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2016/02/20 (Sat)06:28
どうも、グレアムです。
俺はローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズが好きで、自分が書く文章もかなり影響を受けているんですが、どういうわけかブロックの著作というのは書店であまり見かけることがなくて、探すのにけっこう苦労します。
最近になって初期作の(表題の)「一ドル銀貨の遺言」を発見してこのたび読了したんですが、この作品、題名はかなりキャッチーなのに内容が酷い(笑)読んでいる最中から「これ駄作だな…」と思ったし、残念ながらその印象が最期まで覆ることがなかった。
本作はスカダーが警官時代に付き合いのあったタレ込み屋のジェイコブ・ジャブロン、通称スピナーを殺した犯人を追うというプロットなのだが、その捜査方法が非常にまずい。
スピナーは生前に三人の人間を脅迫しており、強請のネタを使って金をせびり取っていた。だが死の間際にスピナーは自分が命を狙われていることを察し、スカダーに強請のネタと金の入った封筒を託し、自分が死んだら犯人(三人のうちの誰か)を突き止めてほしいと依頼する。
で、スカダーの捜査方法というのが、自分がスピナーの代理人となって三人を強請り、そのうち犯人が自分に殺し屋を差し向けてくるだろうからそれを待つという、なんとも無謀極まりないものだった。なんのヒネリもないのである。はっきり言ってこれは一番やってはまずい方法というか、探偵の所業としては最悪手と言っていいだろう。
まず殺し屋に自分の命を狙わせること自体がリスキーすぎるし、スカダーはそれに対し特に防衛対策を講じていない。また殺し屋を捕えたところで、相手がプロなら自分の身元や依頼主の正体を明かすような失態は犯さないはずだし、事実その通りだった。
そもそも容疑者を脅迫するのはれっきとした犯罪行為で、元警官とはいえ探偵のライセンスも持たない、肩書き上は一般市民であるスカダーにとっては明らかに分を越えた行為である。何らかの勝算や特別な思惑があるならまだしも、本作でスカダーはまったく行き当たりばったりに行動しているのだ。
当然、スカダーの脅迫によって容疑者は精神的な苦痛を被り、そのうちの一人はスカダーのせいで自殺している。こうした事態は予測して然るべきだがスカダーにとっては想像の範囲外だったらしく、さらに、そのことに対してスカダーはこのうえない罪悪の念に囚われるのだ。浅慮としか言いようがない。
またスカダーが事件を捜査する動機というか、その正当性が非常に薄い。
殺されたスピナーはヤバイ情報を警察に売るかわりに、その情報をネタに容疑者を強請ったほうが儲かるという動機で三人を脅迫していたどうしようもない人間で、率直に言って、彼が殺されたのはある意味で自業自得と言える。
スカダーはスピナーから報酬を受け取ったうえで、違法行為に手を染め、人を死なせ、自らも不用意に危険に晒される。
ただし本作でスカダーの抱える矛盾、行動の無謀さについては作中で指摘されており、上で挙げた欠点を単純にブロックの力量不足と断じるのは早計だ。それでもプロットの稚拙な点や強引さは目立つ部分があり、続編(暗闇に一突き、八百万の死にざま、聖なる酒場の挽歌etc…)に比べると幾分グレードが落ちる感はある。
一方で、本作の欠点はいずれも「スカダーという人間の未熟さ」として捉えることもできる。『暗闇に一突き』で徐々に兆候が見えはじめ、『八百万の死にざま』で顕在化したアルコールの悪影響についての自覚が、この時点では皆無なのだ。
『暗闇に一突き』で「自分はアル中ではなく、やめようと思えばいつでもやめられる。ただそうする理由がないだけだ」とうそぶきながら、実際は全然そうではなかったように、スカダーは自分を客観視するのが苦手というか、幾分傲慢な部分がある。
本作におけるスカダーの行動の計画性のなさ、法を無視し、自分が関わった相手の感情を鑑みることのない傲慢さ、また他方で、決定的な証拠がないにも関わらず事件の真相や犯人を誤認し、見当違いな想像で頭を悩ませる姿は、彼の人間性の弱さを描写したものだとすれば、幾らか納得がいく。
もっともこれは、断酒し、さまざまな事件との関わりを経て自己の内面と向き合った、のちのスカダーの姿を知っていればこその感想であるが。
本書の感想を単純に述べるなら、「酒を飲んでた頃のスカダーはろくなもんじゃねぇ」。という一言に尽きる(笑)
(実際、アル中探偵…と紹介されることの多いスカダーは、酒を飲まなくなった期間のほうがだいぶ長い。もっともアル中だからこそ酒を飲んだら死ぬので、健康上の問題で断酒しているだけであり、たしかに現在もアル中であることに変わりはないのだが)
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