主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
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2012/07/21 (Sat)20:23
「あーあ、先生に怒られちゃったなぁ…」
スキングラードからコロールへと続く街道。
魔術師ギルドの一員であり魔術大学の会員でもあるミレニアは、錬金術の師匠であるシンデリオンのもとへ手伝いに来たときに、たまたまシンデリオンと謎のアルゴニアンの剣士(=ドレイク)が内密の話をしているところに出くわしてしまい、研究室を追い出されてしまったのだ。
傷心のまま町を出たところで、ミレニアは魔術大学の使者から「コロールの領主アリアナ・ヴァルガ伯爵夫人へ手紙を渡す」という仕事を頼まれ、そしていま、パトロール中の帝都巡回兵に同伴してもらっているのである。
「たまたま行き先が同じで良かったよ。さもなければ断っていたところだからな」
「えー、まさかぁ。冗談でしょ?」
馬の上で談笑する2人。しかしまさか、巡回兵が本当に「進行方向が逆」という理由で少女の護衛を断ったことがあるなどとは、ミレニアは露とも思っていない。
「わたしはミレニア・マクドゥーガル、魔術大学からの書簡を届けるため帝都より参りました。このたびの謁見、感謝しております」
「あらまぁ、可愛らしい魔法使いさんだこと。どうか顔を上げて、そんなに卑屈にならなくても結構よ」
「恐れ入ります…」
コロール城に到着したミレニアは、さっそく伯爵夫人と面会していた。
うやうやしく手渡された書簡にざっと目を通すと、ヴァルガ夫人は満足したように目を細め、口を開く。
「わかりました。この件については追ってこちらから連絡を差し上げましょう。長旅で疲れたでしょう?客人用の寝室が用意してあるはずですから、今日はそこでゆっくり休んで頂戴な」
「お気遣い、感謝いたします」
温厚な表情を見せるヴァルガ夫人に、ミレニアは馬鹿に丁寧な態度で答える。
うう、やっぱり偉い人って苦手だなぁ…妙にプレッシャーがかかるし…などと考えつつ、ミレニアがその場から辞退しようとしたとき、不意に彼女をヴァルガ夫人が呼び止めた。
「ときに貴女、ねえ、ちょっと時間は空いてるかしら?」
「え、あ、はい!?」
予想していなかった言葉にミレニアは動揺し、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。
周囲にいた相談役や護衛の兵士があからさまにミレニアを睨みつけてきたが、当のヴァルガ夫人だけは何もなかったかのように話を続けた。
「じつは貴女に、折り入って頼みたいことがあるのだけれど。いえ、魔術大学の会員としてではなく一個人としてよ?勿論、身元が保障されているギルド会員だからという前提はあるのだけれど」
「はぁ…」
ヴァルガ夫人がミレニアに依頼してきたのは、いまは亡き夫ヴァルガ伯爵が描かれた肖像画を盗んだ犯人の捜索だった。
肖像画はヴァルガ夫人に寝室に飾ってあったもので、城の警備が厳重であったことから内部の人間によるものと断定。いまのところ容疑者は2人にまで絞り込むことができたが、城内の人間では友好感情や欲得、立場の相違による偏見などから冷静に判断できないとヴァルガ夫人は考え、今回は特別に外部の人間を雇って解決に当たらせるという。
「あの肖像画は、いまの私にとって亡き夫そのものなの。たんなる権力誇示のためのシンボルや、ただ金銭的価値のある美術品というだけのものではないわ。お願い、協力してくださらないかしら?」
そう言うヴァルガ夫人の表情は、悲哀に満ちていて…とてもじゃないが、断れるような雰囲気ではない。というか断ったら十中八九、従者に斬り捨てられるだろう。
だから護衛の人、そんなに怖い顔で睨まないでくださいってば。
「わかりました。わたしでよければ、伯爵夫人のために全力を尽くしますわ」
こうべを垂れながら、ミレニアはどこか釈然としない気分のまま、そう口に出していた。
