主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2013/04/12 (Fri)16:55
『拝啓エルスウェールのオフクロ様、お元気ですか。ム=ラージ=ダーはちょっと参ってます。先頃職場にやってきた同僚にピンチを救ってもらったのですが、帰る途中に突然、そいつが「街に着ていく服がない」と言い出して旅人を襲い、身ぐるみを剥ぐという凶行に及んだのです。外の人間の考えることはわけがわかりません。そうそう、仕送りは予定通りに届けることができそうです。なにか困ってることはありませんか。スクゥーマは足りてますか。なにかあったら俺に言ってください、できる限り力になります。それでは』
** ** **
「あなた、意外と心臓が弱いのね」
なんの変哲もない、ありふれた昼下がり。
ホテルの食堂にて、平然とそう言い放ったブラック17に対し、ム=ラージ=ダーは抗議の声を上げた。
「お、お、お…おまえなー!俺たちは殺し屋なんだぞ、わかるか?こ・ろ・し・や!依頼を受けて標的を抹殺するプロフェッショナルの集団だ、それだってのに、どうしてああも品位を落とすような真似が平然とできるんだ!?」
「あなたの口からプロフェッショナルとか、品位だのという言葉が聞けるとは思わなかったわ」
「黙れ!とにかく、おまえの組織…<黒の里>とか言ったか?いったい、どういう教育してるんだか見てやりたいよ」
「2人とも無事のようですね」
ム=ラージ=ダーが声を荒げたそのとき、2人の背後にアルゴニアンの女性が現れた。
声をかけられるまで何の気配も感じなかったことにいささか驚きながら、ブラック17は口を開く。
「あら、オチーヴァ。あなた、そういう格好のほうが似合ってるわよ」
「その言葉は、いちおう称賛と取っておきます」
「なんだオチーヴァ、わざわざ聖域から出迎えに来たのか?」
「違います。仕事の依頼が…彼女宛てに。ム=ラージ=ダーにはそのまま帰還願います」
「了解」
そう答えると、ム=ラージ=ダーはそのまま席を立ち、ホテルから出て行ってしまった。といっても、いますぐ聖域に向かうわけではあるまい。おおかた、酒場にでも行って飲みなおすつもりなのだろう。
開いたままの扉を見つめながら、ブラック17はオチーヴァ(ム=ラージ=ダーと同じく<ダーク・ブラザーフッド>の殺し屋)に向かって呟いた。
「なにも、ああもすぐに出ていかなくても良さそうなものだけど」
「いえ、これから貴方と仕事の話をする必要があるので。彼は個々の領分というのをわきまえています、余分な情報が耳に入るのを避けたいのでしょう」
「他人の仕事に干渉はしない、ってことね」
ブラック17は頷くと、紅茶が入ったカップに口をつけた。
自分には関係のない仕事の話がはじまるとわかるや、即座に退席したム=ラージ=ダーの対応は、なるほど「知らなくてもいいことを知ってしまったがために」命を失うことも珍しくないアウトサイドの世界において賢い振る舞いではある。
どんなに些細な情報であっても…否、「当初は些細な情報であったとしても」、なにを端緒に、誰にとっての懸案事項になるかなど、そんなのは誰にもわかるはずがない。
と同時に、自ら進んで盲目であろうとするその態度は、ム=ラージ=ダーがネズミ(密告屋)ではないことを証明している。これは、彼なら金のために平然と仲間を売りそうだと考えていたブラック17の認識を改めさせることになった。
「それで、仕事っていうと…聖域から出てきたってことは、今度の目付け役はあなたってこと?」
「ええ、単なるメッセンジャーなら誰にでもできますので。これをご覧になってください」
そう言って、オチーヴァは古ぼけた地図を取り出した。
しばらく目を走らせてから、ブラック17はその見取り図に覚えがあることに気付く。
「これ、帝都の地下水道じゃないかしら?牢獄へと続く」
「察しが良いですね。いえ、貴方はあの現場にいたのでしたね…皇帝暗殺の場に。そう、これは帝都の犯罪者収監エリアへと続く秘密の通路の見取り図です。帝都の中でも、ごく僅かの人間にしか知らされていないルートなのですよ」
「それで、今度の標的は?その秘密の通路とやらを使って、王族でも始末しに行くのかしら?」
