主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。
http://reverend.sessya.net/
2012/07/11 (Wed)11:28
「なあ、俺の感性が間違ってるからかもしれないから、ハッキリとは言えないんだが…あの王冠って当時流行のデザインだったのかな?」
「見た目に関してとやかく言うのは今更過ぎるぜ、爬虫類の旦那」
「…だよなぁ……」
クロードに諭されたドレイクは、平時のユンバカノのソフトクリームみたいな髪型を思い浮かべながら、なんともいえない表情でため息をついた。
ネナラタ遺跡内部。
アイレイドの王冠をかぶったユンバカノを先頭に、クロードをはじめユンバカノの部下たちがぞろぞろと後をついていく。ドレイクも彼等と行動を共にしながら、緊張のみなぎる面持ちで周囲を警戒していた。
「あいつら、手を出してこないのか…?」
「当たり前だ。主の末裔が帰還したのだからな」
ドレイクが口にした疑問に、ユンバカノがさも当然であるかのように答えた。
いま、一行の周囲には武装したスケルトンの集団が待機していた。攻撃の意思を見せるでもなく、ただじっとこちらの様子を窺っている…いや、「見守っている」と言ったほうが正しいのかもしれない。
いずれにせよ、召喚呪文を介さず存在するアンデッド・モンスターには通常有り得ない挙動を見せるスケルトン軍団に、ドレイクは薄気味の悪さを感じずにはいられなかった。
「なんだか。ねぇ…たしかに敵意はないのかもしれないけど、落ち着かないよ、あたしゃ」
ユンバカノの私兵である女戦士ウモグも、炎のエンチャントが施されたショートソードを手にそわそわした様子を見せる。
一方クロードと、ウモグと同じくユンバカノ邸の警備担当だったウシージャは、平然と歩を進めている。もっとも、ユンバカノほど堂々とした態度で悠然と歩いていたわけではなかったが。
可哀相なのは執事のジョルリングで、恐らくはこういう場所に来たことがなかったのだろう、遺跡に入ってからは終始怯えっぱなしである。
やがて一行が行き止まりにさしかかったころ、ユンバカノが壁のくぼみに石板をはめこんだ。それこそが、以前ドレイクがマラーダ遺跡で見つけたアノ石板だったのである。
『アヴ・オーリエルィ・タムリエル、デレヴォーイ・アン・アーペン・アラン・ターナバイ…』
古代アイレイド語によるものと思われる呪文をユンバカノがつぶやくと、石壁が轟音を立てながらせり上がり、一行の目の前に王の間が姿を現した。
「ネナラタよ、アイレイドよ、タムリエルよ!わたしは帰ってきた、帰ってきたぞ!」
玉座を目の当たりにしたユンバカノは、歓喜の声を上げる。
まるで自分自身がアイレイドの王になったかのような態度を見せるユンバカノに、他のメンバーは互いの顔を見合わせた。
怪訝な表情で見守られながらも、なおユンバカノは尊大な態度を崩さない。
「我こそはアイレイド最後の王、ネナラタ王なるぞ!であるからして、王に対しては供物を用意するのが慣例であるのは、そなたらもよく知っておろうな?」
口調まで変化したユンバカノを、一行は「可哀相なものを見る目」で見つめる。それにしてもこの男、ノリノリである…てなもんである。
しかしユンバカノの精神が本当に異常をきたしていると知るまでに、そう時間はかからなかった。
なぜなら、次の瞬間にはユンバカノが執事のジョルリングの心臓を素手でぶち抜いていたからである。
『王に…供物を……』
「そんな、御主人様。これは、いったい…?」
ジョルリングがか細い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
そのときはじめて、ドレイクたちはユンバカノの態度が芝居や演技ではないと気がついたのだった。
『アヴ・スーナ・タムリエル、アークタヴォイ・アン・アーペン・アラン・マラブーロ…』
