主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2012/10/23 (Tue)00:56
シェイディンハル城下町の、廃屋地下にある暗殺ギルド<ダーク・ブラザーフッド>の拠点。
当面はここで活動することになったブラック17は、とりあえずの同僚であるヴィセンテが浮かない顔をしていることに気がついた。
「どうかした?」
「ん、いや。あぁ、ちょっと懸案事項があってね。どうしたものかな」
しばらく思案したのち、ヴィセンテはだしぬけに言った。
「じつは、ちょっとしたトラブルがあってね。本来、君には関係のないことだが…協力を頼めないだろうか?」
「与えられた任務を破棄していい、という命令は受けていないわ」
「…控え目な物言いだね、相変わらず。引き受けてくれるなら、要点を話そう」
ヴィセンテの問いには答えず、ブラック17は無言のまま先を促した。
ゴホン、ヴィセンテは一つ咳払いをしてから、説明をはじめる。
「先日のことだ。我々に、ブルーマでの暗殺任務が用意された」
「ブルーマ…スカイリムとの国境沿いにある、ノルドの街ね」
ブルーマは、シロディールの北方に位置する城塞都市だ。ノルドの支配する大陸スカイリムに近いことから、住民の大半はノルド民族で占められている。年間を通して雪が降り積もる、寒冷な土地である。
「我々は本部から、ブルーマに住む、とある貴族の暗殺を指示された。任務にはム=ラージ=ダーを向かわせたのだが、どうやら何らかのトラブルに見舞われたらしく、本来ならばとっくに仕事を終えて帰還していいはずなのだが戻ってくる気配がない」
「つまりわたしに、ブルーマまで行ってム=ラージ=ダーの無事を確かめてこい、と?」
「その通りだ。我々は暗殺者だが、すべての命を軽んじているわけではない。家族を簡単に見捨てたりはしないのだ。頼めるかね?」
熱っぽく語るヴィセンテに、ブラック17は無言で頷く。あまり気乗りがしない、とは言えなかった。
人殺しを楽しむ下衆共が、なにが家族だ。笑わせるな…そういう感情も、なかったわけではない。ブラック17自身も殺人によって快楽を得てきた下衆ではあったが、彼女はそのことを自覚しており、<人並みの幸福を得る資格などない><笑顔など必要ない>という信義のもとに自らを厳しく律してきた。
ストイックな生き方をしてきたブラック17にとって、この<聖域>の住民たちのフレンドリーな態度が、いささか癇に障るものであることは事実だ。
しかし今回に限っては、それとは少し異なる点から「気が進まない」のだった。
それは、ム=ラージ=ダー本人の人格の問題である。
突如仲間入りしたブラック17に対してほとんど誰もが例外なく友好的に接してくる中にあって、ただ1人だけ悪態をついてきたカジート、それがム=ラージ=ダーだった。
「(…友好的な態度が気に喰わない、とはいえ、『クッセェ猿』呼ばわりされて喜べるわけでも、ないのよねぇ)」
ブラック17が望んでいるのは、極めてビジネスライクな関係だ。友好的だの、敵対的だの、そういうつまらない感情で心を乱されるのは願い下げだった。
「よりにもよって、おまえが応援かよ…」
「わたしも、命令がなければ貴方なんか見殺しにしておきたいのだけれどね」
極寒の地ブルーマ。
『城壁の外にて待つ』…ム=ラージ=ダーが待機していたはずの場所に残された書き置きをもとにブラック17が向かった先には、こころなしか顔が青ざめているように見えるカジートの姿があった。
たんに寒いからか、それとも他に理由があるのか…
防寒用のローブで身を包んだブラック17は、相変わらず態度のでかいム=ラージ=ダーを見てため息をつくと、質問をした。
「それで…いったい、なにがあったの?ヴィセンテが心配してたわよ」
「ああ、畜生…おまえなんぞに頼らなきゃならねーとはな…とんだドジ踏んじまったぜ、まったくよぉ」
「つまり、任務を遂行できなかったってことかしら?」
「勘違いするんじゃねぇぞ!?」
冷淡に言い放つブラック17に対して、ム=ラージ=ダーは憤懣やるかたなしといった態度で叫んだ。
