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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)00:17
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2020/06/28 (Sun)02:03


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.4

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 かつては日曜に多くの礼拝者が訪れたであろう教会の聖堂内はがらんとしており、本来あるはずのベンチや講壇はどこにも見えなかった。あちこちに不恰好なバリケードが構築されているのを見ると、それらの材料として廃材利用されたのかもしれない。
 窓際のテーブルに、教会にはあまり似つかわしくない無線設備が揃っていた。一見したところワイドレンジのマルチバンド・レシーバーで、民間モデルだが安い代物ではないはずだ。
 
 
 
 
 
 
リリー:「日中、私はあの無線機に張りついて情報収集をしているの。政府や軍関係の通信を傍受したり、他の場所で活動している生存者たちとやり取りをしているわ。高校ではアマチュア無線部だったの」
ノーマン:「軍…といえば、このあたりに州兵が出動したような様子はないな。対応が遅れているのか?」
 
 この言葉に、リリーは信じられないものを見るような目つきでノーマンの顔を見た。
 やがて、かぶりを振り…
 
リリー:「えぇと、貴方たちは山の中でキャンプをしていて、状況を知らなかったのよね?だから、ラジオやTVニュースのようなメディアがすでに機能していないことも知らないわけよね?」
ノーマン:「なんだって?」
リリー:「このゾンビ騒ぎが始まったのは二週間も前よ。世界中で原因不明の暴徒化が進み、病院が機能停止し、軍が出動した…あまり物事が表沙汰にならなかったのは、政府が報道管制を敷いたせいね。国全体が不安に包まれるなか、政府は非常事態宣言を発令し、そして、それを解除することなく滅びた…そんなわけで、今も国民の頭の中では非常ランプが点灯しっ放しというわけ」
ノーマン:「なんてことだ…つまり、いまさら軍の救助を期待することはできないってわけだな」
リリー:「そうとも言い切れないけど。なにせ、状況がはっきりとわかっているわけではないから。ゾンビ化にしたって、原因がわかっているわけではないのよ。ウィルスか、飛来した隕石に付着していた微生物によるものか、あるいは黒魔術か、神様の怒りによるものか…いまのところ、信憑性はどれも似たようなものよ」
 
 
 
 
 
 
 続けて、リリーはノーマンをキッチンに案内した。教会の台所など、普段なら絶対に足を踏み入れないような場所だ。とはいえ、これといって特別な設備があるわけでもなく、一般家庭とそう変わるところはない。
 
リリー:「いまのところ、料理はサムが担当しているわ。見張り台に立っていた、ドレッドの女性ね。といっても、缶詰のクラムチャウダーにベーコンを足したようなものしかお出しできないけど…サム以外のメンバーがそれより酷いものしか作れない点については先に謝っておくわ」
ノーマン:「新鮮な肉や野菜が手に入るような状況でもないしな。とはいえ、俺に包丁を握らせてくれれば、もうすこし文明的な食事ができることは請け合ってもいい」
リリー:「本当に?あなた、料理ができるの?」
ラムダ:「うちの旦那は料理がすげー得意だぞ。絶品だぞ」
ノーマン:「ま、異世界で無双できる程度にはね。貯蔵している食品の種類にもよるが」
リリー:「だいたいは缶詰ね。それと、料理したあとは容器にしっかり封をしておいてね?でないと、ネズミに食い荒らされてしまうから」
ノーマン:「そうだな。それと、食品は高い場所に保管しておいたほうがいい。床に接地していると小動物や虫の害を受けやすいし、湿気の影響も受けやすい。日の当たる場所に置いてないのは感心だな」
リリー:「詳しいのね?」
ノーマン:「いわゆる、プレッパー…終末マニアというやつでね。自宅の地下にシェルターを作って、食料や必需品を備蓄しておくことに関して多少の知識があるというわけだ。いいや、皆まで言わずとも結構。非常時に家を空けるという迂闊をやらかす大失態の前では、どんな備えも無意味だと今回ハッキリ骨身に染みたよ」
 
 
 
 
 
 
 外に設置された簡易診療所では、負傷したクレイブがウィリアム牧師の治療を受けていた。苦しそうに呻くクレイブの額に玉のような汗が光っている。鎮痛剤の効果が切れかけているのだ。
 
リリー:「あまり言いたくなかったけど、彼の発熱はあまり良い兆候ではないわ。ゾンビ化の初期症状なの。もちろん、そうではない可能性もあるけど…」
ノーマン:「このあたりに病院はないのか?あるいは、医者は?」
リリー:「ドク・ハンソンっていう町医者が生存者のコミュニティを回って診察してくれているけど、一つ処に留まらないせいで中々連絡がつかないし、いつ彼自身の身に危険が及ぶかもわからない。私たちも今彼に連絡を取ろうとしているけど、間に合うかどうか…」
 
 
 
 
 
 
リリー:「そもそも私たちには医薬品の備蓄が充分ではないし、怪我の治療も満足にできない状況なの。もし、彼が助からなかった場合は…治療が間に合わなかった場合、完全にゾンビになる前に頭を撃ち抜いて処分するしかないわ」
ノーマン:「…妥当な判断、だな」
リリー:「そう?てっきり、私はあなたが反論するものだと思ってたわ。わかってほしいのは、私たちがそうやって親しい人を自分の手で処理しなければならないのは、彼が始めてではないということよ。そして、たぶん、これが最後でもない…」
ノーマン:「そうならないようにありたい、というのは、希望的観測というものだろうな」
 
 それからしばらくリリーは沈黙を保っていたが、やがて意を決したようにノーマンに尋ねた。
 
リリー:「ねぇ…父は、どんな感じだった?」
ノーマン:「短い付き合いだったから、俺から言えることは多くないが…頼れるリーダーとして振る舞っているように見えた。俺が彼のもとを訪れたときは、怪我人の面倒を見るのに手一杯という感じでね。怪我人がゾンビになったのか、あるいは、怪我人の手当てをしているときにゾンビに襲われたのかはわからないが…一つだけわかっているのは、彼は決して怪我人を置いたまま逃げるような真似はしなかった、ということだ」
 
 個人的には最大限に配慮したつもりでノーマンが言う。
 父について話すリリーの口ぶりから、おそらくトーマスは娘から慕われていたのだろう、ということは容易に察せられる。そういう存在が亡くなったことを思い知らされたとき、いかに気丈に振る舞おうとも、歳若い娘にとっては大きなショックを与えるであろうことを想像できぬほどノーマンは鈍感ではない。
 表情を見せないよう俯いていたリリーは、やがて唇を震わせてすすり泣きをはじめた。
 
