主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2020/05/09 (Sat)01:56
「随分と遅かったじゃないか。盗みでも働いて捕まったのかと思ったぞ」
こっそりとビールを持ってきたナターシャへ、夜に出会ったときと変わらぬ様子でヤンが言った。一日中立っていたのだろうか?
村の外周でキノコ採集をしていたナターシャは、カーチャから報酬をもらったあと(50ルーブル。カーチャは村長への紹介状だけで充分だと考えていたようだが、先に妙な薬の実験台にされたこともあり、説得して幾らかの現金を用意してもらったのだ)、その金でビールを買いヤンのもとへ戻ったのだった。
自家製ではない、戦前の工場製ビールを一気に半分まで飲み干すと、ヤンは残りが入った瓶を後生大事に服の下へ隠した。
それを見たナターシャが、一言。
「大丈夫ですか、それ、バレませんか。こぼれたりしませんか?」
「他にいい場所もないしな。以前、犬小屋の中に隠してバレたことがある」
「なにしてんですか…たとえば他に、えーと、パンツの中とか?そこなら不自然に盛り上がってても疑われないというか、マグナム瓶ですし」
「これが俺のマグナムやー!って、なんでやねん!ビールなんか隠してへん、ちょっと勃ってるだけやーって言うんかい!アホか!」
「万が一こぼれても誤魔化せます」
「尿漏れかーい!それはそうと、タダで酒をもらうのは悪いな。これ、代金」
そう言って、ヤンは僅かばかりの現金をナターシャに手渡す。3ルーブル。酒場で買ったときは12ルーブルだった。これだけかーい!と突っ込むべきだろうか?
あるいは、地元住民には3ルーブルで売っているのかもしれなかった。自分が観光地価格で掴まされたのだと考えられなくもないし、それに、外界でのビールの値段の相場など知りようもない。
これに関しては、金のためではなく村の守衛の信頼を得るための先行投資と割り切るべきだろうな、とナターシャは判断した。
『ニュースとエンターテイメントで送る、チャンネル・ウェイストランド24時!放送はこちらクラスノズナメニー・シティからお送りしております!』
村長の住居は酒場の隣にあり、部屋の中央には散弾銃を抱えた護衛が立っていた。その背後には頑丈な造りの金庫が置かれており、おそらくはそこに保管されている村の税金を守っているのだろう。
年老いた護衛は一見すると立ったまま寝ているようでもあったが、ナターシャが入室したときに一瞬見せた鋭い眼光は、彼がただの老人ではないことを思わせる。
『最新のニュースです。ここしばらく続いている干ばつについてですが…農作物への被害は特に報告されておりません!収穫高は戦後最高を記録しており、ウェイストランドのみなさまにおかれましてはパニックなどを起こさないようお願いします!』
まるで人生に心配事など何もないかのようなキャスターの軽薄なトークがTVのスピーカから流れるなか、アームチェアに腰掛けた村長のコバレフが午睡に身を委ねていた。歳は60、いや70に近いだろうか。
村の住民から父のように慕われているコバレフは、戦後この地にオトラドノエを築いた入植者たちのリーダー的存在であった人物であり、まさしくオトラドノエの生みの親、オトラドノエの父と呼んでも過言ではない功労者である。
制服の種類に聡くないナターシャは、彼の身につけている立派な制服が軍の将官か、警察署長のものか、あるいは駅長のものなのか判別がつかなかった。いずれにせよ、それはコバレフが戦前から身につけているものであるのは確かなようだった。
『仕事がない、食べ物に困っている、そんなときはクラスノズナメニーへお越しください。きっとあなたに合った仕事を見つけることができます!』
話しかけようとした直後に目を醒ましたコバレフは、目の前の余所者を胡散臭い目つきで眺めたあと、TVのほうへ視線を向けた。その表情は変わることはなかった。彼にとって、ニュースはただのBGMとして以上の価値はないのだろう。その点についてはナターシャも同じ思いだった。
「あの、同志コバレフ。私は先日この村に辿り着いたばかりの旅人で、旅を続けるために、僅かばかりの現金を必要としています。村長のあなたに仕事を手配してもらえるよう、酒場のカーチャという女性から推薦状を預かっているのですが」
「カーチャが?」
見知らぬ輩の口から"同志"などという単語を聞いて余計に機嫌を悪くしたコバレフだったが、カーチャの名前が出た途端、その表情が和らいだ。
