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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)02:52
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2020/07/13 (Mon)18:10


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.9

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 教会の無線機にウィルカーソン兄弟から連絡があった。彼らに周波数を教えた覚えはないが、それは教会のメンバーが誰にも情報を知らせない秘密主義であることを意味するわけではない。ああいう連中が必要に応じて自らの望む情報を"善意の何者か"から手に入れる光景を想像するのは、さして難しいことではない。
 要請を無視することが必ずしも彼らとの敵対関係を招くわけではないだろうが、それでも、こういう状況で現在のトランブルバレーにおける武器の主要供給源とコネクションを断つことは躊躇われた…残念なことに、現在トランブルバレーの状況をコントロールしている(あるいは、コントロールしようと多少の努力をしている)コミュニティの多くは、市民の武装解除を望んでいるのだった。正気の沙汰とは思えなかった。
 もっとも、リリーはウィルカーソン兄弟との接触をあまり快く思っていないようだったが…
 このところ、生存者たちが正体不明の何者かから物資を強奪される、といったような事件が相次いでいるらしい。リリーはウィルカーソン兄弟の犯行を疑っていた。確信していると言い替えてもいい。
 もしそれが事実だとして、ノーマンとしてはむしろウィルカーソン兄弟を味方につけておくべきだと考えていた…明日を生き延びることすら難しい状況で、悪辣な犯罪者を敵に回すことが賢明な判断とは思えなかった。特に、リリーのように難病を抱えた娘を擁している状況では。
 
 
 
 
 
 
 ウィルカーソン兄弟が根城にしている農場の納屋までトラックを走らせたノーマンは、ヘッドライトに照らされた四人の人影を目にした。
 そのうち二人は言わずと知れたウィルカーソン兄弟の長兄ミッキーと次男のジョブだ。その傍らにいる男は酷く暴行を受けたようで、便所の配管から引きずり出されたような有り様で蹲っている。もう一人の女に見覚えはなかったが、おそらくウィルカーソン兄弟の"ビジネス"を手伝っているメンバーと思われた。
 
ミッキー:「よう、いつぞやは世話になったな。ちょいと、うちの客の世話をしてほしいんだがね」
ノーマン:「…配達の仕事だと聞いていたが」
ジョブ:「そうとも!ここにおわす、我らが友人を安全に家まで届けてやってくれないか?ゾンビに齧られたり、足を滑らせて崖から落っこちたりしないようにね」
 
 兄弟がわざとらしいパフォーマンスを交えるたび、傷ついた男…どうやら兄弟と取引をしていたらしい、サムという男が怯えた小動物のようにビクッと身体を震わせた。彼が兄弟のことを恐れているのは明白だった。
 彼がここへ到着する前に怪我を負ったのでなければ、何らかのトラブルを伴って兄弟の制裁を受けたのだろうということは容易に想像がつく。
 
ノーマン:「で、彼はなんで怪我なんかしているんだ?ここへ来る前にゾンビに齧られたり、足を滑らせて崖から落っこちでもしたのか?それとも、あんたがた二人のどちらかの服に鼻水でもすりつけたのかね?」
ジョブ:「全部ハズレだ。だってそうだろ、今言ったうちのどれかが正解なら、そこにいるお客さんは今頃生きちゃいない。何があったのかは、道々その御仁から聞きでもすればいいさ…それで、やってくれるかい?それとも、その哀れな男を徒歩で帰らせるかい?」
ノーマン:「どうせ運転して帰らなきゃいけないなら、どちらも手間はそれほど変わらないな」
 
 俺はタクシーのかわりか、あまり楽しい仕事ではないな、と思いながらノーマンはサムに肩を貸してやり、トラックの助手席に押し込む。
 運転席につく直前、そういえば、とノーマンはジョブに質問した。
 
ノーマン:「最近、生存者が回収した物資を運んでいる途中に襲われて荷物を奪われる事件が相次いでるらしいんだが。あんたがたの仕業じゃあないよな?」
ジョブ:「なぜそう思う?」
ノーマン:「怒らないで聞いてほしいが、このあたりでゾンビではなく生きた人間に襲われたと聞いたとき、真っ先にあんたがたの顔を思い浮かべないようにするにはかなりの努力を必要とする」
ジョブ:「なるほど?そいつは名の知れた実業家が被り得る、ありふれた風評被害として名誉の一種と受け取っておく…で、犯人は見つかっていないんだな?」
ノーマン:「残念ながら」
ミッキー:「いいかハナクソ、俺たちゃなにも、自分が聖人だなんて思っちゃいねぇぞ。谷での自分たちの評判についちゃあ、誰よりもよく知ってるんだ…だからこそ聞くんだがな。哀れな子羊どもが、俺たちを名指しで犯人呼ばわりしないのはなんでだ?」
ジョブ:「そういうことだ、若旦那。もし本当に俺たちが犯人なら、噂は俺たちの名前とともにあっという間に広まるだろうし、誰もそうすることに躊躇はしないだろう。俺たちは谷の生存者の情報能力を評価しているんだぜ」
ノーマン:「…それもそうか。すまない、野暮を言った」
ジョブ:「いいさ、よくある誤解だ。こっちでも情報を集めておくよ、何かわかったら真っ先にお宅のところのかわいいお嬢さんに知らせてやるぜ」
 
 その言葉に返事をかえすことなく、ノーマンはトラックを発進させた。
 
 
 
 
 
 
 ウィルカーソン兄弟の姿が視界から消えてほっとしたのか、サムは激痛に呻きながら深呼吸を繰り返すと、誰ともなく口を開いた。
 
サム:「痛た…ああ、くそっ。だいぶ酷くやられたな」
ノーマン:「それで、客人、あんたはなんでウィルカーソン兄弟に目をつけられたんだね?」
サム:「ただの取引だ。少しばかりこじれちまったが…どうも、彼らは俺の支払いが遅れていると感じたようでね。少し待てば返すアテはあったんだが、連中、お構いなしに俺を殴りはじめた」
 
 ノーマンの返事を待たずにサムはべらべらとお喋りを続けたが、ノーマンのほうは彼の話にそれほど興味を惹かれなかった。
 おおよそ、あっちで貸したり、こっちで借りたり、といったようなことを繰り返しているうちに泥沼に嵌まったのだろう。典型的な債務者ムーブだ。今回も、立て替えてくれるはずの友人が約束を反故にしたせいで支払えなくなった、というようなことがあったに違いない。
 
サム:「究極の取捨選択ってやつだよな。ゾンビどもの餌になるか、飢え死にするか、それともギャングどもに肋骨を折られるか?まったく…!」
 
 俺ならその三つより他の選択肢をえらぶが、とノーマンは内心で応じた。口には出さなかったが。
 やがてスペンサーズミル南部にある丘の上の一軒家に到着し、二人は車を降りた。その頃には夜が明けかけており、稜線から朝日がわずかに顔を覗かせている。
 玄関先まで行くと、一人の女性が戸を開けたまま立ちすくんでいるのが見えた。夜中のあいだずっとそこにいたのか、顔は青ざめ、目のまわりに暗い輪郭が影を落としている。
 
 
 
 
 
 
女性(アリス):「ちょっとあんた!夜中にこっそり出ていったと思ったら、こんな時間までどこほっつき歩いて…ねぇ、ちょっと、どうしたのよ、その怪我は!?」
サム:「ああ、何か物資を手に入れられないかと町を調べてたら、足を踏み外して建物の上から落ちちまってね。おい、そんな目で見るなよ、ゾンビに襲われたわけじゃないったら!そのとき、この親切な人がたまたま通りがかって、俺を助けてくれたんだよ」
ノーマン:「彼がゾンビに噛まれていないことは俺が保証するよ、このどんくさい旦那が梯子を踏み外して、太ったペンギンみたいに不恰好に落ちるさまをちゃんとこの目で見た」
アリス:「ええ、ええ、そうでしょうよ。そんなみっともない光景を見ちまったら、誰だって助けずにはおれないだろうからね」
 
 ノーマンのもとを離れる直前、サムは彼にだけ聞こえるよう小声で言った。
 
サム:「誰が太ったペンギンだって?とはいえ、俺の嘘に調子を合わせてくれて感謝するよ。できれば他の連中にも、俺がウィルカーソン兄弟と取引を持ったことについては黙っててくれないか?」
ノーマン:「任せろ。ゾンビに襲われるまでもなく大怪我したデブペンギンの伝説は俺が責任もって広めておく」
サム:「おまえー…!」
 
 毒づきながら小走りに家の中へ引っ込んでいくサム。
 その後姿を見届けてから、アリス…サムの女房か、それともゾンビ渦後に知り合った行きずりの仲なのかは知る由もない…はノーマンのほうを振り向くと、やれやれと首を振った。
 
アリス:「何があったのかはだいたい察しがついてるよ。迷惑かけちまったようだね」
ノーマン:「こんな状況でも人の心から善意が失われるわけではないという教えを説くのが俺の使命だからな」
アリス:「心にもないこと言うんじゃないよ。とにかく、うちのバカを助けてくれて感謝してるよ」
 
 レイディ、金にも弾にもならない礼をありがとうよ。
 心の中でそう吐き捨て、ノーマンはトラックの運転席に身体を沈めた。根っから、人助けをすることで心が洗われるような性分ではない。ただ、今回のことが何か今後の役に立つことを…何の益にもならないタダ働きでないことを祈るのみだった。
 
 
 

 
 
