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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2013/04/16 (Tue)05:48
 なんだろう。
「いつ見ても小食だなァ。そんなだから筋肉つかないんじゃないのか」
「冗談。女性はカロリーを気にするものよ…それに私、マッチョ主義でもないし」
「そうかい。レッドガードの女戦士なんか凄いぞ、食事量なんかオーク顔負けだからな!」
 なんなんだろう。
「ところでティナーヴァのやつ、どこ行きやがった?」
「さあ。なにか別件があるとかで、レーヤウィン方面に向かったらしいけど」
「あの野郎、賭けのツケが溜まってるからって逃げやがったな。こっちだってピーピーなのによ」
 なんなんだろう、これ。
「ところで17、お茶のおかわりはいかが?」
「ええ、頂こうかしら」
 シェイディンハルに存在する、秘匿された区画。
 暗殺者集団<ダーク・ブラザーフッド>の聖域で、ブラック17はあれほどまでに忌避していた組織内のアットホームな雰囲気に馴染みはじめていた。それは本人にとっても意外なことで、なんとなく居心地の良さを感じていることに当人自身が驚きを隠せないでいる。
「ところで、ブラックナンバーっていうのは特権階級みたいなものなの?」
「特別な存在ではあるけれど…待遇が良い、とかいうのではないわね。普段の生活は下級のアンダー・コードと変わらないし」
 現在<黒の里>は、幹部のブラック・ナンバーを含め200人前後で活動している。狭くて殺風景な共同宿舎、味のしない食事、過酷な訓練。「個」や「欲」、果ては「倫理観」さえも徹底的に排除し、ただ「効率の良い殺人機械」としてのみ存在することを許される場所。
 そしてアンダー・コードと呼ばれる構成員の中でも、特に素質のある者だけがブラック・ナンバーとして抜擢され、戦闘能力を飛躍的に上昇させる特別な改造を施されるのだ。
 こんな境遇を経て…今の自分は「任務」としてこの場所に留まっているはずなのだが、そのことにとてつもなく違和感を覚えるのはなぜだろう?

  **  **  **



「ちょっといいかな」
「仕事の話?」
「まあ、そうだ」
 聖域内の訓練所にて。
 いささか暇を持て余していたブラック17は、このシェイディンハルの聖域で扱う仕事の管理を担当しているヴィセンテ・ヴァルティエリに声をかけられていた。
「今回の仕事はちょっとした変わり種でね。よく内容を憶えてから出立してほしい」
「変り種?暗殺方法に指定があるとか、そういうのかしら?」
「まあ、そういうようなものかな。今回の仕事にはこの2種類の道具を使う」
 そう言って、ヴィセンテはブラック17に一振りのナイフと、瓶入りポーション2つを手渡した。
「これは?」
「はじめに言っておくが、そのナイフの刃には触れないほうがいい…特殊な毒が塗布されているのでね。ランガー・ワインという名に聞き覚えは?」
「いいえ。霊酒かなにか?」
「いや、ワインという名ではあるが、そもそも葡萄酒とはまるで無関係な代物でね。ランガー・グラスという植物の根を加工して作る強力な毒物だよ。摘出毒素の見た目がワインに似ているため、ランガー・ワインと呼ばれる。研究者によってはランガー・ブラッドと呼ぶこともあるようだな。わずか少量の摂取でも人間を死に至らしめることができる」
「高価な代物?」
「それなりにね。原料となるランガー・グラスが希少種なのだ。昔から暗殺に用いられてきた、いわゆる暗殺者にとって伝統的な武器なのだが…この毒には、奇妙な言い伝えがあってね。なんでも、この毒によって死んだはずの人間が、数日後なにごともなかったかのように生き返ったというものだ」
「たんなるオカルト話…なら、いまここで話題にする必要はないわよね」
「ああ。たんなるオカルト話として無視するには、あまりに報告頻度が多かったからね。それで…この毒は、本来人間を仮死状態にするものだった、ということが最近の研究で判明したのだ。ただ規定より多く摂取すると、仮死状態でいる期間が長すぎて本当に死んでしまう、というのが真相だった」
「扱いが難しい毒ね、どちらの目的で使用するにしても」
「そうなんだ。それに、効能には個人差もある。そこで我々は、ランガー・ワインの毒素を中和して仮死状態にある人間を蘇生させるための薬を開発した。今回の任務は、そのテストを兼ねている」
「つまり」
 ブラック17は手元にあるナイフと薬瓶を見つめ、面白くなさそうに呟いた。
「今回の任務は、対象の死を偽装する…ということね」

