主にゲームと二次創作を扱う自称アングラ系ブログ。
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2013/10/16 (Wed)10:53
「俺の名はクレイブ、かつては傭兵だった。結果的に命を賭して世界を救ってしまった…理想の結末というわけではないが、まあ、きっとそれは高望みし過ぎなんだろう。願わくば、死後に彼女の許へ行けることを祈るだけだ…」
気がつけば、俺は雲の上にいた。
「…ここは、あの世か?」
浄水装置は、きちんと機能したろうか?
そんなことを考えながら、俺はいま自分が置かれている状況に思案を巡らせた。
まさか、死後の世界なんてものが、本当に存在するとは思わなかったが…それにしても、このステロタイプな光景ってのもなんだかなぁ、という気はする。いまいち現実感がないというか、まぁ、そもそもこれが現実なのかどうかすら怪しいわけだが。
ここは天国なのか?地獄なのか?
自分が天国に行けるなどとは思っていないが、それでもこの場所が地獄のようには見えなかった。
しばらく、その場に留まっていると…遠くに、自分以外の人影があることに気がついた。
「あ…」
それは。
自分を抱きしめるような仕草で、意図せず胸が強調されるような腕の組み方をする、いつものクセ。
どこか遠く置き忘れてしまった過去のように、セピア色になってしまった姿が今、目の前でカラーに色づいた。
「ブレンダ…」
「…や」
名前を呼ばれたとき、彼女は少しはにかんだように短く声を漏らし、すこし視線を落とした。
それは、彼女だった。間違いなく。
そう思ったとき、俺の身体は無意識のうちに動いていた。
「うおおおーーーっ!ここは天国!間違いなく天国だーーーっ!!」
「ふぎゃあーっ!?」
いきなり組み伏せ、接吻を繰り返す俺に気圧されたのか、彼女は尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴を上げた。
顔を真っ赤にしながら、彼女が俺の頭を掴んでガスガスと拳を叩きつける。
「痛い痛い痛い!ていうかけっこうマジで本気に殴ってる!?アンアームド俺より上のくせに!?」
「ばぁかっ!ばか、もう…バカッ!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
激痛に呻きながら雲の上でゴロゴロのたうち回る俺を、彼女が罵る。
「もう……早い、ての!」
「…早い?」
なにが?
どうやら久々の愛情表現が不服だったらしい、不快感も露わに眉をしかめる彼女に、俺はきょとんとした視線を向ける。
「あー、ああ…そうか。まずはハグからだよな?まったくもう、無愛想なクセにそういう乙女なところは変わらないんだから」
ぎゅう。
優しくそっと抱き締める俺に、しかしそれも違うと言わんばかりに彼女は俺を突き放すと、ふたたびガスガスと殴ってきた。
「痛い痛い痛い!オマエのパンチはけっこう本気で痛いから!折れるから!」
「ばか、死ねっ!もう一回、死ねっ!」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
そんなアホなやり取りをしていたら、異様に疲れてしまった。
荒い息をつきながら、彼女はドスの利いた三白眼で俺を睨みつつ、語気を強めて言う。
「ここ、に…来んの、早い、つってんの!」
「ハァ?ここって…つまり、ここ?」
「そう」
「天国?」
「そう」
「あー、その、なんだ…つまり、俺、まだ死ぬべきじゃないってこと?」
「そう」
「お断りします(゚ω゚)」
「(ムカッ)」
「いやーだってもう生きてるうちにやれることやりきった感じだし、つーか、これ以上生きてても災厄撒き散らすだけになりそうっつーか、せっかくならここでオマエとずっとイチャイチャしてたいじゃん?」
「…まだ、だめ。神様ゆってた。もっと生きて苦しめ、て」
「うわ、ひどっ。つうか、神様って。オマエ会ったの?」
「うん」
「どんなだった?」
「…黒人のおっさん。核戦争、で、捕鯨委員会がなくなったの、悲しい、とかゆってた」
「うさんくせー」
そんな与太話をしながら、俺は彼女をしばらく観察し続けていて気づいたことがあった。
彼女は、生前となにも変わっていない。
だが、それが俺にとってはかえって不自然だった。
口に巻いたバンダナ。たどたどしい口調。
「オマエさ、口、治ってないの?」
「うん」
「死んだのに?」
「…これ、あたしのカルマだ、って神様が。受け容れろって」
「そりゃねーだろ。とんだサドだな」
彼女がこんな喋り方なのは、精神的な問題ではなく肉体的な傷が原因だ。
本来ならもっと快活に、普通に喋れるはず。だっていうのに。
「ちなみに、どうしても現実世界に帰りたくない、っつったらどうなんの?」
「…いままで、キミが殺したひとたち。全員、ここに来る。キミをボコボコにする。リンチ。それ、永遠に続く。そーいう地獄だって」
「ちょっと生き返ってくる」
彼女が言い終わるが早いか、俺は踵を返して一目散に立ち去ろうとする。
がしかし、途中まで歩を進めてから、俺は足を止めてしまった。
思わず後ろを振り返り、彼女がずっとこっちを見ているのを意識してしまう。
…せっかく、会えたのに。
そんな俺の気持ちを察したのか、彼女はとびきり不機嫌そうな顔をすると、ずかずかと俺に近づいてきて、俺をその場にぶっ倒した。
「そぉい」
「うわー」
ぶえん。
洗練された軍隊格闘術に学んだと思われる身のこなしに関心しながら、俺はまったく無抵抗に仰向けに倒れる。
続いて腰を屈めた彼女が俺の身体をそっと抱き起こしたかと思うと、頭を掴んで膝の上にぐっと押しつけた。
要するに、膝枕だった。
「つらいのは、あたしも同じ…だよ」
「ブレンダ…」
「ちゃんと。待ってて、やるから」
そう言って、彼女は俺の頭を愛おしそうに撫でくり回した。
俺は彼女の優しさに胸を打たれ、その愛情を返すように顔を股間にうずめる。そしてすぐ、彼女の平手が俺の顔側面を連続で殴打した。
「痛い痛い痛い!耳はダメ!耳はわりと本気でけっこうヤバイ!」
「ばか、しねっ!むしろ生きろ!とっとと、現実に帰れ!」
「わかった、わかった!ごめん、けっこう本気でマジごめん!」
最後にケツに強烈な蹴りをもらった俺は、そのまま雲の下までまっさかさまに転落していく。
こうして…一度死んだはずの俺は、ウェイストランドへの帰還を果たした。
「おお、気がついたか」
「げ」
目を醒ましたとき、最初に見たのはジジイの満面の笑顔だった。
生き返ったのを早速後悔した瞬間だった。
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