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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/25 (Mon)06:00
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2016/05/22 (Sun)09:03





 俺の名はクレイブ、傭兵だ。
 シエラ・マドレ…誰もが人生をやり直すチャンスを与えられる場所。伝説のカジノ。俺がそこで目にしたのは、娯楽施設の皮を被った要塞と、張り巡らされた死のワナ、そして悲しい男女の物語だった。
 さあ、幕引きのときだ。金庫室に到着したいま、俺の任務は最終段階へと移行した。俺は傭兵だ…任務は忠実に遂行する。誰からのものであっても。どんなものであっても。







 俺がコンソールから離れたそのとき、無線機からエリヤの声が聞こえてきた。
『応答しろ傭兵、やったのか?金庫室への侵入に成功したのか?』
「やったとも。それと、あの三人も始末した。ドッグはキッチンでケバブ焼きになってるし、ディーンは最後の晴れ舞台を終えて退場した。クリスティーンはあんたの言った通り、首輪爆弾にやられたらしいな。ラジオの干渉波で信管が作動したようだ」
『よくやってくれた。よし、今から私もそちらへ向かう。金庫の中の物にはまだ手をつけていないだろうな?』
「報酬は任務終了後にっていう取り決めだったからな。そうそう手癖の悪い真似はしないさ」
『よし、いいぞ。それで…私が到着するまで、金庫室から離れていてくれないかね?」
「あんたの懸念はわかるよ、どいつもこいつもヒトが宝を目の前にすれば人間性が変わるってしつこく忠告してくれたもんでな。だから俺はちょっと離れた場所で、銃を足元に置いて、煙草を吸いながら、もう片方の手はキンタマでも握ってることにするよ。そうすれば変な気を起こしたって、すぐに妙な真似はできないだろう?」
『うーむ…』
 俺の提案が気に入らなかったのか、それとも下品な物言いが気に障ったのかはわからないが、エリヤは返事をするかわりに唸ってから、通信を切断した。
 しばらくして俺が解除できなかったセキュリティ・フォースフィールドが消失し、そこからガウスライフルを手にしたエリヤが警戒した様子で歩いてくる。彼は彼で俺がシエラ・マドレを駆けずり回っているあいだ、セキュリティ・システムのコントロールを試みていたらしい。






「私が金庫室を調べているあいだ、妙な真似をするなよ?」
 そう言って睨みつけてくるエリヤに、俺は遠くからヒラヒラと手を振ってみせる。
「心配しなさんなって、俺はあんたに傷一つだってつけるつもりはないさ」
「……フン」
 目的が達されつつあるからか、エリヤの態度は以前に増して無愛想になっていたが、いますぐに俺を撃ち殺そうとしているのでなければ、そんなことはどうでも良かった。俺がいまの仕事を選んだのは他人に好かれるためではない。
 エリヤが金庫室へ向かうあいだ、俺はひたすら煙草を吸いつづけた。今は他にやることがない。それに妙な動きをしていると思われて、エリヤに撃たれたくはなかった。立ち小便をしようとズボンのファスナーを上げる動作が、遠目にはホルスターから銃を抜く動作に見えないとも限らないのだ。
 やがてエリヤが金庫室に入り、執務テーブル上のターミナルをいじりはじめ、俺が吸殻を毒霧のくすぶる奈落に放り込んだとき、通信機から興奮を隠しきれないエリヤの声が聞こえてきた。
『ようやく…ようやくだ。これで私はシエラ・マドレのすべてを手に入れることができる…ホログラムの軍隊。毒霧。ベンダーマシン。あの忌々しいゴースト・ピープルでさえ。すべてが再出発( Begin Again )の礎となるのだ…』
「そして首輪、か?」
『そう、首輪だ…君たち、君とあの三人が協力してカジノへの突破口を開けたのはまさしく首輪のおかげなのだ。それぞれが異なる目的を持ち、カジノへの侵入に成功した途端に反目し殺しあった人間たちがいっときでも協力できたのはな』
「着け心地はあまり良くないけどな。そのうち小型化すべきだろう」
『無論だとも。なに、時間はいくらでもある。この地に残された資産をもってすれば、不可能なことなど何も…ちょっと待て』
 ガチャリ。
 金庫室の隔壁が封鎖され、エリヤの声に動揺が混じる。






 俺はくわえていた煙草を捨て、無線機をすべて放り投げてから、内蔵ピップボーイの無線通信機能を使ってエリヤに語りかけた。
「ディーン・ドミノの言った通りだな…

黙ってたってシエラ・マドレが始末してくれるのに、

なんでわざわざ自分で手を下す必要がある?」

『き、貴様ッ!このターミナルに何か細工したな!?』
「シンクレアの個人アカウントにアクセスすれば、金庫を中から開けることができなくなるっていうメッセージを消しただけさ。あんた、なにも知らずにシンクレアの個人アカウントにアクセスしたろ?もとは核戦争に備えた安全措置だが、いまとなってはその中に閉じ込められる生活ってのはゾッとしないな」
『このッ…裏切りおったな!?』
「裏切っただって?馬鹿を言っちゃいけない、俺はあんたから与えられた任務を完璧に果たしたじゃないか」
『なに…?』

「あんたはシエラ・マドレが欲しかったんだろ?

手に入れたじゃないか。

それをどう使うつもりだったのか、それで何がしたかったのかなんて、聞いてないし知らないね」
『貴ッ様ぁぁあああ…!!この周波数、私が渡した無線機のものではないな!?いったいどうやって私のピップボーイに通信している!?』
「ピップボーイだよ。俺自身は持ってないなんて言った覚えはないぜ?以前、連邦の技術者に頼んで体内に埋めてもらったのさ。リフレクス・エンハンサー、ニューラル・インターフェースと一緒にな…幾つかの機能はオミットしちまったが、あんたみたいな人間に見せびらかして利用されるのは避けたかったんでね」
『ピップボーイだと?フッフ…種をばらしたのは早計だったな。ロブコ社製のOSはセキュリティに脆弱性を抱えていることを知らんな?体内に埋められているとは好都合!ニューラル・インターフェース?神経接続だと…脳に直結している?ならばピップボーイをハッキングすれば、貴様を操り人形にできるというわけだな!』
「無駄だと思うけどな…」
 その言葉にエリヤは答えなかった。俺が強がりを言ったんだと、ブラフをかましていると思ったのだろう。いまごろは必死にピップボーイを操作しているに違いない。
 俺の身体にハッキングしているエリヤは忙しいに違いなかったが、俺は暇だったので、ためしに世間話の水を向けてみた。
「それで…あんたはシエラ・マドレを手にして、何がしたかったんだ?」
『知れたこと、NCRへの復讐だ!毒霧は逃げ場のない戦場を作り上げる!そしてホログラムの兵隊…エミッター(中継器)を設置してやつらの拠点に一体でもホログラムを送り込めれば、それだけで戦闘の勝利が確定するのだ!無敵の兵士、対抗する術はない!それは貴様がいちばん良く知っているだろう』
「で?」
『…で、とは』
「そのあとは」
『そのあと?』
「毒霧撒いて、ホログラムの軍隊で制圧して、殺して、殺して、殺しまくったあとは。どうするんだ?もう人間の住める環境じゃなくなるんだぜ。ヴィラを見ろよ。このシエラ・マドレを見ろよ。死体の山を築き、自分一人生き残った土地で、そのあとどうするんだ」
『ぁあああああああぁぁぁあああああああッッ!!』
 聴覚に、脳に直接訴えてくる絶叫に、俺は顔をしかめた。
 それは人間の言葉ではなかった。人間の声ではなかった。獣の声だった。怒り狂い、理性をなくした動物の声だった。俺の言葉が気に入らなかったのか、あるいはハッキングが徒労に終わることがわかったのかもしれない。
『なんだ、このシステムは!?』
「最初に言ったろう、ザ・シンクの連中に改造されたって。そのときに、OSの構成から何からオーバーホールされたんだよ。知ってるだろ?あいつら、ロブコ製品が大嫌いなのを」
『貴様、殺してやるッ!!』
 いったい、どうやって?
 そう問いかけようとしたとき、金庫室をぐるりと取り囲むように配置されたタレット(自動銃座)がいっせいに俺に銃口を向けてきた。
 しまった!フォースフォールドが破られたときに気づくべきだった、タレット・システムもエリヤの制圧下にあるってことを!
 俺はすぐにV.A.T.S.を起動し、グリムリーパー・スプリント・プログラムを最大出力にセット、ターゲッティング・システムを使って全タレットに照準をロックする。
 地面に置いてあった拳銃を拾ったときには、タレットが最初の銃撃を開始するまでの予測時間が0.5秒を切っていた。標準的なボール弾がフル装填された弾倉を抜き、新たな弾倉を…鉄芯入りのダートチップ弾頭に、限界まで火薬を充填したマキシマム・リロード弾がセットされた弾倉を銃杷に叩き込む。残り0.3秒。
 遊底を引き、薬室から弾丸がはじき出される。残り0.2秒。遊底が前進し、特製弾丸がフィーディング・ランプを滑って薬室にセットされる。残り0.17秒。






 ドガガガガンッ!!

