさか残ったのが私だけとは…さすがは最強の異名を持つだけのことはある」
「組織への忠誠を誓うなら、上層部の決定には素直に従うべきだと思うけど…みんなそれなりに抵抗したわね」
「死ねと命令されて、はいそうですかと言えるほど人格者ではないのでね。私自身にしても、何百年生きようと、それは変わらない…組織の命令は真実なのか?それとも、君が単に指令と偽り裏切りを働いているのか?私には判断できないが、いずれにせよ、黙って見過ごすわけにはいかない」
「死にたくないなら、私を殺すことね」
「そうさせてもらおう」
 ヴィセンテの言葉が終わるとともに、ブラック17は次の一撃を警戒する。しかし彼の行動は、ブラック17の予想を上回るものだった。
 彼は、手にした刀をブラック17に向けて投げたのだ!
 それを受け取るような真似はせず、ブラック17は刀を腕で弾き飛ばすことで隙を最小限に留める。それでも、ヴィセンテの接近を許す程度の僅かな隙が生まれてしまった!
 ブラック17に組みついたヴィセンテは、その鋭い牙を彼女の首筋に突き立てようとする!
「人間の血を直に摂取するのは何十年ぶりか…本来あまりこういう手段は好まないが、君には私の下僕になってもらおう!」
 ガッ!
 ブラック17の首筋に噛みつくヴィセンテ、しかし、なにかがおかしい!
「ぐ…が、ば、馬鹿な…!?」
「どう?私の血の味は…私を下僕にするんじゃないの?」
「馬鹿な…おかしいと思っていた。それだけ出血していて、なぜ平然と動き続けることができるのか。それは血ではない、見せかけの液体!そして君のその白い肌、それも肌ではない!」
 擬装用の人工皮膚に、人工血液。いや、血液ですらない、たんなる赤い液体。
 普通の人間を装うため、赤い液体が流れる白い皮を纏った殺し屋。その下にあったのは…
「それは…鱗か?それも、人工的に移植された皮膚装甲。それは…それは、竜鱗か!」
「あなた、生きたまま皮を剥がれた経験はある?生きたまま…身体を『造り変えられた』経験は?脳を生かされたまま骨を抜き取られ、金属の骨格に肉片をべとべと貼られて…身体全体に『悪魔の血』を流され、痛みだけで死ねるような状態のまま、大量の薬物で寝かしつけられたことは?」
 あまりに乱暴な手術、まさしく悪魔のような所業。
 かつて不老不死を夢見た者たちが編み出した外法、それが<プロジェクト・ブラック>。
「なんということだ、彼女には…彼女には、『私の攻撃が通らない!』」
「コール・ブラッドキャスト」
『アクセプト、レディ。フレイム(火焔)…単体術式始動』



「グゥオオオァァアアアアア!!」
 ボン!
 身体の内部から爆発的な発火が起き、ヴィセンテは地獄の亡者のような悲鳴を上げる。
 やがて燃え尽きた彼の肉体は灰と化し、扉の隙間から吹く風によって一面に散っていった。
「…これでいい」
 ブラック17はそう呟くと、扉を開け、聖域の出入り口を偽装するための廃屋の中へと足を踏み入れた。
 やるべきことをやった。
 あの程度の連中を正面から叩き潰せないようでは、ブラックナンバー失格だ。まして、<彼女>を殺すことなど夢また夢。そう思ったからこそ、ブラック17は真っ向から宣戦布告し、聖域のメンバーに戦いを挑んだのだ。
 そして、くだらない感傷や良心と決別すべく、彼らの目を見ながら、彼らの断末魔を聞きながら、彼らの命を奪った。自分が大切だと思ったものを、自らの手でぶち壊すことで、もう後戻りができないように。冷酷非情なかつての自分を取り戻し、心を故郷に帰すために。
 だが…



