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主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。 生温い目で見て頂けると幸いです、ホームページもあるよ。 http://reverend.sessya.net/
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2020/05/18 (Mon)02:10


 
 
 
 
 

 

ATOM RPG Replay

【 Twenty Years In One Gasp 】

Part.8

*本プレイ記には若干の創作や脚色が含まれます。
 
 
 

 
 
 
「…マジですか」
 オトラドノエのトレーダー、ヤシンのもとで銃を受け取ったナターシャは、唖然とした声をあげた。
 
 
 
 
 
 
 スパイとしてギャング団に潜入するという今回の仕事の危険性を鑑みて、コバレフがナターシャのために拳銃を一挺、無料で手配することを約束してくれたのだが…
 村のトレーダーであるヤシンから渡されたのは、まるで昨日土から掘り返してきたような、錆だらけのナガン・リボルバーだった。発砲したら弾だけでなく銃身まで吹っ飛んでいくんじゃないだろうか。トリガーガードが半分ほど欠けており、こうした加工はギャングお気に入りの改造の一つだったが、このナガンに限っては経年劣化で破損したようにしか見えなかった。
 本来は専用の7.62×38mmR弾を使用するはずだが、このナガンはトカレフ用の7.62x25mm弾を用いるようだ。ますますもって気に入らなかった。もしナガンが7.62x25mmをまともに撃てる構造なら、少なくとも銃の製造期間が半世紀は延びていただろう。
 まるっきりヤクザの鉄砲玉扱いだ、やめようかな…そんな考えが一瞬脳をよぎったが、一度引き受けると口にした手前、それを反故にするのも憚られる。
 せめて防具、簡単なプロテクター程度は身につけておく必要があるかと考えたが、生憎、いまは在庫に扱いがないとヤシンは首を横に降った。銃火器もこの古代のナガンより優れたものはなさそうで、どうやら嫌がらせではなく本当に現在用意できるなかで最もマシな商品をナターシャに提供したらしかった。
 これでは金を稼いだ意味がないな、とナターシャはため息をつく。本当はもっと丁寧な準備をしてから出発したかったが、仕方がない、貧相な装備でどうにかするしかないな、と判断した。
 
(実際にナガン用の7.62x25mm用シリンダーが販売されたことはあるらしい。しかし7.62x25mmは7.62×38mmRよりも初速が高く、銃の構造や強度と適合しないために銃身破裂やシリンダーが吹っ飛ぶといった事故が多発したという)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 夜のうちにオトラドノエを出発したナターシャは地図を開き、ギャングたちが拠点に使っているという廃工場の位置を確認する。
 道路に沿って南下していたとき、ナターシャは遠方に明かりを見た。焚き火か何かのようだ。無用心な旅人か…昨日までの自分のような…あるいは、ギャングか何かか。確かめてみる必要があるな、とナターシャは思った。
 
 
 
 
 