リリー:「ごめんなさい。辛い思いをしているのは私だけじゃないのに、こんな…」
ノーマン:「なんで謝る?世界中がゾンビだらけになったという環境が、身内の不幸を悲しむことを恥じなければならない理由になると思ったことはない」
リリー:「…… …… ……」
ノーマン:「聞いてくれ。君は、俺の友人がゾンビに噛まれたと知ってもなお、受け入れてくれた。それがなければ、俺たちは今頃なんの目的意識もないまま周辺をうろついてただけだったろう。そのことについて、俺は君に感謝してもしきれない。だから、俺たちはこのコミュニティの存続のために全力を尽くすことを誓おう」
リリー:「ありがとう、そう言ってもらえると心強いわ」
ノーマン:「さしあたって、俺たちに協力できることを提示してもらえないか。もちろん、キッチンで一流シェフとしての腕前を振るうという以外の役割についてだが?」
リリー:「まずはドク・ハンソンの捜索ね。あなたの友人を助けるためには、彼の力が必要だもの。それと、物資の収拾。ここで生活していくためには、様々なものを必要とするわ。食料、ゾンビを殺すための弾薬、医薬品、バリケードの構築や建物の補修に必要な資材、発電機や車を動かすのに必要なガソリン…」
ノーマン:「それらを町中から掻き集めてくる必要があるわけだ」
 
 指折りしながらチェックリストの項目をそらんじるリリーに、ノーマンは頷きかけた。
 軍や政府の救援が望めない以上、最終的にはこの地で自活していく道も模索していく必要があるだろう。とはいえ、暫くは町の中にあるだけの物資で凌ぐことは可能なはずだから、畑を耕すことを考えるのは周辺一帯のゾンビを壊滅させてからでも遅くはないはずだ。少なくとも、この町の人口以上のゾンビが土や壁の染みから湧き出てくるとは考え難い。そういう意味では、内戦下よりもシンプルな状況であるとは言えた。
 心配なのは離れた場所にいる娘たちのことだったが…車で移動するにせよ、いまの状態から無闇に娘を探しに遠出するのは自殺行為以外の何物でもない。どうにか無事でいることを祈るしかなかった。
 そんなことを考えていたとき、見張り台のほうから艦砲射撃のような爆音が響き、続いてアランの罵声が聞こえてきた。
 
アラン:「クソッタレ、このあばずれ!そんな大砲を使うんじゃない、世界中のゾンビを教会に招待するつもりか!?死に腐れを相手に乱交パーティでも開きたいのか?」
ラムダ:「うるせークソジジー!」
アラン:「誰がクソジジイだ、貴様、ちょっと降りて来い!」
 
 どうやら、見張り台に立ったラムダがマクミランを使ったことがトラブルの原因になっているらしい。
 
ノーマン:「あれは…ちょっと言って聞かせる必要があるな」
リリー:「あなたの奥さん、だったわよね?彼女はどんな仕事をしていたの?」
ノーマン:「家事のできない専業主婦だ。元軍人で、片手で対物ライフルをぶっ放したり、カタナでゾンビの首を刈り取るのは得意だが、それ以外のことに関してはどえらく不器用なウンコ製造機だ。特に機械類には触らせないほうがいい、絶対に壊す」
リリー:「えぇ…」
 
 淡々と嫁の特徴を挙げるノーマンに、リリーが若干ひいたような表情を見せる。
 ノーマンとしても、ラムダの存在がゾンビとはまた違うベクトルで異質なことを否定する術は持たなかった。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/06/25 (Thu)06:11


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.3

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
ノーマン:「痛むか?」
クレイブ:「平気に見えるか?まあ、戦場で銃弾をぶち込まれるのに比べたら、格別に酷い怪我ってわけでもないさ。感染さえしてなけりゃあな」
 
 
 
 
 
 
 壊滅したレンジャーステーションでゾンビと化したトーマスに噛まれたクレイブは、ロッカーに僅かに残されていた医療品で応急処置を施してから、規定量を超える鎮痛剤の服用でどうにか身動きが取れるようになっていた。
 この場を立ち去る前に、キャンプ地周辺の生存者の存在を確認しなければならない。
 三人はタナー山地北部の湖沿いに並ぶロッジを一軒ずつ見て回ったが、残念ながら中にいたのはゾンビばかりで、生存者は一人も見つからなかった。
 引き返す途中で発見したテント内の荷物に、ノーマンは一挺のライフルを発見する。黒色のグラスファイバー製ストックを装備した、ボルトアクション式のマーリン983。本来は威力の高い.22ウィンチェスターマグナムを使用するはずだが、所有者はそれを.22LR用に改造したらしい。
 狩猟用か、はたまた護身用か…
 
 このあたりにはゾンビしかいないことを確認した三人は、給水塔近くの倉庫へと向かった。そこにはクレイブが指摘した通り空色のトラックが停めてあり、彼がトーマスの亡骸から回収したキーはまさにこの車のためのものだった。
 ノーマンが運転席に乗り込もうとしたまさにその瞬間、クレイブが無造作に身につけていた無線機から女性の声が聞こえてきた。負傷したクレイブにかわり、ノーマンが応答する。
 
 
 
 
 
 
女性の声(リリー):「ハロー?しばらく連絡がないけど、調査は進んでる?」
ノーマン:「すまないが、君は何者だ?タナー山地…レンジャーステーションに立て篭もっていた人たちの仲間か?」
リリー:「…!?ええ、そうだけど。あなたは誰?」
ノーマン:「短い時間だったが、我々はトーマスという男と協力してこの付近の生存者の捜索をしていた。彼は負傷者の手当てのためにレンジャーステーションに残っていたが、我々が外の調査から戻ったとき、彼とその同行者は全員死んでいた。君の仲間は全滅だ」
リリー:「…… …… …!!」
 
 無線機の向こう側から、ハッと息を呑む声が聞こえる。
 それからしばらくの間は返事がなく、無論そのまま突っ立って相手の言葉を待っている余裕などないので、クレイブとラムダが荷台に乗ったことを確認したノーマンは、すでにエンジン音に惹かれて集まりつつあるゾンビを蹴散らすようにトラックを急発進させた。
 間もなく川にかかる橋を通過しようかというとき、三人は木製の吊り橋が真ん中から崩落しているのを目撃する。
 
クレイブ:「クソッタレ、橋が壊れてやがる!これじゃあ、車で渡るのは不可能…だな?おい、そうだろ?」
 
 はじめは独り言のようだったクレイブの口調が、段々と運転席のノーマンに言って聞かせるように変化する。
 しかしノーマンは車の速度を落とすことなく、むしろアクセルを全開にして崩落した橋に突っ込んでいった。
 