「おや、ずいぶんと可愛らしい探偵さんね。あなたが、伯爵夫人の雇った魔術大学のグリコ?」
「メイジ(Mage=魔術師)です。グリコでもモリナガでもヤクルトでもありません」
承諾してしまった以上は、きちんと犯人探しをしなければならないだろう。
ということでミレニアはいま、もっとも有力な容疑者候補の1人である宮廷魔術師のシャネルから事情聴取をしていた。肉体的に優れた種族であるレッドガードにしては珍しい職業だが。
「あの日はたしか…」
シャネルはミレニアに、肖像画が盗まれた前後の行動をすらすらと口に出していく。アリバイが証明できるかどうかを別にすれば、特に怪しむべき箇所はない。
別れ際、シャネルは子供の遣いを見守る近所のおばさんのような笑みを浮かべて言った。
「ガンバンナサイネー」
「なんだ、こんな脳味噌まで小さそうなガキを雇ったのか。伯爵夫人もとうとうボケがはじまったか、えぇ?」
「冤罪でもいいからアンタを突き出したくなったわ…」
事件当日にアリバイが証明できなかった2人のうちの1人、運搬業者のオーグノルフ。昼間だというのにアルコール臭く、その態度は尊大にして傲慢だった。いかにもなオヤジである。
額に血管を浮き立たせるミレニアを見下すように、オーグノルフは小馬鹿にした口調で罵倒してくる。
「いいぜ、証拠があるってんならいつでも俺を告発しろよ。無理だろうがね…俺は犯人じゃないからな。そして伯爵夫人は冤罪を絶対に許さないだろうよ。さぁ、俺につきまとうのが無駄だとわかったら、とっとと道を空けてくれないか。つまづいて転んじまうだろ」
「ぐぬぬ…!!」
その後も、関係者から話を聞いていくミレニア。
アリバイが曖昧で、証拠も見つからないのであれば、ひとまずは動機を調べるのが定石だ。
「オーグノルフはアル中で金遣いが荒く、最近特に金を無心するようになっている。一方、シャネルさんに動機らしいものはないものの、行動に不審な点があるとかないとか」
顎に手を当てながら、調査に使ったメモを読み返していく。
「2人とも、夜中に城の西塔でコソコソと行動していることがあるんですよね。まず、そのへんから調べてみますか」
「これはオーグノルフが隠れて酒を飲んでたって証拠ですよね」
ランタンで照らした先に、飲みかけのワインの瓶が置いてある。オークの従者オログ・グロ=ゴースの証言によると、夜中、西塔で隠れて酒を飲んでいたオーグノルフを何度か叱責したことがあったという。
瓶の口に鼻先を近づけてみると、葡萄とアルコールに混じって、たしかにオーグノルフの口臭が嗅ぎ取れる。
「…これは……?」
風景画、だろうか?
ほとんど物置として使われている西塔地下に、巨大な絵画が置かれていた。
「作業スペースが確保されている。この周囲だけ清掃されている…絵が埃をかぶらないように?顔料の発色具合からいって、描かれて間もないもの…?」
城内に、絵画を隠れた趣味にしている者がいるのだろうか?この作業環境からいって、趣味を公にしているものとは考えにくい。しかし、こんな<なんてことのない絵>を描くのを秘密にしなければならない理由とはなんだろう。
「どれも決め手に欠けるなぁ…」
ミレニアは悩んだ末、最後の手段に訴えることにした。すなわち、容疑者の部屋の捜索である。もちろん堂々とできるわけはないので、部屋の主がいない間にこっそりと行なうのである。はっきり言って、魔術師のやることではないが…
「うわー、こんなに沢山の酒を隠し持って…タミカの399年モノまである。勿体無いけど…いいや、洗剤混ぜとけ」
まずはオーグノルフの部屋。
衛生状態に無頓着な独身男の住まい独特の臭気を放つ部屋の片隅に置いてあるチェストの鍵を外し、オーグノルフのささやかなワイン・コレクションをぶち壊しにしようと企むミレニア。
「これは…絵描き道具、ですよね」
続いてシャネルの部屋に潜入したミレニアは、書見台に隠すように収納されていた絵画道具一式を見て頭を捻る。
真夜中。
ミレニアは<犯人>の部屋にふたたび赴くと、今度は<犯人>としっかり顔を合わせ、そして話を切り出した。