「はぁっ…はぁっ……!」
 荒い息をつきながら、ブラック17はその場にへたれこむ。
 全身にこびりついた血、自分の、他人の、かつて大切な仲間だと一瞬でも感じた者たちの血を拭うこともせず、ブラック17は呻き声を上げた。
「…うっ…ううっ…く、はぁ…あ、あは…あはは…」
 やがて、苦しそうな呻き声は笑い声へと変わった。
「あは…あはは…あっは、あははは…あはははは」
 彼女は、しばらく笑った。笑い続けた。狂ったように。
 動揺している…なぜ?私は正しいことをしたはず、理屈ではわかっているし、感情の面でも折り合いがついたはず。
 それなのに、なぜ…感情が制御できない?
「あはははは!あっはははははは、はははははははは!」
 笑いたくない、笑いたくなんかないのに!
「うふふふ、うふ、あは、うふはははははは」
 辛いのに、苦しいのに。悲しいのに。
 …なぜ?
 気がつくと、ブラック17は涙を流していた。
 これは、違う。
 そうじゃない。
「ああ…そっか」
 わかってしまった。
 彼らを殺したせいじゃない。それを後悔しているわけじゃない。悲しんでいるのでもない。
「同じだ」
 同じなんだ。
「これって…」
 この感情。
 かつて一度だけ、同じ気持ちになったことがある。それを、ずっと忘れていた。
「思い出した」
 大切なものを、自分の手でぶち壊してしまった感覚。
 これは、そうだ。
「あのときと同じだ」
 あのとき。
 あのときも、私は自分の手で大切な人を殺してしまった。
 大切だった。ずっと愛していた。尊敬していた。
 だから、殺した。殺さざるを得なかった。殺さなければならなかった!

「同じなんだ。父さんを殺したときと」

 すべて、思い出した。

 自分の過去を。

 なぜ、自分がブラックナンバーになったのか。

 なぜ、暗殺者になったのか。

 すべてを思い出した。





2014/06/27 (Fri)12:37

 どうも、グレアムです。最近「ペヤングだばぁ」「スマホを便器にシュート」「洗顔料で歯磨き」という負の三連コンボをかまして深刻な老化が心配されます。
 いままではそんなこと一度もやらかさなかったというか、そんなことやるのは不注意なマヌケくらいだろうとタカを括っていたのですが。いや、その自説を覆す気はないですけどね。上記の悲劇をやらかしたときの俺は、どう考えても「不注意なマヌケ」だったので。




 まぁ、そんなのはどうだっていいんだ。
 今回はOblivion用のMOD「MechaFox」のテクスチャを改造したのでその紹介を。元は白基調(発光ユニットは青)だったのを黒(発光ユニットは赤)に塗り替えるという、以前GhostArmorでやったようなのと同じ感じで。どうしてオタクは(ry
 色にメリハリがなくて見難いのは使用です。…嘘ですスイマセン。
 本当はもっとテクスチャの時点でハイライト乗せるのが基本中の基本というか、でもそこまで労力かける気がなかったので非常に雑な工作となっております。スマヌ、スマヌ…




 魅惑的ハイキック。これは前の部分が塞がっているバージョンですね(というか、こっちがデフォルト)。
 前が開いているバージョンはちょっと見えちゃいけない部分まで見えているので、ninjatoolsでは自粛せざるを得ないィッ!
 そんな仕様から予測されるように、このMODはHGEC用なのであります。胸揺れギミックもついているのでBBB(胸揺れ用のボーン)も必須なのでありますな。ないと胸が凄い伸びる。壊滅的なまでに。
 俺はこのMODのためにBBB(の一部)を入れました。もともと胸揺れにはさほど思い入れがないので、必須MODを動くようにするにはファイルを一つ入れるだけで良かったりする。これがあらゆるモーションで胸揺れ対応とかやろうとするとどえらく面倒らしいのですが。




 月(のようななにか)を背景に夜の街を見下ろす。
 ちなみにデフォルト設定だと鉤爪は戦闘モーション中に出現するようになってますが、オプション(だったかなぁ…)で常時表示することもできます。俺はそうしてます。たしかれどめにやり方が書いてあったはず。




 教会にて。ちなみに、中の人はちびのノルドです。
 じつは当初、この装備をちびのノルドのアナザーコスとして使おうか悩んでましたが、装備そのものの個性が強過ぎるので没に。個人的に使って楽しむだけになってしまった。






2014/06/25 (Wed)09:31



「私は、いったい何を…」
 レーヤウィンからシェイディンハルへと戻る道中。
 小高い丘の上で、日が落ちるのを眺めながら、ブラック17は自らの精神の動揺をどうにかして抑えようとしていた。
 …ここに来てからの私は、どうもおかしい。
 いままでは一時の気の迷いと思い込むことで無視してきたが、ここに至ってはもうそれでは済まされなかった。
「なんてこと…私は…私は…!」
 私は、聖域の連中に親愛の情を感じている。
 ティリンドリルの裏切りを知ったとき、ブラック17はたしかに深い悲しみと、憤りを感じたのだ。そう、裏切り…裏切りと感じたのだ。それは単に組織を裏切ったとかいう話ではなく、ブラック17は自身の心が裏切られたと、あのとき確かに認識したのだ。
 それは、他の聖域のメンバーと同様、彼女に対しても気を許していたからに他ならない。彼女と行動を共にしていたとき、確かに心に安らぎを感じていたからに他ならない。
「私は…あの連中を、まるで本物の家族のように」
 仲間でも気を許すな、それがたとえ同郷の士であっても。
 黒の里の教えをいままで忠実に守り、そしてそれが正しいことだと信じて疑わなかったブラック17は、ただ混乱していた。
 里の教えを守らぬこと、それは里の掟に反すること、それ即ち裏切りと同義である。
 深い絶望の念に捉われていたとき、ブラック17は腰のベルトに下がっていたポーチの中で水晶が輝き出したことに気がついた。
 それは、外界…異世界と交信するための希少な魔道具。
 ブラック17はその通信水晶を手に取ると、右目の義眼とリンクさせて水晶越しに転送されてくる映像を視野に映しだした。