ノーマン:「これでも俺は、かつてニューイングランドで大型トラック用のV12気筒ディーゼルエンジンを搭載した自作モーターサイクルで荒廃した世界を放浪していた男…これくらいの隙間は飛び越えてみせる!」
クレイブ:「いや、その自分語りは何の保証にもなってねぇな!?」
ノーマン:「あっ、橋だ」
クレイブ:「イヤミかてめぇ!」
 
 
 
 
 
 
ラムダ:「いっけええぇぇぇぇ!」
クレイブ:「うおああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 
 ガタンッ、わずかに角度のついた箇所に乗り上げると同時にサスペンションの軋む音が響き、車体が宙に浮かぶ。
 あまり高く跳ねたわけではなく、向かい側に無事着地できたのはテクニックというよりも運によるところが大きかったのだろうとクレイドは思う。着地と同時に荷台を揺らした衝撃は、鎮痛剤でぼんやりした頭にも危機感を覚えさせるものだった。もちろん、川底に転落するよりはマシだったが。
(だいたいは着地に失敗して落下するうえ、本作はオートセーブ専用でやり直しがきかないため、転落した場合でもそのままゲームを続行せざるを得なかった。それはそれでおいしい展開ではあったが…)
 
 
 
 
 
 
 南へと続くたった一本の道路を流すように走っていたとき、ふたたび無線機から応答があった。先刻と同じ女性からだ。
 
リリー:「えぇと…聞こえてる?」
ノーマン:「ああ。できれば、君たちはどこにいる何者なのかを教えてくれると有り難いのだが」
リリー:「私はリリー・リッター。あなたがレンジャーステーションで会った、トーマス・リッターの…娘よ」
ノーマン:「…そうか。お悔やみを申し上げる」
 
 なんてことだ、死んだ人間の身内だったか…
 それからまた束の間の沈黙が続いたが、やがてスピーカから諦めにも似た、ため息に近い笑い声が響くと、ほとんど投げやりな態度でリリーが話し始めた。
 
リリー:「私はあなたとどう接すればいいのかわからないわ。だって、そうでしょう?父と協力して生存者の捜索をしていた、目を離しているあいだに父たちが死んでいた、という話を、額面通りに信じれると思う?」
ノーマン:「あるいは俺たちは性質(タチ)の悪い強盗団で、君の父親とその仲間を殺して身ぐるみを剥いだあと、君に嘘をついて襲う算段を立てているのかもな」
リリー:「ええ、そう。そうね、もちろんその可能性もある」
ノーマン:「それに俺たちは今のところ、身の潔白を証明する手段を持たない」
リリー:「まったくだわ。ああ、もう!私の仲間、特にそのうちの一人は、この事態を快く思わないでしょうね。けど、あなたの態度からは真摯的な公平さを感じられるわ。私、自分の直感は信じることにしているの」
ノーマン:「いい心がけだ、お嬢さん。その誠実さを見込んで正直に告白するが、俺の仲間がゾンビ…そういう呼び方で不都合はないと思うが…あるいは、それに類する"なにかと不自由な連中"に噛まれて怪我を負っている。映画のようにバケモノの仲間入りをしちまうのか、あるいは感染や発症に別の条件があるのか、俺には判断の材料がない」
リリー:「怪我人がいるのね?それは私たちに朗報とは言い難いけど…だけど、ゾンビから攻撃を受けても、必ず感染症に罹ると決まったわけではないわ。なかには回復する人もいる、そして、もちろん、そうでない人も」
クレイブ:「安心したよ。フルパワー戸愚呂みたくに100%中の100%ってわけじゃないってことか」
ノーマン:「いまのは聞き流してくれ、亡者の流言だ。俺たちはタナー山地へキャンプに来てたんだが、しばらく自然と一体化して世俗的な文化と断絶するありがたい生活を送ってたせいで、いまいち状況を把握できてない。世間がゾンビー・パラダイスと化してるのに気づいたのも、つい先日のことだ。できれば君たちと合流して、状況の打開…もしくは改善に向けて協力し合いたいと思っている」
リリー:「そうね、怪我人の治療も必要でしょうし…いいわ、その提案を受け入れましょう。私たちはスペンサーズミルの教会に立て篭もっているの、このあたりに教会は一件しかないから、迷うことはないはずよ」
ノーマン:「いちおう聞いておきたいんだが、キリスト教系かね?プロテスタント?」
リリー:「カトリックよ。アセンション教会、でもどうして?ひょっとして、宗教上の理由で立ち入れない…とか?あなた、イスラム教徒?」
ノーマン:「いいや、俺自身は敬虔なスパニッシュ・カトリックの家の出でね。ミドルネームにパトリックという洗礼名も持っている。ただ、十字架の立った三角形の屋根を探しているときに、ロシア正教やモスクの教会が視界に入っても、そこに君たちがいるだろうという発想には結びつかない可能性が高い」
リリー:「だったら、安心して三角形の屋根を探してと言っておくわね」
 
 そこでふたたび無線機越しの会話が途切れた。
 片手でハンドルを操り、もう片方の手で観光マップを開くノーマンに、クレイブが荷台から話しかける。
 
クレイブ:「教会?随分とまた、ありがたい場所に立て篭もっているもんだな?」
ノーマン:「ああ。ひょっとしたら、神様のご加護がゾンビから守ってくれるかもしれない」
クレイブ:「まったくだ。いや、誤解しないで欲しいんだが、俺は別に皮肉を言いたかったわけじゃあないぜ?たとえ終末が訪れても、信仰の心が失われることはない。俺の親父も、よく聖書の一節を好んで暗誦していたもんだよ。"我はアルファでありオメガである、始まりであり終わりである。渇く者には命の泉の水から値なしに飲ませよう"……」
ノーマン:「ヨハネの黙示録、第21章6節か。気をつけなよ、不信心者は水を与えられるかわりに、火と硫黄の燃える池に投げ込まれることになるんだからな」
ラムダ:「地獄の火の中に投げ込む者たちである?」
クレイブ:「腹を切って死ぬべきである!」
ノーマン:「某おたくソングのフシで不穏な単語を並べるのはやめるんだ」
クレイブ:「核兵器(ヌカランチャー)!」
 
