主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2012/07/09 (Mon)10:47
「よくやってくれた。それこそが最後のアイレイドの彫像だ」
ユンバカノは極めて控え目な、それでいて強い達成感を窺わせる表情でそう言った。
前回のマラーダ…通称<高地神殿>での1件のあとも、ドレイクはこれまで通りにユンバカノの捜し求めるアイレイドの彫像の探索をつづけていた。
特定のモノを探すにはシロディールはあまりにも広く、そして大陸各地に存在しているアイレイドの遺跡すべてに目当ての彫像があるわけではない。空振りと徒労が続くなか、ドレイクは自身が見つけた3個目の彫像をユンバカノの元へ届けに来たとき、上の台詞を聞いたのだった。
「見たまえ、わたしが職人に依頼して作らせた特注のケースだ。そしていま、ここにあるべきものがすべて揃った。素晴らしい、壮観だと思わないかね、ドレイク君?」
「まったくです」
ドレイクは生返事をしながら、ケースに10個並ぶアイレイドの彫像を眺め、内心でため息をついた。
なるほど、どうやら他の7個は別のトレジャーハンターが見つけてきた物のようだ。自分だけが任された仕事ではなかったのだな…と内心で苦々しく思いながらも、これでようやくユンバカノから開放されるのだという安堵も同時に感じていた。
わざわざドレイクがブラックマーシュからシロディールくんだりまでやって来たのは、学者の使いっ走りになるためではない。ドレイクにはドレイクの目的があるのだ。もっとも今回は止むに止まれぬ事情でユンバカノに協力しているのだが。
「彫像がすべて揃ったということは、俺はもうお役御免ですかな?」
「とんでもない。君にはまだやってもらいたい仕事がある、それも最後の総決算だ」
「…なんですと?」
てっきり「その通りだ、名残惜しいがもう君は用済みだから、ここから消えたまえ」などと言われるのだろうなと考えていたドレイクは、ユンバカノの口から飛び出した言葉に衝撃を受けた。
「最後の総決算、と言いましたね」
「その通り、すべては今日この日のために準備してきたようなものだ。君さえ良ければ仕事を任せたいのだが、話を聞けばもう後戻りはできなくなる。どうするね?」
「如何する、と?俺に選択肢があると考えたことはありませんでしたが」
「あまり乗り気ではないようだね」
そう言って、ユンバカノが苦笑を漏らす。しかし気分を害した様子はまったく見られず、むしろ愛想は普段以上に良い。
不気味だな…とドレイクが内心で警戒する傍ら、ユンバカノは話を続ける。
「しかしわたしのこれまでの行動は、すべて1つの目的のために行なわれてきたものだ。きっと君なら理解してくれると思っている」
「あまり、遠まわしな言い分は得意ではないが」
「まあ、そう急くこともないだろう。宜しい、それでは簡潔に述べるとしよう…わたしの目的とは、そう、言うなればルーツの探求だ」
「…ほう?」
ルーツの探求。
その言葉を聞いたドレイクの視線が鋭くなる。
「自身の故郷、自身の祖先、自身の血族。それらを知ることは非常に意義のあることだ。まして、偉大な祖先に瑣末な形ではあるとはいえ、恩返しができるのならば、尚更…ね」
「なるほど。詳しく話を聞きましょう」
いままでの出鱈目な態度がまるで嘘のように、ドレイクは真剣な眼差しでユンバカノの話に耳を傾けはじめた。
じつのところ、ドレイク自身も「ルーツの探求」というものに対しては一家言ある男なのだ。本来の目的ではないとはいえ、シロディールに来た目的の1つは自身のルーツへの知識を深めることなのだから。
どうやら理解者を得ることに成功したようだと確信したユンバカノはニンマリと笑みを浮かべると、話を続けた。
「一般的にアイレイドとは1つの巨大な文明だと誤認されているが、実際は多数の小国が集合したものだった。そして小国同士の争いは絶えず、そこを利用されてアレッシアに滅ぼされてしまったのだよ」
「以前、クロードから借りた資料…<神殿の浄化>、でしたか。あれにも当時の記録が残されていましたね」
それにしても、とドレイクは思う。
内紛を利用してアイレイドを滅ぼしたアレッシアを、まるで卑劣な悪者であるかのように語るユンバカノの態度はいささか気になるものだ。
なぜならアレッシアのアイレイド討伐劇は、一般的には「奴隷制を強行し非道な魔術を使う悪しきアイレイドを、正義の使者アレッシアが退治した」というイメージで語られるため、特にここシロディールではアレッシアの行為の正否を問うだけで異端者扱いされかねない。ましてアレッシアを悪者のように扱うなど気狂い沙汰である。
「しかしアレッシアも、自身の勢力だけでアイレイドすべてを滅ぼしたわけではない。じつは、アレッシア派に手を貸していたアイレイドの勢力があったのだ…彼らは戦火ののちにアレッシア派と友好関係を結び、報奨として滅亡したアイレイドの領地の一部を獲得した。しかしアイレイド文明に批判的なアレッシア派の過激な勢力が彼らを襲撃し、討ち滅ぼした。これは、れっきとした裏切り行為だ」
「たしかに」
「しかし彼らは滅びる最後の一歩手前まで激しい抵抗を続け、自らの一族の名誉を守ろうとした。その尊い姿に、極少数存在していたアイレイド支持派は感銘を受け、彼らを<最後のアイレイドの一族>として内々に語り継いできた」
そこまで一気にまくし立てたあと、ユンバカノは一旦言葉を切って深く息を吸い込んだ。
天井を見つめながら、ユンバカノはぽつりと、しかしはっきり聞こえる声で、こう言った。
「最後のアイレイドの一族を率いし、最後のアイレイドの王。その名はネナラタ。わたしには、その血が流れている」
「そうだったのか…」
なるほどアレッシアに恨みにも似た感情を持つのも無理からぬことだと、ドレイクは思った。
アレッシアのために正義の戦いに手を貸したにも関わらず、戦争が終わると用済みとばかりに消された祖先の無念。もちろんネナラタ王がたんなる正義感や義憤でアレッシアに手を貸したとは思わないが(敵対勢力を効率よく潰す、というのが最大の目的だったのだろう)、だからといって友好勢力(だったはずのもの)に一方的に滅ぼされていい道理はない。
ドレイクの祖先もタムリエルの民に友好的とは言い難い勢力だったため、ユンバカノの境遇に幾許かの理解を示していた。
しかしいまは、歴史の講義よりも気になることがある。
「それで、俺に頼みたい仕事っていうのは?」
「ネナラタの王が身につけていたもので、現存しているアーティファクトがある。王冠だ。それは王位の象徴であり、祖先の残した偉大なる遺産だ。わたしはそれが、博物館で衆人の慰み物にされたり、学者の棚の飾りとして扱われるのは不適当だと感じている」
「つまり王冠を手に入れて来いってことか?」
「そうではない」
単刀直入なドレイクの物言いに、ユンバカノはイタズラ坊主を諭す年長者のような笑みを浮かべた。
「王冠なら、すでに手配済みだ。まだ手元にはないが、すぐにわたしの元へ届く手筈になっている。王冠が手に入り次第、わたしの念願であり、悲願だった計画を実行することになる。君にはその協力者になってもらいたい」
「それで、王冠を手に入れてどうすると?」
「決まっているだろう」
ユンバカノは、断固とした口調で言い放った。
「一族のもとへ返す」
「よぉー、爬虫類の旦那」
3日後。
ネナラタの遺跡へとやって来たドレイクの目の前に、王冠を手にしたユンバカノと、前回とうってかわって軽装鎧に身を包んだクロードの姿があった。ドレイクが疑問を口にする。
「臆病なんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったかな。いやなに、そんときの気分てやつさ。気にしなさんな」
2人の背後に目をやると、そこにはユンバカノ邸に護衛として仕える兵士2人と、ユンバカノの執事の姿もあった。
「手下を全員連れてきたのか?」
「使い捨ての日雇い傭兵以外はね。これはわたしの人生のなかでも最大のイベントだ、当然彼らにも目にする資格と義務がある」