  **  **  **



「で、屋根から侵入するのかね?」
「まさか正面から堂々と侵入するつもりだったの?」
「…… …… ……」
「…… …… ……」
 真夜中。
 コロール市街北部の巨大な樫の木の向かいにあるフランソワ・モティエレ宅の屋根の上で、ブラック17とヴィセンテは互いに沈黙した。
 今回の任務でブラック17の目付け役に就くのは、他ならぬヴィセンテ。それというのも、今回の任務には細心の注意を払う必要があるから、なのだそうだが。
 コホン、ヴィセンテが咳払いし、口を開く。
「解毒剤は、2種類の薬品を調合したものを使用する。調合は直前でなければ駄目だ、時間とともに効能が失われてしまうからね。本来はダーク・ブラザーフッドの構成員が逃走に失敗したとき、あるいは敵地への侵入手段の一つとして死を偽装するのに用いるため開発したものだが、今回は依頼人と利益が一致したため、テストも兼ねてこれを使用することになった」
「それにしても、暗殺組織が死を偽装、ね…しかも今回の依頼人、犯罪組織から借金していて、首が回らなくなった挙句に命を狙われる破目になったらしいじゃないの。そんな人間の依頼を、どうしてあなたの組織が受けることになったのかしら」
「そこは企業秘密というやつだよ。さて、それじゃあ参上といこうか」



「うわぁああぁぁぁぁあああっっっ!!??な、なになになになに!?」
「やぁ、夜分遅くに済まないね。私個人としては、素直に正面からお邪魔するつもりだったんだが」
「あなた、それ、嫌味のつもり?」
 煙突から音もなく侵入してきたブラック17とヴィセンテに、家主のフランソワ・モティエレは腰を抜かしていた。
「あ、お、お、お前、お前ら、いったい何者だ!?」
「殺し屋よ」
「どっちの!」
「貴方を助ける方です、ミスタ・フランソワ」
「あ、ああ…ダーク・ブラザーフッドの方か。いや、取り乱して済まなかった」
 フゥ、なんとか落ち着きを取り戻そうとし、フランソワは呼吸を整える。
 見たところ、あまり悪い連中と付き合いがありそうな風体には見えない。中流貴族の放蕩息子、といったところか。それなりに歳は取っていたが独立しているようには見えなかったし、物腰に落ち着きがない。
 ますます、どうしてこんなヤツを助けるのか理解不能だ…と、ブラック17は思った。
 そんなブラック17の内心の疑問を余所に、ヴィセンテがフランソワに話しかける。
「それで、時間的余裕は?あまり猶予はなさそうですか?」
「ああ。あの連中、今夜にでも殺し屋を送り込んでくると脅迫してきたよ。もう、今すぐ来てもおかしくはない…もう金などどうでもいい、面子を潰した責任を取ってもらう、と言っていたから、たんなる脅しではないだろう」
「あの手合いはそういうところに必要以上にこだわりますからな。それじゃあ、すぐにでも取り掛かりましょう」
 ヴィセンテがそう言ったとき、玄関戸が乱暴に叩かれる音が家中に響いた。
 ビクリ、フランソワが身体を震わせ、ブラック17とヴィセンテはたいして動揺もせず扉のほうを見つめる。
『おいフランソワ、もう逃げられんぞ!ちょいとばかりやんちゃが過ぎたな、えぇ!?命乞いの準備はできてるか…ちゃんと命乞いができたら、俺様が笑いながら殺してやるよ!』
 ドガン、台詞とほぼ同時に扉が蹴り開けられた。