 元ネタがわからないと無闇に危険な発言をしているだけに見えるからやめるんだ。
 あちこちで小グループを形成し、エンジン音を聞きつけて追いかけてくる無謀なゾンビたちを回避しながら、トラックは「CHURCH OF THE ASCENSION」と書かれたアーチをくぐり抜ける。その先に、コンクリート製の塀に覆われた木造の質素な教会が見えた。
 駐車スペースにトラックを停め、三人は金属製の門へと近づく。一見したところ、教会は今回の騒動が起きる前とそう様子は変わっていないように感じた…塀の上に張り巡らされた有刺鉄線と、ライフルを手にした女性の立つ、急ごしらえの見張り台を除けば。
 
 
 
 
 
 
 トラックのエンジン音を聞きつけてか、教会から三人の男女が応対のために飛び出してきた。そのうちの一人は明らかに機嫌を悪くしており、不快そうな態度を隠そうともしていない。
 
男(アラン):「ガッデム!こいつら、車で来やがったのか!?くそったれのゾンビどもが押し寄せてくるぞ、まったく、リリー、こんな脳無しどもをわざわざ賓客として招くとはな!」
リリー:「よかった、無事に辿り着けたのね?」
アラン:「無事?無事とはな。彼らのうち一人はとても"無事"になんか見えやしないがね!」
 
 つばの広いレンジャー帽をかぶった歳かさの男は気を昂ぶらせ、羽ばたく鳥のように腕を激しく上下させる。一方、藤色のパーカーを着たブロンドの女性は、そんな男など隣にはいないような態度で愛想の良い笑みを向けてきた。
 大学生か…ひょっとしたら、ハイスクールの生徒かもしれない。少なくとも、二十歳を越えてはいないだろう。彼女が無線で会話したリリーに違いない、とノーマンは見当をつけた。
 続いてもう一人、赤いVネックのセーターを着た恰幅の良い男が一歩前へ進み出てきた。地元のレストランのオーナーか何かだろうか、というノーマンの根拠のない想像はすぐに否定されることになる。
 
男(ウィリアム牧師):「ようこそ、アセンション教会へ。私はウィリアム・マルロニー、この教会の牧師です。さあ、中に入って。怪我人の容態を見てみましょう、私には医療の心得があります」
クレイブ:「ハロー、牧師様。会えて嬉しいよ、治療と説法のサービスを同時に受けられることを期待してもいいのかな?こんな世の中を生きるには、ありがたいお言葉が必要だ」
ノーマン:「俺はノーマン・パトリック・ガルシアだ。車や電化製品、水道なんかの修理を請け負う便利屋で生計を立ててる。隣が女房のラムダ・ガルシア、そしてやたら口喧しい怪我人は友人のクレイブ・マクギヴァン。無線機で話したとおり、我々は北のタナー山地でキャンプ旅行に来ていたところを今回の騒動に巻き込まれた」
リリー:「お会いできて光栄だわ、ミスター・ノーマン。こういう状況で手に職があるというのは素晴らしいことね!少なくとも、この教会で仕事にあぶれることは無さそうよ。それと、私の隣にいるガニー(鬼軍曹)はアラン・ガンダーソン。彼はトランブルバレーの森林保護官なの」
 
 それはなんでもない人物紹介だったが、ノーマンはリリーが「森林保護官"だった"」、とあえて言わなかったことに気づいた。いつか世界が元通りになり、元の職に復帰できる希望を捨てないでいるのか、あるいはかつての文明的生活が過去のものとなってしまったことを認めたくないのか。それとも、森林保護官としての職務に未だ誇りや権威を縋っている(それは大いにありそうなことだ)アランに精一杯の気遣いを見せただけなのか。
 当のアランもリリーの配慮に気づかぬほど鈍感なわけではなかったが、それは彼の機嫌をなだめる役には立たなかったようだ。
 
 
 
 
 
 
アラン:「仲良しごっこがしたいなら勝手にするがいいさ、だがな!このアポカリプスは、そんなヌルい寄り合いが生き抜けるほど生易しいものではないんだ!まったく、リリー、貴様はあのくそったれな役立たずの兄よりも不愉快だぜ!」
リリー:「紳士的な忠告をどうもありがとう、アラン。けれどね、一つだけ言わせてもらうと、あなたにそんなことを言う権限なんてどこにもないのよ!あなたはこのコミュニティのリーダーか何かのつもりでいるかもしれないけど、あなたが二週間前までライフルを持って森の中で狩猟家やハイカーをいびり倒していたからといって、ここにいる全員が無条件にあなたに従うだろうなんて思わないことね!」
 
 それは中々に痛快な一撃だった。アランのような男に気後れすることなく振る舞えるのはたいした精神力だな、とノーマンは思う。
 我こそは生存者たちの指導役である、という振る舞いをアランが常日頃から見せているのは想像に難くなかったが、実際の意思決定や意見の取り纏めはリリーの役割なのだろうな、とノーマンは判断した。
 もちろん、周囲がゾンビ渦に呑まれている状況で、生存者たちの間に不和が生じていること自体はあまり歓迎できることではない。
 諸々の不安や懸念が渦巻くなかで、リリーが場を仕切りなおすように一つ咳払いをすると、ふたたび人好きのする笑みを浮かべて言った。
 
リリー:「さあ、来て頂戴。あなたたちを教会の案内ツアーへご招待いたします」
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/06/22 (Mon)02:11


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.2

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 レンジャーステーションを出たノーマンとクレイブは錆びついた金属製の梯子をのぼり、木製の骨組みに支えられた給水塔の上から周囲を見下ろした。
 
 
 
 
 
 
ノーマン:「あちこちにゾンビの姿が見えるが…生きてる人間の姿は見えないな」
クレイブ:「ゾンビに襲われて騒いだり、揉み合ったり、銃をぶっ放す音すら聞こえないってのは、あまり良い兆候じゃあないぜ。どこか、そう、ロッジの中に息を潜めて隠れてるか、さもなきゃ、みんな"死に損なっちまった"か…」
ノーマン:「俺たちがこの異常事態に気がついたのはつい最近だっていうのに、感染速度が早すぎないか?そもそも、感染経路すらよくわかってないんだ。ゾンビに噛まれて発症するのか、それとも空気感染の可能性があるのか…」
クレイブ:「怖いこと言うなよ…」
 
