主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2014/06/09 (Mon)05:20
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。今日もウェイストランドでの旅がはじまる…」
** ** ** **
「あんたがオフィサー・ラペラティアを殺したのか?たしかにむかつく女だったとは思うよ、だからこそ雑用を押しつけて嫌がらせのし甲斐があるやつだったのに…」
「あんたも別方面で性格悪いなー」
「放っておいてくれ」
給水キャラバン絡みの事業を統括しているBoSのスクライブ・ビグスリーは、真っ白な顔面を晒しながら力なく呟いた。
タダ働きさせられたと思い込んでうっかりオフィサー・ラペラティアをぶっ殺してしまった俺は、その場でBoSに取り押さえられたが、いちおう救世主だからということで、エルダー・リオンズのジーサマから長時間に渡る説教を受けただけで解放を許されたのであった。
「そんなにドンパチがやりたいなら、あんただったらエンクレイブの残党討伐に加わったほうがいいんじゃないのか?」
「いやだよめんどくさそうだもん。それにあいつらのアーマー抜く武器と弾薬用意するのも手間だしなぁ」
「まあ、いい。それじゃあ罪滅ぼしとは言わんが、メガトンの件で調査を依頼してもいいか?リオンズのじいさまが五月蝿くてな…」
どうやら、メガトンに確実に配達したはずの水が行方不明になっているらしい。住民曰く、「水なんか届いていない」とのことらしいが。
現在、給水キャラバン事業は大幅な予算と人員の不足に悩まされていた。そもそもBoSが統括する事業で、なぜBoSが護衛につかないのか俺はずっと疑問に思っていたのだが、なんのことはない、リオンズのジーサマが人員も予算もすべてエンクレイブの残党狩りに総動員しちまっているからなんだと。
そして僅かな予算で給水キャラバン事業を押しつけられたビグスリーは、不眠不休の労働を強いられているということらしかった。
「安心しろ、あんたへの報酬は約束する。BoSは気前がいいんだぜ」
「期待しておくよ。それと、あんたさ…ちょっとは寝たほうがいいんじゃないのか?」
「…俺の目が黒いうちに優秀な部下が配属されればな」
「なんつうか、その、いろいろ大変だな、あんたも」
「いや、優秀じゃなくてもいい!無能でさえなければ!三日も寝てない俺より判断能力が鈍くないやつがいてくれれば!これは贅沢な望みか、えぇ!?」
しまいには悲鳴に近くなったスクライブ・ビグスリーの嘆願に苦笑しながら、俺はジェファーソン記念館を後にした。
ちなみに、横にいたブッチの機嫌がずっと悪かったのは言うまでもない。面倒に巻き込まれたのだから無理もないが。
出口の扉を開けた瞬間、ビグスリーの最後の叫びが施設内にこだました。
『いいかおい、俺が「勝手な自己判断をするな」と言ったのはな…ええ、おい、「報告・連絡・相談」という、社会人としての一般常識を守れと言ったわけであってな…えッ、「なにも考えなくていい」と言ったわけじゃあないんだッ!何度言ったらわかるんだ、このウスラトンカチどもがァーッ!!』
** ** ** **
「中間管理職ってのも大変だにゃあー」
「まったくだ」
そんなことを呟きながら俺とブッチが向かったのは、アンダーワールド。グールの街だ。
メガトンに至るまでの道中で、せっかくだから馴染みのある場所へ寄って行こうと考えたのだが…
「奇跡の水、アクア・キューラはいかがですかぁーっ!?」
「イカガデスカー!」
アンダーワールドへと続く歴史博物館のホールにて。
カツラを被ったグールとスーパー・ミュータントがセールス・トークを繰り広げているという、あまりにあんまりな光景を前にした俺は、思わず頭を抱えてしまった。
しかも、どちらか片方に見覚えがあるとなれば尚更だ。
「…おまえ、なにしとんねん」
「おお、ヒューマン!久しいな!」
ボロボロのVaultジャンプスーツをワイルドに着こなしたスーパー・ミュータント、何を隠そう以前俺が命を助けてもらったフォークスそのひとである。
「もう一度訊くぞ。おまえ、なにやっとんねん」
「アルバイトだ!」
「…そうか」
