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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)06:06
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2015/03/09 (Mon)23:03

「ちょっとぉ!コレ!なに!?」
「なんなんだいきなりどうした」
 パウダーギャングの襲撃を目前に控える朝、グッドスプリングス北のガソリンスタンドにてキャラバン・トレーダーのリンゴは流れ者の叫び声で目を醒ました。
 固い床で寝たせいか、いまひとつ疲れが取れないような感覚に眉をしかめつつ声がしたほうを見ると、なにやらブレンダがサンセット・サルサパリラの空瓶を片手に呻いている。
「なんか喉がガラガラになるし!薬みたいな変な味するし!喉が渇いてたから飲んだのにナニコレ飲み物じゃないの!?」
「俺のを勝手に飲むなよ…キミ、まさかサンセット・サルサパリラを知らないのか?モハビにいる人間なら、レイダーだろうがリージョンだろうがみんな知ってるぜ」
「知らない!水、水ないの?ヌカコーラでもいいや!」
「ヌカコーラは知ってるんだ…生憎、ここには他の飲み物はもう残ってないよ」
「う~…」
 そんなやり取りをしていたとき、ガチャリという音とともに猟犬シャイアンを連れたサニー・スマイルズが建物の中へ入ってきた。その面構えはシリアスそのものである。
 前日はウィスキー片手にキャラバンに興じていたブレンダは、琥珀色の液体が入っていた空瓶を睨みつけながらサニー・スマイルズに尋ねる。
「あなたが来たってことは、もう連中、近くにいるのね」
「ええ…あなた、大丈夫?見るからに顔色が悪いけど」
「平気。銃を撃つのに問題はない…はず。だと思う。たぶん」
「だといいけど…パウダーギャングの連中はまだこちらの様子に気がついてないわ。昨日の打ち合わせ通りに頼むわよ」
「わかった。おっけー」
 ブレンダは右手の親指と人差し指でOの字を作ると、バーミント・ライフルを担いでガソリンスタンドを出た。リンゴも旧式のブローニング・ハイパワーを抜き、後へ続く。




「来たわね…」
 二日酔いの頭を抱えながら、ブレンダはパウダーギャングたちの背中を見下ろす形で民家の屋根へと上がった。
 先日、リンゴへ事の次第を伝える前にグッドスプリングスの住民をプロスペクター・サルーンに集めて開いた作戦会議では、恐らく連中はダイナマイトと雑多な火器で武装しているだろうと予測していた。
 戦いに先駆けての物資調達について、ドック・ミッチェルから医療品の供与はあったものの、トレーダーのチェットからの協力は得られず、またイージー・ピートから「こちらもダイナマイトを使用しては」という提案がなされたが、これはブレンダによって却下された。
 今回の戦いは、ただ勝てば良いというだけのものではない。
 町には未来がある。今後のことを、戦いが終わったあとのことを考えなければならない。爆発物による施設へのダメージは、建設資材に恵まれているとは言い難いグッドスプリングスにとって死活問題となる。
 それはつまり、パウダーギャングたちの攻撃を可能な限り封殺しなければならないことも意味していた。連中がダイナマイトの使用を躊躇することはあるまい、であらば町に近づく前に戦力を削る必要があった。
「最初の爆発を合図に発砲を開始して」
 一番槍、はじめの一弾を自分が放つことをブレンダは宣言し、話し合いは終わった。
「さて…」
 ブレンダはバーミント・ライフルの木製銃床を頬につけ、照星に唾をつけて標的を確認する。
 予想していた通り、パウダーギャングたちはダイナマイトを外から見えるような箇所へ身につけていた。おそらく示威的な意味合いもあるのだろうが、戦闘慣れしている人間から見れば、それは逆効果だった。それも、取り返しがつかないほどの。




