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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)01:51
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2016/07/31 (Sun)03:52





 プリムの町を解放したブレンダは、モハビ・エクスプレスの支店長ジョンソン・ナッシュと元保安官補のビーグルの情報から、自分が追っている男キャリア・シックスがクレイブ本人であることを確認する。
 クレイブを襲い、ブレンダを撃った謎の一団がニプトン経由でノバックへ向かったことを知ったブレンダは、プリムで小休憩したのち出発の準備をはじめる。










「なにをやっているんだ?」
「いや、やっぱりストックは長いほうがいいかと思って」
 パウダーギャングたちが立て篭もっていたバイソン・スティーブホテルで睡眠を取ったあと、ブレンダはギャングの一人が持っていたショットガンの銃床を切り落とし、ドック・ミッチェルから譲ってもらったときすでに銃床が削られていた自分のショットガンに継ぎ足しで移植するという器用なことをやっていた。
 作業がやりやすいよう銃身を外し、スウィッチ・ブレードで外形を整える。
 サラとエックス・テックは普段からこのホテルを利用していたらしく、多少荒らされはしたものの、ギャングたちの手から取り戻せたことを素直に喜んでいた。もっとも血の池風呂と化したホールを掃除しなければならないとわかったときは、露骨に嫌そうな顔をしたが。
 ホールは未だに硝煙の残り香が漂っており、血の匂いも完全に消えたわけではない。そんな場所で眠るのは、平和な世界であれば正気の沙汰ではなかったろう。
 もっともブレンダにとって、雨風を凌ぐことができ、ついでに銃弾が飛んでくる心配がなければ、それはもう上等な寝床であった。すくなくともワシントンではそうだったし、ここモハビでもそう違いはないだろう、と彼女は思っていた。
「あんた、ブレンダ、だっけ、モハビに来てからの記憶がないって言ってたわね」不意にサラが尋ねる。「じゃあ、その前の記憶はあるんだ?」
「ワシントンにいたときのことは。多少は」
 なにせ一度死んでいるし、しかも頭を撃たれたあとだから、とまでブレンダは言わなかった。
 昔の記憶もあまり鮮明ではなく、要所は覚えているが、はっきりとしたイメージを出力することができない。それはブレンダの物覚えが特に悪いというわけではなく、もともと人間の記憶というのが曖昧にできているに過ぎないのだが。
 なにか聞きたいことでもあるのか、と言うブレンダに、サラは質問した。
「どこで戦い方を覚えたの?軍隊?」
「みたいなものかな。昔付き合ってた男が、アウトキャストっていう組織の出身でね。彼に戦い方を教わったんだ。随分世話を焼いてもらった」
 それはクレイブに出会う以前、ユニオン・テンプルの用心棒になる前の話だ。
 まだティーンエイジャーだった頃、ブレンダの故郷はレイダーの襲撃を受け、大勢の同胞が殺された。殺された人間のなかにはブレンダの両親も含まれていた。そしてブレンダは生き残った同胞の多くとともに奴隷として使役され、屈辱の日々を送ることになる。
 数年後、ブレンダの故郷を根城に略奪行為を続けていたレイダーたちは、ウェイストランドをパトロール中だったアウトキャストの部隊と偶然接触してしまい、銃撃戦に発展。
 レイダーは皆殺しにされ、多くの奴隷が銃撃戦に巻き込まれ死んだなかで、ただ一人ブレンダだけが生き残る。手足が拘束され不自由な身であったにも関わらず、混乱した状況を利用して果敢にレイダーへ反撃を敢行したブレンダにアウトキャスト隊員の一人が興味を抱き、彼女を保護、インディペンデンス砦に連れ帰った。
 アウトキャストとともに生活し、彼らから生存術や戦闘技術を学んだブレンダは、ウェイストランドの人々(アウトキャスト曰く「野生の原住民」)に溶け込みつつロストテクノロジーの捜索をする非正規の連絡要員として活動。
 その素性を隠しながら放浪を続け、行き着いた先がユニオン・テンプルだった。
 彼女自身が元奴隷だったこともあり、奴隷解放を目的として行動するユニオン・テンプルの信条に素直に感銘を受けたブレンダはそれ以降、ほぼ私情のみで奴隷商人との戦いに身を投じていく。
 そしてあの傭兵、クレイブと出会い……
 ガリッ、そこまで考えたとき、ブレンダの手に余計な力が入った。銃床が妙な形に削れる。いかん、失敗だ、動揺した。癪に障る、こっちも話を振ってやれ。
「サラはどうなの?そのリボルバーと早撃ちはヴォールト・テックの趣味じゃないでしょう」