「あなたですね?肖像画を盗んだのは」
「どうして…ばれちゃったのかしらね」
レッドガードの宮廷魔術師、シャネル。
「オーグノルフに関する調査結果は、あくまで彼がアル中であることを証明するだけのものでしかありませんでした。個人的に残念な結果ですが、彼の不遜な態度については個人的に復讐しましたんで、まぁいいです」
「…?なんだか、よくわからないけど」
「こっちの話です。それにね、美術品の故売って、すごく難しいんですよ。今回のような特別なモノは特に。リスクを承知してまで買い取ろうとするコレクターは限られていますし、そっち方面にコネがあれば、そういう取り引きがあったかどうかはすぐにわかるんです。すくなくとも、チンピラが小遣い稼ぎで手を出せるような商売ではないんですよ。オーグノルフは言うに及ばず」
「そうかい。ふつう、オーグノルフが酒代を工面するために絵画を売り飛ばしたって筋書きで行動するもんだと思ってたからねえ」
「絵画のような一般的な趣味を隠すべきではありませんでしたね。それに、キャンバスに塗られて間もない顔料は独特の臭いがします。絵画とは縁のない環境にあるこの城の人たちは、それとは気づかなかったようですが…変わった香水だとでも思ったんでしょう、あなたからはいつも溶剤の匂いがします。伯爵の肖像画は、クローゼットの裏ですか?」
「正解だよ。鼻がいいんだね」
「それなりに。あともう1つ、オーグノルフよりはあなたのほうがカマかけには弱いと思ったんですよ」
「…なんですって?」
ミレニアの何気ない一言で、シャネルの顔面が蒼白になる。
「あんた、わたしを騙して…!」
「全部ウソってわけじゃないですけど、じつはあなたが肖像画を盗んだっていう、決定的な証拠は見つからなかったんですよ。どうしますか、ここでわたしを口封じすればシラを切り通せるかもしれません」
「…やめておくわ。なんだかもう、疲れちゃったしね」
そこまで言って、シャネルはがっくりとうなだれた。
弱々しく震える肩に手をかけ、ミレニアはそっと尋ねた。
「理由を、聞いてはいけないですか?」
「…わたしは伯爵を心から敬愛していた。だから、あの誰が描いたかもわからない肖像画がずっと気に入らなかったの。伯爵の持つ高潔な魂をまるで表現できていない、上っ面だけを描いたおざなりな絵。だからわたしが手直しをしたかったけど、伯爵夫人は許可を下さらなかった。もう何年も前の話よ」
「あなたの言い分はわかります。でも、伯爵夫人はあの絵を不完全だ、などとは思っていなかったはずですよ。なぜなら伯爵夫人はあの絵を美術品として完成度が高いかどうかではなく、純粋に亡き夫の忘れ形見として大切にしてきたんですから。それはもちろん、たんに捉え方の違いでしかないですけど」
「そうね…きっとそうでしょうね」
「あの。自首、しませんか?」
「えっ?」
予期せぬミレニアの言葉に、シャネルは思わず顔を上げる。
「個人的な都合とはいえ、あなたの場合は酌量の余地があります。なにより、わたしが告発するよりも罪は軽くしてもらえるでしょう。それに、伯爵夫人の心を傷つけたことに変わりはありませんし…金銭目当てだろうと、個人的な事情だろうと、その一点に関しては公平に裁かれるべきだと思います。理解してくれますか?」
ミレニアの言葉、そして真っ直ぐに見つめ返してくる視線を受けて、シャネルはゆっくりと頷くと、感情の箍が外れたかのように、その場に伏して泣きはじめた。
「今朝、シャネルが自首してきたわ。貴女も、ご苦労様でした」
翌日、謁見の間にて。
若干寝不足気味のミレニアはヴァルガ夫人と対面して早々、その事実を聞かされたのだった。
「彼女に自首を勧めたのは貴女でしょう?たいして縁のない土地で、ここまで親身に考えてくださって、なんとお礼をしたらいいのか」
「そんな、お礼なんて。ところで彼女は…シャネルはどうなるんでしょう?」
「本来なら禁固刑に処するところですが、彼女の感情も理解できます。とはいえ犯罪は犯罪です、処罰せねば民衆に示しがつきません。したがって、シャネルはコロールから永久追放としました」
