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2019/11/13 (Wed)05:27
Rogue Warrior、それはプレイすればするほどに単なるチープなバリューゲーであることを認識させられるFPSである。
ミッキー・ローク演じる実在の米軍人リチャード・マルシンコのファッキン・ファックなファックトークがステージ開始前のダイアログを含む全編に渡りねっとりと響き、チープなグラフィックや一本道に過ぎるゲーム展開、二時間もあれば余裕でクリアできる内容の薄さなど、かつてはフルプライスのタイトルであったことを考えればレビューが大炎上したことも頷ける話ではあるが、進行を妨げる類の致命的なバグは一切存在しないことから「絶対に買ってはいけない」という世評に今一つ共感し難いのもまた事実である。
今回プレイしたのはPC(Steam)版だが、当時の酷評内容と照らし合わせた場合に幾つか首を傾げる表現が存在するのも事実で、これはコンシューマ版がWin版よりも酷い内容であったか、Win版は後日パッチで改良された可能性は有り得るだろう。少なくとも、ロシア製のバグゲーや盗用アセットを組み合わせて作ったようなインディーゲーに比べれば相当にマシな内容なのは確かだ。
むしろ別撮りムービーやQTEが皆無のピュアFPSである点はおおいに評価すべきであろう。コンシューマ向けタイトルにして、使い回しが多く荒い3Dモデルと低解像度テクスチャだけで3GBも容量を喰っているのは何かの冗談だと思いたい。
2009年のホリデーシーズンに爆誕しメディアの低評価を総ナメにした大問題児である本作は遡ること2006年に開発がスタートし、当初は旧Spec Opsシリーズで知られるZombie Studiosが開発を担当していた。YagerのThe Line以前に製作されたSpec OpsシリーズはRainbow Sixと同等の(という言い回しが現在で通用するかはわからないが…)タクティカル・シミュレータであり、他にもRogue Spearの拡張パックであるCovert Opsや幾つかの軍用のシミュレータを開発していた実績もあるスタジオである。
もとは2007年にリリース予定だったが、パブリッシャーであるBethesda Softworksは「製作されたゲームの品質が求める水準に達していない」としてプロジェクトを白紙撤回。その後開発会社をイギリスのRebellion Developmentsに変更し、完成に漕ぎつけた。
一度は作りなおしながらも、このクオリティで販売にゴーサインを出したBethesdaの判断はウォッカで酔っていたとしか言い様がないものだが、のちに似たような理由でHuman Head StudiosのPREY 2を白紙撤回している事実もあり、どうも言葉通りの理由ではない何らかの確執があったように感じるものの、真実は当事者にしか知り得ないことだ。
また本作のタイトル「Rogue Warrior」は主役であるリチャード・マルシンコの自伝と同名だが、内容に関連性はない。
ストーリーは東西冷戦華やかなりし1986年、北朝鮮とロシアが核ミサイルで云々といったありがちな内容なのだが、ロシアが北朝鮮に核ミサイルを海上ルートで供与し、最終的にロシアのミサイル防衛システムを施設ごと破壊するというプロットはあまりに無理矢理感が漂う。
これは元が現代の北朝鮮が舞台であったことの名残(というか弊害)であると思われ、開発路線の修正に伴い年代を変更、ロシア要素を無理矢理捻じ込んだ結果このようなわけのわからない物語になったものと推測される。主人公マルシンコの服装が80年代中頃にしてはやけに現代的であること、登場する銃火器の年代考証が滅茶苦茶であることなどからもそうした事情が窺える。
システムはプレイヤーがステルス・キルを堪能するために用意された無防備な置物兵士の処理とスクリプトによる予定調和な銃撃戦に大別され、TPS視点に切り替わるカバーシステムや光源の破壊など当時のトレンドを取り入れている、というより、元はタクティカル・シューターとして製作されていたことの名残であろう。
敵はカバーを積極的に利用し、ブラインドファイアでの牽制や移動しながらの射撃を駆使。物陰に隠れているプレイヤーに対して大胆な接近を試みるなど、バリューゲーにしてはかなり健闘しているように思う。