「この銃はね、兄さんの形見なんだ。ヴォールトがフィーンドに襲われたあと、兄さんは私を連れてヴォールトから脱出した。それから兄さんはずっと、私を守ってくれた…運悪くレイダーと撃ち合いになって、命を落とすまで。銃の撃ち方も、兄さんから教わったんだ」
 そう語るサラの表情は穏やかで、兄さん、と口にするときの発音が柔らかい。
 心底兄のことを敬愛していたのだろう、そこまで考えて、ブレンダはサラの話に奇妙な違和感を覚えた。
 サラとエックス・テックの姉妹は、フィーンドというレイダー集団の襲撃を受けたヴォールト3の生き残り…ジョンソン・ナッシュはそう言っていた。
「エックス・テックは一緒じゃなかったの?」
「うん。だからモハビ・エクスプレスでキティに会ったとき、ものすごく驚いた。たった一人でヴォールトを抜け出して、ここまで来たんだって」
「キティ?」
 ブレンダが首を傾げる、とほぼ同時に、エックス・テックが金切り声を上げた。
「おねーちゃん、その名前で呼ばないでって言ってるじゃん!」
「あんた、キティっていうの?」
「ちーがーうー!はぁ…私の本名は、ケイティ。昔っから、おねーちゃんがキティ(子猫ちゃん)なんて呼んでからかうから…ウェイストランドの連中にまでキティなんて呼ばれたらたまったもんじゃないから、ここではハンドル・ネームを名乗ってるわけ」
「ごめんごめん、ケイティ」サラが微笑む。
 まったく仲の良い姉妹だこと…ブレンダはそう思ったが、しかしエックス・テックの態度にはすこし引っかかるところがあった。
 いまも名前のことで不機嫌そうにしているが、彼女はサラが兄の話をはじめたときから、どこか不愉快そうな顔を見せていた。サラがキティの名を口にしたのは、むしろそんなエックス・テックをたしなめるためだったようにも見える。
 なんだろう?
 どうにも釈然としない部分が残るが、そこをあえて深く突っ込むほどブレンダは無粋ではなかった。
 人にはそれぞれ人なりの事情がある。もちろん自分にも、そして相手にも。







 あの姉妹のことはすこし気になったが、いますぐ探求欲を満たさなければならないような問題ではない。
 荷物を整えてバイソンスティーブ・ホテルを出たブレンダはサラとエックス・テックに見送られ、プリムを出発しようとしていた。
 陽はすでに傾きかけ、雲が夕日に照らされている。これからクレイブを追い、ノバックへ向かわなければ。そうだ、自分の記憶すら覚束ない状況で、他人の人生に首を突っ込む余裕などない。
 プリムに背を向けようとしたとき、ブレンダを呼び止める声があった。
「ハイ」
 エックス・テックだった。サラの姿はない、一人で追ってきたのだろう。






「あなたのこと、記事にしてもいい?」
「記事?」
「そういえば言ってなかったっけ、私、月イチで発行してる会報の編集をしてるんだ。運び屋があちこちで聞いた話や体験したことを記事に纏めるの、けっこう評判良いんだよ」
「そういえば君は広報担当だってジョンソンが言ってたな、そういうことか。会報の名前は?」
「モハビ・エクスプレス」
「そのまんまじゃん」
「そのまんまだけど!これが一番良い名前だと思ったんだよう、覚えやすいし。で、どう?」
「うーん…」
 頭を撃たれた女が奇跡の生還、という見出しを思い浮かべ、ブレンダは低い声で唸る。
 会社のために自分を切り売りする気はなかった(そもそもブレンダ自身はモハビ・エクスプレスの職員ではない)し、自分の存在や行動目的が不特定多数に知られては、今後の活動に支障が出るかもしれない。
 まして自分の過去が大衆を慰めるための三文記事に仕立て上げられる可能性を考えると、とてもじゃないが首を縦には振れなかった。
「他人のことを書くまえに自分のことでも書けば?ヴォールトでの体験とか。それとももう書いた?」
「…書いてない、けど」
「じゃあ、君の提案はフェアじゃないね」
 そこまで言って、ブレンダはもう一つ藪を突いてみようと思った。
「ところで君は、兄のことをどう思ってたの。お姉さんは随分懐いてたみたいだけど」
 おそらく彼女たちの兄はサラだけを助け、エックス・テックのことは置き去りにしたのだろう。ヴォールトを脱出した時期が異なるというのは、つまり、そういうことだとブレンダは考えた。
 もちろん妹一人を置き去りにした事情はあったのだろうが、そうだとしても、エックス・テックが兄を恨み、サラが兄を慕っていることに不満を覚えることに納得はできる。
 しかしエックス・テックの口から語られたのは、もっと飛躍した事実だった。
「…私たちに、兄なんていない」
「え?」
「いままでこの話は誰にもしたことがなかったし、絶対におねーちゃんの耳には入れたくない。けど、あなたは信頼できそうだし…ううん、そうじゃない、でも一人くらい知ってたって、一度くらい他人に話したって、いいと思わない?」
「なにが言いたいの?」
「お姫様にはロバの耳が生えてるってこと。もし興味があるなら教えるけど、ねえ…誰にも言わないでね。特におねーちゃんには」
 いったい、彼女たちの過去になにがあったというのか。
 すこしためらったあと、ブレンダは返事をした。
「…わかった」
 その後エックス・テックの口から語られた事実は、驚くべきものだった。