そのユンバカノの言葉に続いて、執事のジョルリング、ドレイクとおなじアルゴニアンの戦士ウシージャ、オークの女戦士ウモグ・グラ=マラッドがそれぞれ感想を漏らす。
「わたくし、これまでずっとご主人様に仕えてきた甲斐がありました。感激の極みです」
「雇い主の言に従う、俺にはそれだけが重要だ。そういうことだ」
「ずっと屋内の警備担当をしているよりかは面白そうじゃないかね?」
いずれもやる気があるのは確かなようで、ドレイクは思わず感嘆の声を漏らした。
「なんとまあ、麗しき主従関係だな。それよりクロード、聞きたいことがある」
「なんだい、スリーサイズは秘密だぜ」
「おまえアホだろ。そういうのじゃなくてなあ。ネナラタの王冠について聞きたいことがある」
「歴史の講義だったらあとでたっぷりしてやるよ」
「俺が気になるのは、だな。入手経路のほうだ」
「…ふん?そんなもの知ってどうする、余計なものを背負いこむとロクなことにならんぜ、爬虫類の旦那よ」
「警告のつもりか、それは。誤解されると困るから先に言っておくが、俺が知りたいのは完璧に興味本位からだ。どうやって手に入れたものだろうと、とやかく言うつもりはない」
そう淡々と答えるドレイクを見て、クロードは渋い顔をする。
しばらく悩んだ末に、ユンバカノがこちらを見ていないことを確認すると、クロードはドレイクを遺跡の影に連れ込んで言った。
「まあいい、どうせこれで最後なんだ。教えてやるとも…前払いの報酬代わりとでも思ってくれや。そうだな…まず、もともとネナラタ王の冠の所持者は、ヘルミニア・シンナっていう女学者だった。ユンバカノは彼女を邸宅に招待し、王冠を譲ってくれるよう説得した。失敗したがね」
その話を聞いたとき、そういえば、とドレイクは思い返した。アイレイドの彫像の最初の1個をユンバカノに届け、マラーダ遺跡の石板の入手を依頼されたとき、女性の客人がユンバカノ邸に来訪していたはずだ。
もしかしたら、あれがヘルミニア女史か。そう一人ごちるドレイクの傍らで、クロードが話を続ける。
「さらなる説得を試みるべく、俺様が彼女の家に出向くことになった。どんな手を使ってでも王冠を手に入れるつもりか、と、彼女はそう言ったよ。事実、ユンバカノは俺に『殺してでも奪い取って来い』と言っていたからな」
「で、殺したのか?」
「話はそう単純じゃない。さすがに殺されるのは御免被ると考えたのか、彼女のほうから俺様に取り引きを持ちかけてきた。曰く、『リンダイという遺跡にまだ発掘されていないアーティファクトがある。それもまた王冠で、外観はネナラタ王の冠とそっくりだ。リンダイ遺跡の王の間へと続く扉の鍵をやるから、リンダイの王冠を目当ての物と偽ってユンバカノに届ければいい。私でなければ、冠の見分けはつかない…なぜなら両方とも本物のアイレイド王の王冠には違いないから』とね」
「そういえば、アイレイドは巨大な1つの文明ではなく多数の小国が集まったもの、とユンバカノが言っていたな」
「その通り。そして皮肉にも、リンダイはネナラタと最後まで争いを続けた、いわば宿敵のようなものだった。ユンバカノと確執があったヘルミニアにしてみれば、意趣返しの意味合いもあったんだろう」
「で、王冠を取りに行ったのか?」
「行ったともさ。もっとも、一筋縄じゃいかなかったがね。さすがにアイレイドの遺跡、罠は潤沢に仕掛けられてるわ、死霊どもがわんさかいるわ、大変だったぜ」
「それじゃあ、いまユンバカノが手にしているのは…」
「ネナラタの王冠だ」
クロードが返答してから、しばらく間が空いた。やがてドレイクが口を開く。
「…ちょっと、何を言ってるのかわからないな」
「俺様がリンダイの王冠を手に入れた3日後にヘルミニアは殺された。押し込み強盗に遭ってな…帝都の衛兵が彼女の家に着いたときには、そりゃあもう酷い有り様だったそうだぜ。家の中はメチャクチャで、ヘルミニアは惨たらしく殺されていてな。ただ、彼女が保管していた<アイレイドの王冠>は無事だったらしいぜ。見つけやすい場所に置いてあったってのにな」
「おまえ、もしかして…」
「王冠が偽者ならユンバカノが真っ先に容疑者候補に挙がっていたろうが、生憎と王冠は本物だった。晴れてユンバカノは容疑から外れたわけだ。まあ、王冠の区別がつくのは自分だけ、と彼女自身も言っていたしな」
「そしてユンバカノは、先祖の仇敵の冠を寄越そうとした女を許しはおかなかったわけだ?」
「いや。俺様は完璧に仕事をこなしたってことさ」
[ to be continued... ]
ユンバカノは極めて控え目な、それでいて強い達成感を窺わせる表情でそう言った。
前回のマラーダ…通称<高地神殿>での1件のあとも、ドレイクはこれまで通りにユンバカノの捜し求めるアイレイドの彫像の探索をつづけていた。
特定のモノを探すにはシロディールはあまりにも広く、そして大陸各地に存在しているアイレイドの遺跡すべてに目当ての彫像があるわけではない。空振りと徒労が続くなか、ドレイクは自身が見つけた3個目の彫像をユンバカノの元へ届けに来たとき、上の台詞を聞いたのだった。
「見たまえ、わたしが職人に依頼して作らせた特注のケースだ。そしていま、ここにあるべきものがすべて揃った。素晴らしい、壮観だと思わないかね、ドレイク君?」
「まったくです」
ドレイクは生返事をしながら、ケースに10個並ぶアイレイドの彫像を眺め、内心でため息をついた。
なるほど、どうやら他の7個は別のトレジャーハンターが見つけてきた物のようだ。自分だけが任された仕事ではなかったのだな…と内心で苦々しく思いながらも、これでようやくユンバカノから開放されるのだという安堵も同時に感じていた。
わざわざドレイクがブラックマーシュからシロディールくんだりまでやって来たのは、学者の使いっ走りになるためではない。ドレイクにはドレイクの目的があるのだ。もっとも今回は止むに止まれぬ事情でユンバカノに協力しているのだが。
「彫像がすべて揃ったということは、俺はもうお役御免ですかな?」
「とんでもない。君にはまだやってもらいたい仕事がある、それも最後の総決算だ」
「…なんですと?」
てっきり「その通りだ、名残惜しいがもう君は用済みだから、ここから消えたまえ」などと言われるのだろうなと考えていたドレイクは、ユンバカノの口から飛び出した言葉に衝撃を受けた。
「最後の総決算、と言いましたね」
「その通り、すべては今日この日のために準備してきたようなものだ。君さえ良ければ仕事を任せたいのだが、話を聞けばもう後戻りはできなくなる。どうするね?」
「如何する、と?俺に選択肢があると考えたことはありませんでしたが」
「あまり乗り気ではないようだね」
そう言って、ユンバカノが苦笑を漏らす。しかし気分を害した様子はまったく見られず、むしろ愛想は普段以上に良い。
不気味だな…とドレイクが内心で警戒する傍ら、ユンバカノは話を続ける。
「しかしわたしのこれまでの行動は、すべて1つの目的のために行なわれてきたものだ。きっと君なら理解してくれると思っている」
「あまり、遠まわしな言い分は得意ではないが」
「まあ、そう急くこともないだろう。宜しい、それでは簡潔に述べるとしよう…わたしの目的とは、そう、言うなればルーツの探求だ」
「…ほう?」
ルーツの探求。
その言葉を聞いたドレイクの視線が鋭くなる。
「自身の故郷、自身の祖先、自身の血族。それらを知ることは非常に意義のあることだ。まして、偉大な祖先に瑣末な形ではあるとはいえ、恩返しができるのならば、尚更…ね」
「なるほど。詳しく話を聞きましょう」
いままでの出鱈目な態度がまるで嘘のように、ドレイクは真剣な眼差しでユンバカノの話に耳を傾けはじめた。
じつのところ、ドレイク自身も「ルーツの探求」というものに対しては一家言ある男なのだ。本来の目的ではないとはいえ、シロディールに来た目的の1つは自身のルーツへの知識を深めることなのだから。
どうやら理解者を得ることに成功したようだと確信したユンバカノはニンマリと笑みを浮かべると、話を続けた。