 
クレイブ:「あっちでもサム、こっちでもサム。あっちのサムは男で、こっちの女はサム。ややこしいことこの上ない、そして俺はハンサム…なんちゃって」
 
 ノーマンが教会へ戻るのとほぼ入れ違いで出発したクレイブは、くだらないことを言いながら町の郵便局を目指していた。
 サム…ついさっきノーマンが助けたデブペンギンではなく、アセンション教会のコミュニティのメンバー、ノーマンの前の料理担当だったサム・ホフマンが、単独で町の探索に出たことを聞き、クレイブは彼女を追っていたのである。
 なんでもアンディ・ピムズとかいう、教会の炊き出しにしょっちゅう飯をたかりに来ていた男が行方不明だとかで、彼の身を案じて捜索に出たとのことだったが…
 
 
 
 
 
 
 いまや窓口をたらい回しにする職員の影もなくなった郵便局の受付で、人影を探すサムの姿をクレイブは見つける。
 
クレイブ:「ヘーイ、サム!サム・フィッシャー!伊藤サム!女の子の一人歩きは感心しないぜぇー、せめてもう一人サムがいないとな。あるいは0.5人ぶん?サムの半分、すなわち、ハン・サムのこの俺様が」
サム:「うざっ!なんだい、診療所のベッドで寝てたときのほうが付き合いやすかったじゃないか!それで、わざわざあたしを探しに来たのかい?」
クレイブ:「まーね。うら若き乙女が乞食のジジイを探しに出たって聞いたもんで、いったい家族でも人質に取られてるんじゃないかと心配になってね」
サム:「余計なお世話だよ!町がこんな愉快な状況になって、教会に馴染みの顔が姿を見せなくなったってだけの理由で人を探すのがそんなにおかしいかい?」
クレイブ:「まーまー、ツノを引っ込めなさいな。手助けしようって言ってるのさ、この、ハン…」
サム:「人の生き死にがかかってんだ、冗談に付き合ってられるような気分じゃないね」
クレイブ:「…ごめん」
 
 クレイブとしてはサムの気を和らげるつもりだったが、どうも上手くいかなかったようだ。
 
クレイブ:「それで…アンディとかいう、骨法とか使いそうな名前のヤツはいったい何者なのさ?」
サム:「通風持ちで歯の抜けたアル中って以外に?アンタの言った通りさ、ただの乞食だよ。それともなにかい、医者や市長でもなけりゃあ、こんな状況で命を危険に晒して探す価値はないって言いたいのかい?」
クレイブ:「いや、まあ、あとはほら、個人的な恩人とか、家族とか、恋人とか…」
サム:「気色の悪いこと聞いてんじゃないよ!あのクソジジイには恩もないし、特別な関係でもない!それどころか、教会でアイツの面を見るたびに嫌気が差したもんさ!」
クレイブ:「教会で?えぇと、アンタは飯をもらう側じゃあないよな?炊き出しを手伝ってたのかい、いったい、どんな罰ゲームで?」
サム:「本ッ当に失礼なヤツだね、アンタ!あたしはずっとウィリアム牧師の手伝いをしてたんだ、罰ゲームでもなけりゃあ慈善活動なんかしそうにないって、そんなふうにアンタがあたしのことを考えるのは勝手だけどさ!」
クレイブ:「ごめんって!悪気はないんだ、いや、マジに!悪かったよ!」
 
 どうにもうまくないな、と、アンディの捜索を続けながらクレイブは頭を悩ませる。
 適度に相手の気を和ませるつもりが、的確に地雷を踏み抜いていることを自覚しつつ、これ以上何か言っても藪蛇になるだけだと判断し、努めて口を閉じることにした。
 近くの建物の捜索をはじめて二~三軒目だったか、二人は空き家の真ん中にラックサックが浮いているのを発見する。
 
 
 
 
 
 
サム:「なんだい、こりゃあ…?」
クレイブ:「そーいやあ、昨日まで誰かがここに住んでいたような気もするな。ゾンビに襲われて、死ぬか、命からがら物資を置いて逃げ出したかしたんだろう。…なんで宙に浮いてるのかは俺にもわからないけど」
 
 ついでに言うと、なんでボーンの一部が引っ張られてメッシュが伸びてるのかはわからないけど。
 せっかくだから頂いていこう、とクレイブはラックサックを回収し、アンディの捜索を続ける。哀れな老人の姿を発見したのは、その直後のことだった。
 
 
 
 
 
 
サム:「なんてこった、アンディ!」
クレイブ:「えぇと、ちょっと待って?このジイさん、ゾンビと見間違えるくらい汚いのか、それとも本当にゾンビになっちまったのか、俺には判断つかねぇんだけど!?」
サム:「こんなときにまで冗談言ってんじゃないよ!」
クレイブ:「今のは冗談じゃあねぇって!」
 
 騒ぎながらも、クレイブは手にしたライフル…HK416カービンの銃口をアンディの頭部に向ける。照準器越しに、正気を失ったアンディの凶悪な瞳がまっすぐに見返していた。
 発砲をためらうクレイブに、サムが叫ぶ!
 
サム:「なにしてんだ、撃て!」
クレイブ:「…アイアイ、サー」
 
 ザシュッ!
 木材を金属ブラシで擦ったような音とともに、サプレッサーから射出されたスチール弾芯のグリーンチップ弾頭がアンディ"だったもの"の頭蓋を破壊する。
 微動だにしなくなったアンディの亡骸を前に、サムは静かにつぶやく。
 
サム:「R.I.P(安らかに眠りな)、クソジジイ」
 
 その憎まれ口に、悪意や嫌悪の色はなく…
 黙ってその場から立ち去るサムをすぐには追わず、クレイブは老人の亡骸を一瞥してから、軍隊式の敬礼のポーズをとった。
 
クレイブ:「もしあの世で会うことがあったら、そんときは一緒に酒でも飲もうや。あっちじゃあ、二日酔いの心配もないだろうからな」
 
 もっとも、あんたが天国に行ったところで、俺が地獄行きを免れるとわかったもんじゃないが…
 いままで自分が犯してきた罪、奪い去った多くの命について思いを馳せつつ…クレイブはサムに続いて教会へ戻る道を辿りはじめた。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/07/10 (Fri)00:35


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.8

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
ノーマン:「どうだい、先生?」
ドク・ハンソン:「フム…傷の状態は良好で、このぶんなら熱もすぐに下がるだろう。ボーイ、君の友人は助かるよ、間違いなく」
 
 
 
 
 
 
 ウィルカーソン兄弟のもとを離れ、教会を訪れたドク・ハンソンは明らかに多忙であったにも関わらず、車中でとった僅かな睡眠のあと、熱心にクレイブの診察にあたっていた。
 その結果、アルルコの内戦で肩を並べて戦った戦友はゾンビ如きを相手に命を落とすことはなかったということが証明されたのだった。彼自身もゾンビになってしまうことがないのは言うに及ばず。
 ウィルカーソンの家で経験したこともあり、場合によってはクレイブもエリのように"処理"しなければならないことをノーマンは半ば覚悟していたが、その心配がなくなったいま、若干の肩の荷が下りたような気分だった。
 
ドク・ハンソン:「噛まれてからかなり時間が経っていたにも関わらず、ほとんど症状に進行がないまま完治する例はそう多くない。彼自身の精神力の賜物か、あるいは免疫系等が発達しているのかもしれないな」
クレイブ:「たぶん、FEVのおかげだろうな…へへっ。やあドク、お会いできて光栄だよ。診察後の御褒美はくれないのかい?例の、棒つきのアンパンマンキャンディさ」
ウィリアム牧師:「鎮痛剤が効いているのかな?」
ノーマン:「こいつはいつもこんな感じだよ。ありがとうドク、感謝してもしきれないよ」
ドク・ハンソン:「いいってことさ。こうやって、患者の笑顔を見れるのは何よりも喜ばしいことだからな」
 
(クレイブ…もとい、原作のエドはメインクエストの進行が遅いと本当に死亡してしまう。それがどのタイミングで行われるかははっきりとわかっておらず、プレイスルー次第ではかなり早い段階で死んでしまうため、プレイ記を書いているあいだにクレイブが死ぬのではないかと割と気が気でなかった。ていうかリアルの時間経過をゲーム進行に反映するのやめてくれよマジで…)
 
 
 

 
 
 
 かくして…
 
クレイブ:「ハッハァ、地獄の底から黄泉がえってきたぜ、ベイビー!伝説の傭兵、クレイブ・マクギヴァン様の復活だァーッ!」
 
 
 
 
 
 
ノーマン:「で…」
 
 容態が完全に回復したあと、物資の調達に出かけていたクレイブは教会へ戻ったあとで正座したまま説教を受ける破目になったのであった。
 
ノーマン:「あの車はトーマスが使っていたものだ。つまり、リッター家のものだ。リリーやジェイコブにとっては親の残した遺産のようなものだ。そのことはわかるな?」
クレイブ:「悪かったよ…」
ノーマン:「物資を回収中に襲ってきたゾンビの軍団を一掃するためにガスタンクを撃ち抜いたら、近くに停めてあったトラックごと吹っ飛んだだと?」
クレイブ:「本当にすまなかった」
 
 思えば、それは不幸な事故であった。
 
 
 

 
 
 
 また別の日、スペンサーズミルに駐留していた軍隊…おそらく、以前ラムダが接触したエリック軍曹の部隊と思われる…が生存者のグループと衝突を起こしたという情報をリリーが無線でキャッチし、クレイブが様子を見に行くことになった。
 現場に到着すると、立て篭もっていた家の前で武装解除され、両手を頭の上に組んだまま跪かされている生存者の姿がそこにあった。周囲を武装した軍人たちが厳めしい表情で睨みをきかせている。
 さて…
 
