主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2014/10/27 (Mon)16:09
荒野を歩く一人の青年の姿があった。
泥にまみれた衣服はボロボロで、身体中に傷跡が残っている。
惰性か義務感で握っているのだろう.45口径を持つ腕はだらしなく垂れ下がり、ぶらぶらと揺れていた。
** ** ** **
「水…食い物……なにか、ないのか……?」
俺は飢えと渇きで朦朧とする頭を抱えながら、おぼつかない足取りで廃墟を彷徨っていた。
「あの施設」を出てから、もうすぐ三日が経とうとしている。
空を知らなかった俺が外界で見たものは、ただひたすらに広がる不毛の大地。人類が遺した文明の残滓、そして人類の叡智によって造られた、神の叡智を越えたバケモノども。
弾薬はとっくに尽きかけ、水や食料などは最初から持っていない。
「…死ぬな、こりゃ」
もしかして、人類はとっくに死滅しちまったんじゃないのか?
ひょっとして生き残りはVaultにいた住民だけだったんじゃあ…
そんなことを考え、俺はかぶりを振る。
人類は死に絶えていない、それはわかっている。たとえそれが人間とは呼べないような、本能のみで生きるケダモノのような連中だったとしても。
方々を歩き回り、やがて俺は他と変わらぬ廃墟に見える一軒家から立った小さな物音を耳にした。
「野良犬でも暴れてるのか、そうでもなけりゃ…誰かいるのかな」
用心のため拳銃を片手に、俺は物音がした家の扉に手をかける。鍵はかかっていなかった。
ギイ…
家の中にいたのは、一人の女性だった。外見はかなりまともそうに見える。
椅子に腰かけていた女性が、カールしたブロンドを揺らして立ち上がる。俺は精一杯のスマイルを浮かべ、どうにか僅かでも水と食料を都合してもらえないか頼もうとしたのだが…
「あんた誰、モリアティに言われて来たのね!?」
「…え……?」
ガチャリ。
ヒステリックな叫びを上げ、女性は.32口径のリボルバーを俺に真っ直ぐ向けてきた。
「この薄汚い雇われの借金取り風情が、誰があんたなんかに金を渡すもんですか!」
「ち、ちょっと待ってくれよ!俺はただ、ちょっと水と食料を恵んでもらえないかって…」
「嘘おっしゃい、じゃあその銃はなによ!?」
「こ、これは違う!」
彼女の視線は俺の.45口径に釘付けになっている、ちくしょう、この状況で俺が説得できる材料が皆無じゃないか!
やがて、PAM、女性が引き金をひき、銃弾が俺の脇の壁を穿ち漆喰を吹き飛ばす。
「二度と好き勝手に使われてやるもんですか、これは私が稼いだお金なのよ!」
CLICK、女性は撃鉄を起こし、今度は壁ではなく俺のど真ん中に銃口を向ける。
引き金をひく指がなめらかに動き、それは一寸の躊躇もなく…そして、途中で止まるようには見えなかった。
「うわああああああああっ!?」
殺される!
そう直感した俺はパニックに陥り、咄嗟に腕を持ち上げた。重い.45口径を握った手を。
PAM!
BLAM!
