主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2012/11/06 (Tue)13:47
星空の下で、いつもと変わらぬ夜闇と静寂があたりを包む。
松明を片手に定時パトロールをこなす王宮騎士は、休憩室に置いてある読みかけの本のことを考えながら、あくびを噛み殺した。
「はやく交代の時間にならないかなぁ…」
並の衛兵との格の違いを体言する白銀の鎧に身を包み、卓越した剣と弓の業を持ち併せながらも、やはり人の子である。
皇帝陛下が暗殺されたとはいえ、早々に日常に変化が訪れるわけでもない。
すわマッポーめいた波乱の時代の幕開けか、などと煽られたところで、王宮騎士という要職にあってさえ「いままで通りに仕事をしていれば、いままで通りの給料が貰えて、いままで通りの生活ができる」のである。
当然、危機感など生まれるはずもなく…
任務のことなど上の空だった王宮騎士は、目の前に現れた漆黒の影に、すぐに気づくことはできなかった。
「ドーモ。ナイトスレイヤーです」
「え?あ、あぁ、どうも…」
声をかけられてようやく相手の存在に気がつき、あまつさえ丁寧な口調で(いささか奇妙な訛りがあるようだが)挨拶されたことに対し、王宮騎士はまったく警戒することなく言葉を返す。
「こんな夜中に外を出歩いては危険だ。早く家に帰…」
そこまで言いかけて、王宮騎士はようやく、相手の風貌の異様さに気がついた。
王宮騎士の装備とはおよそ対を成す、漆黒の全身鎧。素顔をすっぽりと覆い隠すメンポ。
「…そういえばお前、さっき何と名乗った?ナイトスレイヤー(騎士を殺す者)だと?」
なにかの悪い冗談か、コスプレかなにかか?
そう思いながらも、武器の柄に手をかけた王宮騎士の目の前で、相手のメンポが不気味な光を放った。赤黒い炎がゆらめき、メンポに機械的な書体で「騎士」「殺」の文字が浮かび上がる。
禍々しいフォルムの長剣を抜き放った正体不明の存在…<ナイトスレイヤー>は、先程までのフレンドリーな態度を一変させ、重く低く、そして邪悪極まりない口調でつぶやいた。
「騎士、殺すべし」
「ア、アイエエエエエエ!?」
ナイトスレイヤーの非情な一撃を受けた王宮騎士の悲鳴が、帝都にこだまする。
「…いい身体つきをしているな」
「ひ、ひぇっ!?」
「勘違いするな、筋肉を褒めたのだ。脂肪のことではない」
咄嗟に豊満なバストとヒップを手で覆い隠したちびのノルドに、老獪な騎士の奥ゆかしいツッコミが入った。
最初にナイトスレイヤーの犠牲者が出てから一週間の時が経った明くる日、帝都刑務所地区に建つ帝国軍騎士長のオフィスにちびのノルドは召喚されていた。
執務室のデスクに鎮座しているのは、長年帝都の平和を維持してきた老練の騎士アダムス・フィリダその人である。
「ちびのノルド…いや、アリシアと言ったか。知っての通りいま、帝都にはナイトスレイヤーを名乗る正体不明の悪漢が暗躍している。やつは帝都軍の中にあって腕利きの集団と名高い王宮騎士ばかりを闇討ちにしているのだ」
「そのー、相手に心当たりとかはないんですか?過去に誰かの恨みを買ったとか…」
「心当たりなんぞ、幾らでもあるわい。こちとらは、誰に恨まれようとも帝都の平和を守るために存在しているのだからな。だが、夜襲をかけたとはいえ騎士を次々に手討ちにするほどの実力を持った相手ならすぐに正体くらい割れそうなものだが、いまのところ、手がかりはない」
「ハァ…それで、わたしは何をすればいいんです?」
「聞くところによると、君は我が帝都の商店組合から信頼されているそうじゃないか。なんでも、数々のトラブルを解決したとか。そこで君に頼みたいのは、ずばりナイトスレイヤーの討伐だ」
「と、討伐?」
「いかにも。本来ならば内密に処理したいところだったが、現在我々は皇帝暗殺を企てた謀反人の捜索に手一杯で、他のことに割ける人員を確保できておらん。戦士ギルドや魔術師ギルドに依頼することも考えたが、彼らは彼らで身内のトラブルを解決するので精一杯らしい。そこで傭兵の出番というわけだよ…そう、君のような」
そう話すアダムスの表情は、真剣そのものだった。
帝都植物園地区、泣く子も眠るウシミツアワー。
ナイトスレイヤーを討伐すべく、ちびのノルドは囮の騎士を引き連れて帝都を散策していた。
