主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2014/10/21 (Tue)20:23
「俺の名はクレイブ、傭兵だ。BoSと袂を分ってから、いったいどれだけの時間が流れたのだろうか…あちこちを放浪し、すでに何十年もの歳月が過ぎている。過酷な環境を生き延び、半ばグールと化した俺は自分の肉体が健常なのか、老い朽ち果てる寸前なのかすらわからなくなっている。だが、いまのところ生命活動が停止する様子はない。よくよく死神は俺のことを嫌っているらしい、もう生き死になんてどうでもいいが…」
** ** ** **
すぐに死ぬ理由もないと、生きるのもけっこう気が楽になるものだ。
「いままで世話になったな。礼を言うよ」
「こちらこそ、あんたに会えて良かったよ。死に際にすこし色が添えられた気分だ」
ダウンタウンの地下、饐えた黴の匂いが充満するこの閉鎖空間で、俺は苦しそうに咳き込む老人を前に出発の意思を告げたところだった。
あるとき路上で倒れていた俺を、物資調達のため地上に出ていたこの老人が拾って介抱してくれたのだ。
それ以来、俺はしばらくこの老人が住む地下室に厄介になっていた。
もちろん体調が回復したらすぐに出て行くこともできた。この老人を殺して物資を奪い、地上に戻ることもできた。だが、それはしなかった。
地上を動き回れるようになっても俺はしばらく、老人のために物資の調達を請け負ったりしていた。
長い間死の灰に晒され続けた影響か、見るだに健康を害し衰弱していく老人に何か思うところがあったのかもしれない。この気持ちを言葉で形容するのは難しい…すくなくとも、ハッキリとした動機があったわけじゃない。
老人と寝食をともにし、昔話に耳を傾け、そして俺も自身の冒険譚を…仔細にではないが…披露した。
貴重な時間だったのだろうと思う。こんなふうに他人と接するのは、ひょっとしたら初めての経験だったかもしれない。
「預かっていた、あんたの武器を返すよ。それと、弾薬も…わしが昔使っていたぶんの残りも持っていくといい」
老人はそう言って、布にくるまれたサブマシンガンとピストルをテーブルの上に並べる。
ここに来てからはほとんど使う機会のなかったそれらは無数の小さなキズがつき、いくらか塗装もはげていたが、手入れを怠った形跡はなかった。ほどよい具合にグリスが塗られ、アクションはスムーズそのものだ。
蝋が塗られたボール紙の箱には標準的なFMJ弾がしっかりと収められている。
「全部持っていっていい、もうわしには必要のないものだ。ただし、一つだけ…頼みがある」
「なんだ」
「わしを殺してくれ。ひと思いに、頭に一発で終わらせてほしい。ここに一人取り残され、病に侵され衰弱して死んでいくのだけはいやだ」
老人の言葉は、最後のほうになるとすでにかすれて聞き取れないほどに弱々しくなっていた。目尻に涙を浮かべ、哀願するように俺を見つめてくる。
核戦争前の人間だったら、こういう状況でどうすれば良いと考えるだろうか。
すくなくとも…このウェイストランドでは、自らの死を任せられる相手がいることは、幸せなことなのだ。
俺は.45口径の重い遊底を引き、弾倉に装填された弾を薬室に送りこむ。
「頭骨を避けて確実に殺すなら、狙うのは額じゃなくて鼻と口の間だ。見てくれは悪くなるぞ」
「かまわんよ。一番楽な方法でやってくれ」
そう言うと、老人は安らかな表情のまま瞳を閉じた。まるで天国へ行けることを疑っていないかのように。
一方の俺にとっては、短い時間であったにせよ親しく接した相手を殺すことに躊躇がないと言えば嘘になる。いままで何人殺そうと、どれだけ非情な行為に及んだことがあろうと、決して慣れることはない。
だが、任された責務を「ヒューマニズム」などという甘垂れの言い訳で投げ出すほどだらしのない態度を晒すこともなかった。歳を取ろうと、傭兵として「受け容れた願いを叶える」というプロフェッショナルの意識が薄れたことは今だにない。