「いえ、標的はヴァレン・ドレスという名の囚人です。ダンマー(ダークエルフ)の男で、モロウィンドから亡命してきたところをタムリエルに保護された政治犯です。本来ならば快適な別荘での保護観察処分となるはずだったのですが、その政治思想とは別に、生来の悪質な性格を抑えられなかったようで。とはいえタムリエルも自ら保護を申し出た立場上、処刑してしまっては対外的なイメージに傷がつきます。そういうわけで、牢獄への収監という適当な処分を受けたようです」
「なるほど。それで、わざわざ収監中に命を狙うわけは?依頼人は、釈放されてからではご不満なのかしら」
「ええ。そもそもヴァレン・ドレス自身が、牢獄から出る気がないようで。外の世界に出たら、早晩始末されかねないことをよく理解しているのでしょう。我々の任務は、『牢屋にいれば身の安全は確保できる』というちっぽけな妄想から彼の目を醒まさせてやることです」
「そうなると、そうね…だいたい予想はできるけど、今回の任務のオプションは?」
「ずばり、『ヴァレン・ドレス以外の人間に一切危害を加えないこと、犯行の際、誰にも姿を見られないこと』です。秘密の通路を通るとはいえ、牢獄には看守がいるでしょうから、容易な任務ではありません」
「つまり一切の証拠を残さず、誰にも気付かれぬよう、ただ『ヴァレン・ドレスの命が失われた』という事実のみを残して来い、ということね」
「そうなります」
さらりと答えるオチーヴァに、ブラック17は内心すこし動揺していた。
これがもし、看守含め皆殺しにしてこい、という内容であればいかに楽だったかと思う。不可能ではないにしろ、標的以外に一切の危害を加えてはならない、という条件はブラック17にとっていささか荷が重かった。
それにしても、とブラック17は思う。
単なるメッセンジャーならまだしも、自らも任務に同行するというのに、冷静な表情を保っているオチーヴァの態度を見る限り、彼女はこういった隠密任務が得意なのだろうか。
空になったカップを置き、ブラック17が口を開く。
「それで、決行はいつ?」
「貴方が大丈夫であれば、今夜にでも」
「それじゃあ、今夜で」
** ** **
「なるべく痕跡は残すな…とはいえ、これは仕方がないわよねぇ」
「このあたりにはゴブリンも住み着いてますから、動物の死骸程度なら問題になりませんよ」
「たとえ傷口が、ゴブリンが到底使いそうにない鋭利な刃物で斬られたものだとしても?」
「帝都の役人はそこまで調べないでしょう。というより、調べる前にゴブリンか…あるいは、マッドクラブあたりが見つけて捕食するでしょう。心配はいりません」
「だといいけど」
帝都地下水道内にて。
襲いかかってきた巨大ネズミの亡骸を見下ろしながら、ブラック17は短刀にこびりついた血を拭いつつ、ため息をついた。
無視して先を急いでも良かったのだが、万一後を尾けられて、任務に支障が出てはたまらない。
というか、本当のところ、飛び掛られたとき反射的に刃を走らせてしまった、というのが実情なのだが。
「えっと、ネズミはオプションの範疇には入ってないわよね?」
「もちろん。でも、すぐ得物に手を伸ばす癖は少し改めたほうがいいと思いますね」
「心得ておくわ」
ブラック17は殊勝な態度で臨みながらも、内心では苛立ちを抑えきれないでいた。
…直接戦闘なら、こいつに負ける気はしない。
そういう思いがあるのは確かだったが、しかし同時に、今回の任務はそういった自分の短絡的な部分を見つめ直す良い機会だとも考えていた。
ム=ラージ=ダーに言われるまでもなく、ブラック17は黒の里がモラルなき殺戮に特化した集団であることを自覚していたし、また、タムリエルで活動するうえで嫌でも認識せざるを得ない点であるのは確かだった。
いままでは、自分の行動原理が世人に比べて異常だなどとは考えたこともなかったのだが…
「あまり長居したくない場所ね。匂いが移る前に終わらせたいわ」
「まったくね。あなたもアルゴニアンなら、スーッと泳いですぐに移動できたでしょうに」
「…泳ぐ?」
「ええ」
「下水を?」
「…?ええ」
「えーっと…」
なにか不審な点があるのかと首をかしげるオチーヴァを見て、ブラック17はどう返答していいのかわからなかった。
ドブ泥の匂いがする下水の中を、泳ぐ?