 ズドッッッ……----ン!!!
 ブレンダの発砲とほぼ同時に、地面を揺らすほどの巨大な爆発音が響く!
 隣を歩いていた仲間がいきなり爆散したのを見たパウダーギャングたちは、いま何が起きたのかをまったく把握していなかった。攻撃されたとすら理解していなかったかもしれない。
 ガチャリ、彼らから離れた位置で遊底桿を引いたブレンダは、狙い通りに銃を撃てたことに対して安堵のため息をつく。
 彼女はパウダーギャングの一人が身につけていたダイナマイトを狙って発砲したのだ。
 そして計画通り、爆発音を合図に町のあちこちへ散らばっていた住民たちが一斉に発砲をはじめる。
「くそ、まさか…待ち伏せか!?」
 ようやく事態を理解したパウダーギャングたち、そして彼らを纏めるジョー・コッブは慌てて散開し、建物の影に隠れながら応戦をはじめた。
 思っていたよりも出来る連中だ…と、ブレンダは舌打ちする。
 ただのゴロツキの寄せ集めであれば、最初の爆発でパニックに陥り、成す術もなく全滅していたはずだ。しかし連中は反撃し、しかも爆発物で纏めて殺られないよう互いの距離をとり、ふたたびダイナマイトを狙い撃ちされないよう民家を盾にしている。
 そして建物の影に入ったということで、これはおそらく偶然の産物だろうが、パウダーギャングたちはブレンダの射線から外れることに成功していた。
「…ここからじゃ狙えない!」
 そう判断したブレンダはすかさず屋根から飛び降り、すぐ下を通っていたパウダーギャングの首筋に銃床を叩き込む!
 グシャリ、頚椎の砕ける嫌な音がし、倒れる男の手からショットガンを奪いブレンダは駆ける。近接戦闘でボルトアクション式のライフルはいくらなんでも分が悪い。
 やがてブレンダは、見覚えのある顔と対峙した。
「おまえは…!」
 慌てて拳銃の銃口を向けるジョー・コッブの顎に銃床を叩き込み、続けざまに喉を殴打する。
 苦しそうに呻くコッブの膝裏を銃床ですくい引き倒したブレンダは、すかさず銃口を額に押し込み、接射した。




 ボンッ!
 派手な破裂音とともにコッブの頭部が吹き飛び、ブレンダの全身に血と脳漿が降り注ぐ。
 それが最後の銃声だった。
 所詮は多勢に無勢というやつで、町の住民の一致団結の前にパウダーギャングたちは善戦する間もなく全滅していた。
 そしてコッブを仕留めるブレンダの手際を見ていた町の住民たちは、改めて彼女を「異彩を放つ存在である」と認識する。
 たとえばサニー・スマイルズの射撃は、ゲッコーなどを狩るための技術(ハンティング・テクニック)を人間相手に応用しただけであり、他の住民にしても、「銃を撃てば人を殺せる」という、それだけの意識で引き金をひいていたに過ぎない。
 しかしブレンダは違った。
 彼女の戦闘法(ロジック)、身のこなし、立ち回りは、明らかに「人間を殺すための技術」だった。記憶を失っていてもなお体に身についた動き、それは彼女が「コロシに慣れ、長けた人間」であることを示唆しているに他ならない。




 そのことに、ブレンダ自身も遅ばせながら気づいていた。
「あ…あたし……」
 つい先刻まで、疑問にすら思わなかったこと。
 あたり一面に広がる血のスプレー、男たちの死体を見下ろしながら、ブレンダはこういう光景を、この匂いを、ひどく懐かしい…「慣れ親しんだもの」と感じている自分に恐怖する。
「大丈夫?」
 躊躇いがちにブレンダの肩に手を置くサニー・スマイルズ、それがきっかけになったのかはわからないが、ポンと肩を叩いたその小さな衝撃が、ブレンダの記憶の扉を開いた。