「与えられた任務はちゃんとこなしたんだ、それもオプションまでちゃんと成功させてな!」
幾分憤慨した様子で、ム=ラージ=ダーが言葉を続ける。
「俺様の任務は、バエンリンとかいうクソ貴族を事故に見せかけて殺すことだった…俺様は居間に飾られてる剥製を裏から外して、バカの頭上に落として殺してやったんだ。誰にも見つからないよう、誰も巻き添いにしないように、な」
「それで?」
「意気揚々とブルーマから出ようとしたところで、俺様はある女に仕事の話を持ちかけられた。もちろん、俺様の正体が知られてたわけじゃねぇ。たぶん、余所者なら誰でもよかったんだろうよ…」
「女の名前は、アルノラ。元盗賊で、ジョランドルって男とコンビで活動してたらしいが、ある日ジョランドルが仕事中に人を殺しちまったとかで、やばいと思ったアルノラは保身のためにジョランドルを衛兵に売ったんだそうな。だが、いままで2人で稼いできた財産の隠し場所はジョランドルしか知らなかった。ま、とんだ手落ちってヤツだ」
「それでアルノラはあんたに、ジョランドルから財産の隠し場所を探ってこいと頼んできたわけね」
「そういうこった。ところがジョランドルってやつは、警戒心が人一倍強くてな。なんでも衛兵が財産を狙ってるとかで、『テメエも衛兵の使いっ走りだろ!?』とか言って拒絶してきやがる。そんなわけだから俺様はわざと窃盗なんつーセコイ罪を犯して同じ独房に入り、ヤツの警戒心を解かにゃあならなかった」
「ご苦労なことね」
「うるせぇよ…で、ヤツが言うには、人を殺したのはアルノラで、自分はたんに身代わりにされただけだと抜かしやがる。そこでジョランドルは取り引きを持ちかけてきた…『アルノラを殺して、証拠のアミュレットを持ってくれば、財産は全部くれてやる』ってな」
「気前のいい話ね。信じたの?」
「信じたもなにも。ジョランドルは禁固刑で、当分は娑婆に出られねぇ。それにヤツぁ、金なんぞどうでもいいから、自分を裏切ったクソアマが死んでくれりゃあ残りの獄中生活を快適に過ごせるって、笑いながら言ってたもんだぜ」
「なるほどね。それで、あんたはアルノラを殺した?」
「いんや。俺様はギルドの任務以外で人は殺さねぇ…だから、俺様はアルノラに取り引きを持ちかけた。財産を山分けにする代わりに、アミュレットを寄越せ、ってな。どうせジョランドルにアルノラの生死を確認する術はねぇし、どっちがモノホンの殺人者だろうと、俺様は金が貰えればそれでいい」
「そしてジョランドルにアルノラのアミュレットを渡し、財産の在り処を聞き出した、と」
「ああ。財産の在り処は俺様の頭の中に入ってる。だがよぉ…」
そこまで言って、ム=ラージ=ダーは急に肩を落とした。
「取りに行けねぇんだ。それどころか、このままじゃあこの街から出ることすらできねぇ。いったい、どうすりゃいいってんだよ…!?」
「なに落ち込んでるの。それを解決するためにわたしが来たんじゃないの」
「なに言ってやがる、なにが悲しくて俺様がテメエみたいな余所者なんぞ…余所者なんぞ……!!」
わなわなと肩を震わせながら、ム=ラージ=ダーはがっくりと俯く。しかし次の瞬間彼の口から飛び出した台詞は、おそらく彼自身ですら予想もしていなかったものだろう。
「ああっ畜生、助けてくれ!このままじゃあ俺様は、一生この街から出られねぇ!俺様は寒いのは苦手だし、ノルドって連中はカジート嫌いで有名なんだ!頼むっ!」
「なにやけくそになってるのよ。助けるって言ったじゃない、任務なんだから」
「あ、ありがてぇ!」
「それで、なにがあったの?」
「あ、ああ。そうだ、肝心の部分を話さなくっちゃあな…」
ブラック17に諭されたム=ラージ=ダーは、気を取り直して説明を続けた。
「ジョランドルが言ってた。『衛兵が財産を狙ってる』って話…ありゃあマジだった。どうやら俺様は見張られてたらしい、ジョランドルと別れてから、1人の衛兵、それも近衛騎士に後を尾けられるようになった」
「…待って、たった1人?それくらい、自分でどうにかできないのかしら?」