俺はまったく自然な動作でピストルを両手保持のかまえで持ち上げると、白点入りの照星の上に老人の眉間を捉えた。この近距離なら、六時照準より確実に下方に命中する。
「神の加護と祝福を」
自分が口にするにはあまりにおこがましい台詞ではあったが、それでも俺は老人が本気で天国に行けることを願っていた。
その言葉を聞いた一瞬、老人が礼を言うかのようにゆっくりとこうべを垂れた。
そして、俺は引き金をひいた。
** ** ** **
「変わらんな、この光景は…」
地下室を出て、すっかり崩れ落ちて久しい老人の生家の二階へ上がる。
ミルク色の靄を纏った街の光景は幻想的ですらあり、下降する白い結晶の輝きに目を奪われそうになる。
しかしこれは雪ではない。
かつてグレート・ウォーでもっとも被害を受けた地域の一つであるこの街では、未だに死の灰が舞っているのだ。
いまとなってはレイダーですら居つこうとしないこの街に、物資はまったく残っていない。食料も、雑貨も、用途の見出せないガラクタですら持ち去られた後である。
俺は紙の地図を広げ、この近くにメトロへの入り口があることを確認する。
この世に未練があるわけでもなく、またあの世で俺の帰還を待ち侘びているだろう女との再会を急ぐこともなくなったが、人生の楽しみを捨てたわけではない。楽しみとは、旅だ。どれだけ無残に荒廃した土地を目にしても、それがすべて人間の業の成した結果だと考えると、奇妙な感慨と好奇心が湧く。
スクラップと化した車列でごったがえすハイウェイ、核の光を浴びた時刻そのままに針を止め倒壊した時計台などを見つめながらメトロ・トンネルの入り口に近づいたとき、か細い鳴き声とともに、エナメル質がコンクリートを擦る独特の音があちこちから聞こえてきた。
骨と皮だけになり、新鮮なたんぱく質を欲する飢えた野犬の群れを見つけた俺は、すぐさまサブマシンガンを肩づけで指切り連射する。獲物を前にした野犬の俊敏さを知っている俺は、いまからメトロ・トンネルのゲートに駆け込んでも間に合わないことを直感で理解していた。
タタン、タタン、タタン、テンポの良いマニュアルでの二連続バースト射で野犬の頭を撃ち抜き、八つの撃ち殻薬莢が地面に落ちた頃には、その場で息をしているのは俺だけになっていた。
照星から視線を外して銃口を下ろし、カチリと音を立てて安全装置をかけた俺は一瞬だけ野犬が食料になるかどうかについて思案を巡らせる。
おそらく寄生虫や病原菌が血肉のあらゆる箇所に潜んでいるだろうが、煮れば害なく口にすることは可能なはずだ。しかし皮を剥ぎ血抜きし調理するのは手間がかかるし、その過程で伝染病がうつる可能性もある。
老人の棲家から持ち出した食料にはまだ余裕があるし、いま慌てて新たに食料を確保する必要はないと判断した俺は、野犬の死骸の処分をカラスや昆虫にまかせて先へ進むことにした。それに、銃声を立てた場所にあまり長居をしたくなかった。
** ** ** **
「こいつを喰らいやがってください( take it, please )」
「なに?」
メトロ・トンネルのゲートを抜け、先へ進んだ俺を待っていたのは.32口径ライフルの銃口だった。
どうやら門衛らしいフードを目深に被った男はしばらく俺を睨みつけてから、やがておちゃらかしたような笑みを浮かべると、引き金にかけていた指をゆっくりと用心金から外す。
「冗談だ、気を悪くするなストレンジャー(余所者)。だが、ここは無闇に誰彼かまわず通すわけにはいかん」
「こんな場所にコミュニティがあるとは知らなかった。迷惑をかけるつもりはない、どうすれば通してもらえる?」
「切符を拝見したい( ticket please )」
「…切符?まさか、メトロ・チケットか?」
「他にチケットがあるかね?」
「セキュリトロンみたいなことを言う男だな、あんた。生憎チケットは切らしててね…近くに券売機はないのかい?キャップで買えると有り難いんだが」