 タタタタタタタン!
 連続して響く.32口径弾の銃声、手首に響く振動。
 あたり一面に散らばるレイダーの死体、血のスプレー、硝煙の匂い。
 それはごくありきたりな光景、施設内に奴隷が捕まっているという情報をもとに敢行される襲撃作戦。ブレンダと、そしてもう一人の男は、常に手際よくクズどもを葬っていく。




「こっちも片づいたぜ。みんなを連れて脱出する前に、ちょいと家捜しでもしていきますか」
 クレイブ・マクギヴァン、ヴォルト出身の傭兵。
 陽気というよりはデタラメな性格に見えるこの男は、その内面に複雑な繊細さを秘めている。思慮に欠ける言動や戦いにおける加虐性は、優しさを枷としないための彼なりの自己防衛であり、この狂った世界で正気を保つために必要な二面性であることをブレンダは理解していた。
 もっとも、それと互いに理解し合うまでは喧嘩が絶えなかったのだが…




「愛してる」
 きっとマスクの下ではとても辛そうな表情をしているのだろう、彼に微笑みかけ、ブレンダは最期の瞬間を受け容れる。
「…あり、がと」
 銃声。

「どうしたの?本当に大丈夫…」
 急にうなだれ、膝をつくブレンダに、サニー・スマイルズが声をかける。
 しかしブレンダにとっては、それどころではなかった。
「…あたし、なんで生きてるんだろう」
「いきなり何を…」
「あたし、死んだはずなのに。あのとき。彼に撃たれて」
「まさか、記憶が戻ったの?確かにあなたは頭を撃たれたけど、ドック・ミッチェルの手術で助かったのよ。それで…」
「違う、そうじゃない!そうじゃないんだって…!」
 心配するサニー・スマイルズの手をはねのけ、ブレンダは怯えた表情で叫ぶ。
 記憶が戻った。しかしそれは、彼女に安心を与えるようなものではなかった。不安や矛盾に満ちた感情に揺さぶられ、ブレンダはとめどなく溢れる涙を拭おうともせず、ただ…叫んだ。狂ってしまったかのように。
「あたしは…死んだはずなんだ!四年前に!ワシントンで!」



**      **      **      **




 半日後、ようやく落ち着きを取り戻したブレンダはドック・ミッチェルとともにヴィクターの小屋を訪れていた。
「いきなりゲッコー退治のみならず、撃ち合いにまで参加させるとは。まったくサニーめ…ちょっとした荒療治になってしまったな」
 すこし苛ついた様子でソファに腰かけるドック・ミッチェルに、しかしブレンダは言葉を返さずあたりの棚や台の上を掻き回す。
 やがて一枚の紙片を見つけたブレンダは、それが探していたものであることを確認すると、さっそく文面に目を通した。
 それは、モハビ・エクスプレス社の配達指示書。
「あの日墓場で、与太者を連れた白スーツの気障なやつと争っていた男がいてな。やがて白いスーツがピストルを撃って、それがお嬢ちゃんに命中した。白スーツと与太者はそのあとすぐに逃げちまったんだが、そいつらを追いかけるまえ、男は物陰からずっと隠れて見てたおいらに気づいて、お嬢ちゃんをおいらに託した…とまあ、そういうわけさ。紙はそのとき、男のポケットから落ちたもんだ」
 あまり広いとは言えない小屋の中で、やや窮屈そうにしながらヴィクターが語る。
 配達指示書の内容は、一枚のプラチナ製カジノチップをフリーサイド経由でニューベガス・ストリップ地区北門まで配送せよ、というものだった。
 この内容を見る限り、どうやら白いスーツが率いるグループと敵対していた、おそらくブレンダの仲間であろう男はモハビ・エクスプレス所属の運び屋であったことが予想できる。
「記憶をなくした女性にはあまりにも刺激が強い話だ。だから私は、君の状態が落ち着くまでこの話はしたくなかったんだ」
 患者への配慮からヴィクターに口止めをしていたらしいドック・ミッチェルはそう言った。
 しかしブレンダが記憶を取り戻した以上、隠し事をしていても仕方がない。とはいえ未だブレンダがドック・ミッチェルの患者であることに違いはなく、彼がヴィクターへの事情聴取に付き添いとして同行しているのはそういうわけだった。
「男のことはよく知らないよ、なにせお嬢ちゃんをおいらに押しつけてすぐ行っちまったもんでね。ただ…男は自分を、『キャリア・シックス(六番目の運び屋)』と名乗っていたな」
「見た目は?どういう格好をしてた?顔は見たの?」
「顔は見えなかったな。暗かったからじゃあない、ゴーグルとマスクで顔を隠してたんだ」
 ヴィクターの言葉に、ブレンダがビクンと反応する。
 それはすこし離れた場所にいたドック・ミッチェルにもすぐにわかる反応で、すでに彼女から過去の記憶について聞いていた彼は、ブレンダに問いかけた。
「それは、四年前に一緒にいたという、クレイブという傭兵の見た目と一致するのかね?」
「わからない…それだけじゃあ。もっと他に手がかりは?」
 いまにも掴みかからんばかりの勢いで迫るブレンダに、ヴィクターは無言のままモニターを向けると、プツンと音を立てて映像を切り替えた。




