忍者ブログ
主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
2020/05/12 (Tue)03:31


 
 
 
 
 

 

ATOM RPG Replay

【 Twenty Years In One Gasp 】

Part.7

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「コバレフと話をしてきたのか?」
「ええ。それで、今後について話し合っておきたいのですけれど…村の南東に、今は使われていない廃屋があるのを知っていますか?誰にも見られない場所で、二人だけで話をしたいのですが」
 そのナターシャの言葉に、グリシュカは警戒の目を向けた。銀の皿の上に乗せられるのが自分の首ではないかという疑いを容易に捨てないのは、彼のような立場にいる人間からすれば当然のことだった。
 内通者の正体とその処分についてコバレフと話し合ったあと、ナターシャは日が落ちるのを待ってからグリシュカに会いに行った。彼は昼間別れたときよりも警戒心が強く、幾分苛ついていた。自分の置かれている状況について考える時間は少なくなかったはずだ。
「ここじゃまずい理由でもあるのか?」
 当然の疑問を口にするグリシュカに、ナターシャは驚いたような表情を見せてから、腹を抱えてケタケタと笑いだした。
 もちろん、彼女がそんなふうに笑う理由をグリシュカがわかるはずもない。
「なにがおかしい?」
「いやだわ、もう!」ナターシャはなおも笑い続ける。
「あぁ?」
「だって、ねえ、アンバル(タフガイ)?女の子が、こんな夜中に男を誘う理由を、わざわざ説明しなければならないの?」
 そう言って、ナターシャはグリシュカの膝を優しくくすぐった。その手は舐めるように彼の内腿を這い、股間の近くで止まる。
 子猫のような上目遣いでグリシュカを見上げながら、ナターシャは艶っぽい吐息を漏らした。
「二人だけよ。誰もいない、誰にも見られない場所で、二人っきり。ねぇ、私があなたに声をかけたのは、ただギャングの仲間入りをしたいだけだと思うの?」
「何が…言いたい?」
「私はね、あなた"たち"の仲間になりたいんじゃないの。"あなた"の、仲間になりたいのよ。知ってました、そのこと?それとも…ガキみたいな女は、好みに合いませんか?」
「参ったな、おい。俺のはモンスターだぞ?お前に相手ができるか?」
「私、壊れるくらい激しいのが好きなんです。でも、ほら…ね?こんな場所では恥ずかしいわ」
「ハハハッ、いやらしい女め!」
 罵声とともに尻を叩かれ、ナターシャは「きゃあっ」と嬌声をあげて身をよじる。
 それから二人は建物を出て村の外れにある廃屋へと向かった。歩きながら、ナターシャはグリシュカの身体を撫で回したり、ときおり卑語を口にしては笑い声をあげる。
 二人の様子はまさしく仲睦まじい恋人同士のようであったが、それでも、ナターシャは決して道を先導したりはしなかった。グリシュカの前を歩こうとはしなかった。そのことをグリシュカが疑問に思うことはなかった。
 ナターシャはグリシュカを見下してなどいなかった。内心で馬鹿にするようなこともなかった。むしろ本気で愛情を抱いてさえいた。彼と話をしているとき、そして、廃屋に到着する直前までは。
 
 
 
 
 
 
 カチリ。
 これからの行為に妄想を巡らすグリシュカの背後で、ナターシャのスイッチが切り替わった。その顔からは一切の表情が消え、指にはめたナックルの感触を確かめると、一切の躊躇も容赦もなく、油断しているグリシュカにキドニーブローを見舞った。
「……ッ!?て、てめぇっ、最初から……!?」
 急所への一撃に悶絶しながら、その瞬間にすべてを把握したグリシュカは憎悪の表情をナターシャに向ける。その手がベルトのナイフに伸びた瞬間、首筋に鉄拳が叩き込まれた。
 首の骨が折れるような衝撃とともに倒れたグリシュカを見下ろし、ナターシャは軍用ブーツの踵をこめかみに振り下ろす。頭蓋の砕けるいやな音が響き、グリシュカは微動だにしなくなった。
 
 
 
 
 
 
 静かに荒い息を吐き、ナターシャはグリシュカの死体を見つめる。ふたたびスイッチが切り替わり、ソルジャーの世界から日常へと帰還したいま、若干の申し訳なさが胸をよぎった。
「(任務中の役得を楽しむにやぶさかではないですけども、残念ながら好みのタイプではなかったので)」
 グリシュカにとっては不運だったとしか言い様がないが、ナターシャには強面のワルも、マッチョも異性の好みに合わなかった。
 身を屈めてグリシュカの死体を改めたが、これといって珍しいものは見つからなかった。財布どころか現金すら持っていない。あるのはナターシャに向けて使い損ねた手製のナイフとサイコロ、そしてトランプのカードが一枚だけだ。
 トランプのカード、古く擦り切れたスペードのエースには、あまり丁寧とは言えない仕事で「Фартовый(幸運)」という文字がスタンプされていた。イカサマの道具でなければ、なんらかの証明書の類だろう。あるいは、お守りか何かか。コバレフはこれに何らかの価値を見出すかもしれない。
 それにしても、この大男の死体をこんな場所に放置したものだろうか?
 そもそも、この廃屋は何に使われていたのか?
 建物のなかにはスチール製のロッカーと二段ベッドが置かれており、壁に電灯のスイッチらしきものが埋め込まれていた。しかし、部屋には電灯に類するものが存在しない。
 なんの気もなしにスイッチを入れると、驚くべきことに、二段ベッドの下…つまり床下から明かりが漏れてきた。よく見ると、金属製の蓋の隙間から地下室への入り口が覗いている。
 興味深い。
 
 
 
 
 
 
(地下室への移動ポイントは壁のスイッチを入れたあとにベッドを調べることで出現する)
(クエスト進行中、村の中にいるGrishkaにいきなり攻撃を仕掛けると当然ながら村全体が敵に回ることになる。廃屋に連れ出すにはGanble、Strength、Speechcraftのいずれかの能力でスピーチチャレンジを成功させる必要があるが、プレイヤーキャラが女性の場合は専用の選択肢が追加され、確実に会話を成功させることができる。しかし、その方法だと経験値が入手できない)
(廃屋に到着した時点でGrishkaへの合法的な攻撃が可能になる。会話を発生させると罠を見抜かれて先制攻撃を受けてしまうので注意)
(Grishkaの始末を引き受けなかった場合、Kovalev自身がPeterを引き連れてGrishkaのもとへ向かい、この廃屋へ連行したのち抵抗の意志を見せたGrishkaをPeterが射殺する、という一連の動きを観察することができる。その後、ふたたびKovalevに話しかけることでクエストが進行する)
(Thief Passportの説明文に書かれているスタンプの文字は英訳版だと"crook=詐欺師"であり、ロシア原語版とはだいぶニュアンスが異なる。翻訳に際するアレンジの一端である)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 ひんやりとした黴臭い地下室はあまり人の出入りがないようで、機械部品や工具が積まれている金属製のラックや作業台にはうっすらと埃がつもっていた。机には給水ポンプか発電機の制御回路と思われる基板が無造作に置かれている。
 ちょっとしたワークショップといったところだろうか。これらをあの狭い入り口から運び込むのは大変な手間だったはずだが、利用者は誰にも邪魔されない静かな作業スペースが欲しかったに違いない。
 おそらくは村の送電システムや給水設備を構築した技術者がかつて利用していたのだろう。あるいは、行方不明になっていると言われているエンジニアが使っていたか。
 ナターシャは部屋の隅に置かれている、ファンシーな人形に目を留めた。クルミ割り人形だ。空のビール瓶が散乱している作業場には似つかわしくない調度品だった。殻を砕くための口は閉じている。
 人形の右手が不自然に窪み、塗装の剥げ跡があるのが気になった。おそらく、元々は剣を握っていたのだろうが、何らかの事故で紛失してしまったのだろうか。これではネズミの軍隊と戦うときに格好がつかないだろう。
 機械部品や配線などに混じって棚に置かれていた、AK-47の木製の模型などを見るに、子供部屋ではないだろうが、この地下室の主は子供心を忘れぬ人物であったらしい。少なくとも、コレクターならもっと保管の仕方に配慮するだろうと思われた。
 
 地下室から地上へと戻ったナターシャは、明かりのスイッチを消した。それは習慣であり、こんな時代に電気の無駄遣いをすることもなかろうという配慮でもあり…
 明かりが消えた途端、地下室からガサゴソと何かが動き回るような音がした。
 錯覚だろう、とナターシャは思った。さっき地下室を見て回ったときには、自分以外に生物の気配などなかった。しかし、万が一ということもある…
 
 
 
 
 
 
 暗い地下室を下りていくと、部屋の中央に、目を赤く光らせた巨大なドブネズミの姿が見えた。こんなものがいったい、さっきまでどこに隠れていたというのか。
「えぇと…クルミ割り人形に出てくるのは、ハツカネズミではなかったですかね」
 スリッパのかわりに手製のナックルをかまえ、ナターシャは迫り来るネズミを叩きのめす。
 こんなのでも食料になるだろうか、寄生虫が怖いな…などと思いながら、ネズミの死骸を解体すべくナイフを握り手をのばすと、ネズミが何かを喉に詰まらせていることに気がついた。
 それは錫でできたサーベルのおもちゃだった。それが本来どこにあるべきものだったか、ナターシャはすぐに理解した。
 右手の空いたクルミ割り人形にサーベルを持たせる。おそらくはこれで、メーカーのカタログに載っている通りの姿になったはずだ。まあ、現実は御伽噺とは違うので、これで呪いの解けた王子様がお菓子の国へ連れていってくれる、などということにはならないだろうが…
 そんなことを考えつつも、人形から背を向けかけたナターシャの背後で、カタン、ゴロゴロ、と何かが転がるような音がした。
 さっきまで歯を食いしばるように閉じていた人形の口が開き、地面に金色のクルミが転がっている。
 クルミ割り人形自体はもともとドイツの工芸品であり、クリスマスの贈り物の定番だという(それこそ、チャイコフスキーのバレエで描かれていた通りに)。ドイツのクリスマスツリーの飾りには、金色の紙で包まれたクルミを使うらしいが…
 黄金のクルミを拾ってみて、ナターシャはその重さに驚いた。金紙に包まれた木の実なんてものではない、鉛の倍はある。
 
 
 
 
 
 
 その単純な重さから…ナターシャは、これが安い金属に塗装やめっきを施した粗悪な工芸品ではなく、本物の金でできているのではないか、という結論に至った。
 ウェイストランドにおける貴金属の相場がどうなっているのかはわからないが、現金とは別に価値のあるものを持っておくのは悪いことではない。現金を失ったとき、あるいは現金取引が通用しない相手との交渉に使えることがあるからだ。
「ありがとう、王子様。とっても素晴らしい贈り物だわ」
 そう言って微笑むナターシャの表情は、グリシュカを相手にしたときのように淫靡な、あるいは冷酷な表情からはほど遠い、純朴な少女のものだった。
 