「ユンバカノてめぇ、いったいなにを…ッ!」
呪文を唱え始めるユンバカノを、わけがわからないながらも止めようとするクロード。
しかし突如、王の間の四方に配置されていた闇のウェルキンド石が発光をはじめ、玉座の前に立つユンバカノに向けて一斉にエネルギー波を放つ。そのときの衝撃で、クロードは部屋の端へと吹き飛ばされてしまった。
「うおっ、まぶしっ!」
「冗談言ってる場合か!…いや、たいして冗談でもないか。くそっ、いったいなにが起きてやがる!?」
まるで目の前で落雷が発生したかのような眩しさに、その場にいた全員が怯む。
ただ1人、ユンバカノを除いて。
『ついに…ついに!復活を遂げることができたぞッ!我こそはネナラタの王なり、愚民どもよ!アレッシアなぞを崇拝する無知蒙昧なる輩どもよ!いまこそ我らが無念、晴らすときなるぞ!』
<ユンバカノだったもの>…王冠に宿っていた怨念がユンバカノの肉体を乗っ取り、さらにユンバカノの記憶や知識までもを吸収して現世に復活した<ネナラタの王>が、ときの声を上げた。
『同胞たちよ、我が声に応えよ!いまこそ憎き仇敵の子孫どもに復讐するときだ!』
「「「キシィェェエエエエエエ!!」」」
ユンバカノの声に呼応するかのように、いままで沈黙していたスケルトンの軍団が一斉に襲いかかってくる。
「おいおいおいおい、穏やかじゃねえな!?」
まさかの事態に、クロードが取り乱しながらも剣を抜く。
ウシージャとウモグも応戦しはじめるが、なにせ敵の数が多い。それ以上に、1体1体がかなりの強さを秘めている。
『ンフゥハハハハ、この者らはかつて王家直属の近衛兵団だったのだ。貴様らチンピラ傭兵どもにかなうかッ?』
「畜生、好き放題言いやがって…!」
毒づきながらも1体、また1体とスケルトンの首を刎ね飛ばしていくドレイク。しかし、その表情に余裕はない。
「こいつら、マラーダにいた連中とは格が違う!」
「ぐあっ!?」
ドレイクが台詞を言い終わらないうちに、スケルトンに囲まれたウシージャが串刺しにされ絶命する。続いて、ウモグもスケルトンの凶刃に倒れた。
「ちっくしょう、長い警備員生活で腕が鈍った、かね…?」
「なんてこった、しっかりしろ、おい!」
殺された2人の亡骸を見て、ドレイクが叫ぶ。
あっさりやられはしたが…この2人は決して弱いわけではない。ただ、状況と相手が悪かっただけだ。
スケルトン・ガーディアン。通常のスケルトンよりも上位の存在であるこのクリーチャーは、汎百の兵士であるなら1対1(サシ)でようやく勝てるか、というところだ。それが集団で襲撃してきたのだから、よほどの手練でなければひとたまりもないだろう。
「ずっと仕えてきた部下への退職金にしちゃ、随分と悪趣味じゃあないか、えぇ!?」
ユンバカノに向かってそう言ったとき…いや、言おうとしたとき、ドレイクはユンバカノの姿がないことに気がついた。ついでに、クロードの姿も。
「チィッ!」
群れてくるスケルトン・ガーディアンどもを薙ぎ払いながら、ドレイクは玉座の先へと続く回廊を突っ切る。
アイレイドの遺跡には例外なく、王族が容易く脱出できるよう細工された抜け道が用意されている。おそらくユンバカノはそこに向かったものと思われた。
「逃げるんじゃねぇ、この野郎!」
『逃げてなどはおらぬ。誘い込んだだけのことよ、この一本道ではな。逃げられんのは貴様のほうだ』
「ぐおあっ!?」
ドレイクが追いついたのと、ユンバカノがクロードに衝撃波を浴びせかけたのはほぼ同時だった。
「…… …… ……!?」
外傷1つ負わないまま、一見なにも問題がなさそうに見えるにも関わらず、その場に立ち尽くすクロードの様子を訝しむドレイク。
しかし次の瞬間、クロードは「ゴポッ」と音を立てて鼻と口から大量の血を吹き出し、昏倒した。
「クッ!」