 
 
 
 
 
女(カレン):「私たちはただ、この最悪な状況のなかで必死に生き延びようとしただけよ!それなのに、生きるのに必要なことをしただけで殺そうとするわけ!?」
エリック軍曹:「どうやら我々の間には意見の不一致があるようだな。私の任務は厳戒態勢下で不法行為を行う者を取り締まることで、抵抗する場合は射殺も止む無しという命令を受けている。そして、君たちは抵抗をしたわけだ。つまり、どうなるかはわかるな?一度も警告を受けなかった、などという言い訳をしてくれるなよ」
クレイブ:「あのー…」
男(ブライソン):「頼む、俺たちには子供がいるんだ!俺たちがいなけりゃあ、子供が飢え死にしちまう!それを黙って見過ごせっていうのか!?」
エリック軍曹:「そのためなら不法行為も正当化されるというわけだ。素晴らしい育児方針だな」
クレイブ:「えーとですね…」
 
 どうにも爪弾きにされた状況のなかで、クレイブは戸惑いを覚えざるを得なかった。
 軍人が本来守るべき民間人を銃で脅している、という光景に対して…ではない。
 投降した民間人たちが、跪いた姿勢のまま宙に浮いているからだった。膝だけであんな跳躍を!
 オートセーブ専用でやり直しがきかないゲームなのに、シリアスなプレイ記を書いてるときに限ってこういう面白いバグを避け難いタイミングで起こすのはやめてくれねぇかな!?
 
エリック軍曹:「ハァ…まったく。いいだろう、今回だけは命を助けてやる。30秒数えるから、そのあいだに我々の前から消え失せろ」
ブライソン:「えっ!?でも…」
エリック軍曹:「29、28、27、26…」
 
 ゾンビだらけの町に水や食料も持たせず、丸腰のまま放り出そうというのか!?
 抗議の声をあげかける民間人に、エリック軍曹は一切の感情を排した表情でカウントダウンを開始する。途端、二人の民間人は脱兎の如く彼方へと走り去っていった。
 
エリック軍曹:「なんてこった。今度の件は、今までで一番の笑い話になるだろうな」
クレイブ:「まったくだよ」
エリック軍曹:「うん?おまえは…アセンション教会の連中か?お前たちはいつも余計なことに首を突っ込みたがるようだな。あの無法者たちを追いたいなら、好きにすればいい。せっかく生かしてやったんだ、ゾンビになられても困る。それでは弾の節約にならない」
 
 それだけ言って、面倒臭そうに手振りで追い払う仕草をするエリック軍曹を尻目に、クレイブは現場から立ち去った。いまのところ、わざわざ軍人を相手に諍いを起こすメリットはない。
 
クレイブ:「とまあ、そんな状況なんだが…どうするかね?」
リリー:「逃げた人たちを仲間に引き入れましょう。教会をゾンビの脅威から守るためにはもう少し人手が必要だし、それに、軍人が実際に何をやっているのか…話も聞きたいし」
クレイブ:「あの連中を仲間に?ハァ、またアランのおやじが癇癪を起こすぜ。あの御仁は頭数が増えることについてはネガティヴな思考を持っているようだからな」
 
 しばらく周辺の建物をチェックして回り、何人かのゾンビを撃ったり叩き殺したりしながら、クレイブは先の民間人が隠れている部屋へと足を踏み入れた。
 
カレン:「お願い、撃たないで!」
クレイブ:「おやおや、俺は君たちを撃たなけりゃならないのか?どんな理由があって?」
ブライソン:「君は…迷彩服を着ているが、さっきの軍人どもとは所属が違うようだな。何者なんだ?」
クレイブ:「あんたらと同じだよ、不法居住と略奪の常習犯ってところかな。アセンション教会に人が集まってるのは知ってるかい?俺は君たちに招待状を届けにきたんだぜ、もちろん、対価として幾らかの労働力を提供してもらう必要はあるが」
ブライソン:「そうか、いや、助かった!てっきり、俺たちはここで誰の助けも得られないまま野垂れ死ぬんだってことを本気で覚悟しはじめていたところだったんだ!」
 
 ブライソンは地元の葬儀屋、カレンは学生で、見たところエリック軍曹に話したような子供がいるようには見えなかったが、そもそも二人は夫婦ですらなかった。そのことについてクレイブは特に詮索するような質問はしなかった。咄嗟に嘘をつくというのは、誰でもやってしまうことだ。特に、自分の命がかかっている場合は。
 
 
 
 
 
 
クレイブ:「んで、あのお偉い軍人様がたは実際に何をやってるんだ?」
ブライソン:「詳しいことは俺たちにもわからない。連中は俺たちを表に引きずり出してから、防護服を身につけた連中を中に招いていた。なんだか、サンプルのようなものを収集しているみたいだったな。それから、俺には到底理解できないような専門的な話をベラベラとはじめた」
クレイブ:「なるほどね、そうやって一軒一軒、丁寧にチェックして回ってるわけだ。状況に即した行動とは言い難いがね…ともかく、教会は君らを歓迎するよ。たぶんな。歓迎されなかったら…まあ、生きてるだけ儲け物だと思ってくれ」
 
 建物から出て二人組を教会へ送ろうとしたとき、リリーから連絡が入った。
 
リリー:「クレイブ?緊急事態よ、ドク・ハンソンがゾンビに襲われてるっていう目撃情報があったの!」
クレイブ:「なんだって?場所は?」
リリー:「郊外にある共同墓地よ。教会の裏手にある…悪いけど、他のメンバーはみんな物資の収集やらで出払ってて、あなた以外に頼める人がいないの」
 
 ブライソンとカレンを教会に送り届け、そのまま共同墓地へ車で乗りつけるクレイブ。
 
 
 
 
 
 
クレイブ:「ジジイ、大丈夫かジジイ!?」
ドク・ハンソン:「おう、若いの!今なら特別にワシを助ける許可をくれてやってもいいぞ!」
クレイブ:「ちょっと待ってろジジイ、すぐに行くからなジジイ!」
 
 
 
 
 
 
 墓地のど真ん中でゾンビの集団に襲われるというホラー体験にも屈することなく、クレイブとドク・ハンソンは果敢に立ち向かい、これを撃破する。
 
クレイブ:「まったくジジイ、勘弁してくれよジジイ!車もなしにそう年中走り回ってたんじゃあ、いくらアンタが健脚だからって、そのうちゾンビに齧られてお陀仏だぜジジイ!いい加減、どっかに落ち着く気はないのかい?」
ドク・ハンソン:「すまんなボーイ、前にも言ったように、ワシゃあ特定の誰かのために働く気はないんだ。ただし、助けてくれた礼と言っちゃあ難だが、ワシが持ってる無線の周波数を教えてやろう。困ったことがあったら連絡してくるといい、ただし、便所の詰まりを直すなんぞという頼みは慎んでお断りするがな」
クレイブ:「それはいいがよ…だいたい、なんでこんな場所でゾンビに襲われてたんだ?どっちかで言やあ、医者よりも葬儀屋に縁のある場所だろうに」
 
 
 
 
 
 
ドク・ハンソン:「妻の墓参りだよ。だいぶ昔の話だがね、結果論で言やあ、こんな世の有り様を見ずに済んだんだから、余計な長生きをしなくて幸運だったと言うべきだろうな。あいつの心臓には刺激が強過ぎる」
クレイブ:「そうだな…」
ドク・ハンソン:「最近じゃあ、いよいよもってワシにお迎えが来るのもそう遠い先のことじゃあないという予感があるんだ。そんなとき、ここで妻に話しかけると気分が落ち着くんだよ」
クレイブ:「よせやい、ガラでもねぇ!いまアンタに死なれちゃあ、困る人間が山といるんだよ!もうちょい気を強く保って、長生きしてくれなくっちゃあ人類が滅びちまうぜ?」
ドク・ハンソン:「ハッハッ、年寄りは労るもんだぞ、ボーイ!そんなわけだから、ワシが死にそうだからといって、そのたびに態々助けてくれなくってもいいぞ。ただ、できれば…野垂れ死んだワシのみっともない亡骸をどっかで見つけたら、ここに…妻の隣に葬ってはくれんか?もちろん、"死に損なわない"よう、処理をしたうえでな」
クレイブ:「…ハァ。わかったよ、アンタは俺の恩人だ。そいつは治療費のかわりに俺が背負い込むべき義務だと思っておくぜ」
 
 せめて車で送ろう、というクレイブの提案を断り、ドク・ハンソンは墓地を立ち去った。
 並の若者では追いつけないような健脚ぶりを目で追いながら、クレイブはぽつりとつぶやいた。
 
クレイブ:「…ぶっ叩いても死にそうには見えないがな」
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/07/07 (Tue)19:04


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.7

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
リリー:「聞いてノーマン、やっとドク・ハンソンの追跡に成功したわ。どうやら彼、ウィルカーソン兄弟の誰かを診察しているみたいなの。患者が完全に回復するまで外に出れないよう、ほとんど軟禁状態らしいわ。まあ、相手があのロクデナシ兄弟であることを考えれば、そういう強引なやり口は不思議でもなんでもないけど」
 
 
 
 
 
