主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2011/07/23 (Sat)05:42
元IRAの工作員ゲリー・フィーガンは12年の服役の末に出所し、周囲からは「国のために戦い12年の歳月を義性にした英雄」として尊敬される存在となっていた。しかしフィーガンは過去の行いを悔いており、自らが手にかけた12人の犠牲者の亡霊から逃れようと酒に溺れる日々を送っていた。
ある日フィーガンは過去に殺した子供の母親に出会い、本来喋ってはいけないはずの、子供を埋めた場所を教えてしまう。そうすることで子供の亡霊が消えてくれることを願っていたのだが、フィーガンにつきまとう亡霊の数が減ることはなく、あまつさえ昔の仲間マイケル・マッケンナに口の軽さを咎められてしまう。
しかしフィーガンに子供を殺すことを指示した当人であるマイケルに出会ったとき、子供の亡霊が身振りでマイケルを処刑する仕草をする。その行動の意味を理解したフィーガンは葛藤の末にマイケルを殺すと、子供の亡霊はいなくなった。
亡霊から解放されたいがために、フィーガンは自分に殺人を指示した昔の仲間たちを次々と手にかけていく。しかしフィーガンの無軌道な殺人が北アイルランドの和平合意を巡る政治の駆け引きに多大な影響を及ぼし、結果としてフィーガンは元IRA関係者のみならず政府からも狙われる身となる…
えーとですね、今回からレビューに簡単なあらすじを書くことにしました。コピペじゃないよ誉めて。やっぱり本文が「読んだ人じゃないとわからないよコレ」とか「思いっきりネタバレだよね」みたいな代物でも、さすがに感想だけしか書かないと投げっぱなしジャーマンだと気づいたので。あと、やっぱり未見の人にも興味を持ってもらいたいですし。
本書は現代(2007年)を舞台に、北アイルランドの和平合意を巡る政治的な駆け引きを背景に描かれたミステリ小説です。復讐モノなんだけど、本人のための復讐ではないところが面白い。亡霊たちがなぜ死ななければならなかったのか、なぜ元関係者が殺されなければならないのか?といった部分が序々に明らかになるプロットはたいへんスリリングで、ゾクゾクします。
標的を殺すとき、自分にしか見えない亡霊を指さし「こいつがお前を欲しがっているんだ」と言う主人公フィーガンの姿は第三者(というか本人以外)から見ればガイキチ以外の何者でもないんですが、ともすればギャグになりかねない描写に信憑性を持たせているのがアイルランド紛争まわりの描写です。
はっきり言って日本の小説みたく、たとえばアイルランド紛争にまつわるアレコレを一から説明するほど親切な小説ではないので、ある程度の古今アイルランド紛争事情は基礎知識として身につけておく必要があります。いちおう訳者あとがきに各勢力の簡単な解説などが載っていますが、やはり当時の退廃的な空気やアイルランド特有の気風(気質?)を知らないと感情移入はできないでしょうし。
私は「リヴィエラを撃て」や「レインボー・シックス(3巻)」でのアイルランド描写に惹かれた影響で本書を買ったクチなので、そのへんはクリア済みでした。
亡霊の望むままに復讐を代行するというプロットや、それに伴って読者の感情に訴える部分などは非常に楽しめましたが、それでもきっちり描かれた政治的背景などとはまた別に、あまり万人には薦めづらい本だなあと思ったのもまた事実だったりしまして。
まず、中盤以降で主人公フィーガンが身を隠しながら行動するようになってからのシナリオの雑さが目につきました。
最初は誰にもばれないよう頭を使って復讐していくわけですが(それでも警察関係者や元IRA関係者からは怪しまれるわけですが)、中盤で失態をしでかし、フィーガンは目立たないよう姿を消すことを余儀なくされるわけです。
物語序盤で知り合ったとある母娘の薦められるままに避暑地のホテルに行くわけですが、そこはとっくに廃業していてボロボロ。「客に貸せる部屋はない」というオーナーに大金を掴ませてどうにか泊めてもらうあたり怪しさ満点です。
逃亡者としての緊張感はあまりなく(母娘の存在によるところも大きいですが)、母娘の車を借りて街に戻ったフィーガンは「以前と変わらぬやりかたで」復讐を遂行していきます(ここが問題。序盤でも罪に問われていないだけで、毎回警察で事情聴取を受けるくらいにはヤバイ手口だった)。で、フィーガンのいない間に案の定母娘は元IRA関係者に捕まってしまう。