『やぁ、連絡が遅れて済まなかった。そちらは万事滞りなく進んでいるかね?』
「16…随分遅かったじゃない!どれだけ待たせるつもりだったのよ」
『…どうした?』
 いつになく声を荒げるブラック17に、彼女の相棒であるブラック16は眉をひそめる。
 自分が「らしくない」態度を取っていることに気づいたブラック17は、慌てて咳払いをし、気を取り直して話を進めた。
「…ハァ。ところで、調査の方は終わったの?」
『本当に大丈夫かね?』
「うるさいわよ」
『…まぁ、君の心象はさて置くとしようか。我々がこの世界に干渉した、そもそもの目的…皇帝暗殺を邪魔し、標的を横取りした連中の正体が判明した』
 そうブラック16が言った直後、ブラック17の視界に一枚の映像が転送されてくる。



『連中の名は<深遠の暁>、メエルーンズ・デイゴンという邪神を崇拝するカルト集団らしい。奴らの目的はまさに信仰対象である邪神の復活、それもかなり計画が進んでいるようだな』
「邪神、ね…」
 正確に言えば、メエルーンズ・デイゴンは邪神とはすこしカテゴリが異なる。
 この世界における別次元<オブリビオン界>において、<デイドラ>と呼ばれる者たちが存在する。彼らには生死の概念がないため、通常、それらを「生命」と呼ぶことはない。
 その中でも特に強力な力を持つ者は<デイドラ・ロード>と呼ばれ、彼(あるいは、彼女)らは多数の配下を従え自らが支配する領域に君臨している。
 そして十六体存在すると言われているデイドラ・ロードの中でも死と破壊といった災厄を象徴するのがメエルーンズ・デイゴンだ。簡潔に定義するならば、異界に住む異質な知性体の王位階級的存在といったところだろう。
 その性格からブラック16はデイゴンを「邪神」と呼んだが、たしかにそのように認識しているシロディールの人間も多いものの、デイゴン(そして度々人間に不幸をもたらす他のデイドラ・ロード)自身は自らを邪悪な存在だとは認識していない。そもそも、価値観が人間とは根本から異なるためだ。
『これまでの歴史の中でも、デイゴンは度々人間が住む領域<ニルン>に、タムリエル大陸に侵攻したことがあるらしい。もっとも、そのたびに退けられオブリビオン界の自らの領域<デッドランド>に押し込められてきたらしいがね』
「それで…連中が邪神復活を画策しているとして、私はどうすればいいのかしら?」
 いかなる目的を持つどんな存在であろうと、黒の里の任務を阻害した者は許さない。
 当初より「暗殺の標的を横取りするような命知らずは徹底殲滅すべし」と教えられてきたブラック17は、てっきり自分が深遠の暁を壊滅させるよう命じられるものだとばかり考えてきた。
 しかしブラック16の口から出てきた言葉は、その真逆のものであった。
『いいか17、連中に手を貸してやれとは言わん。だが、手を出すな』
「…なんですって?」
『連中の好きにさせてやれ、と言ったのだ。邪神なぞ幾ら呼び出してもらっても構わん、そもそも異界に住まう我々には縁のない話だし、むしろ好都合だ』
「要点が見えないわ」
『邪神復活を利用して、我々は当初の目的を果たすことに決めた。君には話していなかったが、今回の任務は、皇帝の死そのものが目的ではない。為政者の死によって人間界に混乱をもたらし、<ある存在>を呼び出すことが目的だったのだ』
「いい加減に遠回しな言い方はやめてほしいものね」
『わかった、簡潔に言おう。我々は邪神を餌に、そちらの世界に<彼女>を呼び込むつもりだ』
「彼女?いったい誰なの?」
『彼女、さ』
「だから、それはいったい…」
 そこまで言って、ブラック17は「ハッ」となった。