 発砲を開始。銃声が連続した一つの音となって響き、全タレットが破壊、爆散する!
 残り…0秒。
『お、おお…おおお……』
 宙を舞っていた多量の薬莢がほぼ同時に地面に落下し、ピップボーイから全タレットの反応が消失したことを確認したエリヤが言葉にならない声を発した。
 嫌味を言うつもりはないが、俺は状況確認のためにエリヤに事実を告げる。
「隔壁の閉鎖と同時に救難信号が発信されるらしい。そのうち救助が来るだろう、核戦争後に俺がここへ辿りついたようにね。核戦争からは二百年経ってるわけだが、次に誰かがこの金庫へ到達するまでにはいったい何百年かかるのかな?」
『外からは…開けることができるんだな?おい傭兵、いますぐこの隔壁を開放しろ!財宝が…惜しくないのか!?』
 たしかにエリヤの言う通り、シエラ・マドレの財宝は金庫室に眠ったままだ。このままでは俺が得るものは何もない。そう、エリヤから受けた任務だけを考えるなら。
 エリヤからの任務を達成したと同時に、俺は自分が帯びていた「もう一つの任務」をも達成していたことを彼に告げた。
「クリスティーンがよろしく言ってたぜ」
『クリス…まさか…貴様、まさかBoSの差し金かッ!?くそ、だからか…ビッグ・マウンテンに居たのは!傭兵風情が、私を見くびるなよ。こんな金庫、内側からだって開けてみせる!私を誰だと思っているんだ?元BoSエルダーだぞ!』
「待ってるよ。俺は過去に受けた依頼にも寛容でな、もしあんたがモハビに戻るようなことがあれば…契約継続だ。そのときは俺の手できっちりあんたを殺してやる」
 そう言って、俺はエリヤからの通信を遮断し、踵を返した。

 かつて…
 ワシントンからネバダへやってきた俺はまずモハビBoSと連絡を取り、彼らのもとで活動していた。そして、元エルダーのファザー・エリヤ抹殺指令が下った…奴がビッグ・エンプティへ向かったという情報を掴んだBoSは、俺とクリスティーンを暗殺部隊として送り込んだのだ。
 もっともビッグ・エンプティではエリヤを逃し、俺とクリスティーンはシエラ・マドレに向かったエリヤを改めて追うことになった。ただし俺は諸事情で一度モハビBoSが姿を隠しているヒドゥン・バレーに戻らねばならず、俺の復帰を待てなかったクリスティーンは先行し、結果としてエリヤに捕えられてしまうわけだが。
 クリスティーンはかつての師であるエリヤに個人的な恨みがあり、またそのことはエリヤも承知していた。彼女が自分の前に姿を見せたという事実だけで、エリヤはBoSが殺し屋を送り込んできたことを理解していたのだ。
 しかし俺のことは知らなかった。エリヤはビッグ・エンプティで俺とクリスティーンが一緒に行動しているのを見ていなかった。そうでなければ、エリヤの部下として雇われるという今回の計画は実行できなかっただろう。
 俺は傭兵として、エリヤを始末するというBoSの任務と、シエラ・マドレを手に入れるというエリヤの任務を同時にこなしたのだ。






「あばよ…シエラ・マドレ」
 俺はエレベータに乗り込み、クリスティーンのもとへ戻った。










「終わったのね…」
「ああ。これでもう首輪生活ともオサラバだ」
 無造作にブン投げた首輪が噴水に散らばり、ガチャリという硬質な音を立ててバウンドする。
 モハビ・ウェイストランドへと続くゲートの正面で、俺とクリスティーンは爆殺首輪のロック解除に成功していた。本来エリヤにしか外すことのできないものだが、ビッグ・エンプティでエリヤの残したメモ書きを回収していたクリスティーンは首輪の内部構造をある程度把握していたのだ。
 もっとも自分の首に嵌まっているものをいじるのは無理だったようだが、クリスティーンが俺の首輪を外したあと、解除方法の説明を受けた俺が改めて彼女の首輪を外したのである。
 シエラ・マドレを見上げながら、クリスティーンはやや釈然としない様子で口を開く。
「あの男がまだ生きているっていうのは、あまり気分の良いものではないわね」
「個人的な恨みがあったんだろ?老い先短い年寄りを狭い空間にたった一人閉じ込めておくっていうのは、殺すよりも有効な復讐方法だと思うけどな」
「まさか、わざと殺さなかったの?そのために?」
「いやいや。エリヤは狂気に取り憑かれていたかもしれないが、その妄執こそが最大の武器でもあった。正面から銃口を向けていたら、逆にやられていたかもしれない。どんな隠し手を持っていたかわからないからな。だから、抜け出せない罠にかかる最後の瞬間まで敵意を見せないこと、それこそがやつを確実に始末するもっとも有効な方法だったんだ」
 いまとなってはもう、どうでもいいことだが。
 俺はホログラムの消えた噴水に背を向け、ゲートに向けて歩きはじめた。こんな陰気な場所、仕事でもなければ一秒だって長居したくはない。
 しかしクリスティーンは俺とは違う感想を持っているようだった。
 その場から動こうとしないクリスティーンに俺は言った。
「行こうぜ」
「…私はここに残るわ」
「なんだってぇ!?」
 素っ頓狂な声を出したせいか、俺よりもクリスティーンのほうが驚いてしまったようだ。
 目を丸くするクリスティーンに、俺は「いやいや」と首を振りながら問い詰める。
「なんでだ?エリヤが生きてるからか?なんでそうなるんだよ?俺はそんなことのために…どういう理屈だよ、おい」
「いや、あの…そんなに驚くとは思わなかった。あなたってもっとドライな人間かと思ってたわ」
「悪かったねぇ」
「エリヤの企みは潰えたかもしれないけど、シエラ・マドレの脅威は依然残ったままだわ。毒霧、ゴースト・ピープル…それらがモハビに影響を及ぼさないよう、私はここで監視を続けるつもりよ。それに、そう…まだエリヤも死んでないしね。無謀な冒険者に警告もしなくちゃならないし」
「こんな場所じゃ食料だってロクに手に入らないぜ」
「その点は心配いらないわ、ビッグ・エンプティ製のベンダーマシンがあるし。専用の貨幣があればほぼ無限に物を作り出せるらしいわ。戦前の技術って凄いわよね」
「俺はほとんど使わなかったけどな。買い物に必要なシエラ・マドレ・チップは有限だぜ?」
「あら、気づかなかった?あれ、携帯型の小型核燃料と廃材があれば幾らでも偽造できるわよ」
「そーいうのはもっと早く言って欲しかったなァ!?」
 そうとわかっていれば、もうちょっとラクに任務を運べたのに…などとブツブツ愚痴をこぼす俺を、クリスティーンが苦笑しながら見つめてくる。
 まあ自販機はもういいとして、彼女にはまだ聞きたい、いや、言いたいことがある。
「で、いつまでここに居るつもりよ」
「さあ」
「なんで。義務感か?それを自分の使命にしちまうってのか?それでいいのかよ?」
「…… …… ……」
 最後の言葉にクリスティーンは答えなかった。ただ、素敵な声でため息をつき、俺をじっと見つめた。「あまり私を困らせないで」と言外に語る瞳で。
 決意は固そうだった。一時の気の迷いではないようだった。それでもやはり、俺には彼女の行動が理解できなかったが。
 だが自分が理解できないのと、止めるべきかどうかっていうのはまるで別問題だ。本人が納得していないなら問題だ。大問題だ。ただ本人が納得づくなら、他人がとやかく言う筋合いはなかった。
 今度は俺がため息をつき、小柄な彼女の肩に手をかけて言う。
「その美貌をこんな僻地に残していくのは人類にとっての損失だな」
「馬鹿を言わないで、このツギハギだらけの顔を見て言ってるの?それとも、こうなる前の私を覚えているから?あるいは、この可愛らしい声に免じて…かしら?」
 口を尖らせ、幾分自嘲気味にクリスティーンは反論する。
 俺はすぐにそれには答えず、マスクを外し、彼女の前に素顔を晒した。その瞬間、クリスティーンが「はっ」と息を呑む音が聞こえる。






「顔に道路地図が彫ってあるのは、そう珍しい個性でもないんじゃないかな」
「あなた、その顔…!!」
 暗く落ち窪んだ瞳、頭部を切開された手術痕を見て、クリスティーンが言葉を失う。
 ビッグ・エンプティでザ・シンクの科学者にロボトミー手術を受けた結果だ。あのときはクリスティーンと引き離されて単独で行動していたし、彼女の前ではずっとマスクをかぶっていたから、クリスティーンは俺が改造されたのを知らなかったのだろう。
「言ってなかったっけ?」
「そんな…そんなの、私、聞いてないわよ!?そんなの一言も…!」
「いや、そんな深刻にさせるつもりで見せたわけじゃないんだけどね?」
 思っていた以上にクリスティーンがショックを受けたことに俺は若干戸惑い、少々気まずい思いをしながら頬を掻く。
 ほんのすこし悩んでから、俺はもとから彼女に言おうとしていたこと、俺の本心を伝えた。
「人間の傷っていうのは勲章だ。傷を見れば、その人がどんな人生を歩んできたかがだいたいわかる。誇らしいことさ。たとえ、それが…女の子の顔についたものだとしても」
「喉も?」
「そう、喉も。だから…俺の目には、いまの君のほうが前よりずっと輝いて見えるぜ」
 そう言って、彼女を抱き締めようとする。が、軽くかわされてしまった。
 おや?という、都合通りの展開にならなかった人間が見せるまぬけ顔を晒す俺を押しのけ、クリスティーンは苦笑しながら、ほんの少し俺を咎めるような目つきで見つめてきた。

『余計なお世話よ』

 彼女の視線はそう告げていた。
 だから、俺は言った。

「つれないねぇ」







 ゲートへと向かう俺の背中に、クリスティーンが声を投げかける。
「行くのね?」
「ああ。俺は、傭兵だからな…次の仕事がある」

 それで終わりだった。それが最後の言葉、最後のやりとりだった。
 俺はゲートを開き、モハビ・ウェイストランドへと続く道をたった一人で歩きはじめる。振り返らずに。ただの一度も振り返らずに。





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money七回目です。
 まだ最終回ではありません、あと一回だけ続きます。













