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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2012/08/05 (Sun)07:50
 わたしの母は、わたしが生まれたときから両腕がなかった。



 故郷は、わたしにとってあまり住みやすい環境ではなかった。質素な田舎町で、町中の誰も彼もが家族のような付き合いをしている土地柄にあって、他所からの移住者である両親はそれだけで浮いた存在だった。
 かつて<聖騎士><救国の英雄>と呼ばれた父が、なぜあんな何もない土地に住みたがったのか、わたしにはわからない。別の仕事を見つけるでもなく、畑を耕すでもなく、軍から支給される退役恩給だけで細々とした生活を送る日々。
 そしてなぜ母の両腕がないのか、わたしは1度もちゃんと説明を受けたことがなかった。父は「重い病気のせいで切り落とさざるを得なかった」と言うが、それが嘘だというのは、父と母の態度を見れば明らかだった。
 わからないことが多すぎた。なぜ。
 なぜ、あんなにも優しかった両親から、わたしみたいなのが生まれてしまったのだろう。



「ようこそ、聖域へ。たとえ信徒でなくとも、ナイト・マザーはきっと貴女にも祝福を与えてくださるはずだわ」
 帝都の西部に位置する都市、シェイディンハル。
 ルシエンに促されやって来たダーク・ブラザーフッドの<聖域>、それは廃屋の地下に隠され、合言葉を知らなければ侵入すら適わない秘密の拠点だった。



 蝋燭の明かりに照らされた薄暗い地下施設の中、ブラック17は聖域の統括者オチーヴァと対面していた。
「ルシエンが、他でもないここシェイディンハルの聖域に貴女を導いたのは大変に興味深いことね。貴女の実力と前歴を鑑みれば、その…失礼と取られなければ良いのだけれど…もっと冷酷で、徹底した実力主義が支配する聖域へ案内されて然るべきだと思っていたものだから」
 アルゴニアンの女の顔に、微妙な感情の機微が浮かんだ。この種族が人間にもわかる範囲で表情を変えるのは珍しい。たぶん彼女は感性が豊かなのだろう、とブラック17は漠然と考えた。
「今後の予定はともかく、しばらくはここが貴女の活動拠点になると思うわ。それと到着して早々申し訳ないのだけれど、早速貴女にやってもらいたい仕事が1件入ってます。ヴィセンテから詳細を尋ねてください」



 ヴィセンテ・ヴェスティエリは頬のこけた物静かな男だった。中年にも老人にも見える外観から、実年齢を測るのは難しい。
「ほう、君が例の…御噂はかねがね。わたしはこの聖域に依頼された仕事の管理を担当している、お見知りおきを」
「挨拶はそこそこに。気遣いは無用よ、要件を話して」
「レディである以前に暗殺者であれ、という主義かね?関心するよ、もっともわたし個人としては、もう少しおおらかなほうが好みに合うのだがね。まあいいだろう、今回は帝都の港湾地区に飛んでもらうことになる」
「すこし距離があるわね」
 ヴィセンテの余計な一言は聞き流すとして、ブラック17は帝都からここまでの道のりを思い返して言った。
 おそらく依頼に関する情報が詰まっているのであろう、ヴィセンテは分厚いノートのページを繰りながら、心配ないというふうに付け加える。
「帝都までは馬車で向かってもらうことになる。そうだな、翌朝に出立すれば2日後の夜には着くだろう。帝都までの道のりでは普通の旅行者を装ってもらうことになる」
「けっこう。装備は?」
「人員とは別ルートで手配する予定だ」
「…仕事の内容は?」
「現在、帝都港湾地区に停泊しているマリー・エレーナ号という船の船長の暗殺だ。マリー・エレーナ号は表向きは商船だが、実際は海賊船だ。帝国軍はその正体を掴んでいるものの、多額の賄賂を受け取っているため実質黙認状態にある」
「汚職ね。どこの世界でもある話だわ」
「まして帝国はいま皇帝暗殺の件でゴタゴタしているしな。諸外国の侵略を防ぐために国境の警備を強化したという噂も聞く。それには多額の資金が必要だ…そういうスケールでの危機回避を念頭に置けば、海賊を見逃すくらいはリスクでもなんでもないのだろう」
「だけど、海賊が大手を振って活動するのを是としない人間がいるってことよね、ここに依頼が来たということは。まあ、依頼主がどんな大義名分のもとで殺人を正当化しようとしているかなんて、興味ないけれど」
「まったくその通りだな」
 ブラック17の言葉に、ヴィセンテはもっともらしく頷いた。