 レンジャーステーションと、この給水塔はちょうどタナー山地の中心近くにあり、ありのままの自然が残っている山脈地帯を除き、人為的な施設が集まるキャンプ場の周辺をぐるりと一望することができた。
 南側の林には色とりどりのテントが多数設置されており、ピクニックテーブルやバーベキュー用コンロがそれに混じっていた。どこかに自分たちが設置したテントもあるはずだ。
 北側には休憩所と公衆便所があり、その先に多数の山小屋が見えた。もし生存者が残っているとすれば、それらのどこかにじっと息を潜めて救助隊の到着を待っているに違いなかった。
 救助隊…警察か、軍隊か。
 レンジャーステーションに駐在している自然保護官はすでにここを離れている、とトーマスは言ったか?このキャンプ場にいる客の誰一人として警察に通報したり、救急車を呼んだりはしなかったのか?
 ときおり遠方から銃声や怒号のようなものは聞こえるが、パトカーのサイレンや、航空部隊の飛行音や、機甲部隊のキャタピラがアスファルトを揺らす音はついぞ聞こえる気配がない。ライフル分隊がゾンビ軍団に向けてカービン銃を一斉掃射する音すら耳に届かない。
 ここは本当にアメリカなのか?
 不穏な予感ばかりが胸中をよぎるなか、不意に爆音とも呼べる銃声がそう遠くない場所から聞こえてきた。キャンプサイトの近くの川沿いからだ。高低差があり、ここからでは様子が確認できなかった。
 
クレイブ:「なあ。いま、加納のブラックホークより派手な銃声が聞こえたんだが」
ノーマン:「うちの嫁かな」
クレイブ:「様子を見に行くか?生存者がそこにいるのは間違いない…ここのゾンビに銃を扱う知能がなければ、の話だが。それを確認する必要もある、セガ製の場合はちょっと厄介だ」
ノーマン:「ああ。なんたって四の字を返されるからな」
 
 二人はそそくさと給水塔の梯子を降り、木々の間に設置されたテントの前を通り過ぎて音の発生源へ向かう。
 途中、遭遇したゾンビをクレイドが咄嗟に背後から羽交い絞めにし、のけぞったゾンビの頭部にノーマンが鋭い回し蹴りをお見舞いする。
 
 
 
 
 
 
クレイド:「お見事!」
ノーマン:「ジャン=クロード・ヴァン・ダムみたいで格好良かったろう?」
   
 唐突なスーパー・ヴァンダミング・アクションはさておくとして、多少の怪我をものともせず崖を駆け下りて向かった先には、ゾンビの集団に襲われて助けを乞う女の姿が見えた。
 
 
 
 
 
 
女性(ラムダ):「助けてー、ノーマーン!」
ノーマン:「おう、待ってろ!」
クレイブ:「ちょっと待てい、アンタの嫁さん、なんでマクミラン対物ライフルなんか持ってんだよ!?」
ラムダ:「護身用だ。熊とかに襲われたら大変だからな」
クレイブ:「熊が相手なら.308で充分じゃねーかな…俺ですら.50口径なんてデスクローを狩るときにしか持ち出さないぜ」
ラムダ:「ゾンビ熊やゾンビヘラジカが相手でも一発だぜ!」
ノーマン:「動物や子供のゾンビは出てこないんじゃないか。色々とうるさい時勢だからな」
クレイブ:「そういう問題かね…?」
ノーマン:「それから一つ、朗報がある。どうやらゾンビは頭をぶち抜けば無力化できるようだ。たとえ.22LRであろうともな」
クレイブ:「アンタは嫁さんとは真逆の嗜好らしいや。.22LRをまともに戦闘で扱えるのは、大藪春彦の小説の主人公くらいのもんかと思ってたよ」
ノーマン:「基本的にアメリカ人は大口径銃で胴体の重心を狙えと教わるからな。俺の場合は一つの例外というわけだ」
 
 .22LRは安価で入門用に最適と言われているが、実際のところ、かなり気難しい口径でもある。弾薬と銃種の相性が顕著に表れる口径で、特定の銃で優れた精度を発揮する弾薬が、別の銃ではまるで使い物にならない、といったことが珍しくない。
 ノーマンがリボルバーを選んだのは、動作の確実性もさることながら、弾種の食わず嫌いをしないからだ。初速の低い弾薬の場合、セミオート式の銃ではフィーディング・トラブルを起こす要因になる。弾倉に装填したぶんだけでは足りないような状況で、常に銃に適した弾薬が手に入るとは限らない。
 ノーマンのリボルバーにはCCIスティンガーが装填されていた。銅めっきの施された高初速のホローポイント弾で、狩猟からレンジシューティングに至るまで幅広く使われている評価の高い弾種である。ミーアキャットの頭蓋を撃ち抜くのに最適なこの弾薬は、ゾンビハンティングにも有用らしい。
 
 
 
 
 
 
【ラムダ・ガルシア】……XEDRAと呼ばれる研究機関のもとで生み出された生体兵器。ゾンビパンデミック下の軍仮設司令部に留まっていたところをノーマンに連れ出され、ニューイングランドを脱出したのち彼と結婚。二児の母として主婦業に専念するかたわら、ときおり傭兵として紛争地帯へ出稼ぎに向かうことがある。かつては歴とした合衆国陸軍兵士だったらしいが、生体兵器としての改造を受ける以前の記憶を失っている。
 
クレイブ:「大食家っていう性格設定は、こういうサバイバル状況下ではわりと致命的な気がするんだよな」
ノーマン:「ニューイングランドでもシェルター暮らしでも一貫して持っていた特質だ、こればっかりは諦めるしかない」
ラムダ:「あたしのハイパーボデェーを動かすにはカロリーがいるんだ。腹が減っては良いクソはできぬ」
クレイブ:「それを言うなら、腹が…今なんつった?」
ラムダ:「クソができねぇ」
クライブ:「…なぁ、おい、ラティーノ。こんな面白い女、どこで引っ掛けたんだ?」
ノーマン:「軍の仮設司令部で立ち往生してたところを適当に言いくるめて連れ出したんだ」
ラムダ:「そんで、酔ってるところを襲われたから責任取ってもらったんだ。な?」
ノーマン:「うん」
クレイブ:「アンタさぁ…それ、俺が知ってる限りの法律に照らしあわせて言うと、誘拐と婦女暴行って言うんだぞ。犯罪だ、犯罪!」
ノーマン:「そうは言うけどな。おかげさまで俺は家事のできない大喰らいのウンコ製造機を養う破目になったんだ、むしろ俺のほうが被害者とさえ言える」
ラムダ:「不満か?」
ノーマン:「いや。かわいいから許す」
クレイブ:「ばっ…バカップル!」
 
 そんな、状況に対して緊張感のかけらもないやりとりをしながら、三人はレンジャーステーションへ戻る前にテントが多数設置されているキャンプサイトを探索する。ラムダの銃声を聞きつけたさい、素通りした場所だ。ひょっとしたら生存者が残っているかもしれない。望みは薄かったが。
 
 
 
 
 
 
 薪木のかわりに積まれた枯れ枝、ピクニックテーブルの周囲に散乱する飲食品の包装物、物盗りへの警戒を忘れたように放置された荷物の数々…
 まるで人だけが忽然と姿を消したような光景は、三人にとって実に見慣れたものであった。
 