(明かりを消してから地下室に入る、という隠しイベントあるあるな方法で入手できるにんぎょうのきんのたまGolden Walnutはゲーム中で0.1kgの重量を持つ。これはちょうど金がクルミ大の大きさになる数値で、それなりに正しい考証と言えるだろう)
(金100gというと核戦争当時の1986年の相場でも1万ルーブル以上の価値は確実にあったはずだが、さすがに終末世界では大幅に価値が下落しているのか、ベース価格は500ルーブルという相当に控えめな数値になっている。無論、Barterスキルが低ければもっと安い値段で売ることになるだろう。あくまで実績解除用の小ネタか、序盤の金策という以上のものではない…ひょっとしたら、純金ではないのかもしれないが)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「ヤツを始末できたのか?」
 身を乗り出すコバレフに答えるかわり、ナターシャは例のトランプカードを投げてよこした。
「これは何かね?」
「彼の持ち物です。あなたは何か心あたりがあるのではと思って」
 それは質問の答えになってない、と言いかけたが、コバレフは思い留まった。渡されたカードを中華料理屋のメニューみたいにじろじろと眺め、表と裏を交互に見返し、見落としがないことを確かめると、フム、と頷いた。
「これは一種のパスポートのようなものだな。私にはあまり冴えたアイデアとは思えないが…ともかく、ギャング連中がそういったものを発行して、仲間の分別をつけているという噂は聞いたことがある」
「つまりギャングにそれを見せれば、私も無条件に仲間と認識してもらえるってことですかね」
 その言葉はたんに、今後の旅先でトラブルを回避するのに役立つかもしれない、という以上の含みを持たなかったが、コバレフは別のアイデアを持っているようだった。
 引き出しから紙幣の束を取り出し、350ルーブルを数えてナターシャに手渡してから、コバレフは声を潜めて言った。
「それは今回の件の報酬だ。それで、君は旅をしていると言ったな?そのための資金が必要だと。もっと稼いでみる気はないかね」
 控えめな物言いだったが、それが相手を警戒させないためのものだとわかっていれば、かえって警戒せざるを得なくなるものだ。
 そのときのコバレフの態度は、かつてアフガンで幾度も目にした類のものだ。困難な任務に送り出すときの上官と同じ目をしていた。自らの昇進のために部下をクソ壷に落とすときの目つきと同じだった。
 それでもナターシャは、「つづきを」とコバレフに話を促したのだった。
 コバレフは言った。
「ギャングどもは、スパイを私の村に送り込んでいた。スパイから情報を得て、自分たちの利益のために最適な手段を常にとることができた。この、カードがあれば…我々は、まったく同じことを連中に対してやり返せる、と考えている」
「ギャングのなかにスパイを送り込む、と。それを私に?」
「グリシュカの調査と処分、その手法について、君は実に優れた能力を発揮してくれた。君にならできる、などと無責任なことを言うつもりはないが、いま村にいる人材のなかで君がもっとも適任なのは揺るがぬ事実だ。私には潜入捜査の経験はないが、アンダーカバーの危険性については、よく理解しているつもりだ。相応の支援と報酬は用意する、その言葉に紛いはない」
「具体的には、何をすれば?」
「やつらの計画を…何かを計画していれば、だが…その情報を得られたら、私に報せてほしい。それと、やつらに捕まっている人質を解放してほしいのだ」
「人質?」
「ああ。君は村の給水ポンプを修理してくれたそうだな?なら、村のエンジニアが行方不明になっているという噂も耳にしているはずだ」
「まさか、ギャングに?」
「愚かな話さ。通常、ギャングは人質を取ったりはしないのだ、特別な理由でもなければ。連中は人質のことを我々に報せもしなければ、身代金の要求をしてくることもない。だのに、エンジニアは未だに帰ってこない。殺されもせずに」
「特別な理由が?」
「あの太っちょのエンジニアがホラ吹きだという話は聞いているか?しょっちゅう、自分のことを億万長者だのなんだのと吹聴して回っているんだ。おそらく、そのことをグリシュカが悪いふうに誤解して仲間に報せたのだろうよ。なあ、言ったろう、愚かな話だと」
「ええ。まったく…」
「それでも、村に必要な男であることは確かなのだ。頼めるか?」
 今度の件に関しては、すぐに首を縦に振るわけにはいかなかった。
 まず第一に…ナターシャの任務はATOMエージェントとして、消息を絶ったモロゾフ将軍率いる調査部隊の行方を追うことであり、オトラドノエ村を救ったり、ウェイストランドに降り立った守護天使として善なる者のための救世を行うためではない。そんなつもりはない。
 第二に、この村で仕事を請け負っているのは、ただ単純に金のためだ。それも、バンカー317へ向かうために、なるべく短期間で装備を揃えるために、だ。
 "短期間で"…これまで請け負ってきた仕事はどれも、その条件に適うものだ。たった一日で1000ルーブル近く稼ぐことができたのだから、この終末世界の貨幣価値に換算すれば、上等と言ってもいいだろう。
 しかし今回の依頼はナターシャの予定に適合しないものだった。
 ただでさえギャングの内部にスパイとして潜入するという、危険極まりない行動を強いられるうえ、何をすべきか、何をもってゴールとするか等、内容に不明瞭な部分が多過ぎた。
 ためらいがちにナターシャは口を開く。
「…そこまで私を信頼できますか?」
「今のままでは、この村は滅びるだろう」コバレフは淡々と、まるで書類の文字を読みあげるように言った。「干ばつで作物の収穫量は減るばかりだ。家畜も病気で数が少なくなり、子供もいない。そこへギャングどもの徴収だ、オトラドノエが地図から姿を消すのも時間の問題だろう」
「…… …… ……」
「年寄りは死に、生き残った者たちは不毛な荒野に放り出される。あるいは、何人かはギャングへと合流するだろう。自分の村を滅ぼした連中のもとへな。そんな末路だけは避けたいのだ」
 なんてことだ、とナターシャは頭を抱える。
 ATOM上層部からの指令書には、"君は英雄ではない。任務とは無関係な行動は慎むように"という注意書きが添えてあった。いまとなっては、その意味がよくわかっていた。
 この仕事は引き受けるべきではない、という警鐘が頭のなかで鳴りっぱなしだった。
 しかし結局、ナターシャはこう言ってしまったのだ。
「やれるだけやってみます」と。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。前半のアダルティな描写はほとんど趣味の産物ですが、直接的な表現や単語は使ってないので、まあ大丈夫だろう多分(規約的な意味で)。ナターシャはスパイではなく兵隊なので、ハニートラップの訓練を受けたわけではないんですが、任務のためなら恥やプライドは根こそぎ捨てれる性格なのと、わりとノリがいいというか、憑依型の演技ができるタイプなので、ああいったアプローチになりました。
 人質に関する話題は本来ここでは発生せず、Abandoned Factoryで人質を発見したことをKovalevに報告することで聞けるんですが、今回はナターシャが仕事を引き受ける動機を強くするために早めに話題に出しました。
 このペースだとバンカー317に到着するのがいつになるやら…
 
 
 
 
 


.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
PR
2020/05/09 (Sat)01:56


 
 
 
 
 

 

ATOM RPG Replay

【 Twenty Years In One Gasp 】

Part.6

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「随分と遅かったじゃないか。盗みでも働いて捕まったのかと思ったぞ」
 こっそりとビールを持ってきたナターシャへ、夜に出会ったときと変わらぬ様子でヤンが言った。一日中立っていたのだろうか?
 村の外周でキノコ採集をしていたナターシャは、カーチャから報酬をもらったあと(50ルーブル。カーチャは村長への紹介状だけで充分だと考えていたようだが、先に妙な薬の実験台にされたこともあり、説得して幾らかの現金を用意してもらったのだ)、その金でビールを買いヤンのもとへ戻ったのだった。
 自家製ではない、戦前の工場製ビールを一気に半分まで飲み干すと、ヤンは残りが入った瓶を後生大事に服の下へ隠した。
 それを見たナターシャが、一言。
「大丈夫ですか、それ、バレませんか。こぼれたりしませんか?」
「他にいい場所もないしな。以前、犬小屋の中に隠してバレたことがある」
「なにしてんですか…たとえば他に、えーと、パンツの中とか?そこなら不自然に盛り上がってても疑われないというか、マグナム瓶ですし」
「これが俺のマグナムやー!って、なんでやねん!ビールなんか隠してへん、ちょっと勃ってるだけやーって言うんかい!アホか!」
「万が一こぼれても誤魔化せます」
「尿漏れかーい!それはそうと、タダで酒をもらうのは悪いな。これ、代金」
 そう言って、ヤンは僅かばかりの現金をナターシャに手渡す。3ルーブル。酒場で買ったときは12ルーブルだった。これだけかーい!と突っ込むべきだろうか?
 あるいは、地元住民には3ルーブルで売っているのかもしれなかった。自分が観光地価格で掴まされたのだと考えられなくもないし、それに、外界でのビールの値段の相場など知りようもない。
 これに関しては、金のためではなく村の守衛の信頼を得るための先行投資と割り切るべきだろうな、とナターシャは判断した。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
『ニュースとエンターテイメントで送る、チャンネル・ウェイストランド24時!放送はこちらクラスノズナメニー・シティからお送りしております!』
 村長の住居は酒場の隣にあり、部屋の中央には散弾銃を抱えた護衛が立っていた。その背後には頑丈な造りの金庫が置かれており、おそらくはそこに保管されている村の税金を守っているのだろう。
 年老いた護衛は一見すると立ったまま寝ているようでもあったが、ナターシャが入室したときに一瞬見せた鋭い眼光は、彼がただの老人ではないことを思わせる。
『最新のニュースです。ここしばらく続いている干ばつについてですが…農作物への被害は特に報告されておりません!収穫高は戦後最高を記録しており、ウェイストランドのみなさまにおかれましてはパニックなどを起こさないようお願いします!』
 まるで人生に心配事など何もないかのようなキャスターの軽薄なトークがTVのスピーカから流れるなか、アームチェアに腰掛けた村長のコバレフが午睡に身を委ねていた。歳は60、いや70に近いだろうか。
 村の住民から父のように慕われているコバレフは、戦後この地にオトラドノエを築いた入植者たちのリーダー的存在であった人物であり、まさしくオトラドノエの生みの親、オトラドノエの父と呼んでも過言ではない功労者である。
 制服の種類に聡くないナターシャは、彼の身につけている立派な制服が軍の将官か、警察署長のものか、あるいは駅長のものなのか判別がつかなかった。いずれにせよ、それはコバレフが戦前から身につけているものであるのは確かなようだった。
『仕事がない、食べ物に困っている、そんなときはクラスノズナメニーへお越しください。きっとあなたに合った仕事を見つけることができます!』
 話しかけようとした直後に目を醒ましたコバレフは、目の前の余所者を胡散臭い目つきで眺めたあと、TVのほうへ視線を向けた。その表情は変わることはなかった。彼にとって、ニュースはただのBGMとして以上の価値はないのだろう。その点についてはナターシャも同じ思いだった。
「あの、同志コバレフ。私は先日この村に辿り着いたばかりの旅人で、旅を続けるために、僅かばかりの現金を必要としています。村長のあなたに仕事を手配してもらえるよう、酒場のカーチャという女性から推薦状を預かっているのですが」
「カーチャが?」
 見知らぬ輩の口から"同志"などという単語を聞いて余計に機嫌を悪くしたコバレフだったが、カーチャの名前が出た途端、その表情が和らいだ。
 手渡されたメモを受け取り、目を細めて文字を追うコバレフ。
『専門家によると、しばしば目撃情報が寄せられる凶暴化した狼の群れ、巨大化したネズミなどの、いわゆるミュータントは実際には存在しないとのことです。これらについての噂は非常に誇張されたもので、人々を混乱に陥れるため反社会的勢力が意図的に流布したもの、つまり情報工作の疑いが持たれています』
「フム…カーチャは君のことを随分と高く評価しているようだ。彼女が言うなら…君は信頼に値するのだろう。私はこの村の長として、通常、余所者を簡単に信頼することはない。そのことを無礼とは思うまいね?」
「必要なことと理解します」
「宜しい。さて、君はギャングの存在が村を脅かしていることについて、すでに村の誰かから話を聞いているかね?」
「定期的に、えー、"保護料"の徴収に来ると」酒場のバーテンやヤンから聞いた話を思い出しながら、ナターシャは一つ一つ確かめるように言った。「反撃のためにクラスノズナメニーで傭兵を雇ったときは、ギャングの拠点に派遣した傭兵七人全員が死体になって村に送りつけられてきたと。そうした反抗の意志を見せたときは、より多くの保護料を徴収されたというような話を聞きました」
「そうか。私が想像していたよりも多くを聞いているな、口の軽い輩がいたものだ…そう、たったいま君が言ったことはすべて事実だ。そして、いま言ったようなことを、君自身はどう思っているかね?我々が雇ったのは、たんに自分を傭兵と呼ぶだけの口だけが達者な素人集団だと思ったかね?私はそうは思わない」
「と、言いますと」
「彼らは待ち伏せされたのだよ。準備万端整えたギャングどもに、まるで襲撃が予測されていたかのように。それだけではない、作物が豊作だったとき、キャラバンとの取引で普段より多くの利益が得られたとき、ギャングどもは決まって普段よりも多くの金を要求してきた」
「つまり、内通者がいる、と」
「そうだ。村人に情報提供者がいるのか…金で釣られたか、あるいは脅されたか…それとも、根っからギャングの仲間がスパイとして潜り込んでいるのか、そこまではわからん。しかし、何者かがギャングに情報を流しているのは確かなのだ。それが誰なのかを突き止めてもらいたい。必ず、村にネズミが潜んでいるはずなのだ!」
「…ネズミといえば……」
「心当たりがあるのか!?」
「酒場のバーテンって、どことなくハムスターに似てますよね」
「そういう話をしているんじゃない…!」
「あ、えっと、すいません。それで、突き止めた場合は」
「すぐに行動を起こさず、私に報告してほしい」
 老齢ゆえにコバレフの話はいささか滑舌が悪く聞き取りにくいものだったが、話の内容自体は筋道が通ったものであり、また彼の計画は素人のその場の思いつきではなく、過去の経験から導き出されたものであることがわかる。
 その話しぶりから、コバレフがギャングというものの性質についても正確に理解していることが窺えた。
 軍人ではないな…ナターシャはコバレフの戦前の経歴について推察する。おそらくは警察官だろう。すくなくとも、鉄道員ではなさそうだ。
『クラスノズナメニー商工会議所は、ウェイストランドにおけるすべての犯罪行為の撲滅に成功したと発表しました!しかしながら、不要不急の外出は控え、見知らぬ訪問客をみだりに招き入れることのないよう注意してください。身を守るための武器を常に手の届く場所に保管しておきましょう。これは必要最低限の安全対策であり、いつの時代でも守られるべき社会的ルールであることを御理解願います』
「くだらん駄法螺だな」コバレフは髭を撫でながら、これ以上ない軽蔑の眼差しをTVに向けた。「スターリン時代にTVが普及していても、これほど酷い内容にはならなかったろう」
 それ自体には肯定も否定もできかねるが、とナターシャは頭を悩ませた。報道内容がいい加減なのは確かだった。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「ウォッカを持ってきたか?戦前のだぞ…瓶だけが立派でも、中身が詰め替えてあったら、俺はすぐにわかるからな。どこの誰が作ったかもわからん、得体の知れない密造酒なんぞ、飲めたもんじゃない」
「それを聞いて安心しました。これが偽物ではないことを、きちんと御理解頂けるはずですから」
 ブーニーハットをかぶった、ウルヴァリンみたいな見た目のあまり愛想のよくない釣り師に、ナターシャは酒場で購入したプレウォー・メイドのウォッカを手渡した。
 コバレフ曰く、内通者の疑いがあるのは村とあまり親密ではないはぐれ者か新参者のどちらかだろう、という話だった。古くから村を知る者にとって裏切りの代償はあまりに大き過ぎ、また顔馴染みの犯行であった場合、態度の変化でとうに気づいたはずだ、と。
 それを老人の自意識過剰と笑うのは簡単だが、ベテランの言葉には耳を傾けるべきだ、というのがナターシャの軍人としての判断だった。
 そこまで気づいていながら今まで内通者の調査を行ってこなかったのは、そうした任務に適した人材が村にいなかったこと、老齢のコバレフが村のすべてに注意を払うのが無理になっていたことが挙げられる。たとえ怪しい新入りが何食わぬ顔で村に出入りしていたとしても、自分がそれに気づいていない可能性はある、とコバレフは悔いの滲む表情で語った。
 また調査において、"村人に無闇やたらに話を聞いて回る好奇心旺盛な余所者"という役をナターシャが演じれることが重要な点でもあった。同じことを村人の誰かがやったとすれば、それが内通者の調査であることをすぐに看破される恐れがあった。
 そんなわけで、ナターシャはまず村の外周で生活しているはぐれ者を調べることにしたのだ。
 池、というよりは沼に近い水溜りで釣りをしている男に近づいたとき、はじめは強盗を警戒されたものだが、話をするかわりに要求された戦前のウォッカを提供してからは、その態度も幾らか軟化した。
「ときおり釣った魚を持って村へ行き、パンや肉と交換することもある。だが、あの村に住もうなんて気は起きないな。俺に言わせれば、あの連中は屠殺されるのを待つ家畜も同然だ。そういう集団の中に自分の身を置こうなんて思わないな。そもそも、俺は群れるのが好きじゃなくてね」ウォッカを口にしつつ、釣り師はそう語った。
 戦前は平凡なタクシードライバーであったという釣り師は、核戦争後に身の回りのものをまとめ、街を出て森で生活することを一番に目指したという。不幸なことに、彼の妻はその意見に賛同せず、街に残ったあと腸チフスの流行で命を落としたということだった。「思えば、飢えや強盗、あるいはミュータントに襲われるなんていう、ウェイストランドにありがちな死を迎えなかったのは、あの女にとっては幸運だったのだろうよ」そう語る釣り師の表情は、口調とは裏腹にひどく物悲しそうであった。
 またコバレフについては、「正直、俺はあの村長のことがあまり好きじゃない」と語った。「戦前の流儀と権威にすがる、哀れな老人さ。ギャングにいじり回されて、そのうち村とともに滅びるだろうよ。そうなったら、俺も河岸(かし)の変えどきだな」
 その後ナターシャはウォッカへの謝礼として、釣りのテクニックや、昆虫から釣り餌となる部位を摘出する方法を教わった。
 彼は内通者だろうか?なんとも言えなかった。
 孤独な釣り師が村の存亡を箸にもかけないであろうことは確かだったが、しかし彼は村人に対する侮蔑の感情を、ギャングに対しても同様に抱いているに違いない。
 