「本当に、きみがアダマスの雇った傭兵なのかい?どうにも頼りない感じがするが」
「不満があるなら、自分達だけで事件を解決すればいいんじゃないですかネー…」
わりと当然の疑問を口にする囮役のイティウスに、ちびのノルドはなげやりに答える。
今夜のみ、帝都では騎士の巡回を禁止し彼らを控え室に待機させていた。治安の悪化が懸念されるが、もし今夜ナイトスレイヤーが現れるのならば、間違いなくイティウスが狙われるはずだ。
「これで今夜なにも起きなかったらどうするんでしょうね」
「まだ考えてない」
即答するイティウスを見て、ちびのノルドはため息をついた。
が、そのとき。
「ドーモ、イティウス=サン。ナイトスレイヤーです」
ズドンッ、重々しい炸裂音とともに、突如2人の目前に漆黒の鎧が降誕した。メンポにどす赤黒く浮かび上がる「騎士」「殺」の文字、スリットから噴き出す炎の如きオーラが禍々しく揺らいでいる。
「あ、あれがナイトスレイヤーかっ!?」
「…わたしが関わる事件って、なんでこんなのばっかりなんだろう……」
ナイトスレイヤーの異容を目前に、ちびのノルドは頭を抱える。
「騎士、殺すべし!」
ザシャアッ、超重量級の全身鎧姿からは想像もできない驚異的な跳躍力でナイトスレイヤーは飛び跳ねると、2人に襲いかかってきた。
「フッ、面白い、ナイトスレイヤーとやら!貴様の実力、確かめさせてもらうぞ…」
イティウスはシルバー・ロングソードを抜き、不適な笑みを浮かべると、これ以上ないほどにカッコつけて見栄を切る。
「帝都衛兵隊3番隊隊長、白金騎士イティウス・ハイン。推して参るッ!!」
そう叫び、ナイトスレイヤーに立ち向かおうとした、そのとき。
「あなたは余計なことしないでください、相手を誘き寄せるための、ただの囮なんですからッ!」
「おぶぉはぁっ!?」
背中に拳打を叩き込まれたイティウスが、彼方まで吹っ飛ぶ。
「あなたに万が一のことがあると、わたしが困るんですよ!頼むから引っ込んでてください!」
まったくもう、と漏らすちびのノルド。
いつの間にか姿を消したイティウスを探して首を巡らせ、ちびのノルドに焦点を合わせたナイトスレイヤーは、低く思い声音で一言、つぶやいた。
「…邪魔立てするか、小娘」
「あなたの相手はわたしです」
まったく物怖じする様子もなく、ちびのノルドがスッと拳を構える。
「フンッ!」
「ハアァ、イヤァーーーッ!」
振り下ろされた剣の一撃を受け止め、ちびのノルドはカウンターを繰り出す。
喉下を殴打されたナイトスレイヤーは苦しそうに咳こみ、肩を上下させた。
「ムッ、…やるな小娘」
「小娘じゃありません、ちゃんと成人しています。背は低いですがおっぱいはそれなりに大きいです」
「態度が大きいのはよくわかった」
喉元をさすり、ナイトスレイヤーはふたたび剣を構えなおすと、素早くも力強い剣戟を繰り出してきた。
だがしかし、近接格闘術に特化した戦士のちびのノルドに対し、接近戦を仕掛けるのはあまりにもウカツ!わざわざ相手の得意フィールドで戦っていることに、ナイトスレイヤーは気がついていなかった。
長剣のリーチを活かすこともなく振るわれる剣を、ちびのノルドは紙一重でかわしていく。
「(…剣を振るだけ?フェイントを仕掛けることもなく、これだけ接近しているのに手癖の悪さや足技を見せることもない?)」
もろもろの疑問を脳裏で反芻させながら、ちびのノルドは反撃の機会を窺う。
これだけの重装に身を包んでいるのであれば、全力で戦っていてはすぐに疲れてしまうはず。持久戦には弱いはずだ…戦場で研ぎ澄まされた観察眼で、ちびのノルドはナイトスレイヤーの実力を見極めようとした。
「(一撃は重いけど、当たらなければどうということはない。これは剣術道場で習うような、まるで型にはまった動きだ。戦場を知らないキレイな剣だ…)」
もしかして、ナイトスレイヤーの正体は…
「フ、クゥッ!」
絶え間なく攻撃を繰り返していたナイトスレイヤーが、一瞬、ただ一瞬だけ疲れを見せる。しかし、それが致命的なミスだった。
ちびのノルドの眼光が鋭く光り、閃光のような足蹴りがナイトスレイヤーの顔面に炸裂する!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
強烈な一撃を受けたナイトスレイヤーのメンポが割れ、ヘルメットがはじけ飛ぶ!