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2016/05/20 (Fri)21:54





 俺の名はクレイブ、傭兵だ。
 元BoSのエルダーであるエリヤに雇われた俺は、三人の仲間とともにシエラ・マドレ・カジノに侵入。その後、用済みになった仲間のうち二人を始末する。
 殺すべきはあと一人。任務を完遂するため、俺はVIP用のスイートへ向かった…







 あちこちの壁が倒壊し、プライバシーの存在しなくなった宿泊部屋を跨ぎながら、俺は拳銃を片手に周辺を捜索する。
 間に合わせの突貫工事でこしらえたヴィラとは違い、カジノはそうそう安普請ではなかったはずだが、毒霧のせいで壁が腐敗を起こしたのか、あるいはやはり、年月には勝てなかったのかもしれない。
 それかドッグ/ゴッドがキッチンを爆破したときの衝撃で崩れたのかもしれないな、などと思いながら、俺はどこからか聞こえてくる歌声に気づいた。
 女の声だ。誰かが歌っている…いや、ラジオか?
 それはフロアのなかでもっとも豪華な最上級スイートルームの中にあった。テーブルの上のラジオから、美しくも憂いを帯びた女のヴォーカルが流れる。「再出発( Begin Again )」…ヴェラ・キーズの代表曲だ。
 俺がもっとラジオに近寄ってよく見ようとしたとき、寝室から声が聞こえてきた。今度はラジオではなく本物の人間の声だった。
「そのラジオのスイッチを切ったり、チャンネルを変えようとしないで。首輪の遠隔起爆装置と盗聴装置の信号を阻害する周波数にセットしてあるから」
 はて…誰だろう?
 寝室の扉を開けた瞬間、俺は腕を掴まれて拘束され、銃口を突きつけられた。






「その服、よく似合ってるよ。個人的には赤いドレスより、そういうののほうが好みだな」
「お黙りなさい。あなた、私をあんな場所に放り込んでおいて、よく平然としていられるわね」
 俺には彼女が…クリスティーンが何のことを言っているのかわからなかった。
 そもそも声帯を切り裂かれていたはずの彼女が喋れることに疑問を持つべきだろうが、それはさておくとして、彼女が激おこしている理由が俺にはいまひとつ理解できなかったのだ。
 まさか、変電所のエレベータでの件か?
 あれってそんなにキレられるようなことだったか?
 そう思ったが、女が怒る理由に疑問なんか持つもんじゃないってことを知ってる俺は、なるべく彼女の神経に障らないよう言葉を選ぶことにした。
「そうは言ってもなあ。俺だって、あんたが運悪く騒動に巻き込まれたか弱い女の子じゃなく、BoSのナイトだと知ってなけりゃあ、あんなふうに面倒を任せたりはしなかったさ」
 信頼してるんだよ?という視線を送る俺に、クリスティーンは大袈裟なため息をつくと、銃をホルスターに戻して言った。
「顔見知りじゃなければ、エリヤの前にあなたを殺しているところよ」
「そもそもビッグ・エンプティから戻ったあと、俺を待たずに先走ったのが悪いんじゃんよ。スタンド・プレーが高くつくよな、お互いにさ」
「あなたを待ってはいられなかったのよ。エリヤが何をしでかすかわからなかったし…ところで、あの女の子は無事なの?」
「いちおう、ヒドゥンバレーのバンカーで保護してもらってるがね。あれはまだ人間として不完全だ。どうしたもんかな…」
 答えにくい質問をしてくれるな、と思いながら、俺は狂気の科学者たちがこしらえた悪夢のような光景を思い出しかけ、慌ててかぶりを振った。
 いまはそれどころではない。ひとまずは当面の事態の処理を考えなければならないが…
 いまひとつ顔色が良くないクリスティーンに、俺は尋ねた。
「それにしても、随分と可愛らしい声になったじゃないか?」
「怒るわよ…」
「ごめん。オートドクで治したのかい?」
「これを治療と言えるならね」
 部屋の隅には古い型番のオートドクが鎮座しており、ヴィラの診療所にあったものと違い、状態も良かったしシステムが改変された形跡もなかった。
 そして、部屋の隅の椅子に腰掛けている骸骨。赤いドレスを身につけ、足元には鎮痛剤のMed-X注射が大量に転がっている。医療用の麻酔というのは要するに高純度の麻薬と同義だから、死人が医療目的でこれを使っていたとは思えない。
 おそらくはこの部屋に宿泊していた大物…ラジオの歌声の主。
 やがてクリスティーンが口を開く。
「私の声は、このラジオの歌の声と同じなのよ。でも、これが誰なのか…なんで、彼女と同じ声にされたのかが、わからなくて。この声は診療所で仕込まれたものよ、この部屋で行ったのは不完全な部分を修復しただけ」
「ヴェラ・キーズ。カジノに招待されていた歌手だよ。そして彼女は、このカジノの創設者フレデリック・シンクレアの恋人だった」
「なぜ、それを?」
「こいつさ」
 そう言って、俺は一冊の手帳を見せた。
 タンピコシアターの楽屋で発見した、ディーンの手記だ。






「中国との全面戦争が現実的な脅威として迫っていた当時、資産家のシンクレアはヴェラを守るための地下シェルターの建造を目指していた。全財産を投げ打ち、借金をして…借金をするために、シェルターをカジノに仕立て上げてな。投資家を欺くために」
 いままで俺は、なんで戦前のカジノが軍事要塞ばりの防御で固められているのかがわからなかった。
 違うのだ。逆なのだ、シエラ・マドレというのは要塞にカジノの皮をかぶせた施設なのだ。
 すべては恋人を守るために。
「だが、それはディーン・ドミノの計略だった。シンクレアに恨みがあったディーンはヴェラを使って彼を誘惑し、カジノを建設させるよう仕向けた。そのうえ建設業者と結託して内部情報を仕入れ、ヴェラにシンクレアの口から秘密のセキュリティ・コードを聞き出させた。カジノの地下金庫…核戦争後の避難生活に耐え得るだけの物資と財産が貯め込まれたシェルターから一切合財を盗むつもりでな。それがディーンの復讐だったんだ。核戦争でなにもかもぶち壊しになったが、それでもディーンは諦めなかった」
「二百年も…あのグールは、ディーンは、いったいシンクレアの何をそんなに恨んでいたの?」
「彼が傲慢だから、らしい」
「え…ちょっと待ってちょうだい。理解が…追いつかないわ。そんな理由で?」
「わからんもんさ、他人には。どんなに些細な問題に見えたって、本人には人生や命を投げ出すに足る理由になる。それが復讐ってやつだ、そうだろう?たとえば、そう…君が、エリヤを追っているように」
 そう、これが話の本筋だ。
 クリスティーンはエリヤを殺したがっている。別に、彼女に殺させても構わない。彼女に殺せるのなら。
 だがエリヤという男は有能で、慎重で、周到だ。射線上に立たなければ、頭に血ののぼったマークスマンを罠に嵌めることなどワケないということをよく知っている。彼女に首輪を嵌めたときのように。
 エリヤは彼女を知っている。自分を狙って追ってきた殺し屋を利用するくらいだ、彼女向けにあつらえた罠など、それこそ五万と用意しているに違いない。
 そのことを知ってか知らずか、クリスティーンはエリヤへの憎悪を微塵も隠そうとしない態度で言った。
「あの男を生かしておくわけにはいかない。組織のためにも。そして、個人的にも」
「俺はこれからシエラ・マドレの地下金庫へ向かうよ、そういう任務なんでな。エリヤは戦前のセキュリティに堪能かもしれないが、ここじゃ客であることに変わりはない。エリヤの罠が届かないほど深い場所…決着をつけるのに最適だと思わないか」
「私も行くわ。一人より、二人のほうが…」
「ダメだ。頭数を増やせばオッズが低くなるような相手じゃない、それに無用な警戒を抱かせたくない。あのジーサマはまだ俺を味方だと思ってる。できるならあいつが死ぬ直前までそう思わせておきたい」
「…私を騙そうとしてないわよね?」
 あくまで単独での行動を主張する俺に、クリスティーンが懸念を口にした。
 なにしろ今回の任務では、俺はずっとエリヤの命令に忠実に行動してきたのだ。いつの間にか心まで売っていたと疑われてもおかしくはなかった。
 潔白をここで証明するのは不可能だった。魂の存在を証明できるような魔術師なら別かもしれないが、あいにく俺はそういう類の奇跡とは無縁だった。
 それになんていったって、心変わりは今からでも可能なのだ。
 ふーっ、俺はため息をつき、クリスティーンの瞳をまっすぐ見据えて言った。
「そこらへんは、俺を信用してもらうしかないな。それに君の存在は、俺にとって切り札でもある」
「切り札?私が?」
「もし俺がしくじったとき、エリヤを殺せるのは君だけだってことさ」
「それじゃあ私はあなたが死ぬことを願ったほうが良さそうね」
「手厳しいな」
 俺はもう話し合いは充分だと思っていたが、彼女のほうはまだ聞きたいことがありそうだった。
 それはそうだろう。クリスティーンはまだ、自分がするべき質問をしていない。当然、聞いて然るべきことを。もっとも、俺はできるならその言葉は聞きたくなかったが。
 その願いは叶えられなかった。
「ところで、ディーンとゴッド…は、どうしたの?」
「死んだ」
「殺したの?」
「…… …… ……」
「殺したのね」
「それがエリヤの命令だったからな。本来なら君も殺害目標だ」
 もちろんドッグ/ゴッドとディーンが俺と仲良く手を繋いで金庫室まで降りたいと願っていたのなら、結果は違うものになっていただろう。現実はそうではなかったわけだが。
 なによりドッグ/ゴッドは自分が投げた手榴弾で爆死し、俺は銃弾一発撃たず、それどころか傷一つつけなかったし、ディーンに至っては俺に生かされたがってすらいなかった。危うく俺が殺されるところだったのだ。
 だが、そんなことを彼女に説明して何になる?彼らはもう死んだのだ。
 黙って被告席に立つ俺に、クリスティーンが言った。
「殺したくてやったわけじゃないのね」
「殺しは殺しだ。どんなつもりだったか、なんてのは関係ない」
 俺は気持ちが態度に出やすい性質だったから、ひょっとしたら内心を悟られたのかも知れなかったが、先刻までの俺を咎めるようなクリスティーンの態度は幾らか軟化していた。
 やがて彼女は諦めたように首を振ると、俺に向かって言った。
「わかったわ。ひとまずエリヤの対処はあなたに任せる。それで?私はどうすればいい、本でも読んで時間を潰してる?」
「この部屋は地下金庫に通じてる。エリヤが来たら、黙って通してやってくれ。もちろん、君自身が見つからないようにな。その前に、金庫室へ続くエレベータを動かすのに君の力がいる」
「えぇ?」
「音声認証だ。ヴェラ・キーズの声が鍵になってる。たぶん、今の君の声でも通じるはずだ」
「どうりで…そのためだったのね。でも、どうしてエリヤがそのことを知っていたのかしら?」
「…… …… …!!」
 そのとき俺は「あること」に気づき、驚愕に目を見開いた。
 クリスティーンは、自分をオートドクターに放り込んだのはエリヤだと思っている。もちろん、俺もそう思っていた。だが、違うのだ。エリヤがヴェラ・キーズの存在を知っていたわけはない。彼女自身がキーパーソンだったことは。
 だからといってクリスティーンに言うことはできない。俺に死者の不名誉を上塗りする趣味はない。
 彼女をオートドクターで切り刻んだのは、ディーン・ドミノだ…
 俺の動揺に気づくことなく、認証システムの前でキーコードを口にしたクリスティーンは、ヴェラ・キーズのポスターを前に意地の悪い笑みを浮かべてみせる。
「Begin again, Let go(やり直せる、さあ行こう)、ね。歌の歌詞ね。ポスターにも書いてあったけど…このカジノで、一体何人が本当に人生をやり直せたのかしらね」