(釣り師に戦前の酒を渡すことで、釣りスポットでのフィッシングが可能になり、また昆虫系のクリーチャーの死体から釣り餌となるパーツが採取可能になる"Entomologist"のDistinctionを獲得できる。摘出した昆虫の部位は軽量なうえ売値もそこそこ高いため、釣りをしなくても金策として有用である)
(この釣り師は日中にしか出現しないため、初日の夜間に到着して早々にクエストや探索を済ませるような気の早いプレイヤーは見過ごす可能性が高い)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「一対のサイコロがあれば、簡単な賭け事で遊べるんだがのう。村ではあらゆる種類のギャンブルが禁止されておるが、さすがにこんな場所にまで目を光らせてはおらんよ」
 また別の場所で、ナターシャはキャンプを張っている老人を発見した。
 戦前は民間のヘリパイロットで、山の中で暮らす人々の集落に食料や医療品を運んでいたという。
「彼らが今でも無事でおるのか、わしにはわからんが。元気にしているといいがなあ」
 老人は釣り師ほど露骨に村人を避けているわけではなかったが、それでも集団でいるより、一人で生活するほうを好んでいるようだった。
 また彼が一人でいるのは、ギャングの襲撃を避けるためでもあるようだった。村の外周には変異した蟻や蜂、蜘蛛やネズミなどが徘徊しており、それらを排除してまで貧乏な老人一人から金を取り立てるほどギャングも暇ではない、ということらしい。
 たとえばそれが、内通者と接触するためなら…その可能性はあるだろうか?
 
(ここでは焚き火で調理が行えるほか、サイコロを所持している場合は老人と現金を賭けたギャンブルを行うことができる。金策に適しているとは言い難いが、勝利することで経験値が得られることを覚えておいて損はないだろう)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「俺は狩猟家だ。新鮮な空気を吸いながら、愛用のライフルを手に草原を駆ける。ロマンチックな夜のキャンプファイヤー…えぇ、この生活を気に入らない理由があるだろうかね?」
 先に会った二人の正体を疑うことなく、答えはナターシャの目の前に現れた。
 他に村を離れて暮らしている者がいないかどうか、村の有力者であれば把握しているだろうとけちな監督官に会いに行ったとき、ナターシャは部屋の隅でダイスを弄んでいる鋭い目つきの男を見た。
 陰険な顔つきだ、というのが第一印象だった。逞しい身体つきは重い荷物を背負って山野を駆けたり、ライフルで撃った鹿や熊を担いで身につけたものではなく、刑務所で鍛えたもののように見えた。ハンティングをやるにはあまりに威嚇的で、殺気が強過ぎた。
 男が身につけている凶器にも目が留まった。それは手製の粗末なナイフで、先を尖らせた"それ"は斬るのではなく、突くことに特化しているようだ。動物を殺したり、皮を剥いだりするにはおよそ向かない形状で、せいぜい人間の急所を突く程度の役にしか立たない。狩猟家の持つような道具ではなかった。
 軍に入隊する前、ナターシャはこの男に似た雰囲気を持つチンピラを大勢見てきた。同じ匂いがした。狩猟家と見紛うはずもなかった。
 ハンティングのために村を離れる、というのは、ギャングが村を襲うときに席を外すための格好の口実だろう。
 余計な世間話で探りを入れてもいいが…ナターシャは口を開いた。
「私は村長のコバレフ氏に依頼されて、ギャングに村の情報を流している内通者を探しているんですが…」
 その話題を口に出した途端、男…グリシュカの目つきがさらに鋭さを増した。
「まさか俺を疑ってるんじゃないよな?」
 ナターシャはすぐには答えなかった。グリシュカの目をじっと見つめ、笑みを浮かべる。
 恐れるどころか、どこか挑発的な表情を見せるナターシャに、グリシュカは低く唸るように言った。
「なにをジロジロ見てやがる?」
「私はお金を必要としています。この仕事を引き受けたのも、そのためです。しかし、私はフライヤー(遵法主義者)というわけではありません。わかります、私の言うこと?」
「…… …… ……」
「私は居場所を探しているんです。自分が昔、所属していたような…それは、ペトフ・ウーファ・ムジーク(無力なケツ穴奴隷の糞ホモ野郎)が集って暮らしてるような畜舎ではなく、本物のアカデミーです。よりよい人生を送るために、わかりますか?私の言ってること?」
「つまり…お前は、俺たちの仲間になりたいと言ってるのか?」
「俺たち?」
 しまった、とグリシュカは口を塞いだが、親密そうな態度を崩さないナターシャを見て、ばつが悪そうに咳払いした。
 周囲を見回し…この会話を誰も聞いていないことを確認すると、グリシュカは観念したように言った。
「わかった、わかったよ。お前の言う通りだ。だがな、俺をストカーチ(タレ込み屋)だなんて呼ぶなよな。言うなれば、俺はアゲント・ヴニドレーニャ(潜入工作員)ってやつだ。芸術的仕事人てヤツだな。で、お前は俺たちの仲間になりたいってんだな?」
「長期的に見れば、そのほうが賢い選択ではないですか?あなたをコバレフに売って小銭を稼ぐよりも」
「コバレフは俺を疑っているのか?」
「ええ」ナターシャは嘘をついた。「しかし私があなたの潔白を主張すれば、あの老いぼれは信じるでしょう。このさい、内通者の嫌疑は村の外にいる釣り師か乞食に被ってもらうとして」
「そして、連中が再び俺の正体を疑う前に姿を消すってわけか。ハンティングに行ったまま帰ってこなかった行方不明者として…熊か何かに襲われたと思われて。案外、そうなれば連中は永遠に俺の正体に気づかないままかもしれねぇな」
「すぐに村を出ると疑われます。これから私はコバレフに報告に行くので、そのあと、あの老いぼれがどう行動するのかをあなたに伝えに来ます。そしたら…私を、仲間たちのところへ連れていってくれますよね?」
「いいだろう、一日か二日ここで待つ。だが、それ以上の長居をしていると思うなよ」
 それで結構、と言い、ナターシャは建物を出た。
 私の言うこと、わかりますか…再三繰り返したナターシャのこの言葉は、戦前に犯罪者たちの間で使われていたスラングを用いたことに対するグリシュカの反応を窺うものだった。
 それはグリシュカの信用を得るためというより、核戦争から20年近く経ったいまでもこういった言葉が使われているのか、という疑問を確かめるためでもあったが、どうやらクソ野郎どもはご丁寧にも、自分たちのために誂えた暗号符丁を連綿と受け継いだらしかった。
 