「そう、ですか…」
罪状を考えれば、厳しくもなく、甘くもなく…といったところだろうか。
長年仕えてきた城を追い出されたシャネルは、これからどうするのだろうか。またどこかの城に魔術師として仕えるのか、それとも静かな土地で絵でも描いて過ごすのだろうか。
「あ、そうそう。これ、お返しします」
ミレニアは思い出したようにそう言うと、ポケットから城内のたいていの鍵を開けられるマスターキーをヴァルガ夫人に手渡した。今回の調査の間だけ、という条件で貸し出してもらったものである。
報酬としてそれなりの量の金貨を提示したヴァルガ夫人の好意を丁重に断り、城下町に出たミレニアは、友人の母が経営している雑貨店<ノーザングッズ商店>へと顔を出した。
「やっほー、ダーちゃん。お酒飲みに行こうよ」
「あらミレニア、ひさしぶり。どうしたの、羽振りがいいじゃない」
「ちょっと臨時収入があってね」
アルゴニアンのダー=マの腕を引きながら、ミレニアは金貨や宝石などが詰まったポケットをポンと叩く。鍵束には、コロール城のマスターキーの<複製品>がぶら下がっていた。
先日、ミレニアがこっそり侵入したのは容疑者の部屋だけではなかった。調査の名目であらゆる場所を探索したとき、金目のものをそれとなく物色していたのだ。それも、すぐには気づかれない場所に置いてあるものばかり。
思えば、ミレニアの行動や言動は、たんなる魔術師にしては奇妙な点が多く…
「…まさか、わたしが魔術師ギルドと盗賊ギルドの二足の草鞋だなんてこと、想像もしてなかったんだろーなあ」
「なにか言った?」
「ううん、なんにも?」
[ to be continued... ]
スキングラードからコロールへと続く街道。
魔術師ギルドの一員であり魔術大学の会員でもあるミレニアは、錬金術の師匠であるシンデリオンのもとへ手伝いに来たときに、たまたまシンデリオンと謎のアルゴニアンの剣士(=ドレイク)が内密の話をしているところに出くわしてしまい、研究室を追い出されてしまったのだ。
傷心のまま町を出たところで、ミレニアは魔術大学の使者から「コロールの領主アリアナ・ヴァルガ伯爵夫人へ手紙を渡す」という仕事を頼まれ、そしていま、パトロール中の帝都巡回兵に同伴してもらっているのである。
「たまたま行き先が同じで良かったよ。さもなければ断っていたところだからな」
「えー、まさかぁ。冗談でしょ?」
馬の上で談笑する2人。しかしまさか、巡回兵が本当に「進行方向が逆」という理由で少女の護衛を断ったことがあるなどとは、ミレニアは露とも思っていない。
「わたしはミレニア・マクドゥーガル、魔術大学からの書簡を届けるため帝都より参りました。このたびの謁見、感謝しております」
「あらまぁ、可愛らしい魔法使いさんだこと。どうか顔を上げて、そんなに卑屈にならなくても結構よ」
「恐れ入ります…」
コロール城に到着したミレニアは、さっそく伯爵夫人と面会していた。
うやうやしく手渡された書簡にざっと目を通すと、ヴァルガ夫人は満足したように目を細め、口を開く。
「わかりました。この件については追ってこちらから連絡を差し上げましょう。長旅で疲れたでしょう?客人用の寝室が用意してあるはずですから、今日はそこでゆっくり休んで頂戴な」
「お気遣い、感謝いたします」
温厚な表情を見せるヴァルガ夫人に、ミレニアは馬鹿に丁寧な態度で答える。
うう、やっぱり偉い人って苦手だなぁ…妙にプレッシャーがかかるし…などと考えつつ、ミレニアがその場から辞退しようとしたとき、不意に彼女をヴァルガ夫人が呼び止めた。
「ときに貴女、ねえ、ちょっと時間は空いてるかしら?」
「え、あ、はい!?」
予想していなかった言葉にミレニアは動揺し、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。
周囲にいた相談役や護衛の兵士があからさまにミレニアを睨みつけてきたが、当のヴァルガ夫人だけは何もなかったかのように話を続けた。