 
 焚き火を囲み、三人の男たちが異様な雰囲気で互いを見つめ合っている。隙を見せないよう、観察…監視?まるで、背中を見せた瞬間に殺し合いでも始まりそうな雰囲気だ。
 張り詰めた空気のなかで、ナターシャはリーダー格の男に話しかける。成金かダンサー、さもなくばギャングの幹部のような派手ななりの中年男は、相当に苛立った様子でナターシャのほうを見やった。
「なんてこった、二匹のチンパンジーとこんな場所で立ち往生する破目になるとはな。あんた、地元の人間か?ちょっと助けが欲しいんだがね」
「いえ、私はただの旅人です。えっと、ここで何をしてらっしゃるんですか…?」
「俺はセヴォロッド・マーケロフ、名前くらいは聞いたことがあるだろう?あのマーケロフ・アンド・サン商会の頭取だ」
「申し訳ありませんが…」
「知らんだと?まったく、なんてクソ穴だここは…いいか、俺は商売のためにクラスノズナメニーへ向かってたんだ。あの有名な商工議会所の代表と話し合いをする、重要な商談だぞ!高級ブランド物のスーツをバッチリ着こなして、自慢の商品サンプルを抱えてだな、最高のガイドと最高のボディガード…言っておくが、今おまえさんの目の前に立ってるタワー・オブ・クソのことを言ってる…そして、クソ最高のクソ運転手を雇って、クソトラックでクソ荒野をクソドライブしてたってわけだ!」
 できれば"クソ"を省いて説明してほしいのだが、と言いかけたが、余計に激昂して口を閉ざしてしまっても困るので、ナターシャは彼が喋っているあいだは口を挟まないことにした。
 マーケロフが話を続ける。
「途中までは何の問題もなかったのさ。ゴキゲンでUAZをカッ飛ばして、昨晩は行きがかりに立ち寄ったガソリンスタンドの世話になった。バーリャっつう婆さんが経営してるところでな、一匹の猫と一緒に一人で暮らしてる。俺たちが晩飯を御馳走になってるあいだ、婆さんはスキンワームの伝承について話しはじめた」
「スキンワーム?」
「くだらん戯言だ!モロッコ人か、誰かの古女房か、あるいはプロレタリアのでっちあげか…なんだっていいさ。そいつは地元の沼地に生息していて、木の上に潜んでるんだと。人間が近くを通りがかった途端、頭上めがけて枝から落下し、口から体内に侵入する…そうやって人間の内側に潜りこんだあと、神経系を乗っ取って、人間の身体を意のままに操るんだ。元の人格を破壊してな」
「…… …… ……」
「ワームの肉人形になった人間は、生前の行動をトレスするらしい。誰もそいつがワームに乗っ取られたことに気づかない…判別する方法があるとすれば、ワームに乗っ取られた人間は記憶が曖昧で、言動の不一致…要するに、以前に言ったことと矛盾する言動が多くなるらしい」
 曖昧な記憶、言動の不一致、という言葉を聞いて、ナターシャは一瞬だけ、今朝がたオトラドノエの酒場で言葉を交わしたエージェント・アレクサンダーの顔を思い浮かべた。
 まさかな…
 そんなナターシャの懸念など知る由もなく、マーケロフが話を続ける。
「そして、ワーム人間は他の人間を罠に誘い…そいつの肉を食べる!ワーム人間は、人肉を食うんだよ!だが、いいや、こんなのは駄法螺さ。ババアの与太話だ」
 でたらめと言い切るには、マーケロフの話しぶりは真に迫っており、あまりに神経質になりすぎていた。
「それで、ガソリンスタンドから出発したあとは…」
「予定通りなら、今日の正午にはクラスノズナメニーへ到着してるはずだった。だが、途中で濃い霧が出てきて…クソ運転手、ボリスの野郎が運転を誤りやがった!ハンドルを切り損ねて何度も木に衝突したあと、クソトラックは沼に真っ逆さまに沈んでいった。俺とクソガイドのカスパロフ、クソガードのイワンはどうにか車の屋根伝いに脱出できたが、ボリスは助からなかった。もちろん、クソトラックに積んだ商品を回収する余裕もなかった」
「沼に沈んだんですか?」
「そうだ、沼だ!もうわかったろう、その沼こそまさに、バーリャ婆さんが話してたスキンワームの沼だったのさ!俺たちはどうにか沼から離れたが、しばらくの間、互いを見失ってた。もしスキンワームなんてものが、本当に存在したら…そんなはずはねぇが…誰かに取りついてたとしても、気づきようがねぇ」
 そこまで聞いて、ようやくナターシャは三人の男たちを縛りつけている膠着状態について合点がいった。
 要するに、三人は…自分たちのうちの誰かがスキンワームに操られていると考えているのだ!
「ワームに乗っ取られた人間は記憶や会話の内容が曖昧になる、と言いましたね?」ナターシャが確認するようにマーケロフに尋ねる。
「そう言ったろうが」
「だったら、他の二人から私が話を聞いてみます。もし二人のうち、どちらかがワームに乗っ取られているとしたら…他の人とは矛盾する内容を話すはず」
 そう言って、ナターシャはマーケロフが雇った二人の人間、ガイドのカスパロフとボディガードのイワンから今回の事故にまつわる話を聞きだすことにした。
 しかしながら、結果はナターシャが期待したものとは程遠かった。
 三人のうち一人の言動がおかしければ、疑う余地なくそいつがワームに乗っ取られていることを指し示すことができる。また、三人の言動が一致していれば、たんに事故のショックで混乱しているだけで、誰もワームになど襲われていないと説明できる。
 しかし実際は、三人全員の言動が一致しなかったのである。
 カスパロフはガソリンスタンドを経営している老婆の名をバーリャではなくジーナといい、飼っているのは猫ではなく犬だと言った。そしてトラックの横転の原因は霧ではなく大雨だと証言したのだ。
 またイワンは老婆の名をナディアといい、沼に住むモンスターの名をスキンワームではなくレザーワームと呼んだ。そしてトラック横転の原因は前日の大雨によるぬかるみだと言ったのだ。
 この状況をどう判断すべきだろう?
 ナターシャとしては、マーケロフが乗っ取られている可能性も考えなければならなかった。いや、ひょっとしたら三人全員がワームの操る肉人形であり、新鮮な肉を求めて獲物が罠にかかるのを待っていたのかもしれない。それはおそらく、目の前にいる愚かな旅人の女で…
 ごくり、と息を呑み、ナターシャはベルトに挟んであるナガンの感触を確かめる。三人の男たちは依然として互いを牽制するように睨み合っているが、それが演技ではないと、どうして信じられる?
「えぇと…同志マーケロフ」
「なんだ」
 遠慮がちに口を開くナターシャに、マーケロフが眼鏡ごしに鋭い視線を向ける。
 ナターシャは言った。
「おそらく、ですが…ここにいる人たちは、あなたも含めて、事故の影響で軽いショック症状に陥っています。それは軽度のPTSDとでも呼ぶべきもので、たとえばガソリンスタンドの老婆から余計な話を聞かなければ…このような事態にはなっていなかったはずです」
「つまり?」
「ワームなんて存在しません。でたらめです。あなたたちは全員、健康な、正常な人間です。ともに協力して、えぇと…旅を続けるべきでしょう」
 しばらくマーケロフはナターシャを睨んでいたが、やがてフッと笑みを浮かべると、不意に表情を和らげた。
「そう…だな。その通りだ。すまんな、きみ。あんな事故があって、気が立っていたんだ。わざわざ気を遣ってもらって、感謝しているよ」
「え、えぇ…どうか、皆様、お達者で」
 ナターシャはあとずさりながら、ゆっくりと三人から離れていった…決して背中を見せずに。
 おそらく自分は正しいことを言ったのだろう、疑心暗鬼からの仲間割れで殺し合う、などというのは、どの世界にでも有り得る話だ。あるいは、これはガソリンスタンドの老婆が三人を陥れるために仕組んだ罠なのかもしれない。
 だいいち、あの状況でどうやって真実を確かめろというのか?全員を殺して頭を割り、中身を確認するとでもいうのか?
 それでも、最後にマーケロフがナターシャに見せた、あの目つきは……
 
