主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2013/05/17 (Fri)09:31
トラブルというのは、いつも向こうからやって来る。
ドレイクが自己嫌悪の酒に溺れているときでさえ、運命は彼を放ってはおかなかった。
「まさか、こんなところで会えるとはな…ファング」
<ファイブ・クロウ旅館>のカウンターで、本日何杯目かのウィスキーをストレートで呷っていたとき、ドレイクに話しかけたのは全身に黒装束を纏ったアルゴニアンの男だった。
アルコール濃度の高いげっぷを漏らしながら、ドレイクは男を素っ気無くあしらおうとする。
「そんなやつは知らん」
「ほう、そうかね?ブラックマーシュから脱出しさえすれば、我々は貴様のことを忘れるとでも思ったか?貴様はファングだ、匂いでわかる…アルコールで隠していてもな。血の匂いは、決して消せない」
「おまえ、酔ってるのか」
「なんとでも言うがいい。<シャドウスケイル>は、決して背教者を許さない…が、貴様にはチャンスをやろう」
そう言うと、男…<ダーク・ブラザーフッド>の暗殺者ティナーヴァは、フードの奥で凄みのある笑みを浮かべた。
「最近になって、シャドウスケイルの命に背きシルディールに逃亡した男がいる。スカー=テイル…そう、貴様の相棒だった男だ。貴様に見捨てられた男が、貴様と同じ道を辿るとは…たいした偶然だな、えぇ?」
「知らない名前だ」
「まだシラを切るつもりか。まあいい、スカー=テイルは現在ボグウォーター野営地にいる、ここから西へ向かった場所だ。ヤツを始末すれば、シロディールに居る限り貴様の追及は控えるとしよう」
「場所までわかっているなら、お前がやればいい」
「シャドウスケイルは、シャドウスケイルを殺さない。私は今でこそダーク・ブラザーフッドに身を置いているが、心はいつでも故郷ブラックマーシュにある。貴様なら…シャドウスケイルに背いた貴様なら、たとえ相手がシャドウスケイルでも…かつての相棒でも、殺すのに躊躇はなかろうよ。そうだろう、バックスタブ(背後から刺す者)=ファング」
「考えておく」
「なるべく早く結論を出すことだ。スカー=テイルは、いつまでも同じ場所にはいまい。もし奴が逃げたようなら、貴様は面倒なことになるぞ」
そういい残し、ティナーヴァは店から出ていった。
これらの会話を店主は聞いていたはずだが、特に動揺もしなければ、ドレイクを追求する気もないようだった。アルゴニアンは基本的に同族同士の問題には干渉しないものだ。法の尊守という概念も希薄だから、自分に不利益がない限りは無闇に衛兵に通報することもない。
そういう点では、カジートと似ているかもしれないな…おそらく同族に知れたら激怒されそうなことをチラリと考えながら、ドレイクは未開封のウィスキーのボトルを買い取ると、自らも店から出た。
すこし、酔いを醒ます必要があった。
** ** **
ローランド・ジェンセリックの一件のあと、ドレイクは自責の念から逃げるように帝都を飛び出し、シロディールの最南端にあるレーヤウィンまで来た。
もともと帝都には目的があって行ったのだが、それすら放り出しての衝動的な行動だった。
せめて、故郷に近い場所で頭を冷やしたい…そう思ってレーヤウィンまで来た結果、ドレイクは旅費を酒のために費やし、自堕落な日々を送っていたのだった。
しかし、そうした生活はティナーヴァの来訪により打ち切られることになった。
「…なんで、誰も俺のことを放っておいてくれないんだよ」
ファイブ・クロウ旅館の目の前にある教会の尖塔を見上げ、ドレイクは恨めしげに呟いた。
こんなときこそ神に祈りたかったが、神は決して俺を許さないだろう。
なら、堕ちるところまで堕ちるだけだ…ドレイクはウィスキーを一気に喇叭飲みすると、空になった瓶をその場に放り投げ、レーヤウィンの街を後にした。
** ** **
雨が多く、湿度の高い気候は外部の人間にしばしばレーヤウィンを「陰鬱な土地」と形容させる。
ぬかるんだ土を踏みつけ、雨の中を歩きながら、ドレイクはティナーヴァの言葉を反芻していた。
「シャドウスケイル…か」
永らく聞いていなかった名を、ドレイクは復唱する。
シャドウスケイルとは、アルゴニアンの住む土地ブラックマーシュに存在する、王国お抱えの暗殺組織だ。影座生まれのアルゴニアンは生まれた瞬間からシャドウスケイルの管理下に置かれ、暗殺者としての教育を受ける。
そして成人したときに、タムリエル全土に拠点を持つダーク・ブラザーフッドに派遣されるか、あるいはブラックマーシュに残り、シャドウスケイルとして国に尽くすかを選択するのだ。
どのみち、ブラックマーシュに影座として生まれた時点で、暗殺者になるという運命からは逃れられない。背教者には死を、それがシャドウスケイルの教義だからだ。
