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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
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2015/11/30 (Mon)18:29







「さてと、こんなものかしら?」


 額の汗を裾で拭い、漏水していた水道管の破損箇所を補修したカーチャは満足げにため息をつくと、バルブをレンチで「こつん」と軽く叩いてから、すっくと立ち上がって夕日を見つめた。
「うわ」
 背を伸ばしたとたんに足元がふらつき、その場に倒れかける。
 立ちくらみであった。
「いけない、軟弱になったかしら。それとも、アレのせいかなぁ…」
 そう言って、カーチャは街の中心部にどかりと鎮座する巨大な物体を横目で睨みつけた。
 核爆弾…旧世紀の遺物だ。そして、この街「メガトン」の名の由来でもある。
 メガトン。墜落した航空機の廃材で作られた街。
 おそらく、いや間違いなく墜落した航空機というのはスーパーフォートレス(大型爆撃機)だったのだろう。あの爆弾はそいつが腹の中に抱えていたもの、と考えれば辻褄が合う。
 とはいえ街の建設にあたって爆弾を中心にする思想は理解し難いものだが、たんに爆弾を解体して無力化する技術がなかったからとか、爆弾から離れた場所へ資材を運搬することができなかった、というのではなく、終末思想を持つ宗教の崇拝対象として祀られてる、というのはナンセンスなギャグ以外の何物でもなかった。
 この街の住民の全員がそうした思想に傾倒しているわけではないようだが、誰もが爆弾を無害なものとして扱っている現状について、カーチャは僅かばかり深刻に考えざるを得なかった。
 破損した水道管を修理するついでに爆弾を観察したのだが、ちょっと調べただけでも、あの爆弾はいつ活性化してもおかしくない状態だとカーチャは理解していた。
「(携帯用の小型核なら、まだ楽観視できるけど…あれだけ大きいと、仮にフィズフル不完全爆発で済んだとしても、この街を吹き飛ばすくらいの威力は充分にある)」
 たとえ核分裂反応が起きなかったとしても、起爆用の雷管と爆薬の威力だけでメガトンは灰燼に帰すだろう。そして、飛散した放射能は周囲一帯を死の大地へと変える。
 たぶん、街の住民が爆弾へネガティヴな感情を抱いてないのは、単純に知識不足からくるものだろう。
「いまはどうにもできないけど…そのうち、なにか考えておかないと」



 作業を終えたカーチャは、水処理場の前で一服している老人…メガトンの設備整備を一手に担っているウォルターのもとへ向かった。


「いいつけ通り、すべての漏水箇所の補修が完了いたしましたわ!」
「おや、思ったより早かったな。なかなか見込みがある、若いの…このトシになると、足場の悪い場所での作業が難しくていかん」
「この程度の仕事でしたら、お安い御用ですわ」
「ホホッ、頼もしいことだのう」
 相手が若い娘だからか、ウォルターは普段の気難しさがすっかり隠れた表情でキャップを一掴み、カーチャに手渡す。
 あのモリアティの紹介というから、どんな難物を押しつけられるかと思っていたが…とウォルターは内心で安堵していたが、もちろん、それをカーチャに言うほど迂闊な性格ではない。
「それで、今後についてだがな…じつはいまのところ、お嬢ちゃんに回してやれるような仕事は残っておらんのだ」
「あら、そうですの?」
「強いて言えば、補修の材料に使えそうな廃材を外から集めて欲しいんじゃが…さすがに、スカベンジャーの真似事はしたくないじゃろ?」
「外…外界、ですか…」
「まあ、人には向き、不向きがあるからの。いや、ああいった仕事を喜んでやるような連中もおるでな、ゴミ集めに妙な執念を燃やすような変わりモンがの。それに、キャラバンから買うより安く上がるというだけで、どうしても必要というわけではないからな」
 外が危険だから、というよりは、たんに地味で面白くない仕事に興味を持てない(カーチャは街の様子を観察しながら水道管を修理するより、何もない荒野で腰を曲げながらゴミを集めるほうが余程に絶え難い苦痛と考えていた)だけだったのだが、ウォルターはそのあたりをちゃんと察したらしい。
「そうじゃな、この街でちょいと変わった仕事が欲しければ、クレーターサイド雑貨店のモイラが人手を募っておったかな」
「雑貨店ですか?」
「ああ、なんでも本の執筆のために足を動かしてくれる人材を必要としておると聞いたが、ただ、な…」
「どうしたんですの?」
「その、モイラという娘はちと風変わりでな。ひょっとすると、難題を押しつけられて苦労するかもしれんが」
 なにやら眉をひそめて口を濁すウォルターに、まだモイラのことを知らないカーチャはただ首をかしげるしかできなかった。