「まさか…<彼女(The She)>?」
『そうだ。彼女は人間世界の危機、人類存亡の事態に必ず訪れる。たとえ、それが異世界であろうと…彼女は、人間を見境なく救う。そして、我々は彼女の死を願っている。次元跳躍、邪神との戦い…それにより消耗した彼女にとどめを刺すため、君がその世界にいるのだ』
「無謀すぎるわ」
 ブラック17は、<彼女>を実際にその目で見たことはない。
 かつて…ブラック17が住んでいた世界は、死にかけていた。世界、惑星が。それはすべて、傍若無人に振る舞う人間の身勝手さが原因だった。やがて世界を司る神、世界そのものといっていい存在が現れ、人類を根絶やしにしようとした。
 そこに、<彼女>が現れた。<彼女>は人間を救うために神を殺し、神の力を取り込むことでより強大な存在となった。より多くの人間の命を外敵から守るために。しかし彼女に惑星の環境を変える力はなく、また彼女は人間が住む環境そのものには関心がなかった。
 そしていま…ブラック17が元いた世界は、堕落した人間の増殖によって滅びかけている。
 かつて、神が死ぬ前の世界において「世界のバランスの調停」を担ってきた暗殺者集団である<黒の里>は、現在その活動方針を変え、「<彼女>という存在そのものの抹消」を目的に動いている。
 しかし…数多の神を殺し、人でありながら人の限界を超越した存在に、自分が太刀打ちできるだろうか?
 そんな疑問を抱いたブラック17に、ブラック16が語りかけた。
『その点はもちろん考えてある。というよりむしろ、こちらの調査のほうに時間を取られてしまったのが実情だ。当初の予定より大幅に連絡が遅れたのはそのためだ』
「何の調査をしていたの?」
『どうやら、シロディールには十六のデイドラ・ロードが造りし遺物…アーティファクトと呼ばれる魔道具が存在するらしい。君にはそれを収集してもらう』
「異界の神が造り出した道具の力を借りて、<彼女>を殺せ…と?」
『そういうことだ。ああ、それから』
 最後に、「忘れていたが」というふうに、ブラック16が言葉を付け足した。
『情報収集が完了したことで、ダーク・ブラザーフッドは利用価値を失った。もう連中に従う必要はないぞ…煮るなり焼くなり、好きなようにするがいい』
 そう言って、ブラック16は一方的に交信を打ち切った。
 ブラック17が握っていた通信水晶がパキリと音を立てて割れ、義眼越しの視界にノイズが走る。
 もともとブラック17がダーク・ブラザーフッドのために働いていたのは、この世界における情報収集を委託した際の交換条件だった。
 こちらの目的さえ達成されれば、こんな連中皆殺しにしてやる…ブラック17も、最初はそのように考えていた。それを理解していたからこそ、ブラック16もあのような物言いをしたのだろうが、しかし、今となっては自分がどうしたいのか、ブラック17にはわからなくなっていた。
「…とりあえず聖域に戻って、連中の出方を待つとしましょうか」
 そう言って立ち上がると、ブラック17はふたたびシェイディンハルに向かって駆け出した。

  **  **  **  **



「随分とまた…面倒なところに呼び出されたものね」
 シェイディンハルの聖域へと帰還したブラック17は、オチーヴァから一通の指令書を手渡された。
 それは、ルシエン・ラチャンス…はじめてブラック17がシロディールを訪れたときに彼女をシェイディンハルの聖域へと導いた男であり、ダーク・ブラザーフッドの幹部ブラックハンドの一人…彼の直筆によるものだった。
『あらかじめ注意しておく…この手紙の内容は君以外の者に知られてはならない!昨今の聖域内での裏切り行為と、それに伴う人員の損耗については既知のことと思う。そのことについて、特に部外者である君に相談したいことがある。ついては、シェイディンハル北東部のファラガット砦内部にある私の隠れ家に立ち寄ってほしい』
 本来なら、もう関わらなくても良いはずのもの。
 しかしブラック17には未だに迷いがあった。なによりブラック16は「もう連中に関わらなくてもいい」とは言ったが、「連中に関わるな」とは言わなかった。
 せめて、事の顛末を見届けるまで…あの聖域に安息が訪れるまでは、自分にできることであれば、力になりたい。
 そう思い、彼女はいまファラガット砦の入り口に立っていた。
『追伸…砦の内部には、かつてダーク・ブラザーフッドの一員としてシシスに仕えた同胞の亡骸を護衛代わりに徘徊させている。避けてくれればそれに越したことはないが、もし接近遭遇してしまった場合、躊躇なく破壊してもらって構わない』
「まったく…面倒よね」
 手紙の文面から視線を上げ、漆黒の鎧を身に纏ったスケルトンが周囲を巡回している姿を見たブラック17はため息をつく。
 できれば避けてほしい、だと?
 ブラック17は短刀を抜くと、近くにいたスケルトンに向かって真正面から立ち向かっていった。
「血が出ないのは不満だけど…気晴らしの相手になってもらうわよ」

