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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
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2012/05/12 (Sat)13:56
「もし、そこな道行く羊さんよ。うぇいのん修道院というのはここで合ってるかの?」
「メ゛エ゛エェェェェェ…」



 オディール一家と別れ、コロールの宿で一晩過ごした翌日。
 コロールの衛兵から「ウェイノン修道院ならここを出てすぐだ」と教えてもらい、道を辿っている途中のことであった。
「…う~む、こういうふぁんたしぃな世界なら、羊が喋っても可笑しくないと思ったのだがのう」
「メ゛エ゛エェェェェェ…」
「えーと、お嬢ちゃん?こんなところで何をしているんだい?」
「んむ?」
 リアが糞真面目な顔で雌羊と対面していると、黒い肌をした男が声をかけてきた。
 エレノアを名乗るダークエルフ(または、ダンマー)は、ここウェイノン修道院で農夫として働いているらしい。
「ジョフリという人物に所用があるのだがな?」
「ああ、お遣いか何かかい?ジョフリ様なら、一日のほとんどを修道院で過ごしてるよ。寝てるか食事中でもなければ、本棚を引っかき回してるんじゃないかな」
「棚を回す?」
「…本を読んでるんじゃないかってことさ」
 自身の言葉に真顔で突っ込みを入れられたエレノアは、やや残念そうな顔でそう言った。
 心があるとはいえ、戦闘用アンドロイドとして造られたリアには比喩表現が通じにくい。もっともエレノアはたんに、リアが見た目通りに愚直なのだ(つまり、人生経験が極めて浅い子供である)と判断したのだろうが。
 まったく子供ってやつは、という侮蔑の念を隠そうともしないエレノアの視線を背に、リアは修道院の戸を叩いた。それほど間をおかずに、僧衣に身を包んだ青年が顔を覗かせる。
「おや、これは可愛らしいお嬢さんだ。このウェイノン修道院になにか御用かな?」
「ジョフリという男に用があっての。届け物じゃ…バウルスという男に頼まれたのだが」
「…バウルスから!?ち、ちょっと待っててください」
 リアがバウルスの名を口にした途端、若い修道士の表情が一変した。慌しく修道院の中に身を引き返し、何者かと言葉を交わすのが聞こえる。
 しばらくして若い修道士はふたたび姿を現すと、リアを建物の中へ案内した。



「君が、バウルスの遣いかね…?」
 ジョフリは老齢のわりに背筋がピシッと伸びており、その物腰や無駄のない所作からただの教会関係者ではないことを窺わせる。
 この動きは元軍人か何かかな、などとリアは思いながら、手にしていたトランクをデスクの上に載せて数枚の書類を取り出した。
「いかにも、これがバウルスから預かった書状じゃ。機密性が高いというのでな、安心せい、ワシは中身を見ておらん」
「それより、バウルスとはどうやって知り合ったのだ?彼は無事なのか?」
 やたらと心配そうな顔で話しかけてくるジョフリの態度が気になり、リアはふと机の上に置かれた新聞の文面に目を通した。皇帝暗殺と、それにまつわる各種論考が載せられている。
「じつは、ワシには記憶がなくての。気がついたら牢獄にいて、脱出しようとしたところ、怪しい集団に襲われていたバウルスに出っくわしたというところじゃ。そのへんの事情は文面に書かれておるはずじゃ、バウルス自身の言葉でな。ワシの言葉よりも信用できるじゃろ」
 あからさまに胡散臭そうな視線を向けてくるジョフリに、リアは特に気分を害するでもなくそう言った。
 書状を受け取ったジョフリは無言のまま、素早く書面に視線を走らせる。険しい表情のまま深くため息をつくと、顔を上げ、改めてリアに向き直った。
「この書状に書かれていることは、曰く信じ難い。しかしバウルスを信用する身としては、一言一句違わず信じるしかないのであろうな…」
 バウルスの用意した書状には、皇帝暗殺にまつわる一連の出来事、今後取るべき対応、そしてリアの素性に関する一部始終が書かれているはずだった。暗殺者を前に発揮した、リアの驚くべき戦闘能力に関しても。
「ワシ自身はここいらの世俗に関する知識がまったくあらなんだから、自分がどれほどの大事に関わっているのかいまいち把握ができん。できれば事情を説明してほしいのだが?」
「…君にすべてを話したいのは山々だが、それは君を危険に巻き込むことを意味する。いまさらと思うかもしれないが、わかってくれ。そうそう、今後行く宛てがないなら、ここを自由に使ってくれて構わないからね」
 あくまでも余所余所しい態度を崩さないジョフリに、リアは苦笑する。
「仕方がないのう。まあ、部外者にあれこれ大事を口にするわけにはいかんのじゃろ?それも、こんな子供に?ワシも身の程はわきまえてるゆえ、無用は詮索はせん。安心せい」
「すまないね。しかし君も、不思議な娘だな…」