手渡されたメモを受け取り、目を細めて文字を追うコバレフ。
『専門家によると、しばしば目撃情報が寄せられる凶暴化した狼の群れ、巨大化したネズミなどの、いわゆるミュータントは実際には存在しないとのことです。これらについての噂は非常に誇張されたもので、人々を混乱に陥れるため反社会的勢力が意図的に流布したもの、つまり情報工作の疑いが持たれています』
「フム…カーチャは君のことを随分と高く評価しているようだ。彼女が言うなら…君は信頼に値するのだろう。私はこの村の長として、通常、余所者を簡単に信頼することはない。そのことを無礼とは思うまいね?」
「必要なことと理解します」
「宜しい。さて、君はギャングの存在が村を脅かしていることについて、すでに村の誰かから話を聞いているかね?」
「定期的に、えー、"保護料"の徴収に来ると」酒場のバーテンやヤンから聞いた話を思い出しながら、ナターシャは一つ一つ確かめるように言った。「反撃のためにクラスノズナメニーで傭兵を雇ったときは、ギャングの拠点に派遣した傭兵七人全員が死体になって村に送りつけられてきたと。そうした反抗の意志を見せたときは、より多くの保護料を徴収されたというような話を聞きました」
「そうか。私が想像していたよりも多くを聞いているな、口の軽い輩がいたものだ…そう、たったいま君が言ったことはすべて事実だ。そして、いま言ったようなことを、君自身はどう思っているかね?我々が雇ったのは、たんに自分を傭兵と呼ぶだけの口だけが達者な素人集団だと思ったかね?私はそうは思わない」
「と、言いますと」
「彼らは待ち伏せされたのだよ。準備万端整えたギャングどもに、まるで襲撃が予測されていたかのように。それだけではない、作物が豊作だったとき、キャラバンとの取引で普段より多くの利益が得られたとき、ギャングどもは決まって普段よりも多くの金を要求してきた」
「つまり、内通者がいる、と」
「そうだ。村人に情報提供者がいるのか…金で釣られたか、あるいは脅されたか…それとも、根っからギャングの仲間がスパイとして潜り込んでいるのか、そこまではわからん。しかし、何者かがギャングに情報を流しているのは確かなのだ。それが誰なのかを突き止めてもらいたい。必ず、村にネズミが潜んでいるはずなのだ!」
「…ネズミといえば……」
「心当たりがあるのか!?」
「酒場のバーテンって、どことなくハムスターに似てますよね」
「そういう話をしているんじゃない…!」
「あ、えっと、すいません。それで、突き止めた場合は」
「すぐに行動を起こさず、私に報告してほしい」
老齢ゆえにコバレフの話はいささか滑舌が悪く聞き取りにくいものだったが、話の内容自体は筋道が通ったものであり、また彼の計画は素人のその場の思いつきではなく、過去の経験から導き出されたものであることがわかる。
その話しぶりから、コバレフがギャングというものの性質についても正確に理解していることが窺えた。
軍人ではないな…ナターシャはコバレフの戦前の経歴について推察する。おそらくは警察官だろう。すくなくとも、鉄道員ではなさそうだ。
『クラスノズナメニー商工会議所は、ウェイストランドにおけるすべての犯罪行為の撲滅に成功したと発表しました!しかしながら、不要不急の外出は控え、見知らぬ訪問客をみだりに招き入れることのないよう注意してください。身を守るための武器を常に手の届く場所に保管しておきましょう。これは必要最低限の安全対策であり、いつの時代でも守られるべき社会的ルールであることを御理解願います』
「くだらん駄法螺だな」コバレフは髭を撫でながら、これ以上ない軽蔑の眼差しをTVに向けた。「スターリン時代にTVが普及していても、これほど酷い内容にはならなかったろう」
それ自体には肯定も否定もできかねるが、とナターシャは頭を悩ませた。報道内容がいい加減なのは確かだった。
「ウォッカを持ってきたか?戦前のだぞ…瓶だけが立派でも、中身が詰め替えてあったら、俺はすぐにわかるからな。どこの誰が作ったかもわからん、得体の知れない密造酒なんぞ、飲めたもんじゃない」
「それを聞いて安心しました。これが偽物ではないことを、きちんと御理解頂けるはずですから」
ブーニーハットをかぶった、ウルヴァリンみたいな見た目のあまり愛想のよくない釣り師に、ナターシャは酒場で購入したプレウォー・メイドのウォッカを手渡した。
