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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2013/09/03 (Tue)15:22

 エマ・メイ号の事件を解決して間もなく、ちびのノルドは急遽ブラヴィルの戦士ギルドに呼び戻された。
「つい先日、無視できない案件が持ち上がってね。といってもウチはいま人手不足で人員を回せないから、是非ともあんたに頼みたいんだよ」
「はぁ…」
 カジートのナーシィの口から伝えられる言葉に、ちびのノルドは気のない生返事をする。
 話を聞くと、どうも数日前から1人の男性が行方不明になっているらしい…名前はアルロン・ロッシェ。戦士ギルドに捜索を依頼したのは妻のウルサンネ・ロッシェで、夫を心配するあまり、このところすっかり衰弱してしまっているのだという。
「いまの時間なら、教会でお祈りしているはずだよ。なんとか頼みを聞いてやってくれないかねぇ?」
「断ったら人間性を疑われるような話を持ってきて、選択権があるような言い方をするのは卑怯じゃないですか」
 嫌なら、別に構わないが…そう言いたげなナーシィに対し、ちびのノルドは嫌味たっぷりにそう答えた。
 とはいえ、それは本心ではなかったが。行方不明になった男のことは気がかりだったし、伴侶を失った夫人のことを心配する気持ちも、もちろんある。
 しかしそれを別にしても、相手に有無を言わさず厄介ごとを押しつけるシロディール流のやりかたに不満を覚えるのも事実であって。こればっかりは、ナーシィ1人に文句を言っても仕方がないのだが。
「わーかーりーまーしーたーよー。行けばいいんですよね?行きますよ」
「嫌なら…」
「行きますってば!」
 いやらしい笑みを浮かべながら、わざとらしく気遣うナーシィにちびのノルドは背を向けた。
 …ああ、やっぱりこの大陸の人間は好きになれない。すくなくとも、スカイリムよりマシってことは全然ないじゃないですか。
「…はぁ」

 ブラヴィルのマーラ大礼拝堂の戸を叩き、ちびのノルドは静かに中の様子を窺う。
 もともと宗教には縁がないためか、どことなく場違いな雰囲気に居心地の悪さを覚えながらも、ちびのノルドは依頼人であるウルサンネ夫人の姿を探して周囲を見回した。
 しばらくして近くを通りかかった神官をつかまえると、ウルサンネ夫人が来ているかどうかを訊ねる。
「…彼女に何か御用が?」
「あの、戦士ギルドに依頼があったので。その件で」
「それなら、あちらの信徒席に。彼女はデリケートな問題を抱えています、あまり刺激なさらぬよう」
「はぁ…」
 どことなく棘のある神官の言葉にちびのノルドは困惑しながらも、ウルサンネ夫人のもとへと向かった。



「あの…ウルサンネ・ロッシェさん?」
「あなたは…?」
「ぁーっと、戦士ギルドのアリシアって言います。旦那さまが行方不明になった件で窺ったのですが」
「そうですか、夫のことでわざわざ…」
 ちびのノルドの目から見て、ウルサンネ夫人はひどく小さく、小柄に見えた。実際はちびのノルドより身体が大きかったにも関わらず。おそらく彼女が纏っている雰囲気がそう見せたのだろう。
 こういうの苦手だな、と思いながら、ちびのノルドは言葉を続けた。
「もしよければ話を。場所を変えます?」
「いえ、ここで大丈夫です」
 ウルサンネ夫人はゆっくりと顔を上げてから、ぽつり、ぽつりと話しはじめた。
「クルダン・グロ=ドラゴルという名のオークの高利貸しから借金をしていた夫は、ある日彼に呼び出され、それ以来、姿を消してしまいました。あの男は…クルダンはブラヴィルの裏街道でも名の通った悪漢で、わたし1人ではどうすることもできなくて…」
「つまり、まずはその男、なんでしたっけ、クレダイ・ドラ=ドラララァ?とかいうヤツと話をつけに行けばいいんですね?」
「え、えぇ…クルダンは小狡賢く、卑怯で、抜け目のない男です。気をつけてください」
 ダイナミックに名前を間違えたちびのノルドに驚きつつ、ウルサンネ夫人はあえて訂正もせずに行く先の注意を促す。
 とりあえず、やるべきことはわかった。がしかし、このまま立ち去ったものだろうか。
 どうしても気になることがあったちびのノルドは、一度は背を向けたものの、ふたたびウルサンネ夫人に向き直り、質問した。
「あの、失礼だとは思いますが…旦那さまは、なぜ借金を?」
「…ギャンブルです」
 やや言い難そうに、ウルサンネ夫人は呟いた。
「いつか一山当てて、帝都のような素晴らしい場所に住めると、夫は日頃から吹聴しておりました。一度だけ大当たりしたことに味をしめ、ひょっとしたらそれ自体が夫をギャンブル漬けにするための巧妙な策略だったのかもしれません。いまとなっては、そう感じます」
「旦那さまは、ギャンブルは得意だったのですか?」
「いえ、決して。負け続けた夫はやがて借金を…あの悪名高いクルダンから金を借りて、それからは借金を返すために借金を繰り返す日々を。わたしが至らないばかりに、このような事態にまで」
 そこまで言うと、ウルサンネ夫人は顔を伏せて口を閉ざしてしまった。
 なるほど夫のアルロン・ロッシェはどうしようもない人物のようだが、それでもウルサンネ夫人が戦士ギルドを頼ってきたということは、未だに夫を愛しているのだろう。
 そのことの是非はともかく、これ以上彼女を悲しませるのは忍びない。
「クルダンは独身求婚者亭の3階を根城にしています。宿の主人と話せば、仲介してくれるはずです」
 ウルサンネ夫人からの情報を頼りに、ちびのノルドはマーラ大礼拝堂を出た。