 カジノのあちこちに掲示された、シエラ・マドレの、ヴェラ・キーズのポスター。
 Begin... again。
 不意に、俺はひどく悲しい気持ちに囚われた。
 思い出したのだ、シエラ・マドレの伝説を。
 誰もがもう一度やり直せるという希望の地。それは戦前も、戦後も変わらない。ギャンブル、財宝、テクノロジー、あらゆるものが人々の心を魅了しては、残酷な末路へと導いていった。
 やり直す…何を?何から?
 何をしたって、過去は消えないというのにか?たとえ、忘れた「ふり」ができたとしても。
「それじゃあ…行くぜ」
 クリスティーンと、彼女と同じ声の女性のポスターに目配せをして、俺はエレベータに乗り込んだ。







「これが…シンクレアの用意したシェルターか」






 カジノ上階に設置されていたものよりも優秀で、遮蔽物がないためやり過ごすのが困難なホログラム・セキュリティをどうにか突破した俺は、伝説を…シエラ・マドレの地下金庫を目の当たりにして息を呑んだ。
 ターミナルを操作し、金庫室の扉を開く。






「ほおお…こいつはエリヤでなくとも心が動くね」
 金庫室に侵入し、戦前の貨幣や金塊が山のように積まれた光景を前に、俺は思わず口元をほころばせた。いや、もともとお金は好きだしね?
 金のインゴットを掴み、重さを確認しながら、俺は昔を懐かしむ。
「ザ・ピットじゃあ鉄のインゴットを収集させられたっけなぁ。これが金ならどんだけいいかって思ってたんだが、実際に手にすると、こう…妙な感慨があるね」
 まあ、金塊に足が生えて逃げるんでもなければ、黄金を眺めてニヤニヤするのは後回しでもいい。
 核シェルターとしての運用を想定していただけあって、医療品や食料品の備蓄も相当にあるようだ(ビッグ・エンプティ製のベンダーマシンまである)。
 あとはシンクレアがこの金庫室にまで罠を仕掛けていないかどうか調べる必要があるが…






 執務テーブル上のターミナルの電源を入れ、俺はシステムファイル上に、シンクレアがヴェラに宛てた個人メッセージが格納されているのを発見した。

『ヴェラへ…こんな形でしか気持ちを伝えられないことを残念に思う。私は君に謝らなければならない。ディーンの計画については、君に知らされるよりも先に気がついていた。君の口から聞いたところで気休めにはならなかったが、君の決断と、その勇気は尊重したい』
「…… …… ……!!」
 それはカジノの創設者、傲岸不遜で知られる資産家シンクレアの告解の文章だった。
 しかしこれは…シンクレアはディーンの企みに気づいていた?それに、ヴェラが強奪計画の存在をシンクレアに知らせていた、だって?
 ディーンはそんな素振りはまったく見せなかった。シエラ・マドレのことは知り尽くしていると言い、二百年ものあいだ復讐の計画を練り続けていた男が知らない真実がそこにあった。
『世界が戦争へと邁進するなか、私は君の身を守れるものが必要だと思った。このカジノの名を借りた要塞、金庫に見せかけたシェルターは、もともと君のために作ったものだった。だがディーンの計画に気づいたとき、君とディーンの裏切りを知った私はそれらを罠へと変えた。強奪を企む侵入者を抹殺する報復装置に作り変えてしまったのだ』
『だが君からすべてを聞いたいまとなっては、それは早計な行動だったと…思っている。もし君がここに辿り着くことがあれば、中のものは好きに使っていい。君を蝕んでいる深刻な中毒症状のことは知っている。君が不自由しないだけの医薬品は揃えてある。私の個人アカウントにアクセスすれば金庫の扉は固く閉ざされ、あらゆる外部からの脅威も届かなくなるだろう』
『シェルターの閉鎖と同時に緊急救難信号が発せられる仕組みになっている。戦争が終わればいずれ救助隊がやって来るはずだ。ロックされた扉は外のターミナルを使って解放できるようになっている。中から開けることができないのは、内部から外の安全を確認する方法がないからだ』
『君がこのメッセージを読んでくれていることを願う。私は…君のことを、心から愛していた。君が本当は私のことを愛していないとわかっていても。また、君が悪意から私を騙していたのではないことはわかっている。私のことは、気に病まなくていい』
『敬具。フレデリック・シンクレア』

 文章を最後まで読んだ俺は、しばらくその場から動くことができなかった。
 ふと顔を上げ、シエラ・マドレのマークをかたどった黄金のレリーフを目にする。BEGIN_AGAIN。ここにもだ。
 シンクレアはディーンとヴェラに欺かれていたと知り、一時は復讐に身をやつしながらも、最終的にはヴェラのためにすべてを遺すことを決意した。だが、ヴェラがそれを受け取ることはなかった。単純に金庫への侵入に失敗したのか、それとも罪悪感からか。
 もしディーンの目的がシンクレアへの復讐なら、高みからすべてを見下ろす傲慢な男を地に這い蹲らせてやることがディーンの目的だったのなら、それはとっくに達せられていたのだ。裏切りを知られた時点で。シンクレアが復讐に我を忘れ、どのみち取り返しがつかないと悟った瞬間に。
 そして裏切りを知り、報復を決意したシンクレアの目的もまた達せられていたのだった。ヴェラの密告も、シンクレアの真意も何も知らなかったディーンはまだ自分が状況をコントロールしていると錯覚し、その結果、二百年を無駄に過ごした。それこそがシンクレアの仕掛けた罠であり、強欲者への罰であったと言えるのではないだろうか。
 Begin Again(やり直せる)。シエラ・マドレを象徴する言葉だ。
 だが創設者でさえ、あるいはシエラ・マドレを奉げられた女神でさえ、そして裏で何もかも画策していた男でさえ、その願いは叶わなかったのだ。やり直せやしなかった。誰一人。
 それじゃあ、エリヤは?
 それを確かめるため、俺は体内に格納されたピップボーイの機能を使い、ターミナルをハッキングしてシステムの一部を書き替えた。

Connected To Sierra Madre Control Network -Server 9-
sys/00abe1/>rm 01389c.ter





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money六回目です。
 今回はクリスティーン編というよりもシエラ・マドレの背景解説編といったほうが正しいですね。彼女とは今後書く予定のOld World Bluesでの絡みもあるので、今回はわざと、かなりぼかして書いてます。そう、Honest Hearts編のエピローグでチラッと姿が写っていたのは彼女です。
 シンクレアのヴェラ宛のメッセージはけっこう重要な部分が改変されています。初見プレイ時にこういう内容だと勘違いしてたっていうのと、二次創作ならいっそ変えちゃったほうがいいのかなと思って。
 次回でエリヤとの決着と、クレイブの行動の目的が明かされます。まあ、わりとバレバレな気もするんですけどね。












2016/05/18 (Wed)08:34





 ニューベガス・ストリップ地区を支配する三大カジノの一つ、ザ・トップスが誇る一大エンターテイメント「ザ・エース・シアター」では、プロデューサーのトミー・トリーニの名調子からなる司会が今日も冴え渡っていた。
「今宵、あなたは伝説を目撃することになるでしょう。あなたはスターに会ったことがありますか?本物のスターとはどんな人物を指すと思いますか?今日は紛れもなく、誰が見ても疑う余地のない本物のスターをご紹介いたします!」
 壇上にスポットライトが当てられ、スタンドマイクの前に姿を現したのはグールの男だった。
 その正体を疑う観客たちのざわめきを予測済みだったのか、トミー・トリーニは笑顔を崩すことなく、大きく息を吸い込んでから、ひときわ大きな声で男を紹介した。
「彼の名は…ディーン・ドミノ!驚くがいい、あの戦前の伝説的シンガー、キング・オブ・スウィングと呼ばれたあの男が、なんと二百年の時を経て帰ってきたッ!シエラ・マドレからグールとなって生還した粋な伊達男の復活ライヴ、心ゆくまでお楽しみください!!」