「一般的にアイレイドとは1つの巨大な文明だと誤認されているが、実際は多数の小国が集合したものだった。そして小国同士の争いは絶えず、そこを利用されてアレッシアに滅ぼされてしまったのだよ」
「以前、クロードから借りた資料…<神殿の浄化>、でしたか。あれにも当時の記録が残されていましたね」
それにしても、とドレイクは思う。
内紛を利用してアイレイドを滅ぼしたアレッシアを、まるで卑劣な悪者であるかのように語るユンバカノの態度はいささか気になるものだ。
なぜならアレッシアのアイレイド討伐劇は、一般的には「奴隷制を強行し非道な魔術を使う悪しきアイレイドを、正義の使者アレッシアが退治した」というイメージで語られるため、特にここシロディールではアレッシアの行為の正否を問うだけで異端者扱いされかねない。ましてアレッシアを悪者のように扱うなど気狂い沙汰である。
「しかしアレッシアも、自身の勢力だけでアイレイドすべてを滅ぼしたわけではない。じつは、アレッシア派に手を貸していたアイレイドの勢力があったのだ…彼らは戦火ののちにアレッシア派と友好関係を結び、報奨として滅亡したアイレイドの領地の一部を獲得した。しかしアイレイド文明に批判的なアレッシア派の過激な勢力が彼らを襲撃し、討ち滅ぼした。これは、れっきとした裏切り行為だ」
「たしかに」
「しかし彼らは滅びる最後の一歩手前まで激しい抵抗を続け、自らの一族の名誉を守ろうとした。その尊い姿に、極少数存在していたアイレイド支持派は感銘を受け、彼らを<最後のアイレイドの一族>として内々に語り継いできた」
そこまで一気にまくし立てたあと、ユンバカノは一旦言葉を切って深く息を吸い込んだ。
天井を見つめながら、ユンバカノはぽつりと、しかしはっきり聞こえる声で、こう言った。
「最後のアイレイドの一族を率いし、最後のアイレイドの王。その名はネナラタ。わたしには、その血が流れている」
「そうだったのか…」
なるほどアレッシアに恨みにも似た感情を持つのも無理からぬことだと、ドレイクは思った。
アレッシアのために正義の戦いに手を貸したにも関わらず、戦争が終わると用済みとばかりに消された祖先の無念。もちろんネナラタ王がたんなる正義感や義憤でアレッシアに手を貸したとは思わないが(敵対勢力を効率よく潰す、というのが最大の目的だったのだろう)、だからといって友好勢力(だったはずのもの)に一方的に滅ぼされていい道理はない。
ドレイクの祖先もタムリエルの民に友好的とは言い難い勢力だったため、ユンバカノの境遇に幾許かの理解を示していた。
しかしいまは、歴史の講義よりも気になることがある。
「それで、俺に頼みたい仕事っていうのは?」
「ネナラタの王が身につけていたもので、現存しているアーティファクトがある。王冠だ。それは王位の象徴であり、祖先の残した偉大なる遺産だ。わたしはそれが、博物館で衆人の慰み物にされたり、学者の棚の飾りとして扱われるのは不適当だと感じている」
「つまり王冠を手に入れて来いってことか?」
「そうではない」
単刀直入なドレイクの物言いに、ユンバカノはイタズラ坊主を諭す年長者のような笑みを浮かべた。
「王冠なら、すでに手配済みだ。まだ手元にはないが、すぐにわたしの元へ届く手筈になっている。王冠が手に入り次第、わたしの念願であり、悲願だった計画を実行することになる。君にはその協力者になってもらいたい」
「それで、王冠を手に入れてどうすると?」
「決まっているだろう」
ユンバカノは、断固とした口調で言い放った。
「一族のもとへ返す」
「よぉー、爬虫類の旦那」
3日後。
ネナラタの遺跡へとやって来たドレイクの目の前に、王冠を手にしたユンバカノと、前回とうってかわって軽装鎧に身を包んだクロードの姿があった。ドレイクが疑問を口にする。
「臆病なんじゃなかったのか?」
「そんなこと言ったかな。いやなに、そんときの気分てやつさ。気にしなさんな」
2人の背後に目をやると、そこにはユンバカノ邸に護衛として仕える兵士2人と、ユンバカノの執事の姿もあった。
「手下を全員連れてきたのか?」
「使い捨ての日雇い傭兵以外はね。これはわたしの人生のなかでも最大のイベントだ、当然彼らにも目にする資格と義務がある」
そのユンバカノの言葉に続いて、執事のジョルリング、ドレイクとおなじアルゴニアンの戦士ウシージャ、オークの女戦士ウモグ・グラ=マラッドがそれぞれ感想を漏らす。
「わたくし、これまでずっとご主人様に仕えてきた甲斐がありました。感激の極みです」
「雇い主の言に従う、俺にはそれだけが重要だ。そういうことだ」
「ずっと屋内の警備担当をしているよりかは面白そうじゃないかね?」
いずれもやる気があるのは確かなようで、ドレイクは思わず感嘆の声を漏らした。
「なんとまあ、麗しき主従関係だな。それよりクロード、聞きたいことがある」
「なんだい、スリーサイズは秘密だぜ」
「おまえアホだろ。そういうのじゃなくてなあ。ネナラタの王冠について聞きたいことがある」
「歴史の講義だったらあとでたっぷりしてやるよ」
「俺が気になるのは、だな。入手経路のほうだ」
「…ふん?そんなもの知ってどうする、余計なものを背負いこむとロクなことにならんぜ、爬虫類の旦那よ」
「警告のつもりか、それは。誤解されると困るから先に言っておくが、俺が知りたいのは完璧に興味本位からだ。どうやって手に入れたものだろうと、とやかく言うつもりはない」
そう淡々と答えるドレイクを見て、クロードは渋い顔をする。
しばらく悩んだ末に、ユンバカノがこちらを見ていないことを確認すると、クロードはドレイクを遺跡の影に連れ込んで言った。
「まあいい、どうせこれで最後なんだ。教えてやるとも…前払いの報酬代わりとでも思ってくれや。そうだな…まず、もともとネナラタ王の冠の所持者は、ヘルミニア・シンナっていう女学者だった。ユンバカノは彼女を邸宅に招待し、王冠を譲ってくれるよう説得した。失敗したがね」
その話を聞いたとき、そういえば、とドレイクは思い返した。アイレイドの彫像の最初の1個をユンバカノに届け、マラーダ遺跡の石板の入手を依頼されたとき、女性の客人がユンバカノ邸に来訪していたはずだ。
もしかしたら、あれがヘルミニア女史か。そう一人ごちるドレイクの傍らで、クロードが話を続ける。
「さらなる説得を試みるべく、俺様が彼女の家に出向くことになった。どんな手を使ってでも王冠を手に入れるつもりか、と、彼女はそう言ったよ。事実、ユンバカノは俺に『殺してでも奪い取って来い』と言っていたからな」
「で、殺したのか?」
「話はそう単純じゃない。さすがに殺されるのは御免被ると考えたのか、彼女のほうから俺様に取り引きを持ちかけてきた。曰く、『リンダイという遺跡にまだ発掘されていないアーティファクトがある。それもまた王冠で、外観はネナラタ王の冠とそっくりだ。リンダイ遺跡の王の間へと続く扉の鍵をやるから、リンダイの王冠を目当ての物と偽ってユンバカノに届ければいい。私でなければ、冠の見分けはつかない…なぜなら両方とも本物のアイレイド王の王冠には違いないから』とね」
「そういえば、アイレイドは巨大な1つの文明ではなく多数の小国が集まったもの、とユンバカノが言っていたな」
「その通り。そして皮肉にも、リンダイはネナラタと最後まで争いを続けた、いわば宿敵のようなものだった。ユンバカノと確執があったヘルミニアにしてみれば、意趣返しの意味合いもあったんだろう」
「で、王冠を取りに行ったのか?」
「行ったともさ。もっとも、一筋縄じゃいかなかったがね。さすがにアイレイドの遺跡、罠は潤沢に仕掛けられてるわ、死霊どもがわんさかいるわ、大変だったぜ」
「それじゃあ、いまユンバカノが手にしているのは…」
「ネナラタの王冠だ」
クロードが返答してから、しばらく間が空いた。やがてドレイクが口を開く。
「…ちょっと、何を言ってるのかわからないな」
「俺様がリンダイの王冠を手に入れた3日後にヘルミニアは殺された。押し込み強盗に遭ってな…帝都の衛兵が彼女の家に着いたときには、そりゃあもう酷い有り様だったそうだぜ。家の中はメチャクチャで、ヘルミニアは惨たらしく殺されていてな。ただ、彼女が保管していた<アイレイドの王冠>は無事だったらしいぜ。見つけやすい場所に置いてあったってのにな」