 侵入してきたのは、鉄製の装備に身を固めたアルゴニアンの男。手にしたクレイモアは傷だらけでくたびれており、それなりにこの稼業で慣らしていることを示していた。
「おい、フラン…なんだ、この連中は」
「同業者よ」
「ホウ…どうやらフランソワは、こちらが予想していた以上にやんちゃだったってわけだな。だが、そいつは俺様の獲物だ。大人しく渡してもらおうか」
「17、頼みましたよ」
 口上を述べる殺し屋を無視するように、ヴィセンテがブラック17に合図を送る。
 怯えるフランソワの脇腹に、ランガー・ワインが塗布された銀製のナイフを突き刺す。一瞬「うっ」と呻いたのち、フランソワはがくりと首を垂らして倒れた。
 ぐにゃりとなった身体を抱きかかえ、ブラック17が呟く。
「事切れたわ」
「あっ、て、テメッ!毒入りナイフか!?」
「それじゃあ、死体を本部まで運んでもらいましょうか。この殺し屋は、私が相手をします」
 そう言って、ヴィセンテはウィンクを寄越した。ブラック17もウィンクを返し、フランソワを抱えて外に飛び出す。
 妨害しようとしたものの、寸でのところでかわされた殺し屋は、苛立った表情を隠そうともせずにヴィセンテを睨みつけた。
「やってくれるじゃねえか…こりゃあ、ちっとは手柄がなくちゃ帰れねぇな。テメエの首を削ぎ落として、せめても俺様を敵に回したことを後悔してもらわなきゃならん」
「ハイド・ヒズ・ハート(命の隠匿者)…まるで小人が悪戯で玩具を隠すように、易々と標的の命を奪い去る男。フリーの殺し屋の中ではかなりの辣腕と聞いています。手合わせ願いましょうか」
「ホウ、俺様の事を知ってるってか。単なる無知じゃあねえらしいな。だが、俺様の正体を知ってて喧嘩売るたあ、無知じゃあねえが、バカだな、テメエは。いったい何者だ?」
「ダーク・ブラザーフッドのヴィセンテ・ヴァルティエリと申します。お見知りおきを」
「なに、ダーク・ブラザーフッド…実在したのか。あるいは、騙りか?まあいい、どっちでも関係ねぇや。剣の錆になってもらうぜ、オッサンよぉ」
 その台詞の直後に、両者の剣が火花を散らした。

  **  **  **



「殺し屋め、もう逃げられんぞ!」
 既に「フランソワ・モティエレが暗殺者に命を奪われた」というニュースはコロール中に広まっており、衛兵達がフランソワの亡骸を抱えたブラック17を捕らえようと追跡していた。
 既にかなりの数の衛兵が集まっており、飛来する矢を避けながらも、ブラック17は包囲の輪が序々に狭まっていることに気がつく。
 …こんなところかしらね。
 ブラック17は急にフランソワの身体を放り出すと、その場から跳躍して家の屋根から屋根へと飛び移り、コロールを脱出した。その姿を見て、衛兵たちが口々に驚きの声を漏らす。
「あッ、に、逃げたぞ!?なんて跳躍力だ」
「あれでは追えんな…まず、被害者の遺体を確保せねばならん」
 こうして、コロールの夜を騒がせた暗殺劇は幕を閉じ……