クレイブ:「誰かいませんかー?誰もいませんねー?」
ノーマン:「あまり大声を立てるなよ。ゾンビに俺たちの存在を宣伝したいなら話は別だが」
クレイブ:「.50BMGの銃声よりはマシでしょうよ。知ってるか?マズルブレーキをつけた対物ライフルは車載機関銃よりよっぽど音が響くんだぜ」
ノーマン:「だとさ。ラムダ、聞いてるか?」
ラムダ:「なにが?」
クレイブ:「聞いてねぇじゃねーか!」
 
 しばらく周辺を歩き回り、生きている人間が一人もいないことを確認すると、三人の関心は生存者の捜索よりも武器や食料の調達に移った。
 率直に言って、事態を正確に把握できていない状況でのそうした行為は悪質な窃盗以外の何物でもなかったが、もとより三人は自分たちが正確な状況判断をしているなどという根拠のない思い上がりは除外していた。万が一にでも元の所有者に目撃された場合は開き直って謝罪するつもりでいた。それで事態が好転しないようなら実力行使だ。
 幾つかのテントを荒らしまわってから、クレイブはベッドロールの脇に放置されていたバックパックから一挺の散弾銃を発見した。銃身が不自然に短く、銃口の荒々しい切断跡に若干の錆が浮いている。
 
クレイブ:「もし司法機関が今も機能してるなら、俺はこいつの所有者を訴えなきゃならんな」
ノーマン:「所持自体が違法ってわけでもないがね。連邦政府に200ドル追加の税金を払う必要はあるが」
 
 いかにも素人仕事甚だしい杜撰な改造のベースとなったのは、ピストルグリップを装着したモスバーグ社製のマーベリックM88(軍や警察で使われているM500の廉価版)と思われた。本来であれば4発装填できるはずのチューブマガジンには2発しか入らず、外観上はこの箇所には一切の改造を施しているようには見えないにも関わらず、これは奇妙なことだった。バネがいかれているのかもしれない。
 
ノーマン:「とりあえず、ラムダはマクミランのかわりにこいつを持っておいたほうがいいな。ゾンビ狩りに対物ライフルは威力過剰だ、重過ぎるし弾もそうそう手に入らん」
ラムダ:「ちぇー。面白いのに」
クレイブ:「路上にM2を積んだHMMWVでも放置されてればな、撃ち放題なんだが」
 
 そんなやりとりをしながら、三人はレンジャーステーションへと戻った。
 入り口の扉を開けようとしたクレイブは、わずかに眉をひそめたあと、ドアノブにかける手を右手から左手に変え、肩から下げているHK416のグリップを握った。
 なにかがおかしかった。静かすぎる。
 ノーマンとアイコンタクトを交わしてから、クレイブはドアノブを回すと同時に体当たりで扉をぶち破るように開け、片手でHK416をかまえつつ室内に転がりこむ。そのあとに銃をかまえたノーマンとラムダが続いた。
 
 
 
 
 
 
 レンジャーステーション内部は悲惨極まりない光景と化していた。
 先刻まで負傷者の手当てにあたっていたはずのトーマスは肩から腹にかけて大きな引き裂き傷を負って倒れ、他の生存者…だった者たちも、見るも無残な死に様を晒している。
 いずれも死体は大きく損壊しているが、傷口を見る限り、刃物や工具を使ったというよりは大型獣に力任せに引き千切られたような有り様だった。
 
ラムダ:「昼寝の時間か?」
クレイブ:「本気で言ってんのか?…ちくしょう、仲間内で争ったって感じじゃあないな。銃や刃物を使った形跡はない。鈍器じゃこうはならねぇ。ゾンビにやられたか」
ノーマン:「それにしては妙だ。ここへ来る前のことを覚えてるか…ゾンビどもの食事風景を?連中は殺した人間の肉を食っていた。現代人の魂を忘れたのか、食事には結構な時間をかけていたはずだ。ところが、ここの死体はちょっと味見をしただけで放置されてるように見える」
クレイブ:「口に合わなかったんじゃないのか。近くに犯人がいないところを見ると、これをやらかした連中はだいぶ前に引き払ったようだな」
 
 ラムダとの合流と周辺の調査にそれほど長い時間をかけていたわけではなかったので、束の間目を離していた隙に彼らが全滅していたというのは、どうにも釈然としない思いがあった。
 窓やバリケードが破壊された形跡はなく、ドアを破られた様子もない。ひょっとしたら、負傷者がゾンビ化してかつての仲間を襲った結果なのかもしれなかった。そうだとしても、全員が死体となって床に転がっている違和感の説明にはならないが。
 
クレイブ:「ひょっとしたら…俺たちがまだ見てない、ただのゾンビとは違う"怪物"がいるのかもな…」
 
 そんな推測を口にしながら、クレイブはトーマスの身の回りを改めた。

ノーマン:「なにしてる、刑事ドラマの真似事か?」
クレイブ:「アンタは気づかなかったかもしれないが、ここからそう遠くない倉庫の近くに小型のトラックが停めてあった。給水塔の上からまわりを観察していたときに見つけたんだがね、ホトケさんたちがスペンサーズミルから徒歩でここまで来たんでなければ、そういうアシを使っていたはずだ…ほら」
 
 そう言って、クレイブはトーマスのズボンのポケットからイグニッションキーを取り出し、ノーマンに向かって放った。
 他に回収する価値のある所持品といえば、無線機くらいのものだった。おそらくは遠方の仲間と連絡を取り合うためのものだろう。
 銃器の類は発見できなかった。もともと持っていなかったのか、それとも何者かに持ち去られた後か…
 
ノーマン:「カネは持っていかなくていいのかい?」
クレイブ:「よせやい、ケツを拭く紙にもなりゃしないぜ。札は活版印刷といってだな…」
 
 冗談めかしてノーマンのほうを振り返ったまさにその瞬間、クレイブは何者かに首筋を掴まれた。それは損壊した肉体から肋骨を露出させ、それまで微動だにすることのなかったトーマスその人だった。
 
 
 
 
 
 
クレイブ:「ウワッ!こいつ、"死に損なって"やがる!」
ノーマン:「クレイブ!?」
クレイブ:「助けてくれ、振りほどけねぇ!えぇおい、旦那よ、勝手に物を盗んだのは悪かったよ!謝るから許してくれ、おーい!」
 
