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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)04:09
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2014/06/13 (Fri)20:10

 なぜ、あのエルフの恋人達を殺したことにあれほどまで動揺したのか。
 それはきっと、殺す相手のことを必要以上に知ってしまっていたからだ。いままでの自分は、たんに標的の顔と名前だけを記憶し、命を奪うだけだった。
 だがここシロディールでの仕事は、どれも不必要な事前情報が多過ぎた。
 相手がどんな人間なのか。なぜ殺されなければならないのか。あるいは、殺されなくてもよかった存在だったのかもしれないのか。
 なにもかもが煩雑で、余計で、どうでもいいこと。
 苛立つ…

  **  **  **  **



「さてお集まりの紳士淑女の皆様方、ようこそサミットミスト邸へおいでなさいました!」
 スキングラッド北東部に位置する豪邸<サミットミスト>に集う七人の男女。
 パーティの主催者であるファフニールを筆頭に、元貴族の老女マチルデ、元帝国軍将校のネヴィーレ、酔っ払いの男ネルス、富豪の跡取りプリモ、ダンマー(ダークエルフ)の淑女ドラン、そしてブラック17…それぞれがそれぞれの思惑を胸に、いまは歓談に興じている。
「お金よ…わたしにはお金が必要なの」
「宝探しゲームか。退役恩給の足しにはなるかな」
「ガハハッ、せっかくのパーティだ!楽しくやろうぜ!」
「宝の鍵と、それに対応する宝箱。どちらか片方だけでは意味がない、か」
「わたしが両方とも先に見つけだしてみせるわ!」
 皆一様に胸躍らせ気分沸き立つなかで、ブラック17だけがその冷たい双眸を光らせる。
 その隣で、主催者のファフニールがひときわ大きな声で皆の注意を惹きつけた。
「言っておきますが」
 胸元に光る鍵…ネックレスにして首から下げている…それをこれみよがしに高く掲げ、ファフニールは言葉を続ける。
「誰かが宝を見つけるまで、誰一人としてこの屋敷を出ることは許されておりません。屋敷の扉が開くのは、ゲームの終了を宣言し私がこの鍵を使ったときのみです。とはいえ、それはあくまでゲームの趣向の一つです。屋敷にはたっぷりと水や食料が蓄えられておりますし、それに、まあ、延々と宝を探し続けなければならないほど難しい場所に隠してあるわけではありません。その点についてはあまりご心配をなさらぬよう」
 現在サミットミスト邸では、とあるパーティが催されていた。
 招待状によって迎え入れられた賓客は、この屋敷のどこかに隠されている宝箱と、その鍵を見つけるまで外に出ることができない。宝箱には大量のセプティム金貨が埋蔵されており、それは宝箱の鍵を開けた者に寄贈される。
 そう、そんなものが本当に存在すれば、だが。
 さっそく宝探しに精を出す賓客たちを前に、ブラック17が皮肉めいた笑みを浮かべた。
「そんな美味しい話、あるわけないのに」

  **  **  **  **



 翌朝、賓客たちは老女マチルデの悲鳴によって目を醒ますことになる。
「な、な、なんてことでしょう…!」
 マチルデがダイニング・テーブル上に見たのは、銀の皿の上に乗せられたファフニールの首。
 やがてすべての賓客がその場に集まり、口々に噂をはじめた。
「いったい、誰がこんな惨いことを…!?」
「それより、おい、こいつの胴体はどこに行ったんだよ、エッ!?」
 酔っ払いのネルスの言葉に、誰もがハッと目を見開いた。
 胴体がどこにもない。胴体、首から下、首に下げていたもの。この屋敷の鍵。
「つまり、僕らはここに閉じ込められたっていうことなのか…?」
 富豪の跡取りプリモが顔を青くする。その傍らについていたダンマーのドランは生来の青い顔をよりいっそう青ざめさせ、老女マチルデに至ってはその場で腰砕けになる有り様だ。
 一方で元帝国軍将校のネヴィーレは窓枠をガタガタと揺らし、この屋敷の施錠の頑丈さを確認して回る。酔っ払いのネルスは壁に飾られていた斧で正面扉を破ろうとしたが、大男が全力で斧を振るったにも関わらず、扉はびくともしなかった。
「駄目だ、自力では脱出できそうにない」
「まったくどうなってやがる、だいたい内側から掛ける錠前ってなんなんだよ!そんなもん、聞いたこたぁねえぜ!」
「仕方がないわ。ひとまず、宝探しと平行して胴体を…いえ、屋敷の鍵の捜索もはじめましょう。まさか、煙のように消えてなくなったってことはないでしょうから」
 ブラック17が冷静に…すこし動揺したような演技を混ぜながら…言葉を結ぶ。
 未だ一同のショックが冷めやらぬなか、血気盛んなネルスだけが的確な推測を吐いた。
「まったく、たしかに鍵は消えたわけじゃねぇんだろうさ。このなかに殺人鬼がいるってのと同じくらい確実にな!」
「いったいなにを…」
「鍵が煙のように消えねぇなら、パーティの主催者が首だけになったのは妖精の仕業ってことにゃならねーだろ!?誰かが殺したのさ、何が目的かはわからねえが…あるいは、宝の場所を吐かせようとしたのかもな」
 金を目当てに、人を殺すようなやつがこのなかにいる。
 そう思い知らされた一同はさらなるショックを受けたが、しかし、現時点ではどうすることもできなかった。
「で、でもさ…もし死んだ彼が宝の場所を告げたなら、もう殺人は起きないと思って良いのだろう?殺人者は目的を果たしたのだから」
 最後に、プリモが縋るような態度でそう呟いた。
 誰もがそうあってほしいと望んでいたが、しかし、そうはならなかった。

