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2014/06/17 (Tue)18:28
ティナーヴァの訃報はシェイディンハルの聖域に衝撃を与えた。
またサッチ砦でブラック17とティナーヴァを待ち伏せしていたのが帝国軍の兵士だったこと、そして暗殺者の死を帝国軍の手柄として黒馬新聞が一面の記事に載せたことも、事態の深刻化に拍車をかけた。
あまりに早い情報の伝播は帝国軍が意図的に新聞社へ情報をリークしたからだと予測され、それはつまり、情報を流す用意があったこと、今回の襲撃計画があらかじめ周到に計画されたものであることの証明でもあった。
『ついに伝説の暗殺教団の手掛かりを掴んだ!?多大な犠牲を払いながらも暗殺者のうちの一人の討伐に成功した帝国軍、もう一人の暗殺者を寸でのところで逃したものの、その追及を緩める気配は一向になく、捕らえるのも時間の問題と思われる…』
そう書かれた黒馬新聞の一面記事を見つめ、ブラック17はため息をつく。
今回の作戦を指揮したのは、以前よりダーク・ブラザーフッド壊滅に心血を注いできた帝国軍総司令官アダムス・フィリダ。
どうやら彼は年齢を理由に引退を間近に控えていたらしく、以降は後任のジョバンニ・チベッロに作戦の指揮を任せレーヤウィンの別邸で隠居生活を送る予定だ…と、記事の末尾に付記されていた。
そこでダーク・ブラザーフッドの幹部連<ブラックハンド>より、シェイディンハル支部に「アダムス・フィリダ暗殺」の勅命が下った。
「おそらく、隠居先を新聞記事に載せたのは我々を誘い出すためでしょう。大勢の護衛を従え、手ぐすね引いて待ち構えているはず…しかし、ここで引き下がるわけにはいきません」
長年連れ添った兄を失った悲しみと怒りに燃えながらも、自ら動くことを許されていないオチーヴァは今回の任務をブラック17とティリンドリル…弓の名手として知られるウッドエルフ…の二人に一任することを決めた。
そして任務に赴く二人の前に差し出された、一本の矢。
「これは、シシスの黒薔薇と呼ばれる伝説のマジックアイテムです。この矢を受けた人間の全身に猛毒を伝播させ、一瞬のうちに死に至らしめるもの。アダムス・フィリダを絶命させるのは、この矢の一撃でなければなりません!それは我々を敵に回した帝国軍へのメッセージとなり、恐怖の象徴として伝わるものとなるのですから」
「私は弓は使わないから…このとっておきの一撃はあなたのものになるわね。今回はあなたが主役よ、ティリンドリル」
そう言って、ブラック17はシシスの黒薔薇をティリンドリルに手渡した。
「まさか、この伝説の矢を私が扱うことになるなんて…まさに名誉だわ。暗殺者としての誉れよ」
「感動するのは任務を実行してからよ。土壇場で外されたんじゃあ、私の立場がないわ」
組織に伝わる希少なマジックアイテムを手に目を輝かせるティリンドリルを、ブラック17は幾分冷めた態度で諌める。
かくして、二人の暗殺者はレーヤウィンへと向かった。史上もっとも困難と思われる任務を遂行するために…
** ** ** **
「ねぇ、ティリンドリル」
「なにかしら?」
道中立ち寄った、ボーダーウォッチという名の村にあった宿。
互いに私服姿で夕餉を嗜んでいたとき、不意に、ブラック17はティリンドリルに尋ねた。
「あなたにとって、聖域って…なに?」
「なによ、いきなり。どうしたの?らしくないわよ、ノワール・ディセット」
沈痛な面持ちのまま質問するブラック17に、ティリンドリルが戸惑いがちな笑みを浮かべる。ちなみに、ノワール・ディセットとはブラック17が外界で活動するときに使っている偽名だ。
この村の特産であるチーズをつまにみタミカ・ワインを口の中で転がしながら、ティリンドリルが言う。
「あなた、ティナーヴァが死んでから随分と気を落ち込ませているわね。あなたの責任ではないのに」
「私は、そんなつもりじゃあ…」
「責任感に苦しんでいるのでなければ、情が移ったのかしら?」
「…かも、しれない。違うかもしれない。わからないのよ、それが」
「まさか冷酷非道な殺人機械だったあなたが、この短期間でこうも変わるとはね。でも、まあ、悪いことではないと思うわ。人間らしい心を持つというのは」
「そうかしら?」
「そうよ。私も、ときおり故郷のヴァレンウッドが恋しくなるけど…それでも、私にとって家族とは、真に家族と呼べる存在は、聖域の皆だけ。大切なものがあるからこそ、それを守るために冷酷にもなれるのよ。ただの人形に大義は務まらないわ」
「ただの人形、か…」
そうだったのかもしれない。
いままでの自分は、意思も感情も持たないただの奴隷人形に過ぎなかったのかもしれない。こうして人間らしい心を自覚しはじめたのは、良い兆候なのでは?