ドレイクは顔をしかめ、そのままユンバカノに向かって居合いを仕掛ける。しかしユンバカノはドレイクに指一本触れることなく、掌をかざしただけでドレイクの肉体を宙転させ、壁に叩きつけた。
ガランと音を立て、アカヴィリ刀が石床に転がる。
「グハッ」
『畜生にしては良い業を持っておるではないか。しかし、それも所詮児戯よ』
そう言い放つと、ユンバカノは壁にもたれかかって目を白黒させるドレイクの首を掴み、万力のように締め上げる。ユンバカノが腕を持ち上げると、間もなくドレイクの両足が地面から離れた。
「ぐあ、がっ、…グゥ……ッ!」
『首の骨を折られたいか、それともこのまま窒息死がいいかな?それくらいは選ばせてやろう。選ぶ余裕があればな…ムッ!?』
余裕満面の笑みを浮かべていたユンバカノの表情に、緊張が走る。
ドレイクの視線が一瞬だけ、ユンバカノの背後に向けられたのだ。いまユンバカノの背後には、衝撃波を喰らって昏倒しているクロードがいる…はずだった。
たしかにクロードは倒れていた。わずかながらも意識を回復し、見慣れない刃物を手にしている状態ではあったが。ユンバカノは咄嗟にドレイクの首から手を離し、身構える。
『貴様ッ、しぶといやつめ』
「しぶといのが身上でな。こいつはテメーラみたいな半死人に効果てきめんの武器だ、ありがたく頂戴して地獄に落ちやがれ!」
半ばやけくそ気味にそう吐き捨てると、クロードは手にした武器を渾身の力でユンバカノに投げつける。だがユンバカノはそれを容易く避けた。
『つまらん。口上を述べる前に投げるべきだったな』
「ああ。アンタに当てる目的で投げるんだったらな」
『なんだと!』
クロードの意図に気づき、ユンバカノは狼狽する。
「シィアアッッッ!」
凄まじい勢いで投げつけられた白刃の剣を宙で掴み取ったドレイクは、間髪入れずにそれをユンバカノの心臓に突き立てた。
『き、貴ッ様あぁぁぁああああああ!!!』
「時代は変わったんだ。老害は大人しく寝てろ」
『貴様のような奴隷民族如きにィィィィッ…!!我が夢も、ここで潰えるというのか…っ!』
次第にユンバカノの身体から放たれる禍々しいオーラが消えていき、その瞳から狂気が失せると、ユンバカノは弱々しくその場に伏した。
『こんな…こん、な…これは、悪い、夢、なのか……?』
「そうとも。あの世で先祖に会ったら伝えておいてくれ、今度は良い夢を見ながら眠れ、とな。精神衛生上悪いことばっかり考えてると、今回みたいな碌でもないことが起きる」
『愚物が…』
最後の最後でネナラタ王としての顔を取り戻したユンバカノは、それだけ言うと、絶命した。
「壮大なタダ働きだったよなぁ、爬虫類の旦那よ」
「まったくだ。いつからアイレイドの亡霊に魅せられてたかは知らんが、こちらとしては大迷惑にもほどがある」
ユンバカノの死後、王族専用の逃亡路を使ってネナラタ遺跡から脱出したドレイクとクロードは、川を挟んだ向かい側にあるキャドリュー礼拝堂近くの岩陰で休んでいた。
結局、ユンバカノの呪文を喰らって死にかけていたクロードは応急処置を受けて一命を取り留め、ドレイクは改めて彼のゴキブリ並のしぶとさを認識させられることになったのである。常人なら死んでいてもおかしくないダメージのはずだったのだが、クロードはすでに歩き回れるほど回復していた。
「なんとも後味の悪い決着だったが、ようやく俺はユンバカノから解放されたわけだ…クロードよ、お前はこれからどうするんだ?」
「ん、まぁそうだな。ひとまず傭兵業はお休みにして、アンヴィルあたりに羽を伸ばしに行くとするかな」
「遠いな。そんな金がよくあるな、貯金か?」
「それもある。が、俺様はまだユンバカノから退職金を頂いてないからな」
「?」
ユンバカノはもう死んだだろう、そう言いかけるドレイクを制し、クロードはまさしくイタズラ坊主そのものといった「わるだくみの笑顔」を見せた。