呼び出されたフィーガンは特になんの策もないまま出向き、あわや殺されそうになったとき偶然助かります。いやいや「歴戦の英雄」という設定なのだからもうちょっと考えて行動しましょうや。策が見抜かれたというかそういう以前の問題ですやん。
とにかく序盤にあれだけばれないよう慎重に行動していたのはなんだったのかという展開で、もうちょっとなんとかなったんじゃないかとは思う。エルロイが本書をベタ誉めしてたらしいけど、ミステリとしてはちょっと片手落ちじゃないかなあ。
あとは、亡霊があまり怖くないところ。
主人公フィーガンにつきまとう、といっても、やることといえば悲鳴を上げて眠りを妨げるのが精々。怖いというよりウザイ。むしろ戦闘中は敵の場所を指したり、次の行動の指針を示すなど役に立つ場面もある。
もともと主人公フィーガンの行動原理が罪滅ぼしなので、こういうツッコミは野暮なんですが、それでも亡霊がホラー作品ばりに様々な心霊アタック(なにそれ)をかましてきて、それから逃れるために鬼気迫る感じで復讐代行していくのも面白いんじゃないかなあと思ったり。まあこれはマンガ・アニメ的な発想なんですけどね。
エンディングが無難な内容なのもちょっと喰い足りなかった。
バッドエンドにしろとまでは言わないものの、命令されたとはいえ罪のない12人を殺し、あまつさえ丸く収まりかけていた和平合意をほとんど白紙に戻した男に慈悲をかける価値はあったのか、もうちょっと考えるべきだったろう。
基本的に「主人公=正義」という描写を私は好まないので、中立の立場で物を見た場合、主人公フィーガンが哀れむに値する人物だったかどうかは疑問が残る。
それと、それまで緻密に政治的背景を描いていたにも関わらず、主人公フィーガンがメチャクチャにした北アイルランドの和平合意に関する話が投げっぱなしなのはさすがにどうかと思う。
とまあ悪い部分も書いたけれど、購入前に期待していた点はよく描けていたので概ね満足です。「亡霊に促がされるまま……」という紹介文通りの内容は(比喩とかではなかった)、荒唐無稽ながら背景が背景だけに奇妙なリアリティを伴って読み手に迫ってきます。
あとは12年の服役で浦島太郎状態になった主人公の悲哀とか、9・11を引き合いに出して「もう自由の戦士などという呼び名は通用しなくなった」と嘆く党幹部の話など時代を感じさせる描写が秀逸。
よくできた佳作、というのが最終的な評価でしょうか。アイルランド紛争に興味がある人なら参考までに読んでみてもいいんじゃないでしょうか。
ある日フィーガンは過去に殺した子供の母親に出会い、本来喋ってはいけないはずの、子供を埋めた場所を教えてしまう。そうすることで子供の亡霊が消えてくれることを願っていたのだが、フィーガンにつきまとう亡霊の数が減ることはなく、あまつさえ昔の仲間マイケル・マッケンナに口の軽さを咎められてしまう。
しかしフィーガンに子供を殺すことを指示した当人であるマイケルに出会ったとき、子供の亡霊が身振りでマイケルを処刑する仕草をする。その行動の意味を理解したフィーガンは葛藤の末にマイケルを殺すと、子供の亡霊はいなくなった。
亡霊から解放されたいがために、フィーガンは自分に殺人を指示した昔の仲間たちを次々と手にかけていく。しかしフィーガンの無軌道な殺人が北アイルランドの和平合意を巡る政治の駆け引きに多大な影響を及ぼし、結果としてフィーガンは元IRA関係者のみならず政府からも狙われる身となる…
えーとですね、今回からレビューに簡単なあらすじを書くことにしました。コピペじゃないよ誉めて。やっぱり本文が「読んだ人じゃないとわからないよコレ」とか「思いっきりネタバレだよね」みたいな代物でも、さすがに感想だけしか書かないと投げっぱなしジャーマンだと気づいたので。あと、やっぱり未見の人にも興味を持ってもらいたいですし。
本書は現代(2007年)を舞台に、北アイルランドの和平合意を巡る政治的な駆け引きを背景に描かれたミステリ小説です。復讐モノなんだけど、本人のための復讐ではないところが面白い。亡霊たちがなぜ死ななければならなかったのか、なぜ元関係者が殺されなければならないのか?といった部分が序々に明らかになるプロットはたいへんスリリングで、ゾクゾクします。
標的を殺すとき、自分にしか見えない亡霊を指さし「こいつがお前を欲しがっているんだ」と言う主人公フィーガンの姿は第三者(というか本人以外)から見ればガイキチ以外の何者でもないんですが、ともすればギャグになりかねない描写に信憑性を持たせているのがアイルランド紛争まわりの描写です。