 それは、一枚の写真。
 おそらく動画を記録するほどの記憶容量がないせいだろうが、ヴィクターがあの日の夜に撮影した一枚の写真は、たしかにブレンダの記憶の中のクレイブと一致する男の姿を忠実に再現していた。
「間違いない、あいつ…どうしてこんな場所に…」
 配達指示書には、仕事が完了したらプリムにあるジョンソン・ナッシュの支店で報酬を受け取れと書かれている。クレイブ…キャリア・シックスが仕事を完了させるにせよ、失敗するにせよ、いずれにしてもプリムのモハビ・エクスプレス支店まで行けば詳しい事情を聴けるに違いなかった。
「追うつもりかね」
 まったく賛同できない、といった表情でドック・ミッチェルが尋ねる。
 なにも死にかけた女性の命を助けたのは、モハビ・ウェイストランドの不毛の荒野に放り出すためではない、と彼は無言のままに言っていた。しかしそれ以上に、止めても無駄だと理解していることも、その深い年輪が皺の隙間に刻まれた顔には現れている。
「確かめなきゃ…彼が本当にクレイブなのか、ここで何をしているのか。あたしは誰なのか、本当にブレンダ・フォスターなのか」
 ブレンダにとって何よりも問題なのが、クレイブのことよりも、自分自身の素性についてだった。
 何年も前に死んだはずの自分がなぜ生きているのか。
 奇跡?魔術?あるいは、超科学?
 そうでなければ、あるいは…

 旅立つ直前に、ブレンダはドック・ミッチェルの診療所へ立ち寄ることを奨められた。
「これは元々、君が持っていたものだ。ギャングどもと撃ち合うなら、もっと早く返してやるべきだったかもしれないが」




「あたしの銃…」
 PSG-1、高精度セミオートライフル。
 さらにドック・ミッチェルはかつてモハビ中を旅していたときに使っていたショットガンと、容量の大きい多機能バックパックを彼女に託した。
「ありがとう、何から何まで…そして、ごめんなさい」
「いいんだ。今でも医師としては認めたくない結果ではあるが、いずれこうなることはわかっていた。もちろん予想よりずっと早かったが、しかし、私は自分のポリシーよりも君の意志を尊重したい」




 そして、ブレンダはグッドスプリングスを旅立った。
「戻りたくなったら、いつでも戻ればいい。君はもう、我々の家族なのだから」
 おそらくは本心なのだろう、ドック・ミッチェルの言葉に優しく頷きながら、ブレンダはすこしだけ名残惜しそうに背中を向ける。
 目指すは南方プリム、「もう一つのニューベガス」としてカジノで栄える町。
 彼女は取り戻した記憶の真実を確かめるため、新たなる冒険の一歩を踏み出した。



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