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2018/04/27 (Fri)03:09





The Elder Scrolls IV: Oblivion
Fan Fiction "Crossing Over" #4

- エルダースクロールズ4:オブリビオン -

Side Story【クロッシングオーバー】

第四話 「クヴァッチの戦い」









「こ、これは、いったい……?」
 スキングラードを出て、馬を走らせてから四日ほど経ったろうか。
 扱いやすい小柄な馬をあてがわれたのが災いしたか、標準的なサイズの馬であればもう少し早く到着できたところを…そうちびのノルドは思ったが、それはいま悔やんでも仕方のないことだ。
 それでも可能な限り急いでは来たが、肝心の馬が倒れては元も子もない。
 焦る気持ちを抑えつつ、ときおり小休止を挟んでの移動だった。
 そして、いま…山頂にそびえるクヴァッチ城壁の門前に、禍々しい存在感を放つ魔界の門…オブリビオン・ゲートを目の当たりにしたちびのノルドは、心の動揺を抑えきれないでいた。






 オブリビオンの門のまわりには異形の怪物…“デイドラ”たちの亡骸が転がり、周囲に息のある者はいない。
 化物たちはいずれも鋭利な刃物で両断されており、手練の戦士がこの場にいたことは明白である。
「いったい、誰が…?」
 馬を下りたちびのノルドは城壁の門を開け、その先に廃墟と化した街並みが広がっているのを見た。それが異界の魔物たちの襲撃による産物であることは目に見えて明らかだった。
 あちこちで燻る炎を避けながら、ちびのノルドは嫌がるように首を振る馬をどうにか廃屋の一つに繋ぎ留め、このあたりで唯一無事な建物である教会へと足を踏み入れた。






「誰だっ!?」
 ギイィ、という扉の開閉音に混じって、ちびのノルドの正体を誰何する逼迫した声が発せられる。それはまだ、魔物を相手に戦っている人間が残っていることを証明していた。
 ちびのノルドの姿を見て…魔物ではなかったからだろう…抜きかけた剣をおさめる衛兵、その背後には難民と思われる非武装の人間たちが肩を寄せ合って身を震わせている。
 武装した衛兵数名の姿を確認したちびのノルドは、この教会は魔物の侵入を許していないらしいことを悟り、とくに理由があるわけではなかったが、“聖域”という単語を脳裏に思い浮かべた。
 事実、この場は生存者たちに残された唯一の聖域ではあったのが。
 今は、まだ。
「あの、わたし、アリシアといいます。この街の教会にお勤めしている、マーティンという神父様に用事がありまして…でも、まさか、こんなことになっているなんて……」
「マーティンに?」
 おそらくは顔馴染みなのだろう、隊長格の衛兵…サヴリアン・マティウスは驚いたような表情を見せ、避難民に混じって怪我人の治療にあたっている男のほうをチラと見やった。
 その視線の先に…いた。ちびのノルドは驚く、髪が白くなっていないこと、皺がないことを除けば、まさしくユリエル・セプティム七世に瓜二つ、生き写しと言っても良いほどに似た顔つきの神父がそこにいた。






 マーティンの近くで同じように怪我人の治療にあたっていた、赤い服の男が一瞬こちらを見てイヤそうな顔つきをしたが、そのことがちびのノルドの気に留まることはなかった。
 さて、どうしようか…ちびのノルドは頭を悩ませる。
 おそらく、このままマーティン一人をクヴァッチから脱出させ、ウェイノン修道院へ連れていくことは可能だ。
 だが、それで良いのか?
 予定に遅れが生じることは好ましくない、ジョフリーならそう考えるかもしれない…しかし、この街の、この状況を放ってはおけなかった。
「あの…この街の状況は、いま、どうなっていますか?」
「なんだって?」
 真剣な眼差しで問うちびのノルドに、サヴリアンはまたしても驚きの声をあげる。
 自分が兵隊に信頼されるような見た目をしていない、そのことはちびのノルドが一番よく理解していた。ずっとこの身体で生きてきたのだ。
「わたし、こう見えても戦士です。傭兵です、戦えます。力になりたいんです」
「傭兵だって?たとえ魔物どもを駆逐できたとしても、報酬を支払えるかどうかなんて…」
「いいんです、いまは。そういう話は後にしましょう」
 サヴリアンは熟考の唸り声をあげ、ちびのノルドを観察する。
 その目つきから、彼がちびのノルドを戦力外だと判断しているのは明らかだった。そのことは驚くべきことでもなんでもなかったが。
「ところで」サヴリアンが言う。「ここへ来るまでに、魔物に襲われたか?」
「…?いいえ。死体はたくさん転がっていましたが」
「そうか。ということは、あの男はまだ中で戦っているらしいな」
「?」
「しばらく前、アルゴニアンの男がやってきて、オブリビオンの門から続々と現れる魔物たちを一瞬で斬り捨てると、俺たちの制止も聞かずに一人で門の中へ飛び込んでいったんだ」