  **  **  **



「けっきょく犯人はわからず、フランソワは埋葬されておしまい、と。チャン、チャン」
 後日。
 コロールの西側にあるステンダール大聖堂の地下墓所にて、安置されているフランソワの亡骸の前で薬品を調合するブラック17の姿があった。
 もともと、埋葬されてからフランソワを蘇生させ、夜中のうちに彼を連れ出して逃亡を手伝う…というのが本来の筋書きである。殺し屋ハイド・ヒズ・ハートの前でヴィセンテがブラック17に「本部に運べ」と言ったのは、衛兵の捜査を撹乱するためのウソだ。
 そのため、あのときの会話はわざと外に漏れるよう大きな声で話された。そしてハイド・ヒズ・ハートの声がもともと大きかったのは、こちらにとって好都合だった。
「ホラ、起きる時間よ。ところでこれ、どうやって死人に摂取させるのかしら」
 そういえば、薬品の摂取方法までは教えてもらえなかった…そんなことを考えながら、ブラック17は調合した蘇生薬をフランソワの口、鼻などにでたらめに流し込む。
 しばらくして、「ゲホッ、ゲホッ!」そうやら蘇生に成功したらしいフランソワが咳き込みながら起き上がった。
「う、ゲェッホ、ゲホッ!も、もうちょっとマトモな薬の与え方はなかったのかい!?」
「…このことは本部に報告しなくちゃね。注射器とか、何かやりやすい方法を考えないと」
「いや、その、ホラ、さ。マウストゥマウスとか、配慮あるやり方が他にもあったろうに」
「死にたいの?」
「スイマセンでした」
 寝台から離れ、フランソワがブラック17に話しかける。
「それじゃあ、行こうか。今は夜中かい?誰にも見つからないうちに、この国を脱出する必要がある」
「それはいいんだけど。あなた、借金まみれだったんでしょう?どうやってダーク・ブラザーフッドなんかに依頼できたの?」
「…君は何も聞いてないのかい?」
 ブラック17の質問に、フランソワは「なにをいまさら」といった表情で答える。
「どうも、彼らの信仰する…シシス、と言ったか。その神様が、死者の魂を欲する、とかでね。だから僕は、自分の家族を生贄に捧げて今回の依頼を受理してもらったんだ。もとより、国外に脱出したら家族のことなんか関係なくなるからねぇ」
「…あなた、自分が助かるために家族の命を差し出したの?」
「そんなに責めるような目で見ないでくれよ。君達にとっては、これでギヴ&テイクが成立したんだろう?僕にだって、良心の呵責がないわけじゃあないさ」
 そう言って、フランソワは笑みを浮かべた。
 こいつ、見た目とは裏腹にとんでもない悪党だ…ブラック17の中で、殺意が湧き上がる。途方もなく借金を重ねたうえ、それを踏み倒して逃げるために家族を犠牲にするとは。
 一瞬、短刀にブラック17の手がかかる。しかし、それと同時に得体の知れない気配があたりに満ち溢れ、ブラック17は寸でのところで衝動的にフランソワを殺しかねなかった動きを抑えた。
『許せない』
「な、なんだ?」
 突如聞こえてくる謎の声に、フランソワが動揺の声を上げる。
『許せない』
『自分のために私達を、フランソワ、そこまで堕落していないと信じていたのに』
『絶対に許すわけにはいかない。ここで死んでもらう、そう、私達の隣で』
 ガタ、ガタ、ガタッ!
 あちこちに安置されていた棺の蓋が持ち上がり、肉体のほとんどが朽ちた遺体がよろよろと起き上がってくる。