  **  **  **  **

「厄介なのと関わり合いになっちまったね、あんた?」
 独身求婚者亭の主人ボグルム・グロ=ガラシュの言葉に、ちびのノルドは思わず苦笑いを浮かべた。
 どうやらアルロン・ロッシェとおなじく金に困ってクルダンを頼ってきた哀れな客とでも勘違いしているのだろうが、あえてその誤解を解く必要は感じなかった。
 それに、戦士ギルドの人間と知っていたら面通しを拒否されていたかもしれない。
「クルダン、あんたに客だ」
「通せ」
 宿の主人との短いやり取りののち、クルダンはちびのノルドの前に姿を現す。



「おやおや、随分と小さなお客様だな。ヒモでも探してるのか?」
「いや、そうじゃなくて…」
「心配するな、<小さいのが好きな客>ってのもちゃんといるからな。なんなら…」
 ゴガンッ!
 クルダンの下品な発言に激昂したちびのノルドは、力任せに拳をテーブルに叩きつけた。衝撃でテーブルが180度ひっくり返り、調度品が床にばら撒かれる。
 ただの小娘では有り得ない腕力に、クルダンは激昂するでもなく目を細めた。
「…おめぇ、客じゃねえな。なにが目的だ?」
「アルロン・ロッシェ。あなたから借金をしていた男性の名です、聞き覚えは」
「知らねぇな。おっと勘違いするなよ、俺の客は多い。たった1人ぽっちの名前を簡単に思い出せるほど、俺のビジネスはセコくねぇんだ」
 仰々しく手を振ってから、クルダンはわざとらしく考え込むような仕草をしてつぶやいた。
「アルロン…アルロンねェ。ああ思い出した、ギャンブル中毒のハゲ野郎だな。あいつになんの用だ、まさか、おめぇからも借金してるとかじゃあるめぇ?」
「違いますよ。先日、あなたと会ってから彼の行方がわからなくなったとかで、奥さまから捜索の申し出を受けたんです」
「なんだ、想像してたよりつまらねぇ展開だな。あんなクズ野郎なんざ放っておきゃあいいんだ、いい厄介払いができたと思って、そっとしときゃあいいものをな」
「それを判断するのはあなたではありません。彼女の依頼先は戦士ギルドです、いくら裏社会の顔役であるあなたでも、ギルドを敵に回すのはかなり都合が悪いんじゃありませんか?」
「ほー、言うねぇ。戦士ギルド?ブラックウッド団が台頭してきてから、ずっと冷や飯食らいだって話じゃねぇか。そんなザコどもを、俺が怖がるとでも思うか」
 そう言うが早いか、クルダンは背負っていた片刃の斧を抜くと、素早く斬りつけてきた。
 しかし鋭く砥がれた刃がちびのノルドの首筋を捉えるよりも早く、彼女が斧の背をがっちりと掴み軌道を逸らせることに成功する。
 両者ともに力が拮抗するなか、やがてクルダンが口を開いた。
「いい反応だ。度胸もある。なるほど、口だけじゃあないようだな」
 クルダンが斧の柄から手を離し、ちびのノルドがそれを投げ捨てる。
 ドスッ、重い音とともに斧が床に突き刺さるのを目で追いながらも、まったく動揺した様子を見せないクルダンが、話を続けた。
「たしかにギルドを敵に回すのは得策じゃあねぇ。しかし、あのバカをタダで返すわけにはいかん。これはビジネスだからな…わかるだろ?」
「条件はなんです?」
「いいねぇ、話が早くて。物分かりの良いヤツぁ嫌いじゃねぇぜ」
 そう言って、クルダンはその巨体を小さな椅子に沈めた。
「ニーベン湾の中枢にな…グリーフ砦島ってのがある。そこに、我が家に代々伝わる家宝、いや、家宝だったものが置き去りになってる。そいつを取ってこい」
「家宝?」
「ドラゴル家の斧だ。柄に名前が彫ってある、見間違いはせんだろうよ」
「なんで家宝がそんな場所にあるんです?」
「戦火に巻き込まれてな。置き去りになったんだ…それ以上の説明が必要か?おめぇ、俺の家計図に興味があるのか?」
「いえ、まったく」
「そういう正直なところ、嫌いじゃないぜ。この件が済んだら、おめぇ、俺の部下になる気はねぇか?」
「お断ります」
「即断だな。ま、そう結論を急ぐこともあるめぇ?せいぜい、考えといてくれや」
 話を聞くだけ聞いたところで、ちびのノルドはクルダンのもとを後にした。
 最後のオファーには、すこしだけビックリしたが…ただまぁ、おそらく本気ではないのだろう。と思いたい。
 クルダンの言葉がどこまで真実かを計る術は、ない。残念ながら。
 脅迫や拷問で口を割らせるには場所が悪かったし、殺すなどはもっての他だ。それに、ちびのノルドはそういった手段をあまり好まない。ひとまず相手のルールでゲームをはじめるしかないだろう。

