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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2024/11/24 (Sun)04:45
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2013/04/25 (Thu)05:50
「誰だキサマはーッ!セリドゥアの手先かーッ!!」
「わ、わ、わーっ!いきなり変な動きで飛びかかってこないでよぉーっ!!」



 しばらくの沈黙ののち、男は腰に携えていた剣を抜いてミレニアに襲いかかってきた。
 いちなりの展開にミレニアは慌てふためき、近くに放置してあった農具を手に応戦しようとする。
「こんなところで死んでたまるかーッ!俺は愛する者の無念を晴らすまで、絶対に死んだりはせんぞーッ!」
「だ、だ、だからちょっと待ってってばぁっ!あたしはたんに通りすがっただけだってばよ!」

  **  **  **

「すまなかった」
「まったくねェ」
 数分の争いののち、ミレニアが本当にただの通りすがりだと気付いた男…ローランド・ジェンセリックは、山荘の中で自らの軽率な行動を反省していた。
 ベッドの傍らで落ち込むローランドの前に、ミレニアが屈みこむ。



「あのさー。いったい、なにがあったの?」
「じつは俺、吸血鬼として指名手配されてるんだ」
「きゅ、吸血鬼!?あんたが!?」
「ちげーよ!」
 ミレニアのすっとぼけた態度に、ローランドが思わず怒鳴り声を上げる。
 そのとき開けた大口から覗く犬歯は、なるほどたしかに吸血鬼のような格別鋭いものではない。不健康に頬がこけているわけでもなし、血色も良い。いたって普通の人間に見えた。
 とりあえず、彼は吸血鬼には見えない。外見上は。もちろん本物の吸血鬼であれば、そんなものを誤魔化す手段は幾らでも持っているだろう。
「そ、それで…なんで、吸血鬼だなんて、疑われてるわけ?」
「それがな…俺には、レルフィーナって名前の婚約者がいてさ。俺、最近までブルーマまで出張に行ってて、最近帰ってきたんだよ。でも、レルフィーナの様子がおかしくてさ。そんで、夜中にコソコソと出かけていくから、俺、後を尾けたんだよ。そしたら、あの男と密会してて…」
「それが、さっき言ってたセリドゥアってやつ?」
「ああ。セリドゥアが、レルフィーナの首筋に牙を突き立てて…その瞬間を、俺は目撃したんだ。そして、レルフィーナの血を吸っているセリドゥアと目が合った。セリドゥアは笑うと、カラカラに干からびたレルフィーナの身体を放り出して、俺のほうに近づいてきた。あまりにも素早い動作で、俺には避けることができなかった。そして俺は手痛い一撃をもらい、気絶しちまった」
 そこまで言って、ローランドは首筋をさする。そこには確かに、一見して目立つほど大きな痣ができていた。
 自嘲の笑みを漏らしながら、ローランドが言葉を続ける。
「そんで目が醒めると、俺は衛兵に剣を突きつけられていた。どうやらセリドゥアが、俺を吸血鬼だと通報したらしい。ヤツは帝都神殿地区の中じゃあ信望の厚い名士だし、衛兵が俺の言うことを聞いてくれそうな雰囲気でもなかったんで、俺は逃げた」
「よく逃げられたね。帝都衛兵のしつこさは折り紙つきなのに」
「俺も奇跡だと思ってるよ。で、昔休暇でレルフィーナと訪れていたこの山荘に逃げ込んだんだが、この後いったいどうすりゃいいんだか…セリドゥアに復讐してやりたいが、俺はそれほど剣の腕が立つわけじゃない。一対一じゃ勝てないし、なにより今や帝都中の衛兵が俺の敵だ。しかし、逃げるわけにもいかない。そんなつもりはない」
 思い詰めた様子で語るローランドに、ミレニアは同情の眼差しを向けた。
 もちろんローランドの言葉が嘘で、彼が本当に吸血鬼だという可能性もなくはない。しかしミレニアには、どうしても彼が嘘をついているようには見えなかった。
 すっくと立ち上がり、ミレニアがローランドに言う。
「とりあえず、腹ごしらえしようか」
「……へ?」
 突然の言葉に、ローランドはきょとんとする。
 呆けた表情で見つめてくるローランドに「ビシッ」と人差し指を突きつけ、ミレニアは陽気さを繕って言った。
「こんな環境じゃ、食べ物を手に入れるのも難しいでしょ?あたしが帝都まで買い出しに行って来るから、まずはマトモな食事を取ろうよ。お腹が空いてると、思考も鈍るよ?」
「しかしなぁ…」
「とりあえずお腹一杯にして、それから対策を考えよーよ。ね?」
 そう言うミレニアの表情は太陽のように明るく。
 なにより、見返りも何もなく、ローランド自身が助力を求めたわけでもないのに、既に手助けするつもりでいるミレニアの優しさに胸を打たれ、ローランドは涙ぐみながら「こくり」と頷いた。
 証拠も何もないっていうのに、俺を信じてくれるのか……