だが、結論を出すには早すぎる…とりあえずは、目の前の任務に集中しなくては。
この困難な任務を終えたとき、そのあとで考えよう。
そう思い、ブラック17はビールをぐっと呷った。
** ** ** **
「酷い天気ね」
レーヤウィンは嵐のような大雨だった。もっとも、普段から任務(監視任務らしい、シロディールの外の勢力からの干渉を見張るためというが…)でレーヤウィンに足を運ぶ機会が多いティリンドリル曰く、「ここはいつもこんな天気」らしいのだが。
目的地に到着した二人は、教会の尖塔から標的の居場所を監視していた。
シシスの黒薔薇の持つ猛毒の威力は疑うべくもないが、しかし遠距離からの狙撃で確実に鎧の装甲を貫くのは難しい、というのはティリンドリルの意見だ。おまけに帝国軍の鎧は矢を弾きやすいよう曲線が多用されていることから、鎧を着用しているときに狙うのは困難だ…ということらしい。
もちろん顔面を正確に射抜けば鎧の装甲云々は関係なくなるが、頭部というのは四肢の末端と同様、人間の身体のパーツの中でももっとも動きが激しい部分だ。
狙撃というのは遠距離の的を正確に射抜く技術だけではなく、確実に標的を仕留める状況を作り出す能力も必要とされる。ブラック17にしても、不確定要素に任務の重要部分を委ねるような真似は避けたかった。
ゆえに、標的であるアダムス・フィリダがその鎧を外しているときこそ好機…そう考え、二人はずっと監視を続けていたのである。
「ここから見えるだけでも護衛が六人はいるわね。たぶん、敷地の外側を巡回している連中を数に入れるともっといるはず」
ブラック17は、自らの右目…<シルヴィアの魔眼>から得た視覚情報を頼りにそうティリンドリルに伝える。
すでに二人はアダムス・フィリダの生活パターンをある程度把握しており、一日に一度決まった時間に水浴びすることを掴んでいた。
どれだけ生命の危機に脅かされていようと、重装のまま水浴びをする人間はいない。
だが水浴びしている最中のアダムスの動きは決してゆっくりとは言い難く、おまけに身体の大半が水に浸かっているため、事実上、狙えるのは頭部のみとなってしまう(矢を着水覚悟で胴を狙うことも可能だが、殺傷能力がなくなるわけではないとはいえ威力は大幅に削がれ、狙いも予想できない方向にずれるため、確実性は下がる)。
「念のために確認しておくけど、この位置から人を狙撃できるだけの腕はあるのよね?」
「もちろん、人間大の的に確実に当てれる自信はあるわ。ただ不確定要素が多い以上、過信は禁物だけど」
「狙撃手が正体を悟られず確実に逃走するには、ここが最至近距離なのよね。鎧を着用していないとはいえ、頭しか出ていないんじゃあアドバンテージがほとんどないのも問題だわ」
任務の遂行をより確実なものにすべく、二人は綿密な打ち合わせを行なう。
一番確実なのは水浴びを終えた直後、水から上がった瞬間に狙撃することだが、いつ上がるかの正確な時間がわからないうえ、タイミングを測りながら弓の弦を引き続ける必要がある。
当然、アダムスは狙撃の可能性も考慮に入れている。いままで観察した中では、水から上がってから護衛に連れられてからのわずかな時間しか猶予がない…つまり、陸に上がってから弓を引いてからでは遅い。
しかも弓の弦を引き続けるのは大変な力と労力を要する。集中力もだ。もし「その瞬間」がやってきたとき、集中力が途切れてしまっては何もかもが台無しになってしまう。