「じつは貴女に、折り入って頼みたいことがあるのだけれど。いえ、魔術大学の会員としてではなく一個人としてよ?勿論、身元が保障されているギルド会員だからという前提はあるのだけれど」
「はぁ…」
ヴァルガ夫人がミレニアに依頼してきたのは、いまは亡き夫ヴァルガ伯爵が描かれた肖像画を盗んだ犯人の捜索だった。
肖像画はヴァルガ夫人に寝室に飾ってあったもので、城の警備が厳重であったことから内部の人間によるものと断定。いまのところ容疑者は2人にまで絞り込むことができたが、城内の人間では友好感情や欲得、立場の相違による偏見などから冷静に判断できないとヴァルガ夫人は考え、今回は特別に外部の人間を雇って解決に当たらせるという。
「あの肖像画は、いまの私にとって亡き夫そのものなの。たんなる権力誇示のためのシンボルや、ただ金銭的価値のある美術品というだけのものではないわ。お願い、協力してくださらないかしら?」
そう言うヴァルガ夫人の表情は、悲哀に満ちていて…とてもじゃないが、断れるような雰囲気ではない。というか断ったら十中八九、従者に斬り捨てられるだろう。
だから護衛の人、そんなに怖い顔で睨まないでくださいってば。
「わかりました。わたしでよければ、伯爵夫人のために全力を尽くしますわ」
こうべを垂れながら、ミレニアはどこか釈然としない気分のまま、そう口に出していた。
「おや、ずいぶんと可愛らしい探偵さんね。あなたが、伯爵夫人の雇った魔術大学のグリコ?」
「メイジ(Mage=魔術師)です。グリコでもモリナガでもヤクルトでもありません」
承諾してしまった以上は、きちんと犯人探しをしなければならないだろう。
ということでミレニアはいま、もっとも有力な容疑者候補の1人である宮廷魔術師のシャネルから事情聴取をしていた。肉体的に優れた種族であるレッドガードにしては珍しい職業だが。
「あの日はたしか…」
シャネルはミレニアに、肖像画が盗まれた前後の行動をすらすらと口に出していく。アリバイが証明できるかどうかを別にすれば、特に怪しむべき箇所はない。
別れ際、シャネルは子供の遣いを見守る近所のおばさんのような笑みを浮かべて言った。
「ガンバンナサイネー」
「なんだ、こんな脳味噌まで小さそうなガキを雇ったのか。伯爵夫人もとうとうボケがはじまったか、えぇ?」
「冤罪でもいいからアンタを突き出したくなったわ…」
事件当日にアリバイが証明できなかった2人のうちの1人、運搬業者のオーグノルフ。昼間だというのにアルコール臭く、その態度は尊大にして傲慢だった。いかにもなオヤジである。
額に血管を浮き立たせるミレニアを見下すように、オーグノルフは小馬鹿にした口調で罵倒してくる。
「いいぜ、証拠があるってんならいつでも俺を告発しろよ。無理だろうがね…俺は犯人じゃないからな。そして伯爵夫人は冤罪を絶対に許さないだろうよ。さぁ、俺につきまとうのが無駄だとわかったら、とっとと道を空けてくれないか。つまづいて転んじまうだろ」
「ぐぬぬ…!!」
その後も、関係者から話を聞いていくミレニア。
アリバイが曖昧で、証拠も見つからないのであれば、ひとまずは動機を調べるのが定石だ。
「オーグノルフはアル中で金遣いが荒く、最近特に金を無心するようになっている。一方、シャネルさんに動機らしいものはないものの、行動に不審な点があるとかないとか」
顎に手を当てながら、調査に使ったメモを読み返していく。
「2人とも、夜中に城の西塔でコソコソと行動していることがあるんですよね。まず、そのへんから調べてみますか」
「これはオーグノルフが隠れて酒を飲んでたって証拠ですよね」
ランタンで照らした先に、飲みかけのワインの瓶が置いてある。オークの従者オログ・グロ=ゴースの証言によると、夜中、西塔で隠れて酒を飲んでいたオーグノルフを何度か叱責したことがあったという。
瓶の口に鼻先を近づけてみると、葡萄とアルコールに混じって、たしかにオーグノルフの口臭が嗅ぎ取れる。
「…これは……?」
風景画、だろうか?