  **  **  **

「オジサン、はちみつ酒2つね!それから鹿肉を500gとー、リンゴを6つとー、それからー…」
「注文はいいから、とりあえず椅子から下りてくれないか。帰るときにちゃんと拭いてくれよ」



 帝都商業地区、フィードバッグ亭。
 夕方には営業を終えた商店会のメンバーで賑わうものの、昼間は冒険者がまばらに立ち寄るのみで、基本的に閑古鳥が鳴いているこの店に、ミレニアは食料の買い出しに来ていた。
 しばらくはあの山荘に篭城する必要があるだろうから、日持ちする物も含めてできるだけ買い込む必要がある。
「本当はアレスウェル事件の報告のために、魔術大学にも寄らなきゃならないんだけどねー」
 しかし魔術大学に行けば、またぞろ何か用事を言いつけられて、自由に身動きが取れなくなる可能性がある。
 そんなわけなので、当面は魔術大学には寄らず、すべてが終わったあとに「思ってたよりアレスウェルの件で手こずっちゃいましたー、遅れてスイマセンうへへー」とシラを切り通すつもりだった。
「…まぁ、でもラミナスは誤魔化されないだろうな~」
 しかし、だからといって、いまさら方針を変える気もない。
 ただそれとは別に、ミレニアには1件、どうしても寄らなければならない場所があった。
 帝都神殿地区にある、ローランド・ジェンセリックの自宅。
 さすがに、なにもかも頭から信じるほどミレニアは愚かではない。いちおう情報の裏を取るくらいの周到さは持ち合わせている。
 目的地までやって来たミレニアは人目を忍んで施錠されたドアの鍵を外し、そっとローランドの家に侵入した。もちろん、こんな行為に及んだなどとは、ローランド本人には言えるはずもないが……
「わ、思ってたより広いなぁ」
 吸血鬼事件の首謀者の家ということで、衛兵があらかた荒らし回った後ではあったが、それでも残された調度品などから、ローランドがそれなりの収入を得ていたことが伺い知れる。
「そういえば、あの山荘も別荘みたいなもんだって言ってたなぁ。ひょっとして、けっこうお金持ち?」
 あちこちに残された金目の物に手を伸ばしそうになる衝動を抑え、ミレニアはローランドの私室へと向かう。
 つい盗賊としての癖が出そうになるが、今日はそういう目的でここに来たわけではないのだ。なにより、良心が咎める。
 事件の資料になりそうなものはあらかた衛兵が持ち去ってしまったのか、ほとんど参考になるようなものは見つからなかったが、それでもローランドの机をあさっていたとき、一通の手紙を見つけたミレニアはその内容に胸を締めつけられた。
『愛するローランドへ。あなたが帝都を発ってからというもの、ベッドにあなたのぬくもりを感じないことがこれほど辛いものかと驚いています。急かせるつもりではありませんが、あなたが帰ってくる時のことをどれほど心待ちにしているか。もし帰ってきたら、そのときは久しぶりにあの山荘へ行きましょう。あの、思い出の山荘へ…レルフィーナより』