狙撃の確実性を上げるためには、こちらが狙ったタイミングで水面から身体を晒させる必要がある。
「私が護衛の注意を惹きつける。すぐ近くで暗殺者が暴れたとなれば、奴はすぐに水から上がってその場から離れようとするはず」
「あなた一人であそこに行くの!?自殺行為よ」
「…それに、私がすべての注意を惹けば狙撃があってもすぐに狙撃者の場所の特定はできないはず。あなたも逃げやすくなる」
ブラック17の提案に、ティリンドリルが目を丸くする。
無茶を言っているのは自覚している、しかし…ブラック17は固い決意を胸に、口を開いた。
「もう私とともに任務を遂行した…仲間を…死なせない」
「仲間、ね。これは光栄と思っていいのかしら」
「派手にやるから、それを合図に弓を引いて。すぐに標的を水から引きずり出してみせる」
そう言うと、ブラック17は尖塔から飛び降りた。
** ** ** **
「おい、ここは立ち入り禁止だ。なんだその格好、まるで殺し屋みたいな…」
「花売りにでも見える?」
「どっちかっていうと変わった街娼みたいだな」
厳戒態勢の中の私有地に近づいたブラック17は、シェイディンハルから貸し出された護衛の一人に行動を見咎められていた。
事前に暗殺者の襲撃があると知らされているからか、護衛の中に気の緩みを見せる者は一人もいない。
かといって、まさかいかにも暗殺者然とした不審者がやって来るとは思わなかったのか、ブラック17の接近に対してそれほど強硬な態度に出てくることはなかった。
池の中からこちらを覗いてくるアダムスの姿を見つめながら、ブラック17は「いますぐ奴に襲いかかったら殺せるだろうか」などと考えた。
いや、とブラック17はかぶりを振る。
殺せないことはないだろう。しかし暗殺はシシスの黒薔薇によって行なわれなければならない。たとえ自らの手を下せるチャンスがあったとしても、自重しなくては。
「もし私が、本物の暗殺者だ…と言ったら、どうする?」
「本物にしろ、そうでないにしろ、不審な者は捕らえても良いというお達しが出ている。これ以上ここに留まるつもりなら、本当に拘束するぞ?」
「あら、そう」
やんわりと警告を受けたブラック17は、目前にいる護衛の首筋に短刀の刃を走らせた。
「やってご覧なさい。できるものならね」
ざわっ…
多量の血を噴きながら倒れる仲間の姿を見て、周辺を警戒していた護衛たちが一斉に動き出す。
また、騒ぎを聞きつけて敷地の外からも続々と集まってくるシェイディンハルの兵士たちを見て、ブラック17は凄みのある笑みを浮かべた。
「まるでイナゴね。雑兵どもに私が止められるかしら」
こうして…シェイディンハルの市民が悲鳴を上げながら逃げ惑うなか、ブラック17と兵士たちの戦いがはじまった。
万一にでも狙撃手の視界を遮ることがないよう、ブラック17は魔法の使用を控え短刀のみで迫り来る護衛を捌いていく。
やがて…
「ついに出おったか、暗殺者め!誰ぞ、ワシの鎧を持てい!」
ザッバァーッ!
派手な水音を立てて、老練のアダムス・フィリダが立ち上がる。全身を外気に晒し、まさしく射撃場の的のように佇む姿を見て、ブラック17は心の中で叫んだ!
「(…今よ、ティリンドリル!)」
そして…ビシュッ!
空気を切り裂く音とともに、シシスの黒薔薇が標的目がけて飛翔する!
「…え……?」
ドスッ。
鈍い音とともに、矢が胸を貫く。
まさか…?