 
 いまのところ、ここトランブルバレーでゾンビ化の治療ができるのはドク・ハンソンだけだ。クレイブを助けるために、なんとしても彼を教会に呼ぶ必要があった。
 
ノーマン:「俺は地元の人間じゃないから、そのウィルカーソン兄弟とかいう連中について何も知らないんだが。どういう連中なんだ?」
リリー:「一言で言えば、悪タレね。良からぬ噂の耐えない連中よ、町がゾンビだらけになってからは特にね。今はゾンビと戦うための武器や弾薬を売ってるんだけど、商品の出所は誰も知らないわ」
ノーマン:「ギャングか…油断のならない連中のようだな」
 
 ガンロッカーからマーリン983と、バックアップ用のリボルバーを取り出し、ノーマンはトーマスのトラックに乗ってウィルカーソン兄弟が根城にしている農場へと向かう。いざとなれば不良どもと一戦交えるつもりでいたが、ノーマンとしても、ゾンビのみならず人間とも争わなければならないような状況は可能な限り避けたかった。
 
 
 
 
 
 
男(ミッキー):「こんな夜中に何の用だ、クソバカヤロウ!客か?悪いが今日は店仕舞いだ、帰ってくれ!」
 
 半壊しかかった木造の母屋を正面に捉えたとき、玄関から男の罵声が聞こえた。
 こちらも事情が事情だ、帰れと言われて素直に引き返すこともできないので、ノーマンは不本意ながら男の声を無視し建物の近くにトラックを停めると、ライフルを担いでさっき声がしたほうに向かった。
 ズドン、銃声と同時にノーマンの足元に土煙がパッと舞い上がり、跳ねた土塊が顔にかかる。
 正面玄関に二人の男が立っていた。銃口から硝煙のたちのぼるライフルをかまえたニット帽の男が、不快感や殺意を隠そうともせずにまっすぐこちらを睨みつけていた。ウィルカーソン兄弟の長兄、ミッキーだ。
 
ミッキー:「俺はさっき、帰れと言ったよな?それを無視してバカ面晒しに来た理由を教えてもらおうか、テメエの皺のない脳味噌が地面にぶち撒けられる前にな!3秒だけチャンスをくれてやる!3、2、1…!」
ノーマン:「ドク・ハンソンを探している。俺の友人の治療のために、彼の協力が必要だ」
 
 トリガーに指のかかったライフルの銃口を向けられ、秒読みをされてもなお物怖じせずに要件を口にするノーマンに、ミッキーは不愉快そうに舌打ちしたあと、狙いをそっとノーマンの頭部から外した。
 
ミッキー:「ドクはいま、うちの末弟の面倒を見てる。悪いが他の医者をあたるんだな」
 
 そう言って、ミッキーは自らのジョークにクックッと笑い声をあげる。
 彼らがドク・ハンソンを拘束していること、ノーマンがわざわざ危険を犯してドク・ハンソンに会いに来たことを踏まえたうえでの発言だった。残念ながら、ドク・ハンソンの代役が務まるような医者はこのあたりにはいない。
 そのうち、ミッキーの傍らで沈黙を保っていた男…次男のジョブが、ミッキーの脇腹を小突いて言った。
 
ジョブ:「そのへんにしておけ、ミッキー。お客さん、悪いがこれは俺たちにとってもファミリーの命に関わることなんでね。予約の席が空くのを待ってもらうしか…なんだ、ありゃ」
 
 言葉の途中で、ジョブがノーマンを…否、ノーマンのさらに背後を指差す。
 ダークグリーンに染まった夜闇のなか、複数の赤い光が不規則にゆらめいていた。ゾンビの大群だ…どういうわけか、ゾンビどもは濁った瞳が赤く発光するのだった。変異の過程で発光酵素を体内合成する機能でも備えたのかもしれない。
 ノーマンが乗りつけてきたトラックのエンジン音に惹かれたか、それとも先刻のミッキーのライフルが立てた派手な銃声に反応したか。
 
ミッキー:「どえらい数のクソッタレどもが押し寄せてきてるじゃあねえか。今日はもう店仕舞いだと言ったろうが、このド畜生どもめ!」
ジョブ:「なあ、そこのあんた。お客さん、あの死人どもを土に還すのを手伝っちゃあくれないか?なに、悪いようにはしない。俺たちに恩を売っておくと、なにかと役に立つぞ?」
 
 
 
 
 
 
 ジョブの提案には考えさせられるものがあった。ドクを諦めて手ぶらで帰るにしろ、これだけ集まったゾンビたちを避けて退散するのは不可能だろう。
 悪党の生存の手助けをする、という点に関してはこのさい目を瞑るとして、彼らとともにゾンビの集団を退治するのは、至極合理的な判断だ…
 
ノーマン:「中に入れてもらえるか?」
ミッキー:「いいだろう、だが俺はお前を信用しちゃいない!俺は二階から狙撃で援護するが、お前は絶対に上にはあがってくるなよ!階段に足をかけただけでも撃ち殺してやるからな!」
ジョブ:「二階ではドクが弟のエリを診察してるんだ。ゾンビが二階へ上がるようなことは、なんとしても阻止しなけりゃあならん」
ノーマン:「承知した」
 
 待て、エリ…?
 リリーの兄ジェイコブを迎えに農場へ向かったとき、彼と一緒にいた男のことをノーマンは思い出した。たしか、エリという名前だったはずだ。ありふれた名前ではない、特に、生きている人間のほうが少ない現状では…
 農場での二人の会話を思い出す限り、リッター家の長兄と、たったいま病状に伏せっている末弟がツルんでいたことを彼らが歓迎するとは思えない。このことは自分の胸の内にしまっておこうとノーマンは思った。
 襲撃に備えて廃材からバリケードを構築しているとき、ジョブが幾つかのアルコール瓶をノーマンに手渡した。
 
ジョブ:「こいつを使え、手製の火炎瓶だ。俺は兄貴と違って優しいからな、あんたに役立たずのまま死んで欲しくはない。それと、必要ならロッカーから弾薬も持っていけ、ただし、無駄遣いするなよ」
ノーマン:「感謝する。まあ、とくと我が手練をご覧あれだ」
 
 一通り窓に木板を貼りつけ終わったとき、地面を揺るがすような咆哮が響いた。ジョブと顔を見合わせ、ノーマンは建物から一歩出て声の主を目で追う。
 
 
 
 
 
 
ノーマン:「なんだ、あれは…?」
 
 それは、ただの太った男のゾンビと言うにはあまりにも巨大すぎた。ゾンビ化の過程で何らかの突然変異を起こしたようにしか見えなかった…それが過去にアセンション教会のメンバーに目撃されており、"ジャガーノート"という仮称で呼ばれる個体であることをノーマンが知るのは少し後のことである。いまのところ、ノーマンとしてはこの巨大な怪物を"バイオスモトリ"と呼ぶのが適切であるように思えた。
 
ミッキー:「おいおいおい、なんだアイツは!?ミラー兄弟か?なあジョブ、あそこのデブ兄弟の誰かだと思うか?」
ジョブ:「知るか、俺が…あの風船ブラザーズは前から気に入らなかったが、公然と鉛弾をぶち込んでいいってんなら、喜んでその機会を利用してやろうじゃないか!」
 
 パン、パン、パン!
 ノーマンはマーリン983の速射で立て続けにジャガーノートの頭部を撃ち抜くが、他の多くのゾンビと違い、.22LRで脳に傷をつけられただけでは止まる気配がない。
 クソッ、こんなことなら、もっと火力の高い武器を用意してくるべきだった…!
 ジャガーノートが腰を落とし、タックルの姿勢を取ると同時にノーマンは玄関ポーチから飛び降りた。巨体の怪物はまるで砲弾のように轟然と突進を繰り出し、驚くべき速度で柱に追突した衝撃が建物全体を揺らした。ほとんど崩れかけの母屋がその一撃で倒壊しなかったのは奇跡と言うべきだろう。
 
ジョブ:「客人、火炎瓶だッ!」
 
 ジョブが叫ぶのとほぼ同時に、ノーマンはウィルカーソン兄弟特製のカクテルをジャガーノートに向かって放り投げた。
 
 
 
 
 
 
 炎に巻かれ呻き声をあげるジャガーノートの頭部に、ふたたびノーマンは銃弾を叩き込む。ポツポツと空いた弾痕からバーナーのように火が噴き出し、やがて弾け飛んだ目玉と鼻、口といった頭部のあらゆる穴から炎を吐き出しつつ、ジャガーノートはその場に倒れて微動だにしなくなった。
 
ミッキー:「やりやがった!」
ノーマン:「まだ来るぞ!」
 
 
 
 
 
 
 その後も火炎瓶と小口径ライフルを巧みに操り、ノーマンは建物の前に集結するゾンビを次々と片付けていく。
 やがて、周辺に展開する全てのゾンビの脅威を排除したとき…いかに悪名高いウィルカーソン兄弟といえど、ノーマンの腕前に舌を巻かずにはおれなかった。
 
ジョブ:「まるでボブ・ザ・ネイラーだな。ボルトアクションをあれだけ正確に速射できるやつを俺は見たことがない、それも実戦でだ!」
ノーマン:「褒めて頂いて光栄だ」
ジョブ:「よし、上にあがろう。今のあんたは、それを許すだけの信頼に値する…」
 