「ヴォールト3の隔壁が解放されて、いままでずっとシェルターで暮らしていた私たちが最初に接触した外界の人間がフィーンドたちだった。最初で最後のコンタクト、最悪の不運。あっという間に制圧されて、大勢が殺されて、残りは奴隷になった。で、おねーちゃんは…ものすごく酷い目に遭わされた。わかる?悪党がすべすべ肌のプリティ・ガールに対してやりたがるようなことを全部試されたってわけ」
「あなたは?」
「襲撃を受けたときすぐ通気口に逃げて、脱出する直前までずっとそこで息を潜めてた。だから酷い目には遭わなかった、そのことを自慢する気にはなれないけど。ときどき食料庫に忍び込んだり、脱出のための道具を揃えながら、おねーちゃんのことを観察してた。そのうちフィーンドの一人が特におねーちゃんを気に入っちゃって、そいつはおねーちゃんを連れて、仲間を裏切って…何人か撃って、ヴォールトを脱出した」






 そこでエックス・テックは一旦話を区切った。
 ブレンダはといえば、どう言葉を返していいのかわからなかった。
 サラとエックス・テックの姉妹の過去、その境遇は、レイダーの暴力によって破壊されたという点でブレンダとよく似ている。しかし細部は…歪(いびつ)、という表現がしっくりくる、とブレンダは思った。
 エックス・テックは、レイダーに嬲られる姉の姿を、どんな心境で見守っていたのだろうか。
 やがて彼女の話が再開する。
「そのあと私もヴォールトを出て、何度か死にそうになりながら、どうにかここまで辿り着いて、そしてジョンソンに拾ってもらったの。何年か経って、おねーちゃんに再会したときは…頭が変になったんじゃないかと思った。おねーちゃんは昔のことを何も覚えてなかったの。あたしのことも。あたしがおねーちゃんを見つけたときも、まるで知らない子を見るような目で…それに、兄。誰、それ?でもおねーちゃんは、小さいときからずっと兄と一緒に暮らしてたんだって、本気でそう言ってた」
「でも君の名前は覚えてたんじゃないの?ホラ、君のことをキティって」
「それは、私がそう教えたからそう言ってるだけ。おねーちゃんが私に関して知ってることはみんな、私から聞いたこと、それを知識として覚えているだけ。記憶が戻ったわけじゃない。可哀想なおねーちゃん」
 おねーちゃん、私のことをキティって呼んでからかってたでしょ?ねえ、なにも覚えてないの。思い出してよ…
 おそらくはそんなやり取りがあったに違いない、その光景を思い浮かべるのはじつに容易く、ブレンダは胸が詰まるような思いをする。
「それじゃあ、兄っていうのは…」
「みなまで言わないでね。そいつが、おねーちゃんに親切にしてたっていうのは本当みたい。だからなんだって話だけど。あのクソ野郎…いままで自分がやってきたことを全部ヴォールトに捨てて、人生やり直しってわけね。私と会う前に死んでくれてせいせいしてるけど。でも、おねーちゃんにそんなこと、言えるわけないでしょう?だから、おねーちゃんは大好きな兄さんと一緒にずっと旅をしてた、それがおねーちゃんの記憶なら、それはそれでいいんだ」
 そして、エックス・テックは笑った。ものすごく悲しそうな目で。







「ちくしょう、出発するまえに変な話を聞いちゃったな…」






 思わぬ秘密の共有者となってしまったブレンダは、たいした思慮もなしに他人のプライベートに首を突っ込むもんじゃないと改めて思っていた。といっても、話を聞いた後でそんな考えを持つのは失礼なのかもしれないが、今回に限ってはこちらが無理に迫ったわけでもなし、胸の内で後悔するくらいは許されるだろう。
 口外さえしなければいい、そのことを自分がどう思おうと、他人には関係ない。
 それよりもまずは我が身だ。キャリア・シックス…クレイブを追い、ノバックへと向かう。距離はかなり遠い、おそらくは多難な途(みち)となろう。
 高精度ライフルの銃杷を握りなおし、ブレンダは夕日を背に足を踏み出した。