「なんて無茶を…」
「その通りだ。だが、あの門からまだ魔物が溢れてこないところを見ると、まだそいつが侵略を食い止めてくれてるようだ」
 驚くべき話だった。義憤か、それとも蛮勇の成せる所業か?
 少なくとも、いまこの場にいる人間はアルゴニアンの男が生きて戻ってくるとは考えていなかった。
「さて、この街の状況についてだったな」
 どうやらちびのノルドを疑っても仕方がないらしいと考えた(あるいはこの際、猫の手でも借りようと思ったか)サヴリアンは説明をはじめた。
「四日前、クヴァッチの門の前に突然オブリビオンの門が出現した。理由はわからん。次々と現れる魔物に街は破壊され、大勢の死者が出た。衛兵隊と市民の生き残りはこの教会に避難できたが、城にはまだ逃げ遅れた兵士と伯爵が残されている」
 四日前、空が赤く染まったのと同じタイミングだ、とちびのノルドはひとりごちる。
 やはりあれはオブリビオンの門が開いた影響によるものだったのか…
「アルゴニアンの男がデイドラの侵攻を食い止めているなら…我々はいまいちど、クヴァッチ城奪還のための戦いに赴くつもりだ。背後の心配をしなくて済むうちに」
「えっ!?」
「生き残った市民のうちの何人かは別の都市へ避難させることもできるだろう。だが、いますぐここを動かせない怪我人も多い。食料も医療品も不足している。他の都市からの支援を待っていては、おそらく手遅れになる。防戦一方では、そのうち自滅するだけだ」
「しかし…」
「なにより、領主を城に残したまま兵隊だけ逃げるわけにはいかない。そうだろう?我々は全滅覚悟で城を奪還するつもりだが、危険なのはここに居ても同じことだ。そういう状況で、きみは我々に協力を申し出るつもりなのか?」
「はい」
「いやに迷いなく返事をしたな。だが、こんな危険を冒してまで我々に協力する利点がきみにあるのかね?」
「…ここにいる人たちを助けたいから、では、駄目ですか?」
「駄目ではないが」
 その英雄願望は高くつくぞ。
 ちびのノルドにそう言うかわり、サヴリアンは講堂内にいる生存者たちを見回すと、大声を張り上げた。
「レディス・アンド・ジェントルメン、戦争の時間だ!すでにたっぷり休養は取れたものと思う、前もって言っておくが、この戦いには志願した者だけを連れて行く!兵隊だろうと市民だろうと、武器を取って戦える、我こそはと思う者は俺のところへ来い!」
 そして、ちびのノルドのほうを振り返る。
「きみは大丈夫か?さっき到着したばかりだが、休む必要があるなら、いまのうちに少しでも休んでおくといい。腹が減ってるなら、まだ食料が幾らか残っているはずだ…それくらいはしてやれる」
「あ、お気遣いなく。わたしもいま、けっこう昂ぶってるんで」
「ハハッ、頼もしい限りだ。ところできみは最初、マーティン神父に用があると言っていたが?」
「後にしましょう。彼がここに残るなら、わたしが急ぐ必要はないですから」
 やがて武装した衛兵に加え、乱雑に集められた装備…おそらく死者のものだ…の中から選んだ武器や防具を身につけた者たちが次々に戦列に加わる。
 しかし誰しもがその表情に色濃い疲労を残しており、決して万全なコンディションではないことが窺えた。だが、常に理想的な状況で臨めるほど戦場は甘くない。
 ちびのノルドが言う。
「…衛兵の数が少ないですね」
「アルゴニアンの戦士が訪れるまえ、偵察隊をオブリビオン界へ送り込んだのだ。いまのところ、誰一人、帰ってきていない…思えば、それが大きな失策の一つだった」
 しばらくして志願者が一定数集まったことを確認すると、サヴリアンを先頭に一向は教会の扉を開け、クヴァッチ城へ向けて進軍をはじめた。