「あ、アトムのちからを感じるっ!!」

 俺の名はクレイブ、ヴォールト脱走者だ。
 故郷を追われメガトンにたどり着いた俺は日銭を稼ぐため、モリアティという男の紹介でクレーターサイド雑貨店の女店主モイラのもとで働いていた。
 雑貨店の手伝いといっても、べつに売り子をやるわけじゃない。どうやらモイラはこの不毛の地ウェイストランドを生き抜くために必要な知識を集めたサバイバル教本を執筆したいらしく、文献から得た知識の裏づけや実地調査をするため俺のような風来坊を雇ったというわけだ。
 そして、俺が最初に任された仕事は…「致死量ギリギリの放射能を浴びてこい」というものだった……




「死ぬかと思った…」
「じっとして、いま放射能治療薬を注射してあげるからね」
 爆弾から放射能が漏出している水場に浸かってから、どれだけの時間が経っただろうか。
 こらえようのない吐き気に苛まれながら、俺は命からがらモイラの雑貨店へと戻ることができた。普通は死んでるような気もするが、すでに判断能力を失っていた俺はただモイラの施す治療を黙って受けるしかできなかった。
 なんか良性の遺伝子変異を確認したとかで、濃度の高い放射能を浴びると傷が治るようになったとかなんとか言ってた気もするが、たぶん与太だと思うので忘れることにしよう。
 こころなしか、最初は俺のことを厳しい目で見てたガードマンも哀れみの目で俺を見つめている気がする。たぶん気のせいだろう。
「なぁ、俺の身体光ってないか?アトムの輝きに満ちてないか?」
「大丈夫よ、あなたにはまだアトムの救済は訪れてないみたいね。それで、次の仕事なんだけど…」
「なんだ」
「ちょっと、重症を負ってきてもらえる?」
「…… …… ……」



「さーくりーふぁーいすとぅーばーいす、おーるだいばざはんどぶ♪」
 がくりとうつむきながら店を出た俺は、陰気に明るい声で歌をうたいはじめる。
「かーさーんがーゆー、こーゆーパーマはへんだと♪」
 ぽつり、ぽつりと歩き続け、街を見下ろせる足場で手すりを掴み…


「死のう!!」
 おもむろに、飛び降りた!


 メシャアッ。
 わざと受身も取らず、無様な姿を晒し地面にのびる。
「がっ…か、かはぁっ……」
 たぶん骨が何本か折れた。おそらく内臓と動脈も損傷してる。ていうか、首が変な角度で曲がったまま動かない。そして口と鼻から血がダボダボ出てる。
 …おとーさん。
 息子はいま、とっても元気です。







「モイラさん、話がある」
「なぁに?」
 数日後。
 奇跡的に傷が完治した俺は(モイラの腕がいいのか、俺が例外的にタフだったのかはわからないが)、他人にあれだけ酷い難題というかイヤガラセに近い仕事を押しつけておきながら、まったく目に曇りのない(恐ろしい女だ!)モイラに話を切り出した。
「いつまで、こんなこと続けなけりゃいけないんだ?」
「いつまでって、そりゃあ…あっ」
 なにごとかを言いかけ、モイラはハッとしたような表情で口をつぐむ。
 いつになく真剣な眼差しを向ける俺を見つめ、不意に悲しそうな表情を見せると、モイラはうつむき加減に言葉を続けた。
「やっぱり、あなたもそうなのね…?」
「そうって、なにが」
「こんなくだらない本のために命を賭けるなんて馬鹿げてるって思ってるんでしょう?無理もないわ…あなたに無茶な仕事をさせてしまったのは、本当に申し訳なく思ってるの。これ以上の無理強いはしないから、もしイヤだったら…」
「いや、そうじゃない。サバイバルガイドの有用性については、俺は疑ってない。それにあなたは約束はちゃんと守ってくれる人だ。放射能にやられたときも、高いところから落ちて死にかけたときも、あなたはちゃんと俺を治療してくれた。副作用やら何やら、そんなのは瑣末な問題だ。報酬もきちんと払ってくれる。ただ、俺がいいたいのは…」
 俺の言葉が予想外のものだったのか、驚いたような表情を見せるモイラ。
 すこしの間無言になり、本当にこれを言ったものか悩んでから、俺は「バン!」とカウンターを両手で叩くと、声を張り上げた。