  **  **  **  **

「彼女は無事到達できるだろうか…」
 一方、砦の最深部にて待ち構える男…ルシエン・ラチャンスは、ブラック17の身を案じていた。
 立て続けのトラブルで情緒不安定になりつつある、という報告は、オチーヴァから受けていた。ブラック17の実力を疑うわけではないが、人間というのは、僅かな隙が命取りになる。
 それに、黒の里との間で情報交換が済んだ以上、そもそもここへはやって来ないのでは…
 そう思っていた矢先、亡者の巣窟と居住スペースを隔てる鉄格子に髑髏の頭部が投げ込まれた。カシャン、乾いた音を立てて砕け散る頭骨を視界に捉え、その先にマントを羽織ったブラック17の姿があった。



「あなた、いつもこんな湿っぽい場所にいるの?」
「影に敬意を払うのだ、さすれば…案外と居心地が良いものだよ、こんな場所でも。意外と元気そうでなによりだ」
「…誰かから余計なことを聞いた?」
「いや、失礼。忘れてくれ」
 傍らに設置されているレバーを使って鉄格子を跳ね上げ、ルシエンはブラック17を招き入れる。
 マントを折り畳みながら、ブラック17は単刀直入にルシエンに尋ねた。
「それで、何の用?」
「じつは折り入って君に頼みたいことがある。これは、本来部外者である君にしか相談できないことだ…ところで、シロディールの住み心地はどうかね?」
「どういう意味?」
 核心を避け、世間話の水を向けるルシエンにブラック17は眉をしかめる。
 手紙の文面はいかにも事態が逼迫している様子を表していたが、それだというのに、ここに来てむざむざ時間の浪費をするとは、どういうわけだ?
 この質問には、なにか裏がある…そう直感したブラック17は、慎重に口を開いた。
「まあ、悪くはないわね」
「そうか、それは良かった。いや、遠まわしな質問はやめて正直に話そう…我々ダーク・ブラザーフッドと君たち黒の里の間にはもはや契約関係はない、それはわかっているね?」
「ええ。先日私の相棒から、もうあなたたちとは関わらなくていい…と言われたわ」
「そうか。まあ、そうだろうな。だが、我々は…できるなら、君を我が組織に迎え入れたい。もちろん、それなりの待遇は約束する。それに、もし君の故郷から追求があるようなら、それを退ける用意も」
「できると思うの?」
「我々も君の組織を観察していたのだ…君たちはまだ、この世界に積極的に干渉することはできない。違うかね?君がいまこの場に立っていること…立てていることも、相当に無理な術式の行使があってこそのはず」
「否定はしないけれどね…でも、あなた、本気で言ってるの?」
「ああ」
 短く返答するルシエンの表情は真面目そのものだった。
 おそらく、黒の里に戻れば…戻れれば、の話だが…また、殺すためだけに生かされる日々を送ることになるだろう。生きる喜びのないまま、言われるがままに他者の生命を奪い続けるだけの日々に戻るのだ。
 だが、シロディールにいれば…暗殺稼業を続けることに変わりはないにしろ、私生活はもっと潤ったものになるに違いない。
 ブラック17はしばらく押し黙り、この懸案事項について考え続けた。
 駄目だ、黒の里は裏切れない…それにルシエンが、たとえばティリンドリルのように自分を嵌めようとしていないとも限らないのだ。
 けっきょく、ブラック17の答えはひどく煮え切らないものになった。
「…今は結論を出せないわ」
「そうか。まあ、君たちにも本来の目的があるだろうしな。それ自体は我々とは関わりのないものだし、すべてを片づけてから改めて考えてくれても構わない」
 ルシエンの反応はさっぱりしたものだったが、その表情を見る限り、明らかに落胆していた。
 こいつは本当に私を「あて」にしているのだろうか?ブラック17は訝った。
 しかし、今はそんなことはどうでもいい。本来、これは本題のついで…オプションにあたる項目だ。
「それで、何のために私を呼んだの?まさか今のが話の核心ではないでしょう」
「ああ、そうだな。話を戻そう…レーヤウィンでの件は聞いたよ。標的の暗殺には失敗したが、君は裏切り者の抹殺に成功し、そして見事にあの場から逃げ延びた。これは賞賛されて然るべきことだ」
「光栄だわ」
「だが残念なことに、裏切り者はティリンドリルだけではなかった。組織内での裏切り行為はなおも続いており、未だに犠牲者が増え続けている」
「難儀な話ね。それで、その裏切りの端緒は?まさかシェイディンハルの聖域ではないでしょう?」
 まさか、この期に及んでまだあの場に裏切り者が潜んでいるはずがない。
 それは半ばブラック17の願望のようなものだったが、しかし、ルシエンの言葉はその期待を裏切るものだった。
「残念ながら…裏切りはシェイディンハルからはじまっている。巧妙に隠されてはいるが、我々の目は誤魔化されない」
「じゃあ、私に頼みたいことっていうのは…裏切り者狩り?」
「ある意味ではそうだ」
 ルシエンがなにやら含みのある言い方をした。嫌な予感がする。
「もはや、シェイディンハルの聖域は機能していない…と言わざるを得ない。裏切りの横行と、裏切りに向けられる猜疑心。裏切り者は、そうでない者にも毒のように悪影響を伝播させてしまった」
「何が言いたいの」
「君に依頼したいのは、<浄化の儀式>…聖域のメンバー全員の抹殺だ」