 ジョブに肩を叩かれ、ノーマンは二階へ上がる階段をのぼった。
 倒壊した壁から射す月明かりを受け、ベッドの上に横たわるエリ・ウィンカーソンの姿が見えた。農場で見かけたときと同じ貧相な服装で、その顔色は以前会ったときよりもさらに悪い。青白さを通り越して、死人のような土気色に変化していた。
 おそらく…農場からここへ戻るときに、無事では済まなかったのだ。農場で鳴らした爆竹だけでは、彼の命を助けるには不充分だったのだ。
 
 
 
 
 
 
ミッキー:「なぁ、先生よ。エリの具合はどんなもんだい、あとどれくらい寝てれば治るんだ?」
 
 エリが完治することを前提に話を進めるミッキーに、カウボーイハットをかぶった老人…ドク・ハンソンが力なく首を振った。
 
ドク・ハンソン:「すまんが、ボーイ、手遅れだ。彼はもう間もなく"変異"する。力を尽くしたんだが、今一歩及ばなかった…すまない」
ミッキー:「なんだと…?」
 
 軟禁状態にあったにしては、畏れも怒りもない親戚のような態度で淡々と事実を口にするドク・ハンソン。
 一方でミッキーの感情は爆発寸前であり、万が一ドクに危害を加えるようなら…とノーマンは静かにバックアップ用のリボルバーに手を伸ばしたが、さすがに癇癪の矛先を恩人にぶつけるほどミッキーは愚かではなかった。
 
ジョブ:「そんな、有り得ない…だって俺は、母さんに約束したんだ!エリの面倒は俺が最後まで見るって…!」
ミッキー:「先生よ、どうにもならねぇのか?せめて、このまま埋葬するってわけには…」
ドク・ハンソン:「駄目だ。土を掻き分けて地上に這い出してきたゾンビを、ワシは何度も見てきておる。ボーイ、大事な弟のそんな姿を見たいか?」
ミッキー:「畜生!だからって、俺の手で、エリを……!?」
ジョブ:「おい、おまえ、何をやってる」
 
 カチリ、リボルバーの撃鉄を起こしたノーマンを、ジョブが見咎める。
 
ノーマン:「俺が彼の面倒を見る」
ミッキー:「テメエが?ふざけてんのか?貴様なんぞに俺の弟を殺させてたまるか、えぇ、クソが!」
ノーマン:「俺の銃は.22口径だ。うまく撃てば、ほとんど外見からはわからない程度の傷で"死に損なう"のを防ぐことができる。ただ眠っているようにしか見えない程度の傷でな。そのあとで、あんたたちがしっかり埋葬してやればいい」
 
 ふたたびミッキーが突っかかろうとしたが、ジョブがそれを制した。
 たんに物事を素早く片付けるだとか、ゾンビ化を未然に防がねばならないという使命感以上に、ノーマンが純粋な親切心から処刑人の役割を買って出たことを理解しているのだ。
 
ミッキー:「畜生…!」
 
 近くにあった椅子を蹴り飛ばし、ミッキーは感情のやり場を失ったまま階下へと降りていく。それに続いてジョブと、ドク・ハンソンもノーマンに背を向けて去っていった。
 エリと二人きりになったノーマンは、僅かな時間ではあるが互いを知り合う時間を設けた若い男に対して、静かにつぶやいた。
 
ノーマン:「すまない」
 
 その謝罪が何に対してのものだったのか、ノーマン自身にもはっきりとはわからなかったが…それでも、何がしかの声をかけてやらずにはいられなかった。
 ゆっくりと銃口をエリの耳の穴にあてがい、確実に脳幹を破壊する軌道で銃弾が飛ぶことを確認してから、ノーマンは引き金をひいた。
 パン、爆竹がはぜたような音と、エアソフトガンのように軽い反動を伴い、エリの身体が一瞬だけビクリと痙攣する。耳の穴から血が逆流し、枕元をわずかに血で汚した。
 
 
 
 
 
 
 階下に下りると、ウィルカーソン兄弟にかわって待ち構えていたドク・ハンソンがノーマンに訊ねた。
 
ドク・ハンソン:「ところで、お若いの、あんた、ワシを探してここまで来たんだって?」
ノーマン:「ああ。俺の友人がゾンビに噛まれてしまってね、抗生物質で症状を抑えてはいるが、治療にはあんたの助けが必要だと仲間から聞いた」
ドク・ハンソン:「仲間?」
ノーマン:「アセンション教会」
ドク・ハンソン:「ああ、アランの小倅とリッター・ファミリーがいるところか。リリーは元気かね?トーマスは相変わらず人助けに多忙かな?」
ノーマン:「兄妹は元気だよ。ただ、トーマスはな…どういうわけか、善人は長生きできないものだ」
ドク・ハンソン:「そうか…トーマスがな。そんなことになるんじゃないかという気はしていた。ただなあ、やはり、見知った顔が亡くなるというのは、堪えるもんだよ。特に、ワシのような年寄りにはな」
ノーマン:「友人の治療を頼めるか?」
ドク・ハンソン:「車はあるんだろうな?いかにワシが健脚といっても、夜通しの診察のあとでマラソンをすると寿命が縮んじまうわい。快適なシートがあるなら、教会へ向かうまでのあいだ、睡眠をとる贅沢を許して欲しいのだがな」
ノーマン:「もちろん。教会には快適なベッドもある」
ドク・ハンソン:「快適?あれが?」
 
 その言葉に、思わずノーマンは苦笑した。こんな状況でもユーモアのセンスを失わないというのは素晴らしいことだ。ドク・ハンソンも、疲れた表情ではあったが気丈に笑みを浮かべてみせる。
 
ノーマン:「ところで、ウィルカーソン兄弟とはどういう関係なんだ?」
ドク・ハンソン:「どうも何も、ただの医者と患者だよ。あんな連中でも、やっぱり人の子さ。身内に対する思いは、他の人間となんら変わるところはない」

 おそらくは悪党も人の子、というようなことを言いたかったのだろうが、ノーマンとしては、その言葉には素直に賛同しかねた。エリを思いやる感情は本物だったにせよ、そのことと、彼らにまつわる悪評については切り分けて考える必要があると思っていた。
 とはいえ、そのことをわざわざ老医師に言って聞かせる必要はないだろうが。
 トラックに乗り込み、助手席についたドク・ハンソンがきっちりシートベルトを締めるのを確認すると、ノーマンはアクセルを踏み込んだ。空がすでに明るくなりはじめている。
 ウィルカーソン兄弟のいる建物が見えなくなったとき、すでにドク・ハンソンは大きないびきをかいて眠りに落ちていた。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/07/04 (Sat)02:31


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.6

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
ノーマン:「あいつで大丈夫かなー…?」
リリー:「ごめんなさい、あなたの奥さんは従軍経験があるって聞いたものだから。軍人と交渉するなら最適な人選だと思ったんだけど…」
 
 普段は冷静な態度を崩さないノーマンが頭を抱える光景に、リリーも思わず動揺してしまう。
 きっかけはアランがヘリから降下する陸軍兵士たちの姿を目撃したことだった。
 どうやら軍隊はトランブルバレー西部のフェアフィールドに野営地を設置したらしく、ときおりスペンサーズミル近郊で活動している姿も目撃されている。
 はじめはリリーが無線機を使って交信を試みたが、残念ながら軍隊からの応答はなかった。
 現在、スペンサーズミルにある一軒家で分隊規模の兵士たちが何らかの活動をしているという報告を受け、彼らと接触すべく人員を派遣したのだが…それが他ならぬラムダなのがノーマンの頭痛の種となっていた。
 ノーマン曰く、身体能力だけが取り得で知能が幼児並のラムダでは現役の軍人を相手にトラブルを起こす可能性が非常に高く、そもそも、彼女が軍人であったという事実は、生体兵器として改造され記憶を失う以前のことだ…
 
 
 

 
 
 
 
 
 
軍人(エリック軍曹):「…まさか、シドニー・ランバート少尉?」
ラムダ:「んー?なんだ、オマエ。あたしの知り合いか?」
エリック軍曹:「いや、人違いか?それにしては、あまりに似すぎている…性格以外は」
 
 ノーマンの心配を余所に、これといって警戒心を持たないままOCP迷彩姿の軍人たちに近づいたラムダは、建物の入り口で警戒していた下士官…エリック・タン軍曹の言葉に眉をひそめた。
 一方のエリック軍曹もラムダの存在に戸惑いを覚えているようで、その正体を誰何しつつも、極めて慎重な口ぶりで話を進めた。
 
エリック軍曹:「思い過ごしか?まあ、いい。親切から忠告しておくが、現在トランブルバレーには強制隔離命令が発令されている。すなわち、"住民は自宅に鍵をかけて外出はするな"だ。もし他人の家や公共施設を"不法占拠"していたり、無断で他人の財産を持ち出すような"略奪行為"を働くような連中がいたら、我々はそれを驚異目標として銃殺しなければならない」
ラムダ:「なんでだ?いつまで?」
エリック軍曹:「なぜ?それは、この郡の住民はすべて"潜在的な保菌者"だからだ。我々が隔離・抑制された住民たちを順番に識別するまで、勝手な真似をされては困る。いつまで?それは俺にもわからん。ご立派な科学者様たちが原因の究明とワクチンの開発を終えるまで、それが一週間後か、半年後か、十年後になるかは不明だ」
ラムダ:「食べ物がなくなったらどうすればいい?ずっと家にいたら、物がすぐに無くなっちまうぞ?食い物と、弾と、薬と、資材と、あとガソリンとか色々なんか」
エリック軍曹:「俺が知るか。いいか、俺だって好きでこんなことをしてるわけじゃない。そういう命令なんだ、あんたが本当にランバート少尉なら、誰よりもそのことをよく理解していると思うが…」
ラムダ:「その、ランバート少尉ってのはなんなんだよ?馴れ馴れしいぞ、おまえ」
エリック軍曹:「本当に別人なのか…?ともかく、あんたは今すぐにここから離れたほうがいい。陸軍の中には、まだあんたのことを恨んでる連中が沢山いる」
ラムダ:「…… …… …?」
 