「なぁ爬虫類の旦那よ。ユンバカノは死に、屋敷の警護も、執事さえいなくなったんだ。そして俺様はユンバカノの屋敷の鍵を持っている」
「うん?…あっ、お前まさか」
「とりあえず俺様は、『ユンバカノの命令で財産の一部を移送する』ことになるだろう。公にはな」
「まったく、なあ…悪いやつだよ、お前」
金目の物にあまり興味がないドレイクはそれほど熱心にユンバカノの邸宅内を観察していたわけではないが、それでも財産の一部を持ち出しただけで結構な額面になると想像することはできた。
ドレイクが内心で皮算用をする一方、クロードは背筋を伸ばすと、大きくため息をついた。
「ともあれ、先のことは先のことさ。いまはとりあえず休息を取りたい、あんたも異論はないよな?爬虫類の旦那」
「まったくだ。すっかり陽も傾いたし、今日のところはこの礼拝堂に泊めてもらうか。人を殺した手前、坊さんの世話になるのは気が引けるがな」
すっくと立ち上がり、足早に礼拝堂に向かうドレイク。取っ手に手をかけ、両開きの大扉を開けると…
礼拝堂の中から、凄まじい腐臭が溢れ出してきた。
あちこちに死体が散らばり、なにやら儀式めいた魔方陣やら紋様やらが所狭しと血で書き殴られている。そして2人の前で慌しく動き回る、髑髏のマークが刷られた漆黒のローブを身に纏う男女たち。
絶句するドレイクとクロードを見た彼等(あるいは、彼女等)は、しばらく硬直したのち、顔色を変えて武器を取り出しはじめた。
彼等はシロディールでもとりわけ悪質な犯罪者集団…死霊術師<ネクロマンサー>どもだった。彼等は魔術師協会や九大神を奉る教会勢力と敵対している。そのことを証明するかのように、目の前の死体はみな法衣を身につけている。
『クルエンツ、マラックス=マラナ!プラヤナヴィータ!(我々は血に飢えている、異教者を殺せ!皆殺しだ!』
ネクロマンサー達はカルト間でのみ通じる言葉を口々に叫びながら、2人に襲いかかってきた。
慌てて臨戦態勢に入るクロードとともに剣を抜きながら、ドレイクは一言、叫んだ。
「結局コレだよ!」
[ to be continued... ]
「見た目に関してとやかく言うのは今更過ぎるぜ、爬虫類の旦那」
「…だよなぁ……」
クロードに諭されたドレイクは、平時のユンバカノのソフトクリームみたいな髪型を思い浮かべながら、なんともいえない表情でため息をついた。
ネナラタ遺跡内部。
アイレイドの王冠をかぶったユンバカノを先頭に、クロードをはじめユンバカノの部下たちがぞろぞろと後をついていく。ドレイクも彼等と行動を共にしながら、緊張のみなぎる面持ちで周囲を警戒していた。
「あいつら、手を出してこないのか…?」
「当たり前だ。主の末裔が帰還したのだからな」
ドレイクが口にした疑問に、ユンバカノがさも当然であるかのように答えた。
いま、一行の周囲には武装したスケルトンの集団が待機していた。攻撃の意思を見せるでもなく、ただじっとこちらの様子を窺っている…いや、「見守っている」と言ったほうが正しいのかもしれない。
いずれにせよ、召喚呪文を介さず存在するアンデッド・モンスターには通常有り得ない挙動を見せるスケルトン軍団に、ドレイクは薄気味の悪さを感じずにはいられなかった。
「なんだか。ねぇ…たしかに敵意はないのかもしれないけど、落ち着かないよ、あたしゃ」
ユンバカノの私兵である女戦士ウモグも、炎のエンチャントが施されたショートソードを手にそわそわした様子を見せる。
一方クロードと、ウモグと同じくユンバカノ邸の警備担当だったウシージャは、平然と歩を進めている。もっとも、ユンバカノほど堂々とした態度で悠然と歩いていたわけではなかったが。
可哀相なのは執事のジョルリングで、恐らくはこういう場所に来たことがなかったのだろう、遺跡に入ってからは終始怯えっぱなしである。
やがて一行が行き止まりにさしかかったころ、ユンバカノが壁のくぼみに石板をはめこんだ。それこそが、以前ドレイクがマラーダ遺跡で見つけたアノ石板だったのである。