銃音の異なる弾丸がほぼ同時に発射され、ちっぽけな.32口径のラウンドノーズ弾が俺の肩をかすめる。
そして…POMP!.45口径のホローポイント弾が女性の顎に命中し、骨に当たって軌道を変えた弾丸が変形しながら暴れ回り、女性の頭部もろとも粉砕する。
ドッ…グチャッ。
水っぽい音を立てながら女性は壁に激突し、そのまま床に崩れ落ちた。悲鳴を上げる間もなく。
「お、おい…」
大丈夫か。
そんな言葉を吐こうとして、それがいかにナンセンスかを悟った俺は、ただ言葉を失った。
頭を吹っ飛ばされて、無事でいられる人間は存在しない。すくなくとも、俺の知っている限りでは。
「…なんなんだよ」
せっかく、まともそうな身なりの人間に会えたと思った直後にこれか。
そしてそれは、奇しくも…敵の脅威に晒されながらも誰一人殺すことなくトラブルを凌いできた俺が、はじめて人を殺した瞬間だった。それも、おそらくは殺す必要のなかった相手。
そもそも、俺がなぜこんな目に遭っているのか。
見知らぬ女の死体を見下ろしながら、俺は三日前の出来事を反芻していた。
** ** ** **
親父が棚にしまっていた.45口径を手に、俺は通路を駆けていた。
「くそっ、なんで俺がこんな目に…!?」
大規模災害用の地下シェルター、Vault101。
グレート・ウォーと呼ばれた核戦争から二百年の歳月が経過し、当時この施設に逃れた人間の末裔が暮らすこの安息の地で俺は産まれ育った。少なくとも、親父からはそう聞かされていた。
Vault101は外界と交流することなく自立した生活が可能な環境であり、また後に聞いたところによると、どうもこの施設は外界と接触することなく血筋を…放射能やウィルスに汚染されることのない純粋な…残すことが目的だったらしい。
当時そんなことを知る由もなかった俺は十九歳になるまで、医師であった親父と施設で平和に暮らしていたのだ。
言っておくが、俺はその施設での生活にたいした不満はなかった。だが、出て行かざるを得なかった。
核戦争から二百年の間、決して開くことのなかった(と言われる)Vaultの隔壁を開け、親父が出ていったとき、俺の運命もまた変化を余儀なくされたのだ。
「ゲェアハハハハ、殺せ殺せぇッ!」
隔壁が開いた。
そのことがもたらした混乱は尋常ではなかった。
外界を放浪する無法者集団レイダーの侵入、放射能によって巨大化したローチの脅威、そして事態の収拾にあたり同胞への殺傷も辞さない監督官の狂的な指揮統制…すべてが悪いほうへ捻じれていくようだ。
「なんてことしてくれたんだよ、まったく、なんなんだよこれは」
俺にはなにも言わず出て行った親父に対する不信がなかったと言えば嘘になる。
しかし俺にとって親父は尊敬すべき立派な男であり、親父は決して無用な混乱を起こすためにこのような行動を取るような人間ではないことは、俺が一番よく知っていた。きっと、なにか重大な理由があったのだ。
親父の動機はさておくとして、もうこの施設に俺の居場所はない。
いままで肩を組んで仲良く…とまではいかなかったかもしれないが…一緒に暮らしていた仲間たちにとって、今の俺は「裏切り者の息子」…それ以外の何者でもない。
すでに親父の動向を巡って死者まで出ているのだ。俺がここに居て良い理由はなかった。
そしてまた一人、親父と、そして俺の行方を探るために監督官が一人の同胞を犠牲にかけようとしていた。
「…なんてこった、アマタ!」
BLAM!
「がっ…な、なにィィッ!?」
アマタ…監督官の娘に伸縮式の警棒を振るおうとするオフィサー・マックに、俺は咄嗟に部屋に飛び込んでからの銃撃を命中させる。
殺すつもりはないから、狙いは頭や胴体ではなく、脚だ。
膝を撃ち抜かれ立っていられなくなったオフィサー・マックが姿勢を崩す横を通り過ぎ、俺は監督官に向かって銃を突きつける。
「いいか監督官、彼女は…アマタは無関係だ!今度こんな真似してみろ、その脳味噌を吹き飛ばすぞ」
「フン、銃を手にしたら途端に勇ましくなったな小僧」
なにを隠そう、親父の失踪を俺に知らせてくれたのはアマタだった。
彼女は幼馴染で、といっても特別に仲が良かったわけではなく、まして恋心を抱いたことなんかカケラもないのだが、それでもただの年頃の娘が、こんな乱痴気騒ぎに巻き込まれていい理由はなかった。
「まだ若いな小僧、私は統治者としての責務を果たしているだけだ。規律を維持するために、それが必要であれば自分の娘でも処断せねばならんのだ!子供にはわからんだろうがな」
「いいやわかるさ、あんたがそうやって、もっともらしい言葉で自分自身を誤魔化してるってことは」
俺は銃を下ろし、監督官の部屋へと向かう。
アマタの言によれば…彼女は俺がVaultから脱出することを望んでいた…監督官のテーブルは端末からの操作で緊急用脱出路へ繋がるゲートになっているらしい。
監督官の執務室の扉をピッキングでこじ開け、制御用端末をハッキングしてゲートを開く。
あとはVaultの隔壁を操作し、地上へ出るだけだと思っていたが…
「た、たっ、助けてくれーっ!」
「小僧、貴様まだ居たのか!?」
あろうことか来た道を戻ってきた俺の醜態を目の前に、監督官とオフィサー・マックが目を丸くする。
しかしそれも、俺の背後に迫ってきた巨大なゴキブリ…ラッド・ローチの親玉、ローチ・クイーンを見るまでのことだった。
「Holy Shit!なんだありゃあ!?」
大声で叫ぶオフィサー・マック、一方で監督官はVault内製の10mmピストルを抜き…
BLAM、BLAM、BLAM、BLAM!