 街路地には惨殺された市民の亡骸が散乱し、崩壊した建物から噴き出す炎が街を焼いている。
 おそらく街に火を放ったのはアトロナック…炎の精霊だろう。
 オブリビオン界の住民たるデイドラは、たとえ最下級の存在でさえ並の戦士を凌駕する戦闘能力を有している。それが湯水のように湧き溢れて出たのだ、僅か数日で街が廃墟と化したのも必然であったろう。
 人間の、人間の文明の、なんと脆いことか。
「ところで、君も余所者だろう?わざわざ戦いに参加しなくても…」
「いやあ、いいんです。たぶん、これも運命ってやつスよ」
 ちびのノルドが感傷に浸っていた横で、サヴリアンが赤い服の青年に声をかけている。
 たしか彼はマーティンと一緒に負傷者を治療していたはずだ。魔法を使っていたが、てっきりヒーラーかと思っていたが…鎧も着ず、魔道具を携帯している気配もない、戦えるのだろうか?ちびのノルドは首を捻った。
 彼女の視線を察したのか、赤い服の青年はふたたび渋面を向けてくる。
 なんだろう、彼に恨まれるようなことをしただろうか?…どこかで会っただろうか?ちびのノルドは頭を悩ませたが、それらしい記憶を掘り起こすことはできなかった。
 やがて頑丈に閉ざされたクヴァッチ城の門の前に辿り着き、一行は一斉に盾を構える。
 サヴリアンが言う。
「いま、別働隊が地下通路を通って城門の開閉装置に向かっているところだ。間もなく門が開かれるだろう」そしてちびのノルドを見つめ、「君は盾を持っていないのか?ドレモラと呼ばれる連中が城壁の上に陣取って弓を構えている、城門が開放された途端、一斉に射ってくるぞ?」
「あ、大丈夫です」動揺した様子もなく、片手を振って答えるちびのノルド。「わたし、平気なんで」
「平気って…どういうことだ」
 その質問にちびのノルドが答えるより早く、城門が軋んだ金属音を立てながら上昇していく。
 生き残りのクヴァッチ衛兵、そして市民からなる志願兵の表情がこわばる。やがて風を切り裂く音とともに、無数の矢が降り注いだ!






「ハアァァァーーーッッ、ヤッ!!!」
 兵士たちの構える盾に矢が突き刺さる音に混じり、ちびのノルドが矢を掴んで折り、叩き落とす破砕音が響く!
 なんという業(ワザ)だ…!?
 その場にいた全員が、凄まじいスピードで飛来する矢を精確に無力化しながら果敢に前進するちびのノルドの姿に吃驚する。
 やがて矢が尽きはじめたのか、敵の攻撃の手が緩くなったとき、赤い服の青年が針千本のような有様になった盾を投げ捨て、ちびのノルドに続いて他の者より前に出る。
「こうなったら…俺もちょっと本気出すしかねーよなぁ…ッ?」
 まるで目立ちたいがためのように…実際、そうだったのだが…中庭に躍り出た赤い服の青年、エロールは大袈裟な身振りでポーズを取ると、キリリと表情を引き締め、呪文を口にした!






「ヘンシン!」
 赤い煙と空間の歪みを伴い、エロールの身体を禍々しいフォルムの鎧が包む。
 果たして、そこに姿を現したのは…ちびのノルドが帝都地下下水道を出た直後に遭遇した、真紅の暗殺者であった!
「あっ、あなたは……!?」
「ま、待ってくれ!」驚きの声とともに拳をかまえるちびのノルドに、魔装鎧殻(まそうがいかく)を纏ったエロールは腰を抜かしたような姿勢でストップをかける。「俺は敵じゃあない、だから、金玉を蹴るのはやめてくれないか!?」
「蹴りませんよ、そんなところ!」
「蹴ったじゃないか、蹴ったじゃないか!あのとき!ていうか、湖に投げこまれたあと、割とマジで死にかけたんだぞ!?」
 敵陣の只中で突然言い合いをはじめる二人に、兵士たちは唖然とする。
 なにやってんだ、こいつら?
「敵じゃあないなら…というか、こんなところで、なにやってんですか」エロールに問うちびのノルド。
「話すと長くなるが、じつはあの後…」
 説明をはじめるエロールだが、その無防備な姿目がけて矢が放たれ、寸でのところで命中するところだったのをどうにか避ける。
「じつは、あの後…」
 説明を再開しようとしたエロール目がけて、今度は子鬼のような姿のデイドラ“スキャンプ”の放つ火球が飛来し、エロールはその攻撃を咄嗟にメイスで防ぐ。
「じつはな、あの後…」
 ふたたび説明を再開しようとしたエロール目がけて、今度はエリマキトカゲのような外観のデイドラ“クランフィア”が襲いかかり、エロールは振りかぶったメイスでその頭部を叩き割る。
「……ッ、あー、もう!説明は後だ、今はとりあえず俺を信用してくれ!」
 無茶言うな。
 そう言いかけたちびのノルドだったが、状況が状況だけに、いまエロールの正体や狙いを勘繰っている暇はない。リスクはあるが、今は信用せざるを得ないようだった。
「サヴリアンさん、わたしと彼が城内に突入します!中庭の確保を頼みます!」
「エッ、あ、わ、わかった!」
 ちびのノルドの提案に口を挟む間もなく、サヴリアンと兵士たちは頷く。
 飛来する矢や魔法攻撃を避けつつ、ちびのノルドとエロールはクヴァッチ城の正面扉からまっすぐに城内へと侵入した。