(Ratの名前は英訳だとGrishkaとGrishaが半々の割合で混在しているが、IDではGrishkaと記載されていること、原語版ではГришка=Grishkaで統一されていることから、本プレイ記ではグリシュカとした。もっとも、こうした表記揺れは後のパッチで修正される可能性はある)
(Kovalevの家で発見できる、読むことで"Streetwise"のDistinctionを獲得できる本"Short dictionary of criminal slang"は原語版と英訳版で内容が大きく異なり、英訳版では多くの単語が英語圏で使われているスラングに置き換えられている。両者を比較してみるのも面白いだろう)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「グリシュカ!なんてことだ、確かにヤツよりも怪しい人物は他にいないだろう!私は見誤っていたのだ、てっきり善良な村人の誰かが無理矢理に脅されて行っているものとばかり考えていた。そのせいで目が曇ってしまったのだ、そうでなければ…いや、私がもう少し若ければ、こんな失態を犯さずに済んだだろうに!」
 ナターシャから報告を受けたコバレフは、怒りと恥辱に肩を震わせた。
 当たり前のことだが、ナターシャがグリシュカに対して提案したことはすべてデタラメであり、ギャングの仲間入りをしようなどとは彼女にとって選択肢のリストの中に入ってすらいない。
 村に貢献するための善意がそうさせたというより、ナターシャにとって犯罪グループに加わっていたという過去は、思い出したくもない過去だったからだ。
 コバレフはナターシャに報酬の250ルーブルを支払ったあとも、思い詰めたような表情を崩さなかった。
「とにかく、グリシュカに対しては何らかの処分を行わなければなるまい。これ以上、ギャングどもに協力できないよう…毅然とした態度で挑まねばなるまいな。そう、ヤンか、ピーターか…誰かを伴って」
「私が一人で対処するというのは」
 それはコバレフにとっては予想の範疇の言葉であり、逆に、ナターシャにとっては予想外の言葉であった(自分自身の発言であるにも関わらず、彼女はそんな言葉が自分の口から飛び出してきたことに、自分自身で驚いていた)。
「報告した通り、私はギャングの仲間になりたいという嘘で彼に取り入りました。まだ彼は私を信用しているはずです…本当に一度でも私を信用したなら、ですけど。村の誰かが銃を持って近づくより、私が一人で接触したほうが確実に問題を対処できると思います」
「なるほど。それで、どうするつもりかね?白昼堂々彼を暗殺するかね?いや、それはまずい。彼を内通者として処刑したことを、村の人間に知らせる必要はない。無駄に疑心暗鬼と不安を煽るような真似をしてほしくない」
「なにか対案が?」
「村の南東に廃屋がある。そこへ誘き出すのが一番だろう、村の皆には…彼がハンティングへ向かったまま、戻ってこないとでも言っておこうじゃないか。とにかく、村の長が自らの一存で余所者を使い、疑わしき者を処刑したなどというのは、権威の濫用であり、本来あってはならないことだ」
 皮肉にもコバレフが語った内容は、グリシュカが村を出るために用意した言い訳と一致するものだった。もちろん、そのことはグリシュカにとっての慰めにはならないだろうが。
「戦前、私は刑事でね。いまでこそ村の長に…どういうわけか…落ち着いてはいるが、かつての刑事としての私の基準に沿って評価するなら、こういうやり方は愚劣の極みと言うほかない。腐敗とさえ言える。しかし、村を守るためなら、その腐敗に手を染める必要もあるというわけだ。ときにはな」
 そう言って、コバレフは自虐的な笑みを浮かべた。
 しかしナターシャにとっては、今回の件はそうした自己憐憫とは無縁だった。
 仲間を守るための殺人を腐敗と言うなら、ナターシャがかつて戦場で経験したことは人間の尊厳と神の愛に対する冒涜以外の何物でもなかった。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。本当はもう少し先まで進める予定だったんですが、思っていたより文章量が多くなってしまったので次回に持ち越しです。
 ちなみにGrishkaを殺さずに逃がした場合はOtradnoyeでのギャング絡みのクエストラインがストップしてしまいますが、Grishkaがギャングの拠点であるAbandoned Factoryに帰ったあとで派生するクエストが存在するようなので、このあたりはなかなか凝った作りになっているんじゃないかと思います。
 あとは本文で触れなかった要素として、シャベルを持った状態で墓を掘るとアイテムが取得できるとかいうのもあるんですが、終末世界とはいえ墓荒らしはRP的にまずいので触れませんでした。実際のゲームプレイでも墓は放置してあります。万が一、あとで墓地の画面写真を撮る必要に迫られたとき、墓が掘り返されていたらバツが悪いなんてもんじゃありませんので(笑)
 
 
 
 
 


.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
2020/05/06 (Wed)01:58


 
 
 
 
 

 

ATOM RPG Replay

【 Twenty Years In One Gasp 】

Part.5

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 東西関係が急速に悪化をはじめた1979年、続く1986年に米露両国間の全面核戦争が勃発し、世界は灰燼へと帰した。罪無き者も、罪深き者も等しく焼かれた世界で、勝者なき戦争を望んだ者たちはどこへ消えてしまったのだろう?
 戦争の理由さえ過去の闇に葬られた世界で、僅かに生き残った者たちに訪れたのは暗黒の時代だ。そこには政府も、文明もなく、人々のモラルさえ失われていた。
 
 戦略的価値の低さから、主要都市や工業地帯よりも被害が軽微であったロシア南部の穀倉地帯。焼けた大地と灰のなかで生存者たちは僅かな水や食料を求めさまよっていたが、あるとき、コバレフ率いる入植者の一団が巨大なオークの木を発見した。木の周辺を流れる川は奇跡的に放射能や毒物による汚染被害を受けておらず、入植者たちはそこに村を建設した。核戦争からそう間もない頃の話である。
 現在ではオトラドノエとして知られる村の中心に、入植者たちの道標となったオークの木が今でも村のシンボルとして静かに佇んでいる。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「大丈夫!?ねぇ、バシャ!彼女が目を覚ましたわ、この娘、まだ生きてる!」
 誰が死ぬものか…
 いきなり縁起でもない言葉を耳にしたナターシャは、朦朧とした意識のまま、むっくりと起き上がった。
 そういえば昨日、酒場の経理士であるカーチャの発明した新しいフレーバーのレシピを試し…そのまま気を失ってしまったのだったか。なにやら奇妙な幻覚、いや夢か?妙な光景を見たような気もするが、思い出そうとしても、おぼろげな記憶は薄靄の彼方へ霧散してしまった。
「ごめんなさい、どうも成分が強過ぎたみたいだわ。なんてこと!私ったら、好奇心で人を殺してしまいそうになるなんて!」どうやら本気で気に病んでいるらしい、カーチャが心から申し訳なさそうな声で叫んでいる。これが村の住民にとって見慣れた光景でなければよいのだが。
「長い間存在を忘れられていた、伝統のレシピ…とかなんとか、言ってましたけど」
「ええ。おばあちゃんが残してくれたメモなの」ナターシャの質問に、カーチャがこれといった悪気もなく答える。
 物は言いようだな、とナターシャは目眩がする思いだった。いかにも創作料理が得意そうなカーチャがきちんとメモ通りに作ったかさえ怪しく、その成分を聞くのもためらわれた。
 とりあえずは自分が生きていることを感謝すべきだろう。たとえ生きる理由がなくとも、ときに遠い彼の地で眠る戦友と運命をともにしなかったことを悔やむことがあったとしても、場末の酒場で得体の知れない液体を飲まされて死ぬなどという人生の結末に納得するのは難しいものだ。
「死んじゃいないとは思ってたが」カーチャほどにはナターシャの容態を心配していない様子でバーテンが言った。「息はしてたし、ずっとうわごとを言ってた」
「私、なにか言ってました?」すこし心配になってナターシャがたずねる。
 自分はかなり寝言を言うらしい、ということを、ナターシャは不本意ながらも自覚している。ATOMがどうの、モロゾフ将軍の探索やバンカー317がどうのと言っていたらまずい。
 バーテンが言った。
「アフガンがどうとか、あと、この村の酒場のバーテンはナイスガイで、淫乱テディベアぽっちゃりコーギーのようにキュートで愛らしいとか」
「ちょっと兄さん、冗談を言ってる場合じゃないでしょう!」
 バーテンのくだらない駄法螺にカーチャは本気で腹を立てたようだが、一方のナターシャはといえば、腹を立てるどころか腹がよじれるほど笑っていた。
 災難が続いたせいもあったろうが、しょうもない冗談が妙にツボにはまってしまったのだ。
「あっ、わ、あはは!わはははははえひひひひうひひあひ!う、ふふふ!」
「ウケてるじゃないか」
「兄さん!」
 しばらくして笑いがおさまったあと、ナターシャは自らの所持品を確認した。持ち物が盗まれた形跡はない。
 万が一にでも、これが兄妹の悪質な強盗の手口かもしれないという懸念があったのだが、どうやら杞憂のようだ。あるいは、盗むような物を何一つ持っていなかったせいか。
 
 
 
 
 
 
 ふと顔を上げると、カウンターで食事をしている客の姿が目に入った。軍服に青いベレー帽をかぶった、筋骨隆々の大男だ。ナターシャはその男に見覚えがあった。たしか、ナターシャと同じくモロゾフ将軍の部隊を追跡するために派遣されたATOMのエージェントだったはずだ。
「あら、ご無沙汰?」ためしに声をかけてみる。
 キャリアはナターシャと同じ士官候補生だが、ATOMでの生活はナターシャよりもずっと長い。特別任務におけるATOMの流儀についても、おそらくはナターシャよりずっとよく知っているはずだった。
 エージェント・アレクサンダーはナターシャのほうを向き、目を細めると、これといって警戒した様子もなく挨拶を返してきた。
「ああ、ナターシャ。気がつかなかったな、見間違えるはずもないだろうに」
「身体の調子はどう?」
「おい、お前は俺のオフクロかよ?調子がなんだって?べつに悪くはないさ、我が祖国グルジア流に言うところの…"甘い桃"とまではいかないがね」
「あー、ええ…そう」
「ところで、随分と酷い身なりをしているな?そんなことじゃあ先が思いやられるぜ!今回の調査に関しちゃあ、俺様も随分とハリキッてるんだ。今もこの村で聞き取り調査をしているところさ。おっと、情報共有なら断る。俺様は俺様の、お前はお前の流儀で仕事をすべきだ。そうだろう?」
 いささか尊大な口調でまくしたてるアレクサンダーに相槌をうちながら、ナターシャは彼がATOMエージェントとしての振る舞いを学ぶのに最適な相手ではないのではないか、と思いはじめていた。
 いきなり名前を呼ばれたのに面くらったのもそうだが、しばしば今回の任務について他人に聞かれることに対し無頓着な態度を見せるのも不安の種だった。
 かと思えば、自身の身元に関しては他愛のない嘘をついたりする…彼はグルジア出身ではない。
 肉の缶詰をウォッカで胃に流し込みながら、アレクサンダーはすこしばかり怪しい目つきで声をひそめた。
「ここだけの話」カーチャを指さし、「彼女、俺様に気があると思うか?せっかく広い外界を謳歌してるんだ、少しばかり子孫繁栄に貢献するのも悪くないだろう?ロシア海軍歩兵の種馬と呼ばれたアフガンの英雄のこの俺様が、女にあぶれるなんてのは、まさしくこの世界への侮辱だ!そう思うだろうが、なあ?」
「あの、そういう話を女性相手にするのは、あまり適切ではないと思いますが…」
「まあそう言うな。この村の連中を見てみろよ、えぇ…あのバーテン。まるでミュータントだ、近親交配の成れの果てだな。村が何代にもわたって俺様のようなナイスガイを無視し続けた結果だ、もちろん、俺様とお前の両親はそんな愚行を犯さなかったようだがな?」
 ナターシャはだんだんとアレクサンダーとの会話がいやになってきていた。
 青いベレー帽はロシア海軍の装備ではないことや、戦後ATOMのエージェントに保護された孤児であるアレクサンダーがアフガンへの出征経験など有り得ないことも含めて、彼の不愉快な言動は本来の性格に由来するものか、あるいは本性を隠すためのカモフラージュなのか?
 目の前の筋肉男がプロのエージェントか、それともただ虚言癖があるだけなのか、ナターシャには判断がつかなかった。どうも目つきが気に入らなかった。
 嘘をつくときはよくよく慎重でなければならない。誰にどの嘘をついたのかを覚えておく必要がある、さもなくば言動に矛盾が生じ、スパイを疑われるか、あるいはたんに嘘つきと思われるか…いずれにせよ、他人の信用を得るのが難しくなる。
 ともかく、アレクサンダーが協力関係を望まない以上、ナターシャとしては彼の存在を無視するしかなかった。ATOM上層部がどういうつもりで新米エージェントを別々に送りだしたのか、わざわざリスク分散を狙う必要があるのかは理解に苦しむところだったが。ひょっとすると、これこそがATOMの秘密主義の弊害なのかもしれなかった。
 
 
 

 
 
 
 その後、ナターシャは活動資金を稼ぐために村で仕事を探しはじめた。
 
 
 
 
 