  **  **  **  **



 夕刻過ぎ…
 屋敷の地下室で、巨大な斧によって首を切断されたマチルデの死体が発見された。
「どうやら旦那は宝の場所を吐かなかったらしいな。殺人鬼は、宝を独り占めするために俺たちを一人一人殺す作戦に出たらしいぜ」
「おい、人心を惑わすような推論は止さないか!まだそうと決まったわけでは…」
「じゃあ他に何の理由があるってんだ!?」
 死体を前に、ネルスとネヴィーレが口論を交わす。このノルドとレッドガードの二人の関係はまさに水と油で、最初に対面したときから険悪な雰囲気を漂わせていた。
 そのとき、ずっと怯えていたドランがぱっと顔を上げる。
「そうだ、魔法よ!わたし、少しだけ魔法が使えるの…もしかしたら、扉を破れるかも!」
「本当かい?」
 同じく殺人者の存在に精神をすり減らしていたプリモが高い声で反応する。
 一行は正面扉まで集まり、ドランの魔法に注視する。しかしドランがいくら魔法の行使を試みても、まるで何も起きなかった。
「おかしい、なんで…ここでは魔法が使えないわ!まるで、何らかの障壁が…呪文を無効化するようなものが…張られているみたい!」
「なんだって!?」
 わずかな希望が潰えたことで、プリモが絶望の声を上げる。
 一方でネルスとネヴィーレは、この状況で互いに相手が犯人だと信じて疑わないようだ。
「まったく、やりかたが汚いぜ…こんなことをするのは、欲にがめつい帝国軍人くらいのモンだな!」
「そうかね?わたしはてっきり、飲兵衛で性根の腐ったノルドの手口そのものだと思ったが」
「なんだと、このクソ野郎!てめぇなんざ…」
「止しなさいよ」
 ヒートアップする二人の間にブラック17が割って入り、制止しようとする。
「こんなときに争ってどうするの、まったく」
「彼女の言う通りだよ。それに、本当に僕らの中に犯人がいるとは限らない。そう見せかけた外部の人間の犯行の線だって充分に有り得る、そうは思わないかい?」
 その場を取り持つためか、プリモも積極的に団結を促そうとする。
 だがしかし、フン、ネルスは鼻を鳴らして背中を向けると、吐き捨てるように言った。
「どのみち、お互い、背中には気をつけようぜ。なぁ?」
 すでに宝探しから生き残りを賭けたゲームと化したこの場で、誰もが疑心暗鬼に陥り、いつ殺し合いがはじまってもおかしくない緊張感が張り詰める。
 この状況で、ブラック17ですらいささかの猜疑心を抱きつつ…

  **  **  **  **



 翌朝、椅子に腰掛けた状態で顔面を射抜かれたドランの死体が発見された。
「畜生、ちくしょう!いったい誰が、誰がこんなことを!クソッ、許せねぇ、くそ、畜生!」
 ダンマーの亡骸を目にしたとき、一番激昂したのは意外にもネルスだった。
 演技にしては大袈裟だな、と皮肉交じりに呟くネヴィーレの胸倉を掴み、ネルスが怒鳴り散らす。
「いいか、彼女は、彼女はな…俺の娘にそっくりだったんだ…てめぇら帝国軍が見捨てた俺の家族にな!それをてめぇ…ッ!」
「ほう、君の娘はダンマーだったのか。ノルドの男にしては奇妙な家族関係だったんだな?」
「この野郎、ぶっ殺す!」
 すぐさま殴りかかろうとしたネルスを、ブラック17とプリモが二人がかりでどうにかしてネヴィーレから引き剥がそうとする。
 取り押さえられ、幾分か冷静さを取り戻しながらも、ネルスは二人に向かって叫んだ。
「こいつを生かしておくと後悔するぞ、こいつが犯人に決まってやがるんだ!」
「それはこちらの台詞だ、薄汚いノルドめ。来るならいつでも来い、相手になってやる」
「なんだとこの野郎!」
 ああ、やれやれ…ふたたび暴れだそうとするネルスを両脇で抑えながら、ブラック17とプリモはため息をつく。
 こんなことをしている場合ではないというのに。
 やがてネルスは大量の食料を部屋に持ち込んで立て篭もり、一方のネヴィーレは帝国軍時代に着用していたフルプレートのアーマーを着用して屋敷の巡回をはじめた。
 ブラック17とプリモも、やがてそれぞれの思惑を持って動きはじめる。