 前代未聞のサプライズに沸き立つ聴衆を前にして、ディーンは久々の舞台に少し緊張しながらマイクに向かう。
「ありがとう、トミー。ザ・トップス…懐かしいな。ここには昔来たことがあるんだ、アメリカにでかい爆弾が落ちる前の話さ。聞いての通り、俺はグールになって声がしゃがれちまった。もう昔のような声は出せないが、それでも良ければ付き合ってくれ。じゃあ、いってみよう…Saw Her Yesterday」







「…いかん、眠っちまってたか」
 目を醒ましたディーンは、自分が椅子に座ったままうたた寝していたことに気がついた。
 ヴィラでゴースト・ピープルの集団と派手な銃撃戦を展開し、シエラ・マドレに侵入してからも休むことなく施設の調査とセキュリティ・システムの設定に奔走していたのだ。疲れが出たのだろう。
 それにしても、なんて夢だ…と、ディーンは顎を撫でる。
 いまさら浮世に未練が?二百年前、核戦争ですべてが変わる以前から、自分は復讐のためだけに生きてきたというのに。
 それとも復讐なんか諦めて、シエラ・マドレを捨て、いまもどこかに残る文明世界を探していれば…また、エンターティナーとして復活していた未来もあったというのか?
「…夢の見すぎ、だよな……」
 いまさらそんなことを考えても仕方ない、それに…






「死神の足音が…すぐそこまで迫ってきてるもんな……」
 傭兵が近くまで来ていることを察知し、ディーンは銃を手に立ち上がる。
 なに、ショーはこれからだ。二百年間練り上げてきた自分の、自分だけのショー。ディーン・ドミノの晴れ舞台はこれからだ。










 俺がタンピコシアターの舞台に近づくと、金めっきが施されたマグナム拳銃を手に、背後にはホログラム・セキュリティを従えたディーンが姿を現した。
「ジョーイ・バクスター、ハリー・ウィルフレッド、ヴェラ…ヴェラ・キーズ。本来この舞台に立つはずだった連中の名前だ、こんな無粋なホログラムなんかじゃなく。そろそろ来る頃合だと思ってたぜ、相棒」
「エリヤがな…カジノのセキュリティ・システムが意図的に改竄されている、と言ってたぜ。先回りされてるとな。周到に…まるで最初から何もかも把握していたみたいに。あんたの仕業なのか?」
「意外かね?驚いたかい?なんで俺にそんな芸当ができるのか不思議でならないって感じだな。俺はシエラ・マドレのことなら何でも知っているぜ?間取りも、設備も、どこに誰の控え室があって、そこに何が置いてあるのかも知っている。なぜだと思うね?」
「超能力かな」
「ハッハッハッ、そいつがあれば、もっとラクに事が進んだろうな。そんなもの必要ないのさ、なぜなら…俺は、もともとここにいたんだからな」
 戦前のスター、ディーン・ドミノ。
 エンターティナーとしてシエラ・マドレに招待され、オーケストラを背負ってタンピコシアターの舞台に立つはずだった男。
 気づくべきだった…俺は銃を握る手に力を込める。
 こいつはエリヤがシエラ・マドレの存在に気づく前から、冒険者たちがシエラ・マドレの財宝を狙ってハイエナのようにたかるようになる前から、それどころか核戦争以前、シエラ・マドレがまだ建設中だった頃から、カジノの強奪計画を企てていた可能性があることに。
 そのことを確認するのに、いちいちディーンの目的や、生い立ちや、家族関係や、隠された出自や恥ずかしい趣味などを問いただす必要はなかった。たった一言で充分だった。
「気長な計画だったな?」
「そうさな、俺は二百年間ずっとカジノに侵入する算段を立ててたんだ。一度入ってしまえばもうこっちのもんだからな。賭けのテーブルについて辛抱強く勝負を続けていたのに、いきなり新参の客がデカい顔で割り込んできやがる。傲慢なジジイと兵隊気取りのガキがな」
「俺とエリヤが組んでると言いたいのか?」
「さて、どうかな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どっちでもいいさ、どのみち…これからやることに変わりはないんだからな」
「それで、その金ピカの銃で俺を撃とうってのか?」
「まさか!こいつは…ただのポーズさ。考えてもみろ、

黙ってたってシエラ・マドレが始末してくれるのに、

なんでわざわざ自分で手を下す必要がある?」

 そう言ってディーンが踵を返すのと同時に、セキュリティ・ホログラムたちがいっせいに光線を発射してきた。






 ドン、ドン、ドンッ!
 横転して光線を避けざまにディーンに向けて発砲するが、こういうトリック・ショットはそうそう成功するもんじゃない。
 緞帳を裂き、ネオン・サインを砕くことはできても、ディーンの肌に傷一つつけることができなかったことを確認しながら、俺はホログラムの追撃を避けるために通路を駆けはじめた。
 おそらくディーンは舞台の楽屋裏に引っ込んだはずだ。ホログラムが鉄壁の防御を固めていることを把握したうえで。まずはこいつをなんとかしなきゃいけない。
 幾つかは中継器の回路を切断すれば無効化できたが、それでもディーンに近づくには不充分だ。幾つかの端末からセキュリティ・システムをオーバーライドする方法を検索し、俺はディーンの代表曲「Saw Her Yesterday」が収録されたホロテープを使ってホログラムの性質を書き換えることに成功した。






『君への想いを抑えきれない、昔から抱いてた執念の心が燃えるよう♪「ノー」なんて言わないでおくれ、僕だけを見つめておくれよ♪君のキスは誰のためのものなんだい?』
 さっきまで異常なまでに殺気立っていたホログラムが舞台の聴衆へ変化し、そのうちの一体がシンガーとしてマイクスタンドの前に立つ。
 あれは…ディーンを模したホログラムか?
 生前、いや、グールになる前の瑞々しいディーンの声でSaw Her Yesterdayを歌い上げるホログラムはまるで亡霊のようだ。
 ともあれ、ここでボーッと曲を聴いていたいのは山々だが、俺にはまだやることがある。
 ディーンは逃げたか、それとも…俺を待ち伏せしているか。
 関係者用の通路を駆け抜け、階段を上がって舞台裏へと出た俺は、手摺越しにステージを見下ろすディーンと鉢合わせした。






「ディーン・ドミノ!!」
 俺が銃を構えるのと、ディーンが振り向きざまに発砲したのはほぼ同時だった。














 先に放たれたディーンの弾丸は俺のこめかみを掠め、ゴーグルのバンドを断ち切って壁に穴を穿つ。俺の放った弾丸は…ディーンの肺を捉えていた。
 サングラスが吹き飛び、マグナム拳銃が踊り場の上を転がる。
 手摺にもたれかかるように倒れたディーンは、そのまま力なく崩れ落ちた。






 ヒュー、ヒューと音を立てながら苦しそうに呼吸し、ディーンは銃口を下げる俺を見つめながら呟く。
「賭けは…おまえの勝ちだ。チップを受け取れ、それがギャンブルってもんだろう……殺れよ」
 俺はすぐには答えなかった。
 膝をつき、ポーチを探ってから、俺はディーンに銃口を突きつけるかわりに、開封済のシガレット・パックを差し出した。
「煙草、いるか?」
「……なに?」
「いらないのか?」
 なにか、とんでもなく頭が悪くて愚かな生き物を見るような目で見つめてくるディーンに、俺は煙草を一本取り出し、口もとまで持っていってやった。






 ディーンが煙草を吸い、俺がその様子を見守り、しばらく静かな時間が続いた。
 さっきまで俺を本気で殺そうとしていたヤツに煙草を奢ってやろうなんて考えるのは酔狂かもしれないが、ディーンが咄嗟に俺を道連れにしようなどと考えているのでなければ、弾丸があと1インチずれていれば先に俺が死んでいた可能性があったことは忘れようと思った。
 こめかみからじんわりと血が滲むのを感じながら、俺は考える。
 ディーンをカジノ強盗に駆り立てたものはなんだったのだろう?二百年もの歳月を準備に費やすというのは、たとえ寿命が無限にあったとしても容易なことではない。
 半ばまで短くなった煙草を見つめながら、やがてディーンが口を開いた。
「ヴェラ・キーズ」
「なに?」
「地下金庫に通じるエレベータは…音声認証式のセキュリティが組み込まれてる。ヴェラの声で開く」
「なぜ、それを俺に」
「あのジジイの総取りじゃあ、面白くないからな。新しい賭けに…オッズを張りたくなったのさ」
 そう言って、ディーンは乾いた笑い声を上げた。
 すでに意識を失いかけているディーンに、俺はどうしても言いたくなった。
「もっと早く俺にチップを賭けてれば、命までは失わずに済んだんじゃないのか」
「二百年だ」
「…… …… ……」
「二百年間、ずっとおなじ手札を握り続けてきた。ありったけのチップを賭けて、新しいチップが手に入るたびにレイズを繰り返して。さっさとフォールして別のテーブルに移ってりゃ良かったのかもしれん、でもな…」
 すでにディーンの目は俺を見ていなかった。
 彼は別のものを見ていた。俺ではない誰かを。ここではないどこかを。それが何なのかは俺にはわからなかったし、知りようもなかった。
「失うとわかってて、テーブルの上のチップを手放すことなんてできなかった」
 ディーンの指先から煙草がこぼれ落ち、彼の瞳から涙が溢れる。

