主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
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2012/06/25 (Mon)08:14
「こいつで間違いありませんね?ミスター・ユンバカノ」
「ああ、まさしくこれは私が捜し求めていた物の1つ。完璧な仕事ぶりだよ、素晴らしい…」
帝都タロス広場地区に位置する、豪奢な邸宅にて。
以前、ヴィルバーリン遺跡から奇妙な形状の彫像を持ち帰ったアルゴニアンのドレイクは、それをシロディールでも有数の古代アイレイド研究家である資産家ユンバカノの元へと届けていた。
アイレイドとは、かつてシロディールを支配していた超古代文明…及び、文明を築き上げた古代人種を指す。
栄枯盛衰の果て、アイレイドははるか昔に滅びて久しい。インペリアル(帝国人)が支配する現代のシロディールにおいてその文明の面影はほとんどなく、一部現存する美術品や、各地に点在する遺跡などにその残滓を残すのみである。
「さすがはセンセイの紹介だけはある。彼は元気かね?」
「えぇ。最近、ちょっと腰が曲がってきたと嘆いていますが」
「それはいけないな。今度、良い錬金術師を紹介しよう…本当は、運動するのが一番なんだが。我々学者連中というのはどうにも、出不精なものでね。いやはや」
そう言って、ユンバカノは黄身がかった顔に笑みを浮かべた。
ユンバカノの言った「センセイ」とは、ドレイクの故郷ブラックマーシュに住むアルゴニアンの学者で、古今あらゆる学術知識に長けていることから、世界各国のギルドや学会と繋がりを持つ大物である。とはいっても当人自身はかなり質素な佇まいで、その穏やかで謙虚な物腰は好漢と呼ぶに相応しい。
そしてセンセイはドレイクの師匠筋に当たる人物で、今回ドレイクがシロディールに渡る際、さまざまな便宜を図ってくれた協力者でもある。
「とある目的」のためにシロディールに行くドレイクに、もし手がかりを探すついでに余裕があるのなら…とセンセイに依頼されたことが幾つかあり、その内の1つがユンバカノのアイレイド・コレクションの拡充だった。
「シロディールに散らばったこの彫像も、そのほぼすべてが私のもとへ集まった。ついてはここで1つ、君に別の遺物の捜索を頼みたいのだが」
「と、いうと?」
「ここで私の口から説明したいのは山々だが、じつはこの後、賓客を迎えなければならなくてね。タイバー・セプティム・ホテルに今回の仕事の協力者を待たせてある、詳細は彼から聞いてほしい」
ユンバカノは丁寧な態度の裏に、早急にこの屋敷から出て行ってほしい旨を含めてドレイクに言い放つ。
まったく、学者ってのは、なんでこう…そんな台詞を飲み込みながら、ドレイクは席を立った。ユンバカノ邸を出る直前に、瀟洒な身なりの女性がユンバカノの執事に迎えられる様子がチラリと見える。
「(…あれは確か、ユンバカノとおなじアイレイド研究家だったか?あまり仲は良くないと聞いていたが、情報交換くらいはするのかね)」
そんなことを考えながら、ドレイクはユンバカノ邸を後にした。
「まずは祝杯だ。ユンバカノの財布に…遠慮するこたぁねえ、そのための金はたっぷり貰ってる。しかしまあ、酒や女じゃなく骨董品に散財するなんざ、奇特なヤツだよなァ、アイツも」
「頼むから、仕事の話をするまえに酔いつぶれたりしてくれるなよ。こっちは見かけほどヒマじゃないんでな」
コートを脱いだラフな格好で銀のピッチャーを取り上げたドレイクは、目の前にいる今回の仕事のパートナーに向かって苦言を呈した。
タイバー・セプティム・ホテルで待っていたのは、ユンバカノに雇われたトレジャー・ハンターの1人クロード・マリクだった。古代の遺物収集のためにユンバカノは数多くの人員を雇っているが、その中でもクロードは飛び抜けて優秀なエージェントだ。
金を払っている限りは忠実で、古代アイレイドの知識に堪能なうえ腕も立つ。そして遠慮や容赦がなく、一切の汚れ仕事を躊躇なくこなす危険な男。それがクロードに対する仲間内での評価だった。
クロードはジョッキ1杯のエールを呷ると、口の端を曲げて言った。