 浄化の儀式。
 ルシエンの言葉を聞いたとき、ブラック17は頭の中が真っ白になった。
 彼らを…聖域の皆を、殺す?
「…冗談よね?」
「疑う気持ちはわかる。我々も、有能な暗殺者たちをみすみす死なせることに抵抗がないわけではないのだ。長いダーク・ブラザーフッドの歴史の中でも、この浄化の儀式は過去に二回しか行使されたことがない。だが、もう裏切り者を探し出し、そいつだけを殺せば済む問題ではなくなっているのだ」
「もし、断ったら?」
「別の者が儀式を代行する、それだけだ。君を追及するつもりはないし、君は…あの聖域に、彼らに愛着を持っているようだ。だからこそ君自身の手で、と思ったのだが、目を背けたいならば…無理は言うまい」
 そう言って、ルシエンは口をつぐんだ。考える時間を与えよう、というわけだ。
 イエスだろうと、ノーだろうと、ルシエンが欲しがっていたのは明確な返事だった。これはさっきのようにはいかないだろう。急すぎるとか、そもそも任務の正当性に疑いがあるとか、また日を改めてとか、そういうくだらない戯言は通用しないはずだ。
 聖域のメンバーを死なせない方法はないか…ブラック17はその可能性について模索してみたが、少し考えただけで無駄なことだと悟った。
 これがルシエンの独断専行でなければ、組織はシェイディンハルの聖域の壊滅を確認するまで追求の手を緩めることはないだろう。戦争になる。聖域の皆を守るために、ダーク・ブラザーフッド全体を敵に回す…荒唐無稽な話だ。できる、できないの話ではない。わずかな命を救うために、より多くの命を奪えるか。これはそういう決断だ。あまりにも馬鹿げていた。
 なにより、聖域のメンバーがダーク・ブラザーフッドの手を離れて活動できるとは思わなかった。あれはあれで、頭から足先まで組織の流儀にどっぷりと浸かっている。暗殺者として有能であることに変わりはないだろうが、所詮は狂人の集まりだ。
 そういうわけで…ブラック17はまだ口には出さなかったが、返事はすでに決めていた。
 理屈は片付いた。問題は感情面での折り合いだ。ブラック17には未だ、自分が彼らを…オチーヴァ、ヴィセンテ、ゴグロン、アントワネッタ、ム=ラージ=ダーを殺すビジョンを思い描くことができないでいた。
 逡巡する彼女を後押しするかのように、ルシエンが言葉を付け加える。
「もし、依頼を受けてもらえるなら…アドバイスがある。彼らも練達の暗殺者だ、まともにやりあえば無事では済むまい。私なら、毒殺を図る。彼らは任務の外、プライベートでは気を緩める傾向がある。それに毒ならば、余計な苦しみを与えることなく彼らの魂をシシスの許へ送ることができるだろう」
 それは、おそらく親切からであったのだろう。それと、プロとしての助言。
 しかしその一言が、ブラック17の癇に障った。
 いままでずっと黙っていたブラック17が、突然、笑い声を上げる。
「…ふっ、ふふふ…あはっ、あはは」
「どうしたのだね?」
「あは、あはは。ふふっ、うふふ、あははははは」
 最初は押し殺した笑いだったのが、だんだん声が大きくなり、しまいには甲高い笑い声になる。
 狂ったように笑い続けながら、ブラック17は言った。
「いいわ、やるわよ。連中を全員殺せばいいんでしょう?」
「…大丈夫かね?」
「大丈夫か、ですって?私を愚弄する気?私を誰だと思ってるの…毒殺?笑わせないで」