「できなかったんだよ…」







 ディーンが息を引き取ったのを確認してから、俺はスロープを下り、ホログラムの亡霊の間を通り抜けてタンピコシアターを後にした。
 彼のもとを去る直前、俺はもうディーンが声を聞くことはないとわかっていながらも、最後に一言だけ口にした。俺の本心を。どうしても伝えなければならなかった。
「俺はあんたとなら、上手くやっていけると思ってたんだ。本当だぜ…相棒」





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money五回目です。
 ディーンはお気に入りのキャラなので一話丸ごと使いました。個人的に彼は目的に対してかなりドライな男だと思っているので、そのへんの考察は今度纏めておきたいなあとは考えているんですが。
 もともと主人公のクレイブ自身がわりとクズい人間だっていうのと、挫折からダメ人間街道まっしぐらに直行するキャラが大好きなので(そうそう簡単に救われれば苦労はねー、という点も含めて)、共感度マシマシでお送りしております。








2016/05/16 (Mon)09:24





「…まだ、早いよ」
 女の声が聞こえた。
 白熱した視界のなかで、俺は鉛のように重い四肢をだらしなくぶら下げながら、どうにか状況を把握しようと試みた。
「来ちゃ、だめ…だって」
 また、声が聞こえた。
 ひどく耳馴染みのある声。心地の良い声。そして、もう聞くことのない声。そのはずだった。
 俺はいままで、死んだ女に会うには天国に行くしか方法がないと思っていた。実際は違ったのだ。俺が立っていたのは天国なんかではなく、雲のかわりに電子機器が、天使のかわりにくそったれな人工知能が俺を囲んでる。
 そして女は…立っていた。漂っていた、というほうが正確かもしれない。
 シリンダーの中で開いたブルーの瞳を見つめたとき、絶望だとか人生最低の瞬間なんてものが存在するなら、これこそまさにそれだと俺は思った。







「ああ…ちくしょう」






 しばらく気を失っていたらしい。
 目を醒ました俺は、手の中の拳銃の安全装置がかかっていないことに気がついた。あぶねぇ。
 床には空薬莢が散らばり、扉の近くで息絶えているゴースト・ピープルの亡骸にハエがたかっている。俺の身体がどこも齧られてたり、刺されてたり、ちぎれてたりしていないところを見ると、もうしばらくこの場所は安全らしいと考えて良さそうだ。
 ヴィラでゴースト・ピープルの集団に襲われた俺たちは、それらを撃退しながらどうにかシエラ・マドレ・カジノへの侵入を果たした。だが…その後のことをよく覚えていない。
 いままで持っていたはずの短機関銃はなくなっていた。たぶん、どこかで落としたのだろう。弾切れを起こしたかなにかして…逼迫した戦闘状況だったから空の弾倉はその場で捨てていたし、弾倉のない銃など役に立たない。
 それにしても他の連中はどこ行った?
 仲間の姿を捜し求めて首を廻らせたとき、ポーチの中の無線機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。
『…き…えるか。…聞こえるか、傭兵?』
「エリヤ。ああ、聞こえるよ。すこし眠っちまったみたいだ」
『どうやらカジノのセキュリティ・システムにやられたらしいな。他の連中もそれぞれ別の場所に移動させられたようだ…まずいことになった』
「まずいこと?」
『おそらくカジノのメイン・システムが発する電磁波が干渉しているせいだと思うが、四人が装着している首輪爆弾の受信機がすべてオフラインになった。盗聴装置は辛うじて生きているが、ノイズがひどく、あまり役に立たない』
「つまり首輪が爆発するっていう脅し文句はもう使えないってことだな。ま、そのことを連中に知らせてやる必要はないか」
『強引に外そうとすれば信管が作動して爆発するはずだが、こちらから無線で起爆させることはできなくなった』
「ふむ…ちょっとした重いアクセサリーってところだな」
『盗聴装置から発せられる微弱な信号から、他の二人のおおよその位置は割り出せる。ドッグはひどく混乱しているようで、危険な状態だ。ディーン・ドミノ…あの旧世紀のミュータントは何か企んでいるようだな、ドッグとは別の意味で危険だ。もう一人の女だが、こいつだけは盗聴装置を含むすべての信号が途絶えて安否が確認できん。ひょっとしたら、何かの拍子に首輪爆弾が作動したのかもしれんな』
「それで、どうする大将?また最初みたいに連中を探して駆けずり回るか、それともさっさとお宝を探しに行くかい?」
『現在カジノは予備電力で動いている。地下の金庫室まで辿り着くには、まず配電盤を操作して機能をすべて復旧させねばならん。それと…人数が必要なのはカジノに侵入するまでの話だ。他の三人はもう用済みだ、始末してくれ』
「了解した」
『…あっさり納得したな?ヴィラではそれなりに良い関係を築いていたようだったが』
「仕事を円滑に進めるためさね。連中に分け前をくれてやるんでもなければ、まあ始末するしかないわな。俺は傭兵だぜ?人を殺すための職業だ。なんであの三人だけ例外でいられる?」
『優れた傭兵は決して依頼主を裏切らない、とも聞くな。宝を前にして裏切りを考えることのないよう願うぞ』
「信用商売だからな。退職金を欲しがるにはまだ早いよ、俺はさ」
 やれやれ、あのジジイの口から信頼関係を確認する言葉が聞けるとはな。
 よっこらせ、と声を出して俺は起き上がり…固い床の上で寝ていたせいで身体が痛い。ちくしょう、日曜朝の駅で潰れてるサラリーマンじゃねぇんだぞ…寝たきりから回復したばかりの老人みたいな動きで二、三歩よろめいてから、カジノの扉を開いた。






 不死身なうえ殺人光線を放つ悪趣味な人型ホログラムのセキュリティをどうにか掻い潜り、ダウンしていたブレーカーのレバーを押し上げたとき、それまで死んでいた照明が煌々と明かりを放ち、カジノの受付やらルーレット・テーブルやらに新たなホログラムが出現した。
 はじめはセキュリティが増えたのかと思ってゾッとしたが、すぐに、それらは無害なカジノ用の従業員システムであることに気づき、俺は胸を撫で下ろした。
 さて、問題はここからだ…
 あの三人を始末しなければならない。エリヤにはああ言ったが、実際のところ、俺はそこまで簡潔に割り切れているわけじゃなかった。
 なにしろ俺にとっては、あの三人は必ずしも死ぬ必要はないからだ。
 エリヤにとっても三人の死は計画の本筋に組み込まれているわけではなく、あくまで予備案に過ぎないはずだ。とはいえ…理由もなく生かしておいては、エリヤも快くは思わないだろう。それでなくとも確実に任務遂行の障害にはなる。
 当の三人にしたって、俺に生かされたがっているかどうかもわからないのだ。
「出たとこ勝負、か」
 気に喰わない。気に喰わないが、それはいつものことだった。







 カンティナ・マドリッドのキッチンでドッグ/ゴッドを発見した俺は、エリヤの「ひどく混乱している」という言葉が嘘ではないことを知った。
 キッチンはガスが充満しており、わずかな火の気でも大爆発を起こすだろう。地下金庫にダメージはないはずだが、周囲一帯が吹っ飛び酷い被害が出るに違いない。
 原因はゴッドが力任せにガス管を破壊して回ったせいらしい。おかげでセキュリティの自動システムが作動し、俺がキッチンに入った瞬間に外部へ通じるすべての扉がロックされてしまった。






「ドッグ…ドッグ、止まれ!落ち着け、落ち着いて檻に戻れ…少しの間でいい、俺に制御を…」
「FREEEEZE!!」
 うわごとのように何事かをつぶやくドッグ…いや、ゴッドか?目前のスーパーミュータントに、俺は銃口を向けた。
 どうやら俺の存在に気づいたらしい彼は、口泡を飛ばしながら荒い息遣いで叫ぶ。
「ドッグ…どっぐ、もうやだ…つらい…くるしい。声、聞こえる。いやな声が聞こえる。俺なのに俺じゃない。もういやだ。死にたい…グッ、くく…聞こえるか…聞こえるか、傭兵!?」
「ゴッド!?」
「こいつを…こいつを止めてくれ!こいつは死のうと…うるさい、うるさい!いやだ、いやだ、いやだ!しぬ…やめろ、俺はまだ…こんなところで!!」
 なんてことだ…俺は苦しそうに呻き、両腕を振り回す彼を見て言葉を失った。
 二つの人格が反発し合い、心が…壊れかけている!気が狂いかけている!
「だっ…た……助けて…くれ……!!」
 でも、だが、しかし、だからって。
 俺にどうしろっていうんだ!?
 なにができる?俺になにができる?何をしてやれる?どうすればいい!?
 やがて、衝突した二つの心は…完全に、砕け散った。

「「いやだあああああぁぁぁぁぁああっっっ!!」」




 そして、ドッグ…いや、ゴッド、それぞれそう名乗っていた「何者か」は、隠し持っていた手榴弾を放り投げた。






 爆発とともに室内に充満していたガスが一気に引火し、あらゆるものが吹き飛ぶ。
 しばらくして備えつけの消火システムが作動し、消し炭になった物体を鎮火していった。






「ぐはっ」
 ドカッという音を立てて扉が外れ、俺は咄嗟に隠れた冷蔵庫の中から無様に転がり落ちる。
 さすがは核爆発にも耐える(らしい)簡易シェルター、ガス爆発程度ではビクともしない。
 だが…
 まだ至るところで炎が龍の舌のようにチロチロとくすぶっており、俺は火に巻き込まれないよう、黒い煙を吸い込まないようにしながら、必死に「あるもの」を探した。
 それはすぐに見つかった。
 燃えて、焼け焦げ、ばらばらになり、ただの細切れの肉の塊になった、かつてゴッドと、あるいはドッグと名乗った存在の残骸。
「ちくしょう…」
 いままで大概ロクでもない生き方をしてきた俺だが、後悔でうなされる光景というのはいくつか存在する。きっとこれも、そのうちの一つになるだろう。
 かつて檻の中で、エリヤの言いなりになるくらいなら「死んだほうがマシだ」と言ったゴッド。その彼が、今際のきわに俺に助けを求めたのだ。死にたくない、と。まるで、俺ならなんとかできるみたいに。あのときの目を…俺は一生忘れられないに違いない。
「ドッグ…ゴッド。すまねぇ……!」
 人を平気で殺せるくせに、俺ってやつはいつでも他人の期待を裏切るんだ。
 やがて燃えていたものはすべて消火され、同時に扉が「ガチャリ」と音を立ててロックを解除した。
 俺は立ち上がり、無線機を取り出してスイッチを入れる。
『無事か傭兵!?物凄い爆発音がしたぞ!』
 慌てた様子で先に口を開くエリヤの声を聞き、俺は…
 自分でもぞっとするほど感情の欠けた、冷たい声で言った。
「ドッグを始末した。あと二人だ」