『アヴ・オーリエルィ・タムリエル、デレヴォーイ・アン・アーペン・アラン・ターナバイ…』
古代アイレイド語によるものと思われる呪文をユンバカノがつぶやくと、石壁が轟音を立てながらせり上がり、一行の目の前に王の間が姿を現した。
「ネナラタよ、アイレイドよ、タムリエルよ!わたしは帰ってきた、帰ってきたぞ!」
玉座を目の当たりにしたユンバカノは、歓喜の声を上げる。
まるで自分自身がアイレイドの王になったかのような態度を見せるユンバカノに、他のメンバーは互いの顔を見合わせた。
怪訝な表情で見守られながらも、なおユンバカノは尊大な態度を崩さない。
「我こそはアイレイド最後の王、ネナラタ王なるぞ!であるからして、王に対しては供物を用意するのが慣例であるのは、そなたらもよく知っておろうな?」
口調まで変化したユンバカノを、一行は「可哀相なものを見る目」で見つめる。それにしてもこの男、ノリノリである…てなもんである。
しかしユンバカノの精神が本当に異常をきたしていると知るまでに、そう時間はかからなかった。
なぜなら、次の瞬間にはユンバカノが執事のジョルリングの心臓を素手でぶち抜いていたからである。
『王に…供物を……』
「そんな、御主人様。これは、いったい…?」
ジョルリングがか細い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
そのときはじめて、ドレイクたちはユンバカノの態度が芝居や演技ではないと気がついたのだった。
『アヴ・スーナ・タムリエル、アークタヴォイ・アン・アーペン・アラン・マラブーロ…』
「ユンバカノてめぇ、いったいなにを…ッ!」
呪文を唱え始めるユンバカノを、わけがわからないながらも止めようとするクロード。
しかし突如、王の間の四方に配置されていた闇のウェルキンド石が発光をはじめ、玉座の前に立つユンバカノに向けて一斉にエネルギー波を放つ。そのときの衝撃で、クロードは部屋の端へと吹き飛ばされてしまった。
「うおっ、まぶしっ!」
「冗談言ってる場合か!…いや、たいして冗談でもないか。くそっ、いったいなにが起きてやがる!?」
まるで目の前で落雷が発生したかのような眩しさに、その場にいた全員が怯む。
ただ1人、ユンバカノを除いて。
『ついに…ついに!復活を遂げることができたぞッ!我こそはネナラタの王なり、愚民どもよ!アレッシアなぞを崇拝する無知蒙昧なる輩どもよ!いまこそ我らが無念、晴らすときなるぞ!』
<ユンバカノだったもの>…王冠に宿っていた怨念がユンバカノの肉体を乗っ取り、さらにユンバカノの記憶や知識までもを吸収して現世に復活した<ネナラタの王>が、ときの声を上げた。
『同胞たちよ、我が声に応えよ!いまこそ憎き仇敵の子孫どもに復讐するときだ!』
「「「キシィェェエエエエエエ!!」」」
ユンバカノの声に呼応するかのように、いままで沈黙していたスケルトンの軍団が一斉に襲いかかってくる。
「おいおいおいおい、穏やかじゃねえな!?」
まさかの事態に、クロードが取り乱しながらも剣を抜く。
ウシージャとウモグも応戦しはじめるが、なにせ敵の数が多い。それ以上に、1体1体がかなりの強さを秘めている。
『ンフゥハハハハ、この者らはかつて王家直属の近衛兵団だったのだ。貴様らチンピラ傭兵どもにかなうかッ?』
「畜生、好き放題言いやがって…!」
毒づきながらも1体、また1体とスケルトンの首を刎ね飛ばしていくドレイク。しかし、その表情に余裕はない。
「こいつら、マラーダにいた連中とは格が違う!」
「ぐあっ!?」
ドレイクが台詞を言い終わらないうちに、スケルトンに囲まれたウシージャが串刺しにされ絶命する。続いて、ウモグもスケルトンの凶刃に倒れた。
「ちっくしょう、長い警備員生活で腕が鈍った、かね…?」