  **  **  **  **

 クルダンからの情報を頼りに地図を広げたちびのノルドは、グリーフ砦島の位置にマークをつけると桟橋に立つ船頭にそれを渡した。



「その場所までお願いします」
「グリーフ砦島…あんた、クルダンの旦那に言われて来たね?」
 アルゴニアンの船頭の言葉に、ちびのノルドはしばし面喰らう。
 ちびのノルドが口を開くよりも早く、アルゴニアンの船頭が言葉を続けた。
「あの島に行かされるのは、あんたが初めてじゃない。つい何日か前にも、男を1人連れて行ったよ」
「ひょっとして…アルロン・ロッシェ?」
「そんな名前だったかね。とにかく、あの島に行って帰ってきた人間はいない。あまり御薦めできる観光スポットじゃない」
 途端に雲行きが怪しくなってきた。
 これは誰もクルダンの家宝を探して来れなかったということなのか、それとも…?
「…行かなければならない、理由があるので」
「そうかね」
「その。もしあの島から戻る場合は、どうすれば?」
「あの島は私の定期巡航ルートに入っている。そうさな、3日に一度…目立つように合図を送ってくれれば、拾ってやることもできるが。もちろん、料金は頂くがね。なんなら先払いでもいい」
「お願いします」
「そんなわけだから、あの島に行くなら数日分の食料を持っていったほうがいい。私はしばらくここで待つよ」
 ちびのノルドは戦士ギルドから二人分の水と食料を纏めて持ち出すと(アルロンが生きていた場合を考えてのことだ)、アルゴニアンの船頭の待つボートへと乗り込んだ。