 エリック軍曹に追い払われ、ラムダはその場をあとにした。
 教会に戻り、リリーとノーマンの待つ聖堂へと向かう。彼女たちは心配そうな表情を浮かべていたが、ラムダが傷を負っていたり、身体のどこにも風穴を空けることなく戻ってきたことに安堵したようだ。
 あるいは、軍人を惨殺した返り血を浴びていなかったことも朗報だった。
 
リリー:「おかえりなさい!どうだった?彼らは私たちを救出することについて、何か計画を話してくれた?」
ラムダ:「んー…たぶん、あいつらにあたしたちを助ける気はないと思うぞ?」
ノーマン:「どういうことだ?」
ラムダ:「えーと、強制隔離で、外出禁止だ。不法占拠や略奪は脅威目標で銃殺だ。それが任務だと言ってた」
 
 たどたどしく語るラムダの言葉に、リリーとノーマンは顔を見合わせる。
 
ノーマン:「なあ、その、外出禁止ってのが、家に鍵をかけて一歩も出るなって意味なら…不法占拠や、略奪行為を働く脅威目標っていうのは、ひょっとして俺たちのような連中のことを言ってるんじゃないか?」
リリー:「まさか!だって、それじゃあ…」
ラムダ:「食い物が足りなくなるって言ったら、そんなの知らないってさ」
リリー:「嘘でしょう…?」
ラムダ:「あとは、科学者がチンチン…チクワ…チクワクチン…」
ノーマン:「ワクチン開発?だが、それが今日明日中に完了して量産体制が整い、すぐにでもこの混乱が収まるのを期待することはできないだろうな。律儀に外出禁止令なんか守ってたら、そんなものが完成する前にお陀仏だ」
ラムダ:「あと、あいつ…なんか、あたしのこと知ってるみたいだった。…ヤな感じだ」
リリー:「知り合い…昔の?でもたしか、あなたは過去の記憶がないって、ノーマンから聞いたんだけど。それって、どうなの?不安とか感じない?自分の過去を知りたいとか思うものじゃないの?」
ラムダ:「べっつにー?あたしは今の自分が大好きだからな!過去なんて必要じゃないのさ!疲れたから、寝る!」
 
 ヤケクソ気味にそう言い散らしてから、ラムダはライフルをロッカーに預けて大股で寝室へと向かっていった。
 彼女の態度に釈然としない感覚を覚えるリリーに、ノーマンが声のトーンを落として言った。
 
ノーマン:「あいつは政府が抱える極秘研究の実験台だった。頭がパーなのもその影響だ。だが…どうも、彼女は実験が危険なものだとわかったうえで、自分から志願したようなんだ。まともな経歴の人間なら、そんなことは思いつきもしないだろう。加えて、彼女は自分の過去を知ることを本能的に避けてるように見える」
リリー:「過去に何かあったってこと…?」
ノーマン:「たぶんな。繊細な問題だから、なるべく、あいつに過去の話は振らないでやってくれないか?態度にこそ出さないが、娘たちと離れてるせいで、少し情緒不安定になっている」
リリー:「わかったわ。それにしても、軍隊がこの町に駐留しているのに、彼らの助けをあてにできないなんて…それどころか、私たちにとっては敵になる可能性もあるのよね?」
ノーマン:「あまり考えたくはないことだが。それが軍の総意か、それとも一部の部隊が愚連隊と化して勝手に動いているのかという問題もある。判断を早まるべきじゃないが、それでも、連中がヘリコプターに生存者を収容して安全な場所へ連れていってくれる、なんて幻想には期待しないほうがいいだろうな」
 
 二人の間に重苦しい空気がのしかかった。
 冷静な態度を崩さないよう振る舞っているとはいえ、ノーマン自身もこの状況に苛立ちを感じていないといえば嘘になる。
 軍の命令系統が合理性を欠いているのはいまさら驚くに値しないが、それでも、こうした極限状況下で生ける屍だけでなく、正規の訓練を受けたライフル兵まで相手にするのは御免こうむりたかった。
 そのとき、無線機のスピーカから雑音混じりに若い男の声が聞こえてきた。
 
男(ジェイコブ):「リリー?聞いてたら応答してくれ、ちょっとまずいことになった」
リリー:「兄さん!?いままで連絡もよこさずにどこへ行ってたのよ!?」
ジェイコブ:「相変わらずお前の声は脳に響くな、我が最愛の妹よ。説教なら後で幾らでも聞くし、謝罪が必要ならトン単位で用意しておくから、とりあえず誰か助けを寄越してくれないか?できれば、アラン以外で」
リリー:「はぁ…それで、場所は?」
ジェイコブ:「ファームランドの農場だ。納屋、えぇと、なんて名前だっけ?マクレディの農場の向かいだ」
リリー:「何があったの?」
ジェイコブ:「屋根の上から周辺の観察をしてたんだが、降りるとき着地に失敗して足を挫いちまってね。おまけに、ゾンビどもがこっちへ向かいつつある。なるべく早く助けが来てくれるとありがたい」
 
 こんな状況で単独行動をしていたにしては随分と殊勝な態度だが、ともかく、リリーは安堵と苛立ちの入り混じった表情でほっと息を吐いた。
 
リリー:「よかった。そんなに遠くないわ」
ノーマン:「君のろくでなしの兄上かい?」
リリー:「ええ。まったく、あいつー…他人の迷惑なんか、これっぽっちも考えてないんだから!悪いけど、迎えに行ってあげてくれる?ついでに、私のかわりに一発殴っておいてもらえると嬉しいんだけど」
ノーマン:「最後の提案は慎んで遠慮しておこう。君自身が兄上のことをどう思っていようと、首が捻じ曲がった状態で対面することを望んではいないだろうからね」
 
 ノーマンのジョークに、リリーはにやりと笑みを浮かべた。とりもなおさず、ノーマンの口から仕事の公平性や失敗の可能性、ジェイコブの人格について否定的な言葉が一切出なかったことが彼女を安心させていた。
 リボルバーの装弾と予備弾の携帯を確認し、ノーマンはトーマスのトラックに乗り込む。
 
 
 
 
 
 
 ノーマンが目的の農場に辿り着いたのと、納屋から悲鳴があがるのはほぼ同時だった。
 慌てて降車し、ノーマンは二人の若い男に群がるゾンビの集団に向かって殺人的な飛び後ろ回し蹴りを放つ。
 
 
 
 
 
 
 銃を使わず素手とナイフで戦う救援者の乱入に、ジェイコブともう一人の男はかなり面食らったようだ。どうにか三人で周辺のゾンビを一掃することに成功したが、窓の外を見ると、遠方からさらに農場を目指して練り歩いてくるゾンビの一団が確認できる。
 
ジェイコブ:「びっくりしたよ。誰だって、ゾンビ映画に唐突にカンフーマスターが出てくるとは思わないもんな」
ノーマン:「人を驚かせることについては定評があってね。君はジェイコブだな、リリーの兄の?随分と変わった友人がいるんだな」
 
 そう言って、ノーマンはジェイコブの同行者をちらと見やった。
 左腕に髑髏のタトゥーを掘った、逞しい身体つきの男は幾分顔色が悪く、くたびれて汚れが目立つ白のタンクトップにボトムスというみすぼらしい格好とあわせ、農家というよりヤク中のロック・ミュージシャンか何かに見えた。
 彼がトランブルバレーでも悪名高いウィルカーソン兄弟の末弟であるとは、この時点でのノーマンには知り得るはずもない。
 
 
 
 
 
 
ノーマン:「それで、彼も教会に来るのかな?」
 
 イエス、と言いかけたジェイコブを、エリ・ウィルカーソンが制した。
 
男(エリ):「残念だが、俺は君と一緒に行くことはできない」
ジェイコブ:「何を言ってるんだ?もう話は済んだだろう、俺は君との付き合いを恥ずかしいものだと思ったことはない!」
エリ:「そんなことを言ってるんじゃない、俺は家族のところへ戻らなくては!ジョブはこのことを快く思わないだろうし…君がなんと言おうと、兄貴たちは俺の家族なんだよ。見捨てるような真似はできない」
ジェイコブ:「だけどな…車は一台しかないんだぜ」
エリ:「そして、君は足を怪我してる。心配するなよ、俺にはこの健康的な身体と、ゾンビどもの頭をかち割るのに最適なビッグサイズのレンチがあるんだ」
 
 それだけ言うと、エリはジェイコブの静止も聞かずに農場の外に飛び出していってしまった。
 
ノーマン:「あのままだとゾンビに食われるぞ」
ジェイコブ:「なんて無謀なことを…仕方ない、棚から爆竹を取ってきてもらえないか?本来は害獣を追い払うためのものだが、ゾンビを誘き寄せるのにも使えるんだ。エリが走っていった道の反対側でそいつを派手に鳴らせば、多少は彼の助けになるだろう」
 
 
 
 
 
 
 納屋の棚から爆竹を一掴み取り出したノーマンは、蓋をすこしだけ開けて導火線を引っ張り出すと、ライターで火をつけて箱ごと放り投げた。
 ヒュー、パチパチパチ、という、中国でお祭りをやっているような音が響き、周辺にいたゾンビたちが一斉に音のしたほうを振り向く。
 