「キャップ?なんだいそれは」
「ヌカコーラ・キャップ。通貨さ。知らないか?」
「さてね、すくなくとも俺の知ってるアメリカはドル以外の通貨は通用しないな」
キャップという単語に眉をひそめる門衛に、俺はこの近辺のコミュニティが外界から長らく交流が途絶していたことを認識した。
誰がはじめに広めたのかは知らないが、ヌカコーラ社の瓶ドリンクのキャップを通貨のかわりに使うというのは、広く認知されてはいるものの局所的に通用しない場所が少なからず存在する。
そのため世界を広く旅するには、キャップやドルといった通貨の代わりとなる物品を持ち歩くのが定石だった。
「煙草はどうだ?こんな場所じゃ滅多に手に入らないだろう」
「銘柄は?」
「叶和圓。五パックある」
「うーん…万宝路や好彩はないのか?」
「悪いね(好彩はあるけど、俺の好きな銘柄だから渡すわけないだろ)。そうだ、食料は?パイナップルの缶がある」
これは効果てきめんだった。甘い物の入手が難しい昨今、フルーツ缶は果物自体もそうだが充填された砂糖シロップがことさら有り難がられる傾向にある。
門衛はいまにも涎を垂らさんばかりの表情で俺を見つめ、そして周囲に誰もいないことを確認してから言った。
「略奪者はふつう先に物を寄越したりしないし、そもそもここには奪うような物もないしな…わかった、パイン缶と 叶和圓を三パックで手を打とう」
「ごうつくばりめ…火は貸してやらないからな」
俺は万一門衛が「ここでこいつを殺してすべて奪えばいいのでは」と考えたときのために、いつでも拳銃を抜けるよう右手の位置に気を配りながらバックパックを下ろした。ファスナーを開け、やや潰れた煙草のパックとスチール缶を取り出し、門衛に手渡す。
両手に戦利品を抱え、クリスマスの日の子供のような顔つきでそれをコートのポケットにしまう門衛を見ながら、おそらくこいつがそれらの品々を他の仲間とシェアすることはないだろうと俺は確信する。まあ、どうでもいい話だが。
メトロ構内は老廃物を身体中に纏わりつかせた人間の放つ異臭に満ちており、お世辞にも健全な場所とは言い難い。
女子供までもが精気を失った虚ろな目つきで俺を見つめ、すぐ関心をなくしたように視線を落とす。銃への恐怖もないようだ、あるいは万一撃たれでもしたら、この生き地獄から解放されるとでも思っているのだろうか。
俺がしてやれることはなにもない。飢え死にを覚悟で食料を恵んでやったところで、全員にパンのひとかけらも渡れば僥倖だろう。それに、ここの連中はそんな僅かばかりの施しに礼を言う感情すら残ってはいまい。
なにか銃や弾薬、あるいは他で見ることのない珍しい物品の取り引きでもできればと考えていたが、ここの状況は俺が予想していたよりも遥かに悪いものだった。早晩ここは壊滅するだろう、むしろいままでよく保ったものだと感心する。
ホームから線路の上に飛び降りた俺は、路線図を参考に南へと進んだ。
ときおり闇の奥から飛びかかってくる巨大なドブネズミをサブマシンガンの銃床で叩き潰し、一定間隔で休憩を挟みながらひたすら歩く。
** ** ** **
やがて俺を迎えたのは眩い灯光と、おちゃらかしではない本物のホールド・アップだった。
まるで旧時代のフィルムから飛び出してきたような警官姿の男にピストルを向けたが、やがて二つの銃口が同時に自分に狙いをつけていることを悟ると、俺はゆっくりとピストルをホルスターに戻し、両手を上げた。ピストルを二挺携帯していないことを悔やんだ瞬間だった。
いったい、いままで何挺の銃を使い捨ててきただろうか。ある銃は銃身が裂け、ある銃は遊底が割れた。多少の不具合なら自前で修繕できたが、部品を調達できない破損品は涙を飲んで捨てるしかなかった。手入れを怠らずとも、いずれ道具には寿命が来る。
そんなことを考えながら、捕虜扱いで警官に連れられた俺は建物内の装飾を見て驚きの声を上げた。
ここは…ヴォールトだ!