アルバイトするスーパー・ミュータントという字面にくらっとしながら(本人に断言されちゃあ仕方がない)、俺は義理も兼ねて彼らが販売するアクア・キューラなるものを数本購入し、アンダーワールドに入る。
飲む前にブッチのピップボーイを使って水質を検査してみたが…
「これ、浄水装置が作動する前の河の水そのものだぜ」
「マジか」
どうやら、多量の放射性物質を含んだ汚染水のようで。
といってもグールにほとんど害はないらしいのだが、なんでこんなものを「奇跡の水」などと称して売っているのか…
そのあたりをこっそりチューリップ姐さんに打ち明けたところ、意外な答えが返ってきた。
「あたしも、あの男はどうも怪しいと思ってたんだけどねぇ。しかもあの水、どうもジェファーソン記念館にいるBoSから直接仕入れてるらしいんだよ。取り引き現場を見た仲間もいるし、それがどうして汚染された水になって販売されてるのかはわからないけど」
害がないとはいえ、ああも平然と街の入り口で詐欺行為をやられたんじゃ風紀に関わるから実態を調査してくれないか、と依頼される。とりあえずメガトンの件は後回しだ。
しかし格安の依頼料だったにも関わらず文句一つ言わず引き受けた俺に、ブッチが疑問の声を上げた。
「金にがめついお前さんにしちゃ珍しいじゃねーか。あの女になんか弱みでも握られてんのか?」
「弱みというか、ハート…かなぁ」
「ゲ!おい相棒、まさかグールの女とデキてんのか!?」
「うるさいなぁ…」
うっかり口を滑らせたことを後悔しつつ、俺はアクア・キューラの調査を開始した。
** ** ** **
詐欺野郎、もとい謎の販売員の名前はグリフォン。
浄水装置の作動、そして清浄な水の供給と時期を同じくしてアンダーワールドに現れたセールスマンらしい。
BoSはアンダーワールドへは給水キャラバンを派遣しなかった(グールは汚染された水でも問題なく活動できるからだ)が、あるときグリフォンがBoSから有償で水を買い取り、グールへ供給する取り引きを纏めたらしい。
しかし、実際にグール達に売られているのはただの汚染水。
その実態を探るため、グリフォンのアジトを突き止めた俺とブッチは内部に突入した。
「ほぉー、こいつは」
「中身をそこいらの汚染水と詰め替えていたのか。これで証拠は確保したが、しかし動機がまだわからんな」
グリフォンは清浄な水を大量に備蓄していた。
アンダーワールドへと戻った俺達は、グリフォンを人気のない場所へ呼び出し事の次第を詰問する。
「チッ、スムーズスキンの旦那…余計なことをしてくれたな」
「とりあえず事情を話してもらおうか」
「いいかい旦那、ウェイストランドにはBoSから水の供給を受けれない連中だっているんだぜ?」
「…あんたの顧客はアウトキャストか?」
「そうとも。ゆくゆくはレイダーや、エンクレイブの連中にも販売するつもりさ、そのために今から在庫を用意してあるんだ」
「残念だが、そいつぁあんまし良い案とは思えんなぁ」
そこで俺は、ウェイストランドのレイダーや、ましてエンクレイブがまともに商売できる相手ではないことをグリフォンに説明した。
いちおう納得したらしいグリフォンは、渋面を見せる。
「くそっ、いままでの努力は無駄になってしまったか」
「しかしまあ、なんだってグールに汚染水を売ってたんだ?普通にアウトキャスト向けに横流しするだけじゃなくて?」
「こいつはいわゆる副産物ってやつでさ。アウトキャストの連中は水の容れ物には関心がない、だからこの、BoSの正規のパッケージを利用してグールを相手に一儲けしようと思ったわけさ」
で、私をどうするつもりだ?グリフォンが僅かに怯えを見せながら訊ねる。
本来、BoSは金銭での水の取り引きを禁止している。これは総帥であるエルダー・リオンズ自らが取り決めた方針であり、グリフォンに水を売ったのはあのビグスリーの独断らしい。しかし慢性的な資金不足に喘いでいる給水キャラバン事業にとってグリフォンから支払われる現金は活動になくてはならないものであり、一概に彼のビジネスを害悪と切って捨てるわけにもいかなかった。
そこで、俺はある提案をした。
「いままでの大量の在庫は不要になったんだろ?だったら、今度からグールにも本物の水を売ってやれないか?」
「正気か?グールに綺麗な水を売ったって何の意味もないぞ」
「そりゃあ、意味はないかもしれないがさ。贅沢ってそういうもんだろ?グールにだって贅沢をする権利はある、違うかい」