「なんてこった、しっかりしろ、おい!」
殺された2人の亡骸を見て、ドレイクが叫ぶ。
あっさりやられはしたが…この2人は決して弱いわけではない。ただ、状況と相手が悪かっただけだ。
スケルトン・ガーディアン。通常のスケルトンよりも上位の存在であるこのクリーチャーは、汎百の兵士であるなら1対1(サシ)でようやく勝てるか、というところだ。それが集団で襲撃してきたのだから、よほどの手練でなければひとたまりもないだろう。
「ずっと仕えてきた部下への退職金にしちゃ、随分と悪趣味じゃあないか、えぇ!?」
ユンバカノに向かってそう言ったとき…いや、言おうとしたとき、ドレイクはユンバカノの姿がないことに気がついた。ついでに、クロードの姿も。
「チィッ!」
群れてくるスケルトン・ガーディアンどもを薙ぎ払いながら、ドレイクは玉座の先へと続く回廊を突っ切る。
アイレイドの遺跡には例外なく、王族が容易く脱出できるよう細工された抜け道が用意されている。おそらくユンバカノはそこに向かったものと思われた。
「逃げるんじゃねぇ、この野郎!」
『逃げてなどはおらぬ。誘い込んだだけのことよ、この一本道ではな。逃げられんのは貴様のほうだ』
「ぐおあっ!?」
ドレイクが追いついたのと、ユンバカノがクロードに衝撃波を浴びせかけたのはほぼ同時だった。
「…… …… ……!?」
外傷1つ負わないまま、一見なにも問題がなさそうに見えるにも関わらず、その場に立ち尽くすクロードの様子を訝しむドレイク。
しかし次の瞬間、クロードは「ゴポッ」と音を立てて鼻と口から大量の血を吹き出し、昏倒した。
「クッ!」
ドレイクは顔をしかめ、そのままユンバカノに向かって居合いを仕掛ける。しかしユンバカノはドレイクに指一本触れることなく、掌をかざしただけでドレイクの肉体を宙転させ、壁に叩きつけた。
ガランと音を立て、アカヴィリ刀が石床に転がる。
「グハッ」
『畜生にしては良い業を持っておるではないか。しかし、それも所詮児戯よ』
そう言い放つと、ユンバカノは壁にもたれかかって目を白黒させるドレイクの首を掴み、万力のように締め上げる。ユンバカノが腕を持ち上げると、間もなくドレイクの両足が地面から離れた。
「ぐあ、がっ、…グゥ……ッ!」
『首の骨を折られたいか、それともこのまま窒息死がいいかな?それくらいは選ばせてやろう。選ぶ余裕があればな…ムッ!?』
余裕満面の笑みを浮かべていたユンバカノの表情に、緊張が走る。
ドレイクの視線が一瞬だけ、ユンバカノの背後に向けられたのだ。いまユンバカノの背後には、衝撃波を喰らって昏倒しているクロードがいる…はずだった。
たしかにクロードは倒れていた。わずかながらも意識を回復し、見慣れない刃物を手にしている状態ではあったが。ユンバカノは咄嗟にドレイクの首から手を離し、身構える。
『貴様ッ、しぶといやつめ』
「しぶといのが身上でな。こいつはテメーラみたいな半死人に効果てきめんの武器だ、ありがたく頂戴して地獄に落ちやがれ!」
半ばやけくそ気味にそう吐き捨てると、クロードは手にした武器を渾身の力でユンバカノに投げつける。だがユンバカノはそれを容易く避けた。
『つまらん。口上を述べる前に投げるべきだったな』
「ああ。アンタに当てる目的で投げるんだったらな」
『なんだと!』
クロードの意図に気づき、ユンバカノは狼狽する。
「シィアアッッッ!」
凄まじい勢いで投げつけられた白刃の剣を宙で掴み取ったドレイクは、間髪入れずにそれをユンバカノの心臓に突き立てた。
『き、貴ッ様あぁぁぁああああああ!!!』
「時代は変わったんだ。老害は大人しく寝てろ」
『貴様のような奴隷民族如きにィィィィッ…!!我が夢も、ここで潰えるというのか…っ!』
次第にユンバカノの身体から放たれる禍々しいオーラが消えていき、その瞳から狂気が失せると、ユンバカノは弱々しくその場に伏した。