コバレフ曰く、内通者の疑いがあるのは村とあまり親密ではないはぐれ者か新参者のどちらかだろう、という話だった。古くから村を知る者にとって裏切りの代償はあまりに大き過ぎ、また顔馴染みの犯行であった場合、態度の変化でとうに気づいたはずだ、と。
それを老人の自意識過剰と笑うのは簡単だが、ベテランの言葉には耳を傾けるべきだ、というのがナターシャの軍人としての判断だった。
そこまで気づいていながら今まで内通者の調査を行ってこなかったのは、そうした任務に適した人材が村にいなかったこと、老齢のコバレフが村のすべてに注意を払うのが無理になっていたことが挙げられる。たとえ怪しい新入りが何食わぬ顔で村に出入りしていたとしても、自分がそれに気づいていない可能性はある、とコバレフは悔いの滲む表情で語った。
また調査において、"村人に無闇やたらに話を聞いて回る好奇心旺盛な余所者"という役をナターシャが演じれることが重要な点でもあった。同じことを村人の誰かがやったとすれば、それが内通者の調査であることをすぐに看破される恐れがあった。
そんなわけで、ナターシャはまず村の外周で生活しているはぐれ者を調べることにしたのだ。
池、というよりは沼に近い水溜りで釣りをしている男に近づいたとき、はじめは強盗を警戒されたものだが、話をするかわりに要求された戦前のウォッカを提供してからは、その態度も幾らか軟化した。
「ときおり釣った魚を持って村へ行き、パンや肉と交換することもある。だが、あの村に住もうなんて気は起きないな。俺に言わせれば、あの連中は屠殺されるのを待つ家畜も同然だ。そういう集団の中に自分の身を置こうなんて思わないな。そもそも、俺は群れるのが好きじゃなくてね」ウォッカを口にしつつ、釣り師はそう語った。
戦前は平凡なタクシードライバーであったという釣り師は、核戦争後に身の回りのものをまとめ、街を出て森で生活することを一番に目指したという。不幸なことに、彼の妻はその意見に賛同せず、街に残ったあと腸チフスの流行で命を落としたということだった。「思えば、飢えや強盗、あるいはミュータントに襲われるなんていう、ウェイストランドにありがちな死を迎えなかったのは、あの女にとっては幸運だったのだろうよ」そう語る釣り師の表情は、口調とは裏腹にひどく物悲しそうであった。
またコバレフについては、「正直、俺はあの村長のことがあまり好きじゃない」と語った。「戦前の流儀と権威にすがる、哀れな老人さ。ギャングにいじり回されて、そのうち村とともに滅びるだろうよ。そうなったら、俺も河岸(かし)の変えどきだな」
その後ナターシャはウォッカへの謝礼として、釣りのテクニックや、昆虫から釣り餌となる部位を摘出する方法を教わった。
彼は内通者だろうか?なんとも言えなかった。
孤独な釣り師が村の存亡を箸にもかけないであろうことは確かだったが、しかし彼は村人に対する侮蔑の感情を、ギャングに対しても同様に抱いているに違いない。
(釣り師に戦前の酒を渡すことで、釣りスポットでのフィッシングが可能になり、また昆虫系のクリーチャーの死体から釣り餌となるパーツが採取可能になる"Entomologist"のDistinctionを獲得できる。摘出した昆虫の部位は軽量なうえ売値もそこそこ高いため、釣りをしなくても金策として有用である)
(この釣り師は日中にしか出現しないため、初日の夜間に到着して早々にクエストや探索を済ませるような気の早いプレイヤーは見過ごす可能性が高い)
「一対のサイコロがあれば、簡単な賭け事で遊べるんだがのう。村ではあらゆる種類のギャンブルが禁止されておるが、さすがにこんな場所にまで目を光らせてはおらんよ」
また別の場所で、ナターシャはキャンプを張っている老人を発見した。
戦前は民間のヘリパイロットで、山の中で暮らす人々の集落に食料や医療品を運んでいたという。
「彼らが今でも無事でおるのか、わしにはわからんが。元気にしているといいがなあ」
老人は釣り師ほど露骨に村人を避けているわけではなかったが、それでも集団でいるより、一人で生活するほうを好んでいるようだった。
また彼が一人でいるのは、ギャングの襲撃を避けるためでもあるようだった。村の外周には変異した蟻や蜂、蜘蛛やネズミなどが徘徊しており、それらを排除してまで貧乏な老人一人から金を取り立てるほどギャングも暇ではない、ということらしい。
たとえばそれが、内通者と接触するためなら…その可能性はあるだろうか?