はっきり言って日本の小説みたく、たとえばアイルランド紛争にまつわるアレコレを一から説明するほど親切な小説ではないので、ある程度の古今アイルランド紛争事情は基礎知識として身につけておく必要があります。いちおう訳者あとがきに各勢力の簡単な解説などが載っていますが、やはり当時の退廃的な空気やアイルランド特有の気風(気質?)を知らないと感情移入はできないでしょうし。
私は「リヴィエラを撃て」や「レインボー・シックス(3巻)」でのアイルランド描写に惹かれた影響で本書を買ったクチなので、そのへんはクリア済みでした。
亡霊の望むままに復讐を代行するというプロットや、それに伴って読者の感情に訴える部分などは非常に楽しめましたが、それでもきっちり描かれた政治的背景などとはまた別に、あまり万人には薦めづらい本だなあと思ったのもまた事実だったりしまして。
まず、中盤以降で主人公フィーガンが身を隠しながら行動するようになってからのシナリオの雑さが目につきました。
最初は誰にもばれないよう頭を使って復讐していくわけですが(それでも警察関係者や元IRA関係者からは怪しまれるわけですが)、中盤で失態をしでかし、フィーガンは目立たないよう姿を消すことを余儀なくされるわけです。
物語序盤で知り合ったとある母娘の薦められるままに避暑地のホテルに行くわけですが、そこはとっくに廃業していてボロボロ。「客に貸せる部屋はない」というオーナーに大金を掴ませてどうにか泊めてもらうあたり怪しさ満点です。
逃亡者としての緊張感はあまりなく(母娘の存在によるところも大きいですが)、母娘の車を借りて街に戻ったフィーガンは「以前と変わらぬやりかたで」復讐を遂行していきます(ここが問題。序盤でも罪に問われていないだけで、毎回警察で事情聴取を受けるくらいにはヤバイ手口だった)。で、フィーガンのいない間に案の定母娘は元IRA関係者に捕まってしまう。
呼び出されたフィーガンは特になんの策もないまま出向き、あわや殺されそうになったとき偶然助かります。いやいや「歴戦の英雄」という設定なのだからもうちょっと考えて行動しましょうや。策が見抜かれたというかそういう以前の問題ですやん。
とにかく序盤にあれだけばれないよう慎重に行動していたのはなんだったのかという展開で、もうちょっとなんとかなったんじゃないかとは思う。エルロイが本書をベタ誉めしてたらしいけど、ミステリとしてはちょっと片手落ちじゃないかなあ。
あとは、亡霊があまり怖くないところ。
主人公フィーガンにつきまとう、といっても、やることといえば悲鳴を上げて眠りを妨げるのが精々。怖いというよりウザイ。むしろ戦闘中は敵の場所を指したり、次の行動の指針を示すなど役に立つ場面もある。
もともと主人公フィーガンの行動原理が罪滅ぼしなので、こういうツッコミは野暮なんですが、それでも亡霊がホラー作品ばりに様々な心霊アタック(なにそれ)をかましてきて、それから逃れるために鬼気迫る感じで復讐代行していくのも面白いんじゃないかなあと思ったり。まあこれはマンガ・アニメ的な発想なんですけどね。
エンディングが無難な内容なのもちょっと喰い足りなかった。
バッドエンドにしろとまでは言わないものの、命令されたとはいえ罪のない12人を殺し、あまつさえ丸く収まりかけていた和平合意をほとんど白紙に戻した男に慈悲をかける価値はあったのか、もうちょっと考えるべきだったろう。
基本的に「主人公=正義」という描写を私は好まないので、中立の立場で物を見た場合、主人公フィーガンが哀れむに値する人物だったかどうかは疑問が残る。
それと、それまで緻密に政治的背景を描いていたにも関わらず、主人公フィーガンがメチャクチャにした北アイルランドの和平合意に関する話が投げっぱなしなのはさすがにどうかと思う。
とまあ悪い部分も書いたけれど、購入前に期待していた点はよく描けていたので概ね満足です。「亡霊に促がされるまま……」という紹介文通りの内容は(比喩とかではなかった)、荒唐無稽ながら背景が背景だけに奇妙なリアリティを伴って読み手に迫ってきます。
あとは12年の服役で浦島太郎状態になった主人公の悲哀とか、9・11を引き合いに出して「もう自由の戦士などという呼び名は通用しなくなった」と嘆く党幹部の話など時代を感じさせる描写が秀逸。
よくできた佳作、というのが最終的な評価でしょうか。アイルランド紛争に興味がある人なら参考までに読んでみてもいいんじゃないでしょうか。
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