ノーマン:「これが君の友達にとって少しは役に立つかな?」
ジェイコブ:「上出来だ。さあ、俺たちもズラかろう。わざわざ引き寄せたゾンビどもの相手をする必要はない」
 
 ノーマンは足を引きずるジェイコブに肩を貸してやり、トラックの荷台に放り込む。
 
 
 
 
 
 
ジェイコブ:「痛て…もう少し優しくしてくれよ、俺は巻き藁じゃないんだぜ?ところで、君と会うのは初めてだと思うんだが」
ノーマン:「先日から教会に新しく厄介になることになったノーマンだ。そのうち、俺の嫁と友人も紹介するよ。といっても、友人のほうはゾンビに噛まれて半死半生の有り様だが」
ジェイコブ:「あまり有り難くないニュースをありがとうよ。ところで、俺は君に礼を言うべきだろうな?」
ノーマン:「そうだな。そろそろ、俺は君が礼節を知らないクソ野郎だと思いはじめていたところだ」
ジェイコブ:「悪かったよ。ただなあ、ゾンビに襲われるってだけでも最悪なのに、妹の説教まで待ってることを考えると、気が滅入るのもわかるだろ?」
ノーマン:「足の怪我は大丈夫なのか?」
ジェイコブ:「ああ、骨折はしてないと思うんだが。一日か二日休んだら動けるようになる、と思いたいね」
 
 
 
 
 
 
 教会に戻ったあと、ジェイコブを待っていたのはリリーの叱責だった。それは誰にとっても予測された展開だった。
 
リリー:「いったい何を考えてるの!?町がゾンビだらけの状況で、一人で出歩くのがどれだけ危険か、知らないはずがないでしょうに!」
ジェイコブ:「帰ったら幾らでも説教を聞くと言ったが、少しばかり執行猶予をくれないか?足を怪我しているときに、誠意のある謝罪をするのは難しいんだよ」
リリー:「人の気も知らずに、よくもそんなことが言えるわね!いったい、私がどれだけ兄さんのことを心配したか…!」
ジェイコブ:「心配?そりゃそうだろうとも、大切なファッキン・ブラザーだもんな?ところで、父さんは帰ってきたのかい?愛するパピーの文句も聞いてやらないとな」
リリー:「父さんは死んだわ!」
 
 挑むような目つきで叩きつけるように言い放つリリー。
 その瞬間にジェイコブの顔から血の気が失われ、表面上のうわついた態度が引っ込む。と同時に、リリーの言う"どれだけ心配したか"という言葉の持つ意味が、ようやくジェコブにも理解できた。
 父の訃報を知ったあとで、行方不明の兄の身をどれだけ案じたか…さすがのジェイコブも、リリーの心中を察して自らの迂闊さを呪わずにはおれなかった。
 
ジェイコブ:「嘘だろ…?」
リリー:「父さんはキャンプ場に生存者がいないか確認しに行って、怪我人をゾンビから庇って死んだのよ!この、ノーマンは…父の手伝いをしていて、教会に来てからも偵察に出たり、私のための薬を取りに危険な仕事を進んで引き受けてくれたの!それなのに、あなたは……っ!」
ジェイコブ:「悪かったよ!すまない、俺が悪かった…!」
 
 リリーの罵倒は最後のほうになると言葉にならず、赤みのさす頬に大粒の涙がこぼれおちた。
 そんな彼女を抱きしめ、ジェイコブも涙を流す。父を失った悲しみと、妹に迷惑をかけたことに対する強い自責の念からだ。そのことが、普段は道化た態度を崩さない彼が本質的にはトーマスやリリーと同じく利他的で責任感の強い性格であることをノーマンに伝えた。
 近況を知らせるリリーの言葉は、必ずしも正確なものではなかったが…あえて、そのことを指摘する必要はないだろう。
 ともかく、依然として教会の状況は厳しいままだ。クレイブが回復できるかどうかもわからない。兄妹の涙の和解が、今後の活動のうえで生じたかもしれないわだかまりを消し去ってくれたことをノーマンは祈った。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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2020/07/01 (Wed)01:00


 
 
 
 
 

State of Decay: YOSE

【 Yankee Oscar Sierra Echo 】

Part.5

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
リリー:「どう、何か見える?」
ノーマン:「町はずれに動物病院が見えるな。おそらく人間に使える医薬品もあるだろう、ラベルに何と書かれているかは知らないが…強盗に押し入られた形跡もない」
 
 
 
 
 
 
 マクミランのかわりに改造型のマーリン983を持たせたラムダを歩哨に残し、ノーマンはスワイン&ボバイン(豚と牛)というふざけた名前のレストランの裏手にある電波塔にのぼってスペンサーズミル周辺の様子を観察していた。
 資材が置かれたまま放置されている建設現場、郵便局、ガンショップ…ひとまず調べる価値のありそうな施設を脳内のチェックリストにピックアップしていく。
 それにしても、病院や診療所のたぐいが一切存在しないのは驚くほかなかった。怪我をしたキャンプ客はどこで治療を受ければいいというのか?町に生きた人間の気配がなく、ほとんどがゾンビ化してしまったのはあまり驚くべきことではないかもしれない。
 耳掛け型のイヤホンマイクを通し、短距離用のトランシーバーでリリーと会話を交わすノーマン。
 
ノーマン:「いまさら聞くべきことではないかもしれないが、君たちはどうして教会を拠点にしようと考えたんだ?」
リリー:「最初から"狙い"があったわけじゃないわ。自宅に立て篭もるという選択肢も、もちろん、あった。ただ、こういう世界の終わりっていう状況で、私たちが向かうべき場所に思えたのよね…」
 
 ここで言う"私たち"とは、おそらく教会にいた雑多な顔ぶれではなく、トーマスを含む彼女自身の家族を指しているのだろう、とノーマンは察した。
 トーマスの本業は大工で、教会に施された対ゾンビ用の細工の数々は彼が施したものだということだった。なぜ教会ではなく自宅でそれをやらなかったのか、という疑問が解けた形になる。
 実際のところ、リリー自身が語ったあやふやな動機よりも、自分たち家族だけでなく近隣住民の安全をも守るための行動だったのではないか、という気がしていた。レンジャーステーションで負傷者の治療にあたっていたトーマスの利他的な姿勢を、リリーも立派に受け継いでいるように見える。
 素直にそう言わないのは、照れ隠しか、それとも上手く言語化できないだけか。自分の思いを言葉に直して伝えるというのは、それ自体に相応の才能が必要になる。
 
リリー:「私たちが教会に集まって情報収集をはじめてからも、多くの人の出入りがあったわ。こんな状況でも自分なら事態を好転させられる、そう思って出て行った人はすべて帰ってこなかった…最終的に鍋の底に残ったのが今の私たちというわけよ」
ノーマン:「たしか、父のほかに兄がいると聞いたが」
リリー:「兄はろくでなしよ」
 
 こころなしか、その言葉はリリー自身が意識していたよりも強い口調となって表れたようにノーマンには聞こえた。
 そのことに気づいたのか、リリーはすぐに説明をつけ足した。
 
リリー:「なんというか、その、兄が不真面目だという意味ではないの。兄なりにこの状況に立ち向かって、みんなのためになろうと努力はしているのよ。ただ、それが必ずしも合理的ではなかったり、そのときの気分で考えが変わったりするの。わかるでしょ」
ノーマン:「そういうのが役に立つこともある」
リリー:「だといいけど…それと、ねえ、そこから動物病院へ向かえる?いま、アランとサムを応援に向かわせたわ。人数が多いほうが、ゾンビと戦ったり、より多くの荷物を持ち帰るのに有利でしょ?」
ノーマン:「あの鬼軍曹も?」
リリー:「いまのところ、教会の警備はあなたの奥さんで手が足りてるしね。それにアランを教会に残したら、傷を負ったあなたの友人について延々と文句を言うか、あなたの奥さんと喧嘩をするかのどちらかだもの。そうなったら、みんながストレスで胃潰瘍になってしまうわ」
ノーマン:「優しい気遣いに感謝するよ。仕方がないな…」
 
 ふと教会のほうを見ると、たしかに二人組の男女がこちらへ向かってくるのが見える。あまり気の利いた同伴相手とは言えないが、これはピクニックではないので、贅沢は言ってられないだろう。
 いささか老朽化して軋む金属製の梯子を降り、ノーマンは二人組と合流して動物病院を目指す。
 
 
 
 
 
 
 草むらに隠れつつ、三人は「スペンサーズミル動物診療所」と書かれた看板の立つ建物を観察する。サムの言によれば、ゾンビたちは主に音に反応して集まる習性があり、視力や嗅覚は衰えているため、視界の通らない場所に隠れていれば発見されることはそうないということだった。
 
アラン:「さあ、お仕事の時間だ。お前のような素人は、窓をぶち破って盛大なエントリーを試みることだろうがな。そんなことをしたら付近一帯のゾンビどもがこぞって押し寄せてくる破目になるぞ」
サム:「素直に扉から入れば余計な音を立てずに済むってこと。鍵が掛かっていなければね、まあ、どうするかはあんたに任せるよ」
ノーマン:「そうか。扉をプラスチック爆薬で吹っ飛ばして突入しようと思っていたんだが」
アラン:「ふざけてるのか?まったく、あの嫁にしてこの夫ありだな!ガキの顔が見てみたい…おい、お前、子供はいるのか?」
ノーマン:「娘が二人」
 