「まぁ、そう急くな。手はずはすべて整ってる、いまここで焦ってもしゃあねえ。モノがある場所も、モノの目星もついてんだ。行程は、マァ…4、5日ってところかな。1週間足らずのルーティン・ワークってやつだ」
「なんの変哲もない、ってか。詳細は?」
「俺たちが行くのは、かつてアイレイドが<高地神殿>と呼んでいた場所…地下都市マラーダ。ヴァルス山脈の中腹にある」
「ヴァルス山脈か…かなり遠いな」
「途中までは馬で行く。インペリアル・ブリッジのそばに宿があるから、そこに馬を停めたらあとは歩きだ。山の中だからな」
「野郎とヒッチハイクか。有り難くて涙が出るね」
そんな軽口を叩いたとき、ドレイクはふと、ヴィルバーリンで出会った女傭兵のことを思い出していた。アリシア、とか言ったか。特に信義があるわけでもないなら、ユンバカノに紹介してやっても良かったかな…などと思う。雲散臭い仕事なのは確かだが、金払いだけはいい。
まあ、今更考えても仕方のないことだが、と思い直し、ドレイクはクロードに質問した。
「で、今回のエモノは?目星はついてると言ったが」
「そうだな。まずはこいつに目を通してくれ…参考資料だ」
そう言って、クロードはドレイクに1冊の本を手渡した。
「神殿の浄化…?」
古ぼけた本に刻まれた、かすれた文字に目を細め、ドレイクは眼鏡を取り出した。
「…かくしてアイレイドの呼び出した魔物は掃討され、彼らの所有していた書物や遺物はことごとくが焼き払われた。アレッシアの聖なる炎によって、高地神殿と呼ばれたかの地マラーダにて…か」
「意外というかトンマというか、これまでアイレイド研究家が見落としていたんだが、高地神殿をマラーダと断定しているのはその本だけだ。そいつはアレッシア教団が残した書物の焼け落ちた一片を書籍化したもので、マラーダに関する貴重な情報が残されてる…まぁ、深く読み込めば、だけどな」
「文面の表層だけ眺めてた学者どもには、この本の真価がわからなかったってわけか。そこに気がついたのがユンバカノか?」
「そういうことだ。なかなかどうして、学者にしては型破りだが、たいした勘と頭脳の持ち主だよ、あの男は…マラーダは立地が不安定な場所にあるし、これまで重要視されてこなかったから、あまり調査団の手が入ってねぇ。そこでユンバカノは、腕利きを集めて個人的にマラーダの再調査に乗り込むことにしたってわけだ。まあ学会に発表する前に行動を起こすのは、あの男らしいがな」
「それで、マラーダには何があると?」
「そいつは」
クロードはジョッキを空けると、不適な笑みを浮かべた。
「着いてからのお楽しみだ」
「随分と重い装備だな。数日越しの任務だ、もうちょっと軽くしてもいいんじゃないのか?」
明朝。チェスナット・ハンディー厩舎でクロードと落ち合ったドレイクは、クロードが身につけている重装鎧を一目見て言った。
一方のクロードはただ肩をすくめてみせる。
「俺様はこう見えても小心者でね。心配すんなよ、途中でヘバッたりはしねぇさ」
「だといいが。だが、森の中で倒れても背負ってなんかやらないからな」
「大丈夫だって、そんな手間ぁこさえねえさ。あんた、ちょっと心配性なんじゃないか?そこまで言われなくとも、ママにおんぶしてもらうようなトシじゃねぇってよ」
そう言って、クロードはケヒヒヒと笑った。ドレイクは呆れたように、一瞬白目を剥いたような表情を見せると、無言のまま馬の背中にまたがった。
インペリアル・ブリッジの宿に到着したときには、既に夕方になっていた。
「強盗に襲われることもなく、スムーズに到着です…と」
誰ともなく独り言を漏らしながら、ドレイクは馬から降りた。
一足先に馬を厩舎に停めに行ったクロードが、何者かと話している姿が見える。セプティム硬貨の詰まった皮袋を先方に渡すと、クロードは対外用の笑顔のままドレイクのもとへ戻ってきた。
「今日はここで泊まりだ。明日は歩き通しだからな、ここでゆっくり休んどかねェとな」
「さっき喋ってた相手は誰だ?」
「協力者さ。俺たちが戻るまで、ここで馬の面倒を見ててくれる。不測の事態が起きたときのバックアップも兼ねてるがね」
「用意がいいんだな」
「この業界で生き残る秘訣さ」
クロードはそううそぶくと、堂々とした足取りで宿に入っていった。
なるほど優秀だ、あとは軽口と酒癖の悪ささえ治ればな…などと思いながら、ドレイクも宿の戸に手をかける。相棒に敬愛の念を抱きかけたのも束の間、さっそくシロメのタンカードを手にしているクロードの姿を見て、ドレイクはため息をついた。
