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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)02:50
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2016/05/16 (Mon)09:24





「…まだ、早いよ」
 女の声が聞こえた。
 白熱した視界のなかで、俺は鉛のように重い四肢をだらしなくぶら下げながら、どうにか状況を把握しようと試みた。
「来ちゃ、だめ…だって」
 また、声が聞こえた。
 ひどく耳馴染みのある声。心地の良い声。そして、もう聞くことのない声。そのはずだった。
 俺はいままで、死んだ女に会うには天国に行くしか方法がないと思っていた。実際は違ったのだ。俺が立っていたのは天国なんかではなく、雲のかわりに電子機器が、天使のかわりにくそったれな人工知能が俺を囲んでる。
 そして女は…立っていた。漂っていた、というほうが正確かもしれない。
 シリンダーの中で開いたブルーの瞳を見つめたとき、絶望だとか人生最低の瞬間なんてものが存在するなら、これこそまさにそれだと俺は思った。







「ああ…ちくしょう」






 しばらく気を失っていたらしい。
 目を醒ました俺は、手の中の拳銃の安全装置がかかっていないことに気がついた。あぶねぇ。
 床には空薬莢が散らばり、扉の近くで息絶えているゴースト・ピープルの亡骸にハエがたかっている。俺の身体がどこも齧られてたり、刺されてたり、ちぎれてたりしていないところを見ると、もうしばらくこの場所は安全らしいと考えて良さそうだ。
 ヴィラでゴースト・ピープルの集団に襲われた俺たちは、それらを撃退しながらどうにかシエラ・マドレ・カジノへの侵入を果たした。だが…その後のことをよく覚えていない。
 いままで持っていたはずの短機関銃はなくなっていた。たぶん、どこかで落としたのだろう。弾切れを起こしたかなにかして…逼迫した戦闘状況だったから空の弾倉はその場で捨てていたし、弾倉のない銃など役に立たない。
 それにしても他の連中はどこ行った?
 仲間の姿を捜し求めて首を廻らせたとき、ポーチの中の無線機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。
『…き…えるか。…聞こえるか、傭兵?』
「エリヤ。ああ、聞こえるよ。すこし眠っちまったみたいだ」
『どうやらカジノのセキュリティ・システムにやられたらしいな。他の連中もそれぞれ別の場所に移動させられたようだ…まずいことになった』
「まずいこと?」
『おそらくカジノのメイン・システムが発する電磁波が干渉しているせいだと思うが、四人が装着している首輪爆弾の受信機がすべてオフラインになった。盗聴装置は辛うじて生きているが、ノイズがひどく、あまり役に立たない』
「つまり首輪が爆発するっていう脅し文句はもう使えないってことだな。ま、そのことを連中に知らせてやる必要はないか」
『強引に外そうとすれば信管が作動して爆発するはずだが、こちらから無線で起爆させることはできなくなった』
「ふむ…ちょっとした重いアクセサリーってところだな」
『盗聴装置から発せられる微弱な信号から、他の二人のおおよその位置は割り出せる。ドッグはひどく混乱しているようで、危険な状態だ。ディーン・ドミノ…あの旧世紀のミュータントは何か企んでいるようだな、ドッグとは別の意味で危険だ。もう一人の女だが、こいつだけは盗聴装置を含むすべての信号が途絶えて安否が確認できん。ひょっとしたら、何かの拍子に首輪爆弾が作動したのかもしれんな』
「それで、どうする大将?また最初みたいに連中を探して駆けずり回るか、それともさっさとお宝を探しに行くかい?」
『現在カジノは予備電力で動いている。地下の金庫室まで辿り着くには、まず配電盤を操作して機能をすべて復旧させねばならん。それと…人数が必要なのはカジノに侵入するまでの話だ。他の三人はもう用済みだ、始末してくれ』
「了解した」
『…あっさり納得したな?ヴィラではそれなりに良い関係を築いていたようだったが』
「仕事を円滑に進めるためさね。連中に分け前をくれてやるんでもなければ、まあ始末するしかないわな。俺は傭兵だぜ?人を殺すための職業だ。なんであの三人だけ例外でいられる?」
『優れた傭兵は決して依頼主を裏切らない、とも聞くな。宝を前にして裏切りを考えることのないよう願うぞ』
「信用商売だからな。退職金を欲しがるにはまだ早いよ、俺はさ」
 やれやれ、あのジジイの口から信頼関係を確認する言葉が聞けるとはな。
 よっこらせ、と声を出して俺は起き上がり…固い床の上で寝ていたせいで身体が痛い。ちくしょう、日曜朝の駅で潰れてるサラリーマンじゃねぇんだぞ…寝たきりから回復したばかりの老人みたいな動きで二、三歩よろめいてから、カジノの扉を開いた。






 不死身なうえ殺人光線を放つ悪趣味な人型ホログラムのセキュリティをどうにか掻い潜り、ダウンしていたブレーカーのレバーを押し上げたとき、それまで死んでいた照明が煌々と明かりを放ち、カジノの受付やらルーレット・テーブルやらに新たなホログラムが出現した。
 はじめはセキュリティが増えたのかと思ってゾッとしたが、すぐに、それらは無害なカジノ用の従業員システムであることに気づき、俺は胸を撫で下ろした。
 さて、問題はここからだ…
 あの三人を始末しなければならない。エリヤにはああ言ったが、実際のところ、俺はそこまで簡潔に割り切れているわけじゃなかった。
 なにしろ俺にとっては、あの三人は必ずしも死ぬ必要はないからだ。
 エリヤにとっても三人の死は計画の本筋に組み込まれているわけではなく、あくまで予備案に過ぎないはずだ。とはいえ…理由もなく生かしておいては、エリヤも快くは思わないだろう。それでなくとも確実に任務遂行の障害にはなる。
 当の三人にしたって、俺に生かされたがっているかどうかもわからないのだ。
「出たとこ勝負、か」
 気に喰わない。気に喰わないが、それはいつものことだった。