「あ、あなたは!」
殺人的な威力の蹴りが直撃したにも関わらず、一命を取り留めたナイトスレイヤーの、露わになった素顔を見てちびのノルドが驚きの声を上げる。
それは以前、帝都で権力を利用して狼藉を働きまくった挙句、べろべろに酔っ払ったちびのノルドの暗躍によって刑務所送りになった騎士オーデンス・アビディウスであった。
つるりと禿げ上がった頭頂部に視線を集中させながら、ちびのノルドが口を開く。
「なぜ、あなたが…というか、刑務所で服役中だったんじゃ」
「なに?小娘、俺のことを知っているのか?」
ちなみにオーデンスは、自分を罠に嵌めた相手がちびのノルドであることを知らぬままだ。
「アー、イエ…ところで、なんでそんな格好をしてるんですか?」
「フン。獄中で、俺を逮捕した同僚どもへの恨みを募らせていたところへ突如、アビスと名乗るナイトソウルと邂逅したのだ。理由はわからんが、アビスはすべての騎士を恨んでいるようだった。利害が一致したため俺はアビスを己が身に憑依させ、ナイトを殺すナイト…ナイトスレイヤーとして生まれ変わったのだ!」
「…あの。あなた刑務所にいたんですよね?頭の病院じゃなく?」
「信じてないな」
「ア、ハイ」
「まあいい」
ナイトスレイヤー、もといオーデンスはふたたび剣を構えると、叫んだ。
「ここで貴様を殺し、俺を捕縛したイティウスを殺し!俺は復讐を完遂させる!」
「そのプランは却下させて頂きます!」
カッコつけてポーズを取っていたオーデンスの顔面に、ちびのノルドは全身全霊を込めた膝蹴りを叩き込む!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
その一撃で、勝敗は決した。
頭蓋が破砕され、脳髄に深刻なダメージを受けたオーデンスは、よたよたと二、三歩後退し、ふらつく。それでも最後まで倒れなかったのは、強力なナイトソウルのおかげであったろうか。
「ベリーグッバイ!」
最後にそう叫ぶと、オーデンスはその場で四散爆散した。
「…とまぁ、そんなことがあったんですよ」
後日、帝都商業地区のフィードバッグ亭にて。
騎士隊長のアダムス・フィリダから事件解決の報酬を受け取ったちびのノルドは、本日の仕事を終えて祝杯を上げている商店会のみなさんに混じってジョッキを呷っていた。
隣には、すっかり顔馴染みとなった故売屋の女店主ジェンシーンが座っている。
「あんたも作り話が上手くなったねぇ」
「ホントなんですってば。たしかにウソくさいですし、改めて話してみると、自分でも頭が痛くなるくらいバカバカしい話ですけど」
そもそも自分がこんなバカみたいな事件に巻き込まれたのは、商店会が自分のことをアダムスに口添えしたせいだ…酔って朦朧としながら、ちびのノルドはそんな愚痴をこぼす。
かくして、夜も更け…帝都はふたたび、平和な日常を取り戻したのである。
[ to be continued... ]
松明を片手に定時パトロールをこなす王宮騎士は、休憩室に置いてある読みかけの本のことを考えながら、あくびを噛み殺した。
「はやく交代の時間にならないかなぁ…」
並の衛兵との格の違いを体言する白銀の鎧に身を包み、卓越した剣と弓の業を持ち併せながらも、やはり人の子である。
皇帝陛下が暗殺されたとはいえ、早々に日常に変化が訪れるわけでもない。
すわマッポーめいた波乱の時代の幕開けか、などと煽られたところで、王宮騎士という要職にあってさえ「いままで通りに仕事をしていれば、いままで通りの給料が貰えて、いままで通りの生活ができる」のである。
当然、危機感など生まれるはずもなく…
任務のことなど上の空だった王宮騎士は、目の前に現れた漆黒の影に、すぐに気づくことはできなかった。
「ドーモ。ナイトスレイヤーです」
「え?あ、あぁ、どうも…」