ダーク・ブラザーフッドの教育科目の1つかとも思ったが、「アルゴニアンなら」という言葉を聞く限り、どうも種族的なもののようだ。いずれにせよ、ブラック17の理解を超える話だった。
あまり考えないようにしよう。
ようやく下水道エリアを抜け、現在は使用されていないインペリアル城の地下施設へと足を踏み入れる。一見、ブラック17が皇帝暗殺のために侵入したときと様子に変化はないように思えたが。
「あれ、松明の明かりね。動いてる」
「看守?まさか、こんなところに?」
ブラック17の言葉に驚き、オチーヴァが眼を細める。
しかし2人の視線の先には、たしかに帝国軍正規兵の鉄鎧を身につけた衛兵たちが松明を片手に周囲を警戒していた。とはいえ、それほど熱心な様子ではなかったが。
男達の話し声が聞こえる。
「なあ、相棒よ…皇帝は暗殺されて、もうここいらには何もないってのに、なんで俺達はこんな場所で警戒任務なんぞやってるんだ?」
「仕方ないだろう、面子のためだよ。なんたって、地下とはいえ皇帝が城の中で暗殺されたんだからな。恥晒した挙句、また何かトラブルがあってみろ。それこそ他国に侵略の口実を与えかねないぞ」
「そりゃあ、そうだけどさ。何も来るはずがないのに」
「あまりぼやくなよ、こっちまでダルくなるだろ。楽して給料稼げると思えよ」
「これって税金ドロボーだよな。俺が衛兵じゃなかったら、絶対そのことで抗議してるぜ」
「いいんだよ。俺達だって税金払ってるんだから」
ハハハ。
談笑しながら、衛兵達が遠ざかっていく。
彼らのあまりの不誠実さに頭を抱えながら、ブラック17はオチーヴァに向かって言った。
「あのぶんなら、発見されても金を握らせれば見逃してもらえそうよね」
「駄目ですよ。そんなことをしたら、我々の組織の威信が失墜します」
「そうかしら」
「我々はマフィアとは違うのですよ?目的のために手段を選び、闇への敬意を示してこそのシシスの子らなのですから」
シシス。ダーク・ブラザーフッドが信仰する、闇を司る神。
そう、この国の暗殺組織は宗教と密接な関わりを持っているのだ。ブラック17の感覚で言えば「実体のないものに組織の指針を委ねる」などというのはナンセンスの最たるものだが、ことこの世界において、神と人間との距離は非常に近いのもであるらしいから、一概にその思想を否定はできなかった。
しかし歴史書に平然と神の所業やその影響力が書かれているのだ、これを狂気を言わず何と言うのか。
もちろん、ブラック17がいた世界にも宗教や、神を信仰する文化はあった。しかしシロディールほど市民生活に密着しているようなものではなかったのも確かだ。
文化の違いを受け入れるのは、容易なことではない。
「人数はともかく、警戒レベルは最低と言っていいわね。さっさと抜けちゃいましょう」
「そうですね」
ブラック17は余計な思考を振り払うと、闇から闇へ、影から影へと移動を開始した。
衛兵の警備の目をかい潜り、犯罪者の収監エリアへと続く秘密の通路の前に立つ。
「見取り図の通りだと、ここの壁にあるスイッチを押せば、壁が移動して通路が現れる…ということですが」
「もう開いてるわね。というより、破壊されてる?」
「え、ええ…もともと王族が非常事態の際に素早く逃亡できるよう改築されたものだと聞きましたが…それにしても、おかしいですね。たしかにスイッチを使わず破壊した跡があります。まるで、破城槌でも使用したかのような」
あるいは、素手で破壊したかのような…とは、ブラック17は言わなかった。
おそらく、自分なら、できる。それは確かだ。だが王族や、ましてや側近のブレイズによって行なわれた破壊の痕跡には見えない。皇帝を暗殺した正体不明の殺し屋だって、まさかこんな真似はすまい。
とすれば。
「あの少女か…」
ブラック17は思い出す、皇帝暗殺の場にいた「もう1人の招かれざる者」の姿を。