 帝都港湾地区。中央にそびえる塔の天辺から、出港を目前に控えるマリー・エレーナ号を見下ろす3つの影があった。
「あれがマリー・エレーナ号かい。いい船じゃねぇか」
「あたしはあまり好きになれないけどね。囚人移送船を思い出すわ」
 ブラック17の傍らで、重装備なオークの男と、ダーク・ブラザーフッドの意匠が入った黒装束に身を包んだ女が口々に会話を交わす。
『今回の仕事にはサポートを2人つける。これには君の仕事ぶりを評価するための意味合いも含まれるため、必ず3人で仕事に当たってもらいたい。悪しからず』
 聖域を出る直前に言われた、ヴィセンテの台詞が脳内で反芻される。
 要するに監視つきということだ、人員が不足していると言っていたわりにはヒマなことをする…と、ブラック17は内心で毒づく。しかもこのサポートというのが妙に馴れ馴れしく、あくまでビジネス上でのドライな付き合いしか望まないブラック17にとってはいささか手に余る人材だった。



「船は今夜出港するそうだ。帝国軍にいる協力者が、衛兵の巡回に30分だけ穴を空けてくれるってよ…海賊が我が物顔で街を歩くのを気に入らん衛兵が多いのは確かだが、それでも殺人行為を目の前にして黙認するわけにもいかんらしい」
 オークの戦士ゴグロンは、フンと鼻を鳴らした。
「30分以内にカタをつけられなきゃ、騒ぎを聞きつけた衛兵と一戦交えることになる。オレとしちゃあ、天下の帝国軍とやり合うのも悪くないとは思うが、組織の評判に関わるからな」
「円滑に進められれば、死んだ海賊たちは『仲間割れを起こして同士討ちした』っていうカバーストーリーによって葬られるわけだけど、派手にやり過ぎるのはご法度。だから、今回は爆破はナシよ?17」
 暗殺者の装束に身を包んだアントワネッタ・マリーが、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
 わかっている、とブラック17は頷きながら、まったく緊張も警戒もしていない2人の様子にいささか驚いていた。これから人を殺すというのに、まるで遊びに興じるかのような気軽さで臨んでいる。
 まあ、わたしが他人のことをどうこう言えた義理じゃないが…ブラック17はそんなことを思いながら、しかしこの2人、余所の組織のエージェントにやたらフレンドリー(親友感覚)な接し方をしてくるのは何とかならないものか、などと考えてしまう。
 いや、余計なことを考えるのはこの辺にしておこう…ブラック17は静かに口を開いた。
「行きましょうか」



「あたしは積荷にまぎれて潜入するわ。これがいちばん安全で確実なのよね」
 そう言うと、アントワネッタはこれから船積みされる予定の木箱の中に身を隠した。
 しばらくしてアントワネッタが隠れている木箱が船倉に搬入されるのを見届けたあと、ゴグロンがエンチャントつきの戦斧を抜き、堂々と船に近づいていく。
「それじゃあ、オレは正面から乗り込むとするかな。なぁに、たんなる陽動だから、騒ぎが大きくなり過ぎないよう努力はするさ」
「わたしはバルコニーから直接船長室に潜入する。中で会いましょう」
「おう」
 ゴグロンと分かれてから、甲板上でちょっとした騒ぎが起きる様子を見届け、ブラック17は誰にも見つからないよう素早く船に乗り込んだ。バルコニーにすべりこむ。
 しかし、船長室の扉はかなり厳重に施錠されており、手持ちの道具では開けられそうにない。
 一瞬焦ったが、ブラック17は落ち着きを取り戻すと、冷静に窓を観察した。案の定、扉のすぐ横に配置されている窓の施錠はそれほど難度が高い代物ではなかった。
 慎重に窓を明け、船長室に忍び込む。潜入したブラック17の目の前に、船長のガストン・タッソーがちょうど背を向ける形で椅子に腰掛けている。どうやら食事中のようだ。



