主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2012/06/30 (Sat)14:55
マラーダに到着したのは2日後の朝だった。陽光に目を細めながら、ドレイクが呟く。
「男と森の中で野宿とはな。泣けるぜ」
「人間の女は好みに合わんくせに、よく言うぜ、爬虫類の旦那。こっちだ」
ドレイクの軽口をさらりと受け流しながら、クロードが道を案内する。
視界が開けた先には果たして、特徴的なアイレイドの建造物が、然るべき時を経た姿で鎮座していた。永い間風雨に晒された遺跡は半壊し、そこにかつて栄華を極めた文明の面影は僅かしか見られない。
遺跡に近づこうとした2人の足元に、矢が突き刺さる。警戒するドレイクを制し、クロードが口を開いた。
「ス=ラジールか?」
ドレイクがクロードの視線を追うと、丘の上で弓を構えたカジートが見えた。最低限のカモフラージュしか施していないその姿は、事前にそうとわかっていれば発見は難しくないだろうが、無意識下でその存在に気づくことは難しいだろうと思われる。
「ス=ラジール、ずっと待っていた。無事でなによりだ、クロード」
そう言って、カジートの弓兵は笑みを浮かべる。
ほぼ同時に、いままでどこに隠れていたのか、数人の武装した兵士たちがやって来る。想定外の展開に、ドレイクは思わずクロードに耳打ちをした。
「こいつらもお前さんの仲間か?」
「ああ…といっても、こいつらは臨時雇いだけどな」
「用意のいいことだ。本当に」
ドレイクが腕組みをして佇む傍らで、クロードは傭兵たちと何らかの打ち合わせをはじめる。
しばらくしてクロードは戻ってくると、ドレイクに向かって言った。
「さあ、行くぞ。マラーダに宝探しの時間だ」
「あいつらも一緒か?」
「いや。あいつら腕は立つが、遺跡の探索に連れて行きたい連中じゃないな…バケモノの頭と一緒に大事な宝も叩き割って、しかもそのことに気がつかないような脳筋だ」
まあ、いまのはちょっと言い過ぎかもしれないが…クロードはそう付け足し、言葉を続ける。
「あいつらは周辺警戒だ。不慮の事故があっちゃあ困るからな…ユンバカノは、横槍を入れられて手柄を取られるのを何よりも嫌ってるんでな」
「帝国の調査団が来たら、山賊のフリでもして追い払うってか。なんとね」
「それに、遺跡の探索は大人数だと逆に身動きが取りにくくなる。人数ばかり揃えたはいいが、いざ遺跡に巣食うモンスターに襲われたとき、狭い通路で押すな、引くなとやっているうちに全滅する阿呆なパーティの話は後を絶たないんだよ。知ってたか?」
「俺にわかってるのは」
ドレイクは脇差しの位置を直すと、マラーダ遺跡の入り口を真っ直ぐに見据えて言った。
「無駄話は止して、早々(さっさ)と仕事を終わらせるべきだってことだ」
「まるで野生の王国だな。人の手が入っていなかったのは本当らしい、フゥンッ!」
ザンッ!
ドレイクは恐るべきスピードで飛び掛ってきたオオカミを斬り伏せると、クロードに視線を向けた。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるなら、大丈夫なんだろうよ!多分な!」
似つかわしくもない切羽詰った表情でクロードが答える。無理もない…いくら腕の立つ傭兵と言えども、「野生のクロクマ」を相手にそうそう苦戦せずにいられるものではない。というより、普通の戦士なら到底勝てるような相手ではない。
「こういうとき、バトルメイジが欲しいと思わねぇか?爬虫類の旦那!」
「この狭い部屋の中で火の魔法でも使わせる気か、俺は願い下げだね」
しかしまぁ、なんだかんだで駆け合いできる程度の余裕はあるわけだ…などと思いながら、ドレイクは何処からともなく襲いかかってきた巨大ネズミの首を寸断した。
マラーダ遺跡への侵入に成功した2人は、さっそく地元の野生動物を相手にする破目になっていた。
「ぬぅおあああああッッッ!!」
ときの声を上げながら渾身の力で盾をクロクマの鼻面に叩きつけたクロードは、そのまま見当を失っているクロクマの顎に剣を突き刺した。
ズシイィィィィンンン……
脳幹を田楽刺しにされたクロクマはその場にぶっ倒れ、やがて微動だにしなくなった。フゥ、とクロードはため息をつき、クロクマの顔面を踏みつけながら剣を引き抜く。
「なんだか俺様が一番の貧乏クジを引いたようだなァ、爬虫類の旦那よ?」
「他の雑魚は全部俺が処理したんだ、文句言うな」
ぼやくクロードに対し、ドレイクは周囲に散らばる有象無象の野生動物の屍を見せつける。