声をかけられてようやく相手の存在に気がつき、あまつさえ丁寧な口調で(いささか奇妙な訛りがあるようだが)挨拶されたことに対し、王宮騎士はまったく警戒することなく言葉を返す。
「こんな夜中に外を出歩いては危険だ。早く家に帰…」
そこまで言いかけて、王宮騎士はようやく、相手の風貌の異様さに気がついた。
王宮騎士の装備とはおよそ対を成す、漆黒の全身鎧。素顔をすっぽりと覆い隠すメンポ。
「…そういえばお前、さっき何と名乗った?ナイトスレイヤー(騎士を殺す者)だと?」
なにかの悪い冗談か、コスプレかなにかか?
そう思いながらも、武器の柄に手をかけた王宮騎士の目の前で、相手のメンポが不気味な光を放った。赤黒い炎がゆらめき、メンポに機械的な書体で「騎士」「殺」の文字が浮かび上がる。
禍々しいフォルムの長剣を抜き放った正体不明の存在…<ナイトスレイヤー>は、先程までのフレンドリーな態度を一変させ、重く低く、そして邪悪極まりない口調でつぶやいた。
「騎士、殺すべし」
「ア、アイエエエエエエ!?」
ナイトスレイヤーの非情な一撃を受けた王宮騎士の悲鳴が、帝都にこだまする。
「…いい身体つきをしているな」
「ひ、ひぇっ!?」
「勘違いするな、筋肉を褒めたのだ。脂肪のことではない」
咄嗟に豊満なバストとヒップを手で覆い隠したちびのノルドに、老獪な騎士の奥ゆかしいツッコミが入った。
最初にナイトスレイヤーの犠牲者が出てから一週間の時が経った明くる日、帝都刑務所地区に建つ帝国軍騎士長のオフィスにちびのノルドは召喚されていた。
執務室のデスクに鎮座しているのは、長年帝都の平和を維持してきた老練の騎士アダムス・フィリダその人である。
「ちびのノルド…いや、アリシアと言ったか。知っての通りいま、帝都にはナイトスレイヤーを名乗る正体不明の悪漢が暗躍している。やつは帝都軍の中にあって腕利きの集団と名高い王宮騎士ばかりを闇討ちにしているのだ」
「そのー、相手に心当たりとかはないんですか?過去に誰かの恨みを買ったとか…」
「心当たりなんぞ、幾らでもあるわい。こちとらは、誰に恨まれようとも帝都の平和を守るために存在しているのだからな。だが、夜襲をかけたとはいえ騎士を次々に手討ちにするほどの実力を持った相手ならすぐに正体くらい割れそうなものだが、いまのところ、手がかりはない」
「ハァ…それで、わたしは何をすればいいんです?」
「聞くところによると、君は我が帝都の商店組合から信頼されているそうじゃないか。なんでも、数々のトラブルを解決したとか。そこで君に頼みたいのは、ずばりナイトスレイヤーの討伐だ」
「と、討伐?」
「いかにも。本来ならば内密に処理したいところだったが、現在我々は皇帝暗殺を企てた謀反人の捜索に手一杯で、他のことに割ける人員を確保できておらん。戦士ギルドや魔術師ギルドに依頼することも考えたが、彼らは彼らで身内のトラブルを解決するので精一杯らしい。そこで傭兵の出番というわけだよ…そう、君のような」
そう話すアダムスの表情は、真剣そのものだった。
帝都植物園地区、泣く子も眠るウシミツアワー。
ナイトスレイヤーを討伐すべく、ちびのノルドは囮の騎士を引き連れて帝都を散策していた。
「本当に、きみがアダマスの雇った傭兵なのかい?どうにも頼りない感じがするが」
「不満があるなら、自分達だけで事件を解決すればいいんじゃないですかネー…」
わりと当然の疑問を口にする囮役のイティウスに、ちびのノルドはなげやりに答える。
今夜のみ、帝都では騎士の巡回を禁止し彼らを控え室に待機させていた。治安の悪化が懸念されるが、もし今夜ナイトスレイヤーが現れるのならば、間違いなくイティウスが狙われるはずだ。
「これで今夜なにも起きなかったらどうするんでしょうね」
「まだ考えてない」