ナンバーまでは把握できないが、ここはヴォールト・テック社が戦前に建造した地下核シェルターの一つだった。
幾つかのフロアを跨ぎ、やがて俺は監督官の椅子に鎮座する女性警官の前に突き出される。
「まるで犯罪者にでもなった気分だ。この時代に青い制服を見ることになるとは思わなかった」
「このヴォールトは、かつて警察官の避難施設として建造されたものです。我々は先祖の名誉ある職務とその精神を、この制服とともに受け継いでいるのですよ」
ここの責任者らしい女性警官、いや監督官は、煮沸直後の熱湯ですら一瞬で凍りそうな冷たい視線で俺を見つめ返す。
「あなた、ダウンタウンのほうから来たそうね。あちらの状況はどうなっていましたか?」
「滅亡までテン・カウントはじまって久しく、いまスリー…ツー…ワンの直前あたり、かな。物資の調達を外界の探索に頼りっきりだったらしい、自活するだけの資源も技術もないようだ。まあ、あまり細かく観察したわけじゃないけど」
「水や食料の備蓄はほとんどない、というわけですか。警備状況は?」
「古式のライフルを持ったのが二、三人。略奪する気か?やめとけやめとけ、労力や弾に見合わないぜ」
「それを判断するのはあなたではありません」
ずっと統治者として君臨してきたからだろう、対等な物言いに慣れていないらしい監督官は不快感を露わに立ち上がると、観察窓から施設内を一望しつつ、俺に視線を合わせないまま口を開いた。
「現在、あなたは捕虜の身です。独房に収監しても構いませんが、あなたはそこいらの役立たずとは違うようですから…一つ、仕事を頼みます」
「捕虜?容疑者って言ったほうが雰囲気が出るんじゃないか」
「余計な口出しは無用。あなたには、ダウンタウン地下の襲撃作戦に参加してもらいます」
「襲撃、ね。女子供も皆殺しかい?」
「いえ、殺人は極力避けてください。それに勘違いしないでほしいのですが、これは略奪ではなく保護です。皆をここに連れてくるのです、傷をつけないよう…価値が下がりますから」
台詞の最後あたりで、監督官が微妙な表情の変化を見せたが、それがなにを意味するのかは俺にはわからなかった。
しかし拘束を解かれ、襲撃チームとの合流に向かう途中で、俺は彼女の言葉の本当の意味をはっきりと理解した。
肉の焼ける香ばしい匂いは豚肉のそれに似ていたが、火の上に置かれているのが豚ではなく人間なのは明らかだった。
似たような環境で、ダウンタウンの連中に比べてこの警官コスプレ集団が僅かでも健康に動き回れている理由がわかった。彼らは外界から人を攫ってきては食料にしているのだ。首を切られた死体が天井からぶら下げられているのは血抜きのためだろう。血もきちんと容器に集められ、不純物を分離させるため冷暗所に保管されている。
価値が下がるから傷をつけるな、というのも頷ける。生かしてさえおけば人間は腐らない。たいていは。
「まあ…こうなるよな」
俺も人間の血肉を口にしたことがある身だ。彼らが悪趣味や酔狂ではなく、生きるためにこのような非道を行なっているのは理解できる。それでも血気盛んな若い時分なら、「そうまでして生きたいか」と叫びながら処断したかもわからないが、いまとなっては彼らの行為を否定する気も起きなかった。
** ** ** **
「あんた、トンネルをずっと歩いてきたんだって?たいしたタフネスだ」
ライオット・スーツに身を包んだ襲撃チームと合流し、坑道を進んだ先にあったものを見たとき、俺は思わず目眩をおぼえる。
トロッコ。こういう便利な乗り物の存在を、ダウンタウンの連中は知っていただろうか。
男四人でいそいそと乗り込み、ハンドルを操作しながら俺たちは軽快にトロッコを走らせる。
「それにしてもあんた、やけに素直に従ったな」
「んー、なんだ。人間が人間を喰うなんて極悪非道な真似は許さんぞーとか言って暴れてほしかったのか」
「ほしいわけねーだろアホか。ただ、そういうことをやりそうに見えたって言いたかっただけだ」