『こんな…こん、な…これは、悪い、夢、なのか……?』
「そうとも。あの世で先祖に会ったら伝えておいてくれ、今度は良い夢を見ながら眠れ、とな。精神衛生上悪いことばっかり考えてると、今回みたいな碌でもないことが起きる」
『愚物が…』
最後の最後でネナラタ王としての顔を取り戻したユンバカノは、それだけ言うと、絶命した。
「壮大なタダ働きだったよなぁ、爬虫類の旦那よ」
「まったくだ。いつからアイレイドの亡霊に魅せられてたかは知らんが、こちらとしては大迷惑にもほどがある」
ユンバカノの死後、王族専用の逃亡路を使ってネナラタ遺跡から脱出したドレイクとクロードは、川を挟んだ向かい側にあるキャドリュー礼拝堂近くの岩陰で休んでいた。
結局、ユンバカノの呪文を喰らって死にかけていたクロードは応急処置を受けて一命を取り留め、ドレイクは改めて彼のゴキブリ並のしぶとさを認識させられることになったのである。常人なら死んでいてもおかしくないダメージのはずだったのだが、クロードはすでに歩き回れるほど回復していた。
「なんとも後味の悪い決着だったが、ようやく俺はユンバカノから解放されたわけだ…クロードよ、お前はこれからどうするんだ?」
「ん、まぁそうだな。ひとまず傭兵業はお休みにして、アンヴィルあたりに羽を伸ばしに行くとするかな」
「遠いな。そんな金がよくあるな、貯金か?」
「それもある。が、俺様はまだユンバカノから退職金を頂いてないからな」
「?」
ユンバカノはもう死んだだろう、そう言いかけるドレイクを制し、クロードはまさしくイタズラ坊主そのものといった「わるだくみの笑顔」を見せた。
「なぁ爬虫類の旦那よ。ユンバカノは死に、屋敷の警護も、執事さえいなくなったんだ。そして俺様はユンバカノの屋敷の鍵を持っている」
「うん?…あっ、お前まさか」
「とりあえず俺様は、『ユンバカノの命令で財産の一部を移送する』ことになるだろう。公にはな」
「まったく、なあ…悪いやつだよ、お前」
金目の物にあまり興味がないドレイクはそれほど熱心にユンバカノの邸宅内を観察していたわけではないが、それでも財産の一部を持ち出しただけで結構な額面になると想像することはできた。
ドレイクが内心で皮算用をする一方、クロードは背筋を伸ばすと、大きくため息をついた。
「ともあれ、先のことは先のことさ。いまはとりあえず休息を取りたい、あんたも異論はないよな?爬虫類の旦那」
「まったくだ。すっかり陽も傾いたし、今日のところはこの礼拝堂に泊めてもらうか。人を殺した手前、坊さんの世話になるのは気が引けるがな」
すっくと立ち上がり、足早に礼拝堂に向かうドレイク。取っ手に手をかけ、両開きの大扉を開けると…
礼拝堂の中から、凄まじい腐臭が溢れ出してきた。
あちこちに死体が散らばり、なにやら儀式めいた魔方陣やら紋様やらが所狭しと血で書き殴られている。そして2人の前で慌しく動き回る、髑髏のマークが刷られた漆黒のローブを身に纏う男女たち。
絶句するドレイクとクロードを見た彼等(あるいは、彼女等)は、しばらく硬直したのち、顔色を変えて武器を取り出しはじめた。
彼等はシロディールでもとりわけ悪質な犯罪者集団…死霊術師<ネクロマンサー>どもだった。彼等は魔術師協会や九大神を奉る教会勢力と敵対している。そのことを証明するかのように、目の前の死体はみな法衣を身につけている。
『クルエンツ、マラックス=マラナ!プラヤナヴィータ!(我々は血に飢えている、異教者を殺せ!皆殺しだ!』
ネクロマンサー達はカルト間でのみ通じる言葉を口々に叫びながら、2人に襲いかかってきた。
慌てて臨戦態勢に入るクロードとともに剣を抜きながら、ドレイクは一言、叫んだ。
「結局コレだよ!」
[ to be continued... ]
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