もとよりシャドウスケイルは暗殺だけではなく、戦闘のエキスパートでもある。そのためブラックマーシュには背教者を狩るための専門の部隊も存在する。通常は外部の人間に任せることはないが、ここはブラックマーシュではなくシロディールだから、まあ例外もあるんだろう。
** ** **
「よお旦那、あんたも殺し屋かい?」
ボグウォーター野営地に到着したとき、焚き火にあたっていたアルゴニアンの男が最初に吐いた台詞がそれだった。
「あんたも俺を殺しにきたのかい?まあ、そう急ぐこともあるまい…俺はどこへも逃げはしないよ。少なくとも、当面はな」
「死ぬのは怖くないか」
そのドレイクの台詞に思うところがあったのか、アルゴニアンの男…スカー=テイルが振り向く。
そして、その表情に驚きの色が浮かんだ。
「お、お前…ファングか!まさかこんなところで会えるとはなぁ、ハハッ!」
愉快そうに笑うと、スカー=テイルは腰を上げ、ドレイクの肩を親しげに叩いた。
「今じゃ、俺もすっかり背教者だよ。ついさっき王国から刺客が来たんだが、返り討ちにしてやったよ、そのへんに死体が転がってるはずさ。それとも、もう腐っちまったかな」
そう言って、スカー=テイルはさらに笑い声を上げた。
「ところでお前、恋人はどうした?あの美人さん、さ」
スカー=テイルの態度は、まさしく久方ぶりに会った親友に対してのものだった。
しかしドレイクは神妙な面持ちを崩さず、冷めた態度のままスカー=テイルの動向を見つめている。
やがて互いの態度のすれ違いに違和感を覚えたのか、スカー=テイルは笑うのをやめると、ドレイクに訊ねた。
「…ところでファング、お前、どうしてこんなところにいる?」
「武器を抜け」
スカー=テイルの手を振り払い、ドレイクが腰に携えていたアカヴィリ刀を抜き放つ。
ドレイクの威圧的な態度に気圧されたのか、スカー=テイルはおどけたような仕草をすると、両手を振った。
「おいおい。お前、俺が武器を持ってるように見えるってのか?」
本人が示唆する通り、スカー=テイルの服装は貧相で、腰に護身用のナイフすら下げていない。
ドレイクは貧乏な農民のような姿のスカー=テイルの格好を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「いや」
「だろうな」
そう言った次の瞬間、スカー=テイルの両手に長大な刃物が出現した。
彼の表情が一変し、冷たく鋭い目つきでドレイクを睨みつける。
「ファング…まさかお前が刺客に選ばれるとはな。俺を殺せば、過去の行為は水に流すとでも言われたか?」
「…ここから少し北へ移動したところに、ここよりは地面が平らな場所がある。そこで決着をつけたい」
「決着だと?お前らしくもない、背中を刺すのが十八番だったお前が、正々堂々と勝負を挑んでくるとはな。狂ってるぜ…世の中すっかりおかしくなっちまったようだな、俺とお前が殺し合うなんてな」
「返答は?」
「イエスさ。勿論な」
** ** **
ボグウォーター野営地から移動し、2人は決闘に最適と思える場所までやって来た。
互いに一定の距離を保ちながら、言葉を交わす。
「一度、お前とは本気でやり合いたかったぜ。で、開始の合図はどうする?」
「そんなものは必要ない。今この瞬間から、もう決闘は始まっている」
「そうかい」
武器を握りなおし、スカー=テイルが口元を歪めた。
どちらが、いつ手を出しても構わない…ドレイクはそう言ったのだが、しばらくは2人とも、その場から動こうとはしなかった。
やがて、痺れを切らしたスカー=テイルが地面を蹴る。
それと同時に、ドレイクもアカヴィリ刀を握りなおした。
光が一閃し、互いの武器が交錯する!
キイイィィィ…ィィィィンン……
硬質な金属音が、ドップラー効果をともなって森の中の虚空へと吸い込まれていく。
ドレイクはアカヴィリ刀を鞘に収めると、誰に言うでもなく呟いた。
「醒走奇梓薙陀一刀流奥技、來閃・弐式(ライセン・ニシキ)」
それは技が完成されたとき、決闘相手への手向けとして送られるもの…門外不出の秘伝の技の名を、冥土への土産として相手に持たせるための言葉だった。
スカー=テイルの胸元がばっくりと開き、鮮血が噴き出す。
「グッ…ア、ガアアアアッ!!」
ごぼっ、派手に吐血し、スカー=テイルはその場に倒れた。
ドレイクはスカー=テイルに近づき、その身体を抱き起こす。苦しそうに息を吐きながら、スカー=テイルは言った。
「醒走…一刀流…そうか、お前…ファングじゃないな?」
「あのバカが世話になったそうだな」
「ああ…あの野郎、ホンットに手間のかかるヤツでなぁ…あいつ、どうなった?」
「死んだよ」
「…そっか……」
そう言うと、スカー=テイルはそのまま瞳を閉じ、ドレイクの腕の中で息を引き取った。その表情は穏やかで、どこか満足そうでもあった。
ドレイクは近くに落ちていたスカー=テイルの武器を拾い、彼に持たせると、その場を後にした。
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