 ノーマンがそう言ったとき、サムの顔から血の気が引いたように見えた。
 おそらくはノーマンとラムダが最初から娘を連れていなかったことに対して余計な誤解をしたのだろう。サムからあまり加減のない肘鉄を受けたアランは、いささか戸惑ったような態度で言い繕った。
 
アラン:「その…なんだ。俺は別に、お前に謝らなきゃいけないようなことは聞いてないよな?」
ノーマン:「ああ。娘たちは友達との旅行で、ここから遠く離れた場所にいる。リリーから聞いた状況から考えて、そこが特別にゾンビの被害から免れた可能性は低いだろうが、まあ、なんとか生き残っていることだろう」
サム:「随分と楽天的な物の考え方をするんだね?」
ノーマン:「娘には幼い頃から特別な英才教育を受けさせてるんでね。こういう状況では、それが役に立つ」
アラン:「なんだ、ガールスカウトにでも入会しているのか?」
ノーマン:「いや、俺自身の手で鍛えた。護身術ベースの格闘技と武器や銃火器の扱い、ナイフ一本でジャングルを行き抜く方法、そういった諸々をな。戦場にも何度か連れていった、すくなくとも、人の形をした肉人形を撃つのに躊躇はしないはずだ」
サム:「えぇ……」
アラン:「その、なんだ。教会で言っていた、便利屋っていう話は嘘だったのか?」
ノーマン:「嘘ではない。たんに、ときおり傭兵として海外の紛争地帯へ行くこともあるっていうだけのことだ。我らが友人のよう荒事専門というわけではない」
アラン:「我らが友人?あの怪我をしたやつか?あいつは傭兵なのか」
ノーマン:「ああ。ゾンビ如きに不覚を取ったのはヤツらしくない失態だな」
 
 そんな話をしながら、三人は侵入した動物病院で医薬品の回収にとりかかる。
 鎮痛剤や抗生物質を筆頭に、包帯やガーゼ、軟膏といった外傷治療用の道具をバックパックに詰めていく。ビタミン剤も役に立つだろう。
 アランやサムはそれぞれ個別に回収品のリストを持っているようで、ノーマンとは別の視点から品目を選り分けていた。
 ふと壁際に並んだケージに目をやると、どうやらゾンビに食い荒らされたらしいペットたちの死骸が無残に散乱していた。あるいは、共食いでもしたのかもしれない。人間の死体を見るよりも心が痛むのはなぜだろう、などと余計なことを考えると同時に、これらがゾンビとして蘇る可能性はあるのだろうか、という現実的な脅威も無視できなかった。
 しばらく医薬品の回収に時間をかけたあと、物音に惹かれてゾンビが集まりはじめたことを確認したノーマンは他の二人を促して足早に診療所を飛び出す。
 
 
 
 
 
 
 まるでコソ泥にでもなったような気分だったが、このさい、外聞を気にしてなどいられない。今も稼動を続けているかもしれない町の監視カメラに残った映像が、将来的に自分たちを監獄送りにすることがないよう祈った。
 道を半分ほど引き返したあたりで、サムがOD色の巨大なラックサックの縫い目がほつれて荷物がこぼれはじめたことを訴えた。
 車を拾うことを提案するノーマンに対しアランは頑なに「ノー」を突きつけたが(彼は車のエンジン音がゾンビを引き寄せることについて神経質なまでに拘っていた)、とうとうサムの身動きが取れなくなったことを察するにあたって、ついに二人を置いて自分だけ教会へ走っていってしまった。
 
 
 
 
 
 
サム:「待てアラン、戻って来い!まったく、あいつ、信じられない!自分だけ助かろうとするなんて!」
ノーマン:「そうカリカリすることはない。この近くのレストランの駐車場に悪趣味なペイントのフォルクスワーゲンが停めてあった、ロックはかかっていなかったよ。念のため、動物病院へ向かう前に確認しておいたんだがね。少しのあいだ待っていてくれれば、ここへ回せると思う」
サム:「乗れるなら何だっていいさ。すまないね、迷惑かけちまって」
ノーマン:「気にするな。ひょっとすると、アランよりも早く教会へ戻れるかもしれないぞ。彼が中年太りを気にしているかはわからないが、ダイエットのためにジョギングをしたいというなら止める理由もないだろう」
 
 そう言ってレストランへと向かうノーマンに、サムは不安そうな表情を向ける。
 ひょっとしたらアランと同じように自分を見捨てて行ってしまったのではないか…そんな弱気が胸の中で膨らみかけた矢先、数人のゾンビを撥ね飛ばしてシルバーのボディを凹ませたセダンが突っ込んできた。タコのカスタムペイントが、返り血を浴びて何やらおぞましさを増している。
 
サム:「本当に悪趣味な車だね…」
ノーマン:「レディを待たせたのでなければ良いが」
サム:「よしな、妻子持ちが女を口説いたりするんじゃないよ」
 
 中身を落とさないよう、穴のあいたラックサックを腹に抱えてサムが助手席のシートに身体を滑りこませる。
 その様子を見ながら、ノーマンがぽつりと呟いた。
 
ノーマン:「ダクトテープがあれば応急処置ができたんだが」
サム:「ダクトテープの万能ぶりは誰でも知ってるからね、店の棚からあっという間に無くなっちまったよ。今じゃあ最も手に入れるのが難しい貴重品の一つだ」
ノーマン:「そのことは特に驚くに値はしないな」
 
 
 
 
 
 
ラムダ:「あっ、ノーマーン!おかえりー!」
 
 それからは大きなトラブルに巻き込まれることもなく、二人は無事に教会へと戻ってきた。
 見張り台の上から手を振るラムダに、ノーマンもジェスチャーを返す。
 
 
 
 
 
 
ノーマン:「やぁ旦那、そんな大荷物を抱えてランニングかい?精が出るね」
アラン:「なんとでも言え…」
 
 ノーマンとサムがリリーに成果を報告するのと、アランが教会に戻ってきたのはほぼ同時だった。サムの刺々しい視線に晒されながら、アランは奥の寝室へ引っ込む。
 
サム:「リリー、あんたに必要な、えー、シクロホホスホファミドってやつを手に入れることができたよ。メソ…なんとかってやつは残念ながら見つからなかったけど」
ノーマン:「ミコフェノール酸モフェチル?」
サム:「!…知ってるのかい?」
ノーマン:「それと、シクロホホスホファミドじゃなくてシクロホスファミドだ。ホが多い。その二つが必要ってことは、リリー、君はSLE(全身性エリテマトーデス)なのか?」
リリー:「…ええ、私はたんにループスと呼ぶことが多いけど。現代でも直接的な原因が解明されていない病気で、定期的な投薬が必要なの」
 
 ループスは女性の罹患率が九割とされる難病で、症状が多岐に渡るため診断が難しく誤診も多い慢性的な自己免疫疾患だ。根本的な治療法は確立されておらず、合併症を起こしたり、再発することも珍しくない。
 わかりやすい外見的特長としては両頬が林檎のように赤くなる"紅斑"と呼ばれる症状が表れることで、まるで漫画のキャラクターのような見た目になるが、当人としては冗談では済まされない。
 症状としては日光過敏、関節炎、神経障害、免疫異常など11にわたる項目のうち4つが当て嵌まる場合にループスと判断されるという曖昧なもので、それゆえ第三者の理解を得られにくく、そのことが患者に精神的なストレスを与える要因にもなっている。
 日常生活に支障をきたすだけでなく、場合によっては死に至る可能性もある病気だ。
 
ノーマン:「君が外でゾンビを相手にアクションをしたり、重い荷物を抱えて駆けずりまわったりせず、一日中無線機に張りついているのは、それが理由か。どうして最初に言わなかった…」
リリー:「あなたのお友達は抗生物質を必要としているし、私には治療用の医薬品が必要だった。あなたを動物病院へ向かわせたのは、その両方が得られる一石二鳥だと思ったからだけど、フェアなやりかたではなかったわね。ごめんなさい」
ノーマン:「そんなことを聞いたわけじゃない。だらしない人間と病人とでは天地ほどの差がある…君は自分に負い目を感じているかもしれないが、こんな状況では五体満足でない人間から間引かれるべきだなんて言うやつがいたら、俺が真っ先にそいつをぶった斬ってやる」
リリー:「…ありがとう……」
ノーマン:「さてと、我らが友人の往診に向かうとするか。ドク・ハンソンが掴まるまで、もうしばらくのあいだ辛抱してもらわないとな」
 
 聖堂から出てクレイブの眠る簡易診療所へと向かうノーマンの背中に、サムが声をかける。
 
サム:「あんた、優しいんだね。ここに集まった連中のなかには、リリーのことを快く思わないやつもいたっていうのに」
ノーマン:「合理的な判断は必要かもしれないが、いかなる場合においても最優先されるってわけじゃない。リリーがゾンビに噛まれた我らが友人を見捨てずに受け入れてくれたようにね。もし人間が合理的な判断のみに頼っていたら、人類史はもっと悲惨なものになっていただろう…」
サム:「その言葉、アランに聞かせてやりたいよ」
 
 思わずサムの口から飛び出した本音に、ノーマンは苦笑せざるを得なかった。
 兎に角も、どちらかといえばサムは容易に他人を信じる性格ではないだろうから、自分がコミュニティ内でそれなりのポジションにつけたことは間違いないだろう。
 そのことは素直に喜ぶべきだった。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 
 
 


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