  **  **  **  **



「ここが、グリーフ砦…」
 ボートから降りたちびのノルドは、目の前の光景を一望した。
 崩れ落ち、廃墟と化した砦。クルダンは昔ここで戦争があったと言ったが、この光景を見る限りそれは真実のように思えた。
「さて、と。家宝の斧は、砦の中にあるんでしたっけね」
 そんなことをつぶやきながら、ちびのノルドが扉の門を潜ったとき。
 ゴッ、ガシャン!
「…えっ?」
 背後でけたたましい金属音がしたのを耳にし、ちびのノルドは慌てて振り返る。
 見れば、さっきまで普通に開いていたはずの門が閉じ、頑丈な鉄格子ががっちりと嵌まっていた。ためしに掴んでガタガタと揺すってみるが、案の定ビクともしない。
 それでも古い鉄格子なら、なんとか腕力で破壊可能…そう思った矢先、ちびのノルドはあることに気がついた。
「この鉄格子…なんでこんなに真新しいんだろう」
 答えは一つ、最近取り替えられたからだ。
 そして、鉄格子とは人を閉じ込めるためにあるものだ。つまり、導き出される答えは…
「嵌められた」
 クルダンにしてやられた。
 しかし、なぜ?なんのために?
 ちびのノルドが考えるよりも早く、答えは向こうからやって来た。
「おまえも、あの野郎に騙されて来たのか?」



 そう言いながら近づいてきたのは、頭頂部が禿げ上がった30代の男だった。初老というほど歳は取っていないはずだが(おそらく)、実際の年齢よりも10~20歳は老けて見える。
「クルダンの野郎、大法螺吹きやがって、なにが家宝だ畜生!こんなつまらないペテンに引っかかるとは、とうとう俺のツキも終わったみたいだぜ」
「あの…失礼ですが、アルロン・ロッシェという男性をご存知ありませんか?」
「あ?アルロン・ロッシェは俺だが、それがどうかしたか?誰だ、おまえ」
 ビンゴ。
 こういうわけのわからない展開の中で、彼がまだ生きているというのは悪くない状況だ。すくなくとも、いまは、まだ。
「わたし、戦士ギルドのアリシアといいます。奥さまからの依頼で、あなたを探しに来ました」
「なに、戦士ギルド?ウルサンネが?なんてこった、これこそまさに蜘蛛の糸だな!」
「く、くも?」
「捨てる神ありゃ拾う神あり、さ。学がないね、あんた」
 その一言にちびのノルドはムッとしたが、しかし、嫌味を言える程度には相手が元気なのは良い兆候だ。余裕のない人間はなにを仕出かすかわからない。
 コホン、仕切りなおすように咳払いを一つしてから、ちびのノルドはアルロンに質問した。
「それで…ここで、一体なにが起きているんです?」
「ゲームさ。くそったれのゲームだよ。いいか、こういうことだ…ここは狩場なのさ。俺はクルダンに、家宝の斧を持ち帰れば借金をチャラにしてやると言われた。しかしこの島で待っていたのは斧なんかじゃなく、ハンターだったってわけさ」
「ハンター?」
「クルダンの顧客だよ、<金を持っている方>のな。奴は金持ちのために、王侯貴族が趣味でやるような狩猟ゲームの、もっといかしたやつを用意してやってるのさ」
「ああ…話が読めてきました」
「だろうとも。クルダンは借金で首が回らなくなったヤツを、狩猟ゲームのトロフィーとしてこの島に送り込んでるのさ。俺の前には、フランソワ・モティエレとかいうやつが犠牲になってる。逃げ場はない。そこの鉄格子の鍵は、連中が持ってるしな…」
「でも、この島から出られないんじゃあ、ハンターたちも困るんじゃないんですか?」
「そこは上手く考えてあるのさ。連中は砦の中を根城にしてる、砦の中には水や食料がたんまりと備蓄されてるから、生活に困ることはない。それに鉄格子の鍵はやつらが持ってるから、やつら自身はこの島から出ようと思えばいつでも出られるってわけさ」
「なるほど」
 ちびのノルドはしばらく考えこんだ。
 この状況で、自分にできることは何か?選択肢はあまり多くない。
「つまり、この島から脱出するには、ハンターを始末して鍵を奪う必要があるわけですね」
「おいおい、簡単に言ってくれるな。すくなくとも俺には、生まれてこのかた剣を持って戦った経験がない。つまり、なんとかしてこの状況の裏をかく方法を探すほうが建設的だと思ってたんだが、あんたは違うのかい?」
「えー…まぁ」
「だったら気をつけな、連中の腕が立つかどうかなんてのは俺にはわからないが、金持ちだから装備は良いものを揃えてる。ハンターは3人。そして鍵は3つ、それぞれが持っているものを組み合わせて使う必要がある」
「わかりました。それにしても…やけに詳しいですね」
「俺を疑うのか?まあ無理もないか。なんてことはない、ちょいと食料を失敬するために砦に忍び込んだとき、連中の立ち話を聞いたのさ。そのあと見つかって、殺されかけたところをなんとか逃げてきたんだけどな」
 そう言って肩をすくめると、アルロンは苦笑いを浮かべた。
 ちびのノルドはボートに乗せてきた食料を彼に渡すと、自分が砦から出てくるまで誰にも見つからないよう隠れているように指示した。
「もし、あんたが出てこなかった場合」アルロンは特に悪気もなさそうに言った。「そのときは、自分の独創性を頼りにしなけりゃならないんだろうね?」