「どうにかって、どうしろってんだ!殺せってのか!?国家権力を敵に回すなんてゴメンだぜ!それに俺様は戦闘は苦手だ、こっそり仕掛けをするのは得意だが、ヤツはそんな小細工が通用するような相手じゃねぇ!それに逃げようとしても、ヤツは俺の顔を覚えてやがる。手配書でも作られた日にゃあ、俺様はもうマトモにシロディールを歩けなくなっちまうんだぜ!?」
「…それで?」
「それで…おまえなら、まだシロディールに来てから日が浅い。誰にも顔を覚えられちゃいないし、戦闘だって得意だ。だから、俺様の代わりに財宝を取りに行ってくれ。そしたら十中八九、ヤツが襲いかかってくるだろう。そこを返り討ちにしてくれりゃあいい」
「随分と都合のいい話よね。まあこの国の騎士の実力には興味あるし、乗ってあげるけど」
「ありがてぇ!おまえが戦ってる間、俺様は逃走の手筈を整えておく」
別れ際に、ム=ラージ=ダーは念押しするようにブラック17に言った。
「しくじるんじゃねぇぞ!」
「はぁ。私欲で予定外の仕事に首突っ込んだ挙句、トラブルを起こしたやつの尻拭いとはね。とんだ災難だわ」
「う、うるせぇよ!」
夜闇を彩るかのように、雪がしんしんと降り積もる。
「ここね…」
ブラック17はム=ラージ=ダーに指示された場所へと来ていた。城塞都市からそれほど離れていない岩場の影に、容易に発見されないようカモフラージュされたチェストが安置されている。
「この中に財産があるってわけね」
「どうやらそのようだな」
ブラック17の背後から、男の声がした。
「あのクソ猫が来ると思ってたんだがな。仲間がいたとは思わなかった」
「いきなり抜き身の剣をちらつかせるなんて、穏やかじゃないわね…わたし、ただの通りすがりなんだけど。って、言ったらどうする?」
「殺す。無関係だろうがなんだろうが、そんなことは関係ない」
そこまで言って、フッ、ブルーマの騎士…ティレリウス・ロゲラスは、極めて不遜な笑みを浮かべた。
「アルノラもジョランドルも始末した。現在その財産のことを知っているのは、俺を除けば貴様と、あの猫だけだ。誰にも邪魔はさせん」
「証人を残さず抹殺していたのか。ム=ラージ=ダーが怯えるわけね…貴方、騎士にしておくには惜しいわ」
「俺もときどき、そう思うことがあるよ。公権力を自由に使えるのは魅力的だがね…たまに、殺し屋でもやっていたほうが性に合っていたんじゃないかと思うよ」
「勘違いしないで。貴方が殺し屋?笑わせるわ…」
「なんだと?」
「貴方には野盗か、山賊が似合いだと言うのよ。騎士?殺し屋?笑えない冗談ね。まぁ、現実って、そういうものだけど」
「愚弄するか、女ァッ!!」
挑発するブラック17に対し、ティレリウスはこれ以上ないほどにわかりやすい態度で怒鳴りつける。
「その格好を見る限り、メイジかなにかのようだが…接近戦で騎士に勝てると思うなよ!」
「メイジ?ああ、ローブで判断したのね。まあ、魔法も使うけれどね…」
ブラック17はローブを脱ぎ捨て、全身を覆う暗殺装束を見せびらかすように胸を反らす。
「貴方相手に魔法なんか必要ないわ。かかってらっしゃい」
「殺す!」
ティレリウスは鬼のような形相を浮かべると、余計な予備動作の一切をなしに、ブラック17に斬りかかった。素早い。
パワーとスピードの乗った一撃は、たしかに必殺と成り得るものだった。
だが。
「な、消えたッ!?」
剣を振り下ろした刹那、手ごたえがないことにショックを受けるティレリウス。目の前にいたはずのブラック17の姿を見失ったと思い込んだ直後、首筋に鋭い痛みが走る。
ブラック17は消えたのではなく、わずかに上体を反らせただけだった。だが「自分の一撃が外れるわけがない」と思い込んでいる相手の知覚から逃れるには、それだけの動作で充分だったのだ。
鋭い剣の一撃を避けると同時に繰り出された踵がティレリウスの首筋を捉え、ブラック17はそのままティレリウスを引きずり倒す。
「ぬあっ!?」
視界が一転し、ティレリウスはわけがわからぬまま地面に突っ伏した。