(ここでは焚き火で調理が行えるほか、サイコロを所持している場合は老人と現金を賭けたギャンブルを行うことができる。金策に適しているとは言い難いが、勝利することで経験値が得られることを覚えておいて損はないだろう)
「俺は狩猟家だ。新鮮な空気を吸いながら、愛用のライフルを手に草原を駆ける。ロマンチックな夜のキャンプファイヤー…えぇ、この生活を気に入らない理由があるだろうかね?」
先に会った二人の正体を疑うことなく、答えはナターシャの目の前に現れた。
他に村を離れて暮らしている者がいないかどうか、村の有力者であれば把握しているだろうとけちな監督官に会いに行ったとき、ナターシャは部屋の隅でダイスを弄んでいる鋭い目つきの男を見た。
陰険な顔つきだ、というのが第一印象だった。逞しい身体つきは重い荷物を背負って山野を駆けたり、ライフルで撃った鹿や熊を担いで身につけたものではなく、刑務所で鍛えたもののように見えた。ハンティングをやるにはあまりに威嚇的で、殺気が強過ぎた。
男が身につけている凶器にも目が留まった。それは手製の粗末なナイフで、先を尖らせた"それ"は斬るのではなく、突くことに特化しているようだ。動物を殺したり、皮を剥いだりするにはおよそ向かない形状で、せいぜい人間の急所を突く程度の役にしか立たない。狩猟家の持つような道具ではなかった。
軍に入隊する前、ナターシャはこの男に似た雰囲気を持つチンピラを大勢見てきた。同じ匂いがした。狩猟家と見紛うはずもなかった。
ハンティングのために村を離れる、というのは、ギャングが村を襲うときに席を外すための格好の口実だろう。
余計な世間話で探りを入れてもいいが…ナターシャは口を開いた。
「私は村長のコバレフ氏に依頼されて、ギャングに村の情報を流している内通者を探しているんですが…」
その話題を口に出した途端、男…グリシュカの目つきがさらに鋭さを増した。
「まさか俺を疑ってるんじゃないよな?」
ナターシャはすぐには答えなかった。グリシュカの目をじっと見つめ、笑みを浮かべる。
恐れるどころか、どこか挑発的な表情を見せるナターシャに、グリシュカは低く唸るように言った。
「なにをジロジロ見てやがる?」
「私はお金を必要としています。この仕事を引き受けたのも、そのためです。しかし、私はフライヤー(遵法主義者)というわけではありません。わかります、私の言うこと?」
「…… …… ……」
「私は居場所を探しているんです。自分が昔、所属していたような…それは、ペトフ・ウーファ・ムジーク(無力なケツ穴奴隷の糞ホモ野郎)が集って暮らしてるような畜舎ではなく、本物のアカデミーです。よりよい人生を送るために、わかりますか?私の言ってること?」
「つまり…お前は、俺たちの仲間になりたいと言ってるのか?」
「俺たち?」
しまった、とグリシュカは口を塞いだが、親密そうな態度を崩さないナターシャを見て、ばつが悪そうに咳払いした。
周囲を見回し…この会話を誰も聞いていないことを確認すると、グリシュカは観念したように言った。
「わかった、わかったよ。お前の言う通りだ。だがな、俺をストカーチ(タレ込み屋)だなんて呼ぶなよな。言うなれば、俺はアゲント・ヴニドレーニャ(潜入工作員)ってやつだ。芸術的仕事人てヤツだな。で、お前は俺たちの仲間になりたいってんだな?」
「長期的に見れば、そのほうが賢い選択ではないですか?あなたをコバレフに売って小銭を稼ぐよりも」
「コバレフは俺を疑っているのか?」
「ええ」ナターシャは嘘をついた。「しかし私があなたの潔白を主張すれば、あの老いぼれは信じるでしょう。このさい、内通者の嫌疑は村の外にいる釣り師か乞食に被ってもらうとして」
「そして、連中が再び俺の正体を疑う前に姿を消すってわけか。ハンティングに行ったまま帰ってこなかった行方不明者として…熊か何かに襲われたと思われて。案外、そうなれば連中は永遠に俺の正体に気づかないままかもしれねぇな」
「すぐに村を出ると疑われます。これから私はコバレフに報告に行くので、そのあと、あの老いぼれがどう行動するのかをあなたに伝えに来ます。そしたら…私を、仲間たちのところへ連れていってくれますよね?」
「いいだろう、一日か二日ここで待つ。だが、それ以上の長居をしていると思うなよ」
それで結構、と言い、ナターシャは建物を出た。
私の言うこと、わかりますか…再三繰り返したナターシャのこの言葉は、戦前に犯罪者たちの間で使われていたスラングを用いたことに対するグリシュカの反応を窺うものだった。
それはグリシュカの信用を得るためというより、核戦争から20年近く経ったいまでもこういった言葉が使われているのか、という疑問を確かめるためでもあったが、どうやらクソ野郎どもはご丁寧にも、自分たちのために誂えた暗号符丁を連綿と受け継いだらしかった。