  **  **  **  **

 普段から視界を制限していると、便利な点が一つある。急激な光量の変化にもすぐに適応できるようになることだ。
 砦の中は薄暗く、あちこちが風化し崩れかかっているさまはシロディール各地に点在する破棄された建物とそう変わりはない。しかし細部を観察すると、たしかに人の手が入っている痕跡を辿ることができた。
「この前連れてこられたやつ、まだ見つからないのか?」
 しばらくして話し声を耳にしたちびのノルドは、咄嗟に身を隠す。
 相手の姿はよく見えなかったが、その声は拡声器を通したようによく聞こえた。聞かれて困る相手がいないと思っているのだろう、必要以上に大きな声で話しているように思える。
「ああ。はしっこい野郎だぜまったく、いまは砦の外に潜伏してるんじゃないかな。夜になったら探しに出るか?」
「いや、夜はまずい。奇襲をかけられてもつまらん、素人をあなどるもんじゃない。夜明けがいいだろう、人間が一番油断しやすい時間だ」
「わかったよ、ノルドの旦那」
 聞き耳を立てていたちびのノルドは、どうやら相手の評価をすこし改めるべきかもしれない、と思った。
 金持ちの道楽、と聞いて、装備だけ良いものを揃えた素人集団とばかり思っていたが、多少は戦闘の心得を持つ者がいるようだ。ノルドの旦那、と呼ばれていたか…相方の声音から察するに、どうやら彼がグループの中では一番に信頼されているらしい。
「3人同時に相手をするのは危険そうですね。1人づつ始末していきますか」
 そうつぶやき、ちびのノルドは散り散りになったハンター達の後を追い始めた。
 やがてハンターの1人に目星をつけたちびのノルドは、ゆっくりと近づいて相手を締め上げようとした。だが、そのとき。
「!?誰だ!」
 直前でちびのノルドの気配を悟ったらしいハンターが、振り向きざまに剣を振るってくる!
 すでに充分接近していたちびのノルドは反射的に剣の柄を掴むと、そのままハンターの足を払った。そのまま勢いに任せて倒れるハンターにのしかかり、剣の向きを変えてハンターの首に突き立てる!



「なっ…!?が、あっ……!!」
 苦悶の表情を浮かべながらも、ハンターは必死に剣を引き抜こうとする。しかしちびのノルドが駄目押しとばかりに柄に拳を叩きつけた瞬間、ハンターは意識を失った。
 ぐったりと倒れたハンターの懐を探り、ちびのノルドは鍵を探し当てる。
「あと2人」