それに、もし本当のことをバラしたらグリフォンがアンダーワールドの連中に殺されかねないしな…と、これは独り言。
けっきょく、グリフォンはいままで汚染水を売っていたことは黙秘したまま、今後は清浄な水を販売することに同意した。
もっとも…
「皆さん、今度登場しましたのはアクア・キューラのさらに上を行くアクア・キューラ・エクストラ!見てください、もう水の色からして違うでしょう?」
「やれやれ、商魂逞しいヤツだ…」
俺はこの事実をチューリップ姐さんだけに話し、彼女も口を閉ざすことを約束してくれた。「馬鹿なやつが何に金を使おうと勝手だしねえ」ということらしい。
それにBoSは決してグールに無償で水を配給したりはしないだろうし、有料であれ綺麗な水が手に入るというのは悪くない。ジェファーソン記念館から歴史博物館まで水を運ぶのもそれはそれで大変な仕事には違いないし。
その日の夜、俺はブッチを上階にある酒場ナインス・サークルに追いやると、チューリップ姐さんと二人きりの時間を過ごした。
** ** ** **
「驚いた。まさかマジだったとは」
「うるさいよ」
翌日、そのことについてブッチに冷やかされながらメガトンへと向かう。
てっきりまた不機嫌になっていると思いきや、思いの外ブッチが上機嫌で今度は俺が驚く。
「良い酒でも見つけたのかい?」
「いやなに相棒、ちょいと東洋系のカワイコちゃんと意気投合してな。シドニーっていう、武器商をやってるらしいんだけどな、ありゃあ絶対俺に気があるぜ」
シドニー…リトル・ムーンビームか。そういえばそんな本名だったか。
そんなことを考えながら、俺はメガトンより先にスプリングベールにある旧自宅へと立ち寄った。
「親父、覚えてるか?ブッチだよ、あの悪ガキの」
「悪ガキ…いや、まあ、いいけどさ。オヤジさん元気かい?」
「 」
「…なあ相棒、オヤジさん、元気なのか?」
「聞くな」
馴染みの顔でも見せれば記憶が戻るかとも思ったが、相変わらず何の反応もない。
死んでないってことは、これでちゃんと食事は摂っているらしいが…
家を出た後で、ブッチが当然の質問をした。
「なあ。オヤジさん、どうしちまったんだ?」
「…色々あったんだ。色々とな」
エンクレイブとの戦いで受けた傷と被爆によってああなってしまったのだと、俺はブッチに手短に伝える。
まあ、辛気臭い話をしにわざわざ帰宅したわけじゃない。俺は気分を入れ替えると、メガトンが抱えるトラブルを解決すべく活動を再開した。
** ** ** **
メガトンへの水の供給を担当するキャラバン曰く、「聖なる光修道院という組織がメガトンへの水の分配を担当していると聞いたから、そいつらに渡している」ということだったが。
最近メガトンとはあまり縁がない俺だったが、そんな組織の名前は聞いたことがない。アトム教会の親戚か何かだろうか?
メガトンで聞き込みをしてもあまり芳しい反応が得られなかったが、あるときスプリングベール付近を徘徊していると、謎の男に出会った。
「あんたもマザー・キュリー三世に会いに来たのかい?」
「マザー…なんだって?」
「知らないのかい?我が聖なる光修道院で配っている聖水が欲しいんじゃないのか?」
「聖水?」
俺は目前の怪しい男から「聖水」なるものを受け取る。ブッチのピップボーイを使って水質検査してみたところ、かなり高い濃度の放射性物質を検知した。
もし、こいつが例の「聖なる光修道院」の関係者だというのなら…この水はどこで入手した代物なんだ?
「どうだ、アトムの輝きに満ちているだろ?聖水によって、我々は死せる荒野から光溢れる希望の地へと導かれるってわけさ」
どうやらこいつらの教義はチャイルド・オブ・アトムに近いらしいが、性質はもっと悪かった。
穢れた人間の欲を捨て去り純粋な存在として昇華する…そのための手段とは、汚染水の過剰摂取によるフェラル・グール化!
フェラル・グールはその名こそグールと近しいが、グールとは違い知性がほとんど残っていない、まさしく人の形をした怪物に他ならない。
しかもこの教会の連中は、グリフォンとは違い清浄な水をわざわざ汚染して配っているらしい。
俺は鬼のような形相で男を睨みつけると、抜く手を見せぬ早さで銃口を突きつけた。
「…俺の親父の夢を汚したな…!!」
BLAM!