 
 まずは身体を悪くした老人にかわってトウモロコシの収穫だ。
 彼は現金を持っていなかったが、かわりに古い狩猟用ライフルを譲ってくれた。あちこちに補修跡のある、単発式のボルトアクション(おそらく弾倉まわりが破損しているのだろう、直接薬室に送り込むことでしか弾を装填できない)。彫刻を施された銃床は、これがかつてはそれなりに高価なビンテージ・ライフルであったことを思わせる。
 口径は7.62x39mm、AK-47と同じ弾薬を扱う。どちらかといえば狩猟用には7.62x54mmR弾を使うことのほうが多く、わざわざアサルトライフル用の短縮弾を使う理由はなんなのだろう?とナターシャは訝った。入手の利便性や価格にそれほどアドバンテージがあるわけではなく、鹿や熊を撃つのに不利なだけではないだろうか?
 老人はかつて狩猟家だったらしいが、そのことをあまり誇りには思っていないようだ。また、自らの過去については多くを語りたがらなかった。何かがあったのだろう。
 
(充分なSpeechcraftスキルがあれば老人から過去を聞きだし、ちょっとした恩恵を受けることができる。彼の台詞の英訳はかなりジジィナイズドされており、"It's=イッツ"が"Itsh=イッチュ"、"Secret=シークレット"が"shecret=シェークレット"など、自動翻訳殺しのテキストになっている。こうした口語は実際に声に出して読むとわかりやすい)
(口語といえば、クトゥルフ系ホラーコメディのThe Miskatonicもキャラがフランクな口語で喋るので読むのに難儀したなぁ…)
(老人から譲り受けるライフル=本作に登場するHunting Rifleの3Dモデルはなぜか西側のモダンなM40A5がベースになっている。マカロフのHK4に続く謎チョイスであり、しばしば弾薬の設定が妙な部分も含め、本作は銃器まわりの描写がわりといい加減な印象を受ける)
 
 
 
 
 
 
 次は給水ポンプの修理だ。貯水タンクから水道へ水を送る加圧ポンプが故障したらしい。
 アフガンではしょっちゅう車輌が故障するため(現地の環境が苛酷であったという意味であり、ロシア製品の質が悪かったわけではない、決して!)、たとえ一般兵でもその場で修理できるよう教育を受けたものだ。この給水ポンプが超小型核融合炉で動いてるなら手のつけようもないが、ディーゼル駆動式のエンジンであれば、まあ、どうにかなるだろう。
 村の監督官(村長とはまた違うらしい)によると、普段こうした機械の修理を担当している整備士が行方不明になっているらしい。そういえば、守衛のヤンがそのような話をしていたことをナターシャは思い出した。酒飲みでしょっちゅう大言壮語を吐くやつだが、これほどまでに長い間、村に顔を見せないのは初めてのことだと。
 数回の試行錯誤ののちに給水ポンプを修理し、共産主義の素晴らしさを賃金未払いの言い訳に使うけちくさい監督官から50ルーブルを受け取る。ためしに賃上げの交渉をしてみたが、「村の整備士は強欲な男だったが、今の君ほどではなかった!」と平泉成みたいな声で嘆かれ、凹む破目になった。
 
(ナターシャはSpeechcraftスキルがあまり高くない。核戦争後、戦友と死に別れてからATOMに保護されるまでのあいだ、他人と会話する機会がまったく無かったためだ。同様にPersonalityがそれほど高くないのは、見た目が幼い女であるゆえナメられるという設定である)
 
 ともあれ、おかげで村の水をただで使えるようになったのだから、この時代の一仕事の報酬としては充分すぎるくらいだろう。ペットボトルや空き瓶といった容器さえあれば、蛇口から汲んで手元に置いておける。
 
 
 
 
 
 
 汲めるのは水だけではない。村の好意か、牛から乳を搾っても特に文句を言われることはなかった。まあ、個人の勝手で絞れるのはせいぜい、一日にペットボトル一本分くらいだが。
 
(水はToxicを合計150、牛乳はRadiationを合計100回復する。特にRadiationは自然回復しないうえ、回復できるアイテムの種類も少ないので重宝する。ただしこれら飲料品は重量があるため、大量に持ち歩くのはあまりお薦めできない。効果は同じでも、瓶<ペットボトル<水筒の順で重量が軽く済むことを覚えておこう)
(水や牛乳の入手は空容器を手に持った状態で対象物を調べること)
 
 
 

 
 
 
 酒場のカーチャから赤いキノコの採集を頼まれ、村の北口から出ようとしたとき、ヤンとは別の守衛と目が合った。
 
 
 
 
 
 
 砂漠色の野戦服…懐かしのアフガンカを纏い、レッドスターのバッジつきパナマ帽をかぶったニキビづらの若造は、まさしくバグラム空港に降り立ったばかりの新兵といった風情だ。もちろん、本物のアフガン帰還兵にしては若過ぎるので、彼の服はどこか適当な場所で入手したものだろう。あるいは、彼の父親の所有物かもしれない。
 彼が身につけているR-147無線機は戦前のロシア軍が使っていたなかでも最も小型で、通信距離が1kmしかないため、おもに同一作戦上に展開している部隊間でのやりとりに使われていた。重量はバッテリーを含めても1kg前後で、しばしばナターシャが特殊作戦で担ぐ破目になったR-107Mの18.5kgに比べると格段に軽い。用途が違うものを比較しても仕方ないが。
「や、やぁ!何か用かい?」
「こんにちは!あなたはこの村を警備しているの?」
「ああ、うん、そう!悪いやつらが入って来れないようにね!たまに退屈だと思うこともあるけど…でも、とても重要な仕事だ!」
 どぎまぎしながらも、精一杯に誠実にこたえる若者に、まさしく新兵のようだ、とナターシャは重ねて思った。
 村の反対側を守っているヤンとは違い、守衛という仕事を自らに課せられた使命と疑うことなく徹している…そうだ、あとでヤンにビールを持っていってやらねば、とナターシャは昨晩のやりとりを思い出す。今頃は待ちくたびれたあまり干乾びているかもしれない。
 相棒が勤務中に酒を欲していたことを…ビールは酒のうちに入らないとヤンは言いそうだが。事実、戦前の法律ではビールは普通の飲料水扱いだった…この若者に言ったらどんな反応をするだろうか?一瞬だけナターシャは好奇心を抱いたが、男同士の信頼関係に傷を入れるような真似は慎んで避けるべきだろう、と思い直した。
 若者が(いささかに勇気を振り絞った様子で)言葉を続ける。
「僕はピーター。君の名前は?」
「私は…」すこしのあいだ口ごもる。名前を言ってしまってもいいものだろうか?ATOMエージェントであるという素性さえ隠せば、ありふれた本名を名乗るくらいは問題なさそうだが…この先ずっと偽名で通すのも面倒な話だし、なにより、すでにアレクサンダーが(迂闊にも!)公衆の面前で自分の名を呼んでしまっている。まあ、いいだろう。「私は、ナターシャ」
「ナターシャ。いい名前だ、君にぴったりだよ。オトラドノエは良い村だろう?なんだったら、ここに住まないかい?どうやら働き者みたいだし、みんな歓迎してくれると思うよ」
 唐突な提案に、ナターシャは驚いてしまった。まるで告白されたみたいだ。「えっ?いや、そういうわけにはいかないわ。私、行くところがあるから」
「そうか…」露骨にがっかりしたようにピーターが肩を落とした。「外は危険だろう?ミュータントやギャングがいる、そんな中をわざわざ旅するなんて。僕にはちょっと理解できない感覚だな」
「それは、まあ。そうね」
 どうやら本当に心配してくれているらしい、ピーターの言葉を否定する理由はなかった。
 あんな戦争を戦ったあとで、いまさら祖国のために云々という茶番を本気で信じているわけではない。なら、自分はなんのためにこんなところにいるのだ?こんなところで何をしている?
 物憂げなナターシャとは対照的に、ピーターはどこか浮ついた表情でまくしたてた。
「それにしても、僕が、この、鎖に繋がれた番犬みたいな毎日を送ってるところへ、君みたいなカワイイ女の子と巡りあえるなんて!奇跡ってあるもんだなあ!」
「ふ、へ?」
 いきなりの発言に呆気に取られるナターシャを尻目に、ピーターはその場に屈みこむと、茂みに咲いている青い花を摘んでナターシャに差し出してきた。
「チャラーン☆かわいいレディに、お花をプレゼント!」
「あら、本当に?素敵、ありがとう!」
 満面の笑みを浮かべ、ピーターの手を包み込むようにして花を受け取るナターシャ。その瞬間、ピーターがいまにも放射能汚染源に飛び込もうかという勢いで舞い上がったのを見逃さなかった。
 その後、別れを惜しむピーターに手を振りつつキノコ採集へと向かうナターシャ。
 内心では…
「(ヤバい、チョロい、あの子!いかにも思春期ってカンジ!カワイイ!夜中に手招きしたら絶対ホイホイついてくるじゃん!食えるってアレは!食っていいのかなあ!?据え膳食わぬは乙女の恥だし!?)」
 などと、イケナイ妄想をスロットル全開で捗らせていたのであった。
「(歳の差だって知ったらガッカリするかなぁ?あなたと同じくらいの歳だったころ、今のあなたと同じ服を着てアフガン行ってた、なんて言ったら、幻滅するかしら?それとも…"おねえちゃん"、なんて呼ばれたら、私はもうどうにかなってしまいそうだったら!)」
 ぐるぐるぐるぐる。
 熱に浮かされたように想像をインフィニティ広げていたナターシャは、不意にATOMの使命を思い出して冷静になった。
「…いや、いやいやいやいや。私、何考えてたんだろう」
 かれこれ二十年来のご無沙汰とはいえ、まさか、若い男をかどわかす趣味が自分にあったとは…
 そういえば普通の恋愛ってしたことなかったのかもな、とナターシャは過去を振り返る。
 かつての相棒であるユーリとは"そういう関係"にあり、あれはあれで生死を共にし友情や恋愛感情などを超越した絆で結ばれていたことは確かだったが、だからこそあれを"普通の恋愛感情"と呼ぶことに抵抗があるのもまた事実で。
「私は別に、死んだ男に操を立てるような、貞淑な女というわけではないし…」
 だいいち、結婚だの、婚約の約束だってしていない。
 それに、異性から純粋に好意を向けられたり、花をプレゼントされる、といったようなことに遭遇するのが稀、というか、ひょっとしたら初めての経験だったかもしれない。
 あるいは、本当にチョロいのは自分のほうなのか?
「でも、男の子って好意を見せた途端、亭主気取りで態度がでかくなったりするのよね…それさえなければなぁ。彼の場合はどうかしら」
 若い子にはずっとかわいいままで居てほしいのに、どうしてすぐにそうではなくなってしまうのだろう?
 