ほとんど物置として使われている西塔地下に、巨大な絵画が置かれていた。
「作業スペースが確保されている。この周囲だけ清掃されている…絵が埃をかぶらないように?顔料の発色具合からいって、描かれて間もないもの…?」
城内に、絵画を隠れた趣味にしている者がいるのだろうか?この作業環境からいって、趣味を公にしているものとは考えにくい。しかし、こんな<なんてことのない絵>を描くのを秘密にしなければならない理由とはなんだろう。
「どれも決め手に欠けるなぁ…」
ミレニアは悩んだ末、最後の手段に訴えることにした。すなわち、容疑者の部屋の捜索である。もちろん堂々とできるわけはないので、部屋の主がいない間にこっそりと行なうのである。はっきり言って、魔術師のやることではないが…
「うわー、こんなに沢山の酒を隠し持って…タミカの399年モノまである。勿体無いけど…いいや、洗剤混ぜとけ」
まずはオーグノルフの部屋。
衛生状態に無頓着な独身男の住まい独特の臭気を放つ部屋の片隅に置いてあるチェストの鍵を外し、オーグノルフのささやかなワイン・コレクションをぶち壊しにしようと企むミレニア。
「これは…絵描き道具、ですよね」
続いてシャネルの部屋に潜入したミレニアは、書見台に隠すように収納されていた絵画道具一式を見て頭を捻る。
真夜中。
ミレニアは<犯人>の部屋にふたたび赴くと、今度は<犯人>としっかり顔を合わせ、そして話を切り出した。
「あなたですね?肖像画を盗んだのは」
「どうして…ばれちゃったのかしらね」
レッドガードの宮廷魔術師、シャネル。
「オーグノルフに関する調査結果は、あくまで彼がアル中であることを証明するだけのものでしかありませんでした。個人的に残念な結果ですが、彼の不遜な態度については個人的に復讐しましたんで、まぁいいです」
「…?なんだか、よくわからないけど」
「こっちの話です。それにね、美術品の故売って、すごく難しいんですよ。今回のような特別なモノは特に。リスクを承知してまで買い取ろうとするコレクターは限られていますし、そっち方面にコネがあれば、そういう取り引きがあったかどうかはすぐにわかるんです。すくなくとも、チンピラが小遣い稼ぎで手を出せるような商売ではないんですよ。オーグノルフは言うに及ばず」
「そうかい。ふつう、オーグノルフが酒代を工面するために絵画を売り飛ばしたって筋書きで行動するもんだと思ってたからねえ」
「絵画のような一般的な趣味を隠すべきではありませんでしたね。それに、キャンバスに塗られて間もない顔料は独特の臭いがします。絵画とは縁のない環境にあるこの城の人たちは、それとは気づかなかったようですが…変わった香水だとでも思ったんでしょう、あなたからはいつも溶剤の匂いがします。伯爵の肖像画は、クローゼットの裏ですか?」
「正解だよ。鼻がいいんだね」
「それなりに。あともう1つ、オーグノルフよりはあなたのほうがカマかけには弱いと思ったんですよ」
「…なんですって?」
ミレニアの何気ない一言で、シャネルの顔面が蒼白になる。
「あんた、わたしを騙して…!」
「全部ウソってわけじゃないですけど、じつはあなたが肖像画を盗んだっていう、決定的な証拠は見つからなかったんですよ。どうしますか、ここでわたしを口封じすればシラを切り通せるかもしれません」
「…やめておくわ。なんだかもう、疲れちゃったしね」
そこまで言って、シャネルはがっくりとうなだれた。
弱々しく震える肩に手をかけ、ミレニアはそっと尋ねた。
「理由を、聞いてはいけないですか?」
