主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2016/05/18 (Wed)08:34
ニューベガス・ストリップ地区を支配する三大カジノの一つ、ザ・トップスが誇る一大エンターテイメント「ザ・エース・シアター」では、プロデューサーのトミー・トリーニの名調子からなる司会が今日も冴え渡っていた。
「今宵、あなたは伝説を目撃することになるでしょう。あなたはスターに会ったことがありますか?本物のスターとはどんな人物を指すと思いますか?今日は紛れもなく、誰が見ても疑う余地のない本物のスターをご紹介いたします!」
壇上にスポットライトが当てられ、スタンドマイクの前に姿を現したのはグールの男だった。
その正体を疑う観客たちのざわめきを予測済みだったのか、トミー・トリーニは笑顔を崩すことなく、大きく息を吸い込んでから、ひときわ大きな声で男を紹介した。
「彼の名は…ディーン・ドミノ!驚くがいい、あの戦前の伝説的シンガー、キング・オブ・スウィングと呼ばれたあの男が、なんと二百年の時を経て帰ってきたッ!シエラ・マドレからグールとなって生還した粋な伊達男の復活ライヴ、心ゆくまでお楽しみください!!」
前代未聞のサプライズに沸き立つ聴衆を前にして、ディーンは久々の舞台に少し緊張しながらマイクに向かう。
「ありがとう、トミー。ザ・トップス…懐かしいな。ここには昔来たことがあるんだ、アメリカにでかい爆弾が落ちる前の話さ。聞いての通り、俺はグールになって声がしゃがれちまった。もう昔のような声は出せないが、それでも良ければ付き合ってくれ。じゃあ、いってみよう…Saw Her Yesterday」
「…いかん、眠っちまってたか」
目を醒ましたディーンは、自分が椅子に座ったままうたた寝していたことに気がついた。
ヴィラでゴースト・ピープルの集団と派手な銃撃戦を展開し、シエラ・マドレに侵入してからも休むことなく施設の調査とセキュリティ・システムの設定に奔走していたのだ。疲れが出たのだろう。
それにしても、なんて夢だ…と、ディーンは顎を撫でる。
いまさら浮世に未練が?二百年前、核戦争ですべてが変わる以前から、自分は復讐のためだけに生きてきたというのに。
それとも復讐なんか諦めて、シエラ・マドレを捨て、いまもどこかに残る文明世界を探していれば…また、エンターティナーとして復活していた未来もあったというのか?
「…夢の見すぎ、だよな……」
いまさらそんなことを考えても仕方ない、それに…
「死神の足音が…すぐそこまで迫ってきてるもんな……」
傭兵が近くまで来ていることを察知し、ディーンは銃を手に立ち上がる。
なに、ショーはこれからだ。二百年間練り上げてきた自分の、自分だけのショー。ディーン・ドミノの晴れ舞台はこれからだ。
俺がタンピコシアターの舞台に近づくと、金めっきが施されたマグナム拳銃を手に、背後にはホログラム・セキュリティを従えたディーンが姿を現した。
「ジョーイ・バクスター、ハリー・ウィルフレッド、ヴェラ…ヴェラ・キーズ。本来この舞台に立つはずだった連中の名前だ、こんな無粋なホログラムなんかじゃなく。そろそろ来る頃合だと思ってたぜ、相棒」
「エリヤがな…カジノのセキュリティ・システムが意図的に改竄されている、と言ってたぜ。先回りされてるとな。周到に…まるで最初から何もかも把握していたみたいに。あんたの仕業なのか?」