「おまえ、もしかして…」
「王冠が偽者ならユンバカノが真っ先に容疑者候補に挙がっていたろうが、生憎と王冠は本物だった。晴れてユンバカノは容疑から外れたわけだ。まあ、王冠の区別がつくのは自分だけ、と彼女自身も言っていたしな」
「そしてユンバカノは、先祖の仇敵の冠を寄越そうとした女を許しはおかなかったわけだ?」
「いや。俺様は完璧に仕事をこなしたってことさ」
[ to be continued... ]
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2012/06/30 (Sat)14:55
マラーダに到着したのは2日後の朝だった。陽光に目を細めながら、ドレイクが呟く。
「男と森の中で野宿とはな。泣けるぜ」
「人間の女は好みに合わんくせに、よく言うぜ、爬虫類の旦那。こっちだ」
ドレイクの軽口をさらりと受け流しながら、クロードが道を案内する。
視界が開けた先には果たして、特徴的なアイレイドの建造物が、然るべき時を経た姿で鎮座していた。永い間風雨に晒された遺跡は半壊し、そこにかつて栄華を極めた文明の面影は僅かしか見られない。
遺跡に近づこうとした2人の足元に、矢が突き刺さる。警戒するドレイクを制し、クロードが口を開いた。
「ス=ラジールか?」
ドレイクがクロードの視線を追うと、丘の上で弓を構えたカジートが見えた。最低限のカモフラージュしか施していないその姿は、事前にそうとわかっていれば発見は難しくないだろうが、無意識下でその存在に気づくことは難しいだろうと思われる。
「ス=ラジール、ずっと待っていた。無事でなによりだ、クロード」
そう言って、カジートの弓兵は笑みを浮かべる。
ほぼ同時に、いままでどこに隠れていたのか、数人の武装した兵士たちがやって来る。想定外の展開に、ドレイクは思わずクロードに耳打ちをした。
「こいつらもお前さんの仲間か?」
「ああ…といっても、こいつらは臨時雇いだけどな」
「用意のいいことだ。本当に」
ドレイクが腕組みをして佇む傍らで、クロードは傭兵たちと何らかの打ち合わせをはじめる。
しばらくしてクロードは戻ってくると、ドレイクに向かって言った。
「さあ、行くぞ。マラーダに宝探しの時間だ」
「あいつらも一緒か?」
「いや。あいつら腕は立つが、遺跡の探索に連れて行きたい連中じゃないな…バケモノの頭と一緒に大事な宝も叩き割って、しかもそのことに気がつかないような脳筋だ」
まあ、いまのはちょっと言い過ぎかもしれないが…クロードはそう付け足し、言葉を続ける。
「あいつらは周辺警戒だ。不慮の事故があっちゃあ困るからな…ユンバカノは、横槍を入れられて手柄を取られるのを何よりも嫌ってるんでな」
「帝国の調査団が来たら、山賊のフリでもして追い払うってか。なんとね」
「それに、遺跡の探索は大人数だと逆に身動きが取りにくくなる。人数ばかり揃えたはいいが、いざ遺跡に巣食うモンスターに襲われたとき、狭い通路で押すな、引くなとやっているうちに全滅する阿呆なパーティの話は後を絶たないんだよ。知ってたか?」
「俺にわかってるのは」
ドレイクは脇差しの位置を直すと、マラーダ遺跡の入り口を真っ直ぐに見据えて言った。
「無駄話は止して、早々(さっさ)と仕事を終わらせるべきだってことだ」
「まるで野生の王国だな。人の手が入っていなかったのは本当らしい、フゥンッ!」
ザンッ!
ドレイクは恐るべきスピードで飛び掛ってきたオオカミを斬り伏せると、クロードに視線を向けた。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるなら、大丈夫なんだろうよ!多分な!」
似つかわしくもない切羽詰った表情でクロードが答える。無理もない…いくら腕の立つ傭兵と言えども、「野生のクロクマ」を相手にそうそう苦戦せずにいられるものではない。というより、普通の戦士なら到底勝てるような相手ではない。
「こういうとき、バトルメイジが欲しいと思わねぇか?爬虫類の旦那!」
「この狭い部屋の中で火の魔法でも使わせる気か、俺は願い下げだね」
しかしまぁ、なんだかんだで駆け合いできる程度の余裕はあるわけだ…などと思いながら、ドレイクは何処からともなく襲いかかってきた巨大ネズミの首を寸断した。
マラーダ遺跡への侵入に成功した2人は、さっそく地元の野生動物を相手にする破目になっていた。
「ぬぅおあああああッッッ!!」
ときの声を上げながら渾身の力で盾をクロクマの鼻面に叩きつけたクロードは、そのまま見当を失っているクロクマの顎に剣を突き刺した。
ズシイィィィィンンン……
脳幹を田楽刺しにされたクロクマはその場にぶっ倒れ、やがて微動だにしなくなった。フゥ、とクロードはため息をつき、クロクマの顔面を踏みつけながら剣を引き抜く。
「なんだか俺様が一番の貧乏クジを引いたようだなァ、爬虫類の旦那よ?」
「他の雑魚は全部俺が処理したんだ、文句言うな」
ぼやくクロードに対し、ドレイクは周囲に散らばる有象無象の野生動物の屍を見せつける。
クロードはわざとらしい愛想笑いを浮かべると、剣を鞘に戻しながら言った。
「それじゃあ、まあ、いまのところスコアは同点ってことでいいよな?」
「輪投げじゃあるまいし。妙なこと言ってないで、さっさと先に進むぞ。こんなところでスコアを稼いだって、なんの足しにもなるまい?」
残念ながらこの2人に、生態系の保護だの動物愛護の精神だのといったものは期待できない。
「妙な扉だな。他のアイレイド遺跡では滅多に見ない形式だ」
「そういえば…ユンバカノからもらった資料に、これと同じ扉の解説スケッチがあったな」
征(い)く路(みち)に立ち塞がる野生動物の群れを容赦なく斬り捨て、到着した場所。
そこはマラーダ遺跡の中央広間であり、一切の望まれぬ侵入者を遮断すべく、特殊な鍵で固定された扉が2人の目前に鎮座していた。
「破壊する…には、すこし骨が折れそうだな」
「物騒なことを言いなさんな、爬虫類の旦那。ちゃんとユンバカノから、資料と一緒に鍵も貰ってる」
そう言って、クロードは奇妙な形状の鍵を取り出す。
「本当は、こいつだけでも随分と骨董品的価値があるらしいんだが、ユンバカノにとっては、この遺跡の奥地にあるモノを手に入れるほうがよっぽど重要らしい。普通の学者は、こういった代物を実際に使おうとはしないもんだ」
「それだけ研究熱心だってことか。熱意、というか、執心、執着?まあ、俺にはどうでもいいことだが」
「そいつは俺様も同感だな」
ドレイクの投げやりな言葉に相槌をうちながら、クロードは躊躇いもなく鍵を扉に差し込んだ。
複雑な行程を経て扉が開き、鍵は扉に刺さったまま手の届かぬ場所へと消えていく。
「良かったのか?骨董品的価値があるんだろう?」
「想定の範囲内ってヤツさ。もちろん、これで成果を出せなきゃユンバカノに殺されるけどな」
「ユンバカノの放った刺客に、だろ」
「そういうことだ」
なんて会話だ。
「さァて、マラーダのお宝とご対面だな」
封印された扉を抜け、アイレイドの崩壊以後おそらくは何者も寄せつけなかった最奥の間へと2人は歩を進める。
「こいつは…石板、か?」
「そうだ。それも王族間で用いられていた希少な代物だ、博物館でさえ滅多に見れんのだぜ、コレは」
壁にはめ込まれるような形で埋もれている「それ」。
黒曜石のように黒光りする石版の上に、おそらく古代語とおぼしき文字が、光を放ちながら線蟲のように蠢いている。一目見てはっきり、フェイクや偽造品ではない本物のアーティファクトであることがわかる。
「あんた、アイレイド文明には堪能だったよな。これを読めるか、クロード?」
「いや、無理だね。こいつはアイレイド言語の中でも、王族間でのみ用いられていた古代語で書かれてる。まだ誰も解明できてないはずだ…ユンバカノなら、あるいはどうか知らんがね」
そう言いながら、クロードが石板に手をかける。