ブラック17は、自分とはかなり離れた距離にいるアダムスが何処かへと姿を消すのを見つめ、悟った。
的を外したとは考えられない。狙われたのは、私だ…
ブラック17は自らの胸に突き立てられたシシスの黒薔薇を見つめ、倒れた。
** ** ** **
「馬鹿な小娘」
教会の尖塔から一部始終を見ていたティリンドリルは、その一言をブラック17への手向けとした。
まさか、組織からシシスの黒薔薇を授けられるとは思わなかったが…たしかに名誉なことではあったが、そういう希少な武具を裏切りに利用したというのも、それはそれで背徳的な喜びがあったことは確かだ。
あとはアダムスが自分の死を偽装してくれる。それで仕舞いだ…もう、シェイディンハルの聖域と関わることもなくなる。自分の好きなように生きることができる、奴隷のように大陸のあちこちを走り回らされることもなく。
さあ、あとはここから逃げるだけだ…そう考えたとき、眼下で巨大な爆発音が響いた。
さっきまでブラック17を取り囲んでいたアダムスの護衛が、いっせいに吹っ飛ぶ。
「なに?なんだというの!?」
まさか、自爆用のスクロールか?
そう考えてすぐ、ティリンドリルはその推測が間違いであると思い直した。
ブラック17はダーク・ブラザーフッドの一員ではない、ティナーヴァと同様のスクロールは持っていないはず。それにあの爆破魔法、もしあれが魔法だとすれば、だが…ブラック17が放った魔法だとすれば。
「まさか、まだ生きている!?」
そう確信したティリンドリルはふたたび弓を構え、矢をつがえる。
だが。
「まさか、あなたが裏切り者だったとはね」
「ど、どうして…」
「私に人間用の毒は効かない…立て!」
果たしてブラック17は、ティリンドリルの背後に立っていた。血塗れの姿で。
咄嗟に短剣を抜いて襲いかかろうとするティリンドリル、しかしブラック17は短剣を持つ手首ごとへし折ると、彼女の首筋を掴んで持ち上げた。
「ぐあっ…く、くぎぎ…っ!」
「貴様、いつから帝国軍に加担していた?なぜ裏切った?」
「…く、ほほっ…なんのこと、かしら?」
「とぼけるな!サッチ砦での作戦の情報を流したのも貴様だろう、吐け!」
「ふふ…た、たしかに、帝国軍に情報を流したのは私よ。でも、べつに帝国軍のためにやったわけじゃないわ。もちろん、帝国軍からも報酬は頂いたけどね」
「なんの話だ」
「いい、これはね…もっと個人的な復讐なのよ。といっても、私も詳しくは知らされていないけど」
手首を折られ、首を絞められていてもなお、ティリンドリルは不適な笑みを崩さず話し続ける。
その態度は、ブラック17にとってまったく気に入らないものだった。
「あの宿で…聖域の皆は家族だと言った、あれは嘘だったの…?」
「あなたも意外とネンネなのね。あんなもの、あなたを油断させるための嘘に決まっているでしょう?どうせ他の連中も、腹の中で考えていることはそう変わりはしないわよ」
「…そう……」
「それで、どうするの?私を殺す?いいわよ、できるものならね。でも、私を殺したって何も変わらないわよ。裏切りは止まらない、この大きな流れを止めることはすでに不可能なのよ」
「…たしかに、貴様を殺しても何も変わらないかもしれない。ただの下っ端の貴様を殺したところでな」
そこまで言って、ブラック17も笑みを浮かべる。
ティリンドリルの瞳を真っ直ぐに見つめ、その首を掴みながら尖塔の縁に立ち、そして言った。
「だったら、別に殺しても構わないわけよね?」
「……え?」
そして。
教会の尖塔から投げ出されたティリンドリルは、街路地にはらわたをぶち撒けて、死んだ。
ここに来る前、キャスト・デバイスを用いた術式を行使したとき、すでにアダムス・フィリダの姿はなかった。うまく爆発に巻き込めれば良かったのだが、おそらくは逃げられたのだろう。
任務に失敗した。しかし、これはもともと遂行不可能な任務だったのだ。裏切り者に命運を託したとあっては。
ブラック17は自らの胸に突き刺さったシシスの黒薔薇を引き抜き、片手でへし折って捨てる。
そう、自分には人間用の毒は効かない。自分の体内に流れているのは人間の血ではないからだ。この肉体は、すでに人間とはかけ離れているからだ。
「…帰ろう」
そうつぶやくと、ブラック17は尖塔から飛び降り、影のようにレーヤウィンから姿を消した。
レーヤウィンに残されたのは理不尽な暴力が生み出した喧騒と、謎の暗殺者の死体に集う群集のざわめきだった。
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