即答するイティウスを見て、ちびのノルドはため息をついた。
が、そのとき。
「ドーモ、イティウス=サン。ナイトスレイヤーです」
ズドンッ、重々しい炸裂音とともに、突如2人の目前に漆黒の鎧が降誕した。メンポにどす赤黒く浮かび上がる「騎士」「殺」の文字、スリットから噴き出す炎の如きオーラが禍々しく揺らいでいる。
「あ、あれがナイトスレイヤーかっ!?」
「…わたしが関わる事件って、なんでこんなのばっかりなんだろう……」
ナイトスレイヤーの異容を目前に、ちびのノルドは頭を抱える。
「騎士、殺すべし!」
ザシャアッ、超重量級の全身鎧姿からは想像もできない驚異的な跳躍力でナイトスレイヤーは飛び跳ねると、2人に襲いかかってきた。
「フッ、面白い、ナイトスレイヤーとやら!貴様の実力、確かめさせてもらうぞ…」
イティウスはシルバー・ロングソードを抜き、不適な笑みを浮かべると、これ以上ないほどにカッコつけて見栄を切る。
「帝都衛兵隊3番隊隊長、白金騎士イティウス・ハイン。推して参るッ!!」
そう叫び、ナイトスレイヤーに立ち向かおうとした、そのとき。
「あなたは余計なことしないでください、相手を誘き寄せるための、ただの囮なんですからッ!」
「おぶぉはぁっ!?」
背中に拳打を叩き込まれたイティウスが、彼方まで吹っ飛ぶ。
「あなたに万が一のことがあると、わたしが困るんですよ!頼むから引っ込んでてください!」
まったくもう、と漏らすちびのノルド。
いつの間にか姿を消したイティウスを探して首を巡らせ、ちびのノルドに焦点を合わせたナイトスレイヤーは、低く思い声音で一言、つぶやいた。
「…邪魔立てするか、小娘」
「あなたの相手はわたしです」
まったく物怖じする様子もなく、ちびのノルドがスッと拳を構える。
「フンッ!」
「ハアァ、イヤァーーーッ!」
振り下ろされた剣の一撃を受け止め、ちびのノルドはカウンターを繰り出す。
喉下を殴打されたナイトスレイヤーは苦しそうに咳こみ、肩を上下させた。
「ムッ、…やるな小娘」
「小娘じゃありません、ちゃんと成人しています。背は低いですがおっぱいはそれなりに大きいです」
「態度が大きいのはよくわかった」
喉元をさすり、ナイトスレイヤーはふたたび剣を構えなおすと、素早くも力強い剣戟を繰り出してきた。
だがしかし、近接格闘術に特化した戦士のちびのノルドに対し、接近戦を仕掛けるのはあまりにもウカツ!わざわざ相手の得意フィールドで戦っていることに、ナイトスレイヤーは気がついていなかった。
長剣のリーチを活かすこともなく振るわれる剣を、ちびのノルドは紙一重でかわしていく。
「(…剣を振るだけ?フェイントを仕掛けることもなく、これだけ接近しているのに手癖の悪さや足技を見せることもない?)」
もろもろの疑問を脳裏で反芻させながら、ちびのノルドは反撃の機会を窺う。
これだけの重装に身を包んでいるのであれば、全力で戦っていてはすぐに疲れてしまうはず。持久戦には弱いはずだ…戦場で研ぎ澄まされた観察眼で、ちびのノルドはナイトスレイヤーの実力を見極めようとした。
「(一撃は重いけど、当たらなければどうということはない。これは剣術道場で習うような、まるで型にはまった動きだ。戦場を知らないキレイな剣だ…)」
もしかして、ナイトスレイヤーの正体は…
「フ、クゥッ!」
絶え間なく攻撃を繰り返していたナイトスレイヤーが、一瞬、ただ一瞬だけ疲れを見せる。しかし、それが致命的なミスだった。
ちびのノルドの眼光が鋭く光り、閃光のような足蹴りがナイトスレイヤーの顔面に炸裂する!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
強烈な一撃を受けたナイトスレイヤーのメンポが割れ、ヘルメットがはじけ飛ぶ!