クロードはわざとらしい愛想笑いを浮かべると、剣を鞘に戻しながら言った。
「それじゃあ、まあ、いまのところスコアは同点ってことでいいよな?」
「輪投げじゃあるまいし。妙なこと言ってないで、さっさと先に進むぞ。こんなところでスコアを稼いだって、なんの足しにもなるまい?」
残念ながらこの2人に、生態系の保護だの動物愛護の精神だのといったものは期待できない。
「妙な扉だな。他のアイレイド遺跡では滅多に見ない形式だ」
「そういえば…ユンバカノからもらった資料に、これと同じ扉の解説スケッチがあったな」
征(い)く路(みち)に立ち塞がる野生動物の群れを容赦なく斬り捨て、到着した場所。
そこはマラーダ遺跡の中央広間であり、一切の望まれぬ侵入者を遮断すべく、特殊な鍵で固定された扉が2人の目前に鎮座していた。
「破壊する…には、すこし骨が折れそうだな」
「物騒なことを言いなさんな、爬虫類の旦那。ちゃんとユンバカノから、資料と一緒に鍵も貰ってる」
そう言って、クロードは奇妙な形状の鍵を取り出す。
「本当は、こいつだけでも随分と骨董品的価値があるらしいんだが、ユンバカノにとっては、この遺跡の奥地にあるモノを手に入れるほうがよっぽど重要らしい。普通の学者は、こういった代物を実際に使おうとはしないもんだ」
「それだけ研究熱心だってことか。熱意、というか、執心、執着?まあ、俺にはどうでもいいことだが」
「そいつは俺様も同感だな」
ドレイクの投げやりな言葉に相槌をうちながら、クロードは躊躇いもなく鍵を扉に差し込んだ。
複雑な行程を経て扉が開き、鍵は扉に刺さったまま手の届かぬ場所へと消えていく。
「良かったのか?骨董品的価値があるんだろう?」
「想定の範囲内ってヤツさ。もちろん、これで成果を出せなきゃユンバカノに殺されるけどな」
「ユンバカノの放った刺客に、だろ」
「そういうことだ」
なんて会話だ。
「さァて、マラーダのお宝とご対面だな」
封印された扉を抜け、アイレイドの崩壊以後おそらくは何者も寄せつけなかった最奥の間へと2人は歩を進める。
「こいつは…石板、か?」
「そうだ。それも王族間で用いられていた希少な代物だ、博物館でさえ滅多に見れんのだぜ、コレは」
壁にはめ込まれるような形で埋もれている「それ」。
黒曜石のように黒光りする石版の上に、おそらく古代語とおぼしき文字が、光を放ちながら線蟲のように蠢いている。一目見てはっきり、フェイクや偽造品ではない本物のアーティファクトであることがわかる。
「あんた、アイレイド文明には堪能だったよな。これを読めるか、クロード?」
「いや、無理だね。こいつはアイレイド言語の中でも、王族間でのみ用いられていた古代語で書かれてる。まだ誰も解明できてないはずだ…ユンバカノなら、あるいはどうか知らんがね」
そう言いながら、クロードが石板に手をかける。
その刹那、ドレイクに悪寒(母親じゃないほう)が走る。その石板に手を出してはいけない…そんな予感が脳裏に閃いたが、かといって石板を手に入れなければ仕事が終わらないので、結局、何も言わなかった。そのときは。
ガポッ……
経年劣化で脆くなっていることを恐れてか、クロードは慎重な手つきで石板を抜き出す。
石板がクロードの手に渡ったそのとき、微振動がドレイクの足を揺らした。
「…なんだ?」
疑念の声を上げるドレイクに、クロードが怪訝な表情を向ける。
「どうした、爬虫類の旦那?」
「いや、いま地面が揺れたような…うぉっ!?」
突然壁に亀裂が入り、天井が崩れ落ちてくる。
「ヤバイ、爬虫類の旦那!やっぱりお宝に罠ってのはツキモノだよな!?」
「無駄口はいいから回避行動に専念しろ、死ぬなよ!つうか、死んでもいいから石板だけは死守しろいいな…おい、なんだ、あれ」
落下してくるブロックの塊を避けながら、ドレイクは視界の端に引っかかったものを凝視する。
「おいおい、冗談だろ…?」
どうやらクロードも、ドレイクの見たものに気がついたらしい。いままでどこに隠れていたのか、2人の周囲に、スケルトンやレイスといった死霊どもが集まりはじめている。
「こいつは予想外にヤバイ事態だぜ、爬虫類の旦那。アンタ、ゴーストは相手にできるか?」
「無理だ。俺の武器はただの鉄製だからな…お前の武器はエンチャント付きだったな」
「遺跡に亡霊はツキモノだからなァ。やれやれ」
クロードは手にした石板をさっさと麻袋に入れて鎧の間に仕舞うと、スラリと剣を抜き放った。
ドレイクもカタナを抜き、重心を低く落として構えると、包囲網を狭める死霊どもに鋭く視線を這わせた。