 
 
 
 
 
 などといったことを思い煩いながら、ナターシャは村の外周に生息する巨大蟻や蜘蛛、ハチなどの昆虫をナックルでしばき倒しつつキノコ採集を進める。
「キノコ…てかてかの赤いx頭…いやいやいや」
 たぶん生えているとしたらこんなもんだろうか、などと思いながら採集したキノコをまじまじと見つめている自分に気づき、ナターシャは頭を振る。
 
【 Toadstool 】
 
 男のことを考えながらキノコ採集なんかするもんじゃないな、とひとりごちる。あまりアレクサンダーのことを責められないかもしれない。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。どこまで会話を拾ってプレイ記に反映するか悩んでおります。噂話レベルまで会話を拾うとマジで収拾つかなくなるんで…あくまで二次創作まがいの日記であり、攻略記事やガイドではないので。ストーリーとは関係ない雑談部分もけっこう面白いんですけどね。
 後半部分は、うーん、ナターシャは登場させるゲームによって微妙に背景が違ったりするんですが(今回はJagged Alliance 2のときに出した"マフィアの殺し屋"という背景がオミットされている)、だいたい見た目よりだいぶ歳を食ってるっていうのと、あと童顔のくせに年下趣味でショタとボーイッシュな女の子が大好物っていう、わりと度し難い性癖がかなり悪い形で表出したカンジでしょうか。基本的に俺は自分の創作物にガキは出さないので、滅多に表に出ない設定なんですけどね。
 たぶんナターシャは兵隊や殺し屋みたいな、殺伐とした世界にいる限りはどんなに歳をとっても見た目が変わらないんですが、結婚とかして平和な一般家庭に落ち着いた途端、樽みたいな体型の肝っ玉のでかいオカンになると思います。AKIRAのおばさんみたいな。
 ちなみにPeterは男キャラでプレイするとすげぇ愛想の悪い態度で接してきます。たとえPersonalityが高くともそれは変わらず、会話で関係を改善することもできません。プレイヤーの性別次第で露骨に態度を変えてくるNPCの代表例と言えるでしょう。なんというわかりやすい陰キャムーブ。
 
 
 
 
 


.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
2020/05/03 (Sun)00:56


 
 
 
 
 

 

ATOM RPG Replay

【 Twenty Years In One Gasp 】

Part.4

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
"同志ナターシャ、戦前のテクノロジー収集のために我々ATOMがウェイストランドへ頻繁に部隊を派遣しているのは知っていることと思う。そう、アルフの部隊が君を保護したようにね。
そして先日、ウェイストランドへ派遣されたモロゾフ将軍率いる部隊がバンカー317の調査中に消息を絶った。何が起きたのかを調査しなければならないが、我々の人的資源は限られており、大規模な追跡隊を編成することができない。損耗を最小限に抑えるため、我々は極少数の精鋭をモロゾフ将軍の追跡に充てることを決定した。
そう、君だ。
バンカー317はオトラドノエ村近郊に存在するものと思われる。目的地へ向かうより先に、クラスノズナメニー市に潜伏しているエージェントと接触し協力を要請せよ。
エージェントの名はフィデル。彼は現地の情報収集要員として、表向きはクラスノズナメニーのバーの店主として活動している。
報告書を纏めた封筒にエージェントと接触するための暗号を同封しておいた。内容を確認次第、即刻焼却処分するように。
言うまでもないが、君の任務は消息を絶ったモロゾフ将軍と彼が率いる部隊の追跡だけだ。外界で余計な気を起こすことのないよう願いたい。
ウェイストランドは危険な場所だ。幸運を祈る、ATOMと共にあれ!"
 
 
 
 
 
 
 水を確保するため、川の近くに野営地を設置しての真夜中のキャンプ。
 煌々と周囲をオレンジ色に照らす焚き火に向かって丸めた書類を放り込み、上層部の指示通りに指令書を焼き捨てたとき、ナターシャは周囲に人の気配を感じ取った。
 彼女が近くに立てかけてある銃器に手を伸ばすのと、擦り切れた軍服姿の男が姿を現したのはほぼ同時だった。
「これはこれは、女一人で夜のキャンプとは無用心なことだ!それも、こんなにも大量の荷物を抱えて!」
「…… …… ……」
「病気のおばあちゃんへ荷物を届けにいく赤ずきんちゃんかな?そんなに荷物を抱えていては、狼に襲われたときに100mと逃げられず捕まって食べられてしまうだろうよ!」
 男が手にナックルを嵌める、と同時に、物陰から仲間と思しき人相の悪い男たちが続々と姿を現した。全部で五人ほどだろうか。
「なんなら、俺たちが荷物を運ぶのを手伝ってやろうか?もちろん、タダ(無料)とは言わないが…格安だ!なあ、そうだな?おまえたち?」
 親切そうな口調と裏腹に、男は指に嵌めたナックルを隠そうともせず、むしろ見せびらかすようにしてナターシャを威嚇している。
 他の男たちもめいめい武器を手にしており、釘バットやバール、手斧などを握り締めている。
 リーダー各らしき男がナックルを見せびらかしているのは、仲間たちに意識を向けさせないための視線誘導だな、とナターシャは気づく。見た目や振る舞いから受ける印象とは裏腹に、それほど頭の悪い連中ではないかもしれない。
 彼らは何者だろう?強盗か?あるいは、そうではない何かか?
 ナターシャが心配しているのは、目の前の男たちが強盗ではなかった場合だ。
 こいつらはいつから私に目をつけていた?いつから追跡していた?私の正体を知っているのか?ATOMのエージェントと知ったうえで声をかけてきたのか?
 もし連中がATOMと敵対している、ATOMと同等の規模を持つ組織の一員か何かだとしたら?物を奪われるだけでは済むまい、過酷な拷問を受け、考えることも憚られる無残な死を遂げることになるだろう。
 そこまで考えて、いまいちど目の前の連中の正体を推察するに…
「(ただの強盗だろう)」ナターシャはそう結論づけた。
 余計な抵抗はしないほうがいい。相手がただの犯罪者なら、迂闊に反撃して逆鱗に触れるような真似さえしなければ、せいぜい物を盗られたり、暴行を受ける程度で済むだろう。彼らの目的はあくまで荷物の奪取であり、殺人ではない。職業的な犯罪者ほど、無闇に相手の命を奪ったりはしないものだ。
 どのみち、武装した男たちを相手に、これだけ距離を詰められた状態で、全員を纏めて無力化するのは不可能だった。悪いことに背は切り立った丘に阻まれており、逃げるという選択肢もあまり現実的ではない。
 結果がどうなろうと…すくなくとも、アフガンで戦ったイスラム原理主義者よりはマシな相手だ。そう思い、ナターシャはため息をつくと、力なくつぶやいた。
「あの…抵抗はしません。お好きなように荷物を持っていっても構いませんが、ええと、私のようにか弱い女性を荒野で野垂れ死にさせないために、多少は物を残しておいてもらえると、その、助かるのですけれど」
 たどたどしく語るナターシャに、強盗たちは顔を見合わせる。
 やがて、心外だ、とでも言うかのように、リーダー格の男が真顔になって言った。
「何を言いたいのか、よくわからないな。とにかく、君には少し休息が必要だ。眠るといい、起きたときには、心配事は無くなっているさ…」
 おそらくは、ナターシャの物言いが何らかの燗に障ったのだろう(それが何なのかはナターシャにはわからなかったが)。男はナターシャに近づき、ナックルを嵌めた拳を振り上げた。
 まったくのわかりやすいテレフォンパンチだった。避けようとしたとき、ナターシャの足元がぐらりとふらつく。あろうことか、基地でアルフと殴りあったときの疲労が今になって悪影響を及ぼしたのであった。
 鈍い破裂音と同時に皮膚が裂け、ナターシャは昏倒する。男の言葉にも幾許かの真実は含まれていた。ナターシャは休息を必要としていた。強盗に眠らされることは望んでいなかったが。
 起きて抵抗しなければ、という思いは、あっという間に深い闇に沈み込んでいった。
 
 
 

 
 
 
 目覚めたときには、すっかり太陽が真上にのぼっていた。酷い頭痛がする。
「痛…ぁ~~……」
 むっくりと身体を起こし、ナターシャは周囲を見回す。人の気配はなかった。強盗たちは既に姿を消した後だろう。ナターシャの荷物ともども。
 バックパックとライフルは持ち去られ、テント内の荷物もすべて消えていた。残されていたのは、切り株の上に投げ捨てられた水筒のみだ。中身は空になっていた。
 
 
 
 
 
 
 続いて、自らのボディをチェックする。頭部の怪我は後遺症を心配しなければならないようなものではなく、気絶してから過度に暴力を振るわれた形跡もない。性的暴行を受けた様子もないのは、彼らが見た目よりも紳士だったか、あるいはゲイやインポの集団だったのか。
「はぁ…」ナターシャはため息をつく。
 あの強盗たちを恨んでも仕方がない。すべては自分の責任だ。
 単独任務で、夜中に焚き火?銃を手元にも置かず?おそらく、自分の周囲は昼間のように明るかったことだろう。1km先からでも、獲物はここだと宣伝する馬鹿の姿を観察できたに違いない。
 気が緩んでいたと言うほかなかった。
 ただし、ここが敵地ではなく、愛すべき祖国であるという認識が判断を鈍らせていたことも確かだった。
 ロシア人は核戦争で世界が滅んでも、同胞同士、手を取り合って祖国の復興に努める、という発想には至らなかったらしい、ということを身をもって体験した形になる。あるいはATOMの秘密主義は、たんにああした賊を近づけないための予防措置なのかもしれない、とナターシャは思った。
 今後は敵地での単独潜入任務と同等の警戒をすべきだろう。
 
(通常のプレイで強盗たちを全滅させるのはまず不可能であり…そうプログラムが組まれているわけではなく、単純に状況が不利に過ぎる…また交渉系ステータスが高くても、説得で戦闘を回避するのは不可能。では、チート等を使って強盗を全滅させるとどうなるのか、というと…別に、どうもなりはしない。普通に戦闘が終了し、強盗の死体やテント等からアイテムを回収したあと、マップを出れば通常通りにシナリオが進行する。ラングリッサーIIIのように強制ゲームオーバーくらいは覚悟していたのだが、特典も嫌がらせも用意しないATOM Teamのドライな作風に感心する次第であった)
 
 
 

 
 
 
 12時間ほど歩き通したろうか。月の明るさを頼りに道を進むと、草陰に埋もれるようにして看板が倒れているのが見える。"Отрадное(オトラドノエ)"、と読めた。
 道の先には明かりが見えた。ドラム缶の焚き火だけでなく、電灯の光で周囲が明るく照らされている。村だ、規模は小さいが、それなりに環境が整っているように見える。入り口の前に、番犬を連れた歩哨が立っていた。
 あちこちに立っている電柱、電線を辿っていくと、どうやら村に発電機があるようだ。ガソリンで稼動するやかましい音がここまで聞こえてくる。
 耳を澄ませると、雑音に混じって誰かが明るく喋っている声が聞こえてきた。一方的にベラベラと捲くし立てているさまを聞いて、それがTVショーの音声であることにナターシャは気づく。ビデオテープの再生でなければ、どこかに存在する放送局から電波を受信しているものと思われた。
 
 
 
 
 