 後ろめたい気持ちになりながらも、ミレニアは手紙をそっと机に戻す。
 結局、ローランドが吸血鬼でない証拠も、吸血鬼である証拠も見つからなかった。それでも。
「やっぱり彼、悪い人じゃないよ。こんなの可哀想だよ。なんとかしてあげないと…」
 愛する者を失い、あまつさえ愛する者を殺した犯人として追われるローランドの心情を想うと、ミレニアはどうしても「他人事」では済ませられないのだった。

  **  **  **

 山荘の扉を開けた途端に、血の匂いが鼻を突いた。
「うそ……」
 目の前の光景に愕然としたミレニアが、食料の詰まった袋をその場に落とす。リンゴが外に転がっていくが、そんなことは気にもならなかった。



 鮮血。
 壁にはねた返り血はグロテスクで、見ているだけで温度を感じることができそうなほどに生々しい。
 カーペットにどす黒い血の染みを作るローランドの亡骸の前に、黒いコートの男が真紅に染まったアカヴィリ刀を手に佇んでいた。
 ミレニアの存在に気がつき、男が返す刀を突きつける。だが、すぐにその表情が驚きに見開かれた。
「お前は…」
「なに、してんですか」
 震える声で、ミレニアは辛うじてそう呟く。
 ミレニアはその男に見覚えがあった。アルゴニアンのドレイク。1回目はシンデリオンの研究室で、2回目はコロールの宿で姿を見かけたことがある。
 腕の立つ剣客だとは聞いていた。シロディールで傭兵まがいの活動をしている、とも。
 でも、こんなのってあるか。なんで、こんなことに。
「お前、危ないところだったぞ。こいつは吸血鬼だ…しかし、なんだってこんなのと関わってたんだ、いったい」
「…違います」
「なに?」
「バカ。バカ。バァーーーカッ!」
「あぁ!?」
 的外れなドレイクの台詞を耳にした途端、ミレニアの理性が飛んだ。
 許せなかった。ドレイクの所業そのものについてではない、おそらく、彼は何も知らなかった。
 この世の理不尽が許せなかった。善良な人間が不幸なまま、想いを遂げずに命を落とす理不尽が許せなかった。そういう理不尽の裏で、のうのうと笑っていられるやつがいるのかと思うと、そいつが許せなかった。
 そして、ミレニアは確信していた。ローランドは吸血鬼ではないと。ドレイクは嵌められたのだと。
 もし、ローランドが「ただの」吸血鬼なら、わざわざ殺し屋を雇ったりなんかしない。それはきっと、不都合な事実が明るみに出る前にローランドを始末したい「何者か」がいたからなのだ。
「セリドゥアに頼まれたんでしょう」
「…なんで、お前がその名前を知ってる?」
 その質問には答えず、ミレニアはローランドの亡骸に近づいた。
 おそらくは、即死。一目でそうわかるほどにドレイクの残した太刀筋は見事で、ローランドが苦しまずに死ねた、そのことだけは救いだった。



「ごめん、ごめんね?あたし、なんにもできなかったよ…」
 大粒の涙をこぼしながら、ミレニアはローランドに囁きかける。
 一方で、事の重大さに薄々感づきはじめたドレイクが、ミレニアに訊ねた。
「なあ、頼む。事情を説明してくれ。お前、何を知ってる…?」
 うつむいたまま、ミレニアはぽつり、ぽつりと真相を話しはじめる。