「頼むから、自傷以外の仕事をくれよぉっ!!」
 泣きそうな顔で叫ぶ俺に、モイラはきょとんとした表情を見せる。
 仕事そのものがイヤなわけではない、俺の言葉はそう取れるものだった。そこからモイラが出せる結論は一つ。
「エート…プライドの問題?」
「うん」







 もう少しでいいからマシなのを、と哀願する俺が次に任された仕事は、メガトンから少し離れた場所…ポトマック河沿いに位置するスーパーマーケットの調査だった。
「スーパーマーケットって…いかにも物資が残っていそうな場所だけど、危なくないか?とっくに誰かが物資を持ち去ってたりとか、最悪、ギャングの溜まり場になってたりとか…」
「それを調べてほしいのよ」
「マジすか」




「あれか…」
 そしていま、俺の眼下に目的地…スーパーウルトラマーケットが見えていた。
「しかし、コレ…重いなぁ…」
 ヴォールトを出たときからずっと着用している服に括りつけられたハーネスやポーチ、継ぎ当てされた装甲。
 これは外界の危険を鑑みて、モイラが改造してくれたものだ。たしかに、防御性能皆無なジャンプスーツよりは信頼感がある。
 しかし、重い。そして、動きづらい。
 どうしても我慢できないほどではなかったが、それでも、なぜ戦前の軍隊が装備の軽量化に腐心していたのかを実感として理解できる程度には不快だった。
 まぁいい、ここで嘆いても仕方がない。
「行くか…」
 そうつぶやいて一歩足を踏み出した途端、スーパーマーケットのほうから銃声が聞こえてきた。
「うわ、行きたくねぇ」
 帰ろうかな。
 前へ踏み出した足をすぐさま180度ターンさせかけたが、なんとか踏みとどまり、痛みはじめた胃をおさえながら深呼吸を繰り返す。
 逃げるのは簡単だ。
 しかし同時に、「外でのちょっとした調査もできない人間」が街でどういう扱いを受けるか、その末路が決して明るいものではないことを予想するのもまた、簡単なことだった。
「…しゃーねぇ。行くっきゃねえ」
 幸い、先の仕事で痛みには慣れてきたところだ。
 それでもたっぷり二、三分は迷ってから、俺は意を決してスーパーマーケットへ向かう道を降りていった。




 それは、ヴォールトを出たばかりの俺にはあまりに奇異な光景に映った。
「…不良がゾンビと戦ってる?」
 柱の影から様子を窺っていた俺は、スーパーマーケット前での奇妙な銃撃戦を注意深く観察する。
 ゾンビたちは、ある者は助けを乞い、またある者は武器を手に果敢に戦い、それに対するは全身にタトゥーを施し世紀末ファッションに身を包むモヒカンどもだった。
 あのモヒカン…俺はヴォールトでの混乱の一部始終を思い出す。
 たしか、レイダーとか呼ばれる無法者の連中だ。
 盗み、殺し、生きるためならばどんな悪事にも手を染め、それどころか悪事を働くために生きる、現代の悪鬼。
「え、なに、これ、俺どっちを助けるべき?」
 状況を見れば…外見さえ気にしなければ、ゾンビたちは無法者に襲われる無辜の民…に見えなくも…いや、やっぱり、ちょっと無理があるな。
 両方殺す?
「でも俺、銃撃戦なんて経験ないしな…ええい、なるようになれ、だ!」
 俺はピップボーイを操作してV.A.T.S.を起動し、柱の影から腕を突き出して.45口径(フォーティ・ファイヴ)の銃口をモヒカン男に向け、連続して発砲する。
 ダンッ、ダンッ!
 スローモーションの世界で閃光とともに薬莢がはじき飛び、寸胴の低速重量弾頭が回転しながらモヒカン男の頭に飛び込んでいく一部始終を見届ける。
 ドン、ドカッ!
 左眼と頬骨を突き破った二発の銃弾はモヒカン男の頭部でひしゃげ、脳組織をグシャグシャに掻き回しながら、後頭部を引き裂いて飛び出した。
 血飛沫とともに変形した弾頭がふっとび、モヒカン男がどうと音を立てて倒れる。
 突然の加勢に驚いたゾンビたちは困惑しながら、警戒した様子で俺に銃口を向けてきた。
「アイムフレンドリィー!アイムフレンドリィー!」
 波風を立てないよう、俺はオーバーリアクションで両手を上げ、拳銃を握った手をヒラヒラと振ってみせる。
 あぶないタイミングではあった。もし、ゾンビたちの指がトリガーにかかっていたら…俺は撃つつもりだった。たしかに人間の意志が宿った彼らの目を見つめながら、俺は若干引きつった愛想笑いを浮かべる。
「エート、キミたちは、その…なんだ、こういう陳腐な言葉しか出てこないけど…悪気はないんだ、侮辱する気はないんだよ、本当に!でも、あーっと…ゾンビ、なのかい?」
「…まさか、グールを知らずに助けたのかい?」
 まるで奇跡でも目の当たりにしたような表情で、彼らの仲間の一人の女性がつぶやいた。