 組み伏せられた状態では小銃を扱うこともできず、悲鳴をあげるクレイブの脇腹にゾンビと化したトーマスが歯を突き立てる。迷彩服ごと肉を噛み千切る驚異的な咬合力に、クレイブは生命の危機を覚えた。
 ふたたびトーマスがクレイブに噛みつこうとした瞬間、その首が派手な出血を伴って床の上にゴロンと音を立てて転がる。ラムダが手にしたWakizashi(日本刀の模造品、たぶん商品名だろう)で一太刀のもとに切断されたのだった。
 
 
 
 
 
 
ノーマン:「おまえ、噛まれたのか!?」
クレイブ:「見りゃあわかんだろ…アンタ、橋を見かけたら"あっ、橋だ!"とか口に出すタイプだろ?馬鹿丸出しだからやめてくれよ、まったく…」
ノーマン:「せいぜい気をつけるよ。それよりも、ゾンビに噛まれたってのがどういう意味か、わかってないはずはないよな?往生際を悪くするな、一発で終わらせてやる」
 
 リボルバーの撃鉄を起こして神妙にこめかみを狙ってくるノーマンに、クレイブは猛烈な勢いで首を振りはじめた。
 
クレイブ:「おいおいおい、よせよ!まだ感染したと決まったわけじゃないぜ!?そりゃあ、俺が"そうなっちまった"ら、潔くパッと散らせて欲しいっていう気はある、ん、だけども」
ラムダ:「痛いのがイヤならあたしのマクミランで吹っ飛ばしてやってもいいぞ」
クレイブ:「おっかないこと言うなよ!ていうか、躊躇とかないわけ?やだもうこの夫婦」
 
 しばらくのあいだ、クレイブを殺すの殺さないのと問答をしたのち、いますぐにトドメは刺さないという結論に落ち着いた。ひとまず施設内に残っている物資を回収し、別の場所へ移動する必要がある。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/06/19 (Fri)22:33


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.1

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
「畜生、くそったれ!いったい何が起こってやがる!?」
 トランブル郡北東部、タナー山地の湖の岸辺で青い迷彩服を来た男がヤケクソな悲鳴をあげていた。男は余暇を利用してキャンプに訪れた観光客で、湖へは釣りに来ていたが、彼の声音は釣りのトラブルにしてはあまりに大袈裟で、危機感に満ちていた。
 迷彩男は数人のキャンプ客に襲われていたが、たんなる喧嘩やトラブルにしてはあまりに異質な光景だった。警官が使うような三段式の警棒で応戦する迷彩男に、キャンプ客たちは一切の動揺や躊躇を見せることなく掴みかかり、噛みつこうと大口を開けて迫る。
 そこへ、別の迷彩男…白黒の都市迷彩柄のフードジャケットを身につけた男が巨大な棒切れを持ってキャンプ客に飛びかかり、一切の手加減なしに頭部に向かってそれを振り下ろした。
 キャンプ客の頭がはじけ飛び、一面に血と脳と頭骨の破片が飛び散る。
 その後、青迷彩男と白迷彩男は協力して他のキャンプ客たちの頭を叩き割った。その行為自体に忌避感や抵抗はないらしく、どうやら彼らはこうした行動に慣れているらしい、ということがそれとなく察せられる。
 
 
 
 
 
 
青迷彩男(クレイブ):「なんてこった、グールだ!なんだってフェラル・グールがこんなところにいやがる!?」
白迷彩男(ノーマン):「なにを言ってる、それを言うならゾンビだろう?ニューイングランドで見かけたようなブロブ由来かはわからんが」
クレイブ:「いいや、グールだ」
ノーマン:「ゾンビだ」
クレイブ:「どっちだっていいさ…ところで、俺たちはキャンプに来てたんだよな?ゾンビ狩りじゃあなく?まったく、なんて休暇だよ!アンタとはアルルコの内戦以来だが、こんなクソ田舎のキャンプに誘われたかと思ったら、とんだトラブルに巻き込まれちまった!」
ノーマン:「俺に文句を言うなよ…それにしても、一応あの内戦で知り合った面子全員を招待したはずだが、まさか参加してくれたのがたった一人、それも一番付き合いが悪そうなやつだとは」
クレイブ:「勝手なイメージで語るなよ、俺はけっこう愛想が良いほうなんだぜ…どいつも忙しいのかね、スカルヘッドのサイボーグ坊やは絶対に参加するもんだと思ってたがな」
 
 
 
 
 
 
【ノーマン・パトリック・ガルシア】……ニューイングランド出身の便利屋。故郷でゾンビ・パンデミックに巻き込まれ、軍の仮設司令部で知り合った生体兵器の女性とともに脱出。のちに結婚して二児を儲け、プレッパーとして次の終末に備える傍ら、シェルターを建設したり、アルルコの内戦に傭兵として参加するなどの活躍を見せる。
 
クレイブ:「…所帯持ちのあんたの性格設定が一匹狼ってのはどうにも釈然としないんだが。ところであんた、武器は?そのへんで拾った棒切れ以外にって意味だが」
ノーマン:「.22口径のスナッブノーズが一挺だ。キャンピングの護身用だからな」
クレイブ:「予備の弾は?」
ノーマン:「持っているはずがないだろう…お前は?」
 
 
 
 
 
 
【クレイブ・マクギヴァン】……ワシントン出身の傭兵。Vault 101と呼ばれる地下核シェルター内で育ち、行方不明になった父親を探すために出奔。以降は傭兵として各地を転戦し、ノーマンと同じくアルルコの内戦にも参加している。またイルヴァと呼ばれる異世界に分身がいるらしいが、詳細は不明。
 
クレイブ:「俺はHK416の短縮型を持ってる」
ノーマン:「…お前はお前で、どうしてキャンプにそんなものを持ち込んでるんだ?」
クレイブ:「護身用だ。ここはアメリカだぜ?何が起きるかわからない、それに市民の武装権は法律で認められてる」
ノーマン:「アサルトウェポンの所持に関する州法や携帯規則をきちんと理解したうえでの発言ならいいんだがな。すぐ近くにレンジャーステーションがある、まずはそこへ向かうべきだろう。状況を確認する必要がある」
クレイブ:「それはいいんだけどよ。あんたの嫁さんはどうするんだ?まだテントの中に残ってるだろう」
 
 そもそも今回のキャンプ旅行はノーマンと、その妻ラムダの主催だった。
 二人の娘が友達との旅行で数日のあいだ帰ってこないため、そのあいだ家で暇を持て余すよりはキャンプにでも行こう、せっかくだから知り合いも誘って、という趣旨だった。けっきょく参加したのはクレイブ一人で、いまいち盛り上がりに欠けるなかでの今回のトラブルである。
 ラムダが釣りに同行しなかったのは、たんに短気で堪え性がなく釣りに向かない性格だったからだ。
 