物理的攻撃が通用するスケルトンとは違い、ゴーストやレイスなどの実体がないクリーチャーに普通の武器は掠りもしないはずだ。それこそ魔法か、魔法が付与されたエンチャント・ウェポン、あるいは銀製の武器でなければダメージを与えることはできない。
「シィィィッ!!」
得物を下手に構えながら猛突するドレイク。カタナの刃先が地面を擦り、火花を散らしながら弧を描く。やがて振り上げられた刀身がスケルトンの胴を捕らえ、古びたリン酸カルシウムで組成された身体を粉砕した。
返す刀でもう1体の首を飛ばし、さらに反動をつけた一撃でもう1体を両断する。
一方のクロードも、レイスの放つ冷撃呪文をエンチャントが付与された盾で防ぎながら瞬時に距離を詰め、白光する剣をレイスに突き立てた。剣を引き抜いたのち、素早い袈裟斬りを2、3回叩き込む。
緑色のガスのようなもの(プラズマ?)を吐き出しながら、レイスはずたぼろの黒いローブだけを残して姿を消した。クロードは勝ったのだ。
最後のスケルトンを斬り伏せたドレイクが、カタナを肩に担いだポーズで言った。
「なんだ、ピンチだとか言う割には圧勝じゃないか」
「ちょいとばかし本気を出したからな。同業者に手の内見せるのは、主義じゃないんだが」
「…本気で俺と殺し合うことがあると思ってるのか?」
「何が起きるかわからん世の中だ。生き残れるのは慎重なヤツだけだぜ、爬虫類の旦那」
クロードはそう言うと、出口へと向かって歩きはじめた。その横顔に、だらしない酔っ払いの雰囲気は微塵もない。
もっとも、クロードの慎重さが逆にトラブルを招くことがあると、2人はこの直後に知ることになるのだが。
「ご苦労だったなあ、クロードさん」
マラーダ遺跡を出た直後、いきなり抜き身の剣を持った2人組の傭兵に囲まれたドレイクは、思わず目を白黒させた。
「こいつら確か、お前が雇った連中じゃなかったか、クロード?」
「そうだったような、そうじゃなかったような…」
ぎこちない愛想笑いを浮かべるクロードに、傭兵たちは油断なく武器を構えたまま言う。
「迂闊な真似をするんじゃないぜ、遠くからはス=ラジールが弓で狙ってるからな」
「痛い目に遭いたくなけりゃあ、大人しくお宝をこっちに渡すんだね」
口々に脅し文句を並べる傭兵たちを前に、ドレイクは嘆息した。クロードに向かって言い放つ。
「あのさぁ…お前ねー。どうしてこんな連中雇ったんだよ…」
「いやぁーまあ、なんかの役に立つかと思ったんだがね。なんの役にも立たなかったねぇ」
「それどころか完璧に裏目に出てるじゃねーか!」
「無駄口はそこまでにしておけ。出すのか、出さないのか?」
やにわに口喧嘩をはじめようとしたドレイクを制すように、傭兵が口を挟む。
ドレイクは視界の端にス=ラジールの姿を捉えたまま、やれやれと肩をすくめ、口を開く。
「わかったよ。これが欲しいんだろう?」
ドレイクは自らのコートの内側に手を入れ…
「なっ!?」
「馬鹿な!」
突如として放たれた銀製のダガーが、陽光を反射してレーザービームのように輝きながらス=ラジールの心臓を捉える。致命傷を負ったス=ラジールが体勢を崩しながら放った矢は、傭兵の肩口に突き刺さった。
まさか攻撃してくるとは思わなかったのだろう、傭兵たちは想定外の事態に狼狽しながら、それでも素早く反撃しようと試みた。しかし、それでは「遅すぎた」。
2人の傭兵の間を縫うように飛び出したドレイクは、カタナを抜きざまに、振り向きもせず背後にいる傭兵の身体に刃を突き刺した。
もう1人の傭兵も、相棒の死に驚く間もなくクロードの一撃で両断されていた。
「まったく……」
「爬虫類の旦那よ。銀製の武器は持ってない、と言ったよな?」
「ふざけろ。ダガーでレイスを相手になんかできるか」
どしゃり、と音を立てて崩れ落ちる傭兵たちを尻目に、2人は先のマラーダ遺跡での戦いについて蒸し返す。
「しかしまあ、あとはユンバカノのところへ戻ればいいだけだからな。そうぼやくこともないか」
「不慮の事故はあったがな。今後一切、こんな不手際はナシにして欲しいもんだ、クロード」
「まぁ固いことばかり言いなさんな、爬虫類の旦那。帝都に戻ったら一杯奢るからよ」
「これだから酔っ払いってのは…」
けっきょく帝都に戻るまで、ドレイクは不機嫌な態度を崩すことはなかった。もっとも、クロードに酒をたかることは忘れなかったが。
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