その刹那、ドレイクに悪寒(母親じゃないほう)が走る。その石板に手を出してはいけない…そんな予感が脳裏に閃いたが、かといって石板を手に入れなければ仕事が終わらないので、結局、何も言わなかった。そのときは。
ガポッ……
経年劣化で脆くなっていることを恐れてか、クロードは慎重な手つきで石板を抜き出す。
石板がクロードの手に渡ったそのとき、微振動がドレイクの足を揺らした。
「…なんだ?」
疑念の声を上げるドレイクに、クロードが怪訝な表情を向ける。
「どうした、爬虫類の旦那?」
「いや、いま地面が揺れたような…うぉっ!?」
突然壁に亀裂が入り、天井が崩れ落ちてくる。
「ヤバイ、爬虫類の旦那!やっぱりお宝に罠ってのはツキモノだよな!?」
「無駄口はいいから回避行動に専念しろ、死ぬなよ!つうか、死んでもいいから石板だけは死守しろいいな…おい、なんだ、あれ」
落下してくるブロックの塊を避けながら、ドレイクは視界の端に引っかかったものを凝視する。
「おいおい、冗談だろ…?」
どうやらクロードも、ドレイクの見たものに気がついたらしい。いままでどこに隠れていたのか、2人の周囲に、スケルトンやレイスといった死霊どもが集まりはじめている。
「こいつは予想外にヤバイ事態だぜ、爬虫類の旦那。アンタ、ゴーストは相手にできるか?」
「無理だ。俺の武器はただの鉄製だからな…お前の武器はエンチャント付きだったな」
「遺跡に亡霊はツキモノだからなァ。やれやれ」
クロードは手にした石板をさっさと麻袋に入れて鎧の間に仕舞うと、スラリと剣を抜き放った。
ドレイクもカタナを抜き、重心を低く落として構えると、包囲網を狭める死霊どもに鋭く視線を這わせた。
物理的攻撃が通用するスケルトンとは違い、ゴーストやレイスなどの実体がないクリーチャーに普通の武器は掠りもしないはずだ。それこそ魔法か、魔法が付与されたエンチャント・ウェポン、あるいは銀製の武器でなければダメージを与えることはできない。
「シィィィッ!!」
得物を下手に構えながら猛突するドレイク。カタナの刃先が地面を擦り、火花を散らしながら弧を描く。やがて振り上げられた刀身がスケルトンの胴を捕らえ、古びたリン酸カルシウムで組成された身体を粉砕した。
返す刀でもう1体の首を飛ばし、さらに反動をつけた一撃でもう1体を両断する。
一方のクロードも、レイスの放つ冷撃呪文をエンチャントが付与された盾で防ぎながら瞬時に距離を詰め、白光する剣をレイスに突き立てた。剣を引き抜いたのち、素早い袈裟斬りを2、3回叩き込む。
緑色のガスのようなもの(プラズマ?)を吐き出しながら、レイスはずたぼろの黒いローブだけを残して姿を消した。クロードは勝ったのだ。
最後のスケルトンを斬り伏せたドレイクが、カタナを肩に担いだポーズで言った。
「なんだ、ピンチだとか言う割には圧勝じゃないか」
「ちょいとばかし本気を出したからな。同業者に手の内見せるのは、主義じゃないんだが」
「…本気で俺と殺し合うことがあると思ってるのか?」
「何が起きるかわからん世の中だ。生き残れるのは慎重なヤツだけだぜ、爬虫類の旦那」
クロードはそう言うと、出口へと向かって歩きはじめた。その横顔に、だらしない酔っ払いの雰囲気は微塵もない。
もっとも、クロードの慎重さが逆にトラブルを招くことがあると、2人はこの直後に知ることになるのだが。
「ご苦労だったなあ、クロードさん」
マラーダ遺跡を出た直後、いきなり抜き身の剣を持った2人組の傭兵に囲まれたドレイクは、思わず目を白黒させた。
「こいつら確か、お前が雇った連中じゃなかったか、クロード?」
「そうだったような、そうじゃなかったような…」
ぎこちない愛想笑いを浮かべるクロードに、傭兵たちは油断なく武器を構えたまま言う。
「迂闊な真似をするんじゃないぜ、遠くからはス=ラジールが弓で狙ってるからな」
「痛い目に遭いたくなけりゃあ、大人しくお宝をこっちに渡すんだね」
口々に脅し文句を並べる傭兵たちを前に、ドレイクは嘆息した。クロードに向かって言い放つ。
「あのさぁ…お前ねー。どうしてこんな連中雇ったんだよ…」
「いやぁーまあ、なんかの役に立つかと思ったんだがね。なんの役にも立たなかったねぇ」
「それどころか完璧に裏目に出てるじゃねーか!」
「無駄口はそこまでにしておけ。出すのか、出さないのか?」
やにわに口喧嘩をはじめようとしたドレイクを制すように、傭兵が口を挟む。
ドレイクは視界の端にス=ラジールの姿を捉えたまま、やれやれと肩をすくめ、口を開く。
「わかったよ。これが欲しいんだろう?」
ドレイクは自らのコートの内側に手を入れ…
「なっ!?」
「馬鹿な!」
突如として放たれた銀製のダガーが、陽光を反射してレーザービームのように輝きながらス=ラジールの心臓を捉える。致命傷を負ったス=ラジールが体勢を崩しながら放った矢は、傭兵の肩口に突き刺さった。
まさか攻撃してくるとは思わなかったのだろう、傭兵たちは想定外の事態に狼狽しながら、それでも素早く反撃しようと試みた。しかし、それでは「遅すぎた」。
2人の傭兵の間を縫うように飛び出したドレイクは、カタナを抜きざまに、振り向きもせず背後にいる傭兵の身体に刃を突き刺した。
もう1人の傭兵も、相棒の死に驚く間もなくクロードの一撃で両断されていた。
「まったく……」
「爬虫類の旦那よ。銀製の武器は持ってない、と言ったよな?」
「ふざけろ。ダガーでレイスを相手になんかできるか」
どしゃり、と音を立てて崩れ落ちる傭兵たちを尻目に、2人は先のマラーダ遺跡での戦いについて蒸し返す。
「しかしまあ、あとはユンバカノのところへ戻ればいいだけだからな。そうぼやくこともないか」
「不慮の事故はあったがな。今後一切、こんな不手際はナシにして欲しいもんだ、クロード」
「まぁ固いことばかり言いなさんな、爬虫類の旦那。帝都に戻ったら一杯奢るからよ」
「これだから酔っ払いってのは…」
けっきょく帝都に戻るまで、ドレイクは不機嫌な態度を崩すことはなかった。もっとも、クロードに酒をたかることは忘れなかったが。
2012/06/25 (Mon)08:14
「こいつで間違いありませんね?ミスター・ユンバカノ」
「ああ、まさしくこれは私が捜し求めていた物の1つ。完璧な仕事ぶりだよ、素晴らしい…」
帝都タロス広場地区に位置する、豪奢な邸宅にて。
以前、ヴィルバーリン遺跡から奇妙な形状の彫像を持ち帰ったアルゴニアンのドレイクは、それをシロディールでも有数の古代アイレイド研究家である資産家ユンバカノの元へと届けていた。
アイレイドとは、かつてシロディールを支配していた超古代文明…及び、文明を築き上げた古代人種を指す。
栄枯盛衰の果て、アイレイドははるか昔に滅びて久しい。インペリアル(帝国人)が支配する現代のシロディールにおいてその文明の面影はほとんどなく、一部現存する美術品や、各地に点在する遺跡などにその残滓を残すのみである。
「さすがはセンセイの紹介だけはある。彼は元気かね?」
「えぇ。最近、ちょっと腰が曲がってきたと嘆いていますが」
「それはいけないな。今度、良い錬金術師を紹介しよう…本当は、運動するのが一番なんだが。我々学者連中というのはどうにも、出不精なものでね。いやはや」
そう言って、ユンバカノは黄身がかった顔に笑みを浮かべた。
ユンバカノの言った「センセイ」とは、ドレイクの故郷ブラックマーシュに住むアルゴニアンの学者で、古今あらゆる学術知識に長けていることから、世界各国のギルドや学会と繋がりを持つ大物である。とはいっても当人自身はかなり質素な佇まいで、その穏やかで謙虚な物腰は好漢と呼ぶに相応しい。
そしてセンセイはドレイクの師匠筋に当たる人物で、今回ドレイクがシロディールに渡る際、さまざまな便宜を図ってくれた協力者でもある。
「とある目的」のためにシロディールに行くドレイクに、もし手がかりを探すついでに余裕があるのなら…とセンセイに依頼されたことが幾つかあり、その内の1つがユンバカノのアイレイド・コレクションの拡充だった。
「シロディールに散らばったこの彫像も、そのほぼすべてが私のもとへ集まった。ついてはここで1つ、君に別の遺物の捜索を頼みたいのだが」
「と、いうと?」