「…わたしは伯爵を心から敬愛していた。だから、あの誰が描いたかもわからない肖像画がずっと気に入らなかったの。伯爵の持つ高潔な魂をまるで表現できていない、上っ面だけを描いたおざなりな絵。だからわたしが手直しをしたかったけど、伯爵夫人は許可を下さらなかった。もう何年も前の話よ」
「あなたの言い分はわかります。でも、伯爵夫人はあの絵を不完全だ、などとは思っていなかったはずですよ。なぜなら伯爵夫人はあの絵を美術品として完成度が高いかどうかではなく、純粋に亡き夫の忘れ形見として大切にしてきたんですから。それはもちろん、たんに捉え方の違いでしかないですけど」
「そうね…きっとそうでしょうね」
「あの。自首、しませんか?」
「えっ?」
予期せぬミレニアの言葉に、シャネルは思わず顔を上げる。
「個人的な都合とはいえ、あなたの場合は酌量の余地があります。なにより、わたしが告発するよりも罪は軽くしてもらえるでしょう。それに、伯爵夫人の心を傷つけたことに変わりはありませんし…金銭目当てだろうと、個人的な事情だろうと、その一点に関しては公平に裁かれるべきだと思います。理解してくれますか?」
ミレニアの言葉、そして真っ直ぐに見つめ返してくる視線を受けて、シャネルはゆっくりと頷くと、感情の箍が外れたかのように、その場に伏して泣きはじめた。
「今朝、シャネルが自首してきたわ。貴女も、ご苦労様でした」
翌日、謁見の間にて。
若干寝不足気味のミレニアはヴァルガ夫人と対面して早々、その事実を聞かされたのだった。
「彼女に自首を勧めたのは貴女でしょう?たいして縁のない土地で、ここまで親身に考えてくださって、なんとお礼をしたらいいのか」
「そんな、お礼なんて。ところで彼女は…シャネルはどうなるんでしょう?」
「本来なら禁固刑に処するところですが、彼女の感情も理解できます。とはいえ犯罪は犯罪です、処罰せねば民衆に示しがつきません。したがって、シャネルはコロールから永久追放としました」
「そう、ですか…」
罪状を考えれば、厳しくもなく、甘くもなく…といったところだろうか。
長年仕えてきた城を追い出されたシャネルは、これからどうするのだろうか。またどこかの城に魔術師として仕えるのか、それとも静かな土地で絵でも描いて過ごすのだろうか。
「あ、そうそう。これ、お返しします」
ミレニアは思い出したようにそう言うと、ポケットから城内のたいていの鍵を開けられるマスターキーをヴァルガ夫人に手渡した。今回の調査の間だけ、という条件で貸し出してもらったものである。
報酬としてそれなりの量の金貨を提示したヴァルガ夫人の好意を丁重に断り、城下町に出たミレニアは、友人の母が経営している雑貨店<ノーザングッズ商店>へと顔を出した。
「やっほー、ダーちゃん。お酒飲みに行こうよ」
「あらミレニア、ひさしぶり。どうしたの、羽振りがいいじゃない」
「ちょっと臨時収入があってね」
アルゴニアンのダー=マの腕を引きながら、ミレニアは金貨や宝石などが詰まったポケットをポンと叩く。鍵束には、コロール城のマスターキーの<複製品>がぶら下がっていた。
先日、ミレニアがこっそり侵入したのは容疑者の部屋だけではなかった。調査の名目であらゆる場所を探索したとき、金目のものをそれとなく物色していたのだ。それも、すぐには気づかれない場所に置いてあるものばかり。
思えば、ミレニアの行動や言動は、たんなる魔術師にしては奇妙な点が多く…
「…まさか、わたしが魔術師ギルドと盗賊ギルドの二足の草鞋だなんてこと、想像もしてなかったんだろーなあ」
「なにか言った?」
「ううん、なんにも?」
[ to be continued... ]
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