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money四回目です。
 まあシリアスですよ。このあたりは。茶化したくないので。最初からこういう展開にする予定でした。だからこそカジノに入る前は明るい雰囲気に徹しておこうというこの底意地の悪さがッ。
 本当はドッグ&ゴッドの内面的な心理描写にもっと尺を割きたかったんですが、本筋とは関係ないのと、鬱展開ブーストにしかならないので断念しました。
 首輪まわりのシステム、無線機、その他色々、原作から改変してる部分は多いです。こと二次創作においては忠実に再現しても面白くもなんともない要素がけっこうあるので、そのあたりはかなり割り切ってます。













2016/05/14 (Sat)02:40





 俺の名はクレイブ、傭兵だ。
 元モハビBoSエルダーの野心家エリヤに雇われ戦前の財宝が眠るカジノ「シエラ・マドレ」強奪計画に参加した俺は、観光街ヴィラにて三人の仲間を集め、カジノに侵入するための作戦を実行した。
 頑強なセキュリティ・システムによりロックされているシエラ・マドレのゲートを開くには、カジノのグランド・オープニングを飾るガラ・イベントを開催させる必要がある。創設者シンクレアが構想していたド派手なセレモニーは多量の電力を必要とし、実行している間は一時的にカジノのセキュリティ・システムが電力不足によりダウンする。
 イベントを起こすには適切な場所に適切な人員を配置し、ちゃんとした手順に添って行動を起こしてもらわなければならない。
 俺はまずゴッド/ドッグを連れ、サリダ・デル・ソルの変電所へと向かった…










 ドガッ!
 ゴッドの振るう電飾つきの看板がゴースト・ピープルの頭部を粉砕し、俺も大口径サブマシンガンの銃弾を次々と異形の存在に叩き込んでいく。
 ゴースト・ピープル…かつてシエラ・マドレ建設に携わった作業員の成れの果てと言われている。グレイト・ウォー(核戦争)の影響か、あるいは毒霧のせいか、それとも他の何かか…彼らがそのように「変貌」してしまった理由はわからない。
 わかっているのは、彼らに人間的な理性は存在せず、同胞以外の生物を尽く滅ぼすつもりでいるらしいこと、そして多少の怪我にはうろたえることすらせず、脳を完全に破壊しない限り生命活動が停止しないこと。
 まさしく死霊…ゾンビだ。死人は死人らしく動きがのろければ良いのだが、こいつらはとにかく機敏で、おまけに予測のつかない動きをする。
 投擲される槍を寸でのところで避けつつ、俺とゴッドは連中を牽制しながら移動をはじめた。
 いちいち糞真面目に相手していたら弾がいくらあっても足りなくなる。






 やがて変電所の裏手にある配電盤に到着した俺は、ゴッドに作戦の概要を説明した。
「俺がコントロール・パネルを操作して祝典が開始したら、タイミングよく送電システムの配線を切り替える必要がある。手順は壁の張り紙に書かれてるから、問題はないと思うが…」
「それよりも、セレモニーがはじまったらヴィラ中のゴースト・ピープルがここへ集まってくることになる。そこのやわなゲートでは長くは保たんだろう」
「…ドッグは、あんたより戦闘が得手だそうだ、が…」
 懸念を口にするゴッドに、俺は慎重に話を切り出した。
 ゴッドはもう一つの人格であるドッグを表に出したがらない。知能が低く、本能的な飢えと恐怖に忠実なドッグ。純粋であるがゆえに強く、そして一度感情が暴走すると、手がつけられなくなる。
 俺を睨みつけたまま、ゴッドは静かに口を開いた。
「もしゴースト・ピープルがここまで押し寄せてくるようなら、ドッグの力に頼らざるを得まい。不本意だが…しかし警察署の檻から出た時点で、もう決断は済ませている。今はあの老人の計画に乗ってやるとしよう。今だけはな」
「すまねぇ。携帯型のトランシーバーを何組か持ってるから、そのうちの一つを置いていくよ。そいつはエリヤと直接交信できるようになってる、ヤバそうになったら使ってくれ」
 そう言って俺は小型の無線機をゴッドに渡し、別の無線機を使ってエリヤに呼びかけた。
「ゴッドを配置につけた、もし彼から連絡があった場合はドッグに呼びかけてやってほしい。それとドッグ一人じゃ配電盤の操作が怪しい、これから手順を説明する。あんたが指示してやってほしい、ドッグはあんたの命令なら聞くんだろう?」
『なるほど。わかった』
 これはエリヤの計画だ。シエラ・マドレを手にするための。
 もし目的達成のために必要なら、彼も手間は惜しまないだろう。その点に関して、俺はエリヤの手を煩わせることに気を遣うつもりはなかった。
 俺が配電盤の操作手順を説明し終えたあと、エリヤが言った。
『よくやった。ドッグ、マスターの言葉が聞こえるか?』
「!?」
 俺は慌ててゴッドのほうを振り返る。
 いまの声は俺の無線機からじゃない…ゴッドに渡した無線機から聞こえたぞ!?
 事態を把握した瞬間、俺は総毛立った。あのジジイ、やりやがった!
「グウ…マスター…ますたー…聞こえる。ドッグ、聞こえる」
『よしよしドッグ、良い子だ。これから私の指示をよく聞いて、ちゃんと言う通りにするんだぞ?』
「わかった!ドッグ、よいこ!ますたーのいうこと、きく!」
 先ほどまでの理知的なゴッドの声とは対照的に、まるで幼児のような物言いをするドッグの姿に、俺は言いようのない不安と、そして罪悪感をおぼえた。
 ドッグの人格が表に出るトリガーは、エリヤの声だ。俺はあくまでゴッドが必要だと思ったときに、彼自身の判断でエリヤと交信してほしかった。それをエリヤは利用したのだ。
「ごはん!おなかすいた、ドッグ、おなかすいた!ごはんたべる!」
 そう言って、なんとドッグは周辺に散乱していたゴースト・ピープルの死骸をむさぼりはじめた。
「…… …… …ッ!!」
 異様な光景に俺はめまいを覚える。だが、俺にできることは何もない。
 もうここでの俺の仕事は終わった。ドッグは配置についた。俺には次の仕事がある。
 ここでエリヤを糾弾しても何にもならない。今のは俺のミスだ。いや、ミスですらない。たんに、俺の感情の問題でしかない。エリヤがこうすることは、ヤツがこういうことを平然とやる人間だということは、わかっていたはずなのだ。
 エリヤは計画が確実に遂行されるよう機転を利かせただけだ。ゴッドの心境はどうあれ。
 嬉々としてゴースト・ピープルを喰らうドッグをその場に残し、俺は変電所のゲートを閉じた。







 その後俺はディーンを連れてプエスタ・デル・ソル南へ向かった。
 途中でゴースト・ピープルの襲撃に遭い、近くの喫茶店へ逃げ込んだ俺たちは追撃してくる連中を出入り口でまとめて始末する。






 ドゴンッ、ドゴンッ、ドゴンッ!
 ディーンのマグナム拳銃が火を吹き、俺もホログラムの店員が鎮座するカウンターの影から銃を撃ちまくる。
「粉々に吹っ飛ばさなきゃ死なない連中を相手にするなら、粉々に吹っ飛ばせる武器を使えばいい。バケモノ相手は大口径銃に限る」
 そう言うディーンの銃の腕は確かで、極力面倒は避けて行動する普段の態度からは想像できないほどに的確にゴースト・ピープルたちを処理していく。
 一通り敵を倒し終えたところで、俺はなぜ歌手が銃やトラップの扱いに長けているのかと質問する。銃に予備弾倉を装填しながら、ディーンは不敵な笑みを浮かべて言った。
「映画だよ。映画で学んだんだ」
「エッ、映画?ひょっとして、あんたもアクション映画オタクなのかい?」
 かつてヴォールトを出た直後、俺は戦闘知識のほとんどを映画に頼っていた時期がある。
 そんな事情なんか知らないせいだろう、俺の言葉の意図がわからないディーンはしばらくきょとんとしていたが、やがて「映画からニワカ知識を仕入れたのか」という趣旨の発言であったことに気づくと、ディーンはその場で笑い転げた。
「アーッハッハッハッ、なに、俺が映画の猿真似をしてるって?ハハハ…いやいや、勿論違うさ!このディーン・ドミノはただの歌手じゃない、役者でもあったんだぜ?」
「役者?」
「映画俳優さ。以前…たったの二百年と足して十年ほど前かな、戦争映画に出演したとき、元特殊部隊員のインストラクターからみっちり銃と爆薬の扱いを教わったんだよ。元々従軍経験はあったから、基本的な戦闘技術は身につけていたがね。それが抜擢の理由でもあったんだが、まあ…輝かしい栄光の時代がいまでも自分の身を助けていると思うと、感慨深いものがあるな」
 そう言うと、ガシャリ、ディーンは後退した遊底を引いて次弾を薬室に装填した。
 なるほど、ちゃんとした筋から訓練を受けているわけか…と、俺は妙な感心を抱きながら、銃を持ち上げてカフェの二階へ続く階段を上りはじめた。