馬乗りになったブラック17がティレリウスの首筋目掛けて刃物を突き立てようとする。
「ばっ、ま、待てっ!い、いったいなにが…!?」
「命乞いもマトモにできないのね」
未だに様子を掴みきれていないティレリウスを冷たく一瞥すると、ブラック17は容赦なく刃を走らせた。皮膚が切断され、総頚動脈、内頚静脈が斬り裂かれると、勢いよく噴き出した血液が純白の雪原をどす黒く汚した。
温かい血が雪を溶かし、湯気を立てるさまを見つめながら、ブラック17はしばし殺人の快楽とその余韻に浸っていた。が、間もなくして自分を呼ぶ声に気がつき、すぐにその場を立ち上がる。
「おーい、すぐそこの厩舎で馬を確保してきた。さっさとズラかるぞ…おっと、お宝を忘れるなよ!」
ム=ラージ=ダーだった。そういえば、逃走手段を確保すると言っていたか。
ブラック17はチェストの中に入っていたものを掻っ攫うと、静かな足取りでム=ラージ=ダーの待つ場所へと向かう。
「希少価値のある書物が数冊に、変哲もない宝飾品が数点…くだらない」
すべてを売ればそれなりの財産になりそうな戦利品を見つめながら、ブラック17は面白くなさそうにため息をついた。
「こんな物のために、何人死んだのかしら」
「なにぶつぶつ言ってやがるんだ、早く来いって!」
のろくさ歩きやがって、などとつぶやきながら、ム=ラージ=ダーがブラック17を急かす。
「まあいい、今回のことは他言無用だ…俺は暗殺任務に手こずっていたが、おまえが来る頃には解決して帰る準備をしていた。そういう話で通しておいてくれ、その代わり財産は山分けだ。もともと死んだアルノラと分けるつもりだったからな、惜しかぁねえ」
てっきり金目当てで協力してくれたと思い込んでいるのだろう、ム=ラージ=ダーの言葉に、ブラック17は言い様のない苛立ちを感じた。理由は自分でもわからなかったが。
こんな物のために…
「金のためにやったわけじゃないわ。貴方に全部あげる」
「…へ?あ、あぁ、うん、まあ。…無欲なんだな?」
「黙って。お願い。死にたくないなら」
苛つく……
[ to be continued... ]
当面はここで活動することになったブラック17は、とりあえずの同僚であるヴィセンテが浮かない顔をしていることに気がついた。
「どうかした?」
「ん、いや。あぁ、ちょっと懸案事項があってね。どうしたものかな」
しばらく思案したのち、ヴィセンテはだしぬけに言った。
「じつは、ちょっとしたトラブルがあってね。本来、君には関係のないことだが…協力を頼めないだろうか?」
「与えられた任務を破棄していい、という命令は受けていないわ」
「…控え目な物言いだね、相変わらず。引き受けてくれるなら、要点を話そう」
ヴィセンテの問いには答えず、ブラック17は無言のまま先を促した。
ゴホン、ヴィセンテは一つ咳払いをしてから、説明をはじめる。
「先日のことだ。我々に、ブルーマでの暗殺任務が用意された」
「ブルーマ…スカイリムとの国境沿いにある、ノルドの街ね」
ブルーマは、シロディールの北方に位置する城塞都市だ。ノルドの支配する大陸スカイリムに近いことから、住民の大半はノルド民族で占められている。年間を通して雪が降り積もる、寒冷な土地である。
「我々は本部から、ブルーマに住む、とある貴族の暗殺を指示された。任務にはム=ラージ=ダーを向かわせたのだが、どうやら何らかのトラブルに見舞われたらしく、本来ならばとっくに仕事を終えて帰還していいはずなのだが戻ってくる気配がない」
「つまりわたしに、ブルーマまで行ってム=ラージ=ダーの無事を確かめてこい、と?」
「その通りだ。我々は暗殺者だが、すべての命を軽んじているわけではない。家族を簡単に見捨てたりはしないのだ。頼めるかね?」
熱っぽく語るヴィセンテに、ブラック17は無言で頷く。あまり気乗りがしない、とは言えなかった。
人殺しを楽しむ下衆共が、なにが家族だ。笑わせるな…そういう感情も、なかったわけではない。ブラック17自身も殺人によって快楽を得てきた下衆ではあったが、彼女はそのことを自覚しており、<人並みの幸福を得る資格などない><笑顔など必要ない>という信義のもとに自らを厳しく律してきた。
