主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2019/06/03 (Mon)03:09
同居人:
「なんなの、この酷い臭いは!?」
市場から戻ったニコラはアパートのキッチンで爆弾作りに励んでいた。
肥料爆弾を容積15Lのジェリカン二個分、おそらく建物一つ吹っ飛ばすくらいなら充分な量だろう。レシピはうろ覚えだったが、もともと作業自体はそれほど難しいものではないし、多少の熱や衝撃で爆発するほど敏感な代物でもない。
問題は臭いだ。ニコラに爆弾の作り方を教えたムジャヒディンは、材料の揮発剤が発する刺激臭については何も言ってくれなかった。窓を全開にするのと、同居人がキッチンに乗り込んでくるのはほぼ同時のタイミングだった。
ニコラ:
「えっと、その…料理、失敗しちゃって…」
同居人:
「料理!?これが料理の臭いですって?それに、その…マニキュアの除光液と硝安!?そんなもので何を作っていたの!?知ってるわよ、爆弾でしょう、それ!」
ニコラ:
「ご、ごめん!あのさ、市場の人に頼まれたんだ。ほら、知ってるでしょ、文化ホールにギャングが集まってるって。そいつらをやっつけるのに使うんだって、これを届けたら幾らかファイブが貰えることになってるんだ」
同居人:
「どうしてそんなこと引き受けたりしたの!?」
ニコラ:
「どうしてって…お金は必要だし。弾薬があれば、食べ物が…」
同居人:
「そんなことは聞いてない、どうしてあなたなの?どうして爆弾を作るのがあなたでなければならないの?あなた、他に何も隠してないでしょうね?ヴァレクのことだって…」
ニコラ:
「隠してないって!爆弾を作って届けるだけだよ、それだけだ。いまから出かけてくるけど…そうだ、帰ってきたらお茶、飲もうよ!あのインド人が象に乗ってる箱のやつ、好きでしょ?買ってくるよ」
同居人はニコラの過去を知らない。メモの一つも見ずにキッチンで爆弾を作る姿に疑問を抱くなというのが無理な話だ。
同居人:
「責めてるわけじゃないのよ。ただ、あなたが心配なの…本当にそれをただ市場の人に届けるだけなのね?それ以外に何かをするわけじゃないのね?危険はなにもないのね?お願いだから、私に対して嘘をついたりしないでちょうだい」
ニコラ:
「大丈夫だって、危険なんかなにもないよ。うん、嘘なんかつかない」
ニコラは自己嫌悪に苛まれながら、どうにか平静を保って言った。
最悪だ…自分は最低の人間だ。もう嘘をついた。ニコラは逃げるように同居人に背を向けると、足早にアパートを出て文化ホールへ向かった。30kgの爆弾と、心に重荷を抱えたまま。
文化ホールはちょっとした宮殿のようだった。周辺には土嚢が積み上げられ、武装した男たちが油断なく周囲に目を光らせている。おそらくは元軍人だろう、お守りを任されたチンピラと、歩哨の経験がある兵隊では目つきや動きがまるで違う。
見つからずに侵入するのは無理なように見えた。ニコラはゆっくりとホールに近づく。
ギャング:
「止まれ、誰何?」
ニコラ:
「あの、修理屋です。なんでも直せますよ、テレビとか、水道とか。あ、水は通ってないか…バネの悪いベッドとかありません?お安くしておきますよ、旦那さまがた」
ギャング:
「修理屋?おまえがか、小僧?それでデカい荷物背負ってるのか。オーブンは直せるか?なんでも冷たいまま食うのは飽き飽きだ。入れてやるが、手早く済ませろよ。怪しい動きをしたら鉛弾をぶち込んで犬の餌だからな」
*Intel*
実際のゲームプレイで施設に侵入する場合、通りの向かい側に立っている乞食の服を着て変装する必要がある。乞食は煙草か食料、或いはファイブ6発を要求するので、適当なアイテムを渡して服を譲ってもらう。殺して奪う選択肢もあるが、乞食は敵対すると物凄い早さで逃げていくうえ、乞食のいる場所はギャングの視界が届くので、まず無理だと考えたほうがいい。
ギャングはプレイヤーが武器を持つor背負っている姿を見ると問答無用で敵対状態になる。このミッションではクリアするだけなら一発も撃つ必要がないので、平和的に解決するつもりなら武器を自宅の金庫に預けておいたほうがいいかもしれない。
…そもそも、なぜ技術者を装うために乞食に変装する必要があるのかはわからないが……
ホールの内部は多数のギャングが銃を手に巡回していた。ものものしい雰囲気のなか、ニコラは手始めに二階のオーブンに一個目の爆弾を仕掛け、続いて一階のATMに二個目の爆弾を仕掛ける。この順番でなければ上手くいかない、オーブンの中に仕掛けるぶんには人目につかないが、ATMの鍵を開けて中に爆弾を置くのは無理なので、ATMの傍に爆弾を置く形になるが、それは当然、人目のつく場所に爆弾を放置することになる。
*Intel*
ATMに爆弾を設置するさい、正面玄関の扉を開けたままにしていると表のギャングに爆弾を仕掛けたことがばれ、その場で戦闘状態に突入してしまう。爆弾を仕掛けるまえに玄関の扉を閉めておくこと。うまくいけばATMに爆弾を設置した瞬間にカットシーンへ以降し、ホールが吹っ飛ぶ。
武器を手に持つor背負っている状態で目撃される、玄関扉が開いた状態でATMに爆弾を仕掛ける、の二点が敵対フラグ成立の条件のようで、他の行動(爆弾を手に持つ、爆弾を仕掛ける瞬間を目撃される、敵に近づく、鍵を開けるor鍵を開けているところを見られる、等)ではギャングに素性が怪しまれることはなかった。
今回はロールプレイ重視のため省いたが、施設内のアイテムをすべて回収してから爆弾を仕掛けても何も問題はないようだ。
建物を爆破した場合、敵は死亡ではなく削除される処理が行われるため、死体からアイテムを回収することはできなくなる。アイテムや経験値が欲しい場合は小細工抜きで戦って敵を全滅させても構わない。
爆弾を仕掛け終え、建物から離れたニコラは爆発と同時にギャングたちがばらばらに吹っ飛ぶか、あるいは瓦礫の下敷きになったことを確認する。
彼らが他人に対し悪さをすることは二度とないだろうが、悪党を退治したことに対する達成感はなく、ニコラは鈍い疲労感を覚え、ため息をついた。
ボスニアでは、敵は家族や友人を殺した憎むべき存在であり、誰に頼まれるでもなく銃を手に取って戦う明確な動機があった。ただ、今回はそうではない。個人的な恨みがあるわけでも、迫害を受けたわけでもない相手を、ただ漠然とした理由で殺している…
戦争では、戦争中ですら戦う相手を選んでいたのに、戦場から離れたいま、自分は相手を選ばずに見境なく人を殺して回っているのか……?