「ここで私の口から説明したいのは山々だが、じつはこの後、賓客を迎えなければならなくてね。タイバー・セプティム・ホテルに今回の仕事の協力者を待たせてある、詳細は彼から聞いてほしい」
ユンバカノは丁寧な態度の裏に、早急にこの屋敷から出て行ってほしい旨を含めてドレイクに言い放つ。
まったく、学者ってのは、なんでこう…そんな台詞を飲み込みながら、ドレイクは席を立った。ユンバカノ邸を出る直前に、瀟洒な身なりの女性がユンバカノの執事に迎えられる様子がチラリと見える。
「(…あれは確か、ユンバカノとおなじアイレイド研究家だったか?あまり仲は良くないと聞いていたが、情報交換くらいはするのかね)」
そんなことを考えながら、ドレイクはユンバカノ邸を後にした。
「まずは祝杯だ。ユンバカノの財布に…遠慮するこたぁねえ、そのための金はたっぷり貰ってる。しかしまあ、酒や女じゃなく骨董品に散財するなんざ、奇特なヤツだよなァ、アイツも」
「頼むから、仕事の話をするまえに酔いつぶれたりしてくれるなよ。こっちは見かけほどヒマじゃないんでな」
コートを脱いだラフな格好で銀のピッチャーを取り上げたドレイクは、目の前にいる今回の仕事のパートナーに向かって苦言を呈した。
タイバー・セプティム・ホテルで待っていたのは、ユンバカノに雇われたトレジャー・ハンターの1人クロード・マリクだった。古代の遺物収集のためにユンバカノは数多くの人員を雇っているが、その中でもクロードは飛び抜けて優秀なエージェントだ。
金を払っている限りは忠実で、古代アイレイドの知識に堪能なうえ腕も立つ。そして遠慮や容赦がなく、一切の汚れ仕事を躊躇なくこなす危険な男。それがクロードに対する仲間内での評価だった。
クロードはジョッキ1杯のエールを呷ると、口の端を曲げて言った。
「まぁ、そう急くな。手はずはすべて整ってる、いまここで焦ってもしゃあねえ。モノがある場所も、モノの目星もついてんだ。行程は、マァ…4、5日ってところかな。1週間足らずのルーティン・ワークってやつだ」
「なんの変哲もない、ってか。詳細は?」
「俺たちが行くのは、かつてアイレイドが<高地神殿>と呼んでいた場所…地下都市マラーダ。ヴァルス山脈の中腹にある」
「ヴァルス山脈か…かなり遠いな」
「途中までは馬で行く。インペリアル・ブリッジのそばに宿があるから、そこに馬を停めたらあとは歩きだ。山の中だからな」
「野郎とヒッチハイクか。有り難くて涙が出るね」
そんな軽口を叩いたとき、ドレイクはふと、ヴィルバーリンで出会った女傭兵のことを思い出していた。アリシア、とか言ったか。特に信義があるわけでもないなら、ユンバカノに紹介してやっても良かったかな…などと思う。雲散臭い仕事なのは確かだが、金払いだけはいい。
まあ、今更考えても仕方のないことだが、と思い直し、ドレイクはクロードに質問した。
「で、今回のエモノは?目星はついてると言ったが」
「そうだな。まずはこいつに目を通してくれ…参考資料だ」
そう言って、クロードはドレイクに1冊の本を手渡した。
「神殿の浄化…?」
古ぼけた本に刻まれた、かすれた文字に目を細め、ドレイクは眼鏡を取り出した。
「…かくしてアイレイドの呼び出した魔物は掃討され、彼らの所有していた書物や遺物はことごとくが焼き払われた。アレッシアの聖なる炎によって、高地神殿と呼ばれたかの地マラーダにて…か」
「意外というかトンマというか、これまでアイレイド研究家が見落としていたんだが、高地神殿をマラーダと断定しているのはその本だけだ。そいつはアレッシア教団が残した書物の焼け落ちた一片を書籍化したもので、マラーダに関する貴重な情報が残されてる…まぁ、深く読み込めば、だけどな」
「文面の表層だけ眺めてた学者どもには、この本の真価がわからなかったってわけか。そこに気がついたのがユンバカノか?」
「そういうことだ。なかなかどうして、学者にしては型破りだが、たいした勘と頭脳の持ち主だよ、あの男は…マラーダは立地が不安定な場所にあるし、これまで重要視されてこなかったから、あまり調査団の手が入ってねぇ。そこでユンバカノは、腕利きを集めて個人的にマラーダの再調査に乗り込むことにしたってわけだ。まあ学会に発表する前に行動を起こすのは、あの男らしいがな」
「それで、マラーダには何があると?」
「そいつは」
クロードはジョッキを空けると、不適な笑みを浮かべた。
「着いてからのお楽しみだ」
「随分と重い装備だな。数日越しの任務だ、もうちょっと軽くしてもいいんじゃないのか?」
明朝。チェスナット・ハンディー厩舎でクロードと落ち合ったドレイクは、クロードが身につけている重装鎧を一目見て言った。
一方のクロードはただ肩をすくめてみせる。
「俺様はこう見えても小心者でね。心配すんなよ、途中でヘバッたりはしねぇさ」
「だといいが。だが、森の中で倒れても背負ってなんかやらないからな」
「大丈夫だって、そんな手間ぁこさえねえさ。あんた、ちょっと心配性なんじゃないか?そこまで言われなくとも、ママにおんぶしてもらうようなトシじゃねぇってよ」
そう言って、クロードはケヒヒヒと笑った。ドレイクは呆れたように、一瞬白目を剥いたような表情を見せると、無言のまま馬の背中にまたがった。
インペリアル・ブリッジの宿に到着したときには、既に夕方になっていた。
「強盗に襲われることもなく、スムーズに到着です…と」
誰ともなく独り言を漏らしながら、ドレイクは馬から降りた。
一足先に馬を厩舎に停めに行ったクロードが、何者かと話している姿が見える。セプティム硬貨の詰まった皮袋を先方に渡すと、クロードは対外用の笑顔のままドレイクのもとへ戻ってきた。
「今日はここで泊まりだ。明日は歩き通しだからな、ここでゆっくり休んどかねェとな」
「さっき喋ってた相手は誰だ?」
「協力者さ。俺たちが戻るまで、ここで馬の面倒を見ててくれる。不測の事態が起きたときのバックアップも兼ねてるがね」
「用意がいいんだな」
「この業界で生き残る秘訣さ」
クロードはそううそぶくと、堂々とした足取りで宿に入っていった。
なるほど優秀だ、あとは軽口と酒癖の悪ささえ治ればな…などと思いながら、ドレイクも宿の戸に手をかける。相棒に敬愛の念を抱きかけたのも束の間、さっそくシロメのタンカードを手にしているクロードの姿を見て、ドレイクはため息をついた。
「ああ、まさしくこれは私が捜し求めていた物の1つ。完璧な仕事ぶりだよ、素晴らしい…」
帝都タロス広場地区に位置する、豪奢な邸宅にて。
以前、ヴィルバーリン遺跡から奇妙な形状の彫像を持ち帰ったアルゴニアンのドレイクは、それをシロディールでも有数の古代アイレイド研究家である資産家ユンバカノの元へと届けていた。
アイレイドとは、かつてシロディールを支配していた超古代文明…及び、文明を築き上げた古代人種を指す。
栄枯盛衰の果て、アイレイドははるか昔に滅びて久しい。インペリアル(帝国人)が支配する現代のシロディールにおいてその文明の面影はほとんどなく、一部現存する美術品や、各地に点在する遺跡などにその残滓を残すのみである。
「さすがはセンセイの紹介だけはある。彼は元気かね?」
「えぇ。最近、ちょっと腰が曲がってきたと嘆いていますが」
「それはいけないな。今度、良い錬金術師を紹介しよう…本当は、運動するのが一番なんだが。我々学者連中というのはどうにも、出不精なものでね。いやはや」
そう言って、ユンバカノは黄身がかった顔に笑みを浮かべた。
ユンバカノの言った「センセイ」とは、ドレイクの故郷ブラックマーシュに住むアルゴニアンの学者で、古今あらゆる学術知識に長けていることから、世界各国のギルドや学会と繋がりを持つ大物である。とはいっても当人自身はかなり質素な佇まいで、その穏やかで謙虚な物腰は好漢と呼ぶに相応しい。
そしてセンセイはドレイクの師匠筋に当たる人物で、今回ドレイクがシロディールに渡る際、さまざまな便宜を図ってくれた協力者でもある。
「とある目的」のためにシロディールに行くドレイクに、もし手がかりを探すついでに余裕があるのなら…とセンセイに依頼されたことが幾つかあり、その内の1つがユンバカノのアイレイド・コレクションの拡充だった。