  **  **  **  **

「そういえば、もう1人…この島に送り込んだ、とクルダンが言っていたな。すっかり失念していたよ」
 吹き抜けになっている奈落の間にかけられた細い橋の上で、鎖で天井から吊られたトゲつきの丸太が揺れる間でハンター…<ノルドの旦那>と呼ばれていた男がちびのノルドに向かって言った。
 この砦に仕掛けられている罠の多さにはすでに閉口していたが、まさか相手が罠を利用して攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったちびのノルドは、このやりにくい状況に唇を噛む。
「その様子だと、少なくとも1人はこちらの同輩を始末しているらしいな。そんな小さな身体で、よくやるよ」
「よく言われます」
「それも女だとはな。顔を隠してるのは、おおかた醜いからか。どうせボズマー…」
 そこまで言って、ノルドの旦那は何かに気づいたようにハッと息を飲んだ。
「いや。いいや…おまえ、どこかで見たことがあるな。その白い肌。ここではない、シロディールではない場所で…スカイリム。そうだ、スノー・ウルフ隊の1人だな?傭兵、ちびのノルド…見間違えるはずもない」
「わたしも思い出しましたよ、同輩。銅鎖のオーティス。口の軽さは相変わらずですね」
「そうか、まさかおまえがな…」
 ノルドの旦那…<銅鎖のオーティス>は、恐怖と侮蔑が入り混じったような、複雑な面持ちでちびのノルドを見つめる。
「なんでまた、シロディールに。男どもの玩具(オモチャ)にされるのは飽きたのか?」
「…… …… ……!!」
 銅鎖のオーティスの言葉に、ちびのノルドは顔を紅潮させる。
 瞬間的に頭に血がのぼり、衝動的に地面を蹴ったちびのノルドは、細い道に仕掛けられた数多のトラップを意に介さず驚異的なスピードで相手との距離を詰める。
 一方、彼女を待ち構える銅鎖のオーティスは不敵な笑みを浮かべると、ちびのノルドに向かって言い放った。
「感情的なのは昔と変わらんな。それとも、情熱的と言ってほしいか?わざわざ罠だらけの場所に突っ込んでくるとは、戦士としての心構えがなっているとは言えんな!」
 そして、剣を振り下ろす。ちびのノルドはそれを軽いフットワークでかわし、銅鎖のオーティスの背後に回って腕を締め上げた。
 ギャッ、短い悲鳴を上げる銅鎖のオーティスの懐を探り、鍵を掴むと、ちびのノルドはとびきりの冷徹さを込めた声で言った。
「こういう狭い足場では、長い得物を持っていたほうが不利なんですよ。戦士としての心構えがあるなら、その程度は考えておくべきですよね?」
 そして、ちびのノルドは銅鎖のオーティスを奈落に向かって蹴り飛ばした。



「うあああぁぁぁぁぁぁっっっ……」
 あらん限りの声を振り絞って叫ばれた悲鳴が長く続いたのち、「くちゃっ」という水っぽい音が遥か下方から響く。
「フン」
 ちびのノルドは奈落の底についた小さな染みを一瞥すると、踵を返し先へと進んだ。
 まさかこんな場所で出会った無頼の口から故郷の名を聞くことになるとは思ってもみなかったが、それを懐かしむ気にはなれなかった。

  **  **  **  **

 残るハンターの最後の1人はオークだった。
「こんなちびにノルドの旦那が殺られたのか!?」
 得物はハンマー。オークにしては珍しい引き締まった肉体から繰り出される素早い攻撃に、ちびのノルドは苦戦していた。
 両者ともに決め手に欠ける攻撃の応酬が続き、やがてちびのノルドが壁際に追い込まれる。



「テメェ、終わりだぁーーーッ!!」
 オークのハンターが渾身の力を込めてハンマーを振り下ろす!
 しかし刹那、ちびのノルドは姿勢を低くすると同時にオークのハンターにカニ挟みを仕掛けた!
「のわーーーっ!?」
 グシャアッ!
 勢い余って正面に倒れこんだオークのハンターは顔面から壁に激突し、顎が砕ける!
 ずるずるとその場に崩れ落ちるオークのハンターから鍵を奪うと、ちびのノルドは砦の出口へと向かった。

  **  **  **  **

 砦から出ると、既に夕方になっていた。空は赤みが射しており、島を囲む水面が真紅に染まっている。
 ずっと砦の様子を窺っていたのか、ちびのノルドが姿を見せるとすぐにアルロンが駆け寄ってきた。
「お、おいっ!どうだった?」
「死亡2、再起不能1。成果はバッチリです」
 そう言って、指の隙間からジャラリと鍵を見せる。
 アルロンがそれをひったくるように掴むと、器用に鍵の継ぎ目を組み合わせて合体させる。間もなく完成した1つの巨大な鍵を手の平に乗せ、アルロンが言った。
「できた、これでこの島から脱出できるぜ!」
「でも脱出できたとして、クルダンがこのままあなたを放っておくとは思えませんが…」
 ちびのノルドの言葉を聞いて、アルロンが表情を曇らせる。
 そもそも、クルダンにはアルロンを生かしておく気はなかったのだ。おまけにちびのノルドはクルダンにとって大事な顧客を殺している、このままブラヴィルに戻ればどんな報復を受けるかわからない。
 率直に言って、戦士ギルドの後ろ盾もどれだけアテになるか、わかったものではない。
 そんなことを考えていると…
「心配には及ばねぇぜ」
 背後から聞こえた声に驚き2人が振り返ると、そこには赤黒く光る銀製の斧を携えたクルダンの姿があった。