 そうか…ブラック17は納得した。
 彼らは、フランソワが犠牲にした家族の遺体だ。フランソワがここに埋葬されたのなら、フランソワの家族もここに埋葬されていたと考えるのが妥当だろう。
 そして自分だけがのうのうと生き延びたフランソワの姿を間近で捉えたために、怨念がこうして具現化したに違いない。
「や、やぁマーガレット叔母さん。あまり顔色が優れないけど、元気そうでなによりだよ」
「冗談言ってる場合!?ああもう、まったく、あなた最低だわ!」
 とぼけた表情で、生ける屍…ゾンビに話しかけるフランソワに、ブラック17は珍しく感情を剥き出しにして叫んだ。
 とりあえずフランソワを衝動的に殺しかけたのはさておき、何にせよ仕事は仕事だ。そのことは心得ている。いますぐここから脱出してもいいのだが、この怨霊どもを放置しておくわけにはいかないだろう。
「悪いけど、死者が生者に干渉するのは出過ぎた行為よ。同情の余地はあるけどね」
 そう言って、ブラック17はゾンビの身体に短刀の刃を走らせる。
 ザシュッ、鋭い刃に傷つけられた肉体はしかし、すぐ魔力によって縫合されてしまい、元に戻ってしまった。
「なっ、なんなの、こいつら」
 自分の一撃が効かなかったことに動揺するブラック17。
 そうか、こいつら、怨念の力が強過ぎるんだ…普通のゾンビなら、傷つけられた先から治癒してしまうなどという芸当は持ち合わせていない。しかしここにいる連中は恨みの強さのあまり魔力が極限にまで増幅され、ただのゾンビにあるまじき能力を発揮している。
「ゲェッ、き、傷が塞がった!?」
「あなた、ちょっと下がってて」
 驚きの声を上げるフランソワを、ブラック17は強引に投げ飛ばす。
『邪魔をするな…』
『憎い、なにもかもが憎い。生きるものすべてが憎い。みんな殺してやる』
『すべてを我々の仲間に…』
 いままさにブラック17に掴みかかろうとするゾンビの群れを前にして、ブラック17は右腕を掲げて呟いた。
「コール・ブラッドキャスト」
『アクセプト…レディ』
 ブラック17の言葉に呼応するように、右腕から機械的な音声が漏れる。
 右腕に仕込まれていたキャスト・デバイス・ユニットが作動し、ブラック17の思念に合わせてスペル・カートリッジがチャンバーに組み込まれていった。
『フリーズ(氷結)…ストーム(暴嵐)…複合構術開始。クリスタル・アイス(輝晶風華)、ラン(起動)』
 術の詠唱とともにブラック17の右腕が展開し、核となる魔導球が露出する。
 ブラック17の身体が青白く発光すると同時に、周囲の気温が急激に低下していく。地面に霜がはりつき、壁が凍りつき、そして。



 ドシャアッ!!
 爆発音とともに無数の氷のかけらが舞い散り、ブラック17を攻撃しようとしていたゾンビ達が一瞬で凍りつく。やがてその凍りついた肉体にヒビが入ると、ボロボロと崩れ去り、粉々に砕け散った。
 その様子を見届けていたフランソワが、呆気に取られた表情で呟く。
「な、なんだ、いまのは…見たこともない様式の呪文だったぞ」
「でしょうね。わたし、この大陸の出身じゃないの」
「そうなのか。ところで、まさかとは思うが…家族の死体は、まさかこの状態から蘇生したりしないだろうか?」
「それはないわ。組織同士の魔力の繋がりを絶ったから」
「そ、そうか」
 おそらくは理解していないであろう口ぶりで、フランソワは頷いた。
 見た目には凍ったように見えるが、これは実は、物質の性質を変換する術だ。つまり肉体を氷に変化させるもので、氷が溶けたからといって、肉片が残ることはない。ただの水となり、蒸発するのみだ。
 だからもし教会の人間がこの惨状を発見したとしても、おそらく何が起きたかはわかるまい。
 煙を上げる自らの右腕を愛おしそうに撫でながら、ブラック17は言った。
「さあ、行きましょうか」