ストイックな生き方をしてきたブラック17にとって、この<聖域>の住民たちのフレンドリーな態度が、いささか癇に障るものであることは事実だ。
しかし今回に限っては、それとは少し異なる点から「気が進まない」のだった。
それは、ム=ラージ=ダー本人の人格の問題である。
突如仲間入りしたブラック17に対してほとんど誰もが例外なく友好的に接してくる中にあって、ただ1人だけ悪態をついてきたカジート、それがム=ラージ=ダーだった。
「(…友好的な態度が気に喰わない、とはいえ、『クッセェ猿』呼ばわりされて喜べるわけでも、ないのよねぇ)」
ブラック17が望んでいるのは、極めてビジネスライクな関係だ。友好的だの、敵対的だの、そういうつまらない感情で心を乱されるのは願い下げだった。
「よりにもよって、おまえが応援かよ…」
「わたしも、命令がなければ貴方なんか見殺しにしておきたいのだけれどね」
極寒の地ブルーマ。
『城壁の外にて待つ』…ム=ラージ=ダーが待機していたはずの場所に残された書き置きをもとにブラック17が向かった先には、こころなしか顔が青ざめているように見えるカジートの姿があった。
たんに寒いからか、それとも他に理由があるのか…
防寒用のローブで身を包んだブラック17は、相変わらず態度のでかいム=ラージ=ダーを見てため息をつくと、質問をした。
「それで…いったい、なにがあったの?ヴィセンテが心配してたわよ」
「ああ、畜生…おまえなんぞに頼らなきゃならねーとはな…とんだドジ踏んじまったぜ、まったくよぉ」
「つまり、任務を遂行できなかったってことかしら?」
「勘違いするんじゃねぇぞ!?」
冷淡に言い放つブラック17に対して、ム=ラージ=ダーは憤懣やるかたなしといった態度で叫んだ。
「与えられた任務はちゃんとこなしたんだ、それもオプションまでちゃんと成功させてな!」
幾分憤慨した様子で、ム=ラージ=ダーが言葉を続ける。
「俺様の任務は、バエンリンとかいうクソ貴族を事故に見せかけて殺すことだった…俺様は居間に飾られてる剥製を裏から外して、バカの頭上に落として殺してやったんだ。誰にも見つからないよう、誰も巻き添いにしないように、な」
「それで?」
「意気揚々とブルーマから出ようとしたところで、俺様はある女に仕事の話を持ちかけられた。もちろん、俺様の正体が知られてたわけじゃねぇ。たぶん、余所者なら誰でもよかったんだろうよ…」
「女の名前は、アルノラ。元盗賊で、ジョランドルって男とコンビで活動してたらしいが、ある日ジョランドルが仕事中に人を殺しちまったとかで、やばいと思ったアルノラは保身のためにジョランドルを衛兵に売ったんだそうな。だが、いままで2人で稼いできた財産の隠し場所はジョランドルしか知らなかった。ま、とんだ手落ちってヤツだ」
「それでアルノラはあんたに、ジョランドルから財産の隠し場所を探ってこいと頼んできたわけね」
「そういうこった。ところがジョランドルってやつは、警戒心が人一倍強くてな。なんでも衛兵が財産を狙ってるとかで、『テメエも衛兵の使いっ走りだろ!?』とか言って拒絶してきやがる。そんなわけだから俺様はわざと窃盗なんつーセコイ罪を犯して同じ独房に入り、ヤツの警戒心を解かにゃあならなかった」
「ご苦労なことね」
「うるせぇよ…で、ヤツが言うには、人を殺したのはアルノラで、自分はたんに身代わりにされただけだと抜かしやがる。そこでジョランドルは取り引きを持ちかけてきた…『アルノラを殺して、証拠のアミュレットを持ってくれば、財産は全部くれてやる』ってな」
「気前のいい話ね。信じたの?」
「信じたもなにも。ジョランドルは禁固刑で、当分は娑婆に出られねぇ。それにヤツぁ、金なんぞどうでもいいから、自分を裏切ったクソアマが死んでくれりゃあ残りの獄中生活を快適に過ごせるって、笑いながら言ってたもんだぜ」
「なるほどね。それで、あんたはアルノラを殺した?」