「やはり、おめぇをこの島に寄越したのは失敗だったようだな…まったく、最近はどうもついてねぇぜ。大金かけて雇った殺し屋は生首のまま送られてくるし、大事な客は皆殺しにされるしな」
「ご愁傷さまです」
「なぁ。おめぇ、本当に俺の部下になる気はねぇか?なんならパートナーでもいい、悪いようにはしねぇよ」
「…冗談ですよね?」
「冗談なもんか。戦士ギルドみたいな負け馬に、おめぇのような有能な騎手を乗せておくのはまるっきりの無駄ってもんだ。それにおめぇ、どうせ正義だのなんだのには興味がねぇんだろうが、えぇ?」
 そのクルダンの一言に、ちびのノルドは衝撃を受けた。
 そもそも、スカイリムを飛び出してシロディールに来たのはなんのためだったか。自分の実力を認めてもらえる場所を探すためだ。そして確かに、ちびのノルドは善だの悪だのにはあまり頓着しない主義だった。
「俺なら、おめぇを認めてやれるぞ。おめぇが求めてるのはそういうモンだろ?口先だけで言いくるめてこき使おうだとか、金だけ出して汚れ仕事を押しつけるだとか、そういうことは一切しねぇ。なんなら、アルロンのことは見逃してやってもいい、手付け金がわりにな。どうだ?」
 淡々とそう語るクルダンの態度から、それがたんなるハッタリや誤魔化しではないことをちびのノルドは悟り、そのせいで一層に混乱した。
「おめぇのその性格は裏社会向きだ、金持ちどもを殺った手際を見りゃあわかる。シャバの流儀なんか忘れろ、そうすりゃ、おめぇはもっと幸せになれる」
 畳み掛けるように言葉の洪水を浴びせてくるクルダンに、思わずちびのノルドは頭を抱えた。
 ひょっとして、ここは提案を受けるべきなのではないか?これから仲間に引き入れる人間に不信を抱かせないよう、アルロンのことは本当に見逃すだろう。そもそもアルロンの生き死になど、クルダンのビジネスにとって大した意味を持たないのだ。
 なにより…自分の実力を認め、信頼してくれる人間と仕事ができる、というのは魅力的だった。
 もう、お人好しで内向的な性格を逆手に取られていいように利用されることもなくなるのではないか?その点に関しては、クルダンを信用してもいいような気がした。
 なにより裏社会でそれなりの地位につければ、もう自分の低身長を笑う者もいなくなるだろう。
 だが…
「あの」
「なんだ?」
「…残念ですが……」
 だが。
 もし犯罪者としての道を一歩踏み出せば、以後は<生きていることそのもの>を後悔するようになる気がして。
 だから。
「残念ですが、お断ります」

 しばらくの間、静寂が続く。
「…そうかい。はみだし者同士、仲良くやれると思ったんだがな」
 クルダンが斧を手に、身を乗り出す。
 彼がどんな意図で<はみだし者>と言ったのかをちびのノルドは考えようとしたが、すぐに頭から振り払った。
 答えを出した以上、もう迷うわけにはいかない。
「仲間にならない以上は、殺すしかねぇよなあッ!!」
 いままでの友好的な態度が嘘のように、クルダンは殺気を剥き出しにしながら猛然と襲いかかってきた。
 アルロンが腰を抜かしながら慌しく逃げていくのを尻目に、ちびのノルドは戦闘態勢を取る。
「フアッ!!」
 クルダンが振り抜いた斧の一撃をかわした直後、立て続けに蹴りがちびのノルドの胴を捉える!
「ふんっ!」
 直撃するよりわずかに早く、ちびのノルドが伸ばした両手がクルダンの蹴りを掴むことに成功する。そのままちびのノルドは身体を浮かせ、膝裏でクルダンの後頭部を挟みこむと、勢いをつけてクルダンの身体を振り回し、地面に引きずり倒した!
 ぶ厚い筋肉で形成された太腿に首を締めつけられながら、クルダンは口泡を飛ばして叫ぶ。
「ぐあっ、かっ…かはっ…!ラ、ラ=ジェヘラ!」
 そう言い終わるより先に、ちびのノルドがクルダンの手から斧をもぎ取り、はるか遠方に投げつける。