 やがてエリヤに指示された場所へ到着した俺たちは、周囲にゴースト・ピープルがいないことを確認してから一服つけた。
 俺から火をもらい、たっぷり紫煙を肺に送り込んでから、ディーンが途中で切れたケーブルを見つめて口を開く。
「なるほど、こいつはどうやらヴィラの音響システムに直結しているらしいな。つまり俺はシンバルを持った猿のオモチャみたいに、これを両手に持ってくっつけたり離したりすればいいってわけだ」
「プライドが傷つくようなら申し訳ないんだけど、こんな仕事でもやってもらわなきゃあ先へ進めないんだよね」
「まったく忌々しいジジイだぜ。プライド云々はともかく、現実的な問題として、俺がこいつを操作した途端に付近一帯のゴースト・ピープルが一斉に反応するはずだ。ダダをこねてると思われたくはないんだが、片道切符しかない肥溜まり行きの列車に乗りたくはないな」
「ウーン…周辺のゴースト・ピープルを片づけておこうか?」
「気遣ってくれてるのはわかるがね、相棒。いまヴィラをうろついてるのは氷山の一角にすぎない。一旦乱痴気騒ぎが始まったら、繁殖期のラッドローチよりも多くのゴースト・ピープルが寄って来るぞ。その前に数人、数十人殺したって気休めにしかならんよ」
「参ったね。殺す以外に足止めする手段てーと、ホログラムで気を引きつけておくくらいしかないが…そういえば、ヴィラにはまだ稼動してないホログラムが数基あったよな?たぶん送電システムに障害があるんだと思うけど、予備電源から起動できるはずだ」
「おおお、泣かせてくれるじゃないかね。俺のためにそこまでしてくれるのかい?それで完璧に安心できるってわけじゃないが、妥協点としてはまずまずだな。あとはセレモニーを開始次第、ちゃんと迎えに来てくれることを願うよ」
「心配しなさんな。相棒を見捨てたりなんかしないよ」
 若干不満そうにしながらも、状況に納得したらしいディーンをその場に残して、俺は移動をはじめた。







 相変わらず言葉も愛想もないクリスティーンを連れ出した俺はプエスタ・デル・ソルの変電所へと向かった。ゴッド…いや、ドッグは外の配電盤の操作だったが、彼女には変電所内部からシステムを操作してもらう必要がある。これはある程度の専門知識が必要になる。
 エリヤが言っていた「戦前の知識に精通している者」というのは彼女のことだろう。ある意味ではディーンも該当するのだが、エリヤの言う戦前の知識というのは、とりもなおさずBoSが興味を示す高度なロスト・テクノロジーを指す。
 もしエリヤがクリスティーンのことを事前に知らなければ、このような仕事を任せようと思うはずがない。
 ま、そんなことはどうでもいいけど。
 道中でまたしてもゴースト・ピープルに遭遇し、再三の戦闘に辟易しながらも俺は銃を構える。






 おなじく銃を構えるクリスティーン、しかし俺には懸念があった。
 彼女が扱う銃は特殊なものだが、それはあくまで形状のみの話だ。中身は9mmパラベラム弾を使用する標準的なマシンピストル、はっきり言ってゴースト・ピープル相手では火力不足だ。
 もっとも、そのことを伝えたところで、どうなるわけでもないが…
 しかしいざ射撃を開始すると、クリスティーンの放った弾丸は次々とゴースト・ピープルの肉体を破壊し、物言わぬ肉塊に変えていく。
「!?」
 着弾後、わずかなタイムラグの後に爆発する弾丸を見て俺は思わず目を疑った。なんだ、あの弾丸は?
 クリスティーン自身がよく訓練されており、照準線の短いサイトで素早くターゲッティングしていく動作はディーンにまったく劣っていないが、それにしても…
 通路上に立ち塞がっていた敵を排除したあと、俺は彼女に弾丸を見せてくれるよう頼んだ。
 しばらくためらってから、彼女は銃のボルトハンドルを引いて排莢口から薬莢を一発取り出し、俺に手渡す。
「これは…」
 見かけはいかにも普通の弾丸だった。仕掛けがあるとすれば被甲内部だが…
 そのとき、クリスティーンが素早く走り書きしたメモを見せてきた。こんなことに無駄な時間を割くことに否定的なのだろう、あまり良い顔はしていなかったが、そこには弾頭の内部構造が簡単に描かれていた。
 もっともそこに描かれていたことを理解するのには時間がかかったが…絵や字が下手だったからではない、その内容がにわかに信じ難かったからだ。
「…硬質の爆薬に、遅発信管?このサイズでか?」
 おそらく粘着榴弾と呼ばれる類だろうが、拳銃弾では滅多に見ない代物だ。高度な製造技術が必要でコストがかかるうえ、そもそも拳銃弾のサイズでは効果が乏しく実用性に欠けるためだ。
 爆薬か信管が特殊なのか?俺はクリスティーンのほうを見たが、どうやら彼女はこれ以上の説明をする気はないようだった。






 変電所に到着し、俺たちは各所に仕掛けられたトラップを解除しながらエレベータまで近づく。ここの罠はかつてシエラ・マドレ侵入を試みた冒険者たちがこしらえたものだろう、ディーンの仕事にしては稚拙すぎる。
「互いに利用し合い、自滅する…か。俺たちはその轍を踏まないようにしようね、クリスてぃーんぬ」
「…… …… ……」
「わかった、わかったからその顔で睨まないで。マジで」
 変な呼び方するんじゃねぇ、という顔で眉を吊り上げるクリスティーンをなだめながら、俺はエレベータが稼動状態にあることを確認した。
 彼女には地下のコントロール・ルームから送電システムを切り替えてもらう必要がある。
 ところがどうしたわけか、クリスティーンはエレベータに乗りたがらない。なにか懸念でもあるのか?理由を問いただすが、彼女はメモ用紙を手にしたまますっかり硬直してしまった。
 なにかを書こうとするが、そのたびに行き場を失った感情が皺となって眉間に浮かび、俺を批難するような目つきで睨みつけてから、ため息をつく。
 察しろっていうのか?俺はサイキック・フレンズ・ネットワークじゃないんだぞ。
 互いに苛々が募りはじめてきたとき、チン、という軽快な音とともにエレベータの扉が開き、箱型の閉鎖空間が展開した。
 ああ…俺は声もなく頷く。そうか。オートドクにそっくりなんだ、これは。
 ヤブ医療機械に顔面を切り刻まれたトラウマがぶり返すとでも言うのか?…どうも、そうらしかった。
 どうしようもないな…彼女にこのエレベータに乗ってもらわなくては、事態は進展しない。
「俺に一緒についてて欲しいのか?残念だけど俺は君のテディベアにはなれないんだ、他にやることがある。怖がるなよ…こいつにはドリルもメスもついてない。どうした、強い女の子だろ?」
 そう言って、俺は彼女を抱きしめてやろうとする。
 が、クリスティーンは慌てて俺を押しのけると、猛烈な不快を催したような形相で俺を睨みつけ、ぷいと顔を背けてから、エレベータに乗り込んだ。
「…世話が焼けるな」
 女ってのはこう、なんで面倒な生き物なのかな。
 思わぬところで手こずらされた俺は、やれやれとかぶりを振りつつ変電所を出た。







 さて、計画も大詰めだ。
 俺はプエルタ・デル・ソルに建つ鐘楼の最上階に立ち、コントロール・パネルを前にして呼吸を整えた。
 こいつを操作すれば、すべてがはじまる。
 送電を確認し、俺はレバーをガチャリと押し下げた。










「おお……!!」
 シエラ・マドレがライトアップされ、花火が何発も撃ち出される。ヴィラ中のスピーカからセレモニーのミュージックが流れ、祝典の開催を告げた。







 ドッグ/ゴッド、ディーン、クリスティーンと合流した俺は、シエラ・マドレの正面ゲートへと向かった。クリスティーンだけが猛烈に俺のことを睨んでいたが、気にしないことにする。
 これから俺たちはオープニング・イベントが終わるまでの間にシエラ・マドレへ侵入しなければならない。タイミングを逃せばセキュリティが復活し、ゲートはダニー・パーカーのケツ穴より固く閉じることになる。
 しかし他の連中がさんざん事前に警告してきたように、ヴィラには各所に潜伏していたゴースト・ピープルが続々と集まりつつあった。






「囲まれたか…!!」
 行く手を阻まれ逃げ道を塞がれた俺たちは内心の焦りを抑えつつ、円周防御を敷いてゴースト・ピープルを迎え撃つ。








< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money三回目です。
 なるべくライトに書こうとは思ってるんですが、元が殺伐とした話だからか、どうしてもシリアスに寄っちゃいますね…本当はゴースト・ピープルの集団を相手にミス・フォーチュン三人組を召喚して対応だ!みたいなどうしようもないネタも構想としてあったりはしたんですが。
 今回はアクションシーンの画像撮影をけっこう工夫してて、普通撮れないような画像が幾つかあります。わかるかな…ネタばらしはDead Money終了後に取っておきます。仕掛け自体はものすごく単純というか力技なんですが、そもそもこういうSSを撮る人ってそんなにいないので、Modもないし自家発電するかってことで色々データいじってましたですはい。
 ダニー・パーカーは本編ではディーンがチラッと言及するんですが、New Vegasに登場する架空のジャズ・シンガーです。ディーンと同じくモハビ各所にポスターが存在してる人です。英Fallout Wikiによると核戦争時に亡くなっているようですね。













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