「ああ、まさしくこれは私が捜し求めていた物の1つ。完璧な仕事ぶりだよ、素晴らしい…」
帝都タロス広場地区に位置する、豪奢な邸宅にて。
以前、ヴィルバーリン遺跡から奇妙な形状の彫像を持ち帰ったアルゴニアンのドレイクは、それをシロディールでも有数の古代アイレイド研究家である資産家ユンバカノの元へと届けていた。
アイレイドとは、かつてシロディールを支配していた超古代文明…及び、文明を築き上げた古代人種を指す。
栄枯盛衰の果て、アイレイドははるか昔に滅びて久しい。インペリアル(帝国人)が支配する現代のシロディールにおいてその文明の面影はほとんどなく、一部現存する美術品や、各地に点在する遺跡などにその残滓を残すのみである。
「さすがはセンセイの紹介だけはある。彼は元気かね?」
「えぇ。最近、ちょっと腰が曲がってきたと嘆いていますが」
「それはいけないな。今度、良い錬金術師を紹介しよう…本当は、運動するのが一番なんだが。我々学者連中というのはどうにも、出不精なものでね。いやはや」
そう言って、ユンバカノは黄身がかった顔に笑みを浮かべた。
ユンバカノの言った「センセイ」とは、ドレイクの故郷ブラックマーシュに住むアルゴニアンの学者で、古今あらゆる学術知識に長けていることから、世界各国のギルドや学会と繋がりを持つ大物である。とはいっても当人自身はかなり質素な佇まいで、その穏やかで謙虚な物腰は好漢と呼ぶに相応しい。
そしてセンセイはドレイクの師匠筋に当たる人物で、今回ドレイクがシロディールに渡る際、さまざまな便宜を図ってくれた協力者でもある。
「とある目的」のためにシロディールに行くドレイクに、もし手がかりを探すついでに余裕があるのなら…とセンセイに依頼されたことが幾つかあり、その内の1つがユンバカノのアイレイド・コレクションの拡充だった。
「シロディールに散らばったこの彫像も、そのほぼすべてが私のもとへ集まった。ついてはここで1つ、君に別の遺物の捜索を頼みたいのだが」
「と、いうと?」
「ここで私の口から説明したいのは山々だが、じつはこの後、賓客を迎えなければならなくてね。タイバー・セプティム・ホテルに今回の仕事の協力者を待たせてある、詳細は彼から聞いてほしい」
ユンバカノは丁寧な態度の裏に、早急にこの屋敷から出て行ってほしい旨を含めてドレイクに言い放つ。
まったく、学者ってのは、なんでこう…そんな台詞を飲み込みながら、ドレイクは席を立った。ユンバカノ邸を出る直前に、瀟洒な身なりの女性がユンバカノの執事に迎えられる様子がチラリと見える。
「(…あれは確か、ユンバカノとおなじアイレイド研究家だったか?あまり仲は良くないと聞いていたが、情報交換くらいはするのかね)」
そんなことを考えながら、ドレイクはユンバカノ邸を後にした。
「まずは祝杯だ。ユンバカノの財布に…遠慮するこたぁねえ、そのための金はたっぷり貰ってる。しかしまあ、酒や女じゃなく骨董品に散財するなんざ、奇特なヤツだよなァ、アイツも」
「頼むから、仕事の話をするまえに酔いつぶれたりしてくれるなよ。こっちは見かけほどヒマじゃないんでな」
コートを脱いだラフな格好で銀のピッチャーを取り上げたドレイクは、目の前にいる今回の仕事のパートナーに向かって苦言を呈した。
タイバー・セプティム・ホテルで待っていたのは、ユンバカノに雇われたトレジャー・ハンターの1人クロード・マリクだった。古代の遺物収集のためにユンバカノは数多くの人員を雇っているが、その中でもクロードは飛び抜けて優秀なエージェントだ。
金を払っている限りは忠実で、古代アイレイドの知識に堪能なうえ腕も立つ。そして遠慮や容赦がなく、一切の汚れ仕事を躊躇なくこなす危険な男。それがクロードに対する仲間内での評価だった。
クロードはジョッキ1杯のエールを呷ると、口の端を曲げて言った。
「まぁ、そう急くな。手はずはすべて整ってる、いまここで焦ってもしゃあねえ。モノがある場所も、モノの目星もついてんだ。行程は、マァ…4、5日ってところかな。1週間足らずのルーティン・ワークってやつだ」
「なんの変哲もない、ってか。詳細は?」