 城内はデイドラの攻撃によって荒廃しており、街の様子とおなじく酷い有様になっていた。
 いまだに数多くのデイドラが徘徊し、周囲には兵士や使用人の死体が乱雑に放置されている。生存者がいる気配はない。
 侵入者の気配を察知したデイドラたちによってあっという間に囲まれてしまったちびのノルドとエロールは、それぞれ戦いの構えをとり反撃の用意を整える。
 エロールが叫んだ。
「円周防御だ、背中合わせに180度づつ!ロックンロール!」
「エッ!?」
「聞こえたろ?」
 疑問の声をあげるちびのノルド、しかしエロールは反論を挟む余地を与えない。
 ちびのノルドが疑問を感じたのは、作戦そのものではない、“背中合わせ”という点だ。信頼できない人間に背中を向けるほど危険なことはない、まして、相手が皇帝暗殺を企てていた暗殺者なら尚のことだ。
 しかしエロールは何一つ躊躇なく、ちびのノルドにぴたりと背中をくっつけている。彼女を信用しているのか、それとも、何も考えていないのか。たぶん、何も考えていないんだろう…ちびのノルドはそう思った。
 あまり計算高い男には見えなかった。なら、今この瞬間くらい、信じてやってもいいのかもしれない。
「ハアアァァァーーーッッ!!」
 ときの声をあげ、ちびのノルドは炎の精霊に強烈な拳撃を繰り出す。
 その一撃…鋼鉄をも粉砕する剛拳は、鎧のように炎の精霊を覆うデイドラ金属の外殻を破壊し、灼熱の肉体を四散させる。
 一方で無数に群がるクランフィアを悪魔的形状のメイスで叩き伏せていったエロールは、すこし戦闘が落ち着いたあたりで彼女に訊ねた。
「素手で炎の精霊をブン殴るなんて、おまえくらいだぞ。熱くないのか?」
「ああ…わたし、子供の頃、篝火に拳を突き立て続ける修行とかさせられてたんで。熱いのを殴るのは慣れてるんです」
「ええぇぇ……」
 壮絶な過去をさらりと口にするちびのノルドに、エロールは絶句する。
 こいつ、修行僧か何かだったのか?
 そんな疑問を頭に浮かべながらも、エロールはちびのノルドとともに城内のデイドラを掃討し、やがて領主の部屋へと辿り着く。






「チッ、遅かったか…つか、入った瞬間からわかってたよな。手遅れも甚だしい状況だってさ」
「……ええ…」
 荒らされた室内、砕けたワインボトルの破片に紛れて、血にまみれたクヴァッチの領主オーメリアス・ゴールドワイン伯の亡骸が横たわっていた。
 全身をデイドラの返り血に染めながら、ちびのノルドとエロールは言葉を無くしてその場に佇む。
 城内に生存者は残っていなかった。ただの一人も。完璧な皆殺しだった。
 とりあえず城を制圧していたデイドラたちはすべて葬った。だが…わかっている、そんなことはないとわかってはいるのだが、ちびのノルドは、自分たちのやったことが何も意味を成さなかったのではないかと思わずにはいられなかった。
 そんな彼女の心情を察したのか、エロールはちびのノルドの肩を叩くと、部屋を出るよう促した。
「こうなっちまった以上、いつまでもこんなところにいたって仕方がないぜ。とりあえず、サヴリアン隊長に報告しに行こう」
「……うん」
 哀しげに頷き、ちびのノルドはゴールドワイン伯爵の亡骸に背を向ける。その表情は、鋼鉄の仮面に遮られて窺うことができない。






 同じ頃、中庭の戦いにも決着がついていた。
 サヴリアン率いる即製のクヴァッチ城奪還部隊が勝利し、魔界の眷属たちはみな地獄へ叩き返された。しかし、人間側の被害も甚大であった。





【 To be continued ... 】










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