「意外かね?驚いたかい?なんで俺にそんな芸当ができるのか不思議でならないって感じだな。俺はシエラ・マドレのことなら何でも知っているぜ?間取りも、設備も、どこに誰の控え室があって、そこに何が置いてあるのかも知っている。なぜだと思うね?」
「超能力かな」
「ハッハッハッ、そいつがあれば、もっとラクに事が進んだろうな。そんなもの必要ないのさ、なぜなら…俺は、もともとここにいたんだからな」
戦前のスター、ディーン・ドミノ。
エンターティナーとしてシエラ・マドレに招待され、オーケストラを背負ってタンピコシアターの舞台に立つはずだった男。
気づくべきだった…俺は銃を握る手に力を込める。
こいつはエリヤがシエラ・マドレの存在に気づく前から、冒険者たちがシエラ・マドレの財宝を狙ってハイエナのようにたかるようになる前から、それどころか核戦争以前、シエラ・マドレがまだ建設中だった頃から、カジノの強奪計画を企てていた可能性があることに。
そのことを確認するのに、いちいちディーンの目的や、生い立ちや、家族関係や、隠された出自や恥ずかしい趣味などを問いただす必要はなかった。たった一言で充分だった。
「気長な計画だったな?」
「そうさな、俺は二百年間ずっとカジノに侵入する算段を立ててたんだ。一度入ってしまえばもうこっちのもんだからな。賭けのテーブルについて辛抱強く勝負を続けていたのに、いきなり新参の客がデカい顔で割り込んできやがる。傲慢なジジイと兵隊気取りのガキがな」
「俺とエリヤが組んでると言いたいのか?」
「さて、どうかな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。どっちでもいいさ、どのみち…これからやることに変わりはないんだからな」
「それで、その金ピカの銃で俺を撃とうってのか?」
「まさか!こいつは…ただのポーズさ。考えてもみろ、
黙ってたってシエラ・マドレが始末してくれるのに、
なんでわざわざ自分で手を下す必要がある?」
そう言ってディーンが踵を返すのと同時に、セキュリティ・ホログラムたちがいっせいに光線を発射してきた。ドン、ドン、ドンッ!
横転して光線を避けざまにディーンに向けて発砲するが、こういうトリック・ショットはそうそう成功するもんじゃない。
緞帳を裂き、ネオン・サインを砕くことはできても、ディーンの肌に傷一つつけることができなかったことを確認しながら、俺はホログラムの追撃を避けるために通路を駆けはじめた。
おそらくディーンは舞台の楽屋裏に引っ込んだはずだ。ホログラムが鉄壁の防御を固めていることを把握したうえで。まずはこいつをなんとかしなきゃいけない。
幾つかは中継器の回路を切断すれば無効化できたが、それでもディーンに近づくには不充分だ。幾つかの端末からセキュリティ・システムをオーバーライドする方法を検索し、俺はディーンの代表曲「Saw Her Yesterday」が収録されたホロテープを使ってホログラムの性質を書き換えることに成功した。
『君への想いを抑えきれない、昔から抱いてた執念の心が燃えるよう♪「ノー」なんて言わないでおくれ、僕だけを見つめておくれよ♪君のキスは誰のためのものなんだい?』
さっきまで異常なまでに殺気立っていたホログラムが舞台の聴衆へ変化し、そのうちの一体がシンガーとしてマイクスタンドの前に立つ。
あれは…ディーンを模したホログラムか?