 砦外周部の2階から弓で狙いをつけていた伏兵、カジートのラ=ジェヘラは、突然目の前に飛来してきた斧を目にして思わず硬直した。
「…なっ、あ、えぇ!?」
 ザスッ!
 そのまま斧はラ=ジェヘラの頭部に突き刺さり、ちびのノルドを狙っていた矢が放たれることのないまま床に倒れる。
 伏兵を倒され、奥の手を封じられたクルダンは力なく笑うと、苦しみに呻きつつ声を絞り出した。
「ククッ、やはり…おめぇを敵に回すべきじゃあなかったな」
「いまさら過ぎますね」
「畜生、あぁ、やはりよ…おめぇ、イイ女だぜ」
 ボギャッ。
 クルダンが台詞を言い終わるか、終わらないかというとき、ちびのノルドは彼の首を折った。
 奇妙な方向に首が捻じ曲がったクルダンを拘束から開放し、ちびのノルドはため息をつく。
 イイ女、か。
 そんなふうに言われたのは、ひょっとして生まれてはじめてかもしれない。彼なら、クルダンなら自分を大切にしてくれたのかもしれない。もちろん、ビジネスパートナーとしての範疇で、だろうが。
 だがそれも、もう過ぎたことだ。
 できることなら、「イイ女」なんて台詞は、こんな状況で聞きたくない言葉だった。こんな状況で、一番聞きたくない言葉だった。それが本心だとわかったなら、なおさら。
 急に場が静かになったからか、いままで隠れていたアルロンがひょっこりと顔を出す。
「お、終わったのか…?」
 ちびのノルドは寂しそうな笑みを向けると、自分でもびっくりするほど穏やかな口調で言った。
「ボートが来るまで時間があります。それまで、適当に時間を潰していましょう」

  **  **  **  **

 アルゴニアンの船頭は嘘をついていなかった。
 ちびのノルドがグリーフ砦に降り立ってからちょうど3日後、彼はボートで島を通りかかった。それを目にしたちびのノルドとアルロンは慌てて桟橋に駆け寄り、ボートに飛び乗ったのだった。
「驚いたね。まさか本当に生きて戻るとは」
「アルロンは…死にましたよ」
「そう、ですか」
 ちびのノルドからアルロンの顛末を聞いた船頭は、しばらく空を見つめてから、つぶやいた。
「ちと、風が変わったってことですかね」
 そもそも彼がどれだけクルダンと、あるいは裏社会と繋がっているのかは、ちびのノルドには知る由もなかった。あまり深い関わりはなかったのかもしれないし、あるいは相当に事情に精通しているのかもしれない。
 だが、そのことはちびのノルドにとってはどうでもよかった。

「もうギャンブルはやめるんですよ」
「努力はするよ」
 ゴッ。
 ブラヴィルの道を歩きながら、やる気のない返事をするアルロンにちびのノルドは拳骨を喰らわせる。
 とりあえず、結果だけを考えれば今回の件は丸く収まった、ということだ。めでたし、めでたし、と。
 クルダンを殺した自分の行動は正しかったのかどうか、という判断の是非は未だに下せないでいたが、そのことについてはもう考えないようにしていた。変えることのできない過去を思い煩っても仕方がない。
 ロッシェ家の戸を叩き、ちびのノルドは扉を開ける。
 ガチャリ、扉が開く音とともに玄関を見たウルサンネ夫人は、夫のアルロンの姿がそこにあるのを見て、目を見開いた。
「あぁ、あぁ、なんてこと。もうすっかり諦めていたのに…!」
「ただいま。心配かけてすまなかった、ハニー」
 極めてばつの悪そうな態度のまま、アルロンがはにかんだ笑みを浮かべる。
 椅子に腰掛けていたウルサンネ夫人がよろよろと立ち上がり、アルロンに近づいた。そして。



 ボッギャアアァァァァッッッ!
「まったく本当に、どんだけ心配をかければ済むのよあなたはあぁぁぁぁッ!」
「ドビュッシー!!」
 熱い抱擁、ならぬ熱い鉄拳がアルロンの顎にクリーンヒットする。
 その見事な左ストレートの一撃は、とても教会で夫の無事を祈り続けていた夫人が繰り出したとは思えないほど強烈だった。
 予想外の反応に思考が停止したちびのノルドは一言、ぽつんと呟いた。
「あー、えーっと…もう、帰ってもいいんでしょーかね…」





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