「いんや。俺様はギルドの任務以外で人は殺さねぇ…だから、俺様はアルノラに取り引きを持ちかけた。財産を山分けにする代わりに、アミュレットを寄越せ、ってな。どうせジョランドルにアルノラの生死を確認する術はねぇし、どっちがモノホンの殺人者だろうと、俺様は金が貰えればそれでいい」
「そしてジョランドルにアルノラのアミュレットを渡し、財産の在り処を聞き出した、と」
「ああ。財産の在り処は俺様の頭の中に入ってる。だがよぉ…」
そこまで言って、ム=ラージ=ダーは急に肩を落とした。
「取りに行けねぇんだ。それどころか、このままじゃあこの街から出ることすらできねぇ。いったい、どうすりゃいいってんだよ…!?」
「なに落ち込んでるの。それを解決するためにわたしが来たんじゃないの」
「なに言ってやがる、なにが悲しくて俺様がテメエみたいな余所者なんぞ…余所者なんぞ……!!」
わなわなと肩を震わせながら、ム=ラージ=ダーはがっくりと俯く。しかし次の瞬間彼の口から飛び出した台詞は、おそらく彼自身ですら予想もしていなかったものだろう。
「ああっ畜生、助けてくれ!このままじゃあ俺様は、一生この街から出られねぇ!俺様は寒いのは苦手だし、ノルドって連中はカジート嫌いで有名なんだ!頼むっ!」
「なにやけくそになってるのよ。助けるって言ったじゃない、任務なんだから」
「あ、ありがてぇ!」
「それで、なにがあったの?」
「あ、ああ。そうだ、肝心の部分を話さなくっちゃあな…」
ブラック17に諭されたム=ラージ=ダーは、気を取り直して説明を続けた。
「ジョランドルが言ってた。『衛兵が財産を狙ってる』って話…ありゃあマジだった。どうやら俺様は見張られてたらしい、ジョランドルと別れてから、1人の衛兵、それも近衛騎士に後を尾けられるようになった」
「…待って、たった1人?それくらい、自分でどうにかできないのかしら?」
「どうにかって、どうしろってんだ!殺せってのか!?国家権力を敵に回すなんてゴメンだぜ!それに俺様は戦闘は苦手だ、こっそり仕掛けをするのは得意だが、ヤツはそんな小細工が通用するような相手じゃねぇ!それに逃げようとしても、ヤツは俺の顔を覚えてやがる。手配書でも作られた日にゃあ、俺様はもうマトモにシロディールを歩けなくなっちまうんだぜ!?」
「…それで?」
「それで…おまえなら、まだシロディールに来てから日が浅い。誰にも顔を覚えられちゃいないし、戦闘だって得意だ。だから、俺様の代わりに財宝を取りに行ってくれ。そしたら十中八九、ヤツが襲いかかってくるだろう。そこを返り討ちにしてくれりゃあいい」
「随分と都合のいい話よね。まあこの国の騎士の実力には興味あるし、乗ってあげるけど」
「ありがてぇ!おまえが戦ってる間、俺様は逃走の手筈を整えておく」
別れ際に、ム=ラージ=ダーは念押しするようにブラック17に言った。
「しくじるんじゃねぇぞ!」
「はぁ。私欲で予定外の仕事に首突っ込んだ挙句、トラブルを起こしたやつの尻拭いとはね。とんだ災難だわ」
「う、うるせぇよ!」
夜闇を彩るかのように、雪がしんしんと降り積もる。
「ここね…」
ブラック17はム=ラージ=ダーに指示された場所へと来ていた。城塞都市からそれほど離れていない岩場の影に、容易に発見されないようカモフラージュされたチェストが安置されている。
「この中に財産があるってわけね」
「どうやらそのようだな」
ブラック17の背後から、男の声がした。
「あのクソ猫が来ると思ってたんだがな。仲間がいたとは思わなかった」
「いきなり抜き身の剣をちらつかせるなんて、穏やかじゃないわね…わたし、ただの通りすがりなんだけど。って、言ったらどうする?」
「殺す。無関係だろうがなんだろうが、そんなことは関係ない」
そこまで言って、フッ、ブルーマの騎士…ティレリウス・ロゲラスは、極めて不遜な笑みを浮かべた。
「アルノラもジョランドルも始末した。現在その財産のことを知っているのは、俺を除けば貴様と、あの猫だけだ。誰にも邪魔はさせん」
「証人を残さず抹殺していたのか。ム=ラージ=ダーが怯えるわけね…貴方、騎士にしておくには惜しいわ」