「やってもよかったけどね。あんたらが全員死ぬか、俺が死ぬか。ダウンタウンの連中を救うために?あるいは自己満足とか。ただ最近はそういう生き方に疲れてきたっていうか、なんというか…けっきょく、善人だろうと、悪人だろうと、人間が死ぬことに変わりはないじゃないか。神の役割を演じるには、色々見過ぎたよ。俺は」
彼方を見つめながらつぶやく俺に、襲撃チームの面々は「枯れてるな」などと揶揄する。
小難しいことを言ったようだが、要するに「誰が死のうと知ったことか」ということなのだが。
** ** ** **
ダウンタウンに近づき、トロッコを降りた俺たちは足音を殺して住民たちの住処に近づく。
しかし先日訪れたときとは明らかに異なる雰囲気を察し、俺はサブマシンガンの銃把を握る手をきつく握りしめた。襲撃チームの面々に注意を怠らないよう警告する。
ホームへ上がった俺が見たのは、かつてキャピタル・ウェイストランドでの旅において見慣れた怪物…フェラル・グールだった。
理性をなくした怪物がこちらに気づくと同時に、俺は安全装置を外して素早く引き金を絞る。
瞬時に頭部を破壊されたフェラル・グールの死体が同時にぶっ倒れ、一寸遅れて俺の背後についた襲撃チームの面々が驚きの声を上げた。
「なんだ、こいつらは!?」
「知らないか?フェラル・グール…放射能による突然変異を引き起こした人間の成れの果てさ」
もとより暗い場所を好み、閉鎖された施設やメトロ構内に潜むことの多いこの連中の存在をすっかり忘れていたことに、俺は自分自身でも驚いていた。このあたりではまったく見かけなかったからだが、いつの間に流れてきたのだろうか。
「すっかり予定が狂ったな、ゴミ掃除に付き合わされる破目になるとは!」
すでに幾数退治したか知れないフェラル・グールの頭部に銃弾を叩き込みながら、俺は空になった弾倉を交換する。
メトロ構内はさながら地獄絵図で、怪物の侵略を受けた人々が力なく逃げ惑い、武装した者もすでに倒れたあとらしく一方的な虐殺が繰り広げられるのみである。
「なんか正義の味方みたいなことしてないか、俺ら」
「警官の格好してるくせに、それがおかしいみたいなこと言うんじゃないよ」
どうにも自分たちがしていることに疑問を隠せないらしい襲撃チームの面々に、俺はぴしゃりと言いつける。
やがて近くにいたフェラル・グールをすべて始末し、どうにか騒ぎが収まったところで、俺は今後のことを考えなければならなかった。
「どうするんだ、この状況」
「この事態の収拾は我々が引き受ける。あんたは…どこへなりと行くがいいさ。ただし、二度と我々の前に姿を見せるな」
「タダ働きは癪に障るが、親切は受けておこう。それは監督官の判断じゃないんだろう?」
「俺の独断だ。あんたは腕が立つから、監督官は手元に置きたがるだろうが…どうも、あんたと関わり続けると碌でもないことになりそうな気がするんでな。君子危うきに近寄らず、というやつだ」
「えらい言われようだな」
別れの挨拶もそこそこに、俺は襲撃チームの面々と別れホームを南に進む。
ダウンタウンの住民もほとんど近づかなかったらしいその路線にもフェラル・グールは巣食っており、俺を見るだに一斉に襲いかかってきた。
「これは餞別代わりだな」
ガ、ガ、ガ、ガ、ガン。
トンネルを反響する重くでかい銃声に耳が痺れ、頭がくらくらしながらも、俺は逃げることなく逆に駆け出し近づきながらフェラル・グールに銃弾を叩き込んでいく。
やがて知覚できる限りすべての怪物を沈黙させ、俺は弾倉を交換する。
「さて…」
ピストルをホルスターに戻し、肩にかけていたサブマシンガンをふたたび手に持ちながら、俺は職員用の通用口に手をかける。
「なにか、使える備品でも残ってればいいんだが」
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これは、俺が体験した旅の記憶のほんの一部に過ぎない。
かつて大きな戦いに関わり、キャピタル・ウェイストランドの歴史を作った俺の人生の中では取り立てて山も谷もない小さなエピソードの一つだ。しかしそれは同時に、いまも俺の記憶の奥底で小さな宝石細工のように輝き続けている。
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