 ブラック17は手に抱えていたマントをふたたび羽織ると、ルシエンに背を向けた。
 彼女が踵を返す直前、その瞳を覗いたルシエンは、思わず頬を引きつらせた。その目に、たしかな狂気が宿っていることを認識して。
 さっきまでの動揺や逡巡がまるで嘘のように、ブラック17は気狂いじみた壮絶な笑みを浮かべると、ルシエンの一言がきっかけで心の迷いに決着をつけられたことを心の中で彼に感謝した。
 …いままで、なにを下らないことに頭を悩ませていたのだろう?
 毒殺、余計な苦しみを与えず…そう聞いたとき、一瞬、それもいいかもしれない、と思ったのだ。だがそう思った瞬間、ブラック17の心の奥底に眠っていたプライドが怒りの炎を吹き出し、彼女の脳を焼き尽くした。
 こそこそと毒を盛る?標的を気遣う?冗談じゃない!
 私はブラックナンバー、黒の里最強の殺し屋なのだ。いかなる障害をも力で捻じ伏せ、叩き潰す。人間など、生命など、ゴミクズ以下の価値しかない。何も迷う必要などない。
 聖域の連中を皆殺しにしてやる、下らない感傷ごと!すべてを消し去ってやる!
「見せてあげるわ…黒の里のやりかたを。私たちの流儀を」
 そう言って姿を消すブラック17の背中を見守りながら…ルシエンは、彼女に浄化の儀式を任せたことを後悔しはじめていた。
 なにか、とんでもないことが起こりそうな予感がする…





2014/06/23 (Mon)06:01

 どうも、グレアムです。Lost Alphaもそろそろ大詰めな予感ですよ。




 CNPP到着と同時にMilitaryと協力せよ、とのお達しが。この期に及んで子守は勘弁だぜ、と思いきや、そこに待っていたのは完全重武装の精鋭軍団!ここでは彼らとともにMonolith兵をサーチ&デストロイしていくことになる。
 ここではバニラでMilitary StalkerとともにPripyatを駆け抜けたとき以上の興奮体験が待っている!BTRとの戦闘を皮切りに、あれだけ憎かった武装ヘリが全力で支援(機銃、ロケット、はっきり言ってオーバーキルだ!)してくれる。もちろんMonolith兵も負けてはいない、大勢がこぞってRPG-7を持ち出し迎撃してくるという凄まじい様相に。
 さらにテレポーターから送られてくるMutantの津波を撃退したあとは、Strelok自らがBTRを操縦(機銃も撃てるよ!)しMilitaryのRecon Unitをサポートすることになる。
 CNPP外周のMonolith兵を始末すると、指揮官のMakarovがCNPP内部に侵入するためのコードを教えてくれる。端末に番号を入力し、中へ入ろう。




 内部に侵入ししばらく進むと、謎の幻覚とともにMonolithの呼び声が聞こえるようになる。
 じつはここでMonolithに接触するか、それともコントロール・ルームのパワーを復旧させるかでエンディングが分岐する。お約束だが、まずはMonolith様の御威光を拝みに行こうか。
 Monolithに近づくと、Strelokの背後に二つの影が迫る。Sinと、そしてあのメガネゴリラ!もとい、ブサイクになったFang!FangはStrelokに襲いかかる、自分こそがMonolithに相応しい存在だと言わんがばかりに。おそらくStrelokやGhostとツルんでいたのも、Monolithと接触するため利用していたに過ぎないのだろう。




 しかしStrelokは隙を突いてFangを撲殺し、何も言わず佇み見守るだけのSinの前で自らの欲望を曝け出す。




 やったーお金だ!オカネダイスキー!




 …とまぁお約束を果たしたところで、そろそろ真実へ向かうための攻略を進めようか。
 コントロール・ルームの動力を復旧させるためのバッテリーは、Monolithへ向かう道すがらのガラクタ山(火が爆ぜている場所)の見つけにくい場所にある青いBoxの中に入っている。ちょうど、通路になっている瓦礫の陰のあたりだ。
 そして入手したBattery caseをマーカーが指し示す機械にセットするわけだが、これの判定もちょっと気難しくなっている。調べる箇所は機械のちょっと下の部分あたりだ。そいつに成功したら動力不足で動かなかったPCを起動し、ジェネレータのオーバーライド用コードをPDAにDLしよう。
 ちなみにジェネレータへ向かうにはCNPP内部からではなく、一度来た道を戻りCNPP外周部へ出たあと北に位置する移動ポイントを経由することになる。CNPPを出るとMonolith関連のタスクは自動的に失敗扱いとなり、あとは真実へ到達するための道を邁進することになる。