「世の中には、それこそあたしらをゾンビ呼ばわりして射的の的にする連中だって珍しくないんだ。だっていうのに、あたしらをゾンビとしか認識してない人間が加勢するなんて、どういう神の御業だね、これは?」
「えーと、ゾンビ…ではない?グールといったね?」
「ああ。放射能で醜く朽ちた肉袋のなれの果てさ…アンタ、本当に、なんであたしらを助けようなんて思ったんだい?」
「外見さえ気にしなければ悪人には見えなかったから。あと、俺一人で全員相手にするとか無理ゲーだから数が多いほうにゴマすっとこうかなと」
「馬鹿をお言いでないよ、まったく本当に…ちかごろのスムーズスキンは妙なやつが多いねぇ」
「スムー…ス、クリミナル?」
「パウ!そうじゃない。スムーズスキン(つるつる肌)、あんたみたいな生っちろい人間のことさ」
「いやー、俺、穴倉から出てきたばっかりだからさ。ウェイストランドのスラングには疎くて」
「それでそんな、背中にばかみたいな数字が書かれた服を着てんのかい?呆れたね…」
 グール、放射能によって突然変異した人間。
 崩れかけの肉体、腐臭、外観はまさしくホラー映画に登場するゾンビそのものだ。おまけに加齢による寿命がないという、頭が弱点なのは「人間とおなじ」だそうだが…
 見た目はともかく、中身は普通の人間と大差ないらしい、と聞き、そういえばメガトンの酒場の店員もグールだったな…などと、いまさらながら思い出す。
 なにせロクに口をきかなかったし、あのときは最初の殺人のショックでそれどころではなかった。
 どうやらこのグールの集団は「アンダーワールド」と呼ばれるグールの集落を目指して旅をしているらしい。場所については「恩人でもスムーズスキンには教えられない」と拒否されてしまった。まあ、べつに興味もなかったし、いいのだが。
 去り際に、女グールが最後のアドバイスを俺に授ける。
「あんたね、お人好しなのも結構だけど、フェラルには気をつけなよ。世の中にはね、撃っちゃいけないグールと、撃たなきゃいけないグールがいるんだからね」
「フェラル?」
「脳の髄まで腐っちまった、グールのさらに成れの果てさ。あれこそが本物のゾンビと呼ぶべきものさ、知性も理性もなんにもありゃあしない。いいかい、撃つ相手は慎重に選ぶんだよ。そんで、自分の身が危ないと思ったら、躊躇なく引き金をひきな」
「…やっぱり、あんたたち、助けてよかったよ」
「馬鹿だねぇ…」
 グールの女は照れ臭そうにそう言い捨てると、すでに出発していた仲間たちのあとに早足で追いつこうと行ってしまった。
 奇妙な出会いだ。だが、悪くない出会いだった。
「ま、問題は、俺の仕事はこれからってことなんだけどな…」
 俺は気乗りしない気分で天井を見上げ、「スーパーウルトラマーケット」の看板と、鎖で吊られた奇妙なオブジェクト…四肢をもがれた死体を見つめると、「ハァ」とため息をついた。