 
 さて、不用意に村へ近づいたものだろうか?
 つい半日前に強盗に襲われたこともあり、ナターシャは歩哨が来客を歓迎する以外のリアクションを取ることを警戒しなければならなかった。あるいは、ここがただの村ではなく、強盗団の集落である可能性もあるのだ。
 村へ近づくのをためらっているうちに番犬が吼え、歩哨の顔がこちらに向いた。犬は嫌いだ。アフガンでの特殊作戦からの撤退中、ムジャヒディンが放った猟犬に追い回された記憶が蘇った。犬には良い思い出がない。
 こそこそしていても仕方がないだろう、と、ナターシャは片手をあげて歩哨に近づいた。
 葉っぱを噛んでいた歩哨…煙草か、大麻グラスだろうか?…は咳払いとともに草を吐き出すと、愛想のよい笑顔をこちらに向けてきた。手製のスリングで吊ったPPS-43、手入れの行き届いた古式の短機関銃から手を放し、陽気に声をかけてくる。
「こんばんわ、同志!村に何か御用かな?随分とお疲れのご様子だ」
「たまたま通りがかっただけです。その、知人を追っていたのですが。道中で強盗に遭ってしまって」
「それはまた、災難だったな。俺はヤン、見ての通り、この村の警備を担当している。なにか手伝えることは?」
 ヤンと名乗った歩哨はほとんどナターシャを警戒していなかった。あるいは、額に痣をつけた丸腰の女に脅威を感じていないだけかもしれなかったが。
 ナターシャは言った。
「さっきも言ったように、人を探しているんです。軍服、そう、私と同じような服装の一団を見かけませんでしたか?このあたりを通ったはずなのですが」
「そういえば、数日前にそんなことがあったな」自らの記憶を呼び起こすように、ヤンは宙を見つめた。「クールな連中だった。良い装備を持ってて、口数が少なかった。水を買って、しばらく休憩したあとでまた出発していったんだが、あれはただのギャングや軍隊マニアじゃないな。本物の兵隊のようだった…戦前の。強いて言えばキャラバン・ガードがあんな感じだが、ここを通った連中は物を売っているようには見えなかった。えぇ、そんなことってあるだろうかね?」
「彼らが村を出たあとにどこへ向かったか、わかりますか?」
「北東へ、道なりに移動したようだ。詳しい位置まではわからないが」
 情報通りだ、とナターシャは思った。もしここがオトラドノエ村なら、消息を絶ったモロゾフ将軍の部隊はここで小休止したあと、まっすぐバンカー317へ向かったと考えていいだろう。
 しかし、オトラドノエか…ナターシャは内心でため息をつく。本来はエージェント・フィデルと連絡を取るべく、先にクラスノズナメニーへ向かう予定だったのだが。おそらく、どこかで方向を間違えたのだろう。
 ここからならクラスノズナメニーよりもバンカー317のほうが距離的に近いが、しかし、組織の協力を得ず丸腰のままモロゾフ将軍を追うべきだろうか?強盗に襲われさえしなければ、その選択肢も有り得たが…
「ところで」ナターシャが思案に暮れていたところへ、ヤンが好奇心を隠そうともしない表情で訊ねてきた。「君は、あのクールな連中とどういう関係なんだい?仲間か何かかい?」
「すいません、私の、えー、一存で答えることは。その、とても個人的な事情が関わるので」
「そうか。まあ、無理に問いただしたりはしないさ」
「ありがとうございます。それと、その、私が村へ着いて早々に妙な質問をしてきた、身元の怪しい女だってことは、あまり村の人たちに言い触らさないでいただけると助かるのですけど」
「オーケイ、これは二人だけの秘密だ、旅人さん?秘密を守るために、一つ、頼みを聞いてくれると助かるんだが」
「なんでしょう?」
「俺はこの仕事を嫌っているわけじゃない、むしろ誇りに思ってる。ただ、そのことと、この仕事が、えー、ときに酷く退屈だってことは、両立し得る。だろ?気つけが欲しくなることもある。だから、身元の怪しいどこかのお嬢さんが、この献身的な男のためにビールを一本持ってきてくれると、俺は大変に感謝いたす所存なのだが?」
「ビール?警備任務中に?」
「村の連中は良い顔をしないだろうな。村のルールでも、当直中の飲酒は禁止してる。つまり…」
「私とあなたで、互いに知られては困る秘密を持つということ?」
「そういうこと」ヤンはナターシャにウィンクをしてみせた。
 呆れた、とナターシャは嘆息する。つい先日、ATOMの基地で居眠りしていた兵士に悪感情を抱いたばかりだ。それを、任務中の飲酒?
 まあいい、私はこの村の住人ではない。ヤンが酔っていたせいでギャングの奇襲を受け、そのせいで村が壊滅したとしても、それは私の知ったことではない。彼らはATOMの同志とは違う。
 それに、村の警備が酒に酔っているというのは、ことによると自分の活動に有利に働くかもしれない、とナターシャは考えた。ヤンと個人的な信頼を築いておくのも、何の役に立つだろう。
 そういった打算を踏まえつつ、ナターシャは一つの障害にぶち当たっていた。
「あの、私、文無しなんですけど」
「どうやってビールを調達するかは任せるよ。たとえば、そう、バーの酒棚からビールが一本無くなってたからって、どうして俺がそんなことを気にする必要がある?まあ、そんなことをしなくても、バーの経理をやってるカーチャに頼めば、ビールを買って釣りがくる程度の仕事の一つでも見繕ってくれるかもしれない」
「仕事?」
「こんなことは言いたくないが、たとえ村の人々がどれだけ善良で、俺が世界でも指折りのナイスガイだったとしても、今にも餓死しそうな哀れな娘に無償で食事を提供するような善意は期待しないでほしい。その歳まで死なずに生きれたのなら、そのことは理解してくれるよな?」
「その歳…あの、私が何歳に見えます?」
「そうだな、16…いや、18くらいかな?まだ若いが、ウェイストランドの厳しさを知らないほど愚かな年齢でもないだろう」
 ウェイストランドの厳しさは知らないかもしれないが、おそらくはあなたよりも年上だろう、などと言ったものだろうか?ナターシャは首をかしげたあと、結局、自分の年齢については真実を告げずにおいた。
 
(NPCの反応はプレイヤーのステータスや性別によって変化する。基本的にはPersonalityの値が高いほど有利になるが、中には特定ステータスが低いプレイヤーにしか関心を示さないNPCがいる等、一筋縄ではいかない例がある点を留意しておきたい)
 
 
 
 
 
 
 村の住民のほとんどが寝静まっているなかで、幾つかの店舗から明かりが漏れていた。バーはともかく、こんな時間に客など来ないだろう他の店が営業している意味はあるのだろうか、とナターシャは疑問を抱く。
 
 
 
 
 
 
 酒場の屋根の上にはカラフルな電球で彩られ、スプレーで殴り書きされたトタン看板が設置されており、これ以上なく場末の安酒場らしさをアピールしている。おそらく字の読めない子供か外国人が訪れても、店の種類を紛うことはないだろう。"Харчевню(居酒屋)"…洒落た店名とかはないのだろうか?"鎌とハンマー"という雰囲気でもないが。
 カウンターではバーテンのバシャ(たくましい髭にでっぷりとした体躯だが、これでヤンよりも若いらしい、なんとも…)がテーブルを磨いており、客席の丸テーブルには会計士のカーチャがそろばんを頼りに一心に古びたノートへ何事かを書きつけている。二人は兄妹だということだった。
 毎日千人の客を扱っているわけでもなかろうに、何をそんなに書くことがあるのだろう?
 そんな疑問を抱きながら、ナターシャはバーテンダーに話しかけた。
「ハイ」
「やあ、お客さん!旅のお方かな?つい最近も、そんな格好をした一団にお目にかかったよ」
「へぇ?どんな人たちでした?」
「随分と物々しく武装していたな。武器を持った集団ってのは、このあたりじゃあトラブルの種を意味するが、彼らはそんな感じではなかったな。まるで軍隊のように統率が取れていた」
「戦前の軍隊のように?」
「ああ、まさしくそんな感じだ。村長は村が抱えている問題について彼らに相談しようとしたが、彼らのほうは聞く耳を持たなかった。きっと、何か大事な仕事があるのだろう」
「たぶん、そうでしょう。ところで、村が抱えている問題っていうのは?」
「こういう小さな村が、武装した軍隊の協力を必要とするってのは、これはもう、地元のギャング団に悩まされているとか、そういうありがちな問題さ。西部劇のようにね」
「なるほど…」
「それで、旅のお方、なにかご注文は?」
「ビールを一杯、と言いたいところですが…じつは私、文無しなんです。それで、何か仕事の一つでも紹介してもらえればと考えているんですが」
「なるほど」明らかにナターシャの言葉を歓迎していない様子で、バーテンは難しい顔をした。「正直に言って、いま君に頼めるような仕事を私自身は持っていないんだ。しかし、妹のカーチャなら…いやいや、経理の手伝いをしろというわけじゃない。彼女は自前の蒸留酒やフレーバーのレシピを研究するのに凝っていてね。本人はより店を繁盛させるためだと言ってるが、実際はたんなる趣味だな、ありゃ。最近また新しいレシピを考案したとかで、実験だ…いやいや、試飲してくれる人を探しているんだと」
 ところどころ歯切れが悪くなるバーテンの物言いに、ナターシャはどことなく不安を覚えた。
 実験台?そう言いかけたか?
 そもそも、新しいレシピを試してくれる相手を探しているなら…もし彼女のレシピが村でも評判なら、わざわざ余所者を捕まえなくても誰かが先に試しているはずだ。そうでないということは…そういうことだ。
 まあいい、金のためだ。どんなに味が酷かろうと、死ぬことはないだろう…
 そんなふうに思いながら、ナターシャは別世界にいるように熱心に帳簿と向かい合っているカーチャに話しかけた。
「あのー、すいません。あなたのお兄さんから、あなたの新しいレシピを試すよう言われたんですけども」
 てっきり無視されるものかと思っていたが、カーチャはすぐにこちらへ顔を向けると、意外にも愛想の良い笑みを浮かべて言った。「あら、それは素晴らしい提案だわ!これは長い間存在を忘れられていた、伝統のフレーバーよ」
 うきうきした表情で、カーチャは戸棚から朱色の陶器のボトルを取り出した。紙のラベルに、ただ三文字、"XXX"とだけ書かれている。嫌な予感しかしなかった。
 ボトルを手に取り、ナターシャは考える…そもそも、何がどうなれば成功なのだ?味を見ればいいのか?それとも、特別な効能があるのか?
 一口煽り、酸味の強い液体にすこし顔をしかめる。アルコールではなさそうだった。美味ではないが、吐き気をもよおすような代物でもない。
 もう一口、二口と飲んでいるうちに、ナターシャは身体が宙に浮いているような感覚にとらわれ、気がつくと床の上に倒れていた。カーチャとバーテンが慌てて駆け寄ってくるが、彼らが呼ぶ声に返事をかえすこともなく、ナターシャは意識を失った。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 いったい自分は何を飲んだのだ?何が起きたというのか?
 諸々の疑問に答えを見出すこともないまま、ナターシャは遠くで反響している雷鳴に耳を傾けていた。その音は次第に近づき、やがて足音となってナターシャの近くで立ち止まった。
 奇妙な空白のなかで、どこかで見たような男がナターシャの前に立っていた。最近見たような…実際に、ではない。モノクロの写真のなかで、派手な礼装に身を包んでいた男。モロゾフ将軍。
『私を探しているのはおまえか?』
 モロゾフ将軍の声が数百のエコーとなってナターシャの脳に直接響いてくる。
『さあ、来るがいい…』
 いま、なんと言った?
 死の灰に満ちた空間を、まるで赤絨毯を歩くように堂々たる足取りで進むモロゾフ将軍に、ナターシャは朦朧とした意識でついていく。
 ぼんやりとした歌声が、ナターシャの口を突いて出た。
「さあ、来い…来い…さあ、来い、呼び声に誘われて…戦友たち、どこへ行ってしまったの?」
 どうやら、二人は森の中を歩いているようだった。オークのかわりにキノコが生えている、異様な光景だ。そのさまは幻想的ですらあった。グロテスクなファンタジーだ。
「ともに寄り添い…弾薬を分け合い…ともに砲火をくぐり抜け…どこからか呼び声に誘われて…さあ、来い…来い…」
 巨大なキノコに囲まれて、モロゾフ将軍の先導のもと、ナターシャは歩き続ける。
「ため息一つに詰まった20年( Twenty Years In One Gasp )、吹雪のように過ぎ去って…頭の中が灰色に染まっても…その言葉を忘れない…」
 アフガン。
 やがて二人は山のように巨大なキノコの前で立ち止まった。
『これぞ神だ!』
 感歎たる声で目前のオブジェを讃えるモロゾフ将軍。しかし、ナターシャが彼の感動を共有することはなかった。彼女には別の声が聞こえていた。
 この無神論者め!
 共産主義者だ、殺せ!
「機関銃の音は消えることなく…弾丸の掠める音は消えることなく…ヘリコプターが近づく音さえ…何一つ、私から過ぎ去ることはない…」
 かの地を想う詩を聖句のように唱えるナターシャの前で、巨大なキノコがその形を変えていく。
 地鳴りとともに大地が揺れるなか、いまや人の顔となったキノコは、尊大な口調でナターシャに命じた。
『我に跪くがいい!』
「神のお導きがありますように」
 もし、こいつが本物の神様だというのなら…かの地で迷った戦友たちを、こいつが導いてくれるとでもいうのだろうか?
 裂けた地面に呑み込まれ、永遠の奈落へと落ちながら、ナターシャはなおも歌い続ける。
「ため息ばかりが出てしまうわ。かつて、祖先がそうしたように…軍旗をあなたの墓碑に捧げます…神の、お導きがありますように」
 たとえこの奈落が地獄へ続いていようとも、ナターシャに恐怖はなかった。ただ、どうしようもなくやり場のない悲しみと、怒りだけがあった。
「みんな、どこへ行ってしまったの?」
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。更新速度が遅いのではなく話の展開が遅いことに俺自身が一番驚いております。多分これチュートリアル飛ばしたら五分くらいで到達できる場面ですよ。
 じつは酒場でナゾの薬飲んで倒れるイベント、今回はじめて遭遇したんですよね。いままではストレートに妹さんに話しかけてキノコ採集をスピーチチャレンジでパスして紹介状もらってたので。本作は開発側がどういう手順で進むのを正統派ルートと考えてるのかちょっとよくわからない部分があって、そこいらへんの試行錯誤もあります。
 幻覚を見ているシーンでのナターシャの歌は実際にアフガン帰還兵が書いた詩を元にしています。元にしているというか、意訳が過ぎてほとんど別物になっているというか。で、「ため息一つに詰まった20年( Twenty Years In One Gasp )」というのが一応のサブタイトル回収になります。本来、ニュアンス的には"Gasp"より"Sigh"のほうが近いんですが、韻を踏むにあたっての語のチョイスとかそのへんを考慮して現在の形に。まあ英文と和訳でアレンジが異なるなんてのは、よくある話ですし。
 ATOM RPG自体、原語(ロシア語)と英訳版でわりとニュアンスが異なるテキストがありますし。徹頭徹尾忠実な訳ではないので、たとえば日本語訳版が出るにしても、おそらくはアレンジされた英訳版がベースになると思うので、あんまり英訳に忠実に、というような気の遣い方をする必要はないと思いますね。本当に本気でやるなら原語と英訳を比較しつつ、みたいな作業が必要になりますが、誰がやるんだそこまで、という話であって。いちいち翻訳版にケチつけるような輩は自分で作業すればいいと思うよ。マジで。(ダイアログの分量に卒倒しながら)
 オークの木も厳密に和訳するならナラとでも表記すべきだろうけど、あちらで言うオークと日本で言うナラが同じものかっていうと、それもまた別物になってしまうしね…オーク材って言葉自体は日本でも普及していることだし、まあ、うん。
 