 ちなみにこのCNPP内部、やたらに強制終了の頻度が高い。ほとんど五分に一度のペースだ。
 どうもグラフィック処理関連をミスッているらしく、クイックセーブ直後に強制終了したデータを読み込んでも正常に再開できるあたりはまだ救いがあるか。




 Generatorへ到着すると、そこには先行していたGhostが。彼に続き、最後の城…X2研究所へと向かうことになる。
 ちなみにここ、Build1935公開当初にYouTube上でアップロードされた映像の中に登場した気がするのだよな。そんなわけで若干テンションを上げつつ、謎の幻覚や幻覚じゃないMutant、そしてX2の入り口周辺を守っていたMilitaryをどうにかしながら研究所へ突入。




 単身X2へ潜入すると、いきなり謎の発光体に出迎えられる。おそらく、彼がCC計画の研究主任だろう。
 X2の構造はバニラのX18に近い。ここでもまずは動力を復旧させるためにあちこち走り回ることになるが、これもマーカーがついているのでそれほど苦労することはないだろう。ないはずだ。たぶん。




 ここではかなりの数のカットシーンが用意されている。
 どうもCC計画ははじめ政府主導で軍の監視下のもと進められていたらしいが、研究内容を独占したい一部の研究員の暴走により大惨事が発生してしまったらしい。このあたりのシーケンスはバニラのものよりかなり生臭いというかドロドロしており、また驚くべきはそれを阻止しようとした研究員もいた、ということだ。
 AKを手に同僚を脅した研究員、「こんな非人道的な研究はすぐに破棄されるべきだ!」そう言い放つと、シリンダーに入った(おそらく意識統合のためだろう)賢人たちを容赦なく撃ち抜いていく。そう、まるでかつて(=バニラの真END)のStrelokのように…しかし彼自身も命を落とし、けっきょく惨劇を止めることはできなかったらしい。
 研究所内には「倒れた椅子+首吊り死体」という黄金の組み合わせがあったり(罪の意識に耐え切れず自殺したのだろうか)、なかなかに凄惨な様子が浮き彫りになっている。




 Strelokを阻止しようと目論む邪悪な意思を打倒し、ジェネレータのメインコンソールへと到達。直前のカットシーンで操作していたPCにはいままでPDAにDLしてきた重要情報の全てが詰まっているが、残念ながらここで調べる価値はない(マーカーはなぜかそのPCを指しているが)。
 ジェネレータのスイッチを操作し、付近に出現したテレポーターに入ればすべては終わりだ。Strelokの帰還を待ち侘びるGhostへ会いに行こう。いままで決して聞くことのなかった小鳥のさえずりを背景に…




 ZONEに訪れた夜明けを見つめながら、わんわんと戯れるStrelok(このアーマーは俺の最終装備です)。これはZONEの支配下から逃れたことでMutantの凶暴性も失われたということなのか、それともStrelokがDoctorと同様の能力(通称:ムツゴロウ王国)を得たということなのか。
 最後は緑の大地に寝そべるStrelokと、トンボが空を飛ぶ映像で〆。




 そんなことがあったんですよ、シドお父さん。
「なんだって?そりゃあモノリス様もビックリだ!」
 エンディング後はCordon、ゲームスタート時にStrelokが目覚めた場所から再開する。




 ところで、ルーキー・キャンプの近くに見覚えのない死体が。
 なんだこれ、Lonerか?アノマリーにでもやられたのか?なにやらPDAなんか持ってるが、どうせ意味のない換金用のアイテムだろう…
「ピロリッ)タスク更新音」
 …おや。

 エンディングを迎えただけでは終わらない、Lost Alphaの旅はまだまだ続く。

 そんなわけで、ようやっとクリアしましたですよ。
 途中、いろいろ詰まったり疲れたりわけのわからない箇所があったりしましたが、不思議な魅力に突き動かされてそれなりに楽しく進めることができました。
 Lost Alpha(失われたα版)の名がどこまで真実なのか(バニラとの差異が元々GSCの用意していたシナリオなのか、それともLost Alphaチームの創作なのか?)はわかりませんが、それでもシナリオ部分にかなりウェイトが置かれた本作は錬達のStalkerにとってかなりの刺激となることでしょう(というか、Stalkerに思い入れのない人がプレイしても面白くないだろう…これ、賛辞です、いちおう)。
 個人的にはMAPの探索がかなり楽しかったですね。楽しいといってもJoyというよりはFeel、嗜むといった表現が正しいかもしれませんが。ゲームを遊ぶというより、ZONEを感じるためにプレイしているような感覚でした。
 ともあれこのLost Alpha自体がまだ未完成のα版ということで、これからも当MODの動向に目が離せないのですぜ。





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