「俺たちが行くのは、かつてアイレイドが<高地神殿>と呼んでいた場所…地下都市マラーダ。ヴァルス山脈の中腹にある」
「ヴァルス山脈か…かなり遠いな」
「途中までは馬で行く。インペリアル・ブリッジのそばに宿があるから、そこに馬を停めたらあとは歩きだ。山の中だからな」
「野郎とヒッチハイクか。有り難くて涙が出るね」
そんな軽口を叩いたとき、ドレイクはふと、ヴィルバーリンで出会った女傭兵のことを思い出していた。アリシア、とか言ったか。特に信義があるわけでもないなら、ユンバカノに紹介してやっても良かったかな…などと思う。雲散臭い仕事なのは確かだが、金払いだけはいい。
まあ、今更考えても仕方のないことだが、と思い直し、ドレイクはクロードに質問した。
「で、今回のエモノは?目星はついてると言ったが」
「そうだな。まずはこいつに目を通してくれ…参考資料だ」
そう言って、クロードはドレイクに1冊の本を手渡した。
「神殿の浄化…?」
古ぼけた本に刻まれた、かすれた文字に目を細め、ドレイクは眼鏡を取り出した。
「…かくしてアイレイドの呼び出した魔物は掃討され、彼らの所有していた書物や遺物はことごとくが焼き払われた。アレッシアの聖なる炎によって、高地神殿と呼ばれたかの地マラーダにて…か」
「意外というかトンマというか、これまでアイレイド研究家が見落としていたんだが、高地神殿をマラーダと断定しているのはその本だけだ。そいつはアレッシア教団が残した書物の焼け落ちた一片を書籍化したもので、マラーダに関する貴重な情報が残されてる…まぁ、深く読み込めば、だけどな」
「文面の表層だけ眺めてた学者どもには、この本の真価がわからなかったってわけか。そこに気がついたのがユンバカノか?」
「そういうことだ。なかなかどうして、学者にしては型破りだが、たいした勘と頭脳の持ち主だよ、あの男は…マラーダは立地が不安定な場所にあるし、これまで重要視されてこなかったから、あまり調査団の手が入ってねぇ。そこでユンバカノは、腕利きを集めて個人的にマラーダの再調査に乗り込むことにしたってわけだ。まあ学会に発表する前に行動を起こすのは、あの男らしいがな」
「それで、マラーダには何があると?」
「そいつは」
クロードはジョッキを空けると、不適な笑みを浮かべた。
「着いてからのお楽しみだ」
「随分と重い装備だな。数日越しの任務だ、もうちょっと軽くしてもいいんじゃないのか?」
明朝。チェスナット・ハンディー厩舎でクロードと落ち合ったドレイクは、クロードが身につけている重装鎧を一目見て言った。
一方のクロードはただ肩をすくめてみせる。
「俺様はこう見えても小心者でね。心配すんなよ、途中でヘバッたりはしねぇさ」
「だといいが。だが、森の中で倒れても背負ってなんかやらないからな」
「大丈夫だって、そんな手間ぁこさえねえさ。あんた、ちょっと心配性なんじゃないか?そこまで言われなくとも、ママにおんぶしてもらうようなトシじゃねぇってよ」
そう言って、クロードはケヒヒヒと笑った。ドレイクは呆れたように、一瞬白目を剥いたような表情を見せると、無言のまま馬の背中にまたがった。
インペリアル・ブリッジの宿に到着したときには、既に夕方になっていた。
「強盗に襲われることもなく、スムーズに到着です…と」
誰ともなく独り言を漏らしながら、ドレイクは馬から降りた。
一足先に馬を厩舎に停めに行ったクロードが、何者かと話している姿が見える。セプティム硬貨の詰まった皮袋を先方に渡すと、クロードは対外用の笑顔のままドレイクのもとへ戻ってきた。
「今日はここで泊まりだ。明日は歩き通しだからな、ここでゆっくり休んどかねェとな」
「さっき喋ってた相手は誰だ?」
「協力者さ。俺たちが戻るまで、ここで馬の面倒を見ててくれる。不測の事態が起きたときのバックアップも兼ねてるがね」
「用意がいいんだな」
「この業界で生き残る秘訣さ」
クロードはそううそぶくと、堂々とした足取りで宿に入っていった。
なるほど優秀だ、あとは軽口と酒癖の悪ささえ治ればな…などと思いながら、ドレイクも宿の戸に手をかける。相棒に敬愛の念を抱きかけたのも束の間、さっそくシロメのタンカードを手にしているクロードの姿を見て、ドレイクはため息をついた。
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