ノーマン:「あいつなら平気だ。たかだかゾンビごときに殺されるようなヤワな女じゃない」
 
 二人は道中でまばらに遭遇するゾンビを相手にしながら、丘を登る小道を通ってレンジャーステーションへと向かう。
 
 
 
 
 
 
 "ナキータ低湿地・焚き火厳禁"、"キー・ロー・ナウ・キャンプ地…午後10時から午前7時までは営業時間外"、"レイクキャビン・ビーチ&ピクニックエリア。営業時間午前7時から午後10時まで"といった立て看板が並ぶ丘の上に到達したとき、二人はあたり一面に広がる血の海、人骨、食い散らかされた肉の破片といった悪趣味なオブジェに顔をしかめた。この凄惨な光景がゾンビどもの仕業であることに疑いの余地はない。すでに大量のハエが周囲に群がっており、より一層酸鼻を極める状態になっている。
 すぐ近くでは柱に追突して停止した観光バスが放置されており、フロントガラスを突き破ってボンネットまで飛び出した運転手の上半身がだらしなくぶら下がっていた。
 
クレイブ:「ゲロゲロ、だな。えらい光景だ」
ノーマン:「どうやら俺たちがノンビリ釣りを楽しんでいたあいだに、とんでもないことになっていたようだ。いつからだ?とにかく、レンジャーステーションの安全を確認しなければ」
 
 数人の死体が転がる駐車場を駆け抜け、二人はコテージ風の事務所の扉に手をかける。
 ガラス窓の向こう側では生え際の後退した歳かさの男の指示のもとで数人が作業にあたっており、すくなくともゾンビではない真っ当な人間が自分たち以外に存在していることをノーマンは確認した。
 鍵のかかっていないドアを開け(ゾンビにしてはあまりに文明的な所作だ)、ノーマンとクレイブは挨拶もそこそこに事態の確認を試みる。
 
 
 
 
 
 
 どうやら二人より先にレンジャーステーションを訪れていたグループのリーダー的存在らしい、トーマス・リッターと名乗る男は深刻な表情で語り始めた。
 
トーマス:「残念だが、本来この建物や周辺の治安を管理しているはずの自然保護官はすでに引き払っている。我々は生存者の確認と物資調達のためにスペンサーズミルから来たんだが、これほどまでに状態が悪化しているとは思っていなかった…ところで、君たちは軍人か?」
ノーマン:「いや、ただのキャンプ客だ。変わった私服なのは認めるが」
 
 スペンサーズミルはタナー山地から道を南下した先にある小さな街だ。トーマスの口ぶりからすると、おそらくはここと似たような有り様になっているであろうことは想像に難くない。
 
トーマス:「すまないが、このあたりに生存者が残っていないかどうか確認してきてもらえないか?裏手の給水塔から周辺の様子を観察できるはずだ」
クレイブ:「あんたは?」
トーマス:「負傷した仲間の手当てが必要なんだ。申し訳ないが、手が離せない」
 
 ノーマンがトーマスの背後をちらりと窺うと、憔悴しきった様子の女性と、腹部から血を流している男の姿が目に入った。おそらくはトーマスとともにスペンサーズミルからやってきた人たちだろう、いずれも外に出てゾンビを相手に立ち回れるような状態には見えなかった。
 彼らのためにお遣いクエストを引き受けてやる義理はどこにもなかったが、かといって、協力関係を断って何の目的もなく周囲を徘徊することがより得策であるとも思えなかった。
 
ノーマン:「わかった。ひとまずキャンプ場と、ロッジ周辺を捜索してみよう。それから、負傷者を連れて南へ移動だ」
トーマス:「それがいい。手当てに暫く時間がかかるから、君たちが捜索を終えるより先に我々がここを出て行くようなことはないはずだ」
ノーマン:「出かける前に、なにかしておいて欲しいことはあるか?」
トーマス:「いや、大丈夫だ。心遣いに感謝する」
 
 窓際へ移動し、ノーマンは乱雑に打ち付けられた木板の隙間から外の様子を窺う。
 周囲に見えるゾンビの姿はまばらであり、いますぐに死霊の大軍団がこの建物へ押し寄せてくるような事態にはならないだろうが、それでも、いったん集団の侵略を受ければ、あまり長くは保たないだろうということは容易に想像できた。
 
クレイブ:「その捜索ってのは俺も参加しなきゃならないんだよな?たぶん」
ノーマン:「いやいや、ここで留守番していても構わないよ。首に"私は役立たずです"という看板をぶら下げてじっと正座していることに耐えられるならね」
クレイブ:「言ってくれるよ、まったく」
 
 口ほどには嫌がっていない様子でクレイブは小銃の装弾を確認し、ノーマンのあとに続いてレンジャーステーションを出た。その背中はまさしく歴戦の勇士を思わせる風格で、自らを"ただのキャンプ客"と名乗った彼らの素性について、トーマスたちは首を捻らざるを得なかった。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。ATOM RPGのプレイ記の途中であり、Doom 2のMODであるTotal Chaosの攻略記事でも書こうか、などと言ってから三週間近くが経過したのちになぜか唐突にState of Decayのプレイ記など書き始めるムラっ気の多さよ。しかも2ではなく今更1のほう。まあだいたいいつも通りだ。ゲームプレイにあたっては有志の日本語化を導入しており、大変に快適な環境でのプレイが可能で非常にありがたい限りです。訳が怪しい部分(機械訳?)は原文を併記するという、あまり類をみない心遣いもグッドです。
 オリジナルキャラでの二次創作をやるにあたり、とりあえずステータス変更、メッシュの差し替えやテクスチャ改造なぞをやっておったのですが、本作はマテリアルの設定がいやに面倒で、たかだかリテクスチャにものすごく時間を取られるという始末。
 主人公二人のうちノーマンはCataclysm: DDAやShelteredのリプレイに登場しており、クレイブはFallout 3&New Vegasのリプレイに登場しております。また両者ともにJagged Alliance 2のリプレイにも登場。そのうちマトモに完結しているのがJA2だけだったりしますが…それぞれ時系列や世界観が滅茶苦茶ですが、そこはスターシステムだとかパラレルワールド的なアレで。なんとなく似たような経歴を辿ってきたんじゃないかなあ、的なフンワリした解釈で読んで頂ければ幸いです。
 今回のサブタイトルである"Yankee Oscar Sierra Echo"はYOSE(本来はYear One Survival Editionの略)のNATOフォネティックコード読みですが、えぇと、特に意味はないです。
 
 
 
 
 


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