「俺もときどき、そう思うことがあるよ。公権力を自由に使えるのは魅力的だがね…たまに、殺し屋でもやっていたほうが性に合っていたんじゃないかと思うよ」
「勘違いしないで。貴方が殺し屋?笑わせるわ…」
「なんだと?」
「貴方には野盗か、山賊が似合いだと言うのよ。騎士?殺し屋?笑えない冗談ね。まぁ、現実って、そういうものだけど」
「愚弄するか、女ァッ!!」
挑発するブラック17に対し、ティレリウスはこれ以上ないほどにわかりやすい態度で怒鳴りつける。
「その格好を見る限り、メイジかなにかのようだが…接近戦で騎士に勝てると思うなよ!」
「メイジ?ああ、ローブで判断したのね。まあ、魔法も使うけれどね…」
ブラック17はローブを脱ぎ捨て、全身を覆う暗殺装束を見せびらかすように胸を反らす。
「貴方相手に魔法なんか必要ないわ。かかってらっしゃい」
「殺す!」
ティレリウスは鬼のような形相を浮かべると、余計な予備動作の一切をなしに、ブラック17に斬りかかった。素早い。
パワーとスピードの乗った一撃は、たしかに必殺と成り得るものだった。
だが。
「な、消えたッ!?」
剣を振り下ろした刹那、手ごたえがないことにショックを受けるティレリウス。目の前にいたはずのブラック17の姿を見失ったと思い込んだ直後、首筋に鋭い痛みが走る。
ブラック17は消えたのではなく、わずかに上体を反らせただけだった。だが「自分の一撃が外れるわけがない」と思い込んでいる相手の知覚から逃れるには、それだけの動作で充分だったのだ。
鋭い剣の一撃を避けると同時に繰り出された踵がティレリウスの首筋を捉え、ブラック17はそのままティレリウスを引きずり倒す。
「ぬあっ!?」
視界が一転し、ティレリウスはわけがわからぬまま地面に突っ伏した。
馬乗りになったブラック17がティレリウスの首筋目掛けて刃物を突き立てようとする。
「ばっ、ま、待てっ!い、いったいなにが…!?」
「命乞いもマトモにできないのね」
未だに様子を掴みきれていないティレリウスを冷たく一瞥すると、ブラック17は容赦なく刃を走らせた。皮膚が切断され、総頚動脈、内頚静脈が斬り裂かれると、勢いよく噴き出した血液が純白の雪原をどす黒く汚した。
温かい血が雪を溶かし、湯気を立てるさまを見つめながら、ブラック17はしばし殺人の快楽とその余韻に浸っていた。が、間もなくして自分を呼ぶ声に気がつき、すぐにその場を立ち上がる。
「おーい、すぐそこの厩舎で馬を確保してきた。さっさとズラかるぞ…おっと、お宝を忘れるなよ!」
ム=ラージ=ダーだった。そういえば、逃走手段を確保すると言っていたか。
ブラック17はチェストの中に入っていたものを掻っ攫うと、静かな足取りでム=ラージ=ダーの待つ場所へと向かう。
「希少価値のある書物が数冊に、変哲もない宝飾品が数点…くだらない」
すべてを売ればそれなりの財産になりそうな戦利品を見つめながら、ブラック17は面白くなさそうにため息をついた。
「こんな物のために、何人死んだのかしら」
「なにぶつぶつ言ってやがるんだ、早く来いって!」
のろくさ歩きやがって、などとつぶやきながら、ム=ラージ=ダーがブラック17を急かす。
「まあいい、今回のことは他言無用だ…俺は暗殺任務に手こずっていたが、おまえが来る頃には解決して帰る準備をしていた。そういう話で通しておいてくれ、その代わり財産は山分けだ。もともと死んだアルノラと分けるつもりだったからな、惜しかぁねえ」
てっきり金目当てで協力してくれたと思い込んでいるのだろう、ム=ラージ=ダーの言葉に、ブラック17は言い様のない苛立ちを感じた。理由は自分でもわからなかったが。
こんな物のために…
「金のためにやったわけじゃないわ。貴方に全部あげる」
「…へ?あ、あぁ、うん、まあ。…無欲なんだな?」
「黙って。お願い。死にたくないなら」
苛つく……
[ to be continued... ]
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