「あっ」
 リアがジョフリの部屋から出ると、見覚えのある若い修道士とばったり出くわした。どうやら聞き耳を立てていたらしい。
「盗み聞きは関心せんぞ、小童」
「いやあ、はは。ジョフリ様は普段、僕らにあまり大事な話をしてくれないものですから」
「ワシにも大事な話はせんかったがな」
「そのようですね。僕は修道士パイネルといいます、よかったら少し外に出ませんか?話をしましょう」
 断る理由はないな、とリアは言葉を返し、パイネルとともに修道院の外へ出る。
 夕刻にさしかかり、空はすっかり赤みがかっていた。
「ジョフリ様は、本当に、貴女には何も話さなかったようですね。僕でよければ、知っている範囲で良ければ話をしますが」
「口の軽さと好奇心の強さは身を滅ぼすぞ。それに、ワシは別段気にしておらん」
「心外だなあ…好奇心が強いのは生まれつきだとしても、話をすべきだと思ったのは、バウルスを窮地から救った恩人に最低限報いるべきだと思ったからです」
 すこし語調を強め、パイネルはそう言った。
 まだ未熟っぽさの残る青年を、リアはチラリと見つめた…嘘はついていない。根っからの熱血漢といったところか、世の中に本当に“正義”なんてものがあると思い込んでいる種類の人間か。ちょっとだけバウルスと似ているな、などと思う。
「気遣いには感謝しよう。まあ、情報はあって損するものではなし、おぬしの気概に免じて、聞いてやらんでもないぞ?」
「すごい高飛車な態度だなあ」
 そう言ったあと、パイネルは笑った。つられて、リアも。
「ところで、あれはなんじゃ?」
「ああ、厩舎ですか。ここでは馬を何頭か飼っています、宜しければ乗ってみますか?」
「おお。何千年と生きてきたが、実のところ、馬に乗るのははじめてじゃ」
 厩舎まで来たリアは目を輝かせ、パイネルの手を借りながら鹿毛の馬の背に乗る。しかしリアが跨った途端に、それまで大人しかった馬が急に暴れはじめた。
 振り落とされまいと手綱を必死に掴むリアを見て、パイネルは顔を青くした。
「まさか、こんなはずは…普段は従順で大人しい馬のはずなのに!」
 しかしパイネルの言葉に反するかのように鹿毛馬は暴れ、足踏みし、身をよじった。まるでリアを背に乗せるのが苦痛であるかのように。
 そしてリアは、まぜ鹿毛馬がここまで自分のことを嫌うのか、その理由に気づいた。
 ひょっとして…「アンドロイドはとても重い」。



「うひょーーーーーっっっ」
 次の瞬間、鹿毛馬に吹っ飛ばされたリアは宙を飛んでいた。やがて木に激突し、決して細くない木の幹がメキメキと音を立てて折れ曲がり、倒れる。
 そのスペクタクルな光景を目にしたパイネルは絶句し、さらには特に怪我を負った様子もないリアを見て、思わずその場でアカトシュに祈りを捧げるのであった。



「つ、疲れた…」
 鋼鉄の肉体にあるまじき疲労を感じながら、リアはその日の晩をウェイノン修道院で過ごすことにした。
 ここで暮らしても構わない、というジョフリの提言は嬉しくもあったが、かといっていつまでも目的のないまま無為に時を過ごすわけにもいかない。
「そういえばオディールの親父が飲んだくれていた宿で、自分の偽者に迷惑している男がいたな。そいつの悩みを聞いてやるのも悪くないかもしれん」

 翌日コロールのグレイ・メア亭に向かったリアの目の前に、件の青年ではなく、見覚えのないハイエルフの女性が姿を見せた。
 若干当惑しながらも、リアは女性に声をかける。
「もし、いつもここでクダを巻いているレオナルド・ジェメーンという男を捜しているのだが。ご存知ないか?」
「彼ならいまここにはいないわ。それよりも貴女、帝都からはるばるお遣いに来たんですってね?実は貴女に、ちょっとした頼みがあるのだけど」
 そう言って、ハイエルフの女は不適な笑みを浮かべた。


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