 それにしても、あのバーテンが25歳は無理があるだろう…
 
 
 
 
 


.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
2020/04/30 (Thu)19:25


 
 
 
 
 

 

ATOM RPG Replay

【 Twenty Years In One Gasp 】

Part.3

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
「さてさて、お待ちかねの射的タイムだ!射撃場が嫌いなやつなんかいない、だろ?」
「私、べつに銃器マニアではないんですけどね…」
 診療所を出た二人は、基地のじつに四分の一を占める広大な射撃レーンへと足を向けた。拳銃、突撃銃、狙撃銃とカテゴリ別に設置距離の異なる人型の標的プレートが並び、金属製のターゲットの表面には無数の弾痕が刻まれている。
 ナターシャはテーブルの上に置いてある拳銃を手に取り、装弾を確かめる。遊底の引きがいやに軽く、妙な弾薬が装填されていることに気づいたナターシャは、ボール紙製の弾薬箱に"訓練用ゴム弾"の表記を見た。
「ゴム弾?」
「装薬量の少ない訓練用弾丸だ」アルフが答えた。
「スライドが軽いのもそれに関係が?」ナターシャが訊き返す。
「スプリングを弱いものに交換してある。でないと作動不良を起こすからな、あくまでも訓練用で暴徒鎮圧用じゃない。ゴム弾でも、初速が高いと危険な威力になる」
「人道的ですね。命中精度のほうは?」
「練習用には充分だ…としか言えないな。どちらかといえば銃器の操作に慣れるためのもので、シリアスに腕を競うためのもんじゃない。マカロフを扱ったことは?」
「ありますけど…これ、マカロフですか?」
「そうだが?」
「なんか、私の知っているマカロフと形が違うような…」
 
 
(本作に登場するマカロフのアイコン、及び3Dモデルはなぜかドイツ製のHK4がベースになっている。HK4はH&K社が最初に製造した拳銃であり、設計は同社の協同設立者であるアレックス・ザイデルの手による。モーゼルHScと機構が似ているが、これは設計者が同一人物であるため。ドイツ警察にP11の名称で納入され、パーツ交換によって四種類の口径を使い分けることができるが、勿論9x18mmマカロフ弾を扱うパーツは存在しない)
 
 ゴム弾を装填し、ナターシャは三つの人型ターゲットに向けて撃つ。命中と同時に乾いた金属音が響き、マンターゲットがパタンと後ろに倒れた。おそらく、人体に当たっても無傷では済まないだろう。
 一発も外すことなく全弾をターゲットに命中させ、今度は隣のレーンに置いてある突撃銃を手に取った。
 ロシア製のAK-47だ。かつてナターシャが扱い慣れていたAK-74に比べるといささか重く、しかも形式の古い初期型だった。こういう骨董品はすべて外国に流れたものと思っていたが。
 こちらも一発たりと撃ち損じることなく全てのターゲットを倒し、次のレーンで手にしたのはSVD狙撃銃だった。搭載されているPSO-1スコープを覗き、西側のライフル・スコープとはまるでレイアウトの異なるレティクルを確認する。
 実のところ、これまで扱った三種類の銃器のうちでもっとも馴染みがあるのはこのSVDだった。そのことが慢心に繋がったのかはわからないが、中距離にセッティングされたターゲットを撃ったとき、はじめてナターシャは弾を外してしまった。
「あまり納得がいってないようだな」すべての標的を撃ち倒し、眉間に皺を寄せるナターシャにアルフが声をかける。
「ええ。だいぶ鈍っています、なにぶん、十年以上は銃器に触れてさえいなかったので…あるいは、加齢のせいですかね?任務中に少しは勘を取り戻せると良いのですが」ため息混じりにナターシャは言った。
 最後のレーンで行った投擲物の訓練結果はさらに悲惨なものだった。ゴム製の粒弾をばら撒くF1手榴弾のレプリカを使ったのだが、思い通りの場所に投げ込めなかったどころか、一度など足元のすぐ近くに落としてしまった。
 
(本プレイ記におけるナターシャは長い廃墟生活で能力が大幅に落ちており、レベルアップとともに本来の能力=戦闘勘を取り戻していく、という設定)
 
 がっくりと肩を落としたナターシャは、洒落か本気か手榴弾のかわりに投げるよう用意された煉瓦ブロックに頭をぶつけながら言った。
「すいません、煙草あります…?」
「ほら」
 
【 Ciggy: Recipe 】
 
(手巻き煙草はトイレットペーパーのほか、古紙を使っても製作可能。軽量ながら売値がそれなりに高いため換金用アイテムとして重宝するほか、回復アイテムと同じ要領でNPCに大量投与し暗殺するというドラムーチェばりのテクニックが存在する)
 
「一服つけたら戦闘訓練に行くぞ」
「え?ああ、はい」
 
 
 
 
 
 
 基地の中心、フェンスに囲まれ土嚢やらドラム缶が無造作に積んである謎のスペースで休憩のような何かをしていた人相の悪い二人組を相手にタッグマッチを挑むナターシャとアルフ。
 おもむろに訓練用ピストルを抜く二人組、それに対し手製ナックルを嵌めてナターシャはインファイトを挑む。ゴム弾を喰らいつつ相手をボコボコに殴るナターシャの背後で、アルフがいそいそと後方へ下がっていった。実質の二対一である。
 二人組のうちの片方を殴り倒したあたりでお開きとなり、ゴム弾を受けた痕をさすりながらナターシャは戦闘に参加する意志を見せなかったアルフを睨みつけた。
「私が迂闊でした。弾薬を分け合ったこともない男に背中を任せるなど」
「弾薬を…なんだって?」
「なんでもありません」
 たったいまの言葉が、かつて部隊内で流行った詩の一節からの引用であることをわざわざ説明したものだろうか、とナターシャは唸る。一方でアルフも戦闘開始から早々に背を向けて逃げ出したのは気紛れなAIのせいであり自分のイメージを損なった点について開発者に抗議を(以下略 実際プレイ中にこんな有り様になっちまったんだから仕方ないじゃないか
 
 
 
 
 
 
「悪かったよ。俺も本意じゃなかった、いや本当に。メシでも食って機嫌を直してくれ、誰かがビーフシチューの缶を置きっぱなしにしていったようだ。そこのキャンプファイアで温めよう、コーヒーと紅茶もある」
 いささかに疲れた様子でアルフがフィールドキッチン(野外炊事車)の近くで炊かれている焚き火へとナターシャを誘導した。誰が用意したのかはわからないが、薪の無駄だな、とナターシャは思った。
 おそらくは椅子がわりに置かれているのであろう、切り株の上に見慣れた缶が放置されている。ツションカと呼ばれる、軍用の携行食だ。つぶらな瞳の牛のシンボルがナターシャを見返していた。やたらと古びたラベルを見るに、戦前のテクノロジーと材料と思い出が詰まっているものと思われた。さらによく観察すると、すこし缶が膨らんでいるようにも見える。
「食べれるんですか、これ」ナターシャがアルフに尋ねた。
「少しばかりの放射能入りだが、なに、空港でX線検査を受けたとでも思えばいい。おかげで雑菌の繁殖も抑えられているし、クリーンなもんだ」
「えぇ……」
 近くのテーブルに乗っていた紅茶とコーヒーも共に戦前のものと思われたが、なぜだかこちらは缶詰ほど嫌悪感は抱かなかった。本物の茶葉、本物のコーヒー豆だ。代用品やインスタントではない。
 
(紅茶とコーヒーはキャンプでのみ調理が可能で、紅茶は四時間のEndurance+1、コーヒーは三時間のStrength+1バフを受けることができる。またキャンプでの調理は少量ではあるが経験値も獲得できるため、後生大事に取っておかず積極的に使用していくべきだろう)
 
 
 
 
 
 
 最終仕上げはリング上でのアルフとのタイマン勝負だった。逞しい肉体を持つアルフは、おそらく年齢的にも兵士としてもっとも脂の乗っている時期であろう。経験と知識、そして鍛えられた身体のバランスがもっとも整っている状態だ。
 過去に何度も組織の特殊作戦に従事しているに違いない、いままでナターシャがATOMで出会ったなかでも最も戦闘能力の高い人物であることに疑いの余地はなかった。
 たんなる練習がわりの組み手だったはずだが、気づくと二人とも加減や容赦など考えないようになっていた。それはそうだ、訓練学校での格闘技教練でも相手の怪我や負傷をいちいち心配して打撃を躊躇することなどなかった。かつてナターシャが習い、実践し、そしてアルフも同等の訓練を受けているであろう技術は、スポーツ格闘などではなく、人殺しの手段なのだ。
 はじめはアルフも手加減していたが…戦っているうちに、ナターシャが自己申告する通りの"本物の兵隊"であることを肌で理解したアルフは、女だから、新人だからという思い込みを捨てて挑んでいた。
 けっきょく、どっちが勝ったのか、あるいは負けたのかはわからなかったが…荒い息を吐きながら膝をつくナターシャに、アルフが手を差し伸べた。
「鈍っているにしては、やるじゃないか」
「"テスト"は合格ですか?」
「これから君の前に立ち塞がるやつの不運に同情するよ」
 さっきまでは互いに本気で打ち合っていたが、戦いが終わったいま、不思議と遺恨やわだかまりは残っていなかった。リングに上がる前に抱いていた不信さえも。
「ああ、痛ぇ…そろそろブリーフィングの時間だな。メインバンカーへ行くといい、どんな任務を与えられるかはわからんが…まあ、君なら上手くやれるだろう」ナターシャに殴られた顎をさすりながらアルフが言う。
「その期待に応えないといけませんね」若干足元をふらつかせながらもナターシャが笑顔で返す。
 
 
 
 
 
 
 さて、そろそろ自分の運命について尋ねる時間だ。
 ナターシャはアルフに別れを告げると、メインバンカーの入り口へと向かった。魔物が大口を開けて待ち構えているように見えたのは、たんなる弱気の表出だろうか、と思いながら。
 
(レベル7のAlfは高い戦闘能力を持ち、勝つためには装備選択が重要となる。おそらくはQuality Knuckledusterの使用がもっとも勝率が高くなるだろう。事前にAlfに弾切れの銃器を渡しておくという小技もあるが、どのみち経験値の入手はできないので、勝っても負けてもあまり意味はない…あくまで戦闘メカニックのテスト機会であると割り切ろう)
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。なんか途中で文章が投げやり気味になってますが、シリアスで通すにはチュートリアル的ご都合主義が多過ぎてツッコミどころ満載だったからしょーがねぇじゃんかよう!なるべく作中でメタ発言はしたくないんだけどなあ。いや本当に。
 本作のチュートリアルの舞台となるATOM Base、またの名をTraining Campは色々と手の込んだ作りとなっていて、一連の記事で触れたように様々な訓練を受けられるほか、目立たない場所にアイテムが隠されていたり、レシピ製作等で経験値を入手できるので、早く冒険に出たいという気持ちを抑えて色々試してみるのがいいんじゃないかと思います。
 次回からようやく本編がはじまります。
 
 
 
 
 


.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
1  2  3  4  5  6  7 
カレンダー
04 2020/05 06
S M T W T F S
1 2
4 5 7 8
10 11 13 14 16
17 19 20 22 23
25 26 28 29 30
31
最新CM
[05/09 グレアム@サバイバー]
[05/07 ななしさん]
[04/15 グレアム@スレイヤー]
[04/13 「」]
[08/31 グレアム@モハビの砂]
プロフィール
HN:
グレアム・カーライル
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
Admin / Write
忍者ブログ [PR]