「あ、あなたは!」
殺人的な威力の蹴りが直撃したにも関わらず、一命を取り留めたナイトスレイヤーの、露わになった素顔を見てちびのノルドが驚きの声を上げる。
それは以前、帝都で権力を利用して狼藉を働きまくった挙句、べろべろに酔っ払ったちびのノルドの暗躍によって刑務所送りになった騎士オーデンス・アビディウスであった。
つるりと禿げ上がった頭頂部に視線を集中させながら、ちびのノルドが口を開く。
「なぜ、あなたが…というか、刑務所で服役中だったんじゃ」
「なに?小娘、俺のことを知っているのか?」
ちなみにオーデンスは、自分を罠に嵌めた相手がちびのノルドであることを知らぬままだ。
「アー、イエ…ところで、なんでそんな格好をしてるんですか?」
「フン。獄中で、俺を逮捕した同僚どもへの恨みを募らせていたところへ突如、アビスと名乗るナイトソウルと邂逅したのだ。理由はわからんが、アビスはすべての騎士を恨んでいるようだった。利害が一致したため俺はアビスを己が身に憑依させ、ナイトを殺すナイト…ナイトスレイヤーとして生まれ変わったのだ!」
「…あの。あなた刑務所にいたんですよね?頭の病院じゃなく?」
「信じてないな」
「ア、ハイ」
「まあいい」
ナイトスレイヤー、もといオーデンスはふたたび剣を構えると、叫んだ。
「ここで貴様を殺し、俺を捕縛したイティウスを殺し!俺は復讐を完遂させる!」
「そのプランは却下させて頂きます!」
カッコつけてポーズを取っていたオーデンスの顔面に、ちびのノルドは全身全霊を込めた膝蹴りを叩き込む!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
その一撃で、勝敗は決した。
頭蓋が破砕され、脳髄に深刻なダメージを受けたオーデンスは、よたよたと二、三歩後退し、ふらつく。それでも最後まで倒れなかったのは、強力なナイトソウルのおかげであったろうか。
「ベリーグッバイ!」
最後にそう叫ぶと、オーデンスはその場で四散爆散した。
「…とまぁ、そんなことがあったんですよ」
後日、帝都商業地区のフィードバッグ亭にて。
騎士隊長のアダムス・フィリダから事件解決の報酬を受け取ったちびのノルドは、本日の仕事を終えて祝杯を上げている商店会のみなさんに混じってジョッキを呷っていた。
隣には、すっかり顔馴染みとなった故売屋の女店主ジェンシーンが座っている。
「あんたも作り話が上手くなったねぇ」
「ホントなんですってば。たしかにウソくさいですし、改めて話してみると、自分でも頭が痛くなるくらいバカバカしい話ですけど」
そもそも自分がこんなバカみたいな事件に巻き込まれたのは、商店会が自分のことをアダムスに口添えしたせいだ…酔って朦朧としながら、ちびのノルドはそんな愚痴をこぼす。
かくして、夜も更け…帝都はふたたび、平和な日常を取り戻したのである。
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