「外に出てるのが全員じゃないとは思ってたけど…やっぱりいるよなぁ~…」
 グール狩りに出ていた連中はまだ戻ってこないのか、とかなんとか言ってる、どう見てもレイダーにしか見えない連中を物陰から見つめ、俺は嘆息した。
 スーパーウルトラマーケットに侵入してから、まだそれほど時間は経っていない。
「モイラから依頼されたのはマーケット内部の様子と周囲の治安状況の確認、そして存在するなら、食料品と医薬品の確保…だったな。骨が折れそうだな…ていうか、ぶっちゃけ無理じゃね?」
 なんたってこちとらは、平和イズピースだったヴォールトから叩き出されて間もない世間知らずのお坊ちゃま君だぶぁい。
 核戦争後の厳しい環境に鍛えられ、弱肉強食の世界で今日まで生きてきた屈強な悪漢どもと戦って勝てる自信はあまりなかった。多少はあったが。V.A.T.S.あるし。でも無茶は禁物なのだぜー。痛いのヤダし。
『まさかグール相手にやられちまったんじゃねーだろうな?』
『え、マジ?バカじゃん』
『ゲハハハハハ』
 外に出ていた(そして今は死体になっている)仲間の話題でバカ笑いするレイダーたち。どうやら、仲間意識はあまりないようだ。あるいは仲間という概念が俺の思うところと少し違っているのかもしれない。
 なるべく、人殺しはしたくない…が、この期に及んで「それがレイダーであっても」などと言う気はなかった。
 レイダーっていうのは、俺が解釈するところ、和製ホラーに出てくる白塗りの殺人鬼みたいなものだ。そんな連中に遠慮や容赦をしていて、どうやってこの先ウェイストランドで生きていけるというのか。
 まぁ、下手をやらかせば今日ここで死ぬことになるだろうが…
「(…っとー、待てよ?別に今回の仕事に、レイダー退治は勘定に入っとらんよな?)」
 チャリーン。
 俺の頭の中の計算機が働き、勘定をはじき出す。
 よし、決めた。レイダーは無視する。んで、物資の在り処を探したらとっととズラかる。うん、そうしよう。俺かしこい。
 戦前のスーパーマーケットの構造は、ヴォールトのレクリエーション用フィルムでだいたい把握している。
 俺は足音を立てないよう静かに移動しながら、まず食品倉庫へと侵入した。
「意外に残ってるもんだなー。けっこう物持ちがいいんだな、あの連中」
 半永久的に稼動する核分裂バッテリーの恩恵で快調に動き続ける冷蔵庫から、俺は手当たり次第に戦前の食品パッケージを掴んでウェストポーチに突っ込んでいく。
「こんなことなら容量の大きいバックパックを持ってくるんだった…また来るのもイヤだしなぁ」
 そんなことを言いながら周囲を見回し、俺は独り言をブツブツとつぶやいた。
「護身用のレーザーピストルはあったが…どうやら医薬品が保管されてるのは別の場所らしいな。めんどくさいが、仕方ない。もうちょっと働くか」
 バッテリーと電子制御で動くレーザーピストルは破損していない完動品だったが、俺はこのテの光線銃はどうも好かない。まぁ、持ち帰ればモイラが買い取ってくれるだろう。
 レーザーピストルを雑に尻ポケットへ突っ込み、フォーティ・ファイヴを持ち直してから俺は倉庫を出た。
 おそらく、医薬品が保管されているのは反対側の控え室のほうだろう。
 冷蔵庫は稼動していたが店の電源システムは死んでいるらしく、照明器具が点灯する様子はない。好都合だ。
 闇から闇へ紛れ、着実に控え室へと近づいていた、そのとき…
 ガコッ。
「…… …… …ッ!!」
『おい、なんだいまの音は』
 やばい!
 最初はその音が、どこから、どうして鳴ったか俺も把握していなかった。
 なぜって、それは、普段の俺なら立てなかったはずの音だったからだ。
 改造スーツの…肩パッドが、棚にぶつかった音だった!
『さっきから、なんか妙な気配がするんだよな。ちょっと見に行くか』
「(くそっ、クソクソクソ、ちくしょう!)」
 着実にこちらへ近づいてくるレイダーの足音を聞きながら、俺の心の中は悪態で満たされていた。
 なんッだよコレ、全然役に立ってねーうえに動きにくくて邪魔なくせ、こんな落とし穴まであんのか!
 いままで肩パッドを装着して歩く習慣のなかった俺は、身の振りに、肩パッドの判定を考慮して壁に当てないよう歩くという概念がなかった。それゆえのミスだった。
 隠れてやり過ごせるか?いや、無理だ!
「(ちくしょう!)」
 憤慨するあまり頭が沸騰しそうになりながら、俺はスッと立ち上がると、狭い廊下を駆けて扉の前に立った。
 扉の向こうから、こちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。