「シロディールに散らばったこの彫像も、そのほぼすべてが私のもとへ集まった。ついてはここで1つ、君に別の遺物の捜索を頼みたいのだが」
「と、いうと?」
「ここで私の口から説明したいのは山々だが、じつはこの後、賓客を迎えなければならなくてね。タイバー・セプティム・ホテルに今回の仕事の協力者を待たせてある、詳細は彼から聞いてほしい」
ユンバカノは丁寧な態度の裏に、早急にこの屋敷から出て行ってほしい旨を含めてドレイクに言い放つ。
まったく、学者ってのは、なんでこう…そんな台詞を飲み込みながら、ドレイクは席を立った。ユンバカノ邸を出る直前に、瀟洒な身なりの女性がユンバカノの執事に迎えられる様子がチラリと見える。
「(…あれは確か、ユンバカノとおなじアイレイド研究家だったか?あまり仲は良くないと聞いていたが、情報交換くらいはするのかね)」
そんなことを考えながら、ドレイクはユンバカノ邸を後にした。
「まずは祝杯だ。ユンバカノの財布に…遠慮するこたぁねえ、そのための金はたっぷり貰ってる。しかしまあ、酒や女じゃなく骨董品に散財するなんざ、奇特なヤツだよなァ、アイツも」
「頼むから、仕事の話をするまえに酔いつぶれたりしてくれるなよ。こっちは見かけほどヒマじゃないんでな」
コートを脱いだラフな格好で銀のピッチャーを取り上げたドレイクは、目の前にいる今回の仕事のパートナーに向かって苦言を呈した。
タイバー・セプティム・ホテルで待っていたのは、ユンバカノに雇われたトレジャー・ハンターの1人クロード・マリクだった。古代の遺物収集のためにユンバカノは数多くの人員を雇っているが、その中でもクロードは飛び抜けて優秀なエージェントだ。
金を払っている限りは忠実で、古代アイレイドの知識に堪能なうえ腕も立つ。そして遠慮や容赦がなく、一切の汚れ仕事を躊躇なくこなす危険な男。それがクロードに対する仲間内での評価だった。
クロードはジョッキ1杯のエールを呷ると、口の端を曲げて言った。
「まぁ、そう急くな。手はずはすべて整ってる、いまここで焦ってもしゃあねえ。モノがある場所も、モノの目星もついてんだ。行程は、マァ…4、5日ってところかな。1週間足らずのルーティン・ワークってやつだ」
「なんの変哲もない、ってか。詳細は?」
「俺たちが行くのは、かつてアイレイドが<高地神殿>と呼んでいた場所…地下都市マラーダ。ヴァルス山脈の中腹にある」
「ヴァルス山脈か…かなり遠いな」
「途中までは馬で行く。インペリアル・ブリッジのそばに宿があるから、そこに馬を停めたらあとは歩きだ。山の中だからな」
「野郎とヒッチハイクか。有り難くて涙が出るね」
そんな軽口を叩いたとき、ドレイクはふと、ヴィルバーリンで出会った女傭兵のことを思い出していた。アリシア、とか言ったか。特に信義があるわけでもないなら、ユンバカノに紹介してやっても良かったかな…などと思う。雲散臭い仕事なのは確かだが、金払いだけはいい。
まあ、今更考えても仕方のないことだが、と思い直し、ドレイクはクロードに質問した。
「で、今回のエモノは?目星はついてると言ったが」
「そうだな。まずはこいつに目を通してくれ…参考資料だ」
そう言って、クロードはドレイクに1冊の本を手渡した。
「神殿の浄化…?」
古ぼけた本に刻まれた、かすれた文字に目を細め、ドレイクは眼鏡を取り出した。
「…かくしてアイレイドの呼び出した魔物は掃討され、彼らの所有していた書物や遺物はことごとくが焼き払われた。アレッシアの聖なる炎によって、高地神殿と呼ばれたかの地マラーダにて…か」
「意外というかトンマというか、これまでアイレイド研究家が見落としていたんだが、高地神殿をマラーダと断定しているのはその本だけだ。そいつはアレッシア教団が残した書物の焼け落ちた一片を書籍化したもので、マラーダに関する貴重な情報が残されてる…まぁ、深く読み込めば、だけどな」
「文面の表層だけ眺めてた学者どもには、この本の真価がわからなかったってわけか。そこに気がついたのがユンバカノか?」
「そういうことだ。なかなかどうして、学者にしては型破りだが、たいした勘と頭脳の持ち主だよ、あの男は…マラーダは立地が不安定な場所にあるし、これまで重要視されてこなかったから、あまり調査団の手が入ってねぇ。そこでユンバカノは、腕利きを集めて個人的にマラーダの再調査に乗り込むことにしたってわけだ。まあ学会に発表する前に行動を起こすのは、あの男らしいがな」
「それで、マラーダには何があると?」
「そいつは」
クロードはジョッキを空けると、不適な笑みを浮かべた。
「着いてからのお楽しみだ」
「随分と重い装備だな。数日越しの任務だ、もうちょっと軽くしてもいいんじゃないのか?」
明朝。チェスナット・ハンディー厩舎でクロードと落ち合ったドレイクは、クロードが身につけている重装鎧を一目見て言った。
一方のクロードはただ肩をすくめてみせる。
「俺様はこう見えても小心者でね。心配すんなよ、途中でヘバッたりはしねぇさ」
「だといいが。だが、森の中で倒れても背負ってなんかやらないからな」
「大丈夫だって、そんな手間ぁこさえねえさ。あんた、ちょっと心配性なんじゃないか?そこまで言われなくとも、ママにおんぶしてもらうようなトシじゃねぇってよ」
そう言って、クロードはケヒヒヒと笑った。ドレイクは呆れたように、一瞬白目を剥いたような表情を見せると、無言のまま馬の背中にまたがった。
インペリアル・ブリッジの宿に到着したときには、既に夕方になっていた。
「強盗に襲われることもなく、スムーズに到着です…と」
誰ともなく独り言を漏らしながら、ドレイクは馬から降りた。
一足先に馬を厩舎に停めに行ったクロードが、何者かと話している姿が見える。セプティム硬貨の詰まった皮袋を先方に渡すと、クロードは対外用の笑顔のままドレイクのもとへ戻ってきた。
「今日はここで泊まりだ。明日は歩き通しだからな、ここでゆっくり休んどかねェとな」
「さっき喋ってた相手は誰だ?」
「協力者さ。俺たちが戻るまで、ここで馬の面倒を見ててくれる。不測の事態が起きたときのバックアップも兼ねてるがね」
「用意がいいんだな」
「この業界で生き残る秘訣さ」
クロードはそううそぶくと、堂々とした足取りで宿に入っていった。
なるほど優秀だ、あとは軽口と酒癖の悪ささえ治ればな…などと思いながら、ドレイクも宿の戸に手をかける。相棒に敬愛の念を抱きかけたのも束の間、さっそくシロメのタンカードを手にしているクロードの姿を見て、ドレイクはため息をついた。
2012/06/22 (Fri)17:12
20世紀初頭…新興宗教団体カバルの崇拝する邪神チェルノボグの手によって殺された銃使い「ケイレブ」はゾンビとして復活し、生贄として誘拐された3人の仲間を救出するためカバルに単身戦いを挑む。しかしケイレブの奮闘虚しく仲間は3人とも死亡し、ケイレブは復讐心と破壊衝動の赴くままにカバルと彼らが召還した悪魔たちを殲滅する。そして邪神チェルノボグすらをも打ち倒したケイレブは、何処かへと姿を消した…
ダークな設定と過剰なまでの残虐描写でカルト的な人気を誇りながらも、近未来に舞台を移した2作目の評判はあまり芳しくなく、2作目の拡張パックを発売したのちにフランチャイズの終了を迎えたMonolith Productions製作のPCゲーム「Blood」。
グレさんにとっても思い入れ深いこのゲーム、シリーズ最終作でもある2作目が発売されてからもう12年もの歳月が経とうとしている。小規模ながらも根強いファンが多く、2作目の発売当時からファンコミュニティ間でアンオフィシャルなリメイクや続編の製作計画が立ち上がっては消えていった。そんな「Blood」の今を、すこしだけ追ってみた。
** ** **
「Hypertension(旧)」
↑2009年に発表されたトレイラー映像
http://tdgmods.blogspot.jp/
↑現在の開発者ブログ