  **  **  **



「とても助かったよ。これからの君の人生に幸あれ、だ」
「余計なお世話よ」
 朝焼けとともに、フランソワは国外に脱出するためのボートに乗り合わせていた。
 なぜ、「家族を犠牲にした」と平然とのたまったフランソワに殺意が湧いたのか…そのことに、ブラック17は思いを馳せる。
 義憤では有り得ない。そんなことを感じないほど、ブラック17はいままでに悪業を重ねてきた。
 だが、そう…自分の家族を、自らの欲得のために利用したことだけはない。愛する父と母を傷つけるようなことだけは、したことがない。そしてその、愛した両親はもう、この世にはいないのだ。
 たぶんそのことに関係してるんだろう、とブラック17はひとりごちる。
 しかし仕事に私情を挟むことは許されない。つまらない感情に、振り回されてはならない。それは、黒の里にいた時から常々心に刻みつけてきたことだった。たとえ依頼人がどんなに人間的に屑だとしても、それを違えることは許されない。
 なぜなら自分は、ただの道具なのだから。ただの道具でなければ、ならないのだから。
 そんなことを考えているブラック17の沈んだ表情とは裏腹に、自分の命が助かったことにただ浮かれているフランソワが、嬉しそうにはしゃぎながら口を開く。
「いやあ、生きているってことがこれほど素晴らしいことだとは思わなかったよ。別の国で新しい人生を送る暁には、もう自堕落な自分を捨てて、真面目に生きるよう努力するかなあ」
「それも宜しいでしょう」
 船頭のアルゴニアンが、フランソワに調子を合わせる。
「きっと新しい国では、素晴らしい第2の人生が待っているでしょう」
 アルゴニアンは、そう言った。邪悪な笑みを浮かべて。
 驚くブラック17に、アルゴニアンはウィンクを送って寄越す。もちろん、フランソワはそんなやり取りに気付こうともしない。
 ああ、こいつ…ブラック17も、アルゴニアンの船頭にウィンクをした。
 ダーク・ブラザーフッドの任務は、「フランソワ・モティエレを国外脱出させること」で完結している。だから、たとえば、そう…脱出先の国でなにがあろうと、それは任務の埒外だ。
 やがて船が岸を離れ、手を振るフランソワの姿が序々に見えなくなっていく。
 おそらく「明るく楽しい未来」など待っていないだろうその後ろ姿を見送りながら、ブラック17は背後を振り返り、ぽつりと、呟いた。
「ヴィセンテのほうは、上手くやっているかしらね」

  **  **  **

 シロディールの中心インペリアル・シティよりやや南に位置するブラヴィルは、治安の悪さと不衛生なところから、たびたび「犯罪都市」と揶揄されることがある。
 そんな街の一区、<独身求婚者亭>と呼ばれる宿屋の3階に、ブラヴィルでは有名(もちろん、悪い意味で)な高利貸しのクルダン・グロ=ドラゴルは部屋を取っていた。
 彼はフランソワに多額の金を貸しており、フランソワに返す気がないと知るや、他の負債者への見せしめにするため殺し屋ハート・ヒズ・ハイドを雇ったのである。
 そして、今朝。
「殺し屋のやつ、遅いな…まだ報告に来ないのか」
 あのクソガキのはらわたを引きずり出して、往来にぶち撒けてやったぜ…そんな報告を心待ちにしていたクルダンは、いつまでも帰って来ないハート・ヒズ・ハイドに業を煮やしつつあった。
 ハート・ヒズ・ハイドには、決して安くない報酬を前もって支払っている。そこそこ名の売れている殺し屋だから、万が一失敗したとしても、報告もせずに逃げる、どということは考えられないのだが。
 そんなことを考えながら、ベッドから身を起こしたとき。
「なんだ、このクセェ匂いは」
 部屋のどこかから異臭がすることに、クルダンは気がつく。
 なんの気もなしに、匂いのする方向へ首を回し……
「な…え、は、はあぁぁぁ!?」
 クルダンは、驚愕の声を上げた。



 部屋の机の上に置いてあったもの。それは、ハート・ヒズ・ハイドの生首だった。
 傍らに、「フランソワの命は我々ダーク・ブラザーフッドが頂いた。今後標的が重なった場合は、余計な真似をなさらぬよう」と書かれたメッセージ・カードが添えられている。
「わっ、うわ、うわああぁぁぁぁぁっっ、わああぁぁぁぁあああぁぁっ!!っっ、なんだよこれっ、なんなんだよこれはあぁぁぁっっっ!?」
 滴る血が床一面に広がっているのを見て、クルダンは悲鳴を上げ続けた。




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