振るった剣ごと召喚装甲を破壊したあの豪腕、あれは人間のものではない。おそらくは、ソーマ・コーポレーションが玩具代わりにいじくり回したサイボーグか何かなのだろうが。自分達以外に異世界へのコンタクトを行なうものがあったとは驚きだが、その点については後で考えても遅くはないだろう。
「なにか懸案事項でも?」
「いえ」
思案に暮れるブラック17を気遣うよう問いかけるオチーヴァに、素っ気無く答えを返す。
「それじゃあ、行きましょうか」
「いえ、ここから先は貴方1人で遂行してください」
「ほう…?」
「これより先は独房エリア、狭い通路で構成されています。人数が多くてはかえって足手まとい…それにこの任務の遂行者は貴方で、私はただの監視役ですから」
「なるほど。それで、私が仕事をしている間、あなたは床の砂粒でも数えているのかしら?」
「貴方の背中を守ります。万が一、私達が来た道から衛兵が紛れ込んでこないように」
「あなたが先に連中に発見されて、トラブルにならないという保障は?」
「心配は無用です」
そう言うと、オチーヴァはその場にぺたんと座り込んでしまった。
「さあ、私のことはお気になさらず。ごゆるりと、お戯れあそばせな」
「…… …… ……!!」
オチーヴァの姿が、スゥーッと環境に溶けて消えていく。
クローク能力!こんな技を隠し持っていたのか…ブラック17は唖然とした。
「随分と、驚いているようですね?」
「ええ。私がいた大陸では…あまり、見られない能力だったから」
「そうですか」
そう言って、完全に消える前のオチーヴァの表情が、心なしか至上の笑みを浮かべているように見えた。
** ** **
「なあ、ヴァレン・ドレスよ。お前、いい加減にこの牢から出る気はないのか」
「ないよ。なんだ、どうした急に?いまさら私の保護のためにかかる経費が…税金の額が気になったとでも言うのかい?」
「まあ、そんなところだ」
衛兵と標的が交わす言葉に耳を立てながら、ブラック17は気配を殺して接近する。
「君だって、ねえ。私がここに収監されているからこそ、地下牢の番なんていう楽で安全な仕事に就けているのではないかね?」
「それも、そろそろ飽きたんだよ。毎日見るものといえば、天井の低い廊下に、お前の顔だけとくる。休暇が取れるのも半年に一度、それも女房にガミガミ言われるだけで帰ってくる始末さ」
「それはきっと、寂しさの裏返しじゃないかね」
「そりゃ、わかっちゃいるんだがねェ。悪意でやってるんだったら、とっくに離婚してるよ、ホントに」
「そうだな、君だけに辛い思いをさせるわけにはいかんよな。だから釈放されたら、真っ先に君の奥さんに会いに行って、慰めてあげることにしよう。心も、身体もね」
「…やっぱりお前、ずっとその中に入ってろ」
そう言って、衛兵が離れていく。
地下牢を見回る衛兵の数は2人、その2人が同時にヴァレン・ドレスから視線を離した、その刹那!
「おはよう、ヴァレン・ドレス。そして、おやすみなさい」
「え…な、なに?」
ヴァレン・ドレスの目の前に、漆黒の闇が迫った。
** ** **
「おーい、ヴァレン・ドレス。ヴァレン・ドレスよお」
三日後。
松明を片手に、囚人に話しかけるのが日課になっていた衛兵が、うずくまったまま大した反応を見せないヴァレン・ドレスを見て怪訝な表情を浮かべた。
しばらくして同僚も独房を覗き込み、いったいどうしたのかと首をかしげる。
「あいつ、どうしたんだ?」
「さあ。このところ、なんか急に大人しくなっちまってさ。悟りでも開いたのかな?」
「いいんじゃないの?好きなようにやらせておけよ」
「そーだな」
黒馬新聞紙上にて、政治亡命者ヴァレン・ドレス氏の「病死」が伝えられたのは、それから1週間後のことである。
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