2009年にPC(Win、MacOS、Linux)のみならずドリームキャストでのリリースも発表し、国内でも「ドリキャスの新作ソフト」としてちょっとだけ話題になったタイトル。製作はTDGMods。
Monolith製作の1作目Bloodの素材をそのまま使用し、ゲームプレイにRPG要素も含むということで発表当時からファンの間で話題になっていた。早い段階でプレイアブル映像を含むトレイラーをYoutube上で発表するなど宣伝に力を入れており、当時もっとも実現が確実視されていたのだが、発表形式などの具体的な話が何一つ進まないまま昨年9月に開発の中止を発表。現在は「SCOURGE」とプロジェクト名を変更して開発を続けているらしいが、こちらは開発者のブログのコメント以外の情報がまったくない状況だ。
以前はかなり気合の入った専用サイトが存在していたのだが、現在ネット上を探し回っても見つからないことから、すでに消滅したものと思われる。開発中止と開発チームの解散については諸説あるようだが(曰くBloodのデータをMonolithに無許可で使用していたのが問題になった、曰く単純に開発スタッフの技術不足だった、等)、COOPプレイの実装なども発表されていたため、プロジェクトが実現すればかなり興味深いものに仕上がっていたに違いない。
ゲームエンジンはhyper3DGE(旧名:EDGE、DOOMのソースコードを元にトータル・コンバージョンMOD製作用のポートエンジンとして製作された。EDGE自体は昨年4月に最終版がリリース…事実上の開発中止…され、のちに別の開発チームがhyper3DGEと名前を変更してプロジェクトを引き継いだ)を使用していた。
** ** **
「Transfusion」
http://www.transfusion-game.com/index.php
↑公式サイト
オープンソース化した初代Quake Engineを使用してBloodをリメイクするプロジェクト。
2001年に開発がスタートし、2007年にマルチプレイ部分のみのベータ版を公開して以来進展がないことから、こちらも開発を中止した可能性が高い。公式サイトにはシングルプレイ部分のスクリーンショットや開発中の写真が多数掲載されている。
** ** **
「Blood 2 Resurrection」
↑2008年に公開されたトレイラー映像
http://www.blood2r.com/
↑公式サイト
Blood2のMODとして製作されている(らしい?)、非公式の続編。ゲームエンジンはBlood2同様に初代Lithtech Engine。メインキャラクター4人にそれぞれ独自のエピソードが用意され、エピソード総数は40を超えるものになるという。
こちらもHypertension同様に宣伝に力は入っているものの、具体的な部分が一つも見えてこない。開発状況に関しては昨年7月に公式サイト上にて生存報告があったものの、以後現在に至るまで更新がないことから完成は困難であろうことが予測される。
** ** **
…とりあえず、比較的新しい情報を集めてみたのだが、どれも実現が絶望視されるものばかりでカナシイ。
実際にプレイできる部分を公開していたのがTransfusionのみという。
ちなみに、正当なBloodの続編製作の可能性に関してはかなり不透明。
Blood2は不調に終わったものの、ファンからの続編製作希望の声自体は当時からあったように思える。その多くは「今度こそ1作目の雰囲気で…」というものだったろうが。しかしMonolith側からの反応はなく、以後MonolithはBloodに触れることなくNOLF、コンデムド、FEARと別タイトルのシリーズ開発を続け現在に至るわけだが。
これにはBloodシリーズの版権の所在も関係してくるわけで、どうもBloodの版権はデベロッパのMonolithではなくパブリッシャのGTインタラクティブが持っていたらしい。そのせいでMonolithが続編を作りたくても作れなかった、という可能性は大いにありそうだ。
しかし洋ゲー事情に明るいヒトなら知っての通り、GTはとっくの昔にInfogramesに買収されている。それなら、Bloodの版権はいま何処に…?ということになるが、調べてみたところ、どうも現在Bloodの版権を所持しているのはワーナーブロスらしい!?ワーナーブロスといえば近年ゲーム業界に参入してきた映画会社(あのワーナー)であるが、それ以上にBloodの生みの親であるMonolithが開発したFEARシリーズの現パブリッシャでもある。
これはひょっとすると、Monolith自身の手による続編、あるいはリメイクの可能性もあるのではないか…?というのがグレさんの見立て。というか、淡い期待と言ったほうが正しいか。
今後のMonolithの動向に注目したい、というところで今回の記事は了。
ああちなみに、グレさんは2作目も好きですよ。
2012/06/20 (Wed)14:58
いまさらキャピタル・ウェイストランドに彗星の如く現れた救世主、その名も“Caleb(ケイレブ)”。
それっぽい装備をなんとか見繕い、PCゲーム「blood」の主人公をFallout3で再現してみました。本当はトミーガンを見つけてからにしたかったんだけど、ユニーク扱いなのか、あちこちを灰燼に帰しつつ有象無象の銃器を手に入れてもなお発見できないので諦めました。
コンシューマ版ではさんざん善人プレイに徹してきたので、今回は残虐非道の悪人プレイで遊んでます。コンシューマでなんとなく抱えていた「ここで一線を越えて、取り返しのつかないことになっちゃったらどうしよう(主にバグ方面で)」というモヤモヤとした思いも、PC版なら「いざとなったらコンソール・コマンドとMODがあるし」と軽い気分でトンデモプレイに走れます。
いままでは乞食相手にちまちま汚染されていない水を配ってやったり、NPCのご機嫌取りに奔走していたグレさんも、ケイレブ御大の姿を借りたいまでは、切断したアガサ婆さんの頭部をテディベアと同衾させちゃう大悪党になりました(アガサ婆さん家のテディベアがどこにあるか、知っておろうな)。
悪人プレイといっても、悪党と仲良しこよしになるわけではありません。奴隷も奴隷商人も、パンピーもレイダーも等しく地獄行きです。「この世界に善人はいらない。そして悪人は俺1人でいい。」それがモットーです。
とはいえ何の考えもなしに皆殺しにするだけでは面白くないので、そこんとこはキチンと趣向を凝らします。
まず、「クエストは一通り受ける」。これ大事。先述のアガサ婆さんも、ブラックホークをきっちりせしめてから極楽浄土に逝ってもらいました。「ありがとう、貴方はなんて良い人なんでしょう。」そんな気持ちでイッパイの相手の脳天をサイド・バイ・サイドで吹き飛ばすのが俺のジャスティス。タダで得られる善意なんかに期待しちゃあーいけないゼ?
ちなみに、今回はじめてドッグミートを連れて旅してます。
グレさんは基本一人旅が好きなのでコンパニオンは絶対連れ歩かないんですが、今回は寄るつもりもなかったジャンクヤードで出会ったドッグミートを気まぐれで少しだけ連れ歩いたら存外気に入ってしまったので、このわんわんを相棒に荒野をさ迷うマッドマックス状態になってしまいました。
ていうかこの犬強ぇ。ブロークン・スティール入れたら強化されると聞いたことはあったけど、まさかデスクローとサシで勝負して圧勝するレベルとは思わなんだ。調べてみたところによると、BS導入後のドッグミートのHPは主人公のレベルx500…らしい。ナニコレ。フォークスに至っては桁が違うらしいし(そのままの意味で)、いくらBSを導入すると難易度が上がるといってもクソ調整すぎるだろコレ…
とりあえず今後の予定としては、モイラのサバイバルガイド作成を完了させたらメガトンを吹き飛ばして、そのあとテンペニー・タワーで虐殺パーティを開きたいと思ってます。グールはインターフォンの近くで壁の染みになってます。
…本当はプレイヤーの声をケイレブ御大の声に差し替えたいんだけど、肝心のケイレブ美声詰め込みzipがHDDの闇奥に消えちゃったんだよねぇ…