驚くべき速射でローチ・クイーンの頭部を撃ち抜き、息の根を止める。
「あ、あんた…銃、持ってたのか」
「残念だが弾切れだ。裏切り者の息子め、どこへなりと消えて失せるがいい。とっとと去れ、このヴォールトから」
あきからに残弾が装填されたままの拳銃を握り、監督官が言い放つ。
その真意を推し量ることはできなかったが、俺は彼の気が変わらないうちにふたたび緊急脱出路を通ってVaultの隔壁まで行くと、レバーを操作してその重い扉を開いた。
「あいつ、外へ出たぞ!」
「監督官命令で外までは追えん、くそっ、引き揚げだ!」
セキュリティ・ガードの追撃を逃れ、俺はVaultの隔壁の外へと躍り出る。
隔壁の前には、おそらく核戦争直後、このVaultへ遅すぎる避難にやって来た者たちの亡骸が、呪詛に満ちたプラカードとともに転がっていた。だが、そのことで感傷に浸る余裕はない。
** ** ** **
そう、そうして…混乱と混沌に呑まれるまま、俺は外界へと飛び出してきたのだ。
親父の行方?そんなのはどうだっていい、親父には親父なりの目的があって行動したのだろうから、それについて俺がとやかく言う理由はない。
ただ…自らが手にかけた女性の死体を見下ろし、俺は今後の身の振りに思いを煩わせる。
しかし改めて見てみると、この家は個人が生活するにはぴったりに感じられる。不快にならない程度には手入れが行き届いているし、俺を見たときの反応からして、普段から人の出入りがあったわけでもないのだろう。
そのとき俺は棚の上に置かれていた薬のアンプルを目にし、眉をひそめる。
サイコ…常習性のある、強力な麻薬だったはずだ。
「ヤク中か…」
それは俺が自分の殺人行為を正当化するには充分な判断材料だった。
シルバーという名前だったらしい、俺が殺した女の素性を知ったのは、墜落した航空機の廃材を利用して作られた街メガトンの酒場に立ち寄ったときだった。
「ビールは5キャップ、放射能入りじゃない水は30キャップだ」
愛想のないグールの店員にそう言われたとき、そういえばシルバーの「金は払わない」という台詞から貨幣制度は未だに生きていることはなんとなく知っていたが、通貨として使われているものが何であるかは知らなかった。
「…キャップ?」
「キャップ。金だ、こいつ。持ってないなら帰ってくれ、俺がモリアティに怒られる」
モリアティ…さきほど「スプリングベールにいるシルバーの糞尼から借金を取り立ててくれる便利屋はいないのか」とがなり立てていた男、どうやら店主らしい、そいつのほうをチラッと見ながら、ゴブという名のグールがコーラの瓶に使われていたキャップを数枚俺の前に出してみせた。
そいつに見覚えがあった俺は、なんとなく持ち歩いていた皮袋から同じキャップを数枚取り出してテーブルに並べる。
「5キャップ。ビールを、できるなら冷えてるヤツ」
「なんだ知ってるんじゃないか、キャップ。悪いが冷蔵庫の調子が悪くてね」
そう言って、生ぬるいビールの栓を開けるグールを余所に、俺はシルバーという女が持っていたこの皮袋を一瞥し、心の中で口笛を吹いた。
なんだ、このガラクタはただのコレクションだとばかり思っていたが…あの女、大層な金持ちだったんだな。
そのとき。
そのとき、俺はなんとなくこの世界での生き方を理解できたような気がした。
俺はさらに10枚のキャップを取り出すと、ゴブに向かって言った。
「なにか食えるものを。それと、このへんで仕事を探してるんだけど、なにかないかな?なるべく荒っぽいやつがいい」
そのとき、俺は口の端に笑みを浮かべていた。
もう殺人への罪悪感やショックはほとんど失せていた。
** ** ** **
それが、俺がこの世界で傭兵として生きる第一歩だった。
いまとなっては懐かしい思い出だ。
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