 カンティナ・マドリッドのキッチンでドッグ/ゴッドを発見した俺は、エリヤの「ひどく混乱している」という言葉が嘘ではないことを知った。
 キッチンはガスが充満しており、わずかな火の気でも大爆発を起こすだろう。地下金庫にダメージはないはずだが、周囲一帯が吹っ飛び酷い被害が出るに違いない。
 原因はゴッドが力任せにガス管を破壊して回ったせいらしい。おかげでセキュリティの自動システムが作動し、俺がキッチンに入った瞬間に外部へ通じるすべての扉がロックされてしまった。






「ドッグ…ドッグ、止まれ!落ち着け、落ち着いて檻に戻れ…少しの間でいい、俺に制御を…」
「FREEEEZE!!」
 うわごとのように何事かをつぶやくドッグ…いや、ゴッドか?目前のスーパーミュータントに、俺は銃口を向けた。
 どうやら俺の存在に気づいたらしい彼は、口泡を飛ばしながら荒い息遣いで叫ぶ。
「ドッグ…どっぐ、もうやだ…つらい…くるしい。声、聞こえる。いやな声が聞こえる。俺なのに俺じゃない。もういやだ。死にたい…グッ、くく…聞こえるか…聞こえるか、傭兵!?」
「ゴッド!?」
「こいつを…こいつを止めてくれ!こいつは死のうと…うるさい、うるさい!いやだ、いやだ、いやだ!しぬ…やめろ、俺はまだ…こんなところで!!」
 なんてことだ…俺は苦しそうに呻き、両腕を振り回す彼を見て言葉を失った。
 二つの人格が反発し合い、心が…壊れかけている!気が狂いかけている!
「だっ…た……助けて…くれ……!!」
 でも、だが、しかし、だからって。
 俺にどうしろっていうんだ!?
 なにができる?俺になにができる?何をしてやれる?どうすればいい!?
 やがて、衝突した二つの心は…完全に、砕け散った。

「「いやだあああああぁぁぁぁぁああっっっ!!」」




 そして、ドッグ…いや、ゴッド、それぞれそう名乗っていた「何者か」は、隠し持っていた手榴弾を放り投げた。






 爆発とともに室内に充満していたガスが一気に引火し、あらゆるものが吹き飛ぶ。
 しばらくして備えつけの消火システムが作動し、消し炭になった物体を鎮火していった。






「ぐはっ」
 ドカッという音を立てて扉が外れ、俺は咄嗟に隠れた冷蔵庫の中から無様に転がり落ちる。
 さすがは核爆発にも耐える(らしい)簡易シェルター、ガス爆発程度ではビクともしない。
 だが…
 まだ至るところで炎が龍の舌のようにチロチロとくすぶっており、俺は火に巻き込まれないよう、黒い煙を吸い込まないようにしながら、必死に「あるもの」を探した。
 それはすぐに見つかった。
 燃えて、焼け焦げ、ばらばらになり、ただの細切れの肉の塊になった、かつてゴッドと、あるいはドッグと名乗った存在の残骸。
「ちくしょう…」
 いままで大概ロクでもない生き方をしてきた俺だが、後悔でうなされる光景というのはいくつか存在する。きっとこれも、そのうちの一つになるだろう。
 かつて檻の中で、エリヤの言いなりになるくらいなら「死んだほうがマシだ」と言ったゴッド。その彼が、今際のきわに俺に助けを求めたのだ。死にたくない、と。まるで、俺ならなんとかできるみたいに。あのときの目を…俺は一生忘れられないに違いない。
「ドッグ…ゴッド。すまねぇ……!」
 人を平気で殺せるくせに、俺ってやつはいつでも他人の期待を裏切るんだ。
 やがて燃えていたものはすべて消火され、同時に扉が「ガチャリ」と音を立ててロックを解除した。
 俺は立ち上がり、無線機を取り出してスイッチを入れる。
『無事か傭兵!?物凄い爆発音がしたぞ!』
 慌てた様子で先に口を開くエリヤの声を聞き、俺は…
 自分でもぞっとするほど感情の欠けた、冷たい声で言った。
「ドッグを始末した。あと二人だ」





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money四回目です。
 まあシリアスですよ。このあたりは。茶化したくないので。最初からこういう展開にする予定でした。だからこそカジノに入る前は明るい雰囲気に徹しておこうというこの底意地の悪さがッ。
 本当はドッグ&ゴッドの内面的な心理描写にもっと尺を割きたかったんですが、本筋とは関係ないのと、鬱展開ブーストにしかならないので断念しました。
 首輪まわりのシステム、無線機、その他色々、原作から改変してる部分は多いです。こと二次創作においては忠実に再現しても面白くもなんともない要素がけっこうあるので、そのあたりはかなり割り切ってます。













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