そこまで考えたところで、ニコラはかぶりを振った。
終わりにしよう、こういうのは今回限りにしよう。どれだけ貧しく飢えようとも、それで誰かを傷つけたり、まして殺したりするのは、絶対にいけないことだ。同居人のためにも。
そう胸に誓いつつ、ニコラは誰にも姿を見られないうちに現場から離れた。
市場で買い物を済ませ、アパートに戻ったニコラは同居人の相も変わらずの渋面に正面から向き合わなければならなかった。
同居人:
「さっき、物凄い爆発があったわね」
ニコラ:
「えっ?ああー、うん。たぶん、誰かがうまくやったんじゃないかな。ボクの作った爆弾で。まあ、ボクには関係ないけど」
同居人:
「あなたがやったんじゃないのね?本当に?」
ニコラ:
「そんなわけないじゃないか、そんな危険なこと、ボクにはできないよ。帰るのが遅れたのは、市場で買い物をしてたからさ。何を買おうかなって迷っちゃって、ほら、爆弾を届けて幾らか貰ったからね。
約束通り、紅茶を買ってきたよ!それから牛肉の缶詰と、シリアルと…小麦粉もある!ねぇ、今度なにか作ってよ!爆弾じゃなくって、その、普通の女の子が作るようなものを。とにかく、これでしばらくは食べ物に困らないよ」
同居人:
「そうね、えぇ。その通りね…」
わざとらしく明るい態度で振る舞うニコラに、同居人は沈鬱な面持ちで相槌を打つ。
誤魔化せているはずはなかった。そのことはニコラにもわかっていた。しかし大切なのは、とにもかくにも現状、食べるものには困らない、ということだった。二人とも。
水も電気も止まり、社会基盤が崩壊し、缶詰一つを巡って人々が殺しあうような状況では、それは本当に大切なことなのだ…
【続く】
*Intel*
本作に登場する紅茶のパッケージ、練乳の缶詰のラベルに見覚えがある人がいるかもしれない。
これらは以前、本ブログで記事を作成したことがある「Day R Survival」に登場したものと酷似しており、調査の結果、実在の製品がモデルになっていることが判明した。
紅茶は「со слоном(with an elephant)」と呼ばれるシリーズで、1893年操業の「Московская чайная фабрика(Moscow Tea Factory)」社の製品。現在も製造が続いているベストセラーである。Day Rに登場したものは象が青く、本作のものは象が赤いが、これはグレードによって二種類のパッケージが存在しているため。赤い象のほうが値段が高い。
練乳は「Рогачёвский молочноконсервный комбинат(Rogachevsky milk canning plant)」というベラルーシの工場で製造されたもので、こちらも1936年から操業・現在まで製造が続いているベストセラーである。ロシアにおける練乳は市民生活と密接に関わっており、戦時下の配給品や政府の備蓄食料の一品目に指定されているほど。またロシアでは練乳を加熱してキャラメル状にしたものを食する変わった風習があり、Day Rで練乳を沸騰させて作成するBoiled Milkはこれを再現したものと思われる。
また本作に登場するロシア煙草二種のうち、バルト運河の地図がプリントされたものは「Беломор(Belomor)」あるいは「Беломоркана́л(Belomorkanal)」と呼ばれる銘柄で、1932年からレニングラードのラフェルム煙草工場で製造されていた実在の煙草である。ヨーロッパで入手できるもっとも安価で強い煙草とされた(ニコチン1.5mg・タール30mg)。
また宇宙飛行士がデザインされたパッケージ(ゲーム中では「≪Astral≫ cigarettes」と表記される)は「Космос(Kosmos)」と呼ばれる銘柄で、通常は宇宙ロケットをモチーフにしたデザインで知られる(おそらくボストーク1号をモチーフにしている)。宇宙開発はソビエトが世界に誇る技術であり、宇宙ロケットやアストロノーツがプリントされたパッケージはロシア国民の愛国心に訴えるものであったのだろう。ゲーム中に登場するバージョンも実在は確認できたが、バリエーション違いかコレクターパッケージ的なものかは調べきれなかった。
おそらくは今回紹介したもの以外にも実在の製品をモチーフにしたアイテムが存在するはずなので、興味がある人は調べてみては如何だろうか。
*モスクワ茶工場・公式HP*
moschay.ru/
*ロガチェフスキーMKK・公式HP*
rmkk.by/en/
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