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2014/07/01 (Tue)11:34
かつて、マリスキア公国の存続を脅かす一人の男がいた。
その名を、フォージ。彼は自らを「狂王」と名乗った。
その素性を知る者はなく、高位の魔術師である彼は悪魔の軍勢を従え、強力な魔法を駆使しマリスキア公国の半分を我が領土とした。それだけに留まらず、彼はマリスキア公国の土地すべてを奪い、破壊し尽くそうとしたのである。
彼の目的は富でも権力でもなく、徹底した破壊、それだけだった。
何が彼をそこまで駆り立てたのかはわからない。ただ、彼は人間をひどく憎んでいるようだった。
事態を重く見た、時の王ダクネイト一世はただちに軍を召集しフォージの軍勢に攻撃を仕掛けたが、結果は惨敗。最終的に、敵の大軍勢の目を掻い潜りフォージを直接暗殺するため少数の精鋭を派遣することになった。
公国が恐れていたのはフォージが率いる悪魔達ではなく、フォージそのものだったからである。彼の魔法は山を軽々と消し飛ばし、平原を一瞬で焼き払う。かつて投入した軍隊が敗北したのも、その原因のほとんどがフォージの魔法攻撃によるものだった。
そしてフォージ討伐のため最後に組織された部隊に、「彼ら」は存在した。
のちにブラック17の両親となる男女、聖騎士レイル・セイバーと元死刑囚のセレナ・フォークロアである。
多大な犠牲を払いながらも、敵の本拠地へと乗り込んだ二人はついにフォージを討ち倒す。
生還したレイルとセレナの二人は英雄となり、やがて二人は歴史の表舞台から姿を消した。
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フォージ討伐から半年後、レイルとセレナの二人は山奥の片田舎に新居を構えた。
静かな暮らしを求めて、余計なものに関わりを持たぬよう…なぜ二人が世捨て人のような生き方を選んだのか、そのことを知る者はいない。ただ、フォージを討ったことに対してひどく罪の意識があったようだという証言が僅かながら残されている。
やがて二人の間に一人娘ができたが、ささやかな幸福は長くは続かなかった。
城を離れる直前、セレナは両腕を切り落としていた。
それは彼女が力を手に入れるため両腕に悪魔を寄生させていたからであり、その悪影響をなくすため、フォージ討伐後に彼女は自ら進んで手術を受け入れたのだ。
しかし、それだけでは済まなかった。
すでにセレナの身体中を回っていた悪魔の血はたびたび彼女の精神を錯乱させ、娘が誕生してから六年後、突発的な凶行に及んだ末に命を落とした。
セレナの死をきっかけに、穏やかで紳士的な好青年だったレイルの性格に変化が生じた。
自宅から滅多に外に出ようとはせず、一日中うわごとを呟き、娘に暴力を振るうようになった。やがて暴行はエスカレートし、行為は性的な虐待にまで発展する。
「すまない。愛している」
泣き叫び、許しを請いながら乱暴を働く父を、しかし娘は受け容れた。
「それで、父が幸せになれるのなら」
しかしレイルの心神喪失と痴呆の度合いは日を追う毎に酷くなるばかりで、やがて粗相を繰り返し、まともに言葉も通じなくなると、娘はある決意をした。
「これ以上、父さんが苦しむ姿を見たくない」
そして…
娘は、父であるレイルを殺した。護身用の短剣で、百回以上突き刺したのだ。
この事件が表沙汰になることはなかった。娘がレイルを惨殺した直後、何者かが娘を連れ去ったからである。
レイルも、セレナも、そしてその一人娘も、自分たちがずっと何者かに監視されていることに気づいていなかった。しかし、「彼ら」はたしかに機会を窺い続けてきたのである。
それが、暗殺者集団<黒の里>だった。
当時、黒の里に所属していた<賢者たち>が研究していた<プロジェクト・ブラック>は成果に行き詰まりを見せていた。
それは人間の肉体を極限まで強化するため、血液をすべて悪魔の血と入れ換え、金属骨格や竜鱗の皮膚装甲を移植するというものだったが、改善すべき技術的問題があまりに多く、多大な費用を投資して行なう手術も成功確率が極めて低かった。
一番の問題点は、闘争心を喚起し、身体機能を飛躍的に向上させ、そして人工魔法詠唱具<キャスト・デバイス>の起動に不可欠となる悪魔の血の存在だった。ほとんどの人間は移植と同時に拒否反応によって死亡し、手術が成功しても、しばしば躁鬱や錯乱といった精神不安を併発し、それが原因で死亡することも少なくなかったのである。
そこで彼らが目をつけたのが、悪魔の血が流れる女性の胎内から産まれた、最初から悪魔の血と適合している存在…レイルとセレナの娘だった。
娘を誘拐した賢者たちはすぐに手術を行なった。
手術に伴う耐え難い激痛を多量の薬物投与によって無理矢理押さえ込まれ、その影響で娘は記憶を失い、精神を破壊された。
そして手術後、黒の里への忠誠を刷り込まれ徹底した暗殺教育を受けた娘は、<コード1028>…のちの<ブラック17>として、「造り変えられた」。
こうして、黒の里の暗殺者…プロジェクト・ブラックの被験者であり、精鋭部隊<ブラック・ナンバー>の十七番目としてのブラック17が誕生した。
彼女はまだ知らない。自らに待ち受ける運命、そしてその結末を…
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