 バンッ、ドカッ!ドカドカッ!
 俺は扉を蹴破ると同時にV.A.T.S.を作動させ、目の前でいままさに扉の取っ手に手をかけようとしていたモヒカン男の肩、次いで頭を撃ち抜く。
「新鮮な肉だァ!!」
 もう一人、脇に控えていたレイダーが中国の軍用ピストル山西十七式をかまえてニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
 冷酷な殺人鬼の笑み…そんな単語が俺の脳裏に浮かぶ。
 だけど、いや、だが、こんな連中に気合負けしてたまるか。こんな連中にぶっ殺されてたまるか!そんなもん、納得できるか!バカ!
「穴倉育ちナメんなクソがアァァァあああああっっ!!」
 恐怖を紛らわすため、わけのわからない叫び声を上げながら、俺は扉にもたれかかりながら銃口の向きを変え、レイダーの両乳首と喉を繋ぐ三角形の中心…スナイパー・トライアングルを照準線上に捉え、引き金をひいた。
 パンッ!
 ドカン、ドカンッ!
 初弾は相手のほうがわずかに早かった。だがすぐに、俺のダブルタップがレイダーのクリティカルな部位を射抜き、レイダーはおびただしい量の血を吐いて倒れた。
「ハァーッ…ハァーッ…ハァ、フゥーーーッッ……」
 荒い息をつき、額をつたう汗が流れるに任せるまま、俺は二つの死体を見下ろす。
 全身から汗が噴き出し、頭がガンガンする。俺は、人を…殺したんだ。
 だが、今回は罪悪感は欠片もなかった。死体を目の当たりにした生理的なショックはあったが、自分の行為に非があるというような気分にはならなかった。むしろ、達成感のほうが強かった。
「はぁっ…ははっ、やってやったぞ、ザマミロ。ちくしょうったれめ」
 そこまで言ったとき、俺は不意に脇腹に痛みをおぼえた。
 あ、なんだ、ちくしょう、俺、撃たれてるわ。
 さっきまではアドレナリンのせいで感覚がなかったが、徐々に痛みが強くなってきた。脂汗は緊張のせいだけではなかったってわけだ。
「そうだ、医薬品…」
 最初に殺したレイダーが握っていたライフルを反射的に手に取り、俺は医薬品が保管されているはずの控え室へと向かう。
 だが、控え室へと続く扉は鍵がかかっていた。
「クソッ!」
 ドガンッ、俺は力任せに扉を蹴り上げるが、当然、俺の足が痛くなる以外の効果はない。
「ピッキングなんてまどろっこしい真似してられるか、畜生…!」
 たったいま殺した連中のほかにも、まだレイダーが潜んでいる可能性があるのだ。そいつらが、さっきの銃声を聞きつけてここにやってくるとも限らないのだ。
 スピード、スピードだ…!
 周囲を見回し、弾薬箱や手榴弾、地雷、セキュリティ管理用のターミナルを発見する。
 俺は手榴弾を手に取ると、ピンを抜き、レバーが外れるのを確認してから、それを扉とドア枠の間に足で踏んで押し込み、物陰に隠れた。
 ドガンッ!!
 派手な爆発音とともに、扉が鈍い音を立てて開く。
 すぐさま部屋の中に侵入し、俺は壁にかけられた医療品箱を強引に開けると、中身をロクに確認せずポーチに放り込み、止血用の包帯とスティムパックを取り出してから、俺は大きく息を吐き出した。