「!?」
 ブラック17はガストンが腰にぶら下げていた長身のカトラスを抜くと、おもむろに椅子の背もたれごと心臓を貫く。
「自分の得物で殺される気分はどう?船長さん」
「あ、が…がっ……!!」
 苦しみのあまり、ガストンはブラック17の問いかけに答えることなく血のあぶくを吐き出し、前のめりに倒れる。テーブルに突っ伏したガストンの腕が、卓上に並べられていたディナーをはねのけて床にぶちまけた。
 目標の暗殺に成功したと思ったのも束の間、バルコニーとは反対側の扉がガンガンと叩かれる。
『せ、船長、船長!何者かが侵入してきました、仲間が次々と殺されてます!指示を、しっ、指示……!』
 どうやらガストンの手下の海賊のものと思われる悲鳴が聞こえてくる。
 ブラック17が身構えるのとほぼ同時に扉が開き、アルゴニアンの海賊が吹っ飛んできた。



「雑魚め、逃げるんじゃねぇっ!」
「ひ、ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!??」
 すっかり恐慌をきたし、顔が恐怖に歪んだ海賊に続いて、まったく無傷のゴグロンが血塗れた斧を片手に大股で近づいてくる。
「た、助けてくれ!金ならやる、なんなら積荷から好きなもんをなんでも持ってい…ぐえ」
 命乞いをする海賊の頭を、ゴグロンは斧の柄で容赦なくかち割る。
 糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる海賊の死体を無感動に見つめながら、ブラック17は口を開いた。
「雑魚はそれで全部?」
「甲板にいた連中はな。しかし、背中から心臓を一突きとはな。なかなかやるじゃねぇか」
 ゴグロンは串刺しにされたガストンの死体を一瞥し、ブラック17に控え目な賛辞を送る。
 そのとき船室に続く落とし戸が開き、先に潜入していたアントワネッタが船長室に上がってきた。
「船倉にいた連中はみんな片付けたわよ、17…あら、ゴグロンもいたの?相変わらず仕事が早いわね」



「標的は消したし、目撃者になりそうな連中もみんな始末した。問題はないよな?」
 互いの無事を確認し、ゴグロンは船長室のベッドに腰かけるブラック17に向かって言った。
「しかしまあ、なんだ。前の仕事で建物ごとふっ飛ばしたっていうからどうなるかと思ってたが、静かに動くこともできるんじゃねえか。感心したぜ」
「あたしにとってはゴグロン、あなたが騒ぎを大きくせずに行動できたことのほうが驚きだけどね」
「やっぱりそうか?」
 アントワネッタからの突っ込みを受け、ゴグロンはガハハと笑い声を上げる。
 これだ、とブラック17は思った。この仲の良い友達、あるいは家族のような雰囲気の接し方がどうにも苦手なのだ。すくなくとも、自分がいた組織でこのようなやり取りを交わした覚えはない。
 気に入らないな…笑顔で談笑するゴグロンとアントワネッタを見つめながら、ブラック17はふと、そんなことを考えた。



「脱出しましょう」
 不満を口に出すかわりに、ブラック17は簡潔な言葉を口にする。
 帝国軍の衛兵がふたたび港湾地区のパトロールに戻る頃、マリー・エレーナ号に残されているのは多数の海賊たちの死体だけだった。



[ to be continued... ]


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