(残念ながら、このランダム・エンカウントに"正しい選択肢"は存在しない。誰に何を伝えても、彼らはプレイヤーの前でアクションを起こそうとはせず、どう報告したとしても、彼らのうち一人に攻撃を仕掛けた場合、三人全員と敵対することになる。戦闘能力は高くないため、全滅させてアイテムを回収するにはうってつけだが、たとえ殺しても、彼らからワームの痕跡を見ることはない…)
(スキンワームの存在については、他の場所でも言及がある。ATOM RPGのなかでも特にミステリアスな存在の一つである)
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 廃工場へと差し掛かる交差点。
 木に衝突した乗用車を点検する(モスクビッチだろうか?)、もし動くようならと思ったのだが、破損の状態が酷く、そもそもこんな目立つ場所に稼動する乗用車があるなら今に至るまで放置されているはずもないか、とナターシャはため息をついた。
 最低限の修理スキルはあるが、修理用の工具も部品もないでは手のつけようがない。
 道のど真ん中にはトラックが鎮座しており、ひょっとしてこれがあの三人の乗っていたトラックだろうか、などとも思ったが、そんなはずはないと首を振った。
 例のトラックは沼に沈んだのであり、だいいちいま目の前にあるのは貨物トラックではなく燃料トラックだ。それも、車種はUAZではなくZIL…おそらくZIL-130と思われた。
 そういえば三人の言動はいずれも食い違うものだったが、こと車種に関しては一環してUAZと説明していたな、ということに気づく。よほど記憶に残る三文字だったのか。
 トラックの運転席から投げ出されたらしい、コンクリートから突き出した鉄筋に胸を貫通され横たわるアクロバティックな死体を検分する。
 これといって役に立ちそうな物は持っていない、あるいは、既に何者かが持ち去ったあとか…強いて言えば仏の履いている使い古されたブーツくらいだが、さすがに靴を脱がして持ち去るのは良心とプライドが咎める。
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 廃工場へ到着したのは明け方のことだった。
 遠目から観察するだけでも廃工場には多数のならず者たちが徘徊しており、拳銃や短機関銃といった武器を携帯したラフな服装の男たちがめいめい自らの役目についていた。
 すべての出入り口に警備がついており、それなりに統率が取れた集団であることが窺える。
 自分の任務は、あの連中に混じって情報を収集することだ…気が乗らないながらも、ナターシャは正面入り口に向かって歩きはじめた。例のカードに魔法が宿っていることを祈ろう。
 