 包帯を巻き、スティムパックを腹に突き刺す。たしかこの注射は麻酔、抗菌剤、増血剤、栄養強化剤がいっしょくたにぶち込まれたクソみたいな薬品だったはずだ。ヴォールトにも備蓄されていた。普段使いには向かないと、親父が言ってたっけな。
「よし、これですぐには死なないな…」
 応急処置を終えて精神的に余裕ができた俺は、さっきぶん捕ったライフルを検分する。
「サコーTRG22か。.308口径、弾は弾倉に装填されてるぶんだけか…ま、いいだろ。しかし、このテーブルの上に置いてあんのは…携帯型核弾頭か?なんでこんなものが…いや、レイダーの戦利品かな」
 そこまで言って、俺は明かりがついている保存用ポッドに気がついた。
 中に収容されているのは…ロボット?プロテクトロンとかいう、ロブコ製だったか?戦前の多機能モデルだ、人型…と言っていいのか…とにかく、電源は生きている。然るべき手順を踏めば、おそらくまだ稼動するだろう。
 だが、こいつをどうこうしている時間はない。いまこうしてモタモタしている間にだって…

『ヘーイ、パパのお帰りだぜ!キスで迎えてくれよな、ガッハハハハハ!』

 マーケットの入り口から、大声でわめく声が聞こえる。
 ちくしょう、施設内に残ってた連中だけじゃなくて、グールを撃ってた連中とは別に外出してたグループがいたのかよ!
「(どうする、どうする!?)」
 腹に傷を抱えたまま複数人を相手に戦うのは無理だ、さすがにやばい。いや、待て…
 俺はふたたび開きっぱなしの医療品箱を覗き、さっきは取らなかった手術用のチューブを取ると、携帯型核弾頭を掴み、そいつに手榴弾をくっつけてチューブでグルグル巻きにして固定した。
「キックオフの時間だ」
 控え室を出た俺は、ドカドカとやかましい足音を聞きつけられるのも構わず、入り口に向かって一目散に駆けていく。
『おいおい、ヴォールト坊や(ボーイ)のお出ましだぜ!』
『首ィ捻じ切ってオモチャにしてやる!等身大ボブルヘッドにしてやらぁ!』
 俺の存在に気づいたレイダーどもが、次々に銃弾を放ってくる。しかし所詮は暗闇の中、メクラ撃ちだ。ビビッたら負けだ!
 荒い息をつきながら、俺は携帯型核弾頭に括りつけた手榴弾のピンを抜き、レイダーどもに向かってブン投げた。
『逃げるんじゃーねぇ、このダサ坊!ぶっ殺してやる!』
「うるっせェ、死ぬのはテメェだ!」


 ズドーーーンッッ!!
 核爆発とともにレイダーどもが吹っ飛び、血と肉片が周囲に降り注ぐ。
『ぐはっ…!』
「言ったろ、死ぬのはテメェらだ。あと、その格好、死ぬほどダセェぞ!」
 悪態もそこそこに、実際余裕なんかカケラも残ってない俺は敵の生き残りを恐れてさっさと入り口から外へ飛び出し、後ろも振り返らずに全力疾走しながら、スーパーマーケットを離れた。







「ハァ~~~ッ、シチーボーイには刺激が強すぎるぜ、なんこの」
 ここまで逃げれば安全だろう、というところまで走ったところで、俺は膝をつき、数分間、ずっと荒い息を吐き出し続けた。ついでに、嘔吐も。ひょっとしたら脱糞もしたかわからんが、仕方ないだろう、そんなの。
「ウェイストランド人っていつもこんなストレンジでハードコアな日常送ってんのか?有り得ねぇだろ、ヴォールトの常識的に考えて」
 しかしだ…朦朧とした頭で考える。
 俺は、自分がこんな荒っぽくて残虐な性格だとは思ってなかった。
 極限状況下での緊張状態だからこそ成せた業か?それとも、抑圧された環境からの解放で心の内にあった残酷さが発露したとでもいうのだろうか?




「ま、いまはそんなこと、どうでもいいや。それより、早く治療してもらわないとな…」
 痛む脇腹を抱え、俺はようやくメガトンが見えてきたところで安堵のため息をつく。
 スティムパックはあくまで応急処置にすぎない。傷を治すためのものではない、だからこそ、できるだけ早く治療を受ける必要がある。
 だが、そのとき…

 パァーーー…………ン……

 乾いた銃声が残響をともなって空に響き、俺の心を動揺させる。
「…いまの銃声…メガトンのほうから聞こえなかったか…」

 トラブルは、人間の都合なんか考えない。





< ⇒Wait for feeding next bullet... >













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