  **  **  **

「俺がセリドゥアと決着をつける。お前はついて来るな」
 ミレニアからすべてを聞いたドレイクは、山荘から出てすぐに、そう呟いた。



 もちろん、そんな台詞でミレニアを納得させることができるはずもない。
「イヤです。そもそもあたし、約束したんです。彼に協力して、レルフィーナさんの仇を取るって。だから、彼の仇を取るのも、あたしじゃなきゃダメなんです」
「危険すぎる。ヤツは公権力も味方につけてるんだぞ」
「公僕なんか怖くないよ」
「それじゃあ、言い替えよう」
 ドレイクは振り返ると、いままでまともに見れなかったミレニアの顔に正面から向かい合い、口を開いた。
「俺にやらせてくれ。もちろん、こんなことで罪滅ぼしができるなんて思っちゃいない。だが、俺は不器用な男でな…こんな形でしか、死者に報いてやれんのだ。頼む」
 そう言って、ドレイクはミレニアに背を向けた。
 ミレニアにはそれ以上、彼を止めることができなかった。もちろん、無理矢理ついて行くこともできただろう。しかし、なぜかそうすることは憚られた。
 それに、ドレイクはセリドゥアに関する情報を必要以上にミレニアに伝えていなかった。それはミレニアが単独でセリドゥアを追求することを阻止するためであり、それだけ彼の決意が固いことも意味していた。
「わかった、あなたに全部任せる。絶対に仇を取ってね」
「応(おう)」
「必ず殺して。容赦なく」
 ミレニアの口から漏れた直接的な言葉に、ドレイクは僅かに驚いたような表情を見せながらも、やがて頷くと、帝都へ向かって歩きはじめた。
 さて…ミレニアは気持ちを整理しようと気分を落ち着かせる。
 ローランドの件にこれ以上関わることができない以上は、今一度帝都に戻り、アレスウェルの件についてラミナスに報告しに行かなければならない。

  **  **  **



「なるほど、アンコタールがな。御苦労だった」
 アークメイジ・タワーの謁見室にて。
 ミレニアからの調査報告書を見つめながら、マスターメイジのラミナス・ポラスは頭を抱えた。
「どうするべきかな。もしこれ以上近隣に被害が出るような振る舞いをするのであれば、然るべき処罰を与えなければならないが」
「魔術大学付属の研究機関に招聘するっていうのは?彼、才能に関してはかなり光るものがあると思うし」
「それはキミ個人の所見だろう?それに、実際の研究データを見てみないことにはね…」
 ラミナスが口を濁すのとほぼ同時に、ミレニアが1冊の本と、1枚の紙片を差し出す。
「これ、アンコタールの研究日誌と、今回の事件で使用した術式反転化のスクロールの予備です。彼の処遇を検討するうえで、役に立つと思うんだけど」
「こんなもの、いったいどうやって?」
 まさか本人から譲り受けたわけではあるまい…そう言いかけて、ラミナスはハッとする。
 肩をすくめてみせるミレニアに、ラミナスは複雑な笑みを浮かべ、言った。
「そうか。そういえば、キミは…こういうのが得意だったな」
 実のところ、ラミナスはミレニアが「盗賊ギルドの人間だ」と知っている数少ない魔術大学の会員の1人だった。普通なら糾弾して然るべきだが、「組織の役に立つのなら」とその特異性を容認し、しばしば今回のような雑務を依頼している。
 そしてそれは、ミレニアがラミナスに頭が上がらない理由の1つでもあった。
 ちなみにミレニアの正体を知っているもう1人の人物は、ミレニアの錬金術の師匠であるシンデリオンである。
 ラミナスは苦笑しながら、アンコタールの研究日誌をパラパラとめくった。
「こうすることが、彼のためになると思うのかね?」
「うん。研究の有用性が実証されれば、あとは方向性を変えてやれば済むだけの話だから」
「まったく、とんでもない賭けに出たものだ。だが、まあ、こちらとしても、同志をむざむざ犯罪者に仕立てるつもりはない。ひとまずは最善を尽くしてやるさ」
 そう言って、ラミナスは研究日誌のページを閉じた。




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