「おいおいおい!」
いきなり男を射殺した俺に、ブッチが驚きの声を上げる。
しかし頭に血がのぼっていた俺は、ブッチを制すると、聖なる光修道院の本部がある地下へと向かった。
「連中は俺が片づける。ブッチ、お前は…ついて来るな」
俺が地下室へ足を踏み入れた直後から、連続して銃声と悲鳴がブッチの耳に届く。
BRTTT!BRTTT!BRTTT!
そして…静寂が訪れた。
** ** ** **
「こいつで汚染水を作り出していたのか。ガイキチカルト集団め、よくやるよ」
「それより、なあ、相棒…クレイブよ。話がある」
「なんだ」
地下室から出てきた俺に、ブッチが出し抜けに話を切り出してきた。
「俺はもう、お前とはやっていけねぇ」
「どうした急に」
「いいかい相棒、お前、何度俺の前でいきなりドンパチおっぱじめたと思ってる?相手が気に入らなきゃ殺す、それじゃあレイダーとやってることが変わらないぜ。すっかりウェイストランドの流儀に染まっちまったな」
「ウェイストランドの流儀…その通りさ。なんたってここはウェイストランドそのものなんだからな」
そこまで言って、俺はブッチに向き直った。
いつになく真剣な眼差しで、俺はブッチに語りかける。
「いいか、よく聞けブッチ。正義感じゃ人は救えねぇし、理想じゃ人はついてこねぇ。人の上に立つんなら、このウェイストランドで組織のトップに立つなら、そのことは理解しておくんだな」
「おめえこそよく聞けクレイブ、俺はレイダーの集団を作るためにVaultを抜け出したわけじゃねぇ!それに、こんな腐れた世の中だからこそ正義を説くことに意味があるんじゃねーのかよ!?」
「わかってないな。無責任な正義感は他人を傷つけるだけだ、けっきょく、そんなのは誰のためにもならねぇ。俺はそれを経験してるんだ!経験者の言うことは…聞いておくもんだぜ」
「で、自分じゃなにも経験しないまま頭でっかちな理屈で結論を出すヘナチョコ野郎に誰がついてくるってんだ、ええ!」
「お前の勝手な正義感が犠牲者を出すのがイヤなんだよ俺は!いいかブッチ、現実を見ろ。利己的に生きるんだ、でなけりゃあウェイストランドじゃすぐに死ぬことになるぜ」
「お断りだ相棒、俺は自分の足で歩く!この先どんだけ後悔するようなことがあってもな、俺自身がどう生きるべきか、なんてのは、俺が決めることだ!それが、トンネル・スネークのボスとしての意地と、誇りだ」
「…頑固なやつめ…」
かつて…
奴隷商人に追われる奴隷たちに肩入れしたがばっかりに、俺は一人の女を失った。
正義感など何の役にも立たない。
世の中のためになると思って頑張ったところで、それが世の中のためになるなんてことは、ない。あのとき俺は、そのことを思い知った。だからこそ、いかなるときも情に流されず非情に徹することを選んだ。
いまのブッチは、かつての甘かった頃の俺を思い出させ、せめても俺と同じ苦しみを味わうことがないよう、説得したかったのだが…
「生きる道を違えた、ということだな」
「そうだ相棒、俺とお前は別々の道を歩むべきだ。だが忘れないでくれ、こんな話をしておいて勝手だと思うかもしれねぇが、道を違えたからといって、俺とお前の友情がなくなったわけじゃねぇ」
「…そうだなブッチ。俺は今でもお前の決断が間違いだと思ってるが、そう決断したこと、それ自体は尊重したい。元気でな」
「ああ。次に会ったときは、大勢の部下を連れてお前の度肝を抜いてやるぜ、相棒」
「楽しみにしてるよ」
そして…ブッチは俺に別れを告げた。
その背中に安全なシェルターで育ったお坊ちゃんの面影はなく、そこにはたしかに男の矜持があった。
これからブッチは自分自身の物語を創造していくことになるのだろう。そして、時にはその物語が俺の物語と交錯することもあるかもしれない。しかし、二つの物語は決して並んで進むことはないはずだ。
さらば友よ…俺は近くのカウンターに無造作に放り込まれていた未開封のウィスキーを手に取ると、ブッチの旅の無事を祈り、酒瓶を傾けた。
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