 ネバダハイウェイ・パトロールステーションの周辺をうろつく武装集団を見かけたのは、すっかり空が藍色に染まり、コンクリートの放射熱で温まったぬるい風が肌を撫ではじめたときだった。
 幸いにしてネバダの秋は過ごしやすい気候で、昼夜の寒暖差もそれほど激しいものではない。
 たとえ真夏だったとしても、よく言われる砂漠特有の「昼は50度、夜は-50度」などといった極端な気温差には普通ならない。ああいうデータはいわば最高記録と最低記録を掛け合わせたもので、いささかの誇張と恣意的な解釈が含まれている。乗り物のカタログデータのようなものだ。
 もちろんネバダの気候をナメてかかると、痛い目を見るのは確かだが。
「さて…あいつらは何者だ?」
 藪に隠れて息を潜め、ブレンダは謎の集団を観察する。
 服装はバラバラで、いずれもラフなスタイルであることからNCRの兵士ではない。まだ遭遇したことはないが、噂に聞くシーザー・リージョンとも違うようだ。
 旅人か、商人か、あるいは…レイダーか。
 バックパックのサイドポケットにしまってあった地図を取り出し、ブレンダは現在地を確認した。
 このままルート15沿いを南下するのがもっとも安全だが(迂闊に道を外れると現在地を見失いかねない)、そうするとあの武装集団と接触することになる。どこまで範囲を広げているのかはわからないが、パトロールが出ているので、よほど遠回りをしない限りは捕捉される可能性がある。
 また遠回りをするなら東か西へ逸れることになるが、東のイヴァンパ・ドライレイク(名前からして干上がった湖と思われる)には巨大化したアリやサソリなどのクリッターが跋扈し、西のモスキート・マウンテン沿いは多数のフェラル・グールが出没している。いずれも安全ではない。
「しゃーない、ストレートにいくか」
 地図を畳んでポケットにしまい、ブレンダはふたたび武装集団に目をやる。
 PSG-1で片付けるのは簡単だ。だが相手の正体もわからないのに一方的に撃ち殺すのはキチガイ沙汰だし、なにより弾薬の手持ちが少ない。プリムでかなり使ってしまったうえ、補給が受けられなかった。プリムに駐屯していたNCR軍では.308口径弾の運用がなかったのだ。
 幸いにしていまは夜、闇に紛れて接近するまたとない機会だ。
 減音器つきピストルの装弾を確認し、マチェットを引き抜きながら、ブレンダは静かに建物へ接近した。





< Wait For The Next Deal... >








 どうも、グレアムです。意外と手間取ったプリム編、じつはサラとエックス・テックの登場は当初の予定にはなかったものです。
 この二人はもともと、以前から度々話題に出していたニューベガスの二次創作案「フォア・エイセズ」の登場人物としてデザインされたキャラでした。この話はニューベガス発売当初、コンシューマ版をプレイしていた当時に考えたもので、運び屋のサラはベニーの一団にプラチナチップと、そして兄の形見であるリボルバーを奪われ、それらを取り戻すために彼らを追跡する、というプロットでした。そう、サラはもともと主人公だったのです。
 といっても、当時アイデアだけで終わったこの話をいまさら書く気にはなれず、ならばせめてと、没ネタ供養の意味合いを込めて本作に登場させました。
 もともと鬱展開をやりたいがために考えた話で、それは今回出てきたサラとエックス・テックの過去エピソードからも片鱗が窺えると思いますが、とにかく登場人物を惨たらしく死なせよう!という露悪趣味ここに極まれりな展開を想定していて、当時はそういうのが大好きだったんですが、今となっては正直…
 展開としてはNCRルートでの進行になるんですが、ラストでリガタス・ラニウスを倒しながらも重症を負ったサラが生きる目的を見失って自問自答するなか、すべてをNCRの手柄とするための陰謀によってレンジャーの狙撃を受け死亡、という結末を考えていました。エックス・テックはフィーンドに捕らえられ拷問の末惨死、またNCRレンジャーでサラの協力者として登場するアンバーという女性兵士(前話で運び屋の一人として名前だけ出しました)はキンバル大統領暗殺の際に裏切り者と誤認されて処刑される、という内容でした。
 まあ、いま時間を割いて書くべきものでもないな、と。
 似たような境遇で、Fallout3のほうも没になった企画があって、そっちは半ミュータント化した少女が迫害を受けながらもエンクレイブとの戦いに身を投じる…という、そっちはそっちでアレでナニな展開の話が。これも何らかの形で再利用したいなあ。














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