(Ratの名前は英訳だとGrishkaとGrishaが半々の割合で混在しているが、IDではGrishkaと記載されていること、原語版ではГришка=Grishkaで統一されていることから、本プレイ記ではグリシュカとした。もっとも、こうした表記揺れは後のパッチで修正される可能性はある)
(Kovalevの家で発見できる、読むことで"Streetwise"のDistinctionを獲得できる本"Short dictionary of criminal slang"は原語版と英訳版で内容が大きく異なり、英訳版では多くの単語が英語圏で使われているスラングに置き換えられている。両者を比較してみるのも面白いだろう)
「グリシュカ!なんてことだ、確かにヤツよりも怪しい人物は他にいないだろう!私は見誤っていたのだ、てっきり善良な村人の誰かが無理矢理に脅されて行っているものとばかり考えていた。そのせいで目が曇ってしまったのだ、そうでなければ…いや、私がもう少し若ければ、こんな失態を犯さずに済んだだろうに!」
ナターシャから報告を受けたコバレフは、怒りと恥辱に肩を震わせた。
当たり前のことだが、ナターシャがグリシュカに対して提案したことはすべてデタラメであり、ギャングの仲間入りをしようなどとは彼女にとって選択肢のリストの中に入ってすらいない。
村に貢献するための善意がそうさせたというより、ナターシャにとって犯罪グループに加わっていたという過去は、思い出したくもない過去だったからだ。
コバレフはナターシャに報酬の250ルーブルを支払ったあとも、思い詰めたような表情を崩さなかった。
「とにかく、グリシュカに対しては何らかの処分を行わなければなるまい。これ以上、ギャングどもに協力できないよう…毅然とした態度で挑まねばなるまいな。そう、ヤンか、ピーターか…誰かを伴って」
「私が一人で対処するというのは」
それはコバレフにとっては予想の範疇の言葉であり、逆に、ナターシャにとっては予想外の言葉であった(自分自身の発言であるにも関わらず、彼女はそんな言葉が自分の口から飛び出してきたことに、自分自身で驚いていた)。
「報告した通り、私はギャングの仲間になりたいという嘘で彼に取り入りました。まだ彼は私を信用しているはずです…本当に一度でも私を信用したなら、ですけど。村の誰かが銃を持って近づくより、私が一人で接触したほうが確実に問題を対処できると思います」
「なるほど。それで、どうするつもりかね?白昼堂々彼を暗殺するかね?いや、それはまずい。彼を内通者として処刑したことを、村の人間に知らせる必要はない。無駄に疑心暗鬼と不安を煽るような真似をしてほしくない」
「なにか対案が?」
「村の南東に廃屋がある。そこへ誘き出すのが一番だろう、村の皆には…彼がハンティングへ向かったまま、戻ってこないとでも言っておこうじゃないか。とにかく、村の長が自らの一存で余所者を使い、疑わしき者を処刑したなどというのは、権威の濫用であり、本来あってはならないことだ」
皮肉にもコバレフが語った内容は、グリシュカが村を出るために用意した言い訳と一致するものだった。もちろん、そのことはグリシュカにとっての慰めにはならないだろうが。
「戦前、私は刑事でね。いまでこそ村の長に…どういうわけか…落ち着いてはいるが、かつての刑事としての私の基準に沿って評価するなら、こういうやり方は愚劣の極みと言うほかない。腐敗とさえ言える。しかし、村を守るためなら、その腐敗に手を染める必要もあるというわけだ。ときにはな」
そう言って、コバレフは自虐的な笑みを浮かべた。
しかしナターシャにとっては、今回の件はそうした自己憐憫とは無縁だった。
仲間を守るための殺人を腐敗と言うなら、ナターシャがかつて戦場で経験したことは人間の尊厳と神の愛に対する冒涜以外の何物でもなかった。
[次回へつづく]
どうも、グレアムです。本当はもう少し先まで進める予定だったんですが、思っていたより文章量が多くなってしまったので次回に持ち越しです。
ちなみにGrishkaを殺さずに逃がした場合はOtradnoyeでのギャング絡みのクエストラインがストップしてしまいますが、Grishkaがギャングの拠点であるAbandoned Factoryに帰ったあとで派生するクエストが存在するようなので、このあたりはなかなか凝った作りになっているんじゃないかと思います。
あとは本文で触れなかった要素として、シャベルを持った状態で墓を掘るとアイテムが取得できるとかいうのもあるんですが、終末世界とはいえ墓荒らしはRP的にまずいので触れませんでした。実際のゲームプレイでも墓は放置してあります。万が一、あとで墓地の画面写真を撮る必要に迫られたとき、墓が掘り返されていたらバツが悪いなんてもんじゃありませんので(笑)
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