 
 
 
 
 
 
「止まれ、女!ここは観光客の来るところじゃねえぞ」PPS短機関銃を携えたスキンヘッドの男が威嚇的に声を荒げる。
「プリヴェット、ドゥハリク!あなたが興味を持ちそうなビブリャを持ってきた」
「あぁ?」
 いまにも噛みつく猟犬のような面の先に、一枚の紙が名刺のように差し出された。トランプカード、スペードのエース…Фартовый(幸運)のスタンプが押されている。
 ナターシャの指先から乱暴に取り上げたそれをまじまじと見つめたあとも、警備の男は表情を一切緩めることなく質問する。
「俺はバデャーガ(無駄話)は好かねぇ。こいつをどこで手に入れた?クラスノズナメニーか?」
「ええ」
 嘘だった。
 グリシュカの紹介で預かった、という言い訳もできたが、いずれにせよ、結果はあまり変わらなかっただろう。警備の男の態度を見るに、カードに宿った魔法の力は効果を発揮しなかったらしい。
「なるほど。で、こいつが俺たちにとって何の意味があると思ったんだ?こいつは犯罪結社の証明書だ…で、俺たちは犯罪者じゃあねえ。知ってたか?そのことを」
 その言葉には答えず、ナターシャは肩をすくめてみせた。
 警備の男が話を続ける。
「俺たちはクラスノズナメニー商工議会所から正式な認可を受けた、いわば民間警備会社のようなものだ。俺たちは略奪者とは違う。ただ、税金を支払ってもらうだけだ。地域の、治安を…守る…ためのな。わかるか、えぇ?」
「残念です。ここなら自分のスキルを活かせる仕事を見つけられると思ったんですが…人手は足りているようですか?」
 その言葉に、警備の男は多少の興味を抱いたようだった。
 例のカードをナターシャに返し、男は舌打ちしてから、思わせぶりな態度で言った。
「俺たちのボスに会いに行け、ダン…デニス・デニソビッチに。事務所に行って、コソイが通したと伝えろ。運が良けりゃあ、仕事にありつけるかもな。そんな幸運を期待すべきじゃないが」
 そう言って、男…コソイというらしい…はナターシャに道を空けるため、脇に退いた。
 とりあえず第一関門は突破できたが、コソイの言う通り、これを幸運と捉えるべきではないだろう。彼の立場からすればナターシャを通す理由はなかったはずだが、それでも敷地内への立ち入りを許可したのは、決して親切心からではないだろう。
 ただコソイは、狼の群れに新鮮な肉を投げ込んだらどうなるのかを見たがっているのだ。
 まあいい、機会は機会だ。せいぜい利用させてもらおう…そう思いながらも、ナターシャは自分が当初想定していたよりも遥かに深い沼に足を突っ込んでいることを自覚せざるを得なかった。
 
 
 
 
 
 [次回へつづく]
 
 
 

 
 
 
 どうも、グレアムです。当初の予定ではランダム・エンカウントのイベントは無視する予定だったんですが、話の内容がわりと興味深いものだったので取り扱ってみました。
 今回のリプレイは割とラフなものになる、というか、プレイヤーの交渉系スキルがあまり高くないので(戦闘系キャラのくせにStrengthがそれほど高くないので、Kosoyとの会話でカードの入手先をKrasnoznamennyではないと答えた場合に発生するスピーチチャレンジに全部失敗します)、今後は理想的な解決から離れた行動も増えてくると思います。
 
 
 
 
 


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