  **  **  **  **



「ネヴィーレが殺されていたわ」
 すべての事態が収束したのは、このゲームがはじまって以来じつに三日後のことだった。
 ネヴィーレは自室で心臓に自身のロングソードを突き立てた状態で発見された。
「これは、自殺…に見えるかい?」
「さてね。彼は護身用のナイフも持っていたようだし、私なら自害するのに扱いにくい長剣で鎧の装甲を抜こうとは思わないわね。そもそも、鎧を着たまま」
「それもそうだ。それと…」
 奇怪な亡骸を目前に、いままでの動揺ぶりが嘘のように平然とブラック17を見つめながら、プリモが言った。
「さっき、ネルスの死体も見つけたよ。つまり、いまこの屋敷に残っているのは君と僕の二人だけということだ。あるいは外部の人間の犯行かもしれないが、そうでなければ僕か君のどちらかが殺人犯ということになる」
「あるいは」
 ブラック17はそこで一旦言葉を区切り、プリモを注視する。
 いかにも金持ちのお坊ちゃん然とした態度は消え失せ、ただ不敵な笑みを浮かべるプリモにブラック17が言い放った。
「あるいは、二人とも殺人鬼か」



「ご明察。すると、君がダーク・ブラザーフッドの暗殺者というわけか。いや、連中に雇われた異界の暗殺者、かな?」
「どこでそれを知ったのかしら?」
「それは企業秘密というやつだね」
「まったく、おかしいと思ったわ。このパーティの主催者、ブラザーフッドのエージェントが真っ先に殺されるなんてね。本来なら、私が彼以外の全員を皆殺しにする筋書きだったのに。そのために宝探しなんていう、ありもしない話をでっち上げたっていうのにね」
「いきなり番狂わせを演じることで君の動揺を誘うつもりだったんだけど、いや、なかなかどうして尻尾を出さないとは、さすがだよ」
 会話を続けながら、二人は一階のホールまで移動する。
 エンチャントが付与された魔法剣を取り出したプリモに、ブラック17が目を細めて呟く。
「それ、で…貴方の標的は私、というわけ?」
「君は強力な魔法を使うそうじゃないか。だから、呪力障壁で魔法を封じさせてもらったよ」
「ああ、あのカラクリは私のために用意したのね。まあ、そんなことじゃないかと思っていたけれど」
 プリモ…いや、プリモを名乗る暗殺者の用意周到さに感嘆しながらも、ブラック17はどうこの場を切り抜けるか考え続けていた。
 素手での徒手格闘でも目前の男を屠れる自信はある。だが、いまは他のことが気になっていた。
「そうね、試してみるのもいいかもしれない」
「?」
「この世界の魔法を封じる…この世界の魔法で…私の、魔法が、封じれるかどうか」
「…ッ、なに!?」
「コール・ブラッドキャスト」
 ブラック17の意図を察したプリモが顔色を変え、床を蹴って彼女に飛びかかる。
 急場で繰り出される、いささか技巧を欠いたその一撃をかわしながら、ブラック17は右腕の内部に収束されているキャスト・デバイス・ユニットを作動させた。
『フリーズ(氷結)…単体術式始動』
「うおおッ!」
 右腕の展開がはじまり、露出する魔導球が視界を覆うほどの光を迸らせるなか、プリモが全身全霊の一撃を繰り出そうとする!
 しかしその剣先がブラック17の喉元に届く直前、プリモが彼女の肉体を離れた右手に顔面を掴まれ、動きを封じられた。まるでそのときだけ、時間が一瞬だけ止まったかのような…



 暗殺者プリモは敗北した。その肉体を氷塊へと変化させられて…
 プリモの肉体の分子構造が置換される直前、彼の懐から屋敷の鍵を抜き出したブラック17は、決して明るくはない表情で彼に背を向け、その場を後にした。
「どこからか情報が漏れている…」
 本来ならば、ワンマン殺人ショーとなるはずだった今回の任務。
 余計な邪魔が入ったこと、あまつさえ招かれざる客の目的が<暗殺者の暗殺>だったこと、そのことを胸中に秘め、ブラック17は聖域の待つシェイディンハルへと帰還した。





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