生前、いや、グールになる前の瑞々しいディーンの声でSaw Her Yesterdayを歌い上げるホログラムはまるで亡霊のようだ。
ともあれ、ここでボーッと曲を聴いていたいのは山々だが、俺にはまだやることがある。
ディーンは逃げたか、それとも…俺を待ち伏せしているか。
関係者用の通路を駆け抜け、階段を上がって舞台裏へと出た俺は、手摺越しにステージを見下ろすディーンと鉢合わせした。
「ディーン・ドミノ!!」
俺が銃を構えるのと、ディーンが振り向きざまに発砲したのはほぼ同時だった。
先に放たれたディーンの弾丸は俺のこめかみを掠め、ゴーグルのバンドを断ち切って壁に穴を穿つ。俺の放った弾丸は…ディーンの肺を捉えていた。
サングラスが吹き飛び、マグナム拳銃が踊り場の上を転がる。
手摺にもたれかかるように倒れたディーンは、そのまま力なく崩れ落ちた。
ヒュー、ヒューと音を立てながら苦しそうに呼吸し、ディーンは銃口を下げる俺を見つめながら呟く。
「賭けは…おまえの勝ちだ。チップを受け取れ、それがギャンブルってもんだろう……殺れよ」
俺はすぐには答えなかった。
膝をつき、ポーチを探ってから、俺はディーンに銃口を突きつけるかわりに、開封済のシガレット・パックを差し出した。
「煙草、いるか?」
「……なに?」
「いらないのか?」
なにか、とんでもなく頭が悪くて愚かな生き物を見るような目で見つめてくるディーンに、俺は煙草を一本取り出し、口もとまで持っていってやった。
ディーンが煙草を吸い、俺がその様子を見守り、しばらく静かな時間が続いた。
さっきまで俺を本気で殺そうとしていたヤツに煙草を奢ってやろうなんて考えるのは酔狂かもしれないが、ディーンが咄嗟に俺を道連れにしようなどと考えているのでなければ、弾丸があと1インチずれていれば先に俺が死んでいた可能性があったことは忘れようと思った。
こめかみからじんわりと血が滲むのを感じながら、俺は考える。
ディーンをカジノ強盗に駆り立てたものはなんだったのだろう?二百年もの歳月を準備に費やすというのは、たとえ寿命が無限にあったとしても容易なことではない。
半ばまで短くなった煙草を見つめながら、やがてディーンが口を開いた。
「ヴェラ・キーズ」
「なに?」
「地下金庫に通じるエレベータは…音声認証式のセキュリティが組み込まれてる。ヴェラの声で開く」
「なぜ、それを俺に」
「あのジジイの総取りじゃあ、面白くないからな。新しい賭けに…オッズを張りたくなったのさ」
そう言って、ディーンは乾いた笑い声を上げた。
すでに意識を失いかけているディーンに、俺はどうしても言いたくなった。
「もっと早く俺にチップを賭けてれば、命までは失わずに済んだんじゃないのか」
「二百年だ」
「…… …… ……」
「二百年間、ずっとおなじ手札を握り続けてきた。ありったけのチップを賭けて、新しいチップが手に入るたびにレイズを繰り返して。さっさとフォールして別のテーブルに移ってりゃ良かったのかもしれん、でもな…」
すでにディーンの目は俺を見ていなかった。
彼は別のものを見ていた。俺ではない誰かを。ここではないどこかを。それが何なのかは俺にはわからなかったし、知りようもなかった。
「失うとわかってて、テーブルの上のチップを手放すことなんてできなかった」
ディーンの指先から煙草がこぼれ落ち、彼の瞳から涙が溢れる。
「できなかったんだよ…」
ディーンが息を引き取ったのを確認してから、俺はスロープを下り、ホログラムの亡霊の間を通り抜けてタンピコシアターを後にした。
彼のもとを去る直前、俺はもうディーンが声を聞くことはないとわかっていながらも、最後に一言だけ口にした。俺の本心を。どうしても伝えなければならなかった。
「俺はあんたとなら、上手くやっていけると思ってたんだ。本当だぜ…相棒」
< Wait For The Next Deal... >
どうも、グレアムです。Fallout: New Vegas、Dead Money五回目です。
ディーンはお気に入りのキャラなので一話丸ごと使いました。個人的に彼は目的に対してかなりドライな男だと思っているので、そのへんの考察は今度纏めておきたいなあとは考えているんですが。
もともと主人公のクレイブ自身がわりとクズい人間だっていうのと、挫折からダメ人間街道まっしぐらに直行するキャラが大好きなので(そうそう簡単に救われれば苦労はねー、という点も含めて)、共感度マシマシでお送りしております。
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