一部初見殺しも目立つうえマニュアルセーブが不可能という仕様ではあるが、本作は全般的にチェックポイントの感覚が短くリスタートに時間もかからないため、プレイしていてストレスを感じることはない。
グラフィックは全編に渡ってアセットの使い回しが目立ち、北朝鮮の軍事基地からロシアの極秘ミサイル基地に至るまでまったく同じ机やロッカー、PC(モニタに写る映像含む)の姿を臨むことができる。おかげで自分がいま北朝鮮にいるのか、ロシアにいるのか見当がつかないという事態に陥る。
オプションからテクスチャ設定を最高にしてもテクスチャは荒く、せいぜいTPSレベルといったところでPC用のFPSとしては物足りなさが残る。とはいえ、モデリングの荒さやテクスチャ解像度の低さは中小デベロッパー製作のB級タイトルとしては「こんなもの」であろう。特筆して他のゲームより酷いという印象はない。
本作の映像演出はフォグやパーティクルに頼り過ぎであり、まるで恥ずかしいものを覆い隠すかのように全編通して煙だらけだ。おかげで無闇にパフォーマンスが悪化し、FPSの低下を招いている。また屋内ステージは光源を配置し過ぎであり、周辺のライトを破壊するだけでFPSが倍近く跳ね上がる。
無闇に視界を悪化させプレイの意欲を削ぐこれらの特殊効果は作り込みの甘い背景を隠すための確信犯的演出であろうが、個人的に感心できるものではない。
武器はステージ開始毎に初期化される設定であり、いずれのステージも最初はM9SPRと呼ばれるサプレッサー装着&弾数無限の拳銃とMP5サブマシンガンを所持している。
M9SPRはたんにサプレッサーを装着したM9ではなく、スライドがM1911のようにバレルを覆うタイプの特殊なものを装備している。刻印の類は一切書かれていないが、おそらくは米海軍がPhrobis社に製作を依頼した特殊スライドが原型であると思われる(SEALs所属のマルシンコがこのプロジェクトに関わっていた可能性は有り得る)。
とはいえ1986年にカスタムスライドを装備したM9を所持している点については違和感があり、ほかにも90年代以降に本格採用がはじまったOts-02や2000年以降に製造がはじまったノリンコType 97-1など登場銃器の時代考証は滅茶苦茶である。これは前述のように開発途中で舞台が無理矢理現代から80年代に変更されたことの弊害であると思われる。
また武器のモデリングはどれもアンバランス且つ細部のディティールがおかしく、名前と外観が一致していないものも多い(どう見てもAK-47に見えるAK-74、名前こそ似ているが外観はまったく異なるType 97-2ベースのType 97-1、ペチェネグと名付けられた細部のディティールがどれも間違っているPKMなど)。M9SPRに至ってはマガジンがトカレフの使い回しという離れ業を披露しており、これに関しては時代考証云々をすっ飛ばした「凄み」さえ感じる。
ゲームエンジンはRebellion内製のAsura Engineを使用しており、これは1999年のAliens VS Predatorから2018年のStrange Brigadeに至るまで改良を重ねて使い続けられている実績のある代物だ。
Rebellionの代表作であるSniper EliteシリーズもすべてこのAsura Engineで開発されており、本作のカバーシステムや敵AI、ステルスキルといった諸要素が三年後のSniper Elite V2に改良を加えたうえで継承されたことは想像に難くない。いわば本作はSniper Elite V2の叩き台となった兄弟分であると言えるだろう。
全体の作り込みの甘さやボリュームの少なさ、使いまわしの多さなどから、本作がとにかく短い開発スケジュールで突貫的に「やっつけられた」代物なのは確かだろう。本作の経験がのちのSniper Elite V2に活きたのか、あるいはSniper Elite V2用に開発していたシステムを試験的に導入したのか…鶏が先か卵が先か、という話ではあるが、ともかく、本作がSniper Elite V2